特許第5885861号(P5885861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許58858614次ブロックを利用して軽減衰共振をシミュレートする状態空間システムシミュレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885861
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】4次ブロックを利用して軽減衰共振をシミュレートする状態空間システムシミュレータ
(51)【国際特許分類】
   G06F 19/00 20110101AFI20160303BHJP
   G05B 13/04 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   G06F19/00 110
   G05B13/04
【請求項の数】20
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-559870(P2014-559870)
(86)(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公表番号】特表2015-517132(P2015-517132A)
(43)【公表日】2015年6月18日
(86)【国際出願番号】US2012027149
(87)【国際公開番号】WO2013130076
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2015年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(74)【代理人】
【識別番号】100179154
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 真衣
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100184424
【弁理士】
【氏名又は名称】増屋 徹
(72)【発明者】
【氏名】アブラモヴィッチ,ダニエル・ワイ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンストン,エリック・エス
【審査官】 宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0021319(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0201684(US,A1)
【文献】 熊谷 英樹,MATLABと実験でわかる はじめての自動制御,日刊工業新聞社,2008年 7月25日,初版,pp.159-179,ISBN 978-4-526-06098-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 19/00
G05B 13/04
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理システムをシミュレートするようにデータ処理システムを動作させる方法であって、
前記物理システムのモデルを与えるステップであって、該モデルは時間変動する入力及び前記物理システム内の内部状態の値に依存し、該内部状態は直接測定可能ではなく、該モデルは前記物理システムの共振又は反共振をモデル化するバイカッドを備える、モデルを与えるステップと、
複数の時点のそれぞれについて、前記時間変動する入力の現在の入力値を受け取り、現在の時点における前記内部状態の値を自身の1つの成分として有する内部状態ベクトルを計算し、前記現在の時点におけるシステム出力の推定値を計算するステップであって、前記システム出力は直接測定可能である、ステップと
を含んでなる、物理システムをシミュレートするようにデータ処理システムを動作させる方法。
【請求項2】
前記モデルは複数のバイカッドを備え、前記バイカッドのそれぞれは入力及び出力によって特徴付けられ、前記バイカッドのうちの1つの前記入力は前記バイカッドのうちの別のものの前記出力である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイカッドのそれぞれは、共振の周波数及び反共振の周波数を指定する複数のパラメータを含み、該パラメータは、特定の入力に対する前記モデルの出力を、前記入力を有する前記物理システムからの実験データと比較することによって決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記パラメータは、前記バイカッドのうちの1つが、前記物理システムにおける対応する共振又は反共振に整合する共振又は反共振を有するように決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記物理システムは複数の共振及び反共振を有し、前記パラメータは、前記物理システムの共振のうちの1つに整合する共振を有するバイカッドが、該物理システムの共振のうちの1つに整合する共振に近づけられる物理システムの反共振に整合する反共振を有するように選ばれる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記内部状態ベクトルは、該内部状態ベクトルの以前の値及び前記現在の入力値に依存する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
