(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885775
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】伝送線路及び高周波回路
(51)【国際特許分類】
H01P 1/04 20060101AFI20160301BHJP
H01P 5/02 20060101ALI20160301BHJP
H01P 5/08 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
H01P1/04
H01P5/02 601Z
H01P5/08 D
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-112878(P2014-112878)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2016-6918(P2016-6918A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2015年1月14日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】上道 雄介
【審査官】
岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−289201(JP,A)
【文献】
特開2005−012699(JP,A)
【文献】
特開2007−104156(JP,A)
【文献】
特開2012−175624(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0206311(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P1/04
H01P5/02
H01P5/08−5/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポスト壁が形成された誘電体層、並びに、該誘電体層を介して互いに対向する第1の面状導体及び第2の面状導体により構成されたポスト壁導波路であって、上記第1の面状導体及び上記第2の面状導体により上下を挟まれ、上記ポスト壁により左右を挟まれた領域を導波領域とするポスト壁導波路と、
管壁が上記第1の面状導体に接続され、管内が上記第1の面状導体に形成された単一の開口を介して上記導波領域に連通する導波管と、を含み、
上記導波領域は、一方の端部において幅が左右に拡げられており、
上記開口は、上記ポスト壁導波路を上面視したときに、上記導波領域において幅が左右に拡げられている区間である拡幅区間の中央部と重なり、
上記拡幅区間の幅は、当該拡幅区間においてTE20モードが励振しないよう、上記導波領域において幅が左右に拡げられていない区間である非拡幅区間を導波するTE10モードの波長λの0.78倍以下に設定されている、
ことを特徴とする伝送線路。
【請求項2】
上記誘電体層には、上記拡幅区間と、上記導波領域において幅が左右に拡げられていない区間である非拡幅区間との境界を構成する領域に左右に並んで配置された一対の内部ポストが形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の伝送線路。
【請求項3】
上記一対の内部ポストは、上記拡幅区間において上記ポスト壁を構成するポストのうち、最も上記非拡幅区間側にある一対のポスト、及び、上記非拡幅区間において上記ポスト壁を構成するポストのうち、最も上記拡幅区間側にある一対のポストを頂点とする台形領域内に配置されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の伝送線路。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の伝送線路と、
他の誘電体層、並びに、該他の誘電体層を介して互いに対向する上記第1の面状導体及び線状導体により構成されたマイクロストリップ線路と、
上記線状導体に接続されたRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)と、を備えている、
ことを特徴とする高周波回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポスト壁導波路と導波管とを含む伝送線路に関する。また、そのような伝送線路を含む高周波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波帯又は準ミリ波帯に属する高周波信号を伝送する伝送媒体としては、マイクロストリップ線路、導波管、ポスト壁導波路などの伝送線路が用いられている。ただし、これらの伝送線路を組み合わせて用いる場合、接続点における反射損失が大きくならないようにする工夫が必要となる。
【0003】
図6は、非特許文献1に記載の伝送線路5の構成を示す分解斜視図である。非特許文献1に記載の伝送線路5は、
図6に示すように、ポスト壁導波路51と中空導波管52とを含む。
【0004】
