特許第5885572号(P5885572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5885572ろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管及び該アルミニウム合金製クラッド管を適用する熱交換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885572
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】ろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管及び該アルミニウム合金製クラッド管を適用する熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20160301BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20160301BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20160301BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160301BHJP
【FI】
   C22C21/00 E
   C22C21/00 J
   C22F1/04 Z
   F28F21/08 B
   F28F21/08 D
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-95211(P2012-95211)
(22)【出願日】2012年4月19日
(65)【公開番号】特開2013-221204(P2013-221204A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】大谷 良行
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩一
(72)【発明者】
【氏名】若栗 聡史
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−085290(JP,A)
【文献】 特開平10−046312(JP,A)
【文献】 特開平01−195257(JP,A)
【文献】 特開2001−340989(JP,A)
【文献】 特開平08−291353(JP,A)
【文献】 特開昭63−195239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる芯材と、前記芯材の外表面にクラッドされたアルミニウム合金からなる皮材とからなり、他の部材とろう付により接合されるろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管において、
前記芯材は、Mn:0.8〜1.8mass%、Cu:0.4〜0.8mass%、Si:0.2mass%以下を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなり、
前記皮材は、Zn:0.5〜1.5mass%を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなり、
更に、前記芯材の断面平均結晶粒径が150μm以下であることを特徴とするろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管。
【請求項2】
皮材の断面平均結晶粒径が50μm以上である、請求項1に記載のろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管を用いた接合体。
【請求項4】
内部に冷媒が流通する管状流路を備える熱交換器であって、前記管状流路の少なくとも一部に請求項3記載の接合体を用いる熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の部材とろう付によって接合されるアルミニウム合金製クラッド管に関する。特に家庭用空気調和機、業務用空気調和機、ヒートポンプ式給湯機等に用いられるクロスフィン型熱交換器の伝熱管に好適な、ろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭用空気調和機、業務用空気調和機、ヒートポンプ式給湯機等に一般的に用いられるクロスフィン型熱交換器(フィンアンドチューブ型熱交換器ともいう)においては、アルミニウム放熱フィンが接合された伝熱管が使用されている。このアルミニウム放熱フィン付き伝熱管の製造にあたっては、開口されたアルミニウム放熱フィンの挿通孔内に伝熱管を挿通し、伝熱管の径を拡管加工して伝熱管外周面をアルミニウム放熱フィンの挿通孔に密着させている。この拡管加工は、伝熱管の内部にその内径より大きい外径を有する拡管用マンドレルを押し込む工程が一般的である。そして、その後アルミニウム放熱フィンと一体となった伝熱管はヘアピン状に曲げ加工され、別途U字状に曲げた伝熱管(U字管)をトーチろう付けにより接合して熱交換器の主要部が完成される。以上のクロスフィン型熱交換器の製造工程は、非特許文献1に詳細が記載されている。
