(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  前記(A)カルボン酸リチウム塩がシュウ酸リチウムであるか、又は前記(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体がシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
  前記電解液が、(A)カルボン酸リチウム塩及び(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体以外に、さらに電解質が配合されてなるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
  前記電解液が、シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体と、(C)有機溶媒と、が配合されてなるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
  前記負極材が、さらに(F)カルボン酸及び/又はカルボン酸リチウム塩が配合されてなるものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0014】
  本発明に係るリチウムイオン二次電池は、電極活物質(以下、「活物質」と略記することがある)、導電助剤及びバインダーが配合されてなる負極材を用いた負極、並びに電解液を備え、前記電極活物質が、ケイ素、一酸化ケイ素、スズ、アルミニウム、アンチモン、カドミウム、亜鉛・スズ合金、炭化ケイ素、ニッケル・スズ合金及びMg2Snからなる群から選択される一種以上であり、前記電解液が、(A)カルボン酸リチウム塩並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、あるいは(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体と、(C)有機溶媒と、が配合されてなるものであることを特徴とする。
 
【0015】
  本発明に係るリチウムイオン二次電池は、電極活物質としてケイ素、一酸化ケイ素、スズ、アルミニウム、アンチモン、カドミウム、亜鉛・スズ合金、炭化ケイ素、ニッケル・スズ合金及びMg2Snからなる群から選択される一種以上を用いた負極と、リチウム源又はその他の原料として(A)カルボン酸リチウム塩並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、あるいは(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を用いた電解液と、を組み合わせて構成することで、電極活物質として黒鉛以外のものを用いても、サイクル特性に優れたものとなる。そして、上記のような特定の電極活物質及び電解液の少なくとも一方を欠いた構成のリチウムイオン二次電池よりも、充放電サイクルを繰り返し行ったときの放電容量の低下が抑制され、サイクル特性が顕著に優れたものとなる。
 
【0016】
  本発明においては、電極活物質(負極活物質)として、ケイ素、一酸化ケイ素、スズ、アルミニウム、アンチモン、カドミウム、亜鉛・スズ合金、炭化ケイ素(SiC)、ニッケル・スズ合金及びMg2Sn(magnesium  stannide)からなる群から選択される一種又は二種以上を用い、二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
 
【0017】
  前記電極活物質は、粉末状であることが好ましく、粒子状であることがより好ましく、例えば、平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましい。このような微粉末状の電極活物質を用いるとで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性がより向上する。
  電極活物質の平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡を用いて、任意の電極活物質の粒子約100個について粒子径を計測し、その平均値を算出することで求められる。
  電極活物質は、例えば、ボールミル等を用いる公知の手法で粉砕することにより、平均粒子径を所望の値に調節できる。
 
【0018】
  前記負極材において、前記電極活物質、導電助剤及びバインダーの総配合量に占める、電極活物質の配合量の比率(配合比率)は、15〜90質量%であることが好ましく、30〜85質量%であることがより好ましい。下限値以上であることで、リチウムイオン二次電池は放電容量がより向上し、上限値以下であることで、負極構造の安定した維持が容易となる。
 
【0019】
  前記導電助剤は公知のものでよく、好ましいものとしては、黒鉛(グラファイト);ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;カーボンナノチューブ;グラフェン;フラーレン等が例示できる。
  前記導電助剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0020】
  前記負極材において、前記電極活物質、導電助剤及びバインダーの総配合量に占める、導電助剤の配合量の比率(配合比率)は、3〜40質量%であることが好ましく、5〜35質量%であることがより好ましい。下限値以上であることで、導電助剤を用いたことによる効果がより顕著に得られ、上限値以下であることで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性及び放電容量の向上と、負極構造の安定した維持が容易となる。
 
【0021】
  前記バインダーは公知のものでよく、好ましいものとしては、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体(PVDF−HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)等が例示できる。
  前記バインダーは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0022】
  前記負極材において、前記電極活物質、導電助剤及びバインダーの総配合量に占める、バインダーの配合量の比率(配合比率)は、3〜40質量%であることが好ましく、5〜35質量%であることがより好ましい。下限値以上であることで、負極構造がより安定して維持され、上限値以下であることで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性及び放電容量の向上が容易となる。
 
【0023】
  前記負極材は、前記電極活物質、導電助剤及びバインダー以外に、これらに該当しないその他の成分が配合されてなるものでもよい。
  前記その他の成分は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択でき、好ましいものとしては、遷移金属カルコゲナイド、(F)カルボン酸及び/又はカルボン酸リチウム塩、及び少なくともいずれかの配合成分を溶解又は分散させるための溶媒が例示できる。
 
【0024】
  前記その他の成分における遷移金属カルコゲナイドは、遷移金属とカルコゲンとを構成元素とするものである。
  遷移金属は、周期表の第3属から第11族までの元素であり、第4周期、第5周期又は第6周期の元素であることが好ましく、モリブデン、銅、タングステン又はチタンであることがより好ましい。すなわち、前記遷移金属カルコゲナイドは、モリブデン、銅、タングステン又はチタンのカルコゲナイドであることがより好ましい。
 
