(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。なお、以下の説明は本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、下記の実施形態を変形してもよい。
【0013】
図1には、本発明のエンジン制御方法を実現するエンジンの構成を示す。本発明に係るエンジン制御方法を搭載するエンジンシステム1は、ピストン3、シリンダ2、クランクアーム4、クランク軸5を有するエンジン本体と、インテークマニホールド11、サージタンク12、スロットルボディ13、吸気管15、エアクリーナ14といった吸気系と、燃料タンク23、燃料配管22、ジェットノズル21を含む燃料系と、点火装置32および点火プラグ31などを含む点火系と、クランク軸5の回転数(エンジン回転数)を検出する回転センサ52と、吸気系中に配置されたフローメータ54と、回転センサ52と連結し、燃料系と点火系を制御する制御装置41を含む。
【0014】
吸気はエアクリーナ14から吸気管15内をエンジン本体に向かって流れる。スロットルボディ13およびサージタンク12で空気の流量と流速を制御された後、インテークマニホールド11を通じて、燃焼室7に送られる。吸気は、燃焼室7に入る前に、ジェットノズル21から燃料が噴出され混合気体となる。インテークマニホールド11若しくはサージタンク12の直前には、フローメータ54が配設されており、空気の流量が検出される。
【0015】
燃料は燃料タンク23から燃料配管22を通じてジェットノズル21に送られる。ジェットノズル21には図示しない空気圧がかかり、後述する制御装置の指示で、燃料を噴出する。噴出量は制御装置41からの指示で決められる。
【0016】
エンジン本体は、従来より知られているように、ピストン3とシリンダ2で形成される燃焼室7内で、混合気体が燃焼することで、ピストン3がシリンダ2内で上下運動を行い、その上下運動がクランクアーム4を介してクランク軸5に伝えられ、回転運動に変換されることで、運転される。
【0017】
クランク軸5には、回転センサ52が直接若しくは間接的に取り付けられており、クランク軸5の回転数だけでなく、その回転位相まで検出される。
【0018】
燃焼室7では、吸い込まれた混合気体に点火プラグ31からスパークを飛ばし、燃焼させる。この燃焼のタイミングは、混合気体が最も圧縮されたピストン3の上死点で燃焼させるのがよい。しかし、燃焼は瞬時に行われるものではないため、トルクを得ようとすると、実際は上死点の手前でスパークを飛ばす。これを進角と呼ぶ。進角を大きくとるとノッキングが発生する。
【0019】
また、逆にピストン3が上死点を過ぎてからスパークさせることを遅角と呼ぶ。点火タイミングを遅角にすると、トルクは下がるがエンジン回転は安定させることができる。したがって、最もトルクを発生させることができる点火タイミングはノッキングが始まる角度より上死点に近い進角の領域にあるとされている。
【0020】
点火装置32は、制御装置41の指示により点火プラグ31にスパークを発生させる。若しくはクランク軸5の位相情報と制御装置41からの点火タイミングの指示を受けて、点火プラグ31にスパークを発生させるようにしてもよい。
【0021】
制御装置41は、EPU(Engine Processor Unit若しくはElectro Processor Unit)と呼ばれるマイクロコンピュータと、メモリ42によって構成される。制御装置41は、少なくとも油温センサ51、水温センサ53、回転センサ52、フローメータ54、点火装置32、ジェットノズル21と接続されており、油温センサ51、水温センサ53、回転センサ52およびフローメータ54からの情報に基づいて、点火装置32およびジェットノズル21に、点火のタイミングと燃料噴射のタイミングおよび量を指示する。
【0022】
以上のように構成されたエンジンシステム1において、本発明のエンジン制御方法について説明する。
【0023】
図2(a)は、エンジン始動時におけるエンジン回転数と時間の関係を示すグラフである。縦軸はエンジン回転数であり、横軸は時間である。符号Trは、目標回転数であり、この場合は、アイドリング回転数である。このアイドリング回転数は、エンジンオイル温度、気温、その他の条件により、制御装置41が適宜決めている。また、
