特許第5885909号(P5885909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885909
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】電子圧力センシングデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01L 9/00 20060101AFI20160303BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20160303BHJP
   H04R 23/00 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   G01L9/00 309
   H01L29/84 Z
   H04R23/00 320
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-109863(P2010-109863)
(22)【出願日】2010年5月12日
(65)【公開番号】特開2010-266441(P2010-266441A)
(43)【公開日】2010年11月25日
【審査請求日】2013年4月1日
【審判番号】不服2014-24168(P2014-24168/J1)
【審判請求日】2014年11月27日
(31)【優先権主張番号】12/465,309
(32)【優先日】2009年5月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508243639
【氏名又は名称】エルエスアイ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100121061
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 清春
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】エドワード ビー. ハリス
【合議体】
【審判長】 中塚 直樹
【審判官】 清水 稔
【審判官】 関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公告第1232619(DE,B)
【文献】 特公昭40−23453(JP,B1)
【文献】 特開2002−257645(JP,A)
【文献】 特開昭61−140182(JP,A)
【文献】 特公昭47−8095(JP,B1)
【文献】 特開昭61−153537(JP,A)
【文献】 特開平11−44587(JP,A)
【文献】 英国特許第1049130(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 9/00, H01L 29/84, H04R 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子圧力センシングデバイスであって、
基板の上に配置されるトランジスタ、
記基板の側方に隣接して該基板の接触領域に結合するように構成されるチップを有するリンカーアームであって、該接触領域が前記トランジスタの近傍に位置している、リンカーアーム、及び
前記リンカーアームに機械的に結合される圧力変換器であって、圧力変化に応答して、前記チップに、前記トランジスタの導電率を変化させることができる力を付与させるように構成される圧力変換器
を備えた電子圧力センシングデバイス。
【請求項2】
請求項1記載の電子圧力センシングデバイスであって、前記基板が前記トランジスタを覆うひずみ誘電体層をさらに含み、前記ひずみ誘電体層が前記トランジスタに引張り力又は圧縮力を付与するように構成された電子圧力センシングデバイス。
【請求項3】
請求項1記載の電子圧力センシングデバイスであって、前記基板の上に配置される基準トランジスタをさらに含み、前記基準トランジスタと前記トランジスタの間の分離距離が、前記力によって前記基準トランジスタの導電率が実質的に変化しない十分な距離である電子圧力センシングデバイス。
【請求項4】
請求項記載の電子圧力センシングデバイスであって、前記トランジスタ及び前記基準トランジスタが前記接触領域に結合する前記チップの表面の面積の平方根の少なくとも約5倍長い距離だけ分離された電子圧力センシングデバイス。
【請求項5】
請求項記載の電子圧力センシングデバイスであって、前記トランジスタ及び前記基準トランジスタが差動増幅器電気回路の一部である電子圧力センシングデバイス。
【請求項6】
請求項1記載の電子圧力センシングデバイスであって、前記圧力変換器がダイヤフラムを含み、且つ、前記デバイスが音声デバイス又は圧力変換器として構成された電子圧力センシングデバイス。
【請求項7】
圧力変化を測定する方法であって、