各時点における前記内部状態ベクトルの成分を示す値を出力するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記モデルは、バイカッドでない構成要素を更に備える、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記バイカッドは、移動質量をモデル化する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記モデルは、バイカッドによってモデル化されない構成要素の状態空間モデルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
物理システムをエミュレートする装置であって、
前記物理システムをエミュレートするハードウェア及びソフトウェアを備えるデータ処理システムであって、該ソフトウェアは前記物理システムのモデルを提供し、該モデルは時間変動する入力及び前記物理システム内の内部状態の値に依存し、該内部状態は直接測定可能ではなく、前記モデルは前記物理システムの共振又は反共振をモデル化するバイカッドを備える、データ処理システムを備えており、
複数の時点のそれぞれについて、前記データ処理システムは、前記時間変動する入力の現在の入力値を受け取り、現在の時点における前記内部状態の値を自身の1つの成分として有する内部状態ベクトルを計算し、前記現在の時点におけるシステム出力の推定値を計算し、前記システム出力は直接測定可能である、物理システムをエミュレートする装置。
【請求項12】
前記モデルは複数のバイカッドを備え、各バイカッドは入力及び出力によって特徴付けられ、前記バイカッドのうちの1つの前記入力は前記バイカッドのうちの別のものの前記出力である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記バイカッドのそれぞれは共振の周波数及び反共振の周波数を指定する複数のパラメータを含み、前記パラメータは、特定の入力に対する前記モデルの出力を、前記入力を有する前記物理システムからの実験データと比較することによって決定される、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記パラメータは、前記バイカッドのうちの1つが、前記物理システムにおける対応する共振又は反共振に整合する共振又は反共振を有するように決定される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記物理システムは複数の共振及び反共振を有し、前記パラメータは、前記物理システムの共振のうちの1つに整合する共振を有するバイカッドが、該物理システムの共振のうちの1つに整合する共振に近付けられる物理システムの反共振に整合する反共振を有するように選ばれる、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記内部状態ベクトルは、該内部状態ベクトルの以前の値及び前記現在の入力値に依存する、請求項11に記載の装置。
【請求項17】
各時点における前記内部状態ベクトルの成分を示す値を出力することを更に含む、請求項11に記載の装置。
【請求項18】
前記モデルはバイカッドでない構成要素を更に備える、請求項11に記載の装置。
【請求項19】
前記バイカッドは移動質量をモデル化する、請求項11に記載の装置。
【請求項20】
前記モデルは、バイカッドによってモデル化されない構成要素の状態空間モデルを含む、請求項11に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
コンピュータベースのシミュレータの1つの部類は、物理システムの数学モデルを利用してそのシステムの動作をシミュレートする。システムは、通常、実世界の信号又は刺激を表す入力を受け取り、1つ以上の出力を生成する。多くのの場合、システムは、直接測定することはできない内部状態も有するが、それらの内部状態の値は対象となり、システムモデルから推測することができる。
【0002】
