特許第5885592号(P5885592)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5885592トロリ線の静高さの推定方法及び推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885592
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】トロリ線の静高さの推定方法及び推定装置
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/28 20060101AFI20160301BHJP
【FI】
   B60M1/28 R
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-122618(P2012-122618)
(22)【出願日】2012年5月30日
(65)【公開番号】特開2013-244952(P2013-244952A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2014年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】池田 充
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−111366(JP,A)
【文献】 特開2006−145264(JP,A)
【文献】 特開2001−030806(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01710117(EP,A1)
【文献】 特開平06−099765(JP,A)
【文献】 特開2001−270348(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0581987(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/00 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気鉄道を走行する車両のパンタグラフの高さを測定した結果に基づいて、該鉄道の線路に沿ったトロリ線摺動面の高さの分布を推定する方法であって、
ア)前記車両走行時において前記パンタグラフのすり板上面の動的な高さ(パンタグラフ動高さ)hdを、前記線路に沿って測定し、
イ)前記車両走行時における前記パンタグラフと前記トロリ線との接触力Fcを測定し、
ウ)前記車両の走行速度を加味し、径間で平均した前記トロリ線の等価ばね定数
barを得ておいて、前記パンタグラフによって前記トロリ線が押し上げられている寸法(動押上量)をFc/kbarと推定し、
エ)前記パンタグラフが押し上げていない状態における前記トロリ線の摺動面の前記鉄道軌道からの高さである静高さHsを、前記車両のパンタグラフを除いた高さHt、及び、上記各種値から、
Hs=Ht+hd−Fc/kbar
と推定することを特徴とするトロリ線の静高さの推定方法。
【請求項2】
測定されたパンタグラフ動高さ(hd)を、ローパスフィルタを通過させて高周波成分を除去し、
一方で、測定されたパンタグラフとトロリ線との接触力(Fc)を、ローパスフィルタを通過させて高周波成分を除去した後で、前記車両の走行速度を加味した前記トロリ線の等価ばね定数(kbar)で除した値(Fc/kbar)を、前記パンタグラフによって前記トロリ線が押し上げられている寸法(動押上量hx)とし、
前記高周波成分を除去したパンタグラフ高さ(hd)から前記動押上量(hx)を減じて、車上での前記パンタグラフの静高さ(hs=hd−hx=hd−Fc/kbar)とし、
前記パンタグラフが押し上げていない状態における前記トロリ線の摺動面の前記鉄道軌道からの高さである静高さ(Hs)を、前記車両のパンタグラフを除いた高さ(Ht)に、車上でのパンタグラフ静高さ(hs)を加えた値とすることを特徴とする請求項1に記載のトロリ線の静高さの推定方法。
【請求項3】
前記ローパスフィルタが、径間周期に対応する周波数の2〜3倍の所定の周波数以上の周波数をカットするものであることを特徴とする請求項2に記載のトロリ線の静高さ推定方法。
【請求項4】
