(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ボールスタッドのボールとの摺接面を有して前記ボールの最大直径部を覆うと共に、相反する方向へ当該ボールの球面が露出する第一開口部及び第二開口部を有する樹脂摺接部材を成形する工程と、
前記ボール及びこれに被せられた樹脂摺接部材を中子とした鋳造により、前記樹脂摺接部材の周囲を覆う本体部及び前記樹脂摺接部材の第二開口部から突き出た前記ボールの球面を覆って当該ボールに接する閉塞部を有し、且つ、前記樹脂摺接部材の第一開口部から露出する前記ボールの球面と非接触なホルダを成形する工程と、
前記樹脂摺接部材の第一開口部から露出したボールに対して軸部材を突き当てると共に当該軸部材に電極を接触させる一方、前記ボールに接する前記ホルダの閉塞部に電極を接触させ、前記ボールと軸部材を電気抵抗溶接によって接合して前記ボールスタッドを形成する工程と、
前記ボールスタッドに対してその軸方向に隙間形成荷重を加え、前記ボールと前記閉塞部の先端凹球面とを非接触にする工程とを備えたことを特徴とするボールジョイントの製造方法。
前記樹脂摺接部材は前記ボールの最大直径部を覆い、前記第二開口部の内径が第一開口部の内径よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1記載のボールジョイントの製造方法。
前記樹脂摺接部材は、前記第二開口部を通してホルダの閉塞部と接する前記ボールの球面の面積が前記軸部材の先端面の前記ボールに対する溶接部面積よりも大きくなるように、当該第二開口部の内径が設定されていることを特徴とする請求項2記載のボールジョイントの製造方法。
【背景技術】
【0002】
この種のボールジョイントとしては、軸部材の先端にリンク機構の揺動中心となるボールを有するボールスタッドと、このボールスタッドのボールの最大直径部を覆って当該ボールの球面に摺接するホルダと、から構成されたものが知られている。
【0003】
特開平9−189322号公報(特許文献1)は前記ボールジョイントの製造方法を開示している。この製造方法では、真球度の高い軸受用鋼球を前記ボールとして使用し、当該ボールを中子とした鋳造により前記ホルダを成形している。これにより、前記ホルダに対して軸受用鋼球の球面を転写することができ、当該ホルダは真球度の高い金属摺接面を備えたものになる。また、前記ホルダの鋳造後に前記ボールに対して軸部材を電気抵抗溶接することで前記ボールスタッドが完成する。この電気抵抗溶接のためには前記ボールと軸部材との間に溶接電流を通電することが必要であるが、ボールを中子として鋳造されたホルダは当該ボールに密着していることから、ボールに対して直接電極を当接させるのではなく、ボールに密着するホルダに対して電極を当接させ、それによって前記ボールと軸部材との間に溶接電流を通電している。
【0004】
また、前述のようにして成形されたホルダの金属摺接面は鋳造後に生じる鋳縮によってボールに密着しており、このままだとボールスタッドをホルダに対して揺動させることができない。このため、特許文献1に開示されるボールジョイントでは、ボールスタッドに対してその軸方向の打撃を加え、鋳造によって形成したホルダの金属摺接面をボールの球面によって押圧し、当該金属摺接面を塑性変形させることで、ホルダとボールとの間に極僅かな隙間を形成して両者を分離し、当該ホルダに対するボールスタッドの揺動を可能としている。
【0005】
一方、特開2004−316771号公報(特許文献2)には、ボールとこれを中子として鋳造したホルダとを樹脂摺接部材で分離したボールジョイントの製造方法が開示されている。前記樹脂摺接部材はボールスタッドのボールの最大直径部を覆って当該ボールの球面に摺接しており、ホルダはこの樹脂摺接部材の周囲を覆うと共に当該樹脂摺接部材を保持している。前記ホルダは前記樹脂摺接部材が被せられたボールを中子として使用した鋳造により成形されており、前記樹脂摺接部材がボールの球面に倣った樹脂摺接面を備えた状態でホルダに固着される。
