(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
厚板を圧延するに際しては、まず粗圧延機において、スラブ鋳片を予め決められた板厚及び板幅に圧延し、仕上圧延機に送る。仕上圧延機では、粗圧延機で圧延された圧延材を目標の板厚及び板幅になるまで圧延する。
厚板の製造工程で用いられている粗圧延機や仕上圧延機は、リバース式の圧延機であり、この圧延機に圧延材を通過させることで当該圧延材を順次圧下してゆく。圧延機に圧延材を通過させ、圧下を行うことを「パス(圧延パス)」と呼んでいる。
【0003】
スラブ鋳片から目標とする板厚及び板幅の圧延材(製品)まで圧延を行うに際しては、複数回の圧延、すなわち複数の圧延パスが必要であり、各パスにおける圧下率、圧延荷重などの圧延条件をどの様に決定するかは非常に重要な事項となる。各パスの圧延条件を決定することを圧延パススケジュールの決定と呼ぶ。
圧延パススケジュールの決定にあたっては、圧延荷重を設備制約の上限に近づけることでパス数を最小化して生産性を向上させるパススケジュール(高生産型パススケジュール)を選択することができる。その一方で、板クラウンや平坦度を満足させることに主眼をおいたパススケジュール(形状重視パススケジュール)を選択することも可能である。
【0004】
例えば、特許文献1は、可逆式圧延機において安定性の高い自動の高能率圧延を実現する厚板圧延方法、すなわち高生産性及び形状重視の両方を満たす様な圧延技術を開示している。具体的には、特許文献1は、形状・能率とも最適となる板厚圧下パススケジュールを計算機にあらかじめ複数パターン記憶しておき、実際の圧延開始前の材料の板厚及び温度実績値から条件に合致する記憶圧下スケジュールを取り出して、材料状態、ワークロールの状態ならびにミルの状態等を考慮して、最適になるように修正を加えて全パス一貫して形状を満足し、かつ圧延設備能力の最大値で圧延できるパススケジュールを決定させる技術を開示する。
【0005】
また、圧延設備に過負荷を掛けることなく所望の板形状を得られ、且つパス数を少なくする技術として、特許文献2に開示される圧延パススケジュール決定方法が開発されている。
特許文献2の圧延パススケジュール決定方法は、高生産型パススケジュールの決定を意図しており、可逆式圧延機を用いて板材を圧延する際のパススケジュールを決定するに当たり、各パスにおける圧延荷重を許容最大高圧延荷重とした場合の出側板厚を1パス目から順次計算し、仕上げ板厚以下となる条件でパス数を決定する。このとき、許容最大高圧延荷重を規定する要素としては、圧延機本体の機械装置の強度上の問題から決まる上限荷重、ロール間ヘルツ応力から決まる上限荷重、良好な板形状を得るための上限荷重などを考えている。さらに、上記決定パス数での出側板厚と仕上げ板厚の差に基づいて、各パスの圧下率を補正するようにされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年の技術革新には目を見張るものがあり、厚板の製造工程での圧延機に関しても、高い形状修正能力を有するクラウン制御機構を備えた圧延機が開発されるにいたっている。このような圧延機を用いれば、高生産型パススケジュール(高圧延荷重、高圧下率のパススケジュール)を採用しつつも高精度な形状制御を行うことができ、目標の板厚及び板クラウンを有する厚板を得ることが可能となる。
【0008】
しかしながら、高い形状修正能力を有する圧延機で、高生産型パススケジュールを採用した場合、以下のような問題が発生することが考えられる。
すなわち、高生産型パススケジュールの場合、圧延機本体の耐荷重制約やワークロールの耐荷重制約の上限近くで圧延が行われる。このときの圧延荷重は、従来の圧延機の圧延荷重よりも非常に高く、圧延工程の最終段階に近づくにつれて、
図2(a)に示すような上下一対のワークロールが接触してしまう(キス状態となる)問題が発生する。
【0009】
具体的には、20〜10mm以下の板厚を有する厚板(薄物と呼ぶこともある)を圧延する際に、高い圧延荷重のままで圧延が行われると、板厚に対してミル伸び量(圧延荷重/ミル定数)の方が大きくなる。ミル伸び量が大きくなるということは、圧延材の導入前において、上下のワークロールを接触させた状態若しくはワークロール同士を押し付けた状態(キスロール状態)とする必要がある。つまり、ロールギャップ設定時に、ロールギャップの値を負の値若しくはゼロに設定する必要があった。
【0010】
