【文献】
西山治男、相澤正信,(La,Ca)CrO3のSOFCインターコネクターとしての特性(第1報)−焼結特性、電気伝導性−,Journal of the Ceramic Society of Japan,日本,The Ceramic Society of Japan,2000年,第108巻,1103−1109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.インターコネクタ材料
インターコネクタ材料は、後述するように、燃料電池のインターコネクタを構成する材料として好適に用いられる。インターコネクタ材料は、アルカリ土類金属のうち少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトを主成分として含有するとともに、クロム酸カルシウムを副成分として含有する。
【0012】
少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトは、組成式La
1−w−xCa
wMa
xCr
1−y−zMb
yO
3(Maは、Sr、及びBaから選択される少なくとも1種類のアルカリ土類金属元素であり、MbはCo、Ni、Mg及びAlから選択される少なくとも1種類の元素であり、0.025≦w≦0.3、0≦x≦0.3、0≦y≦0.22、―0.10≦z≦0.15)で表されるペロブスカイト型酸化物である。このように、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトには、カルシウム以外のアルカリ土類金属元素がドープされていてもよい。少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトの具体例としては、LCC(La
0.7Ca
0.3CrO
3)などが挙げられる。
【0013】
クロム酸カルシウムの組成は、CaCrO
4、CaCrO
4・2H
2O、CaCr
2O
4、Ca
3(CrO
4)
2、Ca
5(CrO
4)
3O、又はCa
5Cr
3O
12等で表される。このようなクロム酸カルシウムは、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトの焼結補助剤として機能する。具体的に、クロム酸カルシウムは、インターコネクタ材料の焼成時に、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトの粒子間にCr
2O
3が凝集することを抑制するとともに粒子どうしの液相焼結を促進する。
【0014】
ここで、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトに対するクロム酸カルシウムの質量比は、0.004以上である。少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトの含有率は、インターコネクタ材料の全質量に対して90wt%以上とすることができる。クロム酸カルシウムの含有率は、インターコネクタ材料の全質量に対して10wt%以下とすることができる。このように、本実施形態において、主成分とは含有率が90wt%以上であることを意味し、副成分とは含有率が10wt%以下であることを意味する。
【0015】
少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトの結晶子の直径(以下、「結晶子径」という)は、19nm以上960nm以下であることが好ましく、82nm以上735nm以下であることがより好ましい。クロム酸カルシウムの結晶子径は、17nm以上988nm以下であることが好ましく、31nm以上795nm以下であることがより好ましい。なお、結晶子とは、一般にクリスタレットと呼ばれる小さい単結晶を意味し、その結晶子径は、XRD(X線回折法)の分析結果に基づくリートベルト解析によって求めることができる。具体的には、Bruker AXS社製のD8 ADVANCE装置を用いて回折角2θ=10°〜120°に出現する少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイト及びクロム酸カルシウムそれぞれのピーク位置に基づいてリートベルト解析を行うことによって結晶子径を求めることができる。
【0016】
また、クロム酸カルシウムのa軸長は、7Å以上8Å以下とすることができる。クロム酸カルシウムのc軸長は、6Å以上7Å以下とすることができる。格子定数は、XRDの分析結果に基づくリートベルト解析によって求めることができる。具体的には、Bruker AXS社製のD8 ADVANCE装置を用いて回折角2θ=10°〜120°に出現する少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイト及びクロム酸カルシウムそれぞれのピーク位置に基づいてリートベルト解析を行うことによって格子定数を求めることができる。