図2(b)は、点火時期を示すグラフである。縦軸は横軸を挟んで進角と遅角を表し、横軸は時間である。
【0024】
エンジンが始動された直後は、エンジン回転を継続させるために、トルクが必要である。エンジン始動直後は、点火のタイミングは進角で行われ(
図2(b)参照)、燃料噴射量も多い。そして時間と共にエンジン回転数は高くなる。
【0025】
エンジン回転数はある回転数(Cr)を超えると、オーバーレブしないように、燃料噴射をカットする制御が行われる。これは制御装置41がジェットノズル21に指示Cj(
図1参照)を出すことで行われる。
【0026】
燃料カット制御が行われると、エンジン回転数は、ある程度のオーバーシュートをした後、下がってくる。ここで、従来は燃料噴射の復帰回転数が一定値(A)に定められていた。エンジン始動直後は、スロットルの開度に対して、インテークマニホールド中の空気の分だけ、スロットル開度から予想される空気量が多くエンジンに供給される。そのため、エンジン稼働時において、適切になるように設定された固定的な燃料噴射の再開のタイミングでは、予定された以上のトルクが発生してしまい、回転浮き(B)が発生していた。
【0027】
本発明は、この燃料噴射の復帰タイミングを固定された復帰回転数で決めるのではなく、要求トルクと、遅角限界トルクが等しくなる時点まで遅らせることで、安定したエンジン回転数を維持できるようにする。
【0028】
図3には、エンジン制御のフローの概略を示す。エンジンがスタートされると(ステップS100)、始動シークエンスが行われる(ステップS102)。次にアクセルの開閉を判断する(ステップS104)。制御装置41は、アクセルが開いているか否を、スロットルの開度を信号Ssによって知る(
図1参照)。アクセルが開いている場合(ステップS104のY分岐)は、エンジン回転制御を行う(ステップS110)。エンジン回転制御(ステップS110)は車速や選択されたギアといった状況も考慮される。アクセルが開いてない場合(ステップS104のN分岐)は、そのままアイドリング制御される(ステップS108)。アイドリング制御(ステップS108)は、アイドリング回転数を一定に維持するための制御である。その時点で使用されているエアコン等の付加も考慮された目標回転数で安定して回転するように制御される。なお、エンジン停止しているか否かをステップS106で判断している。
【0029】
これは主として、点火時期を調整することで行われる。すなわち、エンジン回転数が、目標回転数Trより下がったら、点火時期を進角側に移動させる。また、エンジン回転数が目標回転数Trより高くなったら、点火時期を遅角側に移動させる。
【0030】
図4には、始動シークエンス(ステップS102)の1例を示す。始動シークエンス(ステップS102)は
図4の処理だけに限定されず、これ以外の処理を含んでいてもよい。また、
図4の処理は1つのサブルーチンとしてもよい。始動シークエンス(ステップS102)がスタートすると、エンジンが回転しているか否かが確認される(ステップS122)。エンジンの回転は回転センサ52で検知する。
【0031】
エンジンが回転していない場合は、待ち状態になり(ステップS122のN分岐)、回転している場合(ステップS122のY分岐)は、燃料噴射(ステップS124)を行う。燃料噴射は、制御装置41からジェットノズル21へ指令Cjによって行われる。
【0032】
そして、エンジン回転数Rnが所定の回転数Cr(
図2(a)参照)を超えた場合(ステップS126のY分岐)は、燃料カット制御(ステップS128)が行われる。この燃料カット制御も、制御装置41からジェットノズル21への指令Cjによって行われる。燃料カット制御(ステップS128)が行われた後は、燃料復帰制御(ステップS130)へ制御が移る。なお、燃料復帰制御(ステップS130)が終了したら、始動シークエンスは終了し、元のルーチンに処理を戻す(ステップS132)。処理を戻す先は、