このような、上下のワークロール同士が接触した状態のところに、圧延材を導入させると、ワークロールと圧延材とが衝突しながら噛み込んだ状態となる。その結果、圧延材が衝突した衝撃でワークロールの表面に傷が付いてしまったり、ワークロールとの接触により圧延材の先端に傷が付いてしまったりするといった問題が発生する虞がある。
ところが、前述した特許文献1、特許文献2に開示された圧延パススケジュール決定方法の技術は、斯かる問題を回避するものとはなっていない。高生産型パススケジュールを採用した場合に発生する「ワークロールのキス」を回避する技術、回避可能な圧延パススケジュールの決定技術は、未だ開発されていないのが現状である。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、高い形状制御能力を持った圧延機において、ワークロールのキス発生を確実に回避しつつ、目標とする板厚、板クラウン形状を有する厚板を確実に生産可能な圧延パススケジュールの決定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明に係る圧延機のパススケジュールの決定方法は、圧延材を圧延する一対のワークロールを備えるとともに、前記圧延材のクラウン形状を高精度に制御可能なクラウン制御機構を備えた圧延機によって、前記圧延材を圧延する際のパススケジュールを決定する方法であって、前記圧延機の設備制約の上限となる圧延荷重で、前記圧延材を圧延する第1パススケジュールと、前記圧延材が導入される前の状況下で、一対のワークロールがキス状態となることを回避する第2パススケジュールと、を有
し、前記第2パススケジュールは、前記第1パススケジュールの後に行われるパススケジュールであって、前記一対のワークロールがキス状態となることが判断されると、第1パススケジュールから第2パスケジュールへと変更するものであり、前記第2パススケジュールを決定する際には、前記第1パススケジュールを第1パスから第mパスまで計算した後、以下の工程にて第mパスから第nパスまで順次、算出するものであり、
a)第mパスでの入側板厚Hmと最大圧延荷重Pmaxとを用いて、式(2)から出側板厚hmを算出し、
b)算出した出側板厚hmと最大圧延荷重Pmaxとを用いて、式(1)の条件を満たすかを判断し、
c)式(1)の条件を満たしていない場合に、最大圧延荷重Pmaxより小さい圧延荷重Pmに修正し、
d)修正した圧延荷重Pmと、入側板厚Hmとを用いて、圧延荷重式から出側板厚hmを再算出し、
e)再算出された出側板厚hmと、修正した圧延荷重Pmとを用いて、式(1)を満たすかを判断し、
f)式(1)を満たすまで前記c)工程〜前記e)工程を繰り返して圧延荷重Pmを算出し、
さらに、前記第2パススケジュールの決定では、
第nパスにおいて算出された出側板厚hnが、目標板厚hに一致すると、この第nパスを最終パスと設定し、算出された出側板厚hnを目標板厚hに置き換え、
この第nパスにおいて、入側板厚Hn(第n−1パスの出側板厚hn−1)と、目標板厚hとを用いて、圧延荷重式から圧延荷重Pnを算出することを特徴とする。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
また、本発明に係る圧延機のパススケジュールの決定方法は、圧延材を圧延する一対のワークロールを備えるとともに、前記圧延材のクラウン形状を高精度に制御可能なクラウン制御機構を備えた圧延機によって、前記圧延材を圧延する際のパススケジュールを決定する方法であって、前記圧延機の設備制約の上限となる圧延荷重で、前記圧延材を圧延する第1パススケジュールと、前記圧延材が導入される前の状況下で、一対のワークロールがキス状態となることを回避する第2パススケジュールと、を有し、前記第2パススケジュールは、前記第1パススケジュールの後に行われるパススケジュールであって、前記一対のワークロールがキス状態となることが判断されると、第1パススケジュールから第2パスケジュールへと変更するものであり、
前記第2パススケジュールを決定する際には、
a)最終板厚hnが予め設定した圧延条件により、キス回避パスであるか否かを判断し、
b)キス回避パスであると判断されると、最終板厚hnとロールギャップsをゼロとして、式(A)により圧延荷重Pnを算出し、
c)算出された圧延荷重Pnと最終板厚hnとを用いて入側板厚Hnを算出し、
d)算出された入側板厚Hnを、前パスである第n−1パスの出側板厚hn−1に置き換え(Hn=hn−1)、