圧力変換器を取り囲んでいる媒体の圧力変化によって機械的に振動する前記圧力変換器に応答して、前記圧力変換器に結合されるリンカーアームを移動させるステップであって、前記運動によって前記リンカーアームのチップが基板の接触領域に力を付与し、前記リンカーアームの前記チップが前記基板の側方に隣接して該基板の前記接触領域に結合している、ステップ、
前記基板上の前記接触領域の近傍に配置されるトランジスタの両端間に電圧を印加するステップ、及び
前記トランジスタからの第1の電圧又は第1の電流を記録するステップであって、前記第1の電圧又は前記第1の電流が前記付与される力の変化の関数として変化する、ステップ
を備える方法。
【請求項8】
請求項記載の方法であって、
前記基板の上に配置される基準トランジスタに前記電圧を印加するステップであって、前記基準トランジスタが前記トランジスタと共通の入力接続点を有し、前記基準トランジスタからの第2の電圧又は第2の電流が、付与される力の前記変化の大きさに応答して実質的に変化しない、ステップ、及び
前記第1の電圧と前記第2の電圧の間の差又は前記第1の電流と前記第2の電流の間の差を計算するステップであって、前記差が前記付与される力の変化の関数として変化するステップ
をさらに含む方法。
【請求項9】
電子圧力センシングデバイスを製造する方法であって、
基板の上にトランジスタを形成するステップ、
前記基板の方にリンカーアームを配置するステップであって、前記リンカーアームのチップが、前記基板の側方の接触領域であって、前記トランジスタの近傍に位置している接触領域に結合するように配置する、ステップ、及び
前記リンカーアームを圧力変換器に結合するステップであって、前記圧力変換器を取り囲んでいる媒体の圧力変化によって前記チップが前記接触領域に力を付与することができるように結合する、ステップ
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は一般に圧力センシングデバイスを対象とし、より具体的には電子圧力センシングデバイス及びこのようなデバイスの使用方法並びに製造方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
圧力センシングデバイスは、それらを小型化することによってそれらの用途が拡張され、また、それらの材料費又は製造費を低減することができるため、小型化されることが望ましい。しかし、圧力センシングデバイスのコンポーネントは通常、個別に製造された後にアセンブルされてデバイスが形成されるため、小型化及び費用の低減が妨げられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示の一実施形態は電子圧力センシングデバイスである。電子圧力センシングデバイスは基板の上に配置されるトランジスタを備える。電子圧力センシングデバイスはまた、基板の接触領域であって、該トランジスタの近傍に位置している接触領域に接触するように構成されるチップを有するリンカーアームを備える。電子圧力センシングデバイスはさらに、リンカーアームに機械的に結合される圧力変換器を備える。圧力変換器は、圧力変化に応答して、チップに、トランジスタの導電率を変化させることができる力を付与させるように構成される。
【0004】
本開示の他の実施形態によれば、圧力変化を測定する方法が提供される。この方法には、圧力変換器を取り囲んでいる媒体の圧力変化によって機械的に振動する圧力変換器に応答して、該圧力変換器に結合されるリンカーアームを移動させるステップが含まれる。この運動により、リンカーアームのチップは基板の接触領域に力を付与する。この方法にはまた、基板上の接触領域の近傍に配置されるトランジスタの両端間に電圧を印加するステップが含まれる。この方法にはさらに、トランジスタからの第1の電圧又は第1の電流を記録するステップが含まれており、記録される第1の電圧又は第1の電流は、付与される力の変化の関数として変化する。
【0005】
本開示のさらに他の実施形態は電子圧力センシングデバイスを製造する方法である。この方法には、基板の上にトランジスタを形成するステップ、及びリンカーアームのチップが、基板の接触領域であって、トランジスタの近傍の接触領域に接触することができるようにリンカーアームを基板の上方に配置するステップが含まれる。この方法にはさらに、圧力変換器を取り囲んでいる環境の圧力変化によってチップが接触領域に力を付与することができるようにリンカーアームを圧力変換器に結合するステップが含まれる。
【0006】
添付の図と共に読むことにより、以下の詳細な説明から様々な実施形態を理解することができる。様々なフィーチャは、必ずしもスケール通りには描かれておらず、また、説明を分かり易くするために場合によっては恣意的にサイズが拡大又は縮小される。以下の説明には添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本開示の電子圧力センシングデバイス例の一部の横断面図である。
図1B】本開示の電子圧力センシングデバイス例の一部の横断面図である。