【0025】
  カルコゲンは、周期表の第16属の元素であり、酸素、硫黄、セレン、テルルが例示でき、本発明においては、硫黄又は酸素であることが好ましく、硫黄であることがより好ましい。すなわち、前記遷移金属カルコゲナイドは、遷移金属の硫化物又は酸化物であることが好ましく、遷移金属の硫化物であることがより好ましい。
 
【0026】
  好ましい遷移金属カルコゲナイドとしては、硫化モリブデン(IV)(MoS
2)、硫化銅(II)(CuS)、硫化タングステン(IV)(WS
2)、硫化チタン(IV)(TiS
2)が例示できる。
  遷移金属カルコゲナイドは、分子同士でグラファイトのような層状構造を形成し得るものが好ましい。
 
【0027】
  遷移金属カルコゲナイドは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0028】
  前記電極活物質を用いた場合、リチウムイオン二次電池の充放電(リチウムイオンの吸蔵及び放出)時において、負極が膨張及び収縮し得ることが知られている。例えば、ケイ素を用いた場合では、負極において、1個のケイ素原子に対して4個のリチウムイオンの吸蔵及び放出が可能であり、二次電池が作動する際に、負極は4倍膨張及び収縮し得る。このような負極の膨張及び収縮は、放電容量の低下原因となり得るが、遷移金属カルコゲナイドを併用した負極は、この膨張及び収縮の影響が緩和される。その結果、リチウムイオン二次電池はサイクル特性により優れたものとなる。
  また、遷移金属カルコゲナイドは、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能であり、リチウムイオン伝導材としても作用し得る。さらに、遷移金属カルコゲナイドには、硫化銅(II)(CuS)のように導電性を有するものもある。したがって、遷移金属カルコゲナイドを併用した負極は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が妨げられることがないと推測される。硫化モリブデン(IV)(MoS
2)は、導電性は低いものの潤滑性を有しており、これが特に顕著に、充放電時における負極の膨張及び収縮の影響を緩和して、リチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上に寄与すると推測される。
 
【0029】
  前記負極材において、前記電極活物質の配合量(質量)に対する、遷移金属カルコゲナイドの配合量(質量)の比率(遷移金属カルコゲナイドの配合量/電極活物質の配合量、質量比)は、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。上限値以下であることで、リチウムイオン二次電池の放電容量の向上と、負極構造の安定した維持が容易となる。
 
【0030】
  前記その他の成分における(F)カルボン酸リチウム塩としては、後述する電解液の製造時に配合される(A)カルボン酸リチウム塩と同じものが例示でき、(F)カルボン酸としては、前記カルボン酸リチウム塩が塩を形成せずにカルボキシ基(−C(=O)−OH)を有するものとなったものが例示できる。
  (F)カルボン酸及び/又はカルボン酸リチウム塩は、リチウムイオン二次電池において、放電容量の低下を抑制し、サイクル特性を向上させる。
  (F)カルボン酸及び/又はカルボン酸リチウム塩は、シュウ酸及び/又はシュウ酸リチウム塩であることが好ましい。
 
【0031】
  前記負極材において、前記電極活物質、導電助剤及びバインダーの総配合量(質量)に対する、(F)カルボン酸及び/又はカルボン酸リチウム塩の配合量(質量)の比率([(F)カルボン酸及び/又はカルボン酸リチウム塩の配合量]/[電極活物質、導電助剤及びバインダーの総配合量]、質量比)は、1以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましい。上限値以下であることで、負極構造の安定した維持が容易となる。
 
【0032】
  前記その他の成分における溶媒は、配合成分の種類に応じて任意に選択でき、好ましいものとしては、水、有機溶媒が例示できる。
  溶媒が配合されてなる負極材は、使用時において流動性を有する液状組成物であることが好ましい。
  前記有機溶媒で好ましいものとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール;N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の鎖状又は環状アミド;アセトン等のケトンが例示できる。
  前記溶媒は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0033】
  負極材における前記溶媒の配合量は、特に限定されず、目的に応じて適宜調節すればよい。例えば、溶媒が配合された液状組成物である負極材を塗工及び乾燥させて、後述する負極活物質層を形成する場合には、この液状組成物が塗工に適した粘度となるように、溶媒の配合量を調節すればよい。具体的には、負極材において、配合成分の総量に占める、溶媒以外の配合成分の合計配合量の比率(配合比率)が、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜35質量%となるように、溶媒の配合量を調節するとよい。
 
【0034】
  前記その他の成分として、遷移金属カルコゲナイド、(F)カルボン酸及び/又はカルボン酸リチウム塩、並びに溶媒のいずれにも該当しない成分(その他の固体成分)を配合する場合、前記負極材において、溶媒以外の配合成分の総量に占めるその他の固体成分の配合量の比率(配合比率)は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
 
