特許第5885513号(P5885513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5885513マイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法
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  • 特許5885513-マイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885513
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】マイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20160301BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20160301BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20160301BHJP
【FI】
   H01M4/96 H
   H01M4/88 C
   H01M4/88 H
   !H01M8/10
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-6149(P2012-6149)
(22)【出願日】2012年1月16日
(65)【公開番号】特開2013-164896(P2013-164896A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-4947(P2012-4947)
(32)【優先日】2012年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】特許業務法人 Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 靖彦
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−222813(JP,A)
【文献】 特開2005−071851(JP,A)
【文献】 特開2011−171182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 4/86 − 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、PTFE樹脂、ポリエチレンオキサイド、及び水を主組成とし、かつ、前記カーボンブラックに対する前記ポリエチレンオキサイドの比率が、前記カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05乃至1%の範囲内であり、界面活性剤を含有しないマイクロポーラス層形成用ペースト組成物であって、
導電性多孔質材料からなる基材の一表面に前記マイクロポーラス層形成用ペースト組成物を塗布し、乾燥焼成した際に、前記ポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させるバインダーとして作用し、マイクロポーラス層に気孔を形成することを特徴とするマイクロポーラス層形成用ペースト組成物。
【請求項2】
カーボンブラック、PTFE樹脂、ポリエチレンオキサイド、及び水を主組成とし、かつ、前記カーボンブラックに対する前記ポリエチレンオキサイドの比率を、前記カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05乃至1%の範囲内として界面活性剤を使用することなく配合し、当該配合した材料に遠心力を加えた状態で剪断力を加えるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法であって、
導電性多孔質材料からなる基材の一表面に前記マイクロポーラス層形成用ペースト組成物を塗布し、乾燥焼成した際に、前記ポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させるバインダーとして作用し、マイクロポーラス層に気孔を形成することを特徴とするマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜、電極基材等の表面に、カーボン粒子、水溶性樹脂等を含有するペーストを塗布して塗膜層を形成するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池、特に、固体高分子電解質型燃料電池やダイレクトメタノール型燃料電池等の電極には、高分子電解質膜、電極基材または転写用支持体の表面に、カーボン粒子等の導電材粒子を含有する塗膜層を塗布して電極が形成されている。この塗膜層を形成するためには、導電材粒子を含有するペーストを作製し、塗布する工程が必要となる。
【0003】
そこで、特許文献1は、導電材粒子及び合成樹脂を含むペーストを調製する工程及び調製されたペーストを高分子電解質膜、電極基材または支持体の表面に塗布して塗膜層を形成する工程を有する燃料電池用電極の製造方法において、前記ペーストを調製する工程が、導電材粒子及び分散媒を強い剪断力で混合処理してペースト中の前記導電材粒子の二次粒子化を促進する工程、次いで合成樹脂分を添加し、前記合成樹脂の凝集が発生しない程度の弱い剪断力で混合処理する工程からなり、合成樹脂の添加前に強い剪断応力を付加して固形成分の二次粒子化を促進し、合成樹脂分添加後は弱い剪断応力で混合処理して樹脂の凝集が発生しないようにする技術を開示している。
【0004】
また、特許文献2は、導電性多孔質基材に、融解した状態の染み込み防止剤を充填する工程、染み込み防止剤が充填された導電性多孔質基材上にマイクロポーラスレイヤー形成用ペースト組成物を塗布及び乾燥し、マイクロポーラスレイヤーを形成する工程、及び導電性多孔質基材に充填された染み込み防止剤を除去する工程を備える燃料電池用ガス拡散層の製造方法によって、導電性多孔質基材中への染み込みを防止することで、触媒層への燃料及び酸化剤の供給、過剰な水分の排出等を阻害することなく、高性能な固体高分子形燃料電池を製造できる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−100305
【特許文献2】特開2010−232043
