(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反応媒体中で、ハイドロキノンジアルカリ金属塩と二酸化炭素とを、フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩の存在下で反応させる工程を含む、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法。
ハイドロキノンジアルカリ金属塩が、ハイドロキノンジカリウム塩またはハイドロキノンジナトリウム塩である、請求項1に記載の2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法。
ハイドロキノンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を、ハイドロキノンジアルカリ金属塩1モル当たり、フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩0.1〜10モルの存在下で行う、請求項1または2に記載の2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法。
フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩が、β−ナフトールカリウム、β−ナフトールナトリウム、フェノールカリウムおよびフェノールナトリウムからなる群から選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法。
ハイドロキノンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を、二酸化炭素圧力0〜10MPa、温度150〜300℃の条件下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法。
反応媒体が、軽油、灯油、ガソリン、潤滑油、白油、アルキルベンゼン、アルキルナフタリン、水素化トリフェニル、ジフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテルおよびiso−オクチルアルコールからなる群から選択される1種以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法。
【背景技術】
【0002】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸(以下、DHTAと称する場合もある)は、ヒドロキシ基を2個有する芳香族ジカルボン酸であり、ポリエステル、ポリアミド、アラミド等の合成樹脂のモノマー、蛍光剤や医薬品中間体などの原料として有用であり、その需要は年々高まっている。
【0003】
従来、フェノール性水酸基を有する化合物にカルボキシル基を導入する方法としては、コルベシュミット反応が知られている。コルベシュミット反応としては、例えば、アルカリ金属のフェノキシド(フェノールのアルカリ金属塩)に高温・高圧で二酸化炭素を接触させてオルト位をカルボキシル化させ、酸による中和後にサリチル酸を得る化学反応が挙げられる。
【0004】
DHTAの製造に関しても、このコルベシュミット反応によって製造する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、ハイドロキノンをジカルボキシル化してDHTAを製造する場合、非常に高圧を必要とする上、この反応によっては、低い転化率及び低い収率でしか目的物が得られないものであった。
【0005】
また、比較的温和な条件でカルボキシル基を導入する方法として、アルカリ金属炭酸塩の存在下で二価フェノールを二酸化炭素と接触させ、アルカリ金属ギ酸塩の存在下でギ酸塩の融点より高い温度で反応させる方法が提案されている(特許文献2)。
【0006】
この方法によると、ある程度の収率でDHTAが得られるものの、高価なアルカリ金属ギ酸塩を多量に使用するとともに、一酸化酸素の発生を伴うことから、安全性の面から工業的に有利な製法とは言えないものであった。また、反応終了後の冷却時に多量のアルカリ金属ギ酸塩が固化するため、攪拌不良を起こすおそれもあった。
【0007】
さらに、この方法においては、反応終了後に水を添加してアルカリ金属ギ酸塩を結晶化し、回収したアルカリ金属ギ酸塩を再利用することが記載されている。しかしながら、水に溶解したアルカリ金属ギ酸塩やその中和物であるギ酸を回収するのは極めて困難であり、経済性に劣るとともに、アルカリ金属ギ酸塩が残存する廃水の処理は環境的にも負荷のかかるものであった。
【0008】
特許文献2の方法を改良するために、ジカルボキシル化反応の後、鉱酸で処理する製造方法も提案されているが、やはり高価なアルカリ金属ギ酸塩を使用するものであり、上記問題点も解消するに至らず、有利な製法とは言えないものであった(特許文献3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法においては、ハイドロキノンジアルカリ金属塩を二酸化炭素と反応させる、いわゆるコルベシュミット反応が用いられる。本発明において反応は通常撹拌下で行われる。
【0015】