ポスト壁導波路51は、ポスト壁512aが形成された誘電体層512、並びに、誘電体層512を介して互いに対向する第1の面状導体511及び第2の面状導体513により構成された導波路である。ポスト壁導波路51では、誘電体層512の内部、具体的には、面状導体511,513に上下を挟まれ、ポスト壁512aに左右を挟まれた領域512bが、電磁波を導波する導波領域として機能する。第1の面状導体511には、中空導波管52を接続するための開口511aが形成されている。開口511aは、ポスト壁導波路51を上面視したときに、導波領域512bの端部と重なる位置に配置される。
【0005】
中空導波管52は、筒状導体を管壁52aとする導波管である。中空導波管52の管壁52aは、ポスト壁導波路51の第1の面状導体511に接続され、中空導波管52の管内52bは、ポスト壁導波路51の面状導体511に形成された開口511aを介して、ポスト壁導波路51の導波領域512bの端部と連通する。
【0006】
ポスト壁導波路51と中空導波管52とを上記のように接続する場合、ポスト壁512aが開口511aに近接するため、ポスト壁512aの形成が困難になるという問題が生じる。そこで、非特許文献1に記載の伝送線路5では、導波領域512bの端部を含む区間において、その幅を左右に拡げる構成が採用されている。
【0007】
しかしながら、
図7(a)に示すように、拡幅区間512b1と非拡幅区間512b2との段差Δを1ポスト間隔(0.8mm)とした場合、以下の問題を生じることが非特許文献1に記載されている。すなわち、拡幅区間512b1と非拡幅区間512b2との段差Δを1ポスト間隔とした場合、拡幅区間512b1の幅W1は、非拡幅区間512b2を導波するTE10モードの波長(3.35mm)と同一になる。このため、拡幅区間512b1には、TE20モードが励振され易くなる。拡幅区間512b1に励振されたTE20モードの電界分布は、
図7(a)において鎖線で示すような姿態(等電位線形状)を有し、振幅が最大になる部分が開口511aの縁と重なる。このため、開口511aに位置ズレが生じると、反射係数が大きく変化する。したがって、反射損失を小さく抑えるために、開口511aの形成位置に高い精度が要求されるという問題を生じる。
【0008】
そこで、非特許文献1では、
図7(b)に示すように、拡幅区間512b1と非拡幅区間512b2との段差Δを2ポスト間隔(1.6mm)とする構成が検討されている。拡幅区間512b1と非拡幅区間512b2との段差Δを2ポスト間隔とした場合、拡幅区間512b1の幅W1は、非拡幅区間512b2を導波するTE10モードの波長の約1.5倍(4.95mm)となる。このため、拡幅区間512b1には、TE30モードが励振され易くなる。TE30モードの電界分布は、
図7(b)において鎖線で示すような姿態を有し、振幅が最大となる部分が開口511aの縁と重なることがない。このため、開口511aに位置ズレが生じても、反射係数が大きく変化することがない。したがって、反射損失を小さく抑えるために、開口511aの形成位置に高い精度が要求されるという問題を生じることがない。
【0009】
なお、特許文献1にも、空洞導波管(上述した中空導波管に相当)に結合された導波路基板(上述したポスト壁導波路に相当)において、導波路基板の導波領域の幅を拡げる構成が開示されている。ただし、特許文献1に記載の導波路基板においては、空洞導波管との間に介在する導体層に形成された二重スリットによって、空洞導波管との接続を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−340317号公報(公開日:2006年12月24日)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】李 政彦・広川 二郎・安藤 真、”ポスト壁導波路中空導波管変換器における開口位置ずれに強いステップ構造”、2007年、電気情報通信学会総合大会、B−1−97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1に記載の伝送線路5において、拡幅区間512b1と非拡幅区間512b2との段差Δを2ポスト間隔(1.6mm)とする構成を採用した場合、反射係数が所定の値以下となる周波数帯域が狭くなるという新たな問題を生じる。非特許文献1には、その原因として、拡幅区間512b1の体積が大きくなることが挙げられている。
【0013】
本発明は、上記の問題になされたものであり、その目的は、ポスト壁導波路と導波管とを含む伝送線路において、ポスト壁の形成が容易でありながら、これらを接続するための開口の形成位置に高い精度が要求されるという問題、及び、反射係数が所定の値以下となる周波数帯域が狭くなるという問題を生じ難い伝送線路を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る伝送線路は、ポスト壁が形成された誘電体層、並びに、該誘電体層を介して互いに対向する第1の面状導体及び第2の面状導体により構成されたポスト壁導波路であって、上記第1の面状導体及び上記第2の面状導体により上下を挟まれ、上記ポスト壁により左右を挟まれた領域を導波領域とするポスト壁導波路と、管壁が上記第1の面状導体に接続され、管内が上記第1の面状導体に形成された単一の開口を介して上記導波領域に連通する導波管と、を含み、上記導波領域は、一方の端部において幅が左右に拡げられており、上記開口は、上記ポスト壁導波路を上面視したときに、上記導波領域において幅が左右に拡げられている区間である拡幅区間の中央部と重なり、上記拡幅区間の幅は、上記導波領域において幅が左右に拡げられていない区間である非拡幅区間を導波するTE10モードの波長λよりも小さい、ことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る伝送線路においては、導波領域の幅を一方の端部において左右に拡げる構成が採用されている。