【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アルミニウム合金製クラッド管に関して様々な検討を重ね、芯材のヘアピン曲げ加工性改善のために、その合金成分を特定の種類及び含有量にすることによって加工性に優れた材料が提供可能であることを見出した。そして、この芯材の合金成分を考慮しつつ、犠牲防食層となる皮材のZn分布を特定の範囲にすることによって、管素材の耐食性と接合部の耐食性とを両立することができるとして本発明を見出した。
【0011】
即ち、本発明は、アルミニウム合金からなる芯材と、前記芯材の外表面にクラッドされたアルミニウム合金からなる皮材とからなり、他の部材とろう付により接合されるろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管において、前記芯材は、Mn:0.8〜1.8mass%、Cu:0.4〜0.8mass%、Si:0.2mass%以下を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなり、前記皮材は、Zn:0.5〜1.5mass%を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金よりなり、 更に、前記芯材の断面平均結晶粒径が150μm以下であることを特徴とするろう付接合用アルミニウム合金製クラッド管である。
【0012】
以下、本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管を構成する芯材及び皮材について詳細に説明する。尚、本願明細書において合金組成を示す「%」とはmass%(質量%)を意味する。
【0013】
芯材は、上記の通り、Mn、Cu、Siの含有量を所定範囲とし残部アルミニウムからなるアルミニウム合金である。まず、Mnは、3000系合金(Al−Mn系合金)において強度を向上させる主要な添加元素であり、アルミニウム中に固溶しつつ一部析出して強度を付与する効果を有する。Mnは、その添加量が0.8%より少ないと伝熱管としての強度を不十分とする。一方、1.8%より多いと強度向上効果が飽和する上、粗大な金属間化合物の量が多くなり管の製造工程において割れ等の不具合が発生しやすくなる。従って、Mn添加量は0.8〜1.8%の範囲とする。更に好ましい範囲は1.0〜1.5%である。
【0014】
Cuは、アルミニウム中に固溶して強度をさらに向上させる効果を有し、かつ加工性を阻害しない元素である。さらに、Cuは電極電位を貴にする働きがある。ここで、本発明のようなZnを含むアルミニウム合金を皮材として備えるクラッド管では、芯材中にCuが存在することで、皮材と芯材との孔食電位差を大きくすることができ、芯材に対する犠牲防食作用を高めることができる。Cuは、その添加量が0.3%より少ないと強度が不十分であり拡管工程の際に溝潰れを防止できず、更に、孔食電位の貴化が不十分となり犠牲防食作用が低くなる。一方、Cuが0.8%より多いと管製造時の押出性、抽伸性が悪化するだけでなく、素材の耐食性が低下る。そこで、Cu添加量は0.3〜0.8%の範囲とする。更に好ましい範囲は0.4〜0.6%である。
【0015】
Siは、Al−Mn−Cu系合金に含有させるとAl−Mn−Si系又はAl−Mn−Si−Cu系の金属間化合物を形成し、強度を向上させる効果を有する。一方、これらの金属間化合物は再結晶を阻害する役割となり、再結晶時に結晶粒を粗大化させる傾向が生じる。そして、Siの添加量が0.2%を超えると、この結晶粒粗大化が生じやすくなり、後述する平均結晶粒径の上限(150μm)を超える可能性が生じ、ヘアピン曲げ加工の際の肌荒れ、破断の原因になる。そこで、Siの添加量は0.2%以下とする。好ましいSi濃度の範囲は0.1%以下である。尚、Si含有量の下限値については、0.02%とするのが好ましい。Siはアルミニウム合金中に不可避的に存在する元素であるため、0.02%未満に規制することは材料製造コストの増加という工業量産上の悪影響を考慮したものである。
【0016】
芯材となるアルミニウム合金についての不純物としては、Fe、Mg、Zn等があるが、これらはFe:0.6%以下、Mg:0.2%以下、Zn:0.3%以下であれば本発明の効果を阻害するものではない。
【0017】
また、Ti、Cr、Zrは鋳塊組織を均一微細化する効果があるので含有しても良い。但し、これらの含有量が0.2%を超えると巨大金属間化合物を形成したり押出性が低下したりするので、その含有量は0.2%以下であることが好ましい。この範囲であれば、本実施形態における伝熱管の効果を阻害するものではない。なおこの含有量は、0〜0.1%であってもよく、0〜0.05%であってもよい。
【0018】
以上説明した組成範囲を有するアルミニウム合金からなる芯材は、その断面組織において、平均結晶粒径150μm以下であることが必要である。芯材の結晶粒径を規定するのは、ヘアピン曲げ加工の際の肌荒れ、破断を防止するためである。また、粗大な結晶粒は応力腐食割れの原因ともなる。この芯材の結晶粒径の制御については、上記の通りSi含有量の規制(0.2%以下)に加えて、後述する焼鈍軟化処理までのリダクションを90%以上に設定することが必要である。尚、この平均結晶粒径の測定においては、断面組織観察を行い交線法により、管の厚さ方向及び円周方向の2方向に基づくのが好ましい。
【0019】
次に、本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管の皮材について説明する。皮材は、Zn含有量を規制したAl−Zn合金適用し、芯材よりも孔食電位を卑として犠牲防食作用を発揮させて芯材を防食し、管材の耐久寿命を向上させる作用を有する。