e)出側板厚hn−1を用い、第n−1パスがキス回避パスであるか否かを式(1)に基づき判断し、
f)キス回避パスであると判断されると、出側板厚hn−1を用い、入側板厚Hn−1を算出し、この入側板厚Hn−1がキス状態の発生する虞のない所定の板厚を超えているか否かを判断し、
入側板厚Hn−1が、この所定の板厚を超えるまで前記c)工程〜前記f)工程を繰り返し、
入側板厚Hn−1が、所定の板厚を超えると、前記第2パススケジュールから前記第1パススケジュールに変更して、パススケジュールを設定することを特徴とする。
【0016】
【数3】
【0017】
【数4】
【発明の効果】
【0018】
本発明で決定された圧延パススケジュールを用いることで、高い形状制御能力を持った圧延機において、ワークロールのキス発生を確実に回避しつつ、目標とする板厚、板クラウン形状を有する厚板を確実に生産することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、圧延装置1は、スラブ鋳片などの圧延材2を厚板に圧延するものであり、圧延材2を加熱する加熱炉3と、加熱された圧延材2を予め決定された板厚及び板幅に圧延する粗圧延機4と、目標の板厚及び板幅になるまで圧延する仕上圧延機5と、これら粗圧延機4及び仕上圧延機5の圧延荷重Pやロールギャップ量sを制御する制御部8と、を含んで構成されている。
【0021】
本実施形態で用いられている粗圧延機4及び仕上圧延機5は、リバース式の圧延機4,5である。粗圧延機4は、上下一対に配置されたワークロール6と、ワークロール6を支持する一対のバックアップロール7と、上方側のバックアップロール7を介してワークロール6のロールギャップsを可変とする圧下装置9(ギャップ変更手段)と、圧延荷重Pを計測し出力する荷重計測手段10とを有している。圧下装置9は油圧シリンダで構成されると共に、荷重計測手段10はロードセルなどで構成されている。
【0022】
また、仕上圧延機5は、粗圧延機4と同様な略構成とされており、一対のワークロール6と、ワークロール6を支持するバックアップロール7と、ワークロール6のロールギャップsを可変とする圧下装置9(ギャップ変更手段)と、圧延荷重Pを計測する荷重計測手段10とを有している。
粗圧延機4及び仕上圧延機5のそれぞれの入側には、圧延材2の入側板厚Hを計測する入側板厚計11が設置され、粗圧延機4及び仕上圧延機5のそれぞれの出側には、圧延材2の出側板厚hを計測する出側板厚計12が設置されている。入側板厚計11及び出側板厚計12としては、γ線板厚計などを採用することができる。
【0023】
さらに、粗圧延機4及び仕上圧延機5には、両圧延機4,5の圧延荷重Pおよびロールギャップ量sを制御する制御部8が設けられている。この制御部8は、圧延材2の出側板厚hを所定の範囲内に収める又は出側板厚hを一定にするように圧延機4,5を制御する板厚制御の機能も有している。制御部8には、圧延機4,5の入側板厚Hや圧延荷重Pなどの圧延条件の情報が入力され、入力された情報を基に、圧延機4,5のロールギャップ量やロール速度が算出され、圧延機4,5に出力される。制御部8で行われる制御方法としては、公知のものが採用可能である。例えば、フィードフォワードAGC、BISRA AGC、モニタAGC、マスフローAGC、張力AGCなどが挙げられる。前述した制御部8は、プロセスコンピュータ、PLCで実現されている。
【0024】
次に、上記の圧延装置1を用いた一般的な圧延工程について説明する。
図1に示すように、厚板の圧延工程では、まず圧延材2を加熱炉3で所定の温度まで加熱する。加熱された圧延材2は、上下一対に配置されたワークロール6を備えた粗圧延機4に導入される。粗圧延機4に挿入された圧延材2は、これらのワークロール6の圧下によって圧延される。このような圧延を繰り返すことによって、予め決定された板厚及び板幅の厚板が形成される。
【0025】
次に、粗圧延機4で圧延された厚板は、下流工程にある仕上圧延機5に導入される。仕上圧延機5に導入された圧延材2は、仕上圧延機5に配置されたワークロール6の圧下によって圧延される。このような圧延を繰り返すことにより、板厚及び板幅の厚板が形成され、形状が整えられる。このように目標の板厚及び板幅の厚板が形成された厚板が最終製品となる。
【0026】
