【実施例】
【0014】
DABでは、オーディオ信号のデータ圧縮方式として、MPEG1/2オーディオレイヤ2を採用している。MPEG1/2オーディオレイヤ2では、再生する音声を32の周波数帯域(サブバンド)に分割する。左右のチャンネルでみれば、64の周波数帯域である。そして、分割された各サブバンド毎のオーディオ信号は量子化される。この時、"視聴心理モデル"(人間はある周波数に大きな音があると、それと近い周波数のすこし小さい音は気づかない等の特性)を利用して、より効率的に圧縮される。これらの処理には、FFT(フーリエ変換)が用いられる。圧縮されたオーディオ信号は、OFDM変調により伝送される。従って、DABにおけるディジタルオーディオ信号のフレーム構成は、MPEG1/2オーディオレイヤ2とほぼ同様に構成される。
図4に、フレームの概略構成を示すが、ここでの名称は、説明の便宜上付したものであり、実体としては、
図1に示しフレームと同様の構成である。1つのフレームは、ヘッダ部、ボディ部、および付加データ部を含み、その伝送時間は、24msである。
【0015】
アロケーション部は、全体を32分割して生成した各サブバンドについて、実際にその周波数帯域にオーディオデータが存在するか否かの情報を含む。存在しないサブバンドの波形データ等は、省略する事で圧縮率を向上することができるため、このような情報が必要になる。SCF部はScaleFactor(スケールファクタ)であり、存在する各サブバンドの振幅値(音量レベル)のデータが格納されている。CRC部は、ヘッダ部に関して実施した誤り検知機能のデータが保存されている。よってヘッダ部分に関しては、CRC値を用いた処理にて誤りの有無を検知することが可能である。ボディ部は、正規化された各サブバンドの波形(振幅)を示すデータが格納されている。従って、SCF部は、ボディ部における正規化された波形(振幅)の倍率でもある。以下、便宜上、SCF部に格納されたデータをSCF値という。付加データ部には、放送局が付加するDRC値が格納される。但し、付加データ部には、誤りを検出する機能(CRC部)は設けられていない。
【0016】
次に、本実施例におけるDAB受信装置の構成例を
図5に示す。本実施例のDAB受信装置10において、フロントエンド14は、アンテナ12から放送波のRF信号を受信し、受信したRF信号から希望局の周波数信号を選択する同調回路、局部発信器からの周波数信号とRF信号を混合し中間周波(IF)信号を生成する混合器、中間周波信号を直流検波しその受信電界強度信号(Sメータ信号)を抽出するSメータ回路などを含んでいる。中間周波信号は、A/Dコンバータ16によりディジタル信号に変換され、このディジタル信号は、信号処理部20において種々の信号処理を実施される。
【0017】
信号処理部20は、例えばDSP(Digital Signal Processor)などを用いて構成される。A/Dコンバータ16から出力されたディジタル信号は、直交復調部21によりディジタル信号の直交成分の信号が復調され、ついでFFT22によりフーリエ変換されて各周波数帯域の信号が取り出される。誤り訂正部23は、ビタビデコーダなどにより誤り訂正等を行う。デコーダ24は、圧縮されたオーディオデータを伸長し、各サブバンドのSCF部のSCF値(振幅に関するデータ)とボディ部の正規化されたオーディオ波形データを乗算し、これを合算することでディジタルオーディオデータを合成する。そして、ディジタルオーディオデータは、音量制御部25によりDRC値に基づく音量もしくは利得が制御される。なお、信号処理部20は、上記の処理に加えて、各部の同期制御等も行う。こうした信号処理部20の動作は、予めメモリ内に格納されたプログラムを併用するものであってもよい。次いで、信号処理部20から出力されたディジタルオーディオ信号は、D/Aコンバータ30によりアナログ信号に変換され、アンプ32、スピーカ34を介して音声出力される。
【0018】
コントローラ40は、フロントエンド14、信号処理部20等を制御するものであり、好ましい態様では、メモリに格納されたプログラムを実行することで各部を制御する。コントローラ40は、入力部42を介してユーザーからの指示に応答してフロントエンド14に希望放送局を選局させたり、デコーダ24から抽出されたDRC値に基づき音量制御部25を介して音声出力の音量を制御する。また、コントローラ40は、表示部44に受信周波数や放送局名を表示したり、必要なデータをメモリ46に格納する。
【0019】