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
即ち、特許文献1では、PTFEエマルジョンの添加前に強い剪断力をカーボンブラック混合液にかけカーボンを分散した後、PTFEエマルジョンを添加し弱い剪断力で攪拌を行なうことで、ペースト中の合成樹脂が凝集するのを防止している。これにより、当該合成樹脂の凝集によるマイクロポーラス層の欠陥は防げるものの、表面のクラック、基材内への浸透は防ぐことができない。また、マイクロポーラス層内はカーボンが詰ってしまい最適な細孔を形成することができない。
また、特許文献2では、マイクロポーラス層用ペーストが基材内に浸透しないようするために、基材に予め染み込み防止剤を充填している。したがって、染み込み防止剤を充填する工程が必要になるだけでなく、マイクロポーラス層用ペーストの乾燥時に染み込み防止剤を揮発させたとしても、染み込み防止剤の回収が必要であり大気中に放出した場合に大きな環境負荷となる。
一方、カーボンペーパー等基材の表面に導電粉末と撥水性樹脂等からなるマイクロポーラス層形成用のペースト状混合物を塗布してガス拡散層を形成すると、ペーストが基材内に浸透しガス拡散性を阻害し高負荷時の出力が低下する。また、マイクロポーラス層には適度な気孔が必要であるが気孔の制御が難しく塗布型マイクロポーラス層の場合クラックが発生する問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点を解消すべく、マイクロポーラス層用ペーストが基材内に浸透してガス拡散性を阻害したり、高負荷時の出力を低下させることなく、また、マイクロポーラス層の気孔の制御が容易であり、かつ、クラックが発生することのないマイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、カーボンブラック、PTFE樹脂、ポリエチレンオキサイド、及び水を主組成とし、界面活性剤を使用することなくマイクロポーラス層形成用ペーストを形成し、このとき、前記カーボンブラックに対する前記ポリエチレンオキサイドの比率を、前記カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲とすることにより、ポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させるバインダーとして前記マイクロポーラス層に気孔を形成するものである。
【0009】
請求項2の発明にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法は、カーボンブラック、PTFE樹脂、ポリエチレンオキサイド、及び水を主組成とし、界面活性剤を使用することなくマイクロポーラス層形成用ペーストを形成し、このとき、前記カーボンブラックに対する前記ポリエチレンオキサイドの比率を、前記カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲とし、しかも、前記マイクロポーラス層形成用ペーストに遠心力を加えた状態で剪断力を加えポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させるバインダーとして前記マイクロポーラス層に気孔を形成するものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、カーボンブラック、PTFE樹脂、ポリエチレンオキサイド、水を主組成とし、界面活性剤を使用することなくマイクロポーラス層形成用ペーストとすることにより、表面張力の高いマイクロポーラス層形成用ペーストとなり、導電性多孔質材料からなる基材に塗布しても基材内に浸透しなくなる。
また、カーボンブラックに対するポリエチレンオキサイドの比率を、カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲にすることにより、ポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させるバインダーとなり、マイクロポーラス層に必要な気孔を形成することができる。特に、カーボンブラックのカーボン粒子が連鎖することにより成膜時の収縮応力も緩和され、マイクロポーラス層のクラックの発生も防止できる。
マイクロポーラス層形成用ペーストが導電性多孔質材料からなる基材内に染み込まないことから、前記基材内のガス拡散性を阻害せず、高負荷時の特性に優れる。カーボンブラックのカーボン粒子を長く連鎖させているため、微細な細孔がマイクロポーラス層に多く存在し、拡散層の排水性とガス拡散性が従来の拡散層に比べ向上し電池の出力が向上する。
【0011】
請求項2のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法は、カーボンブラック、PTFE樹脂、ポリエチレンオキサイド、及び水を主組成とし、界面活性剤を使用することなくマイクロポーラス層形成用ペーストを形成し、また、前記カーボンブラックに対する前記ポリエチレンオキサイドの比率を、前記カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲とし、前記マイクロポーラス層形成用ペーストに遠心力を加えた状態で剪断力を加えポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させ、バインダーとして前記マイクロポーラス層に任意の気孔を形成するものである。
したがって、カーボンブラック、PTFE樹脂、ポリエチレンオキサイド、水を主組成とし、界面活性剤を使用することなくマイクロポーラス層形成用ペーストとすることにより、表面張力の高いマイクロポーラス層形成用ペーストとなり導電性多孔質材料の基材に塗布を行なっても前記基材内に浸透しないものとなる。
また、カーボンブラックに対するポリエチレンオキサイドの比率を、カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲にすることによりポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させるバインダーとして作用し、マイクロポーラス層に必要な気孔を形成することができる。特に、カーボンブラックのカーボン粒子が連鎖することにより成膜時の収縮応力も緩和され、マイクロポーラス層のクラックの発生も防止できる。