ほとんどの場合、シミュレータは、様々な入力に対するシステム出力のモデルの予測がそれらの入力に対して実験で求められた出力に可能な限り近づくように最適化された複数のパラメータを有するモデルを利用する。一般に、任意の所与のシステムを表すのに用いることができる多数のモデルが存在する。したがって、モデル間で選択を行うには、或る判定基準が必要とされる。1つのそのような判定基準は、モデルパラメータを決定するのに用いられる実験的測定における雑音に対するそれらのパラメータの感度である。モデルパラメータが小さな雑音誤差とともに大幅に変動する場合、そのモデルは、雑音のない測定が利用可能でない限り、システムを正確に表す可能性は低く、雑音のない測定が利用可能である場合はめったにない。
【0003】
シミュレータは、複数の目標を達成するのに用いることができる。シミュレータは、特定の入力に対するシステムの出力を予測するのに用いることができる。そして、この出力は、フィードバック・ループにおいて、システムの入力を制御するのに用いることができる。シミュレータは、システムの出力の実際の測定が雑音又は他の歪によって導入された誤差を被るときにそのような測定の精度を改善するために、それらの測定とともに用いることができる。加えて、シミュレータは、測定された出力及び既知の入力を用いることによってシステムの内部状態のうちの1つ以上のものの推定値を提供するのに用いることもできる。さらに、シミュレータモデルは、コントローラ又はフィルタの設計の出発点として用いることができる。
【0004】
上述したように、シミュレータはシステムのモデルに依存する。シミュレータが出力をシミュレートするだけでなくシステムの内部状態を推定することも原理的に可能にするモデルの1つの部類は、状態空間モデルと呼ばれる。これらのモデルは、1つ以上の内部状態に関する情報を明示的に提供する。あいにく、これらのモデルは、モデル化されているシステムが軽減衰共振を有するとき、十分に動作しない。なぜならば、モデルパラメータは、それらのパラメータを決定するのに用いられる測定における任意の雑音に非常に影響されやすい傾向があるからである。
【0005】
周波数の関数である振幅を有する信号の形式でエネルギーを受け取り、周波数の関数としての振幅を有する出力を生成するシステムを考える。このシステムは、或る周波数帯域にわたる出力振幅が他の周波数における出力振幅よりも大幅に大きい場合、共振を有すると言われる。代替的に、システムは、入力信号が或る周波数帯域においてエネルギーを有するときにエネルギーを蓄積する場合、共振を有する。そのようなシステムは、通常、或るモードから別のモードに、すなわち、或る状態から別の状態にエネルギーを転送することによってエネルギーを蓄積する。システムが軽減衰されている場合、問題になっている周波数帯域における小さな駆動力が、出力信号における大きな振幅変化をもたらす可能性がある。なぜならば、減衰エネルギー損失は、駆動エネルギーの一部が発振モードにおいて蓄積されるのを防止するのに不十分であるからである。逆に、システムは、出力振幅が、或る周波数帯域において、周囲の帯域と比較して大幅に低減される場合、反共振を有すると言うことができる。そのようなシステムは、反共振に近い周波数において当該システムに注入されるエネルギーを放散していると考えられる。
【0006】
モデルの出力が、周波数の関数としての既知の振幅を有する入力信号を用いて取得される周波数の関数としての出力振幅である、そのようなシステムのモデルを考える。このモデルは、周波数の関数としての出力信号の振幅に大きなスイングを生成することが可能でなければならない数学関数である。例えば、この関数が周波数の範囲全体にわたってフーリエ級数として表される場合、この級数は、上記関数が振幅を周波数の関数として高速に変化させることを可能にするために、非常に高い周波数における成分を含まなければならない。システムは軽減衰されているので、高い周波数成分は、モデル化されている共振の帯域の外部にあるエネルギーによって励起させることができる。したがって、モデル内の入力信号又はその数学表現における任意の高い周波数雑音が、出力信号に高い周波数のアーティファクトをもたらす。
【0007】
加えて、モデルからの出力を生成する内部計算も、丸め誤差問題を受ける。最後に、コンピュータ上で実施することができる、連続モデルを離散モデルに変換する際に用いられる近似は、増幅される他の歪を導入する。例えば、モデルは、入力又は或る内部変数の導関数が計算されることを必要とする場合がある。離散近似では、この導関数は差分(finite differences)によって計算されるが、この差分は誤ったものになる。その結果、そのようなモデルは正確なシミュレーションを提供しない。
【0008】
複数の軽減衰共振によって特徴付けられるシステムの状態空間モデルは、類似の問題によって特徴付けられる。共振をモデル化するために、広い周波数帯域からのエネルギーを結合する関数が通常、利用される。例えば、高次多項式の比によって表される関数が、複数の共振及び反共振をシミュレートすることができる。周波数帯域は、通常、単一の共振を特徴付ける周波数帯域よりもはるかに大きい。その結果、入力における任意の形態の雑音又は計算中の大きな丸め誤差が、周波数の関数として広く変動する出力をもたらし、システムを正確に表さない。