図3のアクセルが開いているか否かの判断(ステップS104)であってもよいし、始動シークエンス(ステップS102)の他の処理であってもよい。
【0033】
図5に本発明のエンジン制御に係る燃料復帰制御(ステップS130)のフローを示す。この制御がスタートすると(ステップS140)、現時点のエンジン回転での要求トルクRqを算出する(ステップS142)。要求トルクRqとは、現時点のエンジン回転数Rnを目標回転数Trにするために必要なトルクである。
【0034】
次に、遅角限界トルクLLqを算出する(ステップS144)。遅角限界トルクLLqとは、現時点のエンジン回転数Rnで、失火する直前まで点火時期を遅角させた時のトルクであり、現時点のエンジン回転数Rnで得ることのできる最低トルクである。
【0035】
そして、要求トルクRqと遅角限界トルクLLqが等しくなった時に(ステップS146のY分岐)、点火時期を遅角限界角度に設定し(ステップS148)、燃料噴射を再開(復帰)する(ステップS150)。点火を再開した後は、処理を元に戻す(ステップS152)。処理を戻す先は、
図4の燃料復帰制御(ステップS130)であるので、さらに、元のルーチンに戻る。元のルーチンとは、
図3で示した始動シークエンス(ステップS102)内の他の処理若しくは、スロットルの開閉判断(ステップS104)である。
【0036】
ここで
図2(d)を参照する。
図2(d)は、縦軸がトルクを表す。横軸は
図2の他のグラフ同様で時間である。エンジン始動後からの要求トルクRqを実線で示した。要求トルクRqは目標回転数Trよりエンジン回転数が高い部分では、負の値となる。目標回転数Trにエンジン回転数が近付けば、要求トルクRqの絶対値は小さくなる。目標回転数と現時点の回転数が等しくなると要求トルクRqはゼロとなる。また、
図2(d)には遅角限界トルクLLqを点線で示した。遅角限界トルクLLqは、その時のエンジン回転数で発生できる遅角限界トルクLLqであるので、エンジン回転数と共に減少する。
【0037】
本発明のエンジン制御方法では、エンジン回転数が下がっていくときに、そのエンジン回転数で発生できるトルクのなかで最も小さなトルク(遅角限界トルクLLq)が、要求トルクRqとなった時(
図2(d)のF点)に点火を再開する。このように点火の再開タイミングを制御すると、トルクが最小の点からアイドリング制御を開始することができるので、アイドリングの回転浮や、再吹き上がりといった現象を排除することができ、燃費の向上につながる。
【0038】
次に
図6のフローを用いて、要求トルクRqの算出をより詳細に説明する。要求トルクRqを算出するには、まず現状のトルクを算出する(ステップS162)。トルクはエンジンが吸い込んだ空気量とその時の回転数によって決まる。
図7(a)にはトルクと空気量の関係を示す。縦軸はトルクを表し、横軸は空気量を表す。回転数によって同じ空気量であっても発生トルクは変わる。制御装置41は、フローメータ54からエンジンが吸い込んだ空気量を検出し、また回転センサ52からエンジンの回転数を知る。そして、この関係から現在のエンジン回転数での発生トルクを算出する。実際には、
図7(a)の関係のテーブルをメモリ上に持っておき、このテーブルから現在の発生トルクを算出する。
【0039】
図6に戻って、次に補正値を算出する(ステップS164)。
図7(a)の空気量とトルクとエンジン回転数の関係は油温や水温、回転偏差で変化する。そこで、これらの条件による補正値を予め求めておき、補正値をステップS162で求めた現状トルクに乗ずることで正確なトルク(これを「補正現状トルクTn」と呼ぶ。)を求める(ステップS166)。
図7(b)には、補正値を求めるグラフを例示する。縦軸は補正値であり、横軸は回転偏差(回転ムラ)である。グラフは油温および水温によって変化し、回転偏差が大きくなるほど補正値は大きくなる。
【0040】
制御装置41は、油温センサ51および水温センサ53によってエンジンの油温および水温を検出し、
図7(b)の関係から補正値を求める。油温センサ51はオイルパン6内のエンジンオイルの油温を測定し、水温センサ53はウォータージャケット8内の水温を測定する。なお、油温および水温を
図1の油温センサ51および水温センサ53からの信号Stoおよび信号Stwによって制御装置41は検知する。また、