【0035】
  前記負極材は、前記電極活物質、導電助剤及びバインダー、並びに必要に応じてその他の成分を配合することで製造できる。
  各成分の配合時には、これら成分を添加して、各種手段により十分に混合することが好ましい。
  各成分は、これらを順次添加しながら混合してもよいし、全成分を添加してから混合してもよく、配合成分が均一に混合されればよい。
 
【0036】
  本発明においては、前記その他の成分として遷移金属カルコゲナイドを配合する場合、電極活物質及び遷移金属カルコゲナイドを、導電助剤及びバインダーの少なくとも一方と共存させてから混合することが好ましく、電極活物質及び遷移金属カルコゲナイドを、導電助剤及びバインダーの少なくとも一方と共に添加して、混合してもよい。そして、電極活物質及び遷移金属カルコゲナイドを、導電助剤及びバインダーと共存させてから混合することが好ましく、電極活物質及び遷移金属カルコゲナイドを、導電助剤及びバインダーと共に添加して、混合してもよい。
 
【0037】
  前記その他の成分として溶媒を配合する場合、この溶媒は、少なくとも一部を、前記電極活物質、導電助剤、バインダー、及びその他の成分からなる群から選択される一種以上とあらかじめ混合して、これら成分の溶液又は分散液として、配合してもよい。このような溶液又は分散液の調製に用いる溶媒は、全量であってもよい。
 
【0038】
  各成分の混合方法は、特に限定されず、例えば、撹拌子、撹拌翼、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用すればよい。そして、複数種の方法を組み合わせて行ってもよい。
  混合温度、混合時間等の混合条件は、各種方法に応じて適宜設定すればよい。通常は、混合時の温度は10〜50℃であることが好ましく、15〜35℃であることがより好ましい。また、混合時間は3〜40分であることが好ましく、5〜20分であることがより好ましい。
 
【0039】
  各成分を添加及び混合して得られた組成物は、そのまま負極材として用いてもよいし、例えば、配合した前記溶媒の一部を留去等によって除去するなど、得られた組成物に何らかの操作を追加して行って得られたものを、負極材として用いてもよい。
 
【0040】
  本発明において、負極(リチウムイオン二次電池用負極)は、前記負極材を用いたものであり、前記負極材を用いて形成された負極活物質層を、集電体(負極集電体)上に備えたものが例示できる。
  かかる負極は、前記負極材を用いること以外は、公知の負極と同様の方法で製造できる。
 
【0041】
  集電体は、公知のものでよく、その材質としては、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼等の導電性を有するものが例示でき、銅が好ましい。
  また、前記集電体はシート状であることが好ましく、その厚さは、5〜20μmであることが好ましい。
 
【0042】
  負極活物質層の厚さは、特に限定されないが、5〜100μmであることが好ましく、10〜60μmであることがより好ましい。
 
【0043】
  負極活物質層は、前記負極材を用いて集電体上に形成すればよい。
  例えば、負極材として、溶媒が配合されてなる液状組成物を用いる場合には、この液状組成物を塗工及び乾燥させることで、負極活物質層を形成できる。
 
【0044】
  液状組成物の塗工方法としては、グラビアコーター、コンマコーター、リップコーター等の各種コーターを用いる方法;ドクターブレード法;ディッピング法等の、各種塗布方法が例示できる。
 
【0045】
  液状組成物の乾燥は、公知の方法で常圧下又は減圧下で行えばよい。そして、乾燥温度は、40〜180℃であることが好ましい。下限値以上であることで、短時間で乾燥させることができ、上限値以下であることで、集電体の酸化等を抑制する効果が高くなる。乾燥時間は、乾燥温度に応じて適宜調節すればよいが、例えば、12〜48時間とすることができる。
 
【0046】
  負極活物質層は、集電体上に直接形成して設けてもよいし、他の基材上に形成してから集電体上に移動させ、集電体上に圧着させて設けてもよい。そして、負極活物質層は、集電体上に直接形成する場合にも、集電体上に圧着させてもよい。
 
【0047】
  前記電解液は、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、及び(C)有機溶媒が配合されてなるもの、あるいは(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、及び(C)有機溶媒が配合されてなるものである。そして、前記電解液は、(A)カルボン酸リチウム塩並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体と、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体と(以下、これら成分をまとめて「リチウム源又はその他の原料」と略記することがある)が、両方配合されてなるものでもよい。
 
【0048】
  (A)カルボン酸リチウム塩は、電解質であり、カルボキシ基がリチウム塩(−C(=O)−OLi)を構成しているものであればよく、リチウム塩を構成するカルボキシ基の数は、特に限定されない。例えば、カルボキシ基の数が2以上である場合には、すべてのカルボキシ基がリチウム塩を構成していてもよいし、一部のカルボキシ基のみがリチウム塩を構成していてもよい。
 