【0017】
2.インターコネクタ材料の製造方法
上述したインターコネクタ材料の製造方法について説明する。ここでは、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトの一例としてLCCを用いる場合について説明する。
【0018】
まず、La(NO
3)
3・6H
2O、Ca(NO
3)
3・4H
2O及びCr(NO
3)
3・9H
2Oを出発原料として準備して、これらを上記組成式La
1−w−xCa
wMa
xCr
1−y−zMb
yO
3(Maは、Sr、及びBaから選択される少なくとも1種類のアルカリ土類金属元素であり、MbはCo、Ni、Mg及びAlから選択される少なくとも1種類の元素であり、0.025≦w≦0.3、0≦x≦0.3、0≦y≦0.22、―0.1≦z≦0.15)を満たすように秤量する。
【0019】
次に、秤量した原料を水溶液中で1時間〜10時間攪拌した後に、水溶液を蒸発乾固して液相合成粉末を得る。
【0020】
次に、酸素分圧:10
−20atm〜0.21atmの雰囲気において800℃〜1300℃の範囲で液相合成粉末を1〜10時間仮焼することによってインターコネクタ材料が製造される。この際、酸素分圧と仮焼温度を制御することによって、LCCに対するクロム酸カルシウムの質量比を0.004以上とする。例えば、酸素分圧を高くするとLCCに対するクロム酸カルシウムの質量比は大きくなり、酸素分圧を低くするとLCCに対するクロム酸カルシウムの質量比は小さくなる。仮焼温度を高くするとクロム酸カルシウムの質量比は小さくなり、仮焼温度を低くするとクロム酸カルシウムの質量比は大きくなる。LCCに対するクロム酸カルシウムの質量比は、XRDの分析結果に基づくリートベルト解析によって求めることができる。また、酸素分圧と仮焼温度を制御することによって、LCCの結晶子径を19nm以上960nm以下とし、クロム酸カルシウムの結晶子径を17nm以上988nm以下とすることができる。例えば、酸素分圧を高くするとクロム酸カルシウムの含有率は高まり、LCCとクロム酸カルシウムの結晶子径は大きくなる。一方、酸素分圧を低くするとクロム酸カルシウムの含有率は低くなり、LCCとクロム酸カルシウムの結晶子径は小さくなる。また、仮焼温度を高くするとクロム酸カルシウムの含有率は低くなり、LCCとクロム酸カルシウムの結晶子径は大きくなる。一方、仮焼温度を低くするとクロム酸カルシウムの含有率は高くなり、LCCとクロム酸カルシウムの結晶子径は小さくなる。
【0021】
なお、上述のように合成した単相のLCCに、別で合成した単相のクロム酸カルシウムを混合することによってもインターコネクタ材料を製造することができる。この際、LCCに対するクロム酸カルシウムの質量比が0.004以上となるように秤量する。LCCに対するクロム酸カルシウムの質量比は、LCCとクロム酸カルシウムの秤量比から求めることができる。
【0022】
3.燃料電池の構成
インターコネクタを備える燃料電池の一例として、横縞型の固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)を例に挙げて説明する。ただし、燃料電池の形態は、横縞型に限られるものではなく、縦縞型、燃料極支持型、電解質平板型、或いは円筒型などであってもよい。
【0023】
図1は、燃料電池100の構成を示す斜視図である。
図2は、
図1のI−I断面図である。燃料電池100は、支持基板101、燃料極102、電解質層103、バリア層104、空気極105、インターコネクタ106及び集電部107を備える。燃料極102、電解質層103、バリア層104及び空気極105は、セル110の発電素子部を構成する。インターコネクタ106は、隣接するセル110を電気的に接続する。
【0024】
支持基板101は、扁平かつ一方向(z軸方向)に延びる。支持基板101は、電気的絶縁性を有する多孔質体である。支持基板101は、ニッケルを含んでいてもよい。支持基板101は、Ni‐Y
2O
3(ニッケル‐イットリア)を主成分として含有していてもよい。ニッケルは酸化物(NiO)として含有されていてもよく、発電時、NiOは水素ガスによってNiに還元されてもよい。
【0025】
支持基板101の内部には、流路101aが設けられる。流路101aは、z軸方向に沿って延びる。発電時、流路101aに流される燃料ガスは、支持基板101の有する細孔を通って燃料極102に供給される。
【0026】