【0006】
また、前記ボールスタッドは、前述の特許文献1と同様、前記ホルダの鋳造後に前記ボールに対して軸部材を電気抵抗溶接して形成されている。但し、ボールとホルダとの間に樹脂摺接部材が存在することから、特許文献1のようにホルダを利用してボールに溶接電流を通電することはできない。このため、前記樹脂摺接部材及び前記ホルダには給電用開口部が設けられており、かかる給電用開口部を通して前記ボールに対して給電用電極を直接当接させている。
【0007】
更に、この特許文献2のボールジョイントの製造方法では、前記ホルダの鋳造完了後に前記樹脂摺接部材に対して再度熱を加えることにより、当該樹脂摺接部材がボールを締め付けている力を軽減して、ホルダに対するボールスタッドの動きを管理している。すなわち、この特許文献2のボールジョイントでは、特許文献1のようにホルダを塑性変形させてボールとホルダとの間に積極的に隙間を形成する必要がなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の製造方法では、特許文献2のように前記ホルダに対して給電用開口部を設ける必要がなく、外部からの異物侵入を防止することができるという利点がある。しかし、ボールスタッドを滑らかに動かすためには、当該ボールスタッドに対して外力を加えて前記ホルダの金属摺接面を塑性変形させる必要があり、この塑性変形量がボールスタッドの運動精度に影響を与えることから、この工程を厳密に管理する必要があった。
【0010】
一方、特許文献2に開示される製造方法によって得られたボールジョイントでは前記樹脂摺接部材とボールが隙間なく摺接しており、ボールスタッドの滑らかな運動が可能である。その反面、前記ホルダ及び樹脂摺接部材に対して前述の給電用開口部を設ける必要があり、外部からの異物侵入を防止するため、この給電用開口部はボールスタッドの完成後に閉塞キャップによって塞ぐ必要があった。前記閉塞キャップは前記給電用開口部の周縁に対してかしめ加工を施すことで前記ホルダに対して固定されていたが、ホルダの開口に対して他の部材を固定する関係上、作業に万全を期したとしても、想定し得ない事由によって前記閉塞キャップとホルダとの間の密封性が不十分になるという可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ボールを中子として鋳造されたホルダに対して給電用開口を設けることなく当該ボールに対する軸部材の電気抵抗溶接を可能にし、しかも前記ホルダがボールとの金属摺接面を具備せず、ホルダに対するボールスタッドの円滑な動作を確保することが可能なボールジョイントの製造方法を提供することにある。
【0012】
前記目的を達成する本発明のボールジョイントの製造方法は、ボールスタッドのボールとの摺接面を有して前記ボールの最大直径部を覆うと共に、相反する方向へ当該ボールの球面が露出する第一開口部及び第二開口部を有する樹脂摺接部材を成形する工程と、前記ボール及びこれに被せられた樹脂摺接部材を中子とした鋳造により、前記樹脂摺接部材の周囲を覆う本体部及び前記樹脂摺接部材の第二開口部から突き出た前記ボールの球面を覆って当該ボールに接する閉塞部を有し、且つ、前記樹脂摺接部材の第一開口部から露出する前記ボールの球面と非接触なホルダを成形する工程と、前記樹脂摺接部材の第一開口部から露出したボールに対して軸部材を突き当てると共に当該軸部材に電極を接触させる一方、前記ボールに接する前記ホルダの閉塞部に電極を接触させ、前記ボールと軸部材を電気抵抗溶接によって接合して前記ボールスタッドを形成する工程と、前記ボールスタッドに対してその軸方向に隙間形成荷重を加え、前記ボールと前記閉塞部の先端凹球面とを非接触にする工程とを備えている。
【発明の効果】
【0013】