図1C】本開示の電子圧力センシングデバイス例の一部の横断面図である。
図2図1A〜1Cに示されるデバイスなどの本開示の電子圧力センシングデバイスの差動増幅器電気回路の一例を示す図である。
図3】本開示による、圧力変化を測定する方法の一例を示す流れ図である。
図4】本開示による、電子圧力センシングデバイスを製造する方法の一例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示には、外力に対するトランジスタの感度を有利に使用して電子圧力センシングデバイスを提供することができる、という認識が利用される。外部から印加される力はトランジスタの導電率に影響を及ぼすため(例えばトランジスタのキャリアの移動度を大きくし、或いは小さくすることによって)、外力が印加される際のトランジスタの導電率の変化を使用して、トランジスタを取り囲んでいる環境媒体の圧力変化を測定することができる。
【0009】
本明細書において開示される電子圧力センシングデバイス及びそれらの使用は、通常はトランジスタの機能に対する外力の効果が除去又は最小化されるように設計され、且つ、実装される電子デバイスとは対照的である。電子工学デバイス中のトランジスタの場合、そのトランジスタ及びデバイスの電気特性が本来設計される挙動とは別様に挙動することになるため、一般的には外力に対して敏感であることは望ましくない。例えば、トランジスタを製造している間(ワイヤボンディング、探針及び実装中)にそれらに印加される力の変化は、トランジスタの電気特性に望ましくない変化をもたらすことになる。一方、本開示の圧力センシングデバイスは、その環境の圧力変化に対するトランジスタの感度を改善する構造を含むことができる。
【0010】
図1A〜1Cは本開示の電子圧力センシングデバイス100実施形態例の一部の横断面図を示したものである。電子圧力センシングデバイス100は、半導体基板110の上に配置されるトランジスタ105を備える。電子圧力センシングデバイス100はまた、基板110の接触領域125であって、トランジスタ105の近傍に位置している接触領域125に接触するチップ120を有するリンカーアーム115を備える。電子圧力センシングデバイス100はさらに、リンカーアーム115に機械的に結合される圧力変換器130を備える。圧力変換器130は、圧力変化に応答して、チップ120に、トランジスタ105の導電率を変化させることができる力を付与させるように構成される。
【0011】
基板110の接触領域125は、基板110の面132の一部であって、チップ120と接触する部分である。本開示の目的のために、接触領域125は、トランジスタ105が接触領域125の周囲134内に、チップ120から付与される力の意図される方向136に沿って位置すると、トランジスタ105の近傍に存在していると見なされる。
【0012】
図1Aに示される実施形態などのいくつかの実施形態では、リンカーアーム115のチップ120は基板110の上方に配置される。チップ120を基板110の上方に配置することにより、圧力に対する電子圧力センシングデバイス100の感度の最適化を促進することができる。例えば、基板110がトランジスタ105の上に薄い誘電体層140を含んでいる場合を考察する。例えば、酸化ケイ素誘電体層140は約10ミクロンないし20ミクロンの厚さ142を有する。チップ120からの力を実質的に散逸させることができないため、チップ120から伝達される実質的にすべての力がトランジスタ105に到達する。
【0013】
図1Bに示される実施形態などのいくつかの実施形態では、リンカーアーム115のチップ120は基板110の下方に配置される。このような構成はトランジスタ105にいつでもアクセスすることができる利点を提供することができる。例えば、トランジスタ105を他のデバイス(図示せず)に接続するためのコンタクト144を誘電体層140中のトランジスタ105の真上に配置することができ、従ってトランジスタ105とコンタクト144の間の通路の相互接続を容易に短くすることができる。しかし、図1Bに示されるように構成されるデバイス100は、基板110がチップ120からのより多くの力を散逸させることができるため、場合によっては、図1Aに示される構成より鈍感な感度を有することができる。例えば、基板110は誘電体層140より実質的に分厚いため(例えばシリコンの厚さ146は約200ミクロンないし300ミクロンである)、比較的より大きい力の散逸が生じることがある。一方、いくつかの実施形態では、基板の厚さ114を薄くして散逸効果を抑制することができ、それにより圧力感度を高くすることができる。例えば、図1Bに示されるように、チップ120を接触させるために、トランジスタ105の真下の基板110の一部を除去し、薄い基板厚さ148(例えば約50ミクロンないし100ミクロン)を提供することができる。
【0014】
