(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.インターコネクタ材料
インターコネクタ材料は、後述するように、燃料電池のインターコネクタを構成する材料として好適に用いられる。インターコネクタ材料は、アルカリ土類金属のうち少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトを主成分として含有する。本実施形態において、主成分とは含有率が90wt%以上であることを意味する。
【0012】
少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトは、組成式La
1−w−xCa
wMa
xCr
1−y−zMb
yO
3(Maは、Sr、及びBaから選択される少なくとも1種類のアルカリ土類金属元素であり、MbはCo、Ni、Mg及びAlから選択される少なくとも1種類の元素であり、0.025≦w≦0.3、0≦x≦0.3、0≦y≦0.22、―0.12≦z≦0.18)で表されるペロブスカイト型酸化物である。zは、−0.10以上0.15以下であることが好ましい。
【0013】
このように、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトにはカルシウム以外のアルカリ土類金属元素がドープされていてもよい。少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトの具体例としては、LCC(カルシウムドープランタンクロマイト:La
0.7Ca
0.3CrO
3)などが挙げられる。
【0014】
ここで、インターコネクタ材料は、6価クロムを含有している。インターコネクタ材料における6価クロムの含有率は、インターコネクタ材料の全質量に対して0.03wt%以上である。少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトでは、通常、クロムが3価クロム及び/又は4価クロムのイオンとして存在しているが、6価クロムのイオンとして存在していると、その電気的中性を保つために6価クロムの周辺にカチオンの空孔が生成される。その結果、カチオンの空孔を介してカチオンの拡散速度が上昇して、インターコネクタ材料の焼結が促進される。
【0015】
また、インターコネクタ材料における6価クロムの含有率は、インターコネクタ材料の全質量に対して0.99wt%以下であることが好ましい。6価クロムの含有率は、JIS−K−0102.65.2.1に準拠した手法で測定することができる。
【0016】
2.インターコネクタ材料の製造方法
上述したインターコネクタ材料の製造方法について説明する。インターコネクタ材料は、例えば、硝酸塩の熱分解法によって合成することができる。以下、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトとしてLCCを合成する場合を例に挙げて説明する。
【0017】
まず、La(NO
3)
3・6H
2O、Ca(NO
3)
3・4H
2O及びCr(NO
3)
3・9H
2Oを出発原料として準備して、上述の組成式La
1−w−xCa
wMa
xCr
1−y−zMb
yO
3になるように秤量する。
【0018】
次に、秤量した原料を水溶液中で1時間〜10時間攪拌した後に、水溶液を蒸発乾固して液相合成粉末を得る。
【0019】
次に、酸素分圧:10
−20atm〜0.21atmの雰囲気において800℃〜1300℃の範囲で1〜10時間仮焼する。この際、酸素分圧や仮焼温度を制御することによって、インターコネクタ材料に含まれる6価クロムの含有率を調整することができる。具体的には、酸素分圧を高くすると6価クロムの含有率は高まり、酸素分圧を低くすると6価クロムの含有率は低くなる。また、仮焼温度を高くすると6価クロムの含有率は低くなり、仮焼温度を低くすると6価クロムの含有率は高くなる。
【0020】
3.燃料電池の構成
インターコネクタを備える燃料電池の一例として、横縞型の固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)を例に挙げて説明する。ただし、燃料電池の形態は、横縞型に限られるものではなく、縦縞型、燃料極支持型、電解質平板型、或いは円筒型などであってもよい。
【0021】
図1は、燃料電池100の構成を示す斜視図である。
図2は、
図1のI−I断面図である。燃料電池100は、支持基板101、燃料極102、電解質層103、バリア層104、空気極105、インターコネクタ106及び集電部107を備える。燃料極102、電解質層103、バリア層104及び空気極105は、セル110の発電素子部を構成する。インターコネクタ106は、隣接するセル110を電気的に接続する。