次に、本実施例のDAB受信装置におけるDRC値による音量制御の動作について説明する。車両などの移動体では、走行中にノイズが発生し、出力された音声が聞き取り難くなる場合がある。これを解消する1つの方法に、放送局からのオーディオ信号に付加されたDRC値を利用した音量制御がある。DRC値が大きくなるにつれ、音量または音圧(dB)の利得が大きくなるように制御され、ダイナミックレンジが圧縮される。好ましい実施例では、デコーダ24は、デコードされたオーディオ信号のヘッダ部に関する情報HDおよび付加データ部に含まれるDRC値をコントローラ40に提供する。コントローラ40は、CRC値の判定により伝送フレームのヘッダ部に誤りがあるか否かを検出し、誤りが検出された場合にはDRC機能をオフにし、誤りが検出されなかった場合にはDRC機能をオンにするための制御信号CNTを音量制御部25へ出力する。さらに、DRC機能をオンにする場合には、DRC値または補正されたDRC値を音量制御部25へ出力する。音量制御部25は、DRC機能をオフするとき、DRC値による音量の制御を行わず、デコードされたオーディオ信号をそのまま出力し、DRC機能をオンするとき、DRC値に基づき利得を調整したオーディオ信号を出力する。なお、他の好ましい態様では、コントローラ40は、フロントエンド14から電界強度信号S1、誤り訂正部23からの誤り訂正に関する信号S2を受け取り、これらの信号S1、S2に基づき音量制御部25によるDRC機能のオン/オフを制御することができる。
【0020】
コントローラ40による音量制御動作のフローを
図6に示す。先ず、放送局から送信されたオーディオ信号のフレームが信号処理部20で受信され(S101)、そのフレームに含まれるCRC値によりヘッダ部に誤りがあるか否かの検出がコントローラ40により実施される(S102)。コントローラ40により誤りが検出されると(S103)、コントローラ40は、DRC値にも誤りが生じている可能性が高いと判定し、DRC機能をオフにするような制御信号CNTを出力する(S104)。これにより、スピーカ34からの突然の爆音の発生が未然に防止される。DRC機能をオフにする場合、DRC値による音量制御を停止する他、オーディオ信号をミュートするようにしてもよい。
【0021】
他方、誤りが検出されなかった場合には(S103)、コントローラ40は、各サブバンドのSCF値を参照し(S105)、これらに基づき当該フレームの音量を推測する(S106)。音量の推測については後に詳しく述べる。次に、推測された音量から想定されるDRC値の許容範囲Wを設定し(S107)、次に、受信したフレームのDRC値と許容範囲Wとを比較し(S108)、DRC値が許容範囲W内にあるか否かを判定する(S109)。DRC値が許容範囲W内にあれば、受信したDRC値は正しいものとみなして、受信したDRC値をそのまま利用して音量を制御する(S110)。一方、DRC値が許容範囲W外である場合には、DRC値が誤っている可能性があると推測し、DRC値を許容範囲の上限値または下限値に補正し、補正されたDRC値を利用して音量を制御する(S111)。
【0022】
次に、フレーム内のオーディオデータの音量の推測について
図7のフローを参照して説明する。コントローラ40は、デコーダ24により伸長されたヘッダ部内のアロケーション部をチェックし、オーディオデータが存在するサブバンドを識別する(S201)。次に、コントローラ40は、データが存在すると識別されたサブバンドのSCF値を読出し(S202)、読み出されたSCF値を合算することでフレームの音量を推測する(S203)。もし、すべてのサブバンドにオーディオデータが存在するならば、32のサブバンドのSCF値が合算される。
【0023】
次に、コントローラ40は、推測された音量から想定されるDRC値の許容範囲Wを算出し、これを設定する(S204)。好ましい例では、コントローラ40は、推測された音量と許容範囲Wとの関係を規定したテーブルを保持し、当該テーブルを参照して許容範囲Wを設定する。また、他の好ましい例では、コントローラ40は、予め決められた数式に従い推測された音量から許容範囲Wの上限値と下限値とを算出するようにしてもよい。
【0024】
図8は、本実施例のDRC機能による音量制御を説明するグラフである。DRC機能がオンであるとき、受信したフレームのオーディオデータは、DRC値に応じてその音量または利得が大きくなるように制御される。図に示すように、放送局は、典型的に、音量レベルが大きければDRC値が小さく、音量レベルが小さければDRC値が大きくなるように、DRC値を付加する。これは、出力される音声の音量が小さくなれば、その音量は、ノイズレベルと同等もしくはそれよりも小さくなり、音声が聞き取り難くなるためである。
【0025】
本実施例では、DRC機能をオンするとき、推測された音量からDRC値の許容範囲Wを算出し、受信したDRC値が許容範囲W内に入れば、DRC値をそのまま利用して音量制御を行う。図の例では、許容範囲Wは、音量レベルに反比例するように設定され、つまり、推測された音量レベルが高いときその許容範囲Wは小さく、音量レベルが小さいとき、その許容範囲Wが大きくなる。コントローラ40は、DRC値が許容範囲W内にあれば、受信したDRC値をそのまま音量制御部25へ出力する。
【0026】
他方、受信したDRC値が許容範囲W内に入らない場合であって、DRC値が許容範囲Wの下限値よりも小さければ、コントローラ40は、受信したDRC値を下限値に補正し、また、DRC値が上限値よりも大きければ、受信したDRC値を上限値に補正し、補正されたDRC値を音量制御部25へ出力する。このように、許容範囲Wを逸脱する場合には、DRC値に一定の制限を課すことで、DRC機能がオンしている場合の誤動作を防止する。なお、DRC値の補正は、必ずしも上限値または下限値ではなく、許容範囲W内に入るものであれば、任意の値であってもよい。なお、本実施例による音量推測は、各サブバンド毎のSFC部に格納される音量値(振幅に関するデータ)の電圧値または電力値のいずれから算出するものであってもよい