本発明において使用される反応装置としては、通常のコルベシュミット反応において使用される反応装置であればよく、例えば、撹拌機を備え、高圧反応に対応可能なオートクレーブが好適に使用できる。さらに、温度制御機能を有し、炭酸ガスや不活性ガスの導入管、温度計支持管、圧力計および排気管などを有するものがより好ましい。
【0016】
本発明において使用されるハイドロキノンジアルカリ金属塩としては、ハイドロキノンジリチウム塩、ハイドロキノンジナトリウム塩、ハイドロキノンジカリウム塩、ハイドロキノンジルビジウム塩、ハイドロキノンジセシウム塩が挙げられるが、入手可能性、コストおよび反応性の点から、ハイドロキノンジナトリウム塩およびハイドロキノンジカリウム塩が好ましく、さらに反応性により優れる点から、ハイドロキノンジカリウム塩がより好ましい。
【0017】
ハイドロキノンジアルカリ金属塩は、ハイドロキノンを、アルカリ金属水酸化物や、アルカリ金属t−ブトキシド、アルカリ金属メトキシド、アルカリ金属エトキシド、アルカリ金属i−プロポキシドなどのアルカリ金属アルコキシドを用いて、ジアルカリ金属塩とすることにより得ることができる。特に、経済性を考慮するとハイドロキノンをアルカリ金属水酸化物を用いてジアルカリ金属塩とするのが好ましい。
【0018】
ハイドロキノンジカリウム塩は、ハイドロキノンを、水酸化カリウムや、t−ブトキシカリウム、メトキシカリウム、エトキシカリウム、i−プロポキシカリウムなどのカリウムアルコキシドを用いて、ジカリウム塩とすることにより得ることができる。特に、経済性を考慮するとハイドロキノンを水酸化カリウムを用いてジカリウム塩とするのが好ましい。
【0019】
ハイドロキノンジナトリウム塩も、ハイドロキノンジカリウム塩と同様に、ハイドロキノンを、水酸化ナトリウムや、t−ブトキシナトリウム、メトキシナトリウム、エトキシナトリウム、i−プロポキシナトリウムなどのナトリウムアルコキシドを用いて、ジナトリウム塩とすることにより得ることができ、経済性を考慮するとハイドロキノンを水酸化ナトリウムを用いてジナトリウム塩とするのが好ましい。
【0020】
反応に供するハイドロキノンジアルカリ金属塩、および、反応系に存在させるフェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩は、十分脱水されていることが必要であり、脱水が不完全であると反応収率が低下する。脱水は、例えば、エバポレーターなどの装置を用い、真空状態で加熱することにより行われ、水分量が1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下となるまで脱水するのがよい。
【0021】
本発明は、ハイドロキノンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応に際し、フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩の存在下で行うことを特徴とする。
【0022】
フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩の入手方法は特に限定されないが、市販の試薬を用いてもよいし、フェノールまたはナフトールを水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどを用いてカリウム塩やナトリウム塩などのアルカリ金属塩とすることにより得てもよい。尚、フェノールおよびナフトールは市販源から容易に入手できる。
【0023】
フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩を用いることにより、150〜300℃・0〜10MPa程度の比較的低温・低圧条件下においても高収率で、DHTAのジアルカリ金属塩を得ることができ、これを酸析などの常套の酸への変換手段に供することにより、目的物であるDHTAを高収率で得ることができる。
【0024】
また、フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩は、反応に際し溶融させる必要がないため、反応終了後の冷却によっても固化することがなく、後処理が容易であるとともに反応装置に損傷を与えることも回避できる。
【0025】
さらに、フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩を酸で中和したフェノールまたはナフトールは、キシレン等の有機溶剤による抽出が可能であり、容易に回収して再利用することができるとともに、廃水処理に際しても環境的負荷を軽減し得るものである。
【0026】
フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩は、ハイドロキノンジアルカリ金属塩1モル当たり、0.1〜10モル、好ましくは0.3〜5モル、より好ましくは、0.5〜4.5モル、さらに好ましくは1〜3モル存在させるのがよい。
【0027】
ハイドロキノンジアルカリ金属塩1モルに対して、フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩の添加量が0.1モルを下回ると反応が十分に進行せず、フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩の添加量が10モルを上回ると収率は頭打ちとなり、コスト的に不利である。