ホルダには前記樹脂摺接部材の第二開口部から突き出た前記ボールの球面を覆って前記ボールに接する閉塞部が鋳造によって一体に設けられているので、軸部材をボールに対して電気抵抗溶接する際には、前記ホルダに給電用電極を当接させることで、前記閉塞部からボールに対して溶接電流を通電することが可能となる。すなわち、ホルダに対して給電用開口部を設けることなくボールスタッドの溶接を行うことができ、前記給電用開口部を塞ぐ閉塞キャップが不要となり、部品点数の削減や生産工程の簡略化を実現することができる。
【0014】
また、前記ボールスタッドの溶接終了後に当該ボールスタッドに対して軸方向の隙間形成荷重を加えると、前記ボールスタッドのボールがこれに接触しているホルダの閉塞部を押圧し、当該閉塞部が塑性変形する。このとき、前記ホルダの本体部と前記ボールスタッドのボールとの間に存在する前記樹脂摺接部材は前記隙間形成荷重を受けて弾性変形するが、前記隙間形成荷重を取り除いた状態では当該樹脂摺接部材の形状が復元することから、前記ボールは塑性変形した前記閉塞部から離間し、前記ボールと前記ホルダの閉塞部とは非接触の状態となる。また、前記閉塞部が塑性変形する前後において、前記樹脂摺接部材とボールとは隙間なく接触した状態が維持される。従って、ボールスタッドのボールは鋳造されたホルダには一切接触しない状態となり、また、ボールは樹脂摺接部材に対して隙間なく摺接するので、ホルダに対するボールスタッドの円滑な動作を確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を用いながら本発明のボールジョイントの製造方法を詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明方法によって製造したボールジョイントの実施形態の一例を示すものである。このボールジョイントは、軸部材11の先端にボール10を備えたボールスタッド1と、前記ボール10に被せられると共に当該ボール10に摺接する樹脂摺接部材3と、この樹脂摺接部材3の周囲に成形されると共に当該樹脂摺接部材3が固着されたホルダ2とから構成され、前記ボールスタッド1が前記ボールを中心としてホルダ2に対して揺動自在に連結している。
【0018】
前記ボールスタッド1はボール10となる真球度の高い軸受用鋼球に対して棒状の軸部材11を電気抵抗溶接して形成されている。前記軸部材11にはリンク等の被取付け体を固定するための座面を備えた鍔部12が形成される一方、かかる鍔部12を挟んでボール10と反対側には雄ねじ13が形成されている。また、前記鍔部12は六角ナットの形状に形成されており、スパナレンチを用いることで前記ボールスタッド1の雄ねじ13をリンク等の被取付け体に締結することが可能となっている。
【0019】
また、前記樹脂摺接部材3は相反する方向へボール10の球面が露出する第一開口部31及び第二開口部32を有して環状に形成され、内側にはボール10の球面に略合致した凹球面状の樹脂摺接面30を有している。前記ボールスタッド1の軸部材11は前記第一開口部31から露出したボール10の球面に対して接合されている。この樹脂摺接部材3は前記ボール10の最大直径部を覆うと共に、当該ボール10の球面の略2/3程度を覆っている。
【0020】
一方、前記ホルダ2は、前記樹脂摺接部材を覆うようにしてその周囲に設けられた本体部20と、かかる本体部20をリンクに結合するための固定部21と、前記樹脂摺接部材の第二開口部を覆う閉塞部23とを備え、これら本体部20、固定部21及び閉塞部23とがアルミニウム合金又は亜鉛合金のダイカスト鋳造により一体に成形されている。尚、
図1中では省略してあるが、前記固定部21には雌ねじが形成されており、例えばリンクを構成するロッド等の先端に形成された雄ねじを結合できるようになっている。また、この固定部21を設けることなく、前記本体部20を被取付け体に対して直接固定することも可能である。
【0021】
前記本体部20は前記樹脂摺接部材3の外側に環状に成形されており、当該樹脂摺接部材3は前記本体部20に対して固着されている。また、前記本体部20には前記樹脂摺接部材3の第一開口部31に対応してホルダ開口部22が設けられており、このホルダ開口部22からは前記樹脂摺接部材3の第一開口部31の周縁が僅かに露出している。すなわち、前記ホルダ2の本体部20は前記第一開口部から露出したボール10の球面とは非接触である。