マイクロポーラス層形成用ペーストが導電性多孔質材料からなる基材内に染み込まないことから、基材内のガス拡散性を阻害せず、高負荷時の特性に優れる。カーボンブラックのカーボン粒子を長く連鎖させているため、微細な細孔がマイクロポーラス層に多く存在し拡散層の排水性とガス拡散性が従来の拡散層に比べ向上し電池の出力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の実施の形態1のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を使用する燃料電池用ガス拡散層を有する固体高分子型燃料電池の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1の本実施の形態によるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を使用する燃料電池用ガス拡散層が適用される固体高分子型燃料電池(単セル)の概略構成図を用いて、その構造を説明する。
【0014】
図示のように、本実施の形態による燃料電池1は、単セルの芯となる電解質膜11の一方の表面に酸素ガス等の酸化ガスが反応するカソード電極12Aを、他方の表面に水素ガス等の燃料ガスが反応するアノード電極12Bを配設してなる膜−電極接合体10と、膜−電極接合体10のカソード電極12Aの表面に配置されるカソード側セパレータ20Aと、膜−電極接合体10のアノード電極12Bの表面に配置されるアノード側セパレータ20Bとで構成されている。膜−電極接合体10は膜−電極アッセンブリ(Membrane Electrode Assembly)とも呼ばれ、燃料ガス及び酸化ガスが反応して、カソード側セパレータ20Aとアノード側セパレータ20Bとの間で電力が取り出される。
【0015】
イオン交換基となる高分子膜からなる電解質膜11は、特定のイオンと強固に結合し、陽イオンまたは陰イオンを選択的に透過する性質を有する。電解質膜11の両表面に形成される電極12(カソード電極12A及びアノード電極12B)は、触媒層13(カソード側触媒層13A及びアノード側触媒層13B)と、拡散層14(カソード側拡散層14A及びアノード側拡散層14B)とで構成されている。
【0016】
燃料ガスまたは酸化ガスが反応する触媒層13(カソード側触媒層13Aまたはアノード側触媒層13B)は、白金、金、パラジウム等の貴金属触媒を、カーボンで担持した触媒担持カーボンと、触媒担持カーボンを電解質膜11と接着する樹脂とで構成されている。ガス透過性及び水透過性を有する拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)は、触媒層13(カソード側触媒層13Aまたはアノード側触媒層13B)の表面に配設される。
【0017】
拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)は、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)とマイクロポーラス層(微多孔質層)としての表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)とを有し、表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)は触媒層13(カソード側触媒層13Aまたはアノード側触媒層13B)の表面に配設され、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)は表面層(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)の表面に配設される。
【0018】
導電性を有する表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)は、カーボンブラック等の粉末状の導電性材料や、炭素繊維等の繊維状の導電性材料により導電性が付与される。また、撥水性を有する表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、単に「PTFE樹脂」という。)等の撥水性樹脂により撥水性が付与されている。そして、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)は、カーボンペーパー、カーボンクロス等の導電性多孔質材料に撥水処理を施したものからなる。なお、この撥水処理は必ずしも必要なものではなく、施した方が好ましてというものである。
【0019】
なお、外部より酸化ガスがカソード側セパレータ20Aの酸化ガス流路21Aに供給されると、酸化ガス流路21Aに沿って流れる酸化ガスのうち、一部がカソード側の拡散層14Aの基材16A側表面より内部へ浸入する。その他の未反応の酸化ガスは、酸化ガス流路21Aに沿って流れ、燃料電池1の外部へ排出される。同様に、外部より燃料ガスがアノード側セパレータ20Bの燃料ガス流路21Bに供給されると、燃料ガス流路21Bに沿って流れる燃料ガスのうち、一部がアノード側の拡散層14Bの基材16B側表面より内部へ浸入する。その他の未反応の燃料ガスは、そのまま燃料ガス流路21Bに沿って流れ、燃料電池1の外部へ排出される。
【0020】
本実施の形態では、導電性多孔質材料に撥水処理を施した基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)に対して、カーボンブラックにより導電性が付与され、撥水性を有する表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)は、導電粉末としてカーボンブラック、撥水性の樹脂としてPTFE樹脂、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイド、界面活性剤を使用しない水のみを使用し、混合することによりマイクロポーラス層形成用ペーストのディスバージョンとした。このとき、カーボンブラックに対する水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率は、カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲にするものである。
【0021】