【0028】
本発明において、反応系に存在させるフェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩の具体例としては、例えば、β−ナフトールカリウム、β−ナフトールナトリウム、α−ナフトールカリウム、α−ナフトールナトリウム、フェノールカリウムおよびフェノールナトリウムが挙げられ、なかでも、入手可能性、コストおよび反応性の点で、β−ナフトールカリウム、β−ナフトールナトリウム、フェノールカリウムおよびフェノールナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用でき、特に収率に優れることから、β−ナフトールカリウムがさらに好適に使用できる。
【0029】
これらのフェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩は、単独で用いても、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明において、ハイドロキノンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応に用いる反応媒体は、反応温度および反応圧力において液体であり、ハイドロキノンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応に対して不活性なものである。好ましくは、反応媒体は大気圧での沸点が220℃以上のものである。
【0031】
反応媒体としては、脂肪族、脂環族もしくは芳香族の炭化水素またはこれらの残基を有するエーテル化合物が好適に使用され、例えば、軽油、灯油、ガソリン、潤滑油、白油、アルキルベンゼン、アルキルナフタリン、水素化トリフェニル、ジフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、iso−オクチルアルコールなどの高沸点高級アルコールなど、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
反応媒体の使用量は、ハイドロキノンジアルカリ金属塩に対して0.5倍重量以上、好ましくは1〜15倍重量、より好ましくは6〜12倍重量であるのがよい。
【0033】
ハイドロキノンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応温度は、フェノールまたはナフトールのアルカリ金属塩を存在させることによって、150〜300℃、好ましくは200〜285℃、より好ましくは230〜280℃と低温度下で行うことができる。150℃より低温では、反応が進行せず、300℃より高温では、反応が頭打ちとなりエネルギーが損失するとともに、副反応が生じるおそれがある。
【0034】
ハイドロキノンジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応時の圧力は、0〜10MPa、好ましくは0〜5MPa、より好ましくは0〜1MPaの二酸化炭素圧力下で行うのがよい。反応時の圧力が10MPaを超えると高圧に耐える装置が必要となるなど、工業的に有利ではない。
【0035】
反応時間は数分ないし15時間、好ましくは10分〜10時間、より好ましくは20分〜10時間、特に好ましくは1〜5時間の間で適宜選択することができる。
【0036】
かかる反応により、DHTAのジアルカリ金属塩が低温・低圧条件下でも高収率にて得られ、得られたDHTAのジアルカリ金属塩を酸析などの常套の酸への変換手段に供することにより、高収率で目的のDHTAを得ることができる。
【0037】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1
120mLのオートクレーブ中に、ハイドロキノンジカリウム塩4.00g(21.5ミリモル)、β−ナフトールカリウム7.83g(43.0ミリモル)、および軽油40gを入れて密閉し、窒素置換した後、撹拌した。
【0039】
次いで、混合物を250℃まで昇温した後、窒素を炭酸ガスに置き換えて撹拌しながら0.9MPaで3時間反応させた。反応終了後冷却(<120℃)して開封し、10.4重量%の塩酸30gを加え、密閉して窒素置換した後、15分間撹拌した。
【0040】
その後、酸析した沈殿物を吸引濾過によって回収し、これをメタノール約250gに溶解させた。濾液は、撹拌させながら70〜80℃まで加熱したものを、水層と媒体層に分けて回収した。得られたメタノール溶液と水層と媒体層を、高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、仕込んだハイドロキノンジカリウム塩からの転化率は、ベンゾキノン0.39%、2,5−ジヒドロキシ安息香酸7.33%、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸59.46%であり、ハイドロキノンは23.95%残存した。反応終了時に測定した一酸化炭素濃度は22ppmであった。結果を表1に示す。
【0041】