【0022】
また、前記ホルダ2の閉塞部23は前述した鋳造によって前記本体部20と一体に成形されている。この閉塞部は前記ホルダ2を鋳造した際には前記樹脂摺接部材3の第二開口部32から突き出たボール10の凸球面と接触しているが、前記ホルダ2の鋳造後の製造工程において、前記ボール10とこれに当接する閉塞部23の先端凹球面23aとの間に隙間が形成され、ボールジョイントの完成時には前記ボール10と閉塞部23とが非接触に保たれるようになっている。すなわち、ホルダ2に対してボールスタッド1が揺動する際に、ボール10は前記樹脂摺接部材3の樹脂摺接面30にのみ接している。
【0023】
更に、前記ホルダ2の本体部20の外周縁とボールスタッド1の軸部材11との間にはブーツシール4が取り付けられており、ボールスタッド1のボール10とホルダ2の本体部20との隙間に対して埃やごみ等が侵入するのを防止している他、グリース等の潤滑剤を収容するシールポケット40を形成している。ここで、前記ブーツシール4のボールスタッド1側の端部41はその弾性によって軸部材11に密着する一方、ホルダ2側の端部42は係止リングによってホルダ2の外周縁との間に挟み込まれており、ボールスタッド1の揺動あるいは回転運動によっても外れることがないようになっている。このブーツシール4は後述する製造工程の最終段階において、前記閉塞部23の先端凹球面23aとボール10との間に隙間を形成した後に、前記ボールスタッド1及びホルダ2に対して装着される。
【0024】
次に、この実施形態のボールジョイントの具体的製造方法について説明する。
【0025】
最初の工程では、前記樹脂摺接部材3を成形し、これをボール10となる軸受用鋼球に対して装着する。この樹脂摺接部材3の材質の一例としてはポリエーテルエーテルケトン(ビクトレックス社製/商品名:PEEK)が用いられ、その厚さは例えば約0.8mmに設定されている。
図2はボール10に対して樹脂摺接部材3を装着した状態を示す正面図である。この樹脂摺接部材3はボール10の外径に適合する内径を具備した環状に成形され、前述の如く相反する方向へボール10の球面が露出する第一開口部31及び第二開口部32を有している。前記第二開口部32の内径D2は前記第一開口部31の内径D1よりも小さく設定されており、ボール10の中心Oから前記第一開口部31までの距離Hと、ボール10の中心Oから前記第二開口部32までの距離hとを比較した場合、H<hとなっている。このため、前記樹脂摺接部材3とボール10の球面との接触面積は、ボール10の中心Oよりも前記第一開口部31の側で小さく、第二開口部32の側で大きくなっている。
【0026】
前記樹脂摺接部材3の第一開口部31の内径はホルダ2に対するボールスタッド1の可動範囲との関係から決定される。但し、前記ボールスタッド1に対してその軸方向に直交する方向のラジアル荷重が作用した場合を考慮すると、前記樹脂摺接部材3とボール10との接触面積は大きい方が好ましい。特に前記樹脂摺接部材3の第二開口部32の内径は可及的に小さく設定するのが良く、前述したように第二開口部の内径D2は第一開口部の内径D1より小さく設定するのが好ましい。
【0027】
このような樹脂摺接部材3をボール10に被せる一例としては、ボール10を中子として前記樹脂摺接部材3を射出成形し、当該樹脂摺接部材3の成形とボール10への装着を一つの工程で行うことが考えられる。このようにボール10そのものを中子として樹脂摺接部材3の成形を行えば、ボール10への装着手間が省略される他、ボール10の球面が前記樹脂摺接部材3の樹脂摺接面30に転写されるので、かかる樹脂摺接部材3とボール10とが隙間なく面接触し、両者の摺接状態を良好なものにすることが可能となる。
【0028】
尚、ボール10を中子として使用することなく前記樹脂摺接部材3のみを成形し、成形された樹脂摺接部材3の第一開口部31からボール10を当該樹脂摺接部材3の内部に押し込み、これによって樹脂摺接部材3をボール10に対して装着するようにしても差し支えない。