電気鉄道を走行する車両のパンタグラフの高さを測定した結果に基づいて、該鉄道の線路に沿ったトロリ線摺動面の高さの分布を推定する装置であって、
前記車両走行時において前記パンタグラフのすり板上面の動的な高さ(パンタグラフ動高さ、hd)を、前記線路に沿って測定する装置と、
前記車両走行時における前記パンタグラフと前記トロリ線との接触力(Fc)を測定する装置と、
前記パンタグラフ動高さ測定装置及び前記接触力測定装置で測定された値が入力されて処理される制御部と、を有し、
前記制御部において、
前記車両の走行速度を加味し、径間で平均した前記トロリ線の等価ばね定数
(kbar)と、前記接触力(Fc)とから、前記パンタグラフによって前記トロリ線が押し上げられている寸法(動押上量)をFc/kbarとし、
前記パンタグラフが押し上げていない状態における前記トロリ線の摺動面の前記鉄道軌道からの高さである静高さ(Hs)を、
Hs=Ht+hd−Fc/kbar
ここで、Ht:前記車両のパンタグラフを除いた高さHt、
と推定することを特徴とするトロリ線の静高さの推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線の静高さを推定する方法及び装置に関する。特には、比較的簡単な手法でトロリ線の静高さを推定できる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電車線設備(架線)の架設状態の中でも、トロリ線の静高さ(パンタグラフと摺動していない時のトロリ線の高さ)は、非常に重要な管理項目である。トロリ線の静高さは、トロリ線の支持態様の変化や、パンタグラフとの摺動による摺動面の摩耗、軌道の高さ変動等によって変化する。
【0003】
しかし、架線の架設状態を把握するために実施される検測車による検測においては、車両の屋根上に搭載したパンタグラフの舟体の高さを測定することによってトロリ線の高さを評価している。つまり、検測車により検測されるのは、トロリ線の静高さではなく、パンタグラフによって押し上げられたトロリ線の、パンタグラフの舟体との接触点における変位(以下、パンタグラフ高さという)である。電車線を架設したり調整を行う際には、架線の架設状態はトロリ線の静高さが基準となるため、電車線の保全に検測データを活用するためには、パンタグラフ高さではなく、トロリ線の静高さの情報を提供することが望まれている。
【0004】
検測車のデータからトロリ線の静高さを推定する技術として、架線とパンタグラフ間の接触力の実測値を用いてトロリ線の押上量を求め、パンタグラフの高さの実測値からこれを差し引くことにより、トロリ線の静高さを推定する方法が、特許文献1に開示されている。ただし、この方法は、シミュレーションによる解析をベースとしており、時間とコストを要する。
あるいは、絶縁性のゲージ棒(高さ測定棹)を用いた人手による測定が行われることもある。しかし、この測定は、列車の運行しない夜間等に限られること、人手で測定するために測定精度が低く、測定箇所も離散的で範囲も限られることなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−111366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、検測車によって測定可能な物理量をもとにして、簡便にトロリ線の静高さを推定できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のトロリ線の静高さの推定方法は、 電気鉄道を走行する車両のパンタグラフの高さを測定した結果に基づいて、該鉄道の線路に沿ったトロリ線摺動面の高さの分布を推定する方法であって、
ア)前記車両走行時において前記パンタグラフのすり板上面の動的な高さ(パンタグラフ動高さ)hdを、前記線路に沿って測定し、
イ)前記車両走行時における前記パンタグラフと前記トロリ線との接触力Fcを測定し、
ウ)前記車両の走行速度を加味し、径間で平均した前記トロリ線の等価ばね定数
barを得ておいて、前記パンタグラフによって前記トロリ線が押し上げられている寸法(動押上量)をFc/kbarと推定し、
エ)前記パンタグラフが押し上げていない状態における前記トロリ線の摺動面の前記鉄道軌道からの高さである静高さHsを、前記車両のパンタグラフを除いた高さHt、及び、上記各種値から、
Hs=Ht+hd−Fc/kbar