【0049】
  (A)カルボン酸リチウム塩で好ましいものとしては、ギ酸リチウム(HCOOLi)、酢酸リチウム(CH
3COOLi)、プロピオン酸リチウム(CH
3CH
2COOLi)、酪酸リチウム(CH
3(CH
2)
2COOLi)、イソ酪酸リチウム((CH
3)
2CHCOOLi)、吉草酸リチウム(CH
3(CH
2)
3COOLi)、イソ吉草酸リチウム((CH
3)
2CHCH
2COOLi)、カプロン酸リチウム(CH
3(CH
2)
4COOLi)等の1価カルボン酸のリチウム塩;シュウ酸リチウム((COOLi)
2)、マロン酸リチウム(LiOOCCH
2COOLi)、コハク酸リチウム((CH
2COOLi)
2)、グルタル酸リチウム(LiOOC(CH
2)
3COOLi)、アジピン酸リチウム((CH
2CH
2COOLi)
2)等の2価カルボン酸のリチウム塩;乳酸リチウム(CH
3CH(OH)COOLi)等の水酸基を有する1価カルボン酸のリチウム塩;酒石酸リチウム((CH(OH)COOLi)
2)、リンゴ酸リチウム(LiOOCCH
2CH(OH)COOLi)等の水酸基を有する2価カルボン酸のリチウム塩;マレイン酸リチウム(LiOOCCH=CHCOOLi、cis体)、フマル酸リチウム(LiOOCCH=CHCOOLi、trans体)等の不飽和1価カルボン酸のリチウム塩;クエン酸リチウム(LiOOCCH
2C(COOLi)(OH)CH
2COOLi)等の3価カルボン酸のリチウム塩(水酸基を有する3価カルボン酸のリチウム塩)が例示でき、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、コハク酸リチウムがより好ましく、シュウ酸リチウムが特に好ましい。
 
【0050】
  (A)カルボン酸リチウム塩は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0051】
  (B)三フッ化ホウ素及び三フッ化ホウ素錯体は、(A)カルボン酸リチウム塩と錯形成反応を行うものであり、(A)カルボン酸リチウム塩の有機溶媒(C)への溶解及びリチウムイオンの解離を促進するものである。三フッ化ホウ素錯体は、三フッ化ホウ素(BF
3)が別の成分に配位結合したものである。
 
【0052】
  好ましい前記三フッ化ホウ素錯体としては、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体(BF
3・O(CH
3)
2)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF
3・O(C
2H
5)
2)、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体(BF
3・O(C
4H
9)
2)、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体(BF
3・O((CH
3)
3C)
2)、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体(BF
3・O((CH
3)
3C)(CH
3))、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(BF
3・OC
4H
8)等の三フッ化ホウ素アルキルエーテル錯体;三フッ化ホウ素メタノール錯体(BF
3・HOCH
3)、三フッ化ホウ素プロパノール錯体(BF
3・HOC
3H
7)、三フッ化ホウ素フェノール錯体(BF
3・HOC
6H
5)等の三フッ化ホウ素アルコール錯体が例示できる。
  (B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体としては、取り扱いが容易で、錯形成反応がより円滑に進行する点から、前記三フッ化ホウ素錯体を用いることが好ましい。
 
【0053】
  (B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体としては、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0054】
  (B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体の配合量は特に限定されず、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体や(A)カルボン酸リチウム塩の種類に応じて適宜調節すればよい。通常は、[(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体の配合量(モル数)]/[配合された(A)カルボン酸リチウム塩中のリチウム原子のモル数]のモル比が0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。このような範囲とすることで、(C)有機溶媒に対する(A)カルボン酸リチウム塩の溶解度がより向上する。また、前記モル比の上限値は本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、2.0であることが好ましく、1.5であることがより好ましい。
 
【0055】
  (C)有機溶媒は特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート等の炭酸エステル化合物;γ−ブチロラクトン等のラクトン化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル化合物;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;スルホラン等のスルホン化合物;シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル等のシュウ酸エステルが例示できる。
  (C)有機溶媒は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0056】
  (C)有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル及びスルホランからなる群から選択される一種以上であることが好ましく、ビニレンカーボネート又はプロピレンカーボネートを含むことがより好ましく、ビニレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを含むことが特に好ましい。
 
【0057】
  前記電解液における(C)有機溶媒の配合量は特に限定されず、例えば、電解質の種類に応じて、適宜調節すればよい。通常は、リチウム原子(Li)の濃度が、好ましくは0.2〜3.0モル/kg、より好ましくは0.4〜2.0モル/kgとなるように、配合量を調節することが好ましい。
 
【0058】
  (E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、例えば、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、並びに(C’)溶媒を配合して、(A)カルボン酸リチウム塩と、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体と、を反応させる工程(以下、「反応工程」と略記する)と、前記反応後の反応液から、(C’)溶媒と、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体に由来する不純物と、を除去する工程(以下、「除去工程」と略記する)と、を有する製造方法で製造できる。かかる製造方法で得られた(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、(A)カルボン酸リチウム塩と(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体とが、錯形成反応して、形成されたものである。
 