【0029】
次に、前記ホルダ2をダイカスト鋳造する。このダイカスト鋳造に際しては、
図3に示すように、上下に分割された一対の鋳造金型5,6内に対してボール10及び当該ボール10に対して装着された樹脂摺接部材3を中子としてインサートし、この状態でアルミニウム合金又は亜鉛合金の溶湯を金型内のキャビティ7に圧入する。このとき、ボール10は前記樹脂摺接部材3の第一開口部31から露出した球面が金型6に形成された凹球面状の支持座60に嵌合し、当該支持座60はその周縁が前記樹脂摺接部材3の第一開口部31の周縁に接する。尚、前記支持座60に対してボール10を確実に固定するため、当該支持座60からボール10に対して磁気吸引力を作用させるようにしても良い。
【0030】
これにより、
図4に示すように、ボール10及び樹脂摺接部材3を前記合金でくるんだホルダ2が鋳造される。鋳造されたホルダ2には金型6の支持座60に対応した部位に前記ホルダ開口部22が形成され、ボール10はこのホルダ開口部22からのみ露出した状態となる。前記樹脂摺接部材3の第一開口部31において前記ホルダ2はボール10と非接触であるが、第二開口部32は前記本体部20と一体に成形された閉塞部23によって覆われ、かかる閉塞部23には第二開口部32から突出するボール10の球面と接する先端凹球面23aが形成される。また、前記ホルダ2が鋳造されると、ボール10に装着されていた樹脂摺接部材3は鋳造されたホルダ2の本体部20に埋め込まれた状態となり、前記ボール10に接している前記樹脂摺接部材3の樹脂摺接面30と前記閉塞部23の先端凹球面23aとは段差なく連続した一つの凹球面として形成されることになる。そして、この凹球面はボール10の球面と隙間なく接触した状態となる。
【0031】
次に、前記ボール10に対して軸部材11を溶接する。かかる溶接には電気抵抗溶接の一種であるプロジェクション溶接が用いられる。具体的には、
図5に示すように、前記ホルダ開口部22から露出したボール10の球面に対して軸部材11の端面を所定の力F1で圧接させる一方、前記ホルダ2の閉塞部23及び前記軸部材11の夫々に対して電極14,15を当接させ、これら閉塞部23及び軸部材11に溶接電流を通電する。前記閉塞部23の外側には電極取付け面24が形成されており、かかる電極取付け面24は前記ボールスタッド1の軸心線を中心とした円形状をなしている。また、前記電極15は環状に形成され、前記軸部材1の鍔部12に当接している。
【0032】
前記ボール10及び樹脂摺接部材3を中子として前記ホルダ2を鋳造したことから、既に説明した通り、ホルダ2の閉塞部23にはボール10の球面が転写された先端凹球面23aが形成されており、かかる先端凹球面23aはボール10の球面に隙間なく接触している。このため、前記閉塞部23に電極14を当接させることで、当該閉塞部23からボール10に対して溶接電流を通電することができ、ボール10と軸部材11を電気抵抗溶接することが可能となる。
【0033】
そして、このようにして電気抵抗溶接が終了すると、
図6に示すように、軸部材11の先端面がボール10に対して接合され、ボール10が樹脂摺接部材3を介してホルダ2の本体部に保持されたボールスタッド1が完成する。
【0034】
前記ボール10と軸部材11とを電気抵抗溶接するためには、これら両者の間の通電抵抗に比べて前記閉塞部23とボール10との間の通電抵抗が小さいことが必要である。仮に、前記閉塞部23とボール10との間の通電抵抗が前記ボール10と軸部材11との間のそれよりも大きい場合には、前記閉塞部23とボール10との境界面が発熱し、閉塞部23がボール10に対して固着してしまうからである。このため、前記閉塞部23とボール10との接触面積、すなわち第二開口部32から突出して前記閉塞部23の先端凹球面23aと接する前記ボール10の球面の面積は、ボール10と軸部材11との溶接部面積よりも大きく設定される必要がある。ここで溶接部面積とは前記軸部材11の先端面がボール10と接合された面積であり、具体的には