【0003】
クロスフィン型熱交換器に用いられる伝熱管には、これまで主に銅や銅合金等の銅系材料が使用されてきたが、材料費低減や軽量化の要求に対応するため、アルミニウムやアルミニウム合金等のアルミニウム系材料(以下、アルミニウム合金と呼ぶ。)を使用することが検討されている。
【0004】
アルミニウム合金をクロスフィン型熱交換器用の伝熱管に適用する際に留意すべき点としてその耐食性改善が挙げられる。アルミニウム合金は、銅系材料に比較して耐食性に劣ることから、伝熱管の耐久性・信頼性確保の観点から耐食性改善がまず要求される。そして、このアルミニウム合金製伝熱管の耐食性改善の方策として、クラッド管の適用が提案されている。例えば、特許文献1及び2では、伝熱管を2層構造とし、管の内側の層となる芯材にAl−Mn系合金を使用し、芯材の外表面層には皮材としてAl−Zn系合金をクラッドしたクラッド管が提案されている。このアルミニウム合金製クラッド管では、皮材が犠牲防食層として作用し、芯材の腐食を抑制する。
【0005】
しかし、熱交換器用の伝熱管としての耐食性の改善を追及するならば、クラッド管の素材(母材)の耐食性に加えて、ろう付け接合部の耐食性低下の可能性も考慮すべきである。上記の通り、熱交換器製造にあたっては、伝熱管を他の部材にろう付け接合することが多い。ろう付け接合部では、クラッド管が高温に加熱されると共にろう材との接触による組成変動が生じ耐食性が損なわれる可能性がある。上記従来のアルミニウム合金製クラッド管は、この接合部の耐食性確保に関して十分な考察がなされていない。
【0006】
また、上記したように、クロスフィン型熱交換器の伝熱管は、フィンを密着させた後にヘアピン曲げ加工される。従って、耐食性に加えて加工性も要求される。従来のアルミニウム合金製クラッド管は、この加工性についての検討が不十分であり、加工の際に曲げ部で破断する場合があった。尚、アルミニウム合金製クラッド管の加工性改善に関する先行技術として特許文献3では、皮材として、JIS3003にZnを添加した合金を用いることで拡管加工性の改善の検討が行われている。しかし、この先行技術は拡管加工性の改善に関するものであり、接合部の耐食性を考慮するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−85290号公報
【特許文献2】特開1998−46312号公報
【特許文献3】特開2008−267714号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「伝熱促進管の開発にたずさわって」伊藤正昭:伝熱、42、174(2003年)、p31−40、社団法人日本伝熱学会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ろう付け接合されるアルミニウム合金製クラッド管について、素材(母材)の耐食性と接合部の耐食性とを両立することができ、更にヘアピン曲げ等の加工に際して加工性に優れたものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アルミニウム合金製クラッド管に関して様々な検討を重ね、芯材のヘアピン曲げ加工性改善のために、その合金成分を特定の種類及び含有量にすることによって加工性に優れた材料が提供可能であることを見出した。そして、この芯材の合金成分を考慮しつつ、犠牲防食層となる皮材のZn分布を特定の範囲にすることによって、管素材の耐食性と接合部の耐食性とを両立することができるとして本発明を見出した。
【0011】
即ち、本発明は、アルミニウム合金からなる芯材と、前記芯材の外表面にクラッドされたアルミニウム合金からなる皮材とからなり、他の部材とろう付により接合されるろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管において、前記芯材は、Mn:0.8〜1.8mass%、Cu:0.4〜0.8mass%、Si:0.2mass%以下を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなり、前記皮材は、Zn:0.5〜1.5mass%を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなり、 更に、前記芯材の断面平均結晶粒径が150μm以下であることを特徴とするろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管である。
【0012】
以下、本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管を構成する芯材及び皮材について詳細に説明する。尚、本願明細書において合金組成を示す「%」とはmass%(質量%)を意味する。
【0013】
芯材は、上記の通り、Mn、Cu、Siの含有量を所定範囲とし残部アルミニウムからなるアルミニウム合金である。まず、Mnは、3000系合金(Al−Mn系合金)において強度を向上させる主要な添加元素であり、アルミニウム中に固溶しつつ一部析出して強度を付与する効果を有する。Mnは、その添加量が0.8%より少ないと伝熱管としての強度を不十分とする。一方、1.8%より多いと強度向上効果が飽和する上、粗大な金属間化合物の量が多くなり管の製造工程において割れ等の不具合が発生しやすくなる。従って、Mn添加量は0.8〜1.8%の範囲とする。更に好ましい範囲は1.0〜1.5%である。