【0059】
  この製造方法において、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体は、上記のものと同じである。
 
【0060】
  (E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0061】
  (E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体であることが特に好ましい。
 
【0062】
  前記(C’)溶媒は、前記反応工程における、(A)カルボン酸リチウム塩と(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体との錯形成反応を妨げず、これらを溶解可能なものであれば、特に限定されないが、有機溶媒が好ましく、常圧下又は減圧下での留去が可能なものが好ましい。
 
【0063】
  (C’)溶媒の沸点は、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、35℃以上であることが特に好ましい。そして、(C’)溶媒の沸点は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。下限値以上とすることで、前記反応工程における反応液を常温で撹拌することができるので、前記反応工程を一層容易に行うことができる。また、上限値以下とすることで、前記除去工程での留去により、(C’)溶媒を一層容易に除去できる。
 
【0064】
  好ましい前記有機溶媒としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル化合物(鎖状構造中に、炭酸エステル結合を有する化合物);アセトニトリル等のニトリル化合物;テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物(環状構造中にエーテル結合を有する化合物);ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル化合物(鎖状構造中にエーテル結合を有する化合物);酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のカルボン酸エステル化合物が例示できる。
  これらの中でも、前記有機溶媒としては、鎖状炭酸エステル化合物、ニトリル化合物、環状エーテル化合物が好ましい。
 
【0065】
  (C’)溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0066】
  前記除去工程において、前記不純物としては、(A)カルボン酸リチウム塩と反応せずに残存した、過剰量の(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体や、これから生じた副生物が挙げられ、前記副生物としてより具体的には、(B)成分である三フッ化ホウ素錯体において、反応前に元々三フッ化ホウ素に配位結合していた成分等が例示できる。これら不純物は、留去が可能なものである。
 
【0067】
  (E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が配合されてなる電解液は、例えば、(A)カルボン酸リチウム塩、並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体を配合するのに代えて、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を配合することにより、(A)カルボン酸リチウム塩、並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体が配合されてなる上記の電解液と同様の方法で得られる。例えば、(C)有機溶媒の配合量は特に限定されないが、リチウム原子(Li)の濃度が、好ましくは0.2〜3.0モル/kg、より好ましくは0.4〜2.0モル/kgとなるように、配合量を調節することが好ましい。
 
【0068】
  前記電解液は、(A)カルボン酸リチウム塩及び(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体以外に、さらにこれらに該当しない電解質(以下、「その他の電解質」と略記することがある)(リチウム源)が配合されてなるものでもよい。このような必須成分以外のその他の電解質が配合されてなる電解液は、例えば、(A)カルボン酸リチウム塩並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、あるいは(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体と共に、前記その他の電解質が、同じ(C)有機溶媒に配合されなるものでもよいし、(A)カルボン酸リチウム塩並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、あるいは(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が配合されてなる電解液と、この電解液とは異なる、前記その他の電解質が配合されなる電解液と、が混合されてなるものでもよい。
 
【0069】
  前記その他の電解質は特に限定されず、リチウムイオン二次電池において公知のものを用いることができ、具体的には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF
4)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO
2CF
3)
2、LiTFSI)等が例示できる。
 
【0070】
  前記その他の電解質は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0071】
  前記その他の電解質を併用する場合にも、リチウム原子(Li)の濃度が、好ましくは0.2〜3.0モル/kg、より好ましくは0.4〜2.0モル/kgとなるように、(C)有機溶媒の配合量を調節することが好ましい。
 
【0072】
  前記その他の電解質を併用する場合、(A)カルボン酸リチウム塩及び(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の総配合量(モル)に対する、前記その他の電解質の配合量(モル)の比率([その他の電解質の配合量]/[(A)カルボン酸リチウム塩及び(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の総配合量]、モル比)が、20以下であることが好ましく、17以下であることがより好ましい。上限値以下であることで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性がより向上する。このように、本発明においては、リチウム源又はその他の原料として(A)カルボン酸リチウム塩並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、あるいは(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を、少量用いた場合でも、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する効果が顕著に得られる。
 
【0073】
  前記電解液は、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、並びに前記その他の電解質以外に、本発明の効果を損なわない範囲内において、これらの成分に該当しない任意成分がさらに配合されてなるものでもよい。
  前記任意成分は、目的に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。
 
【0074】
  前記電解液は、前記必須成分((A)カルボン酸リチウム塩並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、あるいは(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体)、並びに必要に応じて前記その他の電解質及び/又は任意成分を配合することで製造できる。各成分の配合方法は、前記負極材の製造時における各成分の配合方法と同様である。ただし、混合時の組成は特に限定されない。
 
【0075】
  本発明に係るリチウムイオン二次電池は、前記負極及び電解液を備えたこと以外は、従来のリチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができ、例えば、前記負極及び電解液以外に、正極を備えて構成される。さらに必要に応じて、負極と正極との間に、セパレータが設けられていてもよい。
 