【0009】
軽減衰された物理構造体は、ほぼ普遍的な現象である。あらゆる物は、それを十分精密に測定すると可撓性を有するものである。さらに、アクチュエータ又は物理構造体の(例えば宇宙空間への)搬送を高速又は容易にするためにそれらの重量を軽減することは、その構造を堅固にする材料を減らすことになる。堅固に見える構造体であっても、十分高い周波数において十分な精度の測定を用いると可撓性を有する。そのようなシステムの例は、データ記憶装置(ハードディスクドライブ及び光ドライブ)、ロボット工学(スペースシャトル及びISSロボットアーム等)、及びナノスケール測定(原子間力顕微鏡等)に見られる。そのようなシステムについて、状態空間における多数の共振及び反共振の精密なモデル化は制限されている。これらの状態空間モデルの数値特性は、多数の軽減衰されたダイナミクスが追加されたときに問題を提示することが主な理由である。したがって、従来技術の状態空間モデルの計算特性による制限を受けることなく、多数の軽減衰されたダイナミクスに対応することができる状態空間モデルを提供することが有利である。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、物理システムをシミュレートするようにデータ処理システムを動作させる方法と、この方法を用いてその物理システムをエミュレートする装置とを含む。物理システムは、時間変動する入力を受け取り、時間変動する出力を生成する。物理システムのモデルが準備される。このモデルは、上記時間変動する入力及び物理システム内の内部状態の値に依存し、この内部状態は、直接測定可能ではない。モデルは、物理システムの共振又は反共振をモデル化するバイカッド構成要素を備える。複数の時点のそれぞれについて、時間変動する入力の現在の入力値が受け取られる。現在の時点における内部状態の値をその1つの成分として有する内部状態ベクトルが計算される。モデルは、その時点におけるシステム出力の推定値を計算し、システム出力は直接測定可能である。本発明の1つの態様では、内部状態ベクトルは、当該内部状態ベクトルの以前の値及び現在の入力値に依存する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】このカスケードの連続計算における計算フローを示す図である。
図2】方程式(12)〜方程式(15)によって記述される状態空間モデル内のバイカッドの計算フローを示す図である。
図3】本発明による物理システムをシミュレートする装置の1つの実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、状態空間モデルにおける軽減衰共振を、4次(bi-quadratic:双2次)関数を用いてモデル化することができるという知見に基づいている。そのような関数は、共振から遠く離れた外部の周波数帯域からの大きなエネルギーを共振に結合することも、関数の「テール(tails)」を通じて他の共振を励起することもなく、限られた周波数帯域にわたって共振を再現することができる。したがって、共振の周波数帯域内にない雑音は、上記で論述した問題を引き起こさない。加えて、4次関数は、非共振挙動をモデル化するのに用いることができる。
【0013】
連続時間の物理システムの場合、システムは、ベクトルu(t)によって表される入力を受け取り、ベクトルy(t)によって表される出力を生成する。システムは、ベクトルx(t)によって表される内部状態を有する。モデルは、4つの行列F、G、H、及びD、並びに以下の一組の方程式によって表される。
【数1】
式中、
【数2】
は、tに関するx(t)の導関数である。この例では、行列は時間不変であると仮定されている。ただし、時間不変である必要はない。以下の論述を簡単にするために、行列は時間不変であると仮定される。特定の物理システムの詳細は、行列内に「埋め込まれている(buried)」。x(t)及びy(t)はベクトルであることに留意すべきである。
【0014】
そのようなモデルをコンピュータ上に実装するために、入力及び出力が離散時間間隔で測定される離散システムが実装される。上記で論述した連続時間方程式は、以下の方程式と等価であることを示すことができる。
【数3】
【0015】
ここで、F、G、H、及びDは、上記で論述した行列F、G、H、及びDの離散等価物である。方程式(2)は、空間状態モデルの標準的な教科書の予測形態である。これらの行列を求める方法は、以下でより詳細に論述される。
【0016】
状態空間方程式は、内部状態x(k)に依存することに留意すべきである。内部状態には、通常、複数の候補があり、候補の選択に応じて、状態空間方程式は異なる場合がある。例えば、内部状態をd(k)=x(k+1)と定義する場合、等価な状態空間方程式は次のものとなる。
【数4】
【0017】