【0014】
Cuは、アルミニウム中に固溶して強度をさらに向上させる効果を有し、かつ加工性を阻害しない元素である。さらに、Cuは電極電位を貴にする働きがある。ここで、本発明のようなZnを含むアルミニウム合金を皮材として備えるクラッド管では、芯材中にCuが存在することで、皮材と芯材との孔食電位差を大きくすることができ、芯材に対する犠牲防食作用を高めることができる。Cuは、その添加量が0.3%より少ないと強度が不十分であり拡管工程の際に溝潰れを防止できず、更に、孔食電位の貴化が不十分となり犠牲防食作用が低くなる。一方、Cuが0.8%より多いと管製造時の押出性、抽伸性が悪化するだけでなく、素材の耐食性が低下る。そこで、Cu添加量は0.3〜0.8%の範囲とする。更に好ましい範囲は0.4〜0.6%である。
【0015】
Siは、Al−Mn−Cu系合金に含有させるとAl−Mn−Si系又はAl−Mn−Si−Cu系の金属間化合物を形成し、強度を向上させる効果を有する。一方、これらの金属間化合物は再結晶を阻害する役割となり、再結晶時に結晶粒を粗大化させる傾向が生じる。そして、Siの添加量が0.2%を超えると、この結晶粒粗大化が生じやすくなり、後述する平均結晶粒径の上限(150μm)を超える可能性が生じ、ヘアピン曲げ加工の際の肌荒れ、破断の原因になる。そこで、Siの添加量は0.2%以下とする。好ましいSi濃度の範囲は0.1%以下である。尚、Si含有量の下限値については、0.02%とするのが好ましい。Siはアルミニウム合金中に不可避的に存在する元素であるため、0.02%未満に規制することは材料製造コストの増加という工業量産上の悪影響を考慮したものである。
【0016】
芯材となるアルミニウム合金についての不純物としては、Fe、Mg、Zn等があるが、これらはFe:0.6%以下、Mg:0.2%以下、Zn:0.3%以下であれば本発明の効果を阻害するものではない。
【0017】
また、Ti、Cr、Zrは鋳塊組織を均一微細化する効果があるので含有しても良い。但し、これらの含有量が0.2%を超えると巨大金属間化合物を形成したり押出性が低下したりするので、その含有量は0.2%以下であることが好ましい。この範囲であれば、本実施形態における伝熱管の効果を阻害するものではない。なおこの含有量は、0〜0.1%であってもよく、0〜0.05%であってもよい。
【0018】
以上説明した組成範囲を有するアルミニウム合金からなる芯材は、その断面組織において、平均結晶粒径150μm以下であることが必要である。芯材の結晶粒径を規定するのは、ヘアピン曲げ加工の際の肌荒れ、破断を防止するためである。また、粗大な結晶粒は応力腐食割れの原因ともなる。この芯材の結晶粒径の制御については、上記の通りSi含有量の規制(0.2%以下)に加えて、後述する焼鈍軟化処理までのリダクションを90%以上に設定することが必要である。尚、この平均結晶粒径の測定においては、断面組織観察を行い交線法により、管の厚さ方向及び円周方向の2方向に基づくのが好ましい。
【0019】
次に、本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管の皮材について説明する。皮材は、Zn含有量を規制したAl−Zn合金適用し、芯材よりも孔食電位を卑として犠牲防食作用を発揮させて芯材を防食し、管材の耐久寿命を向上させる作用を有する。
【0020】
ここで、Znは皮材となるアルミニウム合金の自然電極電位を下げて(卑にして)犠牲陽極として作用させて、伝熱管の耐食性を向上させる。その添加量が0.5%未満では芯材との電位差が不十分となり犠牲防食の効果が得られないことから、0.5%以上のZnが必要である。一方、1.5%を超えると、接合部でZnが濃縮し接合部の耐食性が劣化する。したがって、Zn添加量は0.5〜1.5%の範囲とする。更に好ましい範囲は0.7〜1.0%である。
【0021】
皮材となるアルミニウム合金の不純物としては、Si、Fe、Cu、Mn等があるが、これらはSi:0.5%以下、Fe:0.6%以下、Cu:0.2%以下、Mn:0.8%以下であれば本発明の効果を阻害するものではない。
【0022】
また、芯材の場合と同様、皮材となるアルミニウム合金Ti、Cr、Zrは鋳塊組織を均一微細化する効果があるので含有しても良いが0.2%を超えると巨大金属間化合物を形成したり押出性が低下したりするので、その含有量は0.2%以下であることが好ましい。この範囲であれば、本実施形態における伝熱管の効果を阻害するものではない。なおこの含有量は、0〜0.1%であってもよく、0〜0.05%であってもよい。
【0023】
皮材となるアルミニウム合金の断面組織に関しては、芯材と異なり必須の条件はないが、皮材は平均結晶粒径が50μm以上であるものが好ましい。皮材の平均結晶粒径が50μm未満と微細になると、ろう付接合時の溶融ろうによって皮材が著しく浸食され、局部的に減肉し、耐圧強度の低下を招くおそれがあるからである。
【0024】