【0027】
次に、本実施例の他の音量の推測方法について説明する。
図7に示す方法では、サブバンドの全てのSCF値を合算する例を示したが、音量の推測方法は、必ずしもこれに限られるものではない。第1の変形例としては、各サブバンドの中の最大SFC値からオーディオデータの音量を推測することも可能である。第2の変形例としては、各サブバンドのSCF値を合算し、次いで、平均値を算出し、当該平均値からオーディオデータの音量を推測するようにしてもよい。第3の変形例としては、あるレベル以上の振幅に関するデータを抽出し、抽出されたデータを合算することで、音量を推測するようにしてもよい。
【0028】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。DABで使用される音声圧縮符号化方式は、MPEG1/2オーディオレイヤ2に準拠するものであり、その圧縮音声フレーム(パケット)には、ヘッダ部にCRC値が付加されている。しかし、CRCによる判定にはアルゴリズム的な欠陥があり、それは、「データ部」に誤りがあり、かつ「送信されたCRC値」に誤りがある場合に関して、非常に低い確率であるが、誤り有りのデータ部から計算で求められるCRC値と「送信されたCRC値」(こちらも誤り有り)がたまたま一致してしまうと、エラー無しと判断され、「エラー有りを見落とす」可能性がある。
【0029】
上記した
図6に示すフローでは、MPEGヘッダ部のCRC判定を実施して、その結果が、一致なら、送信された音量(音圧)データは正しいと判断して、DRC値の推定処理を実施し、CRC判定が不一致なら、送信されたデータに誤りありと判断して、推定処理は実施しない。しかし、上記したようにCRC判定自体が希に間違うことがあり、その場合には、本発明の本来の目的であるDRCの誤動作防止が危うくなる。そこで、第2の実施例は、DRC機能の誤動作防止のアルゴリズムに、電界強度のパラメータによる受信状態の判定を加える。
【0030】
経験則上、CRCの判定に間違いが発生するのは、弱電界での受信を実施し、データにエラーが含まれることが多くなってからというのがほとんどである。その対策の1つは、弱電界の受信状況か否かを判断アルゴリズムに組み込むことである。
図9は、第2の実施例のDAB受信装置の音量制御フローを示している。第2の実施例では、ヘッダ部のCRC部のエラーチェックコードにより誤りが検出されず(S302)、かつ、フレーム受信時の電界強度に依存するパラメータによる受信状態の判定が良好であること(S303)の両方の条件を満たさなければ、当該フレームについてのDRC機能をオフにする。DRC機能がオフされれば、音量は小さくなると予想される。
【0031】
好ましい態様では、受信状態が良好か否かの判定は、電界強度に依存するパラメータとしきい値とを比較することにより行われ、当該パラメータがしきい値以上(または以下)であるとき、受信状態が良好であると判定される。ここでの「電界強度に依存するパラメータ」とは、RSSI(受信電界強度)や、DABの場合に搭載されているFEC(誤り訂正器)のビタビ(Vitarbi)デコーダの誤り訂正数等である。前者は、フロントエンド14からの信号S1、後者は、デコーダ24からの信号S2としてコントローラ40に供給される。例えば、受信電界強度がしきい値以上であれば、コントローラ40は、当該フレームの受信状態が良好であると判定する。また、誤り訂正数がしきい値以下であれば、コントローラ40は、当該フレームの受信状態が良好であると判定する。なお、ステップS302およびS303以外は、
図6に示すフローと同じであるため、説明を省略する。
【0032】
また、DABと同じ流れをくむ放送規格にDAB+/T−DMB等があり、DAB+/T−DMBの音声圧縮符号化方式は、HE−AAC−V2(AAC+)である。DABがFECにビタビデコーダのみ搭載しているのに対し、ビタビデコーダの他に、RS(リードソロモン)も搭載している。ビタビデコーダとリードソロモンの特徴で大きく異なるのは、ビタビデコーダは、誤り訂正を実施した結果のデータについて、エラーが残っているか否か(Error Freeか否か)を検出することできないが、リードソロモンは、エラーが残っているか否か(Error Freeか否か)を検出することができる。なお、CRCは誤り検知器であり、誤りの訂正をすることはできないが、リードソロモンは、自分の訂正能力上限までのデータ誤り有りのデータに対してエラー訂正を実施可能であり、その結果として、Error Freeを保証出来るという特徴を持っている。そのため、リードソロモンが搭載されたシステムにおいては、MPEGデータのCRC値でデータの完全性を判断するよりは、リードソロモンの結果(Error Freeか否か)から、DRC機能のオン/オフの切替を判定することが妥当であり、かつ容易である。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。