これは、信号処理アプリケーションにおいてフィルタをエミュレートするのに用いられる状態空間方程式の形態である。以下の論述を簡単にするために、方程式(2)に与えられた状態空間方程式の形態が前提とされる。しかしながら、方程式(2)において内部状態変数の異なる選択を行うことによって取得することができる任意の状態空間方程式が、方程式(2)と等価となるように定義される。
【0018】
本発明は、4次伝達関数を有する構成要素によって表されるシステムを用いて、1つ以上の軽減衰システム構成要素及び他の構成要素を有するシステムをシミュレートすることができるという知見に基づいている。以下の論述を簡単にするために、4次伝達関数を有する構成要素は「バイカッド(bi-quad)」と呼ばれる。バイカッドは、多くとも2つの極及び2つの零点を有する。それらの極及び零点の正しい配置によって、構成要素は、反共振又は共振のいずれかをシミュレートすることができる。以下の伝達関数を有する連続時間バイカッドを考える。
【数5】
【0019】
この構成要素の状態空間方程式は、以下のように、2段階微分の形式で表すことができる。
【数6】
【0020】
これは、以下のように、状態空間の形式で表すことができる。
【数7】
【0021】
|ζ|<1である場合、分母の挙動は振動的であり、したがって、ωは、s平面上におけるs=0の点からの距離に対応する分母の根(極)の不減衰固有周波数とみなすことができる。同様に、|ζ|<1である場合、分母の挙動は振動的であり、したがって、ωは、s平面上におけるs=0の点からの距離に対応する分子の根(零点)の不減衰固有周波数とみなすことができる。いずれにしても、ω、ω、ζ、及びζは、バイカッド応答の形状を決定する。
【0022】
対象となる多くのシステムは、システムの挙動をモデル化するのに2つ以上のバイカッドを必要とする。直列にカスケードされたマルチバイカッドシステムでは、或るバイカッドの出力が、次のバイカッドへの入力となる。表記を簡単にするために、マルチバイカッド表現におけるi番目のバイカッドの伝達関数は、以下のように記述される。
【数8】
【0023】
係数bij及びaijのうちの1つ以上のものはゼロである可能性があることに留意すべきである。したがって、バイカッドは、1次モデルを含めて、共振性を有しない挙動、すなわち反共振性の挙動もモデル化することができる。
【0024】
その場合、3つのバイカッドのカスケードは、以下の伝達関数を有する。
【数9】
【0025】
このカスケードの連続計算における計算フローが図1に示されている。連続時間線形状態方程式の一般形は次のとおりである。
【数10】
【0026】
ベクトルX及びYを以下のように定義する。
【数11】
【0027】
次に、行列F、G、H、及びDは、以下によって与えられることを示すことができる。
【数12】
【0028】
実際には、データ処理システム上でシミュレーションを計算するとき、離散時間バイカッドシステムが利用される。離散バイカッド構成要素及びバイカッドのストリングの行列構造体は、連続時間状態空間モデルについて上記で論述したものと同じである。しかしながら、係数の物理的解釈は異なる。3つのバイカッドのカスケードの場合、離散伝達関数は以下の形式を有する。
【数13】
【0029】
離散時間線形状態方程式の一般形は以下のとおりである。
【数14】
式中、
【数15】
である。
【0030】
これらの定義について、以下のことを示すことができる。
【数16】
【0031】
次に、方程式(12)〜方程式(15)によって記述される状態空間モデル内のバイカッドの計算フローを示す図2を参照する。上述したように、項d(k)=x(k+1)で状態ベクトルを再定義することによって、等価な一組の状態方程式及び行列を導出することができる。
【0032】
次に、本発明によるバイカッドカスケードを用いてシステムをモデル化する方法をより詳細に論述する。カスケードにおける任意の所与の数のバイカッドについて、上記で論述したものと類似の行列及びベクトルを有する状態空間モデルを構築することができる。一般に、そのモデルは、5N個の自由パラメータを有する。ここで、Nは、モデル内のバイカッドの数である。これらの自由パラメータは、上記で論述したaij及びbijである。本発明の1つの態様では、自由パラメータは、実験的に観測された出力を、最小二乗適合アルゴリズム又は他の適合アルゴリズムを用いて、モデル化されているシステムの入力の関数として適合させることによって決定される。そのようなアルゴリズムは、当該技術分野において既知であり、したがって、詳細には論述しないことにする。
【0033】
本発明の1つの態様では、モデル内のバイカッドの数は、1から開始し、別のバイカッドの追加がモデルを大幅に改善しないと最小二乗適合アルゴリズムによって判定されるまで増加される。自由パラメータの数の最良適合が見つかった後において、最小二乗適合プロセスにおける残余誤差を考える。その残余誤差は、モデル内のバイカッドの数の関数である。通常、残余誤差は、或る最小値が取得されるまでNとともに減少する。そのNの後、モデルは、通常、Nを増加させることによって改善することはない。