ところで、圧延工程において、粗圧延機4や仕上圧延機5に圧延材2を通過させ、圧下を行うことを「パス(圧延パス)」と呼んでいる。このパスを複数回行うことで、目標とする板厚及び板幅の厚板(製品)を得ることができる。複数回のパスにそれぞれにおいては、各パスの圧延材2の入側板厚H、出側板厚h、及び予測温度などに基づいて、粗圧延機4や仕上圧延機5の圧延荷重P及び圧下率などの圧延条件が設定される。このようにパスの設定は、最終製品の品質や圧延工程の生産性に大きな影響を及ぼすため、非常に重要な作業となる。このような重要な作業を通じて、圧延工程の開始から終了までのパススケジュールが決定される。
【0027】
さて、近年では、製品精度の要求水準が高まってきており、技術革新によって、圧延材2のクラウン形状や板厚などの要求が十分に満たされる程度に高精度に制御可能なクラウン制御機構を有した形状修正能力の高い圧延機4,5が開発されてきている。
このような形状修正能力の高い圧延機4,5は、生産性を向上させるパススケジュール(高圧延荷重P、高圧下率のパススケジュール)を採用しつつも板クラウンや平坦度を満足させる高精度な形状制御を行うことができるようになっている。この圧延機4,5は、高精度なクラウン制御機構によって、厚板が所望のクラウン形状及び板厚となるように高精度に制御できる。つまり、圧延の開始から終了まで、すなわち圧延の開始パスから終了パスまで最大圧延荷重P
maxで圧延材2の圧延を行うことができる。開始パスから終了パスまで最大圧延荷重P
maxで圧延を行うパススケジュールを作成すれば、圧延材2を最小のパス数で目標の出側板厚hにまで圧延することができる。
【0028】
その結果、厚板の生産性を高く維持しつつ、目標の板厚及び板クラウンを有する厚板を得ることが可能となる。
このように、開始パスから終了パスまで、圧延機4,5の設備制約の上限、すなわち最大圧延荷重P
maxで圧延材2を圧延するパススケジュールを、以下、高生産型パススケジュール(第1パススケジュール)という。
【0029】
しかしながら、
図2(a)に示すように、高い形状修正能力を有する圧延機4,5で、高生産型パススケジュールを採用した場合、圧延工程が最終段階に近づくにつれて、一対のワークロール6がキス状態となる(接触してしまう)問題が発生してしまう。
具体的には、高生産型パススケジュールにおいて、圧延機4,5(特に、仕上圧延機5)では、圧延材2に最大圧延荷重P
maxを付加しながら、圧延材2の硬さに応じて圧延荷重Pを予測してワークロール6の圧下位置を制御している。この高生産型パススケジュールが圧延工程の最終段階、すなわち目標板厚に近づくと、圧延機4,5は、ロールギャップsを目標板厚より狭く設定するようになる。なぜならば、式(2)において、高い圧延荷重Pでの圧延ほどミル伸び量(P/Mの項)の値が大きくなり、ロールギャップsより出側板厚hが厚くなってしまう。従って、所望の出側板厚hを得るためには、ミル伸び量を見越した適切なロールギャップsを設定する必要がある。しかし、圧延工程の最終段階において、高い圧延荷重Pで圧延すると、ロールギャップsが負の値若しくはゼロになってしまうことがわかってきた。このロールギャップsが負の値若しくはゼロになるということは、仕上圧延機5のワークロール6がキス状態となることである。
【0031】
このように、キス状態となったワークロール6に、圧延材2を導入させると、ワークロール6と圧延材2とが衝突し、その衝突でワークロール6の表面に傷が付いたり、圧延材2の先端に傷が付いてしまったりする虞がある。
そこで、
図2(b)に示すような、仕上圧延機5におけるワークロール6のキス状態を回避しつつ、目標とする板厚および板クラウン形状を有する厚板を確実に生産できる圧延パススケジュール決定方法を提供する。
[第1実施形態]
以下、
図3及び
図4に基づいて、高生産型パススケジュールに続いて行われることとなるキス回避型パススケジュールの決定方法の第1実施形態を説明する。
【0032】
図3は、横軸にパス数、縦軸に圧延荷重をとった場合のパススケジュールを示したものである。この
図3に示すように、第1実施形態によるキス回避型パススケジュールの決定方法は、第mパスからワークロール6のキスを回避できるパスまでの圧下条件(パススケジュール)を順次算出し、決定するものである。
詳しくは、第1実施形態のパススケジュール決定方法は、圧延材2を圧延する一対のワークロール6を備えるとともに、圧延材2のクラウン形状を高精度に制御可能なクラウン制御機構を備えた仕上圧延機5(以下、単に圧延機5と呼ぶこともある)において、第mパスでの最大圧延荷重P
max及び入側板厚H