これにより、第1の面状導体に形成された開口にポスト壁が近接し難くなり、その結果、ポスト壁の形成が容易になる。
【0016】
しかも、本発明に係る伝送線路においては、拡幅区間の幅を、非拡幅区間を導波するTE10モードの波長λよりも小さくする構成が採用されている。これにより、拡幅区間にTE20モード及びTE30モードが励振し難くなり、その結果、開口の形成位置に高い精度が要求されるという問題、及び、反射係数が所定の値以下となる周波数帯域が狭くなるという問題が生じ難くなる。
【0017】
したがって、本発明によれば、ポスト壁の形成を容易でありながら、更に、ポスト壁導波路と導波管とを接続するための開口の形成位置に高い精度が要求されるという問題、及び、反射係数が所定の値以下となる周波数帯域が狭くなるという問題が生じ難い伝送線路を実現することができる。
【0018】
なお、本発明により、上記問題が発生し難くなるのは、ポスト壁導波路の導波領域と導波管の管内とを、導波領域の拡幅区間の中央部と重なる位置に設けられた単一の開口を介して連通させているためである。特許文献1に記載の導波路基板のように、空洞導波管の管内と導波路基板の導波領域とを、導波領域の拡幅区間と重なる位置に設けられた二重スリットを介して連通させている場合、上記問題の発生を回避することはできない。
【0019】
本発明に係る伝送線路において、上記拡幅区間の幅は、上記波長λの0.922倍以下である、ことが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、反射係数が所定の値(例えば−10dB)以下となる周波数帯域の帯域幅を、導波領域の幅を拡げない場合の帯域幅と同じか、又は、それよりも広くすることができる。
【0021】
本発明に係る伝送線路において、上記拡幅区間の幅は、上記波長λの0.78倍以下である、ことが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、拡幅区間にTE20モード及びTE30モードが励振されることを、より確実に防止することができる。これにより、開口の形成位置に高い精度が要求されるという問題、及び、反射係数が所定の値以下となる周波数帯域が狭くなるという問題が発生することを、より確実に防止することができる。
【0023】
本発明に係る伝送線路において、上記誘電体層には、上記拡幅区間と上記非拡幅区間との境界を構成する領域に左右に並んで配置された一対の内部ポストが形成されている、ことが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、拡幅区間と非拡幅区間との間の導波路幅の不整合、又は、第1の面状導体に形成された開口にて生じる反射波を、内部ポストにて生じる反射波によって打ち消すことができる。したがって、上記の構成によれば、反射係数をより小さくすることができる。
【0025】
本発明に係る伝送線路に、他の誘電体層、並びに、該他の誘電体層を介して互いに対応する上記第1の面状導体及び線状導体により構成されたマイクロストリップ線路と、上記線状導体に接続されたRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)と、を付加した高周波回路も、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ポスト壁導波路と導波管とを含む伝送線路において、ポスト壁の形成が容易でありながら、これらを接続するための開口の形成位置に高い精度が要求されるという問題、及び、反射係数が所定の値以下となる周波数帯域が狭くなるという問題が生じ難い伝送線路を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る伝送線路の構成を示す分解斜視図である。
【
図2】
図1に示す伝送線路が備えるポスト壁導波路の上面図である。(a)は、導波領域の形状及び内部ポストの配置の第1の具体例を示し、(b)は、導波領域の形状及び内部ポストの配置の第2の具体例を示す。
【
図3】
図1に示す伝送線路において導波領域に励振される導波モードの姿態を示すグラフである。
【
図4】
図1に示す伝送線路において拡幅区間と非拡幅区間との段差Δを0μm、50μm、150μm、200μm、400μmとしたときに得られる反射係数の周波数依存性を表すグラフである。
【
図5】
図1に示す伝送線路を備える高周波回路の構成を示す分解斜視図である。
【