【0020】
ここで、Znは皮材となるアルミニウム合金の自然電極電位を下げて(卑にして)犠牲陽極として作用させて、伝熱管の耐食性を向上させる。その添加量が0.5%未満では芯材との電位差が不十分となり犠牲防食の効果が得られないことから、0.5%以上のZnが必要である。一方、1.5%を超えると、接合部でZnが濃縮し接合部の耐食性が劣化する。したがって、Zn添加量は0.5〜1.5%の範囲とする。更に好ましい範囲は0.7〜1.0%である。
【0021】
皮材となるアルミニウム合金の不純物としては、Si、Fe、Cu、Mn等があるが、これらはSi:0.5%以下、Fe:0.6%以下、Cu:0.2%以下、Mn:0.8%以下であれば本発明の効果を阻害するものではない。
【0022】
また、芯材の場合と同様、皮材となるアルミニウム合金Ti、Cr、Zrは鋳塊組織を均一微細化する効果があるので含有しても良いが0.2%を超えると巨大金属間化合物を形成したり押出性が低下したりするので、その含有量は0.2%以下であることが好ましい。この範囲であれば、本実施形態における伝熱管の効果を阻害するものではない。なおこの含有量は、0〜0.1%であってもよく、0〜0.05%であってもよい。
【0023】
皮材となるアルミニウム合金の断面組織に関しては、芯材と異なり必須の条件はないが、皮材は平均結晶粒径が50μm以上であるものが好ましい。皮材の平均結晶粒径が50μm未満と微細になると、ろう付接合時の溶融ろうによって皮材が著しく浸食され、局部的に減肉し、耐圧強度の低下を招くおそれがあるからである。
【0024】
皮材の厚さは、特に限定されるものではないが、クラッド管の全肉厚に対し、5〜30%とするのが好ましい。皮材は犠牲防食層という消耗領域であるからこれが5%未満となると、熱交換器として使用可能な有効期間が不十分となるからだである。一方、皮材の厚さをクラッド管の全肉厚に対し30%を超えて設定すると伝熱管の強度が低いものとなる。
【0025】
本発明の適用が好適な熱交換器用の伝熱管として、例えば、一般家庭向け空気調和機用の熱交換器のU字管が挙げられる。その寸法は、例えば、外径φ4.0〜φ9.54mm、底肉厚0.3〜0.6mm程度の小径薄肉管である。そこで、このような小径薄肉のクラッド管を製造する際には、各種のアルミニウム合金のうち、適度な強度を有すると共に小径薄肉管に加工するための加工性に比較的優れている合金(例えば、Al−Mn系のA3003合金(Al−1.0〜1.5%Mn−0.05〜0.20%Cu合金))をベースとして選択し、添加元素調整するのが好ましい。このようにすることで、結晶粒の微細化と強度を向上させヘアピン曲げ加工時の割れを防止できる。そして、犠牲防食層としてAl−Zn系合金の濃度を適正化することで好適なアルミニウム合金製クラッド管を得ることができる。
【0026】
次に、本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管の製造方法について説明する。本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管の製造方法としては、芯材となるアルミニウム合金(Al−Mn−Cu系合金)の円筒状ビレットに、皮材となるアルニム合金(Al−Zn系合金)の円筒状ビレットを組み合わせて2層中空ビレットを製造し、これを押出し加工して2層クラッド押出管を得て適宜に加工する工程が挙げられる。
【0027】
例えば、芯材となるアルミニウム合金の円筒状ビレットの外側に皮材となるアルミニウム合金の板材を円筒状に曲げ被せた組み合わせビレットを作製し、これを加熱炉により350〜600℃に加熱し均質化処理を行って2層中空ビレットを製造する。その後、間接押出機等によってビレットを押出し加工することで2層クラッド押出管を得る。次いで、この2層クラッド押出管を所定の外径、肉厚に抽伸加工することにより本発明に係る2層クラッド管を製造することができる。尚、前記抽伸加工は、生産性の高いドローブロック式連続抽伸機を使用することが望ましい。
【0028】
また、皮材となるアルミニウム合金の円筒状ビレットを350〜600℃に加熱し、その内側に芯材となるアルミニウム合金の円筒状の中空ビレットを焼嵌めして得られる2層中空ビレットを製造後、押出し加工して2層クラッド押出管を得ても良い。そして、その後同様に抽伸加工を施して本発明に係る2層クラッド管を製造することができる。
【0029】
更に、上記の2層クラッド押出管を経て製造する工程の他、シート材の溶接加工により本発明に係るアルミニウム合金製クラッド管を製造することも可能である。この場合、芯材となるアルミニウム合金のシートの片面側に皮材となるアルミ合金のシートをクラッド圧延した2層クラッドシートと製造し、この2層クラッドシートを管状にロール成形してから突合せ面を溶接し2層クラッドの電縫管とすることで本発明に係る2層クラッド管を製造することができる。
【0030】
上記各方法により形成した2層クラッド管に対しては機械的特性の調整を目的として、焼鈍軟化処理を施す。その場合、焼鈍温度は300〜400℃、時間は2〜8時間とすることが工業上好ましい。そして、冷間抽伸加工から焼鈍軟化処理の段階より前のリダクションは90%以上に設定することが必要である。上記したように、本願発明では芯材の平均結晶粒径を150μm以下とすることが必要であり、これは芯材の組成に加えて最終焼鈍までの冷間加工によるリダクション(加工率)の影響を受けるからである。但し、焼鈍前のリダクションが99.995%を超えると皮材の結晶粒径が微細になりすぎてしまうおそれがある。