【0022】
支持基板101は、扁平かつ一方向(z軸方向)に延びる。支持基板101は、電気的絶縁性を有する多孔質体である。支持基板101は、ニッケルを含んでいてもよい。支持基板101は、Ni‐Y
2O
3(ニッケル‐イットリア)を主成分として含有していてもよい。ニッケルは酸化物(NiO)として含有されていてもよく、発電時、NiOは水素ガスによってNiに還元されてもよい。
【0023】
支持基板101の内部には、流路101aが設けられる。流路101aは、z軸方向に沿って延びる。発電時、流路101aに流される燃料ガスは、支持基板101の有する細孔を通って燃料極102に供給される。
【0024】
燃料極102は、支持基板101上に設けられる。燃料極102は、アノードとして機能する。支持基板101上には、複数の燃料極102が、所定間隔を隔ててz軸方向に並べられている。燃料極102の材料としては、例えば、NiO‐YSZ(酸化ニッケル‐イットリア安定化ジルコニア)及び/又はNiO‐Y
2O
3(酸化ニッケル‐イットリア)が挙げられる。燃料極102は、燃料極集電層と燃料極活性層を有していてもよい。燃料極集電層は支持基板101上に配置され、燃料極活性層は燃料極集電層上に配置される。
【0025】
電解質層103は、燃料極102上に設けられる。電解質層103は、支持基板101や燃料極102よりも緻密な構造を有する。隣接する2つの電解質層103は、インターコネクタ106によって接続される。電解質層103とインターコネクタ106は、空気と燃料ガスとを切り分けるシール部として機能する。電解質層15の材料としては、例えば、8YSZ及び10YSZ等のイットリア安定化ジルコニアやScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)等のジルコニア系材料が挙げられる。
【0026】
バリア層104は、電解質層103と空気極105の間に設けられる。バリア層104の材料としては、例えば、GDC((Ce, Gd)O
2:ガドリニウムドープセリア)、SDC((Ce, Sm)O
2:サマリウムドープセリア)等が挙げられる。バリア層104は、空気極105から電解質層103へのカチオンの拡散を抑制する機能を有する。
【0027】
空気極105は、バリア層104上に配置される。空気極50は、カノードとして機能する。空気極105の材料としては、(La,Sr)(Co,Fe)O
3、(La,Sr)FeO
3、(La,Sr)CoO
3、LaSrMnO
3などのペロブスカイト型複合酸化物が挙げられる。
【0028】
インターコネクタ106は、燃料極102上に配置される。インターコネクタ106は、隣接する2つの電解質層103に接続する。インターコネクタ106の材料としては、上述したインターコネクタ材料が好適である。
【0029】
インターコネクタ106は、当該インターコネクタ材料を用いた成形体を、燃料極102、電解質層103及びバリア層104それぞれの成形体とともに共焼成(1300〜1600℃、2〜20時間)することによって形成できる。この際、上述したインターコネクタ材料では、6価クロムの含有率が0.03wt%以上に調整されているため、インターコネクタ106の緻密化を図ることができる。
【0030】
集電部107は、インターコネクタ106とセル110とを電気的に接続する。集電部107は、導電性を有していればよく、インターコネクタ106や空気極105と同様の材料で構成することができる。
【実施例】
【0031】
以下において本発明に係るインターコネクタ材料の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0032】
[サンプルNo.1〜10に係るインターコネクタ材料の作製]
以下のようにして、サンプルNo.1〜10に係るインターコネクタ材料を作製した。
【0033】
まず、La(NO
3)
3・6H
2O、Ca(NO
3)
3・4H
2O及びCr(NO
3)
3・9H
2O、Sr(NO3)2・4H
2O等を出発原料として準備して、上記組成式La
1−w−xCa
wMa
xCr
1−y−zMb
yO
3(Maは、Sr、及びBaから選択される少なくとも1種類のアルカリ土類金属元素であり、MbはCo、Ni、Mg及びAlから選択される少なくとも1種類の元素であり、0.025≦w≦0.3、0≦x≦0.3、0≦y≦0.22、―0.12≦z≦0.18)を満たすように秤量した。
【0034】