と推定することを特徴とする。
【0008】
ここで、パンタグラフ動高さ(hd)とは、車両走行中の、トロリ線を押し上げてトロリ線と接触しながら進んでいる状態の高さであり、検測車により測定できる(測定方法は後述)。また、パンタグラフとトロリ線の接触力Fcは、パンタグラフがトロリ線を押し上げる上下方向の力であり、検測車により測定できる(測定方法は後述)。
車両の走行速度を加味したトロリ線の等価ばね定数kbarとは、トロリ線のある一点を上方に単位長さだけ変位させるために必要な力を、トロリ線のレール方向のある区間内で平均した値である。トロリ線のばね定数は、支持点(電柱など)との位置関係によって変化するので、平均値を求める。また、等価ばね定数は走行速度によって影響を受け、速度が上がれば等価ばね定数は下がる傾向がある。このため、実測などにより、対象鉄道路線についてのトロリ線の等価ばね定数を事前に把握しておく。
車両のパンタグラフを除いた高さHtは、車両の型式によって決まっている。なお、軸ばねや枕ばねの伸縮などにより変動する分は補正してもよい。
【0009】
このように、各値は、現行の架線検測車等によって測定可能な物理量である。そして、トロリ線の動押上量をFc/kbarと推定することにより、トロリ線の静高さを、効率よく、しかも広い範囲にわたり推定できる。したがって、先行技術に記載のシミュレーションによる解析をベースとする方法と比較した場合、測定・解析の時間とコストがかからず、現行の架線検測車において測定可能な物理量をもとにして、簡便にトロリ線静高さを推定できる。
【0010】
本発明の具体的方法は、 測定されたパンタグラフ動高さ(hd)を、ローパスフィルタを通過させて高周波成分を除去し、 一方で、測定されたパンタグラフとトロリ線との接触力(Fc)を、ローパスフィルタを通過させて高周波成分を除去した後で、前記車両の走行速度を加味した前記トロリ線の等価ばね定数(kbar)で除した値(Fc/kbar)を、前記パンタグラフによって前記トロリ線が押し上げられている寸法(動押上量hx)とし、 前記高周波成分を除去したパンタグラフ高さ(hd)から前記動押上量(hx)を減じて、車上での前記パンタグラフの静高さ(hs=hd−hx=hd−Fc/kbar)とし、 前記パンタグラフが押し上げていない状態における前記トロリ線の摺動面の前記鉄道軌道からの高さである静高さ(Hs)を、前記車両のパンタグラフを除いた高さ(Ht)に、車上でのパンタグラフ静高さ(hs)を加えた値とする。
【0011】
本発明においては、 前記ローパスフィルタが、径間周期の1/2〜1/3倍程度以下の周期以上の周波数をカットするものであることが好ましい。
【0012】
前述の測定は、詳細な架線構造や架線に作用する慣性力の影響を無視しているため、径間(トロリ線の支持点間)のトロリ線の静高さの変化を把握しつつ高周波成分をカットすることが好ましい。なお、トロリ線の静高さを測定するために用いるパンタグラフは、当該編成における先頭パンタグラフであることが望ましい。
【0013】
本発明のトロリ線の静高さの推定装置は、電気鉄道を走行する車両のパンタグラフの高さを測定した結果に基づいて、該鉄道の線路に沿ったトロリ線摺動面の高さの分布を推定する装置であって、
前記車両走行時において前記パンタグラフのすり板上面の動的な高さ(パンタグラフ動高さ、hd)を、前記線路に沿って測定する装置と、
前記車両走行時における前記パンタグラフと前記トロリ線との接触力(Fc)を測定する装置と、
前記パンタグラフ動高さ測定装置及び前記接触力測定装置で測定された値が入力されて処理される制御部と、を有し、
前記制御部において、
前記車両の走行速度を加味し、径間で平均した前記トロリ線の等価ばね定数
(kbar)と、前記接触力(Fc)とから、前記パンタグラフによって前記トロリ線が押し上げられている寸法(動押上量)をFc/kbarとし、
前記パンタグラフが押し上げていない状態における前記トロリ線の摺動面の前記鉄道軌道からの高さである静高さ(Hs)を、
Hs=Ht+hd−Fc/kbar
ここで、Ht:前記車両のパンタグラフを除いた高さHt、
と推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、検測車による計測あるいは予め実測して得られた値を用いて、トロリ線の静高さを推定することができる。したがって、簡便かつ効率的に、広い範囲にわたるトロリ線の静高さを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係るトロリ線の静高さ推定方法を説明する図である。