図6中に符号70で示された溶接部における円形状面積であり、軸部材11の断面積に相当している。より厳密には軸部材11がボール10と接合される部位における当該ボール10の球面の表面積である。
【0035】
前記ホルダ2の鋳造後であって軸部材11をボール10に対して溶接する以前の段階では、鋳造後に進行するホルダ2の収縮により、当該ホルダ2の本体部20が樹脂摺接部材3の外側からボール10を締め付ける状態となるので、そのままでは樹脂摺接部材3に対するボール10の回転には大きな抵抗が作用する。また、前記鋳造によってホルダ2の閉塞部23に形成された先端凹球面23aはボール10に緊密に接触していることから、この点においてもボール10の自由な回転は妨げられた状態にある。
【0036】
しかし、前記ホルダ10の鋳造後に当該ボール10に対して軸部材11を電気抵抗溶接すると、前記ボール10と軸部材11の接合部分の周辺が発熱源となって当該ボール10が加熱され、ボール10を締め付けている樹脂摺接部材3にもその熱が伝達される。前記ボール10と樹脂摺接部材3は熱膨張率に差が存在し、且つ、冷却時の収縮速度にも差が存在することから、加熱によって一旦広げられた樹脂摺接部材3が冷却時の収縮段階で元の形状にまで完全には戻りきらず、前記ボール10に対する樹脂摺接部材3の締め付けを緩めることが可能となる。
【0037】
このとき、ボール10それ自身は常温下よりも僅かに熱膨張を生じて前記樹脂摺接部材3を押し拡げることになるが、発熱源はボール10と軸部材11との接合部分なので、当該ボール10は第一開口部31の近傍で膨張量が大きくなり、発熱源から離れた第二開口部32の近傍では第一開口部31の近傍よりもその膨張量が小さくなる。すなわち、前記樹脂摺接部材3がボール10の熱膨張によって押し拡げられる量は、第二開口部32の近傍よりも第一開口部31の近傍で大きくなる。その結果、ボール10と軸部材11の接合が完了してボールが冷めた状態では、ボール10が閉塞部23から浮き上がる方向に関して当該ボール10が微小変位することになり、ボール10は前記閉塞部23の先端凹球面23aと接触はしているものの、両者の間の接触面圧は軽減される。
【0038】
すなわち、この実施形態のボールジョンイトでは、ボール10に対する軸部材11の電気抵抗溶接が完了すると、前記ボール10に対する樹脂摺接部材3の締め付け力が軽減され、更にボール10と前記閉塞部23の先端凹球面23aとの接触面圧が軽減され、当該溶接によって完成したボールスタッド1をホルダ2に対して軽く動かすことが可能となる。
【0039】
特に、前述の実施形態では、前記樹脂摺接部材3の第二開口部32の内径D2を第一開口部31の内径D1よりも小さく形成しており、ボール10はその中心より前記閉塞部23側においてより多くの球面が前記樹脂摺接部材3に接している。このため、ボール10に対する軸部材11の溶接によって前記樹脂摺接部材3の締め付け力が軽減されると、前記第一開口部31と第二開口部32とが同一の内径に形成されている場合と比較して、ボール10は閉塞部23から浮き上がる方向に関しての自由度が増大し易い。従って、本実施形態のボールジョイントでは、前記閉塞部23の金属摺接面23aとボール10との接触面圧を一層軽減し易く、ボール10と閉塞部23との接触状態は維持したまま、ボールスタッド1をホルダ2に対して軽く動かすことが可能となる。
【0040】
次に、前記ホルダ2の閉塞部23とボールスタッド1のボール10との間に隙間を形成し、当該閉塞部23の先端凹球面23aとボール10との接触状態を解消する。この工程では、前述の電気抵抗溶接によって完成したボールスタッド1に対してその軸方向に隙間形成荷重F2を加え、前記ボール10を前記閉塞部23の先端凹球面23aに対して押圧する。具体的には、
図6に示すように、固定部8の上に環状の受圧治具80を配置すると共に、この受圧治具80をホルダ2の閉塞部23に設けられた前記電極取付け面24の周囲に当接させ、この状態でボールスタッド1に対してそのボール10をホルダ2の閉塞部23に押し付ける方向の隙間形成荷重F2を加える。