皮材の厚さは、特に限定されるものではないが、クラッド管の全肉厚に対し、5〜30%とするのが好ましい。皮材は犠牲防食層という消耗領域であるからこれが5%未満となると、熱交換器として使用可能な有効期間が不十分となるからだである。一方、皮材の厚さをクラッド管の全肉厚に対し30%を超えて設定すると伝熱管の強度が低いものとなる。
【0025】
本発明の適用が好適な熱交換器用の伝熱管として、例えば、一般家庭向け空気調和機用の熱交換器のU字管が挙げられる。その寸法は、例えば、外径φ4.0〜φ9.54mm、底肉厚0.3〜0.6mm程度の小径薄肉管である。そこで、このような小径薄肉のクラッド管を製造する際には、各種のアルミニウム合金のうち、適度な強度を有すると共に小径薄肉管に加工するための加工性に比較的優れている合金(例えば、Al−Mn系のA3003合金(Al−1.0〜1.5%Mn−0.05〜0.20%Cu合金))をベースとして選択し、添加元素調整するのが好ましい。このようにすることで、結晶粒の微細化と強度を向上させヘアピン曲げ加工時の割れを防止できる。そして、犠牲防食層としてAl−Zn系合金の濃度を適正化することで好適なアルミニウム合金製クラッド管を得ることができる。
【0026】
次に、本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管の製造方法について説明する。本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管の製造方法としては、芯材となるアルミニウム合金(Al−Mn−Cu系合金)の円筒状ビレットに、皮材となるアルニム合金(Al−Zn系合金)の円筒状ビレットを組み合わせて2層中空ビレットを製造し、これを押出し加工して2層クラッド押出管を得て適宜に加工する工程が挙げられる。
【0027】
例えば、芯材となるアルミニウム合金の円筒状ビレットの外側に皮材となるアルミニウム合金の板材を円筒状に曲げ被せた組み合わせビレットを作製し、これを加熱炉により350〜600℃に加熱し均質化処理を行って2層中空ビレットを製造する。その後、間接押出機等によってビレットを押出し加工することで2層クラッド押出管を得る。次いで、この2層クラッド押出管を所定の外径、肉厚に抽伸加工することにより本発明に係る2層クラッド管を製造することができる。尚、前記抽伸加工は、生産性の高いドローブロック式連続抽伸機を使用することが望ましい。
【0028】
また、皮材となるアルミニウム合金の円筒状ビレットを350〜600℃に加熱し、その内側に芯材となるアルミニウム合金の円筒状の中空ビレットを焼嵌めして得られる2層中空ビレットを製造後、押出し加工して2層クラッド押出管を得ても良い。そして、その後同様に抽伸加工を施して本発明に係る2層クラッド管を製造することができる。
【0029】
更に、上記の2層クラッド押出管を経て製造する工程の他、シート材の溶接加工により本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管を製造することも可能である。この場合、芯材となるアルミニウム合金のシートの片面側に皮材となるアルミ合金のシートをクラッド圧延した2層クラッドシートと製造し、この2層クラッドシートを管状にロール成形してから突合せ面を溶接し2層クラッドの電縫管とすることで本発明に係る2層クラッド管を製造することができる。
【0030】
上記各方法により形成した2層クラッド管に対しては機械的特性の調整を目的として、焼鈍軟化処理を施す。その場合、焼鈍温度は300〜400℃、時間は2〜8時間とすることが工業上好ましい。そして、冷間抽伸加工から焼鈍軟化処理の段階より前のリダクションは90%以上に設定することが必要である。上記したように、本願発明では芯材の平均結晶粒径を150μm以下とすることが必要であり、これは芯材の組成に加えて最終焼鈍までの冷間加工によるリダクション(加工率)の影響を受けるからである。但し、焼鈍前のリダクションが99.995%を超えると皮材の結晶粒径が微細になりすぎてしまうおそれがある。
【発明の効果】
【0031】
本発明のろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管は、ヘアピン曲げ加工時に割れの発生を抑制することができ加工性に優れる。そして、管自体の耐食性と接合部の両方の耐食性に優れるという効果も有する。
【0032】
本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管は、熱交換器用の部材である伝熱管として好適であり、加工性に優れると共に他の部材と接合可能である。熱交換器は、その内部に冷媒を流通させる流路を備える機器であり、この流路に前記のようにして得られる接合体を適用することで耐食性、信頼性に優れた熱交換器を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態では、皮材及び芯材となるアルミニウム合金として、各種組成の合金を設定して2層クラッド管を製造し、その加工性、強度、耐食性を評価した。
【0034】