【0076】
  前記正極としては、集電体(正極集電体)上に、正極活物質、導電助剤及びバインダー等が配合されてなる正極材を用いて形成された正極活物質層を備えたものが例示できる。正極としては、市販品を用いてもよい。
 
【0077】
  正極における集電体、導電助剤及びバインダーは、いずれも負極における集電体、導電助剤及びバインダーと同様のものでよい。
 
【0078】
  正極活物質としては、一般式「LiM
xO
y(式中、Mは金属であり;x及びyは、金属Mと酸素Oとの組成比である。)」で表される金属酸リチウム化合物が例示できる。
  このような金属酸リチウム化合物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)等が例示でき、類似の組成であるオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)を用いることもできる。
  前記金属酸リチウム化合物は、前記一般式において、Mが複数種のものであってもよく、このような金属酸リチウム化合物としては、一般式「LiM
1pM
2qM
3rO
y(式中、M
1、M
2及びM
3は互いに異なる種類の金属であり;p、q、r及びyは、金属M
1、M
2及びM
3と酸素Oとの組成比である。)」で表されるものが例示できる。ここで、p+q+r=xである。
  このような金属酸リチウム化合物としては、LiNi
0.33Mn
0.33Co
0.33O
2等が例示できる。
  正極活物質は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
 
【0079】
  正極活物質層の厚さは、特に限定されないが、20〜60μmであることが好ましい。
 
【0080】
  正極は、前記負極材に代えて前記正極材を用いること以外は、前記負極と同様の方法で製造できる。
 
【0081】
  前記セパレータの材質は特に限定されないが、微多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
 
【0082】
  前記リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型等、種々のものに調節できる。
 
【0083】
  前記リチウムイオン二次電池は、公知の方法に従って、例えば、グローブボックス内又は乾燥空気雰囲気下で、前記電解液及び電極(負極、正極)を用いて製造すればよい。
 