【0041】
前記受圧治具80はボールスタッド1の軸心を囲むようにしてホルダ2の閉塞部23の周囲に当接していることから、ボールスタッド1に対して前記隙間形成荷重F2を加えると、前記ボール10がホルダ2の閉塞部23を押し下げるように押圧し、これによって当該閉塞部23が塑性変形する。このとき、前記ボール10は前記閉塞部23の塑性変形量に応じて前記ホルダ2内で微小に変位することになり、前記ホルダ2の本体部20と前記ボールスッタッド1のボール10との間に存在する前記樹脂摺接部材3は前記隙間形成荷重F2によって弾性変形する。その後、前記隙間形成荷重F2を取り除くと、弾性変形していた前記樹脂摺接部材3は元の形状に復元し、これに伴って前記ボール10は前記閉塞部23の先端凹球面23aから離れる方向へ変位することになる。これにより、前記ボールスタッド1のボール10と前記ホルダ2の閉塞部23との間に隙間が形成される。この隙間の大きさは前記隙間形成荷重F2の大きさに依存している。
【0042】
この工程では前記隙間形成荷重F2をボールスタッド1に加えることにより、前記ボールスタッド1のボール10と前記ホルダ2の閉塞部23との間に積極的に隙間を形成しているが、ボール10そのものはホルダ2の本体部20に固定された前記樹脂摺接部材3と隙間なく接しており、当該樹脂摺接部材3とボール10との接触状態はこの工程の前後において変わるところがない。従って、前記ボールスタッド1のボール10と前記ホルダ2の閉塞部23との間に積極的に隙間を形成しても、当該ボール10は前記樹脂摺接部材3に対して隙間なく摺接することになり、ボールスタッド1がホルダ2に対してガタつくといった不具合は発生しない。
【0043】
また、前記ホルダ2の閉塞部23とボールスタッド1のボール10との間に隙間を形成する工程では、二段階の工程を経て当該隙間を形成するようにしても良い。例えば、前述した環状の受圧治具80(
図6参照)を使用する前段階として、
図7に示すように、前記閉塞部23の外側に形成した電極取付け面24に対して円板状の受圧治具81を当接させ、この状態で隙間形成荷重F2をボールスタッド1に加え、その後に環状の受圧治具80を用いて再び隙間形成荷重F2を加える。このような二段階の工程を経ると、円板状の受圧治具81を用いた工程では前記閉塞部23がボール10と当該受圧治具81との間で押しつぶされて塑性変形し、更に、環状の受圧治具80を用いた工程で前記閉塞部23が押し下げられる。これにより、環状の受圧治具80のみを用いた場合と比較して、前記ホルダ2の閉塞部23とボールスタッド1のボール10との間により大きな隙間を形成することができる。
【0044】
尚、前述した受圧治具80,81の形状は例示であり、前記ボールスタッド1に対して隙間形成荷重F2を加えた際に、前記ホルダ2の閉塞部23を前記ボール10で押圧して塑性変形させることができるもものであれば、その形状は適宜選択することが可能である。
【0045】
そして、このようなボールジョンイトの製造方法によれば、前記ボール10に対して軸部材11を電気抵抗溶接するに際して、当該ボール10の周囲を覆っている前記ホルダ2に対して給電用開口部を設ける必要がなく、ボールスタッド1の溶接完了後に前記給電用開口部を塞ぐ閉塞キャップが不要となるので、その分だけ部品点数の削減や生産工程の簡略化を実現することができ、生産コストの低減化を図ることが可能となる。
【0046】
また、前記隙間形成荷重F2を除去した後は、前記閉塞部23の先端凹球面23aとボールスタッド1のボール10とが非接触状態となり、前記ボール10は前記樹脂摺接部材3の樹脂摺接面30とのみ接触した状態となる。これにより、ボールスタッド1の揺動運動の際に、当該ボールスタッド1のボール10が鋳造によって形成された金属製ホルダ2と擦れることがなく、また、ボールスタッド1がホルダ2に対してガタつくことがなく、ボールスタッド1の円滑な動作を長期にわたって確保することが可能となる。