次に、秤量した原料を水溶液中で10時間攪拌した後に、水溶液を蒸発乾固して液相合成粉末を得た。
【0035】
次に、酸素分圧:10
−20atm〜0.21atmの雰囲気において800℃〜1300℃の範囲で1〜10時間仮焼した。この際、酸素分圧と仮焼温度を制御することによって、表1に示すように、インターコネクタ材料に含まれる6価クロムの含有率を調整した。6価クロムの含有率は、JIS−K−0102.65.2.1に準拠した手法で測定した。また、Bruker AXS社製のD8 ADVANCE装置を用いたXRD(X線回折法)の分析結果によって、インターコネクタ材料がLCCであることを確認した。
【0036】
[焼成体の相対密度測定]
サンプルNo.1〜10に係るインターコネクタ材料を角柱状にプレス成形(1〜5MPa)し、焼成(1400℃、1〜10時間)することによって試験片を作製した。そして、試験片の相対密度を画像解析法によって算出した。すなわち、画像解析ソフトを使用して、試験片の断面SEM写真から気孔率を算出した。各サンプルの相対密度の算出結果を表1にまとめて示す。
【0037】
[サンプルNo.1〜10に係る燃料極−インターコネクタの作製]
以下のようにして、サンプルNo.1〜10に係る燃料極−インターコネクタ積層体を作製した。
まず、NiO‐Y
2O
3粉末の混合粉末を金型プレス成形法で成形して、燃料極の成形体を形成した。
次に、表1に示すインターコネクタ材料に水とバインダーを混合してスラリーを燃料極の成形体上に塗布して、インターコネクタの成形体を形成した。
次に、燃料極の成形体とインターコネクタの成形体を共焼結(1400℃、1〜10時間)した。
【0038】
[焼成後の剥離確認]
電子顕微鏡を用いて、共焼成された燃料極−インターコネクタ間の剥離の有無を確認した。確認結果を表2に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、6価クロムの含有率を0.03wt%以上としたサンプルでは、インターコネクタとして十分利用可能な95%以上の相対密度を得ることができた。これは、6価クロムの含有率を0.03wt%以上とすることによって、6価クロムの周辺に生成されたカチオンの空孔を介してカチオンの拡散速度を上昇できたためであると考えられる。
【0041】
また、表1に示すように、6価クロムの含有率を0.99wt%以下としたサンプルでは、焼成後において燃料極との剥離を抑制できた。これは、サンプルNo.9、10のインターコネクタにおいて、6価クロムの周辺に生成されたカチオンの空孔を介してカチオンの拡散速度が上昇して焼成収縮量が燃料極に比べて大きくなったため、燃料極との焼成収縮挙動が合わずに剥離が生じたものと考えられる。
【0042】
[サンプルNo.11〜19に係る燃料極−インターコネクタの作製]
以下のようにして、サンプルNo.11〜19に係る燃料極−インターコネクタ積層体を作製した。
【0043】
まず、上述のサンプルNo.2〜10と同様の工程によって、サンプルNo.11〜19に係るインターコネクタ材料を作製した。この際、表2に示すように、組成式La
1−w−xCa
wMa
xCr
1−y−zMb
yO
3におけるzが−0.12モル以上0.18モル以下になるように出発原料を秤量した。
【0044】
次に、NiO‐Y
2O
3粉末の混合粉末を金型プレス成形法で成形して、燃料極の成形体を形成した。
【0045】
次に、インターコネクタ材料に水とバインダーを混合してスラリーを燃料極の成形体上に塗布して、インターコネクタの成形体を形成した。
【0046】
次に、燃料極の成形体とインターコネクタの成形体を共焼成(1400℃、1〜10時間)した。
【0047】
[還元後の剥離確認]
まず、共焼成された燃料極−インターコネクタを大気中で800℃に加熱して、発電雰囲気を模擬するために燃料極側を10
−20atmの酸素分圧雰囲気にするとともにインターコネクタ側を大気雰囲気にして1時間放置した。その後、室温まで降温してから大気雰囲気に戻した。次に、電子顕微鏡を用いて、還元された燃料極−インターコネクタ間の剥離の有無を確認した。確認結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、zを−0.10モル以上0.15モル以下とすることによって、焼成後だけでなく還元後においてもインターコネクタの剥離を抑制できることが確認できた。
【解決手段】インターコネクタ材料は、少なくともカルシウムがドープされたランタンクロマイトを主成分として含有する。インターコネクタ材料における6価クロムの含有率は、全質量に対して0.03wt%以上である。