(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885849
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】波動歯車装置と出力部材の締結固定方法
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20160303BHJP
F16D 1/033 20060101ALI20160303BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20160303BHJP
F16D 69/00 20060101ALI20160303BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16D1/02 C
F16D1/02 Z
F16D69/00 G
F16D69/02 D
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-533497(P2014-533497)
(86)(22)【出願日】2013年5月8日
(86)【国際出願番号】JP2013002965
(87)【国際公開番号】WO2014181373
(87)【国際公開日】20141113
【審査請求日】2014年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
(72)【発明者】
【氏名】保科 達郎
【審査官】
高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−083211(JP,A)
【文献】
特開昭50−089741(JP,A)
【文献】
実開昭63−086454(JP,U)
【文献】
実開平03−088884(JP,U)
【文献】
特開2010−190373(JP,A)
【文献】
特開平10−059192(JP,A)
【文献】
特開平10−018423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/02
F16D 1/033
F16D 69/00
F16D 69/02
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波動歯車装置の可撓性外歯歯車と、出力部材とを、締結用摩擦板を挟み、締結固定する波動歯車装置と出力部材の締結固定方法であって、
前記締結用摩擦板は、所定板厚の摩擦板本体と、前記摩擦板本体の両側の表面に所定ピッチで形成された所定サイズの係合用突起とを有し、
前記係合用突起は、前記摩擦板本体の前記表面から垂直に突出している先細り形状の突起であり、
前記係合用突起の先端は、前記摩擦板本体の前記表面に平行な平坦な頂面となっており、
前記係合用突起は、その突出方向に直交する断面形状が、円形、四角形あるいは三角形であり、
前記可撓性外歯歯車の素材硬度はHRC36〜HRC50であり、
前記締結用摩擦板の素材硬度はHRC55以上であり、
前記摩擦板本体の板厚は0.1mm〜0.5mmであり、
前記係合用突起の配列ピッチは0.2mm〜0.5mmであり、
前記係合用突起の頂面の最大径あるいは最大幅は0.01mm〜0.05mmであり、
前記係合用突起の高さは、前記突起の頂面の最大径あるいは最大幅の1.0倍から1.2倍であり、
前記摩擦板本体および前記係合用突起を、鋼板素材の両面にフォトエッチング加工を施すことにより、一体形成する、
ことを特徴とする波動歯車装置と出力部材の締結固定方法。
【請求項2】
前記係合用突起は、10mm2当り40〜250個である請求項1に記載の波動歯車装置と出力部材の締結固定方法。
【請求項3】
前記係合用突起は一定のピッチでマトリックス状に配列されている請求項1または2に記載の波動歯車装置と出力部材の締結固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク伝達を行う部材の締結固定に用いる締結用摩擦板
を用いた波動歯車装置と出力部材の締結固定
方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トルク伝達を行う2つの部材の締結固定構造として、締結される2つの部材の締結面の間に摩擦板を挟み、これら2つの部材をボルト等によって締結固定する構造が知られている。特許文献1には、このような締結固定構造に用いる摩擦シートが提案されている。この摩擦シートは、金属製の弾性シートの表面に、締結対象の部材の締結面に食い込み可能なダイヤモンド粒子をメッキコーティングしたものである。