発明者らの実験によれば、カーボンブラックに対する水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率が、カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05%未満であると、マイクロポーラス層用ペーストが求めているペースト状にならなかった。
また、カーボンブラックに対する水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率が、カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で1%を超えると、表面にクラックが発生し、また、マイクロポーラス層用ペーストの染み込みは確認されないが、貫通細孔径のバブルポイントが17μmであり、一般的に好ましいといわれている貫通細孔径よりも大きく、使用できない。
[実施例]
【0022】
具体的には、カーボンブラック(TIMCAL LTD C・NERGY SUPER C45 比表面積45m/g)を使用した。水溶性樹脂としてはポリエチレンオキサイド(PEO−1)を使用し、PTFE樹脂は(旭硝子Fluon L150J)を特定の比率で配合した。仕上がりの粘度は、50s−1時1500mPa・sとなるようにイオン交換水で希釈したペースト材料600gを、公転を「8」、自転を「9」に設定した遊星式攪拌脱泡装置(クラボウ マゼルスターKK−1000W)にて3分間混合分散し、マイクロポーラス層用ペーストを作製した。
【0023】
このマイクロポーラス層用ペーストを薄膜塗布工具(ダイコーター)で基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)上に塗布し、乾燥及び焼成してマイクロポーラス層を形成し、拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)を作製した。作製した拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)のマイクロポーラス層の表面状態は、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)へのマイクロポーラス層用ペーストの染み込み状態、及び細孔の状態を示す貫通細孔径のバブルポイントを調べた。
【0024】
実施例1乃至実施例4はカーボンブラックを重量比で1重量%、PTFE樹脂を0.25重量%、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドを0.023〜0.45重量%まで変化させたものである。実施例1乃至実施例4は界面活性剤を使用することなく、配合したものである。
実施例1〜4及び比較例a〜dについては、表1に示すものである。
【0025】
【表1】
【0026】
[比較例]
上記実施例1〜4に対抗する従来技術に基づく比較例a〜dのマイクロポーラス層形成用ペースト組成物としては、カーボンブラックをアセチレンブラック(電気化学工業 デンカブラック粒状 比表面積69m/g)としたものである。ここで比較例aのみ非イオン界面活性剤(トリトンx−100)、PTFEエマルジョン(ダイキンPOLYFLON PTFE D-210C)でマイクロポーラス層用ペーストを作成し、それを薄膜塗布工具(ダイコーター)でカーボンペーパー上に塗布し、焼成してマイクロポーラス層を形成してなる拡散層14を作製した。具体的には、導電材粒子のカーボンブラック(アセチレンブラック)とその分散媒である界面活性剤の水溶液とを混合し、更に、撥水剤のエマルジョン樹脂を添加し、真空脱泡処理をし、フィルターで濾過して精製したものである。
【0027】
つまり、比較例aはカーボンブラック(アセチレンブラック)を重量比で1重量%、PTFE樹脂を0.25重量%、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドを使用せず、界面活性剤(トリトンx−100)15重量%によって従来技術によって製造したものである。
比較例b乃至比較例dは、上記実施例1〜4と同一条件で水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの量を変化させたものであり、具体的には、カーボンブラック(アセチレンブラック)を重量比で1重量%、PTFE樹脂を0.25重量%、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドを0.015〜1.4重量%まで変化させたものである。なお、比較例bはマイクロポーラス層用ペーストが求めている本来のペースト状にならなかった。
[比較結果]
【0028】
拡散層のマイクロポーラス層形成用ペーストの要件としては、表面にクラックのないこと及び基材にマイクロポーラス層形成用ペーストが染込まないこと、貫通細孔径のバブルポイントが1〜10μmの範囲内であることが、一般に、燃料電池用ガス拡散層に必要な条件とされている。それを前提に評価することとする。
【0029】
まず、実施例1乃至実施例4では、表面状態がクラックのない滑らかな面であり、また、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)に対してマイクロポーラス層用ペーストの染み込みが確認されなかった。また、貫通細孔径のバブルポイントが1〜10μmの範囲内であり、拡散層14の必要条件を具備していることが確認された。
【0030】
また、従来技術に基づく比較例aでは、カーボンブラック(アセチレンブラック)を重量比で1重量%、PTFE樹脂を0.25重量%とし、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドを使用しなかったものである。この場合には、表面にクラックが発生し、また、マイクロポーラス層用ペーストの染み込みが確認された。そして、貫通細孔径のバブルポイントが28μmであり、拡散層14のマイクロポーラス層形成用ペーストの必要条件を具備していないことが判明した。
【0031】
比較例bはカーボンブラック(アセチレンブラック)を重量比で1重量%、PTFE樹脂を0.25重量%、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドを0.015重量%としたものであるが、この組成ではマイクロポーラス層用ペーストが本来のペースト状にならなかったから、当然、拡散層14のマイクロポーラス層形成用ペーストの必要条件を具備していないことが判明した。
【0032】