図1Cに示される実施形態などのさらに他の実施形態では、基板110に隣接してリンカーアーム115のチップ120を配置することができる。このような実施形態は、図1A又は1Bに示される構成と比較すると垂直方向の寸法がよりコンパクトなデバイス構成を提供する利点を有することができる。
【0015】
図1A〜1Cに示されるいずれの実施形態の場合にも、リンカーアーム115は任意の固体材料を使用して構築することができ、また、圧力変換器130によって記録される圧力変化の接触領域125への伝達を促進する任意の形状を持たせることができる。例えば、リンカーアーム115は、金属又はプラスチックを使用して構築することができ、例えば、圧力変換器130を基板110に結合し、また、接触領域125に接触させることができるチップ120を提供するボディ150を提供するべく、成形し、湾曲させ、機械加工し、或いは形状化することができる金属又はプラスチックを使用して構築することができる。いくつかのケースでは、接触領域125に接触するチップの表面152(図1A)の面積を最小化することにより、チップ125から付与される力を集中させることができるため、チップの表面152の面積が最小化されることが好ましい。一方、表面152の面積を最小化するためには、トランジスタ105に対する同じ単位当たりの圧力変化に対して、再現可能な力の量が提供されるよう、表面152の中心をトランジスタ105の上方に置くことと、面積を十分に広くすることとの間の採択のバランスを取らなければならない。再現性に対する要求は単一のデバイス内で適用可能であり、また、例えばバッチプロセスで製造される異なるデバイス間で適用可能である。いくつかの実施形態では、表面152の面積は、基板110上のトランジスタ105によって占有される面積の10倍から100倍の広さに及んでいる。例えば、トランジスタ105が40nm接続点(例えばトランジスタ105のゲートの長さは約40nmである)で製造され、従って約0.02ミクロンの面積を占有する場合を考察する。いくつかの実施形態では、表面152の面積は約0.2ミクロンから2ミクロンまでの範囲であることが好ましい。一方、他のケースでは、信頼性がより高い電気特性を有するより大型のトランジスタ(例えば65nm接続点以上)を使用することも可能である。このようなケースでは、表面152の面積は、場合によっては約2ミクロンより広いことが望ましい。
【0016】
図1Aに示されるように、いくつかのケースでは、斜角が付けられたチップ120を有するようにリンカーアーム115を構成することが好ましい。このような構成にすることにより、リンカーアーム115から接触領域125に付与される力の集中を促進することができる。
【0017】
図1A〜1Cに示されるように、基板100は誘電体層140を含むことができる。誘電体層140は、トランジスタ105を電子圧力センシングデバイス100の他のコンポーネント(図示せず)に結合する金属相互接続線、ビア及びコンタクト(図示せず)を含む相互接続構造の一部であってもよい。いくつかの実施形態では、誘電体層140は、それ自体がトランジスタ105を覆うひずみ誘電体層であるか、或いはこのような誘電体層を含んでいることが有利である。ひずみ誘電体層140はトランジスタ105に引張り力又は圧縮力を付与するように構成することができる。いくつかの実施形態では、例えば、ひずみ誘電体層140には、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素又は酸化ケイ素から構成される複数の層のうちの1つ又は複数が含まれる。
【0018】
ひずみ誘電体層140は、リンカーアーム115のチップ120から付与される力に対するトランジスタ105の電気的感度を変化させることができる(つまり敏感又は鈍感にすることができる)。トランジスタ105の感度は、非ひずみ誘電体層を有する等価トランジスタの場合とは異なり、印加される所与のゲート電圧に対するトランジスタのドレイン電流の変化、及びチップ120によって付与される力を測定することによって評価することができる。
【0019】
ひずみ誘電体層140がチップ120によって付与される力に対するトランジスタ105の感度を敏感にするか、或いは鈍感にするかは、非ひずみ等価トランジスタの場合とは異なり、誘電体層140によって印加されるひずみのタイプ、及び電子圧力センシングデバイス100中のトランジスタ105のタイプによって決まる。方向136に沿ってn型金属酸化物半導体(nMOS)トランジスタ105に圧縮力を印加するひずみ誘電体層140はトランジスタ105の感度を敏感にすることができる。つまり、非ひずみ誘電体層140によって覆われ、付与される同じ力を受け取る等価nMOSトランジスタ105の場合と比べて、チップ120から付与される力に応答してnMOSトランジスタ105の導電率(例えば、印加される所与のゲート電圧に対するドレイン電流によって反映される)がより広い範囲まで変化する。方向136に沿ってnMOSトランジスタ105に引張り力を印加するひずみ誘電体層140はトランジスタ105の感度を鈍感にすることができる。つまり、非ひずみ誘電体層140によって覆われ、付与される同じ力を受け取る等価nMOSトランジスタ105の場合とは異なり、チップ120から付与される力に応答してnMOSトランジスタ105の導電率がより狭い範囲で変化する。