【0003】
例えば、2本の軸部材の締結用端面の間に摩擦シートを挟み、締結ボルトによって双方の締結用端面を締結固定すると、摩擦シートの両面のダイヤモンド粒子が双方の締結用端面に食い込み、これらの締結用端面の間に大きな摩擦力が発生する。これにより、2本の軸部材の締結力が増加し、大きなトルクを伝達可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3547645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような摩擦シートを用いた締結固定構造では、メッキ層によって保持されているダイヤモンド粉末の脱落が懸念される。脱落したダイヤモンド粒子が飛散して締結対象の軸部材の回転摺動部分等に侵入すると、当該回転摺動部分に摩耗、破損などの損害が発生するおそれがある。
【0006】
例えば、波動歯車減速機の減速回転出力要素と、負荷側の出力軸とを締結固定するために、このような摩擦シートを用いることが考えられる。波動歯車減速機として、カップ型あるいはシルクハット型と呼ばれる波動歯車減速機を用いる場合には、一般に、カップ形状の可撓性外歯歯車あるいはシルクハット形状の可撓性外歯歯車が減速回転出力要素とされる。可撓性外歯歯車におけるカップ底面部分を規定している円環状のボスの端面と、出力軸の端面との間に摩擦シートを挟み、締結ボルトによって、出力軸をボスの端面に締結固定する。
【0007】
この場合、摩擦シートから脱落したダイヤモンド粒子が、可撓性外歯歯車と波動発生器の間の摺動作部分、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車のかみ合い部分等に侵入するおそれがある。これらの部分に硬質のダイヤモンド粒子が侵入すると、これらの部分に摩耗、破損等が発生するおそれがある。
【0008】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、異物が発生して締結対象の部材の側に損害を与えることのない締結用摩擦板を
用いた波動歯車装置と出力部材の締結固定方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明による
、波動歯車装置の可撓性外歯歯車と、出力部材とを、締結用摩擦板を挟み、締結固定する波動歯車装置と出力部材の締結固定方法は、
前記締結用摩擦板は、所定板厚の摩擦板本体と、前記摩擦板本体の両側の表面に所定ピッチで形成された所定サイズの係合用突起とを有し、
前記係合用突起は、前記摩擦板本体の前記表面から垂直に突出している先細り形状の突起であり、
前記係合用突起の先端は、前記摩擦板本体の前記表面に平行な平坦な頂面となっており、
前記係合用突起は、その突出方向に直交する断面形状が、円形、四角形あるいは三角形であり、
前記可撓性外歯歯車の素材硬度はHRC36〜HRC50であり、
前記締結用摩擦板の素材硬度はHRC55以上であり、
前記摩擦板本体の板厚は0.1mm〜0.5mmであり、
前記係合用突起の配列ピッチは0.2mm〜0.5mmであり、
前記係合用突起の頂面の最大径あるいは最大幅は0.01mm〜0.05mmであり、
前記係合用突起の高さは、前記突起の頂面の最大径あるいは最大幅の1.0倍から1.2倍であり、
前記摩擦板本体および前記係合用突起を、鋼板素材の両面にフォトエッチング加工を施すことにより、一体形成する、
ことを特徴としている。
【0012】
締結用摩擦板を挟み2つの締結部品を締結固定すると、締結用摩擦板の両面に形成されている係合用突起が締結面に食い込み、大きな摩擦力が締結面の間に発生する。締結用摩擦板の係合用突起は、鋼板からなる摩擦板ブランクの表面にフォトエッチング加工を施すことによって、摩擦板本体に一体形成されている。したがって、係合用突起が摩擦板本体から脱落して締結対象の部材の側の摺動部分等に侵入する弊害を防止あるいは抑制できる。
【0017】