比較例cはカーボンブラック(アセチレンブラック)を重量比で1重量%、PTFE樹脂を0.25重量%、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドを0.9重量%としたものである。この場合には、表面にクラックが発生しておらず良好であり、また、マイクロポーラス層用ペーストの染み込みが確認されなかったが、貫通細孔径のバブルポイントが0.8μmであり、一般的に好ましいといわれている貫通細孔径のバブルポイントが1〜10μmよりも小さく、拡散層14の必要条件を具備していないことが判明した。
【0033】
比較例dでは、カーボンブラック(アセチレンブラック)を重量比で1重量%、PTFE樹脂を0.25重量%、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドを1.4重量%としたものであるが、この場合には、表面にクラックが発生した。マイクロポーラス層用ペーストの染み込みは確認されなかったが、貫通細孔径のバブルポイントが17μmであり、一般的に好ましいといわれている貫通細孔径のバブルポイントが1〜10μmよりも大きく、拡散層14の必要条件を具備していないことが判明した。これら比較例a乃至比較例dは、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドを用いないもの、或いはカーボンブラックに対する水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率がカーボンブラックの比表面積に対し0.05乃至1重量%の範囲外になっているものである。
【0034】
上記実施の形態の燃料電池用ガス拡散層に使用するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、カーボンブラック、PTFE樹脂、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイド、水を主組成、即ち、界面活性剤を使用しない拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)の主組成とし、それに遠心力を加えてマイクロポーラス層形成用ペーストとすることにより、表面張力の高いマイクロポーラス層形成用ペーストとなり、導電性多孔質材料に撥水処理を施した基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)に塗布を行なっても基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内に浸透しなくなる。
【0035】
カーボンブラックに対する水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率が、カーボンブラックの比表面積45(m/g)に対して、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの0.023重量%未満であると、マイクロポーラス層用ペーストが求めているペースト状にならない。また、カーボンブラックに対する水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率が、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの0.05重量%を超えると、表面にクラックが発生し、また、貫通細孔径のバブルポイントが大きく、使用できない。
【0036】
これをまとめると、カーボンブラックの比表面積(m/g)で一般的に表現すると、カーボンブラックに対する水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率を、カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲にすることにより、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させるバインダーとなり、マイクロポーラス層に必要な気孔を形成することができる。特に、カーボンブラックのカーボン粒子が連鎖することにより成膜時の収縮応力も緩和され、マイクロポーラス層のクラックの発生も防止できる。
【0037】
マイクロポーラス層形成用ペーストが導電性多孔質材料に撥水処理を施した基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内に染み込まないことから、前記基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内のガス拡散性を阻害せず、高負荷時の特性に優れる。カーボンブラックのカーボン粒子を長く連鎖させているため、微細な細孔がマイクロポーラス層に多く存在し、拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)の排水性とガス拡散性が従来の拡散層に比べ向上し電池の出力が向上する。
【0038】
このように、マイクロポーラス層形成用ペーストが基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内に染み込まないため基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内のガス拡散性を阻害せず、高負荷時の特性に優れることとなる。カーボン粒子を長く連鎖させているため、微細な細孔がマイクロポーラス層に多く存在し、拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)の排水性とガス拡散性が従来の拡散層に比べ向上し電池の出力が向上する。
【0039】
また、マイクロポーラス層形成用ペーストが基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内に染み込まないため、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内のガス拡散性を阻害されず高負荷時の特性に優れる。カーボン粒子を長く連鎖させているため、微細な細孔がマイクロポーラス層に多く存在し拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)の排水性とガス拡散性が従来の拡散層に比べ向上し電池の出力が向上する。
【0040】