【0034】
上記で説明した適合プロセスは、モデルの自由パラメータに対して別個の制約を何ら課すことはない。上述したように、各バイカッドを特徴付ける5つの係数は、伝達関数における共振及び反共振の周波数及び減衰係数に関係している。モデル化されているシステムが既知の共振及び/又は反共振を有する場合、バイカッドのうちの1つ以上のパラメータは、これらの既知の共振又は反共振の周波数及び減衰係数に整合するように制約することができる。この制約は、正確なものとすることもできるし、適合されたパラメータが保持しなければならない既知の値の周辺の範囲を指定することもできる。
【0035】
各バイカッドは、共振及び反共振の双方を表す。複数の共振及び反共振を有するシステムを考える。特に、これらの共振のうちの特定の1つに整合したバイカッドを考える。そのバイカッドの反共振は、原理上、モデルにおける反共振のうちの任意のものに整合することができる。反共振について特定の選択を行うことによって、雑音に対するモデルの感度を改善することができる。
【0036】
一般に、バイカッドは、共振の周波数と反共振の周波数との間の周波数においてシステム応答に大きなエネルギーを与えるとともに、共振及び反共振の減衰係数に応じてこれらの周波数の上下の周波数において、或る程度、システム応答にエネルギーを与える。所与のバイカッドがモデルにおいて大きなエネルギーを提供する周波数範囲は、そのバイカッドの周波数帯域と呼ばれる。理想的には、1つのバイカッドの周波数帯域における雑音は、異なるバイカッドのパラメータに対して大きな影響を有するべきではない。バイカッドのうちの1つが大きなエネルギーをモデルに与える領域においてバイカッドの周波数帯域が重複していない場合、この条件は満たされる。一方、バイカッドの周波数帯域が重複している場合、その重複部分の領域における雑音は、双方のバイカッドに影響を与え、適合は、雑音の影響をより受けやすくなる。
【0037】
本発明の1つの態様では、特定の共振に整合するように選ばれたシステムの反共振は、問題になっている共振に対して周波数が最も近い反共振である。これは、バイカッドの周波数帯域の幅を低減する効果を有し、そのため、或るバイカッドの周波数帯域が別のバイカッドの周波数帯域に大きく重複する確率を低減する効果を有する。
【0038】
本発明のバイカッドモデルは、バイカッドのカスケードだけでは良好にモデル化されないシステムの態様を取り扱うモデルと組み合わせることができる。そのような方式では、モデル化されているシステムは、バイカッドのカスケードによってモデル化されたものと、別の一組の自由パラメータによって規定される異なる形式の伝達関数によって表されるものとの2つの構成要素からなるとみさなれる。この第2の構成要素を、バイカッドモデルを記述するものに類似の状態空間方程式を満たす状態空間モデルによって表すことができる場合、組み合わされた状態空間表現を、複数のバイカッド構成要素を組み合わせるための、上記で説明したものに類似の方法で生成することができる。例えば、バイカッドモデルが上記で論述した方程式(2)を満たすとともに、第2の構成要素も方程式(2)の形式ではあるが、異なる行列、入力、出力、及び状態変数を有する一組の方程式によって記述される場合を考える。その場合、第2の構成要素の状態を含むようにバイカッドモデルの状態ベクトルを拡張するとともに、バイカッドモデルの出力を第2の構成要素の入力に結合することによって、これらの2つのモデルを組み合わせることができる。その場合、新たな一組の行列を個々のモデルの方程式から導出することができる。
【0039】
例えば、構成要素への入力によって生成された力の下で移動する固体質量を備えるシステムのモデルを考える。剛体をシミュレートするモデルを生成する1つの方法は、ニュートンの法則
【数17】
の二重積分を利用する。モデルに共振が存在しない場合、連続状態空間方程式は、以下の形式で記述することができる。
【数18】
【0040】
ここで、Kは、質量に応じた定数であり、yは、適切な座標系におけるシステム内の質量の位置である。
【0041】
この伝達関数の複数の離散等価形式が既知である。これらには、ゼロ次ホールド(ZOH)等価形式及び台形公式等価形式を含まれる。ZOH形式の場合、以下の式となる。
【数19】
【0042】
台形公式形式の場合、以下の式となる。
【数20】
【0043】
用いられるルールに応じて、状態方程式を上記で論述した方程式(2)等の形式にすることができる。例えば、台形公式ベースの状態空間形式は、以下のように示すことができる。
【数21】
【0044】
方程式(18)における状態空間モデルは、非共振システムにおける質量を記述している。出力y(k)は、或る所定の座標系における質量の位置に関係し、入力u(k)は、その質量に印加される力を表す。内部状態x(k)は、質量の或る他の測定されていない状態を表すことができる。方程式(18)における状態空間モデルは、バイカッドの特殊な事例、すなわち、係数に対する制約を有するバイカッドであることに留意すべきである。