一般的な可撓性外歯歯車から出力部材への必要伝達トルク、これらの間の締結力、各締結部材の素材硬度に基づけば、上記のように係合用突起の大きさ、形状、ピッチを設定することにより、係合用突起を可撓性外歯歯車の側の締結面および出力部材の側の締結面に対して適切な食い込み深さとなるように食い込ませることができる。これにより、可撓性外歯歯車と出力部材の間の締結部分の摩擦係数を大きくすることができる。よって、大きなトルクを伝達可能な締結構造を実現できる。
【0018】
さらに、上記のように係合用突起の大きさ、形状、ピッチを設定した場合には、前記係合用突起は、10mm
2当り40〜250個であることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を適用したカップ型の波動歯車減速機の斜視図である。
【
図3】波動歯車減速機の可撓性外歯歯車のボスと負荷側の出力軸の締結固定構造を示す縦断面図である。
【
図4】
図3の締結固定構造の構成部品を分解した状態で示す縦断面図である。
【
図6】(a)は締結用摩擦板の部分拡大平面図、(b)は部分拡大断面図、(c)は部分拡大断面図である。
【
図7】フォトエッチング加工により係合用突起を製造する工程を示す説明図である。
【
図8】(a)は締結用摩擦板の係合用突起の別の例を示す部分拡大断面図、(b)は部分拡大断面図、(c)は部分拡大断面図である。
【
図9】(a)は締結用摩擦板の係合用突起の別の例を示す部分拡大断面図、(b)は部分拡大断面図、(c)は部分拡大断面図である。
【
図10】(a)は円錐突起が鋼材表面に押し込まれた場合の状態を示す説明図であり、(b)は係合用突起がボスに食い込んだ場合の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明を適用した波動歯車減速機と負荷側の出力軸の締結固定構造の実施の形態を説明する。
【0021】
(波動歯車減速機)
図1は本発明を適用可能なカップ型の波動歯車減速機を示す斜視図であり、
図2はその縦断面図である。波動歯車減速機1は、円環状の剛性内歯歯車2と、この内側に同軸に配置したカップ形状の可撓性外歯歯車3と、この内側に嵌めた楕円状輪郭の波動発生器4とを備えている。
【0022】
カップ形状の可撓性外歯歯車3は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部5と、この後端縁から内方に延びる円環状のダイヤフラム6と、ダイヤフラム6の内周縁に連続して形成した円環状のボス7と、円筒状胴部5の開口端側の外周面部分に形成した外歯8とを備えている。可撓性外歯歯車3における外歯8が形成された円筒状胴部5の部分の内側に、波動発生器4が嵌め込まれている。これによって、円筒状胴部5は楕円状に撓められ、楕円状形状における長軸方向の両端に位置する外歯8の部分が、剛性内歯歯車2の内歯9にかみ合っている。
【0023】
波動発生器4は、モーター軸等の回転入力軸(図示せず)に連結固定されて、回転駆動される。波動発生器4が回転すると、両歯車2、3のかみ合い位置が周方向に移動する。この結果、両歯車の歯数差に応じて、両歯車の間に相対回転が発生する。本例では、剛性内歯歯車2が不図示の固定側の部材に固定されており、可撓性外歯歯車3が減速回転出力要素となっており、ここから減速回転が出力される。
【0024】
図3は可撓性外歯歯車3と負荷側の出力軸の締結固定構造を示す縦断面図であり、
図4はその構成部品を分解して示す説明図である。可撓性外歯歯車3の円環状のボス7には、円盤状の締結用摩擦板10を挟み、負荷側の出力軸11が締結固定される。締結固定のために、円環状の取付け用フランジ12および複数本の締結ボルト13が用いられる。
【0025】
出力軸11の後端部には大径の軸側フランジ14が形成されており、軸側フランジ14の円形の後端面が軸側締結面15である。軸側締結面15は、締結用摩擦板10を挟み、ボス7の外側端面であるボス側締結面16に同軸に重ねられる。ボス7の内側端面には取付け用フランジ12が同軸に重ねられる。軸側フランジ14にはボルト穴が円周方向に一定の間隔で形成され、締結用摩擦板10、ボス7および取付け用フランジ12にはボルト挿通穴が同じく円周方向に一定の間隔で形成されている。これらのボルト穴、ボルト挿通穴が一致する状態に4部材が同軸に重ねられ、取付け用フランジ12の側から挿入された締結ボルト13によって、これら4部材が所定のボルト軸力で締結固定されている。
【0026】
図5は締結用摩擦板10を示す平面図であり、
図6(a)〜(c)はその一部を拡大して示す部分拡大平面図、b−b線で切断した場合の部分拡大断面図、および、c−c線で切断した場合の部分拡大断面図である。