【0020】
一方、方向136に沿ってp型金属酸化物半導体(pMOS)トランジスタ105に圧縮力を印加するひずみ誘電体層140はトランジスタ105の感度を鈍感にすることができる。つまり、非ひずみ誘電体層140によって覆われ、付与される同じ力を受け取る等価pMOSトランジスタ105の場合とは異なり、チップ120から付与される力に応答してpMOSトランジスタ105の導電率がより狭い範囲で変化する。方向136に沿ってpMOSトランジスタ105に引張り力を印加するひずみ誘電体層140はトランジスタ105の感度を敏感にすることができる。つまり、非ひずみ誘電体層140によって覆われ、付与される同じ力を受け取る等価pMOSトランジスタ105の場合とは異なり、チップ120から付与される力に応答してpMOSトランジスタ105の導電率がより広い範囲まで変化する。
【0021】
外部から印加される力に対するトランジスタの感度を敏感にするためのひずみ誘電体層の使用は、外部から印加される力に対するトランジスタの感度の最小化をしばしば試行しる特定の従来の集積回路(IC)設計とは相反している。外力に対する最小感度はしばしば探求されるが、それは、IC中のトランジスタの電気特性に対する望ましくない効果を有し、そのために許容可能な範囲内で機能するICの歩留りをより小さくしているIC製造ステップを回避するためである。
【0022】
図1Aにさらに示されるように、いくつかの実施形態では、電子圧力センシングデバイス100はさらに、基板110の上に配置される基準トランジスタ155を含むことができる。基準トランジスタ155とトランジスタ105の間の分離距離157は、チップ120から付与される力によって基準トランジスタ155の導電率が実質的に変化しない十分な距離である。例えば、いくつかの実施形態では、トランジスタ105及び基準トランジスタ155は、基板110の接触領域125に接触するチップ表面152の面積の平方根の少なくとも約5倍長い距離157だけ分離される。例えばチップ表面152の面積が約2ミクロンに等しい場合、分離距離は約10ミクロンである。
【0023】
また、同様の理由で、基準トランジスタ155は、場合によっては、接触領域125の周囲134の外側に位置するように配置され、チップ120から付与される力の意図される方向136には沿っていないことが望ましい。例えば、図1Cに示される実施形態などの実施形態の場合、基準トランジスタは、チップ120からの力の方向136が基板110の両端間を横方向に移動し、従って図に示される断面内に配置される基準トランジスタ155に影響を及ぼす可能性があるため、図には示されていない。基準トランジスタは、場合によっては、図1Cに示される断面内ではなく、断面の内側又は外側のいずれかに配置されることが好ましい。
【0024】
いくつかの実施形態では、トランジスタ105及び基準トランジスタ155は両方ともpMOSトランジスタであるか或いはnMOSトランジスタであるかのいずれかである。そうすることにより、容易にトランジスタ105、155の電気特性を互いに良好に整合させることができ、延いてはチップ120から力が印加される際のトランジスタ105、155の電気応答の差をより容易に検出することができる。一方、他のケースでは、トランジスタ105、155のうちの一方をpMOS又はnMOSトランジスタのうちの一方にし、また、もう一方のトランジスタ155、105をもう一方のnMOS又はpMOSトランジスタにすることも可能である。さらに他のケースでは、トランジスタ105、155のうちの一方又は両方をバイポーラトランジスタ又は他のタイプのトランジスタにすることも可能である。本明細書において説明されるこれらの実施形態例は、1つのトランジスタ105及び1つの基準トランジスタ155の存在が記述されるが、接触領域125の周囲134内に複数のトランジスタを配置することができ、或いは必要に応じて基準トランジスタとして使用することができることは当業者には理解されよう。
【0025】
いくつかの実施形態では、トランジスタ105及び基準トランジスタ155は、いずれもひずみ誘電体層140で覆われている。ひずみ誘電体層140は引張り力又は圧縮力のいずれかをトランジスタ105及び基準トランジスタ155に付与するように構成される。このような実施形態によれば、費用をより安くすることができ、また、トランジスタ105、155の上に単一の誘電体層140を堆積させるプロセスをより単純にすることができる。さらに、トランジスタ105、155は、それらの上に同じ誘電体層140を有するため、特定のタイプの差動増幅器回路にそれらが組み込まれると、場合によっては役に立つ可能性のある同じ電気特性を有することができる。
【0026】