燃料極102は、支持基板101上に設けられる。燃料極102は、アノードとして機能する。支持基板101上には、複数の燃料極102が、所定間隔を隔ててz軸方向に並べられている。燃料極102の材料としては、例えば、NiO‐YSZ(酸化ニッケル‐イットリア安定化ジルコニア)及び/又はNiO‐Y
2O
3(酸化ニッケル‐イットリア)が挙げられる。燃料極102は、燃料極集電層と燃料極活性層を有していてもよい。燃料極集電層は支持基板101上に配置され、燃料極活性層は燃料極集電層上に配置される。
【0027】
電解質層103は、燃料極102上に設けられる。電解質層103は、支持基板101や燃料極102よりも緻密な構造を有する。隣接する2つの電解質層103は、インターコネクタ106によって接続される。電解質層103とインターコネクタ106は、空気と燃料ガスとを切り分けるシール部として機能する。電解質層15の材料としては、例えば、8YSZ及び10YSZ等のイットリア安定化ジルコニアやScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)等のジルコニア系材料が挙げられる。
【0028】
バリア層104は、電解質層103と空気極105の間に設けられる。バリア層104の材料としては、例えば、GDC((Ce, Gd)O
2:ガドリニウムドープセリア)、SDC((Ce, Sm)O
2:サマリウムドープセリア)等が挙げられる。バリア層104は、空気極105から電解質層103へのカチオンの拡散を抑制する機能を有する。
【0029】
空気極105は、バリア層104上に配置される。空気極50は、カノードとして機能する。空気極105の材料としては、(La,Sr)(Co,Fe)O
3、(La,Sr)FeO
3、(La,Sr)CoO
3、LaSrMnO
3などのペロブスカイト型酸化物が挙げられる。
【0030】
インターコネクタ106は、燃料極102上に配置される。インターコネクタ106は、隣接する2つの電解質層103に接続する。インターコネクタ106の材料としては、上述したインターコネクタ材料が好適である。
【0031】
インターコネクタ106は、当該インターコネクタ材料を用いた成形体を、燃料極102、電解質層103及びバリア層104それぞれの成形体とともに共焼成(1300〜1600℃、2〜20時間)することによって形成できる。この際、インターコネクタ材料では、上述の通り少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトに対するクロム酸カルシウムの質量比が適切に調整されているため、インターコネクタ106の焼結性を向上させることによって、インターコネクタ106の緻密度を向上させることができる。また、インターコネクタ材料に含まれるランタンクロマイトとクロム酸カルシウムそれぞれの結晶子径が適切に調整されている場合には、インターコネクタ106と燃料極102との焼成収縮開始温度や焼成収縮量を合致させることによって、インターコネクタ106と燃料極102の界面剥離を抑制して両者の密着性を向上できる。
【0032】
集電部107は、インターコネクタ106とセル110とを電気的に接続する。集電部107は、導電性を有していればよく、インターコネクタ106や空気極105と同様の材料で構成することができる。
【実施例】
【0033】
以下において本発明に係るインターコネクタ材料の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0034】
[サンプルNo.1〜10に係るインターコネクタ材料の作製]
以下のようにして、サンプルNo.1〜10に係るインターコネクタ材料を作製した。
【0035】
まず、サンプルNo.1〜4,6〜9の出発原料としてLa(NO
3)
3・6H
2O、Ca(NO
3)
3・4H
2O及びCr(NO
3)
3・9H
2Oを準備し、サンプルNo.5,10の出発原料としてLa(NO
3)
3・6H
2O、Ca(NO
3)
3・4H
2O、Cr(NO
3)
3・9H
2O及びSr(NO
3)
2・4H
2Oを出発原料として準備した。続いて、上記組成式を満たすように秤量した出発原料を水溶液中で1〜10時間攪拌した後に、水溶液を蒸発乾固して液相合成粉末を得た。
【0036】
次に、酸素分圧:10
−20atm〜0.21atmの雰囲気において800℃〜1300℃の範囲で液相合成粉末を1〜10時間仮焼することによって、カルシウムがドープされたランタンクロマイトとクロム酸カルシウムを合成した。この際、酸素分圧と仮焼温度を制御することによって、カルシウムがドープされたランタンクロマイトに対するクロム酸カルシウムの質量比を表1に示すように調整した。
【0037】
[サンプルNo.1〜10に係るインターコネクタ材料の相対密度測定]