【0027】
締結用摩擦板10は、ボス側締結面16(
図4参照)に対応する形状をした一定板厚の摩擦板本体21に、円形の中心貫通穴22と、円周方向に沿って一定の間隔で複数個のボルト挿通穴23とが形成された構成となっている。例えば8個のボルト挿通穴が形成されている。
【0028】
摩擦板本体21の一方の表面がボス側締結面16に重ねられるボス側表面24であり、他方の表面が軸側締結面15に重ねられる軸側表面25である。これらボス側表面24および軸側表面25には、フォトエッチング加工によって、所定ピッチで所定形状の係合用突起26、27が一体形成されている。
【0029】
本例の摩擦板本体21の板厚Tは、0.1mm〜0.5mmの範囲内の値である。また、係合用突起26、27は一定のピッチでマトリックス状に配列されており、隣接する係合用突起のピッチPa(x)、Pa(y)、Pb(x)、Pb(y)は共に0.2mm〜0.5mmの範囲内の値である。係合用突起26、27は、マトリックス状の配列形態以外の配列形態であってもよい。また、ボス側表面24の突起配列形態と、軸側表面25の突起配列形態とを異なる形態にすることも可能である。
【0030】
係合用突起26、27は全体として円錐台形状に近似した形状の突起であり、その中心軸線26a、27aは摩擦板本体21に垂直である。各係合用突起26、27の外周面26b、27bは先端に向けて先細りの湾曲面から形成されており、それらの頂面26c、27cは中心軸線26a、27aに直交する円形面である。
【0031】
係合用突起26、27における頂面26c、27cの最大径La、Lbは0.01mm〜0.05mmの範囲内の値である。係合用突起26、27の高さHa、Hb(摩擦板本体21のボス側表面24、軸側表面25からの高さ)は0.06mm以下であり、かつ、係合用突起26、27の頂面26c、27cの最大径Lの1.0倍から1.2倍の範囲内の値である。高さHa、Hbは同一とすることができるが、異なる高さにすることも可能である。また、係合用突起26、27は、10mm
2当り40〜250個の範囲内の値となる密度で形成されている。
【0032】
図示の例においては、摩擦板本体21の板厚Tが0.1mmであり、係合用突起26、27の頂面26c、27cの径La、Lbが0.05mm、高さHa、Hbが0.065mm、ピッチPa(x)、Pa(y)、Pb(x)、Pb(y)が0.2mmである。
【0033】
また、摩擦板本体21および係合用突起26、27の素材硬度はHRC55以上である。締結用摩擦板製造用のブランクとして硬度がHRC55以上のものを用いればよい。あるいは、ブランクの硬度がHRC55未満の場合には、フォトエッチング加工によって係合用突起26、27を形成する前の段階、あるいは後の段階において、熱処理、浸炭処理、窒化処理等の表面処理を施して、摩擦板本体21の両側の表面部分および係合用突起26、27の硬度がHRC55以上となるようにすることも可能である。可撓性外歯歯車3の素材硬度は一般にHRC36〜50の間であり、出力軸11の素材硬度も同様である。締結用摩擦板10の硬度を、これらの部材の硬度よりも高い値に設定してあるので、締結ボルト13による締結力(軸力)によって、係合用突起26、27を確実にボス側締結面16および軸側締結面15に食い込ませることができる。
【0034】
ここで、係合用突起26、27の形成は、一般的なフォトエッチング加工によって行うことができる。例えば、
図7に示すように、鋼板製のブランク10Aを用意し(
図7(a))、ブランク10Aの両面にフォトレジスト膜31を形成する(
図7(b))。次に、フォトレジスト膜31に露光および現像を行ってフォトレジスト膜にマスキングパターンを形成する(
図7(c))。この後は、ブランク10Aの露出面に例えばウエットエッチングを行って、係合用突起26、27を形成する(
図7(d))。そして、フォトレジスト膜31のマスキングパターンを剥離除去し、洗浄・乾燥工程等の後処理を行う(
図7(e))。これにより、マスキングパターンが円形の場合には略円錐台状の係合用突起26、27が、摩擦板本体21の両面に一体形成される。マスキングパターンが四角形、三角形の場合には、四角錐台状、三角錐台状の係合用突起26、27が形成される。一般的には、ブランク10Aの一方の面に係合用突起を形成した後に、他方の面に係合用突起を形成する。