上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法は、カーボンブラック、PTFE樹脂、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイド、及び水を拡散層の主組成とし、界面活性剤を使用することなくマイクロポーラス層形成用ペーストを形成し、また、前記カーボンブラックに対する前記水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率を、前記カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲とし、前記マイクロポーラス層形成用ペーストに遠心力を加えた状態で剪断力を加え水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させ、バインダーとして前記マイクロポーラス層に任意の気孔を形成するものである。
【0041】
したがって、カーボンブラック、PTFE樹脂、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイド、界面活性剤を使用しない水を拡散層の主組成とし、マイクロポーラス層形成用ペーストとすることにより、表面張力の高いマイクロポーラス層形成用ペーストとなり導電性多孔質材料に撥水処理を施した基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)に塗布を行なっても基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内に浸透しないものとなる。
【0042】
また、カーボンブラックに対する水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率を、カーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲にすることにより水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させるバインダーとして作用し、マイクロポーラス層に必要な気孔を形成することができる。特に、カーボンブラックのカーボン粒子が連鎖することにより成膜時の収縮応力も緩和され、マイクロポーラス層のクラックの発生も防止できる。
【0043】
マイクロポーラス層形成用ペーストが導電性多孔質材料に撥水処理を施した基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内に染み込まないことから、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内のガス拡散性を阻害せず、高負荷時の特性に優れる。カーボンブラックのカーボン粒子を長く連鎖させているため、微細な細孔がマイクロポーラス層に多く存在し、拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)の排水性とガス拡散性が従来の拡散層に比べ向上し電池の出力が向上する。
【0044】
即ち、界面活性剤を使用せずにカーボンブラック、PTFE樹脂、水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイド、水のみを使用して、マイクロポーラス層形成用ペーストとすることにより、表面張力の高いペーストとなり基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)に塗布を行なっても、マイクロポーラス層形成用ペーストが基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内に浸透しなくなる。また、カーボンブラックに対する水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドの比率をカーボンブラックの比表面積(m/g)に対して重量比で0.05〜1%の範囲にすることにより水溶性樹脂としてのポリエチレンオキサイドがカーボン粒子を連鎖させるバインダーとなり、マイクロポーラス層に必要な気孔を形成することができる。カーボン粒子が連鎖することにより成膜時の収縮応力も緩和されマイクロポーラス層のクラックも防止できる。
また、界面活性剤を使用することがないため、拡散層製造時に界面活性剤が環境に拡散することによって起こる環境負荷を低減させることができ、また、界面活性剤の残存による電池性能への影響の心配がない。
【0045】
このように、マイクロポーラス層形成用ペーストが基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内に染み込まないため基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内のガス拡散性を阻害せず、高負荷時の特性に優れることとなる。カーボン粒子を長く連鎖させているため、微細な細孔がマイクロポーラス層に多く存在し、拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)の排水性とガス拡散性が従来の拡散層に比べ向上し電池の出力が向上する。マイクロポーラス層形成用ペーストが基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内に染み込まないため基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)内のガス拡散性を阻害されず高負荷時の特性に優れる。カーボン粒子を長く連鎖させているため、微細な細孔がマイクロポーラス層に多く存在し拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)の排水性とガス拡散性が従来の拡散層に比べ向上し電池の出力が向上する。
【0046】
特に、燃料電池用ガス拡散層の製造方法では、簡単な工程で製造が可能になる。製造過程で揮発するものが水だけであり環境負荷が小さくなる。また、低温での焼成が可能となり、マイクロポーラス層表面のクラックがなくなるためガス拡散が均一になり、従来の拡散層に比べ電池の出力が向上する。
【符号の説明】
【0047】
1 燃料電池
11 電解質膜
10 膜−電極接合体
14 拡散層(カソード側拡散層14A,アノード側拡散層14B)
15 表面層(カソード側表面層15A,アノード側表面層15B)
16 基材(カソード側基材16A,アノード側基材16B)
図1