サンプルNo.1〜10に係るインターコネクタ材料を角柱状にプレス成形(1〜5MPa)し、焼成(1400℃、1〜10時間)することによって試験片を作製した。そして、試験片の相対密度を画像解析法によって算出した。すなわち、画像解析ソフトを使用して、試験片の断面SEM写真から気孔率を算出した。各サンプルの相対密度の算出結果を表1にまとめて示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトに対するクロム酸カルシウムの質量比が0.004以上であるサンプルでは、インターコネクタとして十分利用可能な95%以上の相対密度を得ることができた。
【0040】
これは、インターコネクタ材料における少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトとクロム酸カルシウムの存在状態を最適化することによって、インターコネクタの液相焼結を促進できたためである。
【0041】
[サンプルNo.11〜19に係るインターコネクタ材料の作製]
以下のようにして、サンプルNo.11〜19に係るインターコネクタ材料を作製した。
【0042】
まず、上述したサンプルNo.2〜10に係るインターコネクタ材料と同様にしてサンプルNo.11〜19に係るインターコネクタ材料を作製した。この際、酸素分圧と仮焼温度を制御することによって、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトとクロム酸カルシウムの結晶子径を表2に示すように調整した。
【0043】
結晶子径は、XRDの分析結果に基づくリートベルト解析によって求めた。
【0044】
[サンプルNo.11〜19に係る燃料極−インターコネクタの作製]
以下のようにして、サンプルNo.11〜19に係る燃料極−インターコネクタ積層体を作製した。
【0045】
まず、NiO‐Y
2O
3粉末の混合粉末を金型プレス成形法で成形して、燃料極の成形体を形成した。
【0046】
次に、表2に示すインターコネクタ材料に水とバインダーを混合してスラリーを燃料極の成形体上に塗布して、インターコネクタの成形体を形成した。
【0047】
次に、燃料極の成形体とインターコネクタの成形体を共焼結(1400℃、1〜10時間)した。
【0048】
[サンプルNo.11〜19の焼成収縮開始温度、1300℃における焼成収縮量の評価]
各サンプルに係るインターコネクタ材料を角柱状にプレス成形(1〜5MPa)し、プレス成形体を得た。次に、プレス成形体をリガク製のTP2熱機械分析装置にセットし、大気雰囲気中で昇温し、昇温中の焼結によるプレス体の寸法変化を評価した。具体的には、寸法が0.5%収縮した際の温度を焼成収縮開始温度とした。また、1300℃における焼成収縮量を測定した。測定結果を表2に示す。
【0049】
[サンプルNo.11〜19に係る燃料極−インターコネクタの剥離確認]
電子顕微鏡を用いて、燃料極−インターコネクタ間の剥離の有無を確認した。確認結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトの結晶子径が19nm以上960nm以下であり、かつ、クロム酸カルシウムの結晶子径が17nm以上988nm以下であるサンプルでは、インターコネクタの燃料極からの剥離を抑制できた。
【0052】
これは、インターコネクタと燃料極の焼成収縮挙動を合致させられたためである。
【0053】
一方で、サンプルNo.11では、インターコネクタが燃料極に比べて早く焼結開始していた。そのため、インターコネクタと燃料極の焼成収縮挙動が合わずに剥離が生じた。また、サンプルNo.18,19では、インターコネクタの焼成途中である1300℃における焼成収縮量が燃料極に比べて大きかったため、インターコネクタと燃料極との焼成収縮挙動が合わずに剥離が生じた。
【0054】
また、表2に示すように、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトの結晶子径が82nm以上735nm以下であり、かつ、クロム酸カルシウムの結晶子径が31nm以上795nm以下であるサンプルでは、インターコネクタの燃料極からの剥離をさらに抑制できた。これは、インターコネクタの焼結途中である1300℃における焼成収縮量が、燃料極の1300℃における焼成収縮量により近づくことで、燃料極と焼成収縮挙動を合致させることができたためである。
【解決手段】インターコネクタ材料は、アルカリ土類金属のうち少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトを主成分として含有するとともに、クロム酸カルシウムを副成分として含有する。少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトに対するクロム酸カルシウムの質量比は、0.004以上である。