一方、他のケースでは、適切なマスキング及び堆積プロセスを使用して、トランジスタ105の上にひずみ誘電体層のみを提供し、また、基準トランジスタ155の上に非ひずみ誘電体層のみを提供することも可能である。このような構造は、場合によっては、例えば基準トランジスタ155が接触領域123から離れている場合であっても、チップ120から付与される力がさもなければ基準トランジスタの電気特性に実質的に影響を及ぼすことになる場合に有利である。
【0027】
また、図1Aに示されるように、いくつかの実施形態では、圧力変換器130はチップ120が接触する基板110の同じ面132に取り付けられている。例えば、電子圧力センシングデバイス100は、マイクロホンなどの音声デバイス、記録デバイス、電話又はそれらの組合せ、或いは圧力変換器として構成することができる。いくつかのケースでは、圧力変換器130は、基板110に取り付けられるリンカーアーム115のボディ150に取り付けられるダイヤフラムを含むことができ、或いはそれ自体がそのようなダイヤフラムであってもよい。一方、他のケースでは、基板110の面132に直接圧力変換器130を取り付けることも可能である。ダイヤフラム圧力変換器130は、ボディ150を介してチップ120に機械的な力が付与され、それによりチップ120が方向136の力を接触領域125に付与するよう、圧力変化に応答して移動するように構成することができる。例えば、ダイヤフラム圧力変換器130は、電子圧力センシングデバイス100又は圧力変換器130が置かれている媒体(例えば空気、液体又は固体)を通って移動する音波に応答して機械的に振動することができ、また、これらの機械的な振動をリンカーアーム115のチップ120に付与することができる。
【0028】
一方、さらに他の実施形態では、リンカーアーム115又は圧力変換器130のうちの一方又は両方が基板110に取り付けられていない。例えば、図1Cに示されるように、圧力変換器130及びリンカーアーム115を第2の基板160に個別に取り付けることができ、また、基板110に隣接して配置することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、トランジスタ105及び基準トランジスタ155はいずれも電子圧力センシングデバイス100の差動増幅器電気回路の一部である。図2は、図1A〜1Cに示される電子圧力センシングデバイス100などの本開示の電子圧力センシングデバイスの差動増幅器電気回路200の一例を示したものである。図2に示されるように、トランジスタ105及び基準トランジスタ155は共通接続点215を介して共通電圧源210に結合することができる(例えば電圧Vを印加することによって)。例えば、両方のトランジスタ105、155のソース電極220、222は共通接続点215に結合することができる。入力電流(Iin)はトランジスタ105と155の間に分割される。トランジスタ105、155が電気的に等しい場合、それらは、それぞれIinの半分を運ぶことになる。チップ120(図1)からの力が一方のトランジスタ105に印加され、もう一方のトランジスタ155には印加されない場合、これらのトランジスタのうちの一方(例えばトランジスタ105又は基準トランジスタ155のいずれか)がより導電性になり、従ってより多くの電流を運ぶことになる。運ばれる第1の電流と第2の電流(I1out、I2out)の差は、延いてはトランジスタ105、155のドレイン電極224、226上の第1の電圧と第2の電圧(V1out、V2out)の差になる。
【0030】
回路200を完成させるために含むことができる追加コンポーネントは当業者によく知られている。例えば、図2に示されるように、回路200はさらに、第3のトランジスタ230を含むことができる。この第3のトランジスタ230を使用して、例えばこの第3のトランジスタ230のゲート225に印加される電圧(V)を調整することによってトランジスタ105、155に対するIinを制御することができる。回路200はさらに、トランジスタ105、155のドレイン電極224、226に結合される抵抗235、237を含むことができる。他の実施形態では、電流負荷を担うために、抵抗235、237の代わりに、或いはこれらの抵抗に加えて、追加トランジスタを使用することも可能である。
【0031】
図3は、本開示の他の実施形態である、圧力変化を測定する方法300の流れ図を示したものである。上で説明した、図1A〜2のコンテキストにおける実施形態などのデバイス100の任意の実施形態を使用して方法300を実施することができる。
【0032】