【実施例】
【0084】
  以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0085】
  本実施例で使用した化学物質を以下に示す。
・遷移金属カルコゲナイド
  硫化モリブデン(IV)(MoS
2)(アルドリッチ社製)
  硫化銅(II)(CuS)(和光純薬社製)
・導電助剤
  アセチレンブラック(以下、「AB」と略記することがある)(電気化学工業社製)
・(A)カルボン酸リチウム塩
  シュウ酸リチウム(以下、「LOX」と略記することがある)(和光純薬社製)
・(B)三フッ化ホウ素錯体
  三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF
3・O(C
2H
5)
2)(アルドリッチ社製)
・(C)有機溶媒
  エチレンカーボネート(以下、「EC」と略記する)(キシダ化学社製)
  ジメチルカーボネート(以下、「DMC」と略記する)(キシダ化学社製)
  プロピレンカーボネート(以下、「PC」と略記する)(キシダ化学社製)
  ビニレンカーボネート(以下、「VC」と略記する)(アルドリッチ社製)
・その他
  水酸化リチウム・一水和物(LiOH・H
2O)(アルドリッチ社製)
  六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)(キシダ化学社製)
【0086】
<(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造>
[製造例1]
(シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の製造)
  シュウ酸リチウム(22.3g、223mmol)を丸底フラスコに量り取り、これを200mLのDMCに懸濁させた。これに23℃で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(63.3g、446mmol)をゆっくりと滴下した後、室温(23℃)で24時間撹拌し、反応液が透明になって不溶物が見られず、均一な溶液となったことを確認した。次いで、ロータリーエバポレーターを用いて反応液から溶媒及び不純物を留去した。その後、析出した白色の固体を60℃にて乾燥させることにより、白色粉末のシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体((COOLi)
2・(BF
3)
2)を得た(収率96.5%)。
【0087】
<電解液の製造>
[製造例2]
  シュウ酸リチウム(0.153g)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.426g)、並びに有機溶媒としてEC及びDMCの混合溶媒(2.42g)(EC:DMC=30:70(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように25℃で混合することにより、非水電解液である電解液(1)を得た。得られた電解液(1)の配合成分を表1に示す。また、以降の製造例で得られた電解液についても、同様に配合成分を表2に示す。
【0088】
[製造例3]
  製造例1で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体(0.35g)、並びに有機溶媒としてEC及びDMCの混合溶媒(2.65g)(EC:DMC=30:70(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように25℃で混合することにより、非水電解液である電解液(2)を得た。
【0089】
[製造例4]
  製造例1で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体(0.35g)、並びに有機溶媒としてPC及びVCの混合溶媒(2.65g)(PC:VC=90:10(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように25℃で混合することにより、非水電解液である電解液(3)を得た。
【0090】
[製造例5]
  製造例1で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体(0.04g)、六フッ化リン酸リチウム(0.41g)、並びに有機溶媒としてPC及びVCの混合溶媒(2.55g)(PC:VC=90:10(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように25℃で混合することにより、非水電解液である電解液(4)を得た。
【0091】
[製造例6]
  六フッ化リン酸リチウム(0.455g)、並びに有機溶媒としてEC及びDMCの混合溶媒(2.545g)(EC:DMC=30:70(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように25℃で混合することにより、非水電解液である電解液(5)を得た。
【0092】
[製造例7]
  六フッ化リン酸リチウム(0.455g)、並びに有機溶媒としてPC及びVCの混合溶媒(2.545g)(PC:VC=90:10(体積比))をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるように25℃で混合することにより、非水電解液である電解液(6)を得た。
【0093】
【表1】
【0094】
<リチウムイオン二次電池の製造>
[実施例1]
(シリコンナノ粒子の製造)
  シリコン屑ウェハ(信越半導体社製)(150g)、φ20mmジルコニアボールを専用ジルコニア容器に入れ、遊星型ボールミル(P−6:FRITSCH)で400rpm、30分の条件でシリコン屑ウェハを粗粉砕した。
  得られた粗粉砕シリコン(100g)、2−プロパノール(120g)、φ1mmジルコニアビーズを専用ジルコニア容器に入れ、遊星型ボールミル(P−6:FRITSCH)で400rpm、60分の条件で粗粉砕シリコンを粉砕し、平均粒子径が約150nmである微粉末シリコンの2−プロパノール分散液を得た。
  得られた微粉末シリコンの2−プロパノール分散液(110g)、2−プロパノール(40g)、φ0.5mmジルコニアビーズを専用ジルコニア容器に入れ、遊星型ボールミル(P−6:FRITSCH)で400rpm、90分の条件で微粉末シリコンを粉砕し、平均粒子径が約100nmであるシリコンナノ粒子の2−プロパノール分散液を得た。
  得られたシリコンナノ粒子の2−プロパノール分散液を遠心分離機による分離及び回収に供し、シリコンナノ粒子の2−プロパノールウェットケーキ(固形分66質量%)を得た。
【0095】
(負極材の製造)
  水酸化リチウム・一水和物(1.63g)を瓶に計り取り、これに水(7g)を加えて、1時間混合した。そして、得られた全量のLiOH水溶液に、35質量%ポリアクリル酸水溶液(PAA水溶液、アルドリッチ社製)(3.5g)を加えて、24時間撹拌し、バインダーとしてポリアクリル酸リチウム(PAALi)を20質量%の濃度で含むPAALi水溶液を得た。
  得られたPAALi水溶液(1g、PAALiとして0.2g)、上記で得られたシリコンナノ粒子のウェットケーキ(2.4g、シリコンナノ粒子として1.6g)、導電助剤としてアセチレンブラック(0.2g)をそれぞれ容器に計り取り、これにさらに水を加えて、配合成分の総量に占める、溶媒以外の配合成分(PAALi、シリコンナノ粒子及びアセチレンブラック)の合計配合量の比率が、20質量%となるように調節した。
  次いで、自転・公転ミキサー(シンキー社製「ARE−250」)を用いて配合成分を25℃で3分間混合した後、ホモジナイザー(東京理化器械社製「VCX−130PB」)を用いて5分間分散させ、さらに、自転・公転ミキサー(シンキー社製「ARE−250」)を用いて25℃で1分間撹拌し、次いで25℃で1分間脱泡させることで、スラリー状の負極材(1)を得た。