mを用いて出側板厚h
m算出し、第mパスから順にたどって、ロールギャップs値が正の値又はゼロとなるように圧延荷重P
nを決定し、パスを設定するものである。
【0033】
言い換えれば、本発明のパススケジュールの決定方法は、第1パス〜第mパスは、最大圧延荷重P
maxで圧延を行うようにし、その後、mパスでの入側板厚h
mと、最大圧延荷重P
maxとを用いて、出側板厚h
mを算出し、第mパスより後は、式(1)を満たすように圧延荷重を算出しパスを決定していくものである。
【0035】
図4は、キス回避のパススケジュール決定方法の詳細をフローチャートの形で示したものであり、それに従って、パススケジュール決定の手順を述べる。
まず、ステップS101にて、仕上圧延機5の設備制約の上限となる圧延荷重P
maxで圧延材2を圧延するパススケジュール(高生産型パススケジュール)を、第1パスから第mパスまで計算する。
【0036】
次に、ステップS102において、第mパスでの入側板厚H
mと最大圧延荷重P
maxとを用いて、式(2)から出側板厚h
mを算出する。
ステップS103では、ステップS102で算出した出側板厚h
mと最大圧延荷重P
maxとを用いて、式(1)の条件を満たすかを判断する。ステップS104では、式(1)の条件を満たしていない場合は、最大圧延荷重P
maxより小さい圧延荷重P
mに修正する。
【0037】
その後、ステップS105では、ステップS104で修正した圧延荷重P
mと、入側板厚H
mとを用いて、圧延荷重式から出側板厚h
mを再算出する。ステップS106では、ステップS105で再算出された出側板厚h
mと、修正した圧延荷重P
mとを用いて、式(1)を満たすかを判断する。
以上より、式(1)を満たすまで圧延荷重Pmを算出していく。なお、第mパスにおいての出側板厚h
mは、次パス(第m+1パス)の入側板厚H
m+1である。
【0038】
このようにして、第mパスから第nパスまで順次、算出する。
ステップS107では、第nパスにおいて算出された出側板厚h
nが、目標板厚h(最終板厚)に一致すると、この第nパスを最終パスと設定する。なお、第nパスの出側板厚h
nが目標板厚hよりも薄い板厚である場合には、条件を変えた上で、ステップS103に戻り、パススケジュールの再計算を行う。
【0039】
ステップS108では、ステップS107で算出された出側板厚h
nを目標板厚hに置き換える。
ステップS109では、この第nパス(最終パス)において、入側板厚Hn(第n−1パスの出側板厚h
n−1)と、目標板厚hとを用いて、圧延荷重式から圧延荷重P
nを算出する。算出した圧延荷重P
nは、式(1)の条件を満たすものとなっている。
【0040】
以上より、キス回避型パススケジュール(第2パススケジュール)が決定される。
なお、ステップS103で、式(1)の条件を満たした場合(キス無し)、mをインクリメントし(m←m+1)とし、S102へ戻る。
ところで、第mパスにおいて、十分に板厚が厚くキス状態が発生する恐れがない場合は、式(1)を用いたキス状態の判断を省略することは可能である。
【0041】
また、板幅が狭い場合や圧延材2の変形抵抗が小さい場合には、同じ圧下量に対して圧延荷重は小さくなり、ミル伸び量も小さくなるため、キス状態が発生する板厚も変化する。従って、最大圧延荷重でもキス状態が発生しないと判明している場合には、式(1)によるキス状態の判断は省略可能となり、板厚、板幅及び変形抵抗などの層別で式(1)によるキス状態の判断を行うか選択しても良い。
【0042】
以上述べた如く、
図4に示されているフローチャートに従ってパススケジュールを作成することで、キス状態になることが判断されるまでは高生産型パススケジュールによって圧延し、判断された後はキス状態を回避するためのキス回避型パススケジュールによって圧延するというパススケジュールが決定される。
これによって、高精度な板クラウンの実現と生産性の高い高能率の圧延とを両立させるパススケジュールであっても、キス状態が発生しない範囲まで圧延荷重を小さくするパススケジュールを決定することができる。
[第2実施形態]
図3及び
図5に基づいて、高生産型パススケジュールに続いて行われることとなるキス回避型パススケジュールの決定方法の第2実施形態を説明する。
【0043】
なお、第2実施形態による粗圧延機4や仕上圧延機5の構成は、第1実施形態で説明したものと同様であるので説明を省略する。