まず、連続鋳造により、皮材として表1に示す組成のアルミニウム合金の板材を鋳造した。その一方、芯材として表2に組成の示すアルミニウム合金の円筒状ビレットを用意した。そして、表3の組み合わせで組み合わせビレットを作製し、間接押出法により外径φ47mm、肉厚3.5mmの2層クラッド押出管を得た。次に、2層クラッド押出管について、ドローブロック式連続抽伸機により抽伸加工を施し、360℃で2時間の焼鈍軟化処理を施し、外径φ5〜10mm、肉厚0.1〜2mmのアルミニウム合金クラッド管を完成した。表2には、各アルミニウム合金クラッド管の抽伸加工から焼鈍軟化処理前までのリダクションを記載している。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
これらのクラッド管を100mmに2本切り出し、一方に後述するヘアピン曲げ加工を施した後もう一方の管とつき合わせ、Al−12%Siリングろうを用いて、トーチろう付により接合し、供試材を完成させた。そして、製造した各実施例及び比較例のアルミニウム合金製クラッド管について特性を評価するために、次の測定・試験を行った。
【0039】
(a)平均結晶粒径の測定
アルミニウム合金クラッド管について、ろう付の非熱影響部からミクロ組織観察用試験片を切出し、平均結晶粒径の測定を実施した。平均結晶粒径の測定は、交線法を用いて、管の厚さ方向及び円周方向の2方向で実施してその平均値を求めた。
【0040】
(b)ヘアピン曲げ加工性の評価
φ10mmのアルミニウム合金クラッド管を曲げピッチ16mmのヘアピン曲げ加工を行った。曲げ加工後の表面を目視で観察し、表面の割れ発生の有無の確認を行った。このとき、クラッド管を各10個用意し、下記の基準に従って評価した。○:10個全てに割れ発生がない。△:1〜9個のみ割れ発生がない。×:10個全てに割れ発生がある。
【0041】
(c)引張強度測定
アルミニウム合金クラッド管接合体の強度を測定するため、JIS Z2241に準じて引張試験を実施し、引張強度を測定した。ここで測定される強度は、管自身の強度と接合部の強度の低い方の値である。
【0042】
(d)耐食性の評価
耐食性を評価するために、アルミニウム合金クラッド管接合体についてJIS Z8681に準じCASS試験を1500時間行った。試験後、供試材の表面腐食生成物を除去して、管の腐食状況を観察した。この観察は、クラッド管の腐食と接合部の双方について行った。このとき、それぞれについてアルミニウム合金クラッド管接合体を各10個用意し、下記の基準に従って評価した。クラッド管直線部、クラッド管曲げ部の腐食、○:10個全てに貫通孔がない。△:2〜9個のみ貫通孔がない。×:9〜10個に貫通孔がある。接合部の腐食、○:10個全てに優先腐食が発生しない。△:2〜9個のみ優先腐食が発生しない。×:9〜10個に優先腐食が発生。
【0043】
以上の各種測定結果、評価結果について得られた結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表4に示す評価結果について説明する。実施例であるC1〜C16は芯材、皮材であるアルミニウム合金の組成が本発明の範囲内にあるものであるが、ヘアピン曲げ加工性、接合体の強度及び耐食性の全てにおいて優れている。
【0046】
そして、比較例の結果を考慮しつつ詳細に検討すると、まず、芯材となるアルミニウム合金の組成についてみると、本発明規定の成分範囲に対し、C19はMnが不足し、C22はCuが不足する。そのため、クラッド管の強度が低くなっている。また、C20はMnが過剰であり、C21はCuが過剰となっている。そのため、加工性が悪化し抽伸加工時に抽伸切れが発生し、管を製造することが出来なかった。
【0047】
また、皮材となるアルミニウム合金の組成についてみると、C17は本発明規定の成分範囲に対しZn濃度が低く、クラッド管に貫通孔が発生した。また、C18はZn濃度が高いため接合部の優先腐食が発生した。
【0048】
更に、芯材の結晶粒径についてみると、C23は芯材のSi濃度が高く、平均結晶粒径が150μmを超えている。そのため、ヘアピン曲げ加工時に割れが発生した。さらに、この割れ部分を除去し耐食性を評価したところ応力腐食割れによる貫通が発生したため耐食性も劣っていた。
【0049】
尚、C24は、抽伸加工から焼鈍までリダクションが少ないため、平均結晶粒径が150μmを超えており、ヘアピン曲げ加工時に割れが発生した。更に、この割れ部分を除去し耐食性を評価したところ、応力腐食割れによる貫通が発生したため耐食性も劣っていた。
【0050】
以上の検討から、耐食性と加工性の双方の確保のためには、芯材と皮材の双方について構成するアルミニウム合金の組成を厳密に規定する必要があるといえる。尚、C16は、芯材の結晶粒が微細でヘアピン曲げ加工時に割れも発生せず耐食性も良好であるが、Si量が極端に低いため、これを製造するためには製造コストが高くなることが懸念される。但し、Si量をここまで低減して結晶粒を微細にしなくとも十分な加工性、強度を得ることができることが他の実施例から確認できるので、芯材の組成設定については本発明の規定範囲内であればコスト等に応じて自由に制御できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管は、加工性が優れ伝熱管製造の際のヘアピン曲げ加工における割れの発生を抑制されている。また、耐食性も良好であり、接合部においても耐食性が確保されている。本発明は、家庭用・業務用の空気調和機等に用いられるクロスフィン型熱交換器の伝熱管に好適であり、これらの冷媒流路の寿命・信頼性確保を図ることができる。