【0045】
或る質量が1つ以上の共振を有するように、或る質量が接続されたシステムを考える。方程式(18)における状態空間モデルは、質量システムの出力y(k)をバイカッドシステムの入力のうちの1つに接続するとともに、質量システムの入力u(k)をバイカッドのうちの1つの出力に接続することによって、バイカッドのカスケードを有するモデルと組み合わせることができる。そして、複数の単一のバイカッドを組み合わせて大規模システムにする際に、上記に説明した方法と類似した方法で新たな一組の状態空間方程式を導出することができる。
【0046】
例えば、関数として質量に印加される力は、システムへの入力として与えることができる。質量の位置は、当該質量に接続されたシステムの1つ以上の共振を励起する。さらに、そのシステムは、直接測定された出力を提供する。システムは、第1のバイカッドへの入力であるシステム入力u(k)を質量位置y(k)の関数となるように設定することによってモデル化される。その場合、第1のバイカッドの出力は、別のバイカッドに結合され、以下同様に結合されて、複数の共振を有するモデルが提供される。その場合、最後のバイカッドの出力はシステム出力であり、このシステム出力が測定される。その場合、このモデルの内部特性の係数は、システムの既知の入力と測定される出力との間の最良適合を提供する。
【0047】
上記例は、質量の状態空間モデルを、複数のバイカッドを有するシステムの状態空間モデルと組み合わせることを取り扱っている。質量はバイカッドの特殊な事例であることに留意すべきである。共振しないが、バイカッドによって表すこともできる他の構成要素が存在する。しかしながら、同じ方法論を適用して、1つ以上のバイカッドによって記述される構成要素を有するスタンドアローンの状態空間モデルを有する任意の構成要素を組み合わせるための状態空間モデルを、その構成要素がバイカッドによって表されない場合であっても、提供することができる。
【0048】
このモデルは、係数が求められると、直接測定されないがモデルによって推定される内部状態を有することに留意すべきである。例えば、質量の位置は、上記例では直接測定されないが、各時点においてモデルによって求められる。
【0049】
システムの内部状態は、幾つかの場合には、状態を直接測定する適切なセンサを備えることによって測定することができることにも留意すべきである。一般に、複雑なシステムでは、内部状態の全てを監視するのに必要とされるセンサの数は過度の多いので、状態当たり1つのセンサを経済的に設けることはできない。その状態のモデルの予測が、観測された値と整合する場合、その状態用のセンサを備えることによってシステムを改良することは、ほとんど価値がない。一方、その状態に対するシステム出力の感度が不足していることに起因して、内部状態がモデルによって十分に予測されない場合、システム及びモデルは、その状態を監視し、したがって、増強されたシステムのモデルに別の入力を提供するセンサをシステムに備えることによって改良することができる。
【0050】
本発明の方法は、十分な計算能力を有する任意のデータ処理システム上で実施することができる。モデルが、フィードバック・ループ等の制御システムの一部としてリアルタイムで実行されている場合、データ処理システムは、制御システムの要件に沿った時間内に、新たな入力サンプルごとの更新された計算を実行することが可能でなければならない。
【0051】
次に、本発明による物理システムをシミュレートする装置の1つの実施形態を示す図3を参照する。装置50は、ソース55からの電気信号又は光信号を処理する。ソース55がアナログ信号を提供する場合、その信号は、A/D54によってデジタル化される。ソースがデジタル信号を既に生成している場合、A/D54を省略することができる。プロセッサ51は、メモリ52に記憶された状態空間モデルからの装置出力を計算する。プロセッサ51は、専用の信号処理ハードウェアで実施することもできるし、従来の計算エンジンとして実施することもできる。新たな信号値がプロセッサ51に入力されるごとに、プロセッサ51は、デジタル出力信号を生成する。装置50の所望の出力がアナログ信号である場合、D/A変換器53を装置50に備えることができる。
【0052】
本発明の上記の実施形態は、本発明の種々の態様を例示するように提供されてきた。しかしながら、種々の具体的な実施形態において示される本発明の種々の態様を組み合わせて、本発明の他の実施形態を提供できることは理解されたい。さらに、本発明に対する種々の変更形態は、これまでの説明及び添付の図面から明らかになるであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるべきである。
図1
図2
図3