  得られた負極材(1)における各成分の配合量と、ケイ素、アセチレンブラック及びPAALiの総配合量に占める各成分の配合量の比率(配合比率)とを、表2に示す。表2中、例えば、「AB  0.2g(10質量%)」は、アセチレンブラックの配合量が0.2gで、前記配合比率が10質量%であることを意味する。また、「−」は、その成分が未配合であることを意味する。
【0096】
(負極の製造)
  銅箔からなる厚さ18μmの集電体上に、乾燥後の厚さが30μmとなるように、ミニコーター(宝仙社製「MC20」)を用いて、得られた負極材(1)を塗布し、この負極材(1)を、50℃のホットプレートを用いて2時間乾燥させ、さらに真空乾燥機を用いて100℃で24時間真空乾燥させた。
  次いで、ロールプレス機(テスター産業社製)を用いて、集電体上の乾燥後の負極材(1)を、1500Nの圧力でプレスした後、グローブボックスの乾燥炉内で、100℃で6時間乾燥させることで、集電体上に負極活物質層が形成された負極(1)を得た。
【0097】
(リチウムイオン二次電池の製造)
  負極(1)、及び市販品の三元系正極(宝仙社製)を、それぞれ直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーからなるものを用い、これを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。得られた正極、セパレータ及び負極(1)を、この順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、製造例2で得られた電解液(1)を、セパレータ、負極(1)及び正極に含浸させ、さらに負極(1)上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることにより、コイン型セルであるリチウムイオン二次電池(1)を製造した。負極材からリチウムイオン二次電池までの対応関係を表3に示す。
【0098】
[実施例2〜6、比較例1、参考例1〜3]
  負極材製造時の各配合成分の種類とその配合量とを、表2に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、負極材(2)〜(3)、負極(2)〜(3)、並びにリチウムイオン二次電池(2)〜(9)及び(R1)を製造した。負極材からリチウムイオン二次電池までの対応関係を表3に示す。
  ただし、負極材(2)及び(3)の製造時には、遷移金属カルコゲナイドを電極活物質、導電助剤及びバインダーと共に添加して配合した。また、負極材(3)の製造時には、(F)
カルボン酸及び/又はカルボン酸リチウム塩も、電極活物質、導電助剤及びバインダーと共に添加して配合した。
【0099】
<リチウムイオン二次電池の充放電特性の評価>
  上記で得られたリチウムイオン二次電池について、25℃において0.2Cの定電流定電圧充電を、上限電圧4.2Vとして電流値が0.1Cに収束するまで行った後、0.2Cの定電流放電を2.0Vまで行った。その後、充放電電流を1Cとして同様の方法で、充放電サイクルを繰り返し行い、50サイクルでの容量維持率((50サイクル目の放電容量(mAh)/1サイクル目の放電容量(mAh))×100)(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
  上記結果から明らかなように、(A)カルボン酸リチウム塩及び(B)三フッ化ホウ素錯体が配合されてなる電解液(1)を用いたリチウムイオン二次電池(1)(実施例1)と、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が配合されてなる電解液(2)を用いたリチウムイオン二次電池(2)(実施例2)は、これら以外の電解液(5)を単独で用い、負極として同じものを用いたリチウムイオン二次電池(R1)(比較例1)よりも、容量維持率が高く、サイクル特性に優れていた。
  また、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が配合されてなる電解液(2)、(3)を用いたリチウムイオン二次電池(3)、(4)(実施例3、4)と、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体及びその他の電解質が配合されてなる電解液(4)を用いたリチウムイオン二次電池(5)(実施例5)は、これら以外の電解液(5)、(6)を単独で用い、負極として同じものを用いたリチウムイオン二次電池(7)、(8)(参考例1、2)よりも、容量維持率が高く、サイクル特性に優れていた。そして、実施例5及び参考例2の結果から明らかなように、電解液は、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が少量配合されただけでも、全く配合されていない場合より、サイクル特性が顕著に向上することが確認できた。
  また、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が配合されてなる電解液(3)を用いたリチウムイオン二次電池(6)(実施例6)は、これ以外の電解液(6)を単独で用い、負極として同じものを用いたリチウムイオン二次電池(9)(参考例3)よりも、容量維持率が高く、サイクル特性に優れていた。
  そして、実施例3、4の結果から明らかなように、同じ電極を用いた場合には、電解液(3)を用いた場合の方が、電解液(2)を用いた場合よりも、容量維持率が高く、サイクル特性に優れていた。このように、(C)有機溶媒として、PC/VCの混合溶媒を用いた場合の方が、EC/DMCの混合溶媒を用いた場合よりも、サイクル特性に優れていた。
  また、実施例2、3の結果から明らかなように、同じ電解液を用いた場合には、負極材(2)(負極(2))を用いた場合の方が、負極材(1)(負極(1))を用いた場合よりも、容量維持率が高く、サイクル特性に優れていた。このように、遷移金属カルコゲナイドが配合された負極材を用いた場合の方が、遷移金属カルコゲナイドが配合されていない負極材を用いた場合よりも、サイクル特性に優れていた。
【0103】
<リチウムイオン二次電池の製造>
[実施例7〜13、比較例2、参考例4〜9]
  負極材製造時の各配合成分の種類とその配合量とを、表4に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、負極材(4)〜(10)、負極(4)〜(10)、並びにリチウムイオン二次電池(10)〜(22)及び(R2)を製造した。負極材からリチウムイオン二次電池までの対応関係を表5に示す。なお、以下に示す負極材(6)は、表2に示す負極材(2)と同じものである。
【0104】
<リチウムイオン二次電池の充放電特性の評価>
  上記で得られたリチウムイオン二次電池について、25℃において0.2Cの定電流定電圧充電を、上限電圧4.2Vとして電流値が0.1Cに収束するまで行った後、0.2Cの定電流放電を1.5Vまで行った。その後、充放電電流を1Cとして同様の方法で、充放電サイクルを繰り返し行い、50サイクルでの容量維持率((50サイクル目の放電容量(mAh)/1サイクル目の放電容量(mAh))×100)(%)を算出した。結果を表5に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
  上記結果から明らかなように、(A)カルボン酸リチウム塩及び(B)三フッ化ホウ素錯体が配合されてなる電解液(1)を用いたリチウムイオン二次電池(10)〜(16)(実施例7〜13)は、これ以外の電解液(5)を単独で用い、負極として同じものを用いたリチウムイオン二次電池(17)〜(22)及び(R2)(参考例4〜9、比較例2)よりも、容量維持率が高く、サイクル特性に優れていた。