図2】パンタグラフの構造の一例と、トロリ線動高さ測定方法及びトロリ線とパンタグラフの接触力測定方法の一例を示す図であり、図2(A)は側面図、図2(B)は正面図である。
図3】接触力を算出する方法の一例を示すブロック図である。
図4】パンタグラフ静高さを求める方法を示すブロック図である。
図5】トロリ線の等価ばね定数を説明する図であり、図5(A)は径間内のトロリ線の静押上量を示すグラフ、図5(B)は等価ばね定数と車両速度との関係を示すグラフである。
図6】トロリ線静高さの推定値と実測値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、図1を参照して、本発明のトロリ線の静高さ推定方法を説明する。
車両走行時に、パンタグラフのすり板上面の動的な高さ(パンタグラフ動高さ)hdを、線路に沿って測定する。この測定は検測車によって検測できる(検測方法は後述)。さらに、車両走行時に、パンタグラフとトロリ線との接触力Fcを測定する。この測定も検測車で検測する(検測方法は後述)。
一方、車両の走行速度を加味したトロリ線の等価ばね定数kbarを得ておき、パンタグラフによってトロリ線が押し上げられている寸法(動押上量、hx)を、接触力Fcを等価ばね定数kbarで除した値Fc/kbarと推定する。等価ばね定数については後述する。
そして、パンタグラフ動高さhdから動押上量(hx=Fc/kbar)を減じて、車上におけるトロリ線の静高さ(hs=hd−Fc/kbar)を求める。
最後に、パンタグラフが押し上げていない状態におけるトロリ線の摺動面の鉄道軌道からの高さである静高さHsを、車両のパンタグラフを除いた高さHtと、車上におけるトロリ線の静高さ(hs)とから、
Hs=Ht+hs
=Ht+hd−Fc/kbar
として求める。
【0017】
次に、図2を参照して、パンタグラフの構造の一例と、パンタグラフの動高さ(hd)とパンタグラフとトロリ線との接触力(Fc)を計測する方法の一例を説明する。図2(A)は側面図、図2(B)は正面図である。
まず、パンタグラフ1の構造の一例を説明する。パンタグラフ1は、トロリ線Tと摺動するすり板体3を保持する舟体4と、これらを支持し、電気鉄道車両の屋根に起立倒伏可能に設置された枠組5と、を主に備える。
【0018】
図2(B)に示すように、舟体4は、車体の幅方向(左右方向)に沿って延びる箱状体のものであり、上面にすり板3が取り付けられている。舟体4の左右端面には、外方向に延びるホーン7が取り付けられている。すり板3は、両端付近で復元ばね8によって左右方向に延びる天井管9に弾性支持されている。この天井管9には、枠組5の上端が連結されている。
【0019】
枠組5の下端は、図2(A)に示すように主軸11に連結されている。主軸11は、車両の屋根に取り付けられたベース12に回動可能に取り付けられているとともに、ベース12上に配置された主ばね(図示されず)に連結されている。主ばねは、枠組5に上昇力を与える。
【0020】
次に、パンタグラフの動高さ(hd)と、パンタグラフとトロリ線との接触力(Fc)を計測する方法の一例を説明する。これらの計測を行うパンタグラフは、当該編成における先頭パンタグラフとする。
パンタグラフ動高さ(hd)は、図2(A)に示すように、主軸11に絶縁体21を介して接続するポテンショメータ23によって計測される。すなわち、トロリ線Tの高さが変わると、パンタグラフ1はその高さに追随して上下に運動し、パンタグラフ1の主軸11が回転する。この回転は絶縁体21を介してポテンショメータ23に導かれ、このポテンショメータ23によりトロリ線Tの動高さ(hd)が測定できる。このようなポテンショメータ23等は検測車に搭載される。
【0021】
パンタグラフ1とトロリ線Tの接触力(Fc)は、図2(B)に示すように、すり板3の下面中央に取り付けられた加速度計31で計測されるすり板3の上下方向加速度と、復元ばね8の各々に取り付けられたひずみゲージ33で計測されるひずみにより求められる。加速度計31やひずみゲージ33は、検測車に搭載される。
【0022】
ポテンショメータ23や加速度計31、ひずみゲージ33の計測値は、検測車の処理部に送られて、後述の処理が行われる。