図7(a)の場合同様、これらの関係はメモリ上にテーブルとして保持されている。
【0041】
再び
図6を参照し、次に現状トルクおよび補正値を積算することによって、補正現状トルクTnを算出する(ステップS166)。次に目標トルクTsを算出する(ステップS168)。これは、
図7(a)のトルクと空気の関係から求める。具体的には、制御装置41が車速、スロットル開度等の運転状態から求めるエンジン回転数を決める。これは目標回転数Trである。今エンジン始動直後であって、スロットルが閉じていれば、目標回転数Trは、アイドリング回転数である。
【0042】
そして、フローメータ54からの空気の流量と目標回転数Trから目標トルクTsを算出する。そして、要求トルクRqを、補正現状トルクTn−目標トルクTsによって求める(ステップS170)。以上のように要求トルクRqとは、現時点の補正現状トルクTnから目標回転数に到達するために、必要なトルクを意味する。したがって、補正現状トルクTnの方が目標回転数Trを維持するために必要なトルクより大きい場合は、負の値となり得る。
【0043】
次に
図5のステップS144で示した遅角限界トルクLLqの算出について、
図8を参照しながら説明する。遅角限界トルクLLqを求めるためには、まず、その時のエンジン回転数における遅角限界角度を算出する(ステップS182)。
図9(a)には、エンジンに供給された空気量と遅角限界角度の関係を示す。縦軸は遅角限界角度を表し、横軸はエンジンに供給された空気量を示す。遅角限界角度は、これ以上点火時期を遅角方向にずらすと、失火する角度である。
【0044】
制御装置41は、空気量の情報をフローメータ54から得、また回転センサ52からエンジン回転数の情報を得る。そして、これらの情報から
図9(a)の関係に基づいて遅角限界角度を得る。
【0045】
図8を再度参照して、次に始動後積算空気量を算定する(ステップS184)。始動後積算空気量とは、エンジン始動後からエンジンに供給された空気の積算量である。これは、フローメータ54からの信号Sfをエンジン始動直後から積算した値を求めておく。
【0046】
図1を参照して、始動直後のエンジンには、インテークマニホールド11とサージタンク12(斜線部分:以後「残留部分」とよぶ。)等に空気が残留しており、これがエンジン始動に使用される。ここに残っている空気はスロットルボディ13の開度とは関係なく使用される空気である。
【0047】
したがって、通常のエンジン制御では予定外の空気となる。そこで、燃料噴射を再開した時に、予定外の空気がどの程度使用されるのかを推定する。残留部分の体積は予め設計段階でわかるので、始動後積算空気量を残留部分から引くことで、予定外の空気があとどれくらい残っているかを求めることができる。
【0048】
次に遅角限界トルクLLqを算出する(ステップS186)。
図9(b)には、発生トルクと始動後積算空気量の関係を示す。始動直後のエンジンの発生トルクは、始動後積算空気量に反比例する。予定外の空気の量が多いからである。また、点火時期が進角に進めば高くなる。そこで、この関係の最も大きな遅角タイミングと、始動後積算空気量との関係より、発生トルクを求め、遅角限界トルクLLqとする。なお、この関係も、メモリ上に記憶したテーブルから求められる。
【0049】
遅角限界トルクLLqを求めたら、処理を戻す(ステップS188)。戻す先は、
図5で示したステップS146である。
【0050】
以上のように、
図6のように求めた要求トルクRqと
図8で求めた遅角限界トルクLLqが求められ、
図2(d)の点Fを判断して、点火は再開される。
【0051】
図2(b)には、点火時期と始動開始後の時間を示す。
図2(d)の点F以後は、点火時期は、進角に向かって制御される。もちろん、点火時期は、エンジン回転数が上がるなら遅角方向にずらされ、逆に下がれば進角方向にずらされる。
【0052】
また、
図2(c)には、積算空気量と時間の関係を示す。積算空気量は、残留部分の空気を使い果たしたら、その後は求める必要はない。エンジンが定常的に動いている場合は、スロットルの開度によって制御するからである。