図6】非特許文献1に記載の伝送線路の構成を示す分解斜視図である。
【
図7】
図6に示す伝送線路において導波領域に励振される導波モードの姿態を示すグラフである。(a)は、拡幅区間の幅を管内波長と一致させたときに励振される導波モードを示し、(b)は、拡幅区間の幅を管内波長の1.5倍としたときに励振される導波モードを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る伝送路の一実施形態について、図面に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0029】
〔伝送線路の構成〕
まず、本実施形態に係る伝送線路1の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、伝送線路1の構成を示す分解斜視図である。
【0030】
伝送線路1は、61.5GHzを中心周波数とする予め定められた周波数帯域(57GHz以上66GHz以下の周波数帯域)に属する高周波信号を伝送する伝送線路であり、
図1に示すように、ポスト壁導波路11と中空導波管12とを含んでいる。なお、以下の説明においては、伝送線路1を伝送される高周波信号が属する周波数帯域のことを、伝送線路1の「動作帯域」と記載する。
【0031】
ポスト壁導波路11は、誘電体層112、並びに、誘電体層112を介して互いに対向する第1の面状導体111及び第2の面状導体113により構成された導波路である。誘電体層112には、柵状に配列された複数のポスト112a1,112a2,…からなるポスト壁112aが形成されている。各ポスト112ai(i=1,2,…)は、上端が第1の面状導体111に接続され、下端が第2の面状導体113に接続された円筒状導体であり、例えば、誘電体層112を貫通する貫通孔の壁面に導体メッキを施すことにより形成される。
【0032】
ポスト壁導波路11においては、誘電体層112の内部、具体的には、面状導体111,113に上下を挟まれ、ポスト壁112aに左右を挟まれた領域112bが、電磁波を導波する導波領域として機能する。ポスト壁導波路11における導波領域112bの形状については、参照する図面を代えて後述する。
【0033】
第1の面状導体111には、開口111aが形成されている。開口111aは、ポスト壁導波路11に中空導波管12を接続するための開口としては唯一の(単一の)開口である。開口111aは、ポスト壁導波路11を上面視したときに、導波領域112bの一方の端部、具体的には、導波領域112bの拡幅区間112b1(後述)の中央部と重なる位置に配置されている。開口111aの形状は、長方形であり、開口111aの向きは、その長辺が導波領域112bの長手方向(
図1におけるy軸方向)と直交する向きである。
【0034】
なお、誘電体層112には、更に、一対の内部ポスト112c1,112c2が形成されている。各内部ポスト112ci(i=1,2)は、ポスト壁112aを構成する各ポスト112aiと同様、上端が面状導体111に接続され、下端が面状導体113に接続された円筒状導体であり、例えば、誘電体層112を貫通する貫通孔の壁面に導体メッキを施すことにより形成される。ポスト壁導波路11における内部ポスト112c1,112c2の配置については、参照する図面を代えて後述する。
【0035】
中空導波管12は、筒状導体を管壁12aとする導波管である。中空導波管12の管内12bは、空気で満たされている。本実施形態においては、中空導波管12として、管壁12aの横断面が長方形となる方形導波管を用いる。中空導波管12の管壁12aは、ポスト壁導波路11の第1の面状導体111に接続され、中空導波管12の管内12bは、面状導体111に形成された開口111aを介して、ポスト壁導波路11の導波領域112bの端部と連通する。
【0036】
〔ポスト壁導波路における導波領域の形状及び内部ポストの配置〕
次に、ポスト壁導波路11における導波領域112bの形状及び内部ポスト112c1,112c2の配置について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、ポスト壁導波路11の上面図であり、(a)及び(b)は、それぞれ、導波領域112bの形状及び内部ポスト112c1,112c2の配置の具体例を示す。
図3は、導波領域112bに励振される導波モードの姿態を示すグラフ(電界強度の等高線プロット)である。
【0037】
伝送線路5において、導波領域112bは、
図2に示すように、一方の端部を含む区間においてその幅が左右に拡げられている。これにより、ポスト壁112aが開口111aに近接し難くなり、その結果、ポスト壁112aの形成が容易になる。なお、以下の説明においては、導波領域112bを構成する区間のうち、その幅が左右に拡げられている区間112b1のことを「拡幅区間」と記載し、その幅が左右に拡げられていない区間112b2のことを「非拡幅区間」と記載する。
【0038】