尚、反応終了後、オートクレーブの底部に少量の内容物の付着が確認されたが、容易に除去できるものであった。これらの少量の内容物の付着は撹拌機等の反応器機に損傷を与えるものではなかった。
【0042】
比較例1
【0043】
β−ナフトールカリウムを加えないこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0044】
分析した結果、仕込んだハイドロキノンジカリウム塩からの転化率は、ベンゾキノン0.05%、2,5−ジヒドロキシ安息香酸1.77%、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸3.07%であり、ハイドロキノンは92.37%残存した。結果を表1に示す。
【0045】
実施例2
β−ナフトールカリウムに代えて、フェノールカリウム5.68g(43.0ミリモル)を加えた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0046】
尚、反応終了後、オートクレーブの底部に少量の内容物の付着が確認されたが、容易に除去できるものであった。これらの少量の内容物の付着は撹拌機等の反応器機に損傷を与えるものではなかった。
【0047】
実施例3
β−ナフトールカリウムに代えて、β−ナフトールナトリウム7.14g(43.0ミリモル)を加えた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0048】
尚、反応終了後、オートクレーブの底部に少量の内容物の付着が確認されたが、容易に除去できるものであった。これらの少量の内容物の付着は撹拌機等の反応器機に損傷を与えるものではなかった。
【0049】
実施例4
β−ナフトールカリウムに代えて、フェノールナトリウム4.99g(43.0ミリモル)を加えた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0050】
尚、反応終了後、オートクレーブの底部に少量の内容物の付着が確認されたが、容易に除去できるものであった。これらの少量の内容物の付着は撹拌機等の反応器機に損傷を与えるものではなかった。
【0051】
比較例2
β−ナフトールカリウムに代えて、ギ酸カリウム3.61g(42.9ミリモル)を加えた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。反応終了時に測定した一酸化炭素濃度は500ppm(限界値)を超えるものであった。
【0052】
尚、反応終了後の内容物はオートクレーブの底部に強固に付着しており、容易に除去できるものではなく、撹拌機等に損傷を与えるものであった。
【0053】
【表1】
HQ:ハイドロキノン
BQ:ベンゾキノン
DHBA:2,5−ジヒドロキシ安息香酸
DHTA:2,5−ジヒドロキシテレフタル酸
当量:ハイドロキノンジカリウム塩のモルに対するβ−ナフトール、フェノールまたはギ酸のカリウム塩のモル比
N.D.:検出されず
【0054】
実施例5
ハイドロキノンジカリウム塩に代えて、ハイドロキノンジナトリウム塩4.00g(26.0ミリモル)、β−ナフトールカリウムの添加量を9.47g(52.0ミリモル)に変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0055】
分析した結果、仕込んだハイドロキノンジナトリウム塩からの転化率は、ベンゾキノン0.04%、2,5−ジヒドロキシ安息香酸9.18%、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸18.14%であり、ハイドロキノンは13.61%残存した。
【0056】
尚、反応終了後、オートクレーブの底部に少量の内容物の付着が確認されたが、容易に除去できるものであった。これらの少量の内容物の付着は撹拌機等の反応器機に損傷を与えるものではなかった。
【0057】
実施例6〜8
β−ナフトールカリウムを表2に示すモル比にて用いる以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例9
200mLの4つ口フラスコ中に、ハイドロキノンジカリウム塩4.00g(21.5ミリモル)、β−ナフトールカリウム7.83g(4ミリモル)、及び軽油40gを入れて密閉し、窒素を約100mL/minで導入した状態で撹拌した。
【0060】
次いで、混合物を250℃まで昇温した後、炭酸ガスを導入して3時間反応させた。反応終了後冷却(<120℃)して開封し、10.4重量%の塩酸30gを加え、窒素を導入した状態で15分間撹拌した。以降の工程及び分析は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0061】
実施例10〜11
反応圧力を表3に示す圧力に変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例12〜14
反応温度を表4に示す温度にて行う以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
実施例15〜17
反応時間を表5に示す時間にて行う以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表5に示す。
【0066】
【表5】