【0035】
図8、
図9には係合用突起26、27の別の形状を示してある。
図8に示す係合用突起26A、27Aは全体として略四角錐台の形状をしている。例えば、係合用突起26A、27Aの頂面は正四角形であり、その幅Dは0.05mm、高さHは0.06mm、ピッチPは0.2mmである。また、
図9に示す係合用突起26B、27Bは全体として略三角錐台の形状をしている。例えば、係合用突起26B、27Bの頂面は正三角形であり、その正三角形の幅Dは0.06mmである。係合用突起26B、27Bの高さHは0.06mm、ピッチPは0.2mmである。また、マトリックス状に配列されている係合用突起26B、27Bの一方の列においては、一つ置きに、三角形の向きが反転している。
【0036】
このように構成される可撓性外歯歯車3と負荷側の出力軸11の締結固定構造において、ボス側締結面16と軸側締結面15に、締結用摩擦板10の係合用突起26、27が食い込んだ(押し込まれた)場合の締結力は、鋼の掘り起しに伴う摩耗に近似できる。
図10(a)を参照して説明すると、円錐突起が締結面に押し込まれた場合を想定する。n個の円錐突起が締結面に接触しているとする。太線矢印で示す進行方向の円錐突起の投影面積(三角形)Atは次式で表される。
At=n・r・d=n・r・r・cotθ=n・r
2・(1/tanθ)
但し、r:円錐突起による圧痕の平均半径
θ:円錐突起の半頂角
d:深さ
【0037】
円錐突起による圧痕面積は次式のように近似できる。
円錐突起による圧痕面積≒真実接触面積Ar=P/Pm=n・πr
2
P:全荷重
Pm:真実接触面積の平均面圧
【0038】
したがって、Fを掘り起し抵抗力(摩擦力)とすると、摩擦係数μは次式で表すことができる。
摩擦係数μ=F/P=At・Pm/Ar・Pm=At/Ar
=1/(π・tanθ)
円錐突起のθが45degの場合には、μ=0.3183になる。
【0039】
図10(b)には、本例の円錐台状の係合用突起26、27をボス側締結面16、軸側締結面15に食い込ませた場合を示してある。この場合には、次のように各値を近似することができる。
食い込み深さx≒d
食い込み投影面積AT≒At
圧痕面積AR≒Ar
近似摩擦係数Μ=AT/AR
【0040】
締結用摩擦板20を用いた締結固定構造において、伝達トルクは、当該締結用摩擦板20の係合用突起26、27をボス側締結面16および軸側締結面15に同時に食い込ませた(押し込んだ)場合における双方の面の摩擦係数に大きく影響される。この摩擦係数は、上記のように、食い込み投影面積ATおよび圧痕面積ARによって規定できる。すなわち、摩擦係数は、主として、係合用突起26、27の形状、食い込み(押し込み)深さ、締結用摩擦板20とボス側締結面16および軸側締結面15との間の硬度差により決まる。
【0041】
したがって、係合用突起26、27の形状、サイズと、締結用摩擦板20の硬度を適切に設定することにより、目標とする摩擦係数の締結面を得ることができる。本例ではフォトエッチング加工(ケミカルエッチング加工)によって円錐台状の係合用突起26、27が形成される。このような形状の係合用突起26、27の頂面の大きさD、突起高さH、および素材硬度を上記のように設定することで、大きな摩擦係数を得ることができる。
【0042】
また、突起数nは、全圧痕面積(AR×n)による素材のせん断強さで制限される。本例では、締結用摩擦板20のせん断強さを考慮して、突起数nを、10mm
2当り40〜250個の範囲内の値としている。
【0043】
さらに、同一軸力を与えた場合に、係合用突起の食い込み深さxは突起の頂面の形状により異なる。頂面の形状が円形、四角形、三角形とし、それ以外を同一条件とした係合突起の場合、三角形の場合が最も食い込み易く、円形の場合が最も食い込みにくい。また、硬度の高い締結面よりも硬度の低い締結面の方が食い込み深さxが大きくなる。さらに、係合突起の食い込み深さxは、係合突起の頂面の面積により異なり、面積が小さい方が食い込み深さxが深くなる。同様に、係合突起の頂面の総面積が小さい場合が、総面積の大きい場合に比べて、食い込み深さxが深くなる。したがって、締結対象の可撓性外歯歯車の大きさ、必要伝達トルク、加えられる軸力に応じて、係合用突起26、27の大きさ、形状(頂面の形状、面積、突起高さ)、係合用突起26、27の配列ピッチおよび単位面積当たりの個数、並びに、各部分の硬度を適切に設定すればよい。