また、伝送線路5においては、拡幅区間112b1の幅W1を、非拡幅区間112b2を導波するTE10モードの61.5GHz(動作帯域の中心周波数)における波長λよりも小さくする構成が採用されている。これにより、拡幅区間112b1にTE20モード及びTE30モードが励振し難くなり、その結果、開口111aの形成位置に高い精度が要求されるという問題、及び、反射係数が所定の値以下となる周波数帯域が狭くなるという問題が発生し難くなる。なお、以下の説明においては、非拡幅区間112b2を導波するTE10モードの波長のことを「管内波長」と記載する。
【0039】
一実施例として、誘電体層112の比誘電率を3とし、誘電体層112の厚みを0.6mmとし、非拡幅区間112b2の幅W2を2.4mmとした場合、61.5GHzにおける管内波長λは3.47mmになる。この場合、拡幅区間112b1と非拡幅区間112b2との段差Δを0.535mmよりも小さくすれば、拡幅区間112b1の幅W1を管内波長λよりも小さくすることができる。拡幅区間112b1と非拡幅区間112b2との段差Δを0.05mmとした場合、すなわち、拡幅区間112b1の幅W1を2.5mmとしたときに拡幅区間112b1に励振される導波モードの姿態を図示すれば、
図3のようになる。
図3によれば、拡幅区間112b1に励振される導波モードがTE10モードであること、すなわち、TE20モードでもTE30モードでもないことが確かめられる。
【0040】
ここで、拡幅区間112b1の幅W1とは、拡幅区間112b1において左側壁を構成するポスト112a1,112a3,…,112a11の中心軸を通る平面と、拡幅区間112b1において右側壁を構成するポスト112a2,112a4,…,112a12の中心軸を通る平面との間の距離のことを指す。また、非拡幅区間112b2の幅W2とは、非拡幅区間112b2において左側壁を構成するポスト112a13,112a15,…の中心軸を通る平面と、非拡幅区間112b2において右側壁を構成するポスト112a14,112a16,…の中心軸を通る平面との間の距離のことを指す。なお、ポスト112a1,112a2が、
図2(a)に示すように導波領域112bの角に配置される場合であっても、
図2(b)に示すように導波領域112bの角に配置されない場合であっても、この定義に変わるところはない。
【0041】
また、拡幅区間112b1と非拡幅区間112b2との段差Δとは、拡幅区間112b1において左側壁を構成するポスト112a1,112a3,…,112a11の中心軸を通る平面と、非拡幅区間112b2において左側壁を構成するポスト112a13,112a15,…の中心軸を通る平面との間の距離、及び、拡幅区間112b1において右側壁を構成するポスト112a2,112a4,…,112a12の中心軸を通る平面と、非拡幅区間112b2において右側壁を構成するポスト112a14,112a16,…の中心軸を通る平面との間の距離のことを指す。なお、ポスト112a1,112a2が、
図2(a)に示すように導波領域112bの角に配置される場合であっても、
図2(b)に示すように導波領域112bの角に配置されない場合であっても、この定義に変わるところはない。
【0042】
内部ポスト112c1,112c2は、拡幅区間112b1と非拡幅区間112b2との境界を構成する領域に左右に並んで配置される。具体的には、拡幅区間112b1の側壁を構成するポスト112a1,112a2,…のうち最も非拡幅区間112b2側にある一対のポスト112a11,112a12、及び、非拡幅区間112b2の側壁を構成するポスト112a13,112a14,…のうち最も拡幅区間112b1側にある一対のポスト112a13,112a14を頂点とする台形領域(
図2においてドットでハッチングされた領域)に左右に並んで配置される。
【0043】
内部ポスト112c1,112c2を上記のように配置することによって、動作帯域における反射係数を小さく抑えることが可能になる。その理由としては、(1)開口111a近傍への磁界の閉じ込めが生じ、その結果、ポスト壁導波路11の導波モードと中空導波管12の導波モードとの間の結合が強くなること、及び、(2)内部ポスト112c1,112c2で生じる反射波が、拡幅区間112b1と非拡幅区間112b2との導波路幅の不整合で生じる反射波、及び、開口111aで生じる反射波を打ち消すことなどが考えられる。
【0044】
〔好ましい拡幅区間の幅〕
次に、好ましい拡幅区間112b1の幅W1について、
図4を参照して説明する。
図4は、拡幅区間112b1と非拡幅区間112b2との段差Δを0μm、50μm、150μm、200μm、400μmとしたときに得られる反射係数の周波数依存性を表すグラフである。なお、
図4に示すグラフは、誘電体層112の比誘電率を3とし、誘電体層112の厚みを0.6mmとし、非拡幅区間112b2の幅W2を2.4mmとしたときに得られたものである。各ポスト112aiの直径は200μmとし、互いに隣接する2つのポスト112ai,112ajの間隔は800μmとしている。
【0045】
図4に示すグラフから、以下のことが読み取れる。
【0046】
(1)導波領域112bの端部を含む区間において、その幅を左右に拡げる構成を採用すると、反射係数が極小となる周波数(以下「極小反射周波数」と記載)が2つに分かれ、その結果、反射係数が−10dB以下となる周波数帯域(「低反射帯域」と記載)の帯域幅が拡大する。
【0047】