図3に示すように、第2実施形態によるキス回避型パススケジュールの決定方法は、最終パス(第nパス)からワークロール6のキスが発生しないパスまでの圧下条件(パススケジュール)を順次算出し、決定するものである。
【0044】
詳しくは、第2実施形態のパススケジュール決定方法は、十分に形状修正が可能なクラウン制御機構を備えた仕上圧延機5において、最終パス(第nパス)での最終板厚h
nが、最大圧延荷重P
maxなどの圧延条件より、キス回避パスとするか否かを判断する。キス回避パスとすると、最終板厚h
nと、ロールギャップ値sをゼロとして、圧延荷重P
nを決定し、パスを設定するものである。最終パス(第nパス)からキス状態が発生しないパス(第mパス)まで遡って算出する(m<n)。第mパスまで設定し終えると、その第mパスから前パス(第m−1パス)は、高生産型パススケジュールに変更して、第1パスまでパススケジュールを決定する。
【0045】
図5は、キス回避の圧延パススケジュール決定方法の詳細をフローチャートの形で示したものである。第1実施形態と異なるところは、最終パス(第nパス)からパススケジュールを決定する点である。それに従って、圧延パススケジュール決定の手順を述べる。
まず、ステップS201にて、最終板厚h
nが板幅、板厚、及び最大圧延荷重P
maxなどの予め設定した圧延条件により、キス回避パスであるか否かを判断する。
【0046】
次に、ステップS202において、ステップS201でキス回避パスであると判断されると、最終板厚h
nとロールギャップsをゼロとして、式(1)により圧延荷重P
nを算出する。
ステップS203では、S202で算出された圧延荷重P
nと最終板厚h
nとを用いて入側板厚H
nを算出する。
【0047】
ステップS204では、ステップS203で算出された入側板厚Hnを、前パスである第n−1パスの出側板厚h
n−1に置き換える(Hn=h
n−1)。
ステップS205では、出側板厚h
n−1を用い、第n−1パスがキス回避パスであるか否かを判断する。
ステップS206では、ステップS205でキス回避パスであると判断されると、出側板厚h
n−1を用い、入側板厚H
n−1を算出し、この入側板厚H
n−1がキス状態の発生する虞のない所定の板厚を超えているか否かを判断する。入側板厚H
n−1が、この所定の板厚を超えるまで繰り返し算出する。
【0048】
また、入側板厚H
n−1が、所定の板厚を超えると、キス回避型パススケジュールから高生産型パススケジュール(第1パススケジュール)に変更して、パススケジュールを設定する。
以上より、キス回避型パススケジュール(第2パススケジュール)が決定される。
なお、ステップS201で、圧延条件を満たした場合(キス無し)、高生産型パススケジュール(第1パススケジュール)に変更し、パススケジュールを設定する。すなわち、式(1)を用いたキスロールの判断を省略することは可能である。
【0049】
S205で、キス状態になる場合、nをデクリメントし(n←n−1)とし、S202へ戻る。また、S206で、キス状態が発生しない所定の板厚hを超えない場合、nをデクリメントし(n←n−1)とし、S203へ戻る。
以上述べた如く、
図5に示されているフローチャートに従ってパススケジュールを作成することで、キス状態になることが判断されるまでは高生産型パススケジュールによって圧延し、判断された後はキス状態を回避するためのキス回避型パススケジュールによって圧延するというパススケジュールが決定される。
【0050】
本発明は、圧延設備制約上限の圧延荷重における圧延形状をクラウン制御機構により高精度に制御可能であっても、ワークロール6のキス状態を防止できるパススケジュールの決定方法である。すなわち、圧延工程の終了付近のパスにおいて、厚板の板厚が薄くなると、圧延荷重を敢えて小さくし、ワークロール6のキス状態を回避するパススケジュールを決定する方法である。
【0051】
図6に示す如く、出側板厚が10mm以下において、圧延荷重を小さくしており、その結果、ワークロール6と圧延材2とが衝突してワークロール6表面に傷が付いてしまうことや、圧延材2の先端に傷が付いてしまったりする問題を防止することが可能となり、且つ仕上圧延機5において安定した通板性が確保されるという効果がもたらされる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0052】
また、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。