【0023】
接触力(Fc)を算出する方法の一例を図3に示す。
まず、加速度計31で計測されたすり板3の加速度に、予め求めておいたすり板3の等価質量を乗算し、すり板3の慣性力を算出する。一方で、ひずみゲージ33で計測された各復元ばね8の変形量と復元ばね8のばね定数とから、復元ばね8の反力を算出する。そして、慣性力と反力とを合算してパンタグラフ1の接触力(Fc)を算出する。なお、パンタグラフの接触力測定方法については、特許第4012108号、第3930299号、第3722463号等の方法を用いることもできる。
【0024】
図4を参照して、算出されたパンタグラフの動高さ(hd)と接触力(Fc)からトロリ線の静高さ(hs)を推定する方法を説明する。
前述の測定においては、詳細な架線構造や架線に作用する慣性力の影響を無視しているため、得られた各値を、径間(架線の支持点間)周期に対応する周波数の2〜3倍の所定の周波数以上の周波数をカットするローパスフィルタを通して、径間内のトロリ線の静高さの変化を把握しつつ高周波成分をカットする。径間距離が50m、車両速度が300km/hの場合、例えば、3Hz以上の周波数をカットするローパスフィルタを使用できる。あるいは、例えば、波数0.03(1/m)のものを使用できる。
【0025】
ローパスフィルタを通過した接触力(Fc)を、車両の走行速度を加味したトロリ線の等価ばね定数kbarで除した値を、動押上量(パンタグラフによってトロリ線が押し上げられている寸法)(hx=Fc/kbar)とみなす。ここで、等価ばね定数kbarとは、トロリ線のある一点を上方に単位長さだけ変位させるために必要な力を、トロリ線のレール方向に対するある区間内(例えば1径間内)で平均した値である。
【0026】
図5(A)は、径間内のトロリ線の静的ばね定数の一例を説明するための図及びグラフである。グラフの縦線はばね定数、横線は径間内の位置を示す。
グラフに示すように、トロリ線のばね定数は径間内で変化し、支持点の部分で最も高く(kmax)、支持点の中央で最も低く(kmin)なる。トロリ線の静押上量はその反対の挙動を示す。等価ばね定数kbarは、径間内でのばね定数の平均である。
【0027】
この等価ばね定数kbarは、車両の走行速度に影響を受ける。図5(B)は、車両の走行速度と等価ばね定数との関係を示すグラフである。縦軸は等価ばね定数(N/mm)、横軸は走行速度(km/h)を示す。
グラフに示すように、等価ばね定数は、走行速度が高くなるほど波動の影響を強く受けるため、ほぼ直線的に低下する傾向を示す。したがって、パンタグラフの静高さを推定する際には、走行する車両の速度に応じた等価ばね定数を予め実測や解析等により求めておく。
【0028】
再度図4を参照して説明する。
次に、パンタグラフ動高さ(hd)からパンタグラフの動押上量(hx=Fc/kbar)を減じて、トロリ線の静高さ(hs)を求める。
最後に、図1に示すように、このトロリ線静高さ(hs)に、車両の高さ(パンタグラフ除く)(Ht)を加えることにより、軌道上からのトロリ線の静高さ(Hs)を求めることができる。車両の高さ(Ht)は、車両の型式によって決まっており、軸ばねや枕ばねの伸縮などにより変動する分は補正してもよい。
【0029】
図6は、本発明のトロリ線の静高さ推定方法により推定されたトロリ線の静高さと、トロリ線の静高さの実測値(人手による測定値)とを比較したグラフである。縦軸は、軌道上からのトロリ線の静高さ(Hs)、横軸は位置を示す。実線は、本発明の推定方法による推定値、破線は実測値である。車両の走行速度は270km/mm(図5(B)のグラフより、等価ばね定数は3)である。
グラフに示すように、この区間内においては両者とも同様の変位を示しており、径間内でのトロリ線の静高さの変位幅は約30mm程度である。推定値と実測値の、最も大きい差は13mm程度である。これは、長い区間に渡ってトロリ線の静高さを把握する上では、十分な精度であるといえる。
【符号の説明】
【0030】
1 パンタグラフ 3 すり板
4 舟体 5 枠組
7 ホーン 8 復元ばね
9 天井管 11 主軸
12 ベース
21 絶縁体 23 ポテンショメータ
31 加速度計 33 ひずみゲージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6