(2)拡幅区間112b1と非拡幅区間112b2との段差Δを大きくすると、低周波側の極小反射周波数が次第に低下し、その結果、低反射帯域の帯域幅が次第に拡大する。この傾向は、少なくとも、この段差Δが200μmになるまで続く。
【0048】
(3)拡幅区間112b1と非拡幅区間112b2との段差Δを更に大きくすると、低周波側の極小周波数における反射係数の値が次第に上昇し、その結果、低反射帯域の帯域幅が次第に縮小する。この段差Δが400μmになると、低反射帯域の帯域幅が、導波領域112bの幅を拡大しない場合(Δ=0の場合)の低反射帯域の帯域幅と同一になる。
【0049】
以上のことから、拡幅区間112b1と非拡幅区間112b2との段差Δを400μm以下にすれば、導波領域112bの幅を拡大しない場合よりも低反射帯域の帯域幅を広くすることができる。すなわち、拡幅区間112b1の幅W1を3.20mm以下にすれば、導波領域112bの幅を拡大しない場合よりも低反射帯域の帯域幅を広くすることができる。
【0050】
好ましい拡幅区間112b1の幅W1の上限値3.20mmは、管内波長λ=3.47mmの0.922倍に相当する。したがって、好ましい拡幅区間112b1の幅W1の範囲は、0<W1≦0.922×λと表現することもできる。
【0051】
なお、拡幅区間112b1の幅W1を管内波長λの0.78倍以下にすれば、拡幅区間112b1におけるTE20モードの励振を確実に回避することができる。このとき、拡幅区間112b1においてTE30モードが励振し得ないことは言うまでもない。この観点から、拡幅区間112b1の幅W1は、管内波長λの0.78倍以下であることが好ましい。そうすることにより、開口111aの形成位置に高い精度が要求されるという問題、及び、低反射帯域の帯域幅が狭くなるという問題を確実に回避することができるからである。
【0052】
〔高周波回路〕
最後に、伝送線路1を備えた高周波回路10について、
図5を参照して説明する。
図5は、高周波回路10の構成を示す分解斜視図である。
【0053】
高周波回路10は、伝送線路1に、マイクロストリップ線路13とRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)14とを付加したものである。
【0054】
マイクロストリップ線路13は、誘電体層131、並びに、誘電体層131を介して互いに対向する第1の面状導体111及び線状導体132により構成されている。第1の面状導体111は、マイクロストリップ線路13の構成要素であると共に、ポスト壁導波路11の構成要素でもある。
【0055】
誘電体層112には、導波領域112bの内部に給電ピン112dが形成されている。給電ピン112dは、例えば、誘電体層112の上面から掘り込まれた非貫通孔の壁面に導体メッキを施すことにより形成される。給電ピン112dの下端は、第2の面状導体113と接触していない。このため、給電ピン112dは、第2の面状導体113から絶縁されている。また、第1の面状導体111には、給電ピン112dの上端との接触を避けるための開口111bが形成されている(給電ピン112dの上端と第1の面状導体111との間のギャップがアンチパッドを構成する)。このため、給電ピン112dは、第1の面状導体111からも絶縁されている。誘電体層131には、給電ポスト131aが形成されている。給電ポスト131aは、下端が給電ピン112dに接続され、上端が線状導体132の一端に接続された円筒状導体であり、例えば、誘電体層131を貫通する貫通孔の壁面に導体メッキを施すことにより形成される。
【0056】
線状導体132の他端(給電ピン112dに接続される端部と反対側の端部)は、RFIC14の裏面に形成された信号端子(不図示)に接続される。これにより、RFIC14から出力された高周波信号を、マイクロストリップ線路13を介してポスト壁導波路11に入力すること、及び、ポスト壁導波路11から出力された高周波信号を、マイクロストリップ線路13を介してRFIC14に入力することが可能になる。この際、上述した給電ピン112dは、マイクロストリップ線路13を導波するTEMモードの電磁波と、ポスト壁導波路11を導波するTE10モードの電磁波とを相互に変換するモード変換構造として機能する。
【0057】
〔付記事項〕
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ミリ波帯又は準ミリ波帯に属する高周波信号を伝送する伝送線路として好適に利用することができる。例えば、レーダー装置やセンシング装置などに用いられる伝送線路として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 伝送線路
11 ポスト壁導波路
111 第1の面状導体
111a 開口
112 誘電体層
112a ポスト壁
112a1,112a2,・・・ ポスト
112b 導波領域
112b1 拡幅区間
112b2 非拡幅区間
112c1,112c2 内部ポスト
112d 給電ピン
113 第2の面状導体
12 中空導波管
12a 管壁
12b 管内
10 高周波回路
13 マイクロストリップ線路
131 誘電体層(他の誘電体層)
131a 給電ポスト
132 線状導体
14 RFIC