引き続いて図1A〜2を通して参照すると、方法300には、圧力変換器130に結合されるリンカーアーム115を移動させるステップ310が含まれる。ステップ310におけるリンカーアーム115の運動は、圧力変換器を取り囲んでいる媒体の圧力変化によって機械的に振動する(ステップ320)圧力変換器130に応答して生じる。リンカーアーム115のこの運動により、そのチップ120は基板110の接触領域125に付与される力を変化させる(ステップ330)。この方法300には、また、基板110上の接触領域125の近傍に配置されるトランジスタ105の両端間に電圧Vを印加するステップ340が含まれる。この方法300には、さらに、ステップ350で、トランジスタ105からの、付与される力の変化の関数として変化する第1の電圧(V1out)を記録するステップが含まれる。本開示に基づいて、当業者には、別法として、ステップ350で、トランジスタ105からの、付与される力の変化の関数として変化する第1の電流(I1out)を記録するための回路200(図2)の変更方法が理解されよう。
【0033】
いくつかの実施形態では、他のV値と比較した場合に、付与される所与の力に対してより大きいI1outの変化を得ることができるため、ステップ355で、選択されたゲート電圧(V)がトランジスタ105に印加されることが望ましい。例えば、いくつかの実施形態では、約0.01ボルトから0.4ボルトまでの範囲のVが印加されると(ステップ350)、チップ120から力(例えば約1×10−4N以上)が印加された場合、力が印加されない場合と比較してI1outを約15パーセント以上変化させることができる(例えばnMOSトランジスタ105の場合、約15パーセント以上大きくすることができる)。いくつかの好ましい実施形態では、ステップ350で印加されるVは約0.01ボルトないし0.15ボルトであり、この範囲のVを印加することにより、チップ120から力が印加された場合に、I1outを約30パーセント以上容易に変化させることができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、この方法300には、さらに、基板110の上に配置される基準トランジスタ155に同じ電圧(V)を印加するステップ360が含まれる。図2のコンテキストの中で説明したように、基準トランジスタ155はトランジスタ105と共通の入力接続点215を有することができる。いくつかのケースでは、基準トランジスタは接触領域125から離れているため、基準トランジスタ155からの第2の電圧(V2out)はチップ120から付与される力の変化に応答して実質的に変化しない。基準トランジスタを存在させることにより、トランジスタ105の電気応答の変化を容易に検出することができる。例えば、ステップ370で、トランジスタ105及び基準トランジスタ155からの電圧の差(例えばV1out−V2out)を記録することができ、この電圧差は付与される力の変化の関数として変化する。本開示に基づいて、当業者には、ステップ370で、トランジスタ105及び基準トランジスタ155からの第1の電流と第2の電流の差(例えばI1out−I2out)を記録するための代替回路200(図2)の使用方法が理解されよう。当業者には、ステップ350又は370でそれぞれ記録される電圧又は電流、或いは電圧差又は電流差を、記憶情報又はエンドユーザのための有用な情報に変換するための適切なステップの実行方法が理解されよう。
【0035】
本開示のさらに他の実施形態は電子圧力センシングデバイスを製造するための方法である。この方法により、図1A〜3のコンテキストにおいて説明したデバイス100の任意の実施形態を製造することができる。図4は本開示による電子圧力センシングデバイス製造方法400の一例の流れ図を示したものである。
【0036】
引き続いてもう一度図1A〜2を通して参照すると、方法400には、基板110の上にトランジスタ105を形成するステップ410が含まれる。この方法400には、また、リンカーアーム115のチップ120が、基板110の接触領域125であって、トランジスタ105の近傍に位置している接触領域125に接触することができるようにリンカーアーム115を基板110の上方に配置するステップ420が含まれる。この方法400には、さらに、リンカーアーム115を圧力変換器130に結合するステップ430であって、圧力変換器130を取り囲んでいる媒体の圧力変化によってチップ120が接触領域125に力を付与することができるように結合するステップ430が含まれる。
【0037】
いくつかのケースでは、ステップ410で基板110の上にトランジスタ105を形成するステップには、フォトリソグラフィパターニング、ドーパント注入、エッチング及び他の従来の半導体処理技法を使用して、シリコンウェーハ基板などの半導体基板110の中又は上にトランジスタ105を製造するステップを含むことができる。ステップ410の一部である、nMOS、pMOS又は他のトランジスタタイプを形成するプロセスについては当業者によく知られている。一方、他のケースでは、ステップ410で基板110の上にトランジスタ105を形成するステップには、トランジスタ105を含んだ予め製造済みのICを印刷回路基板110に取り付けるステップを含むことも可能である。
【0038】
いくつかの実施形態では、ステップ410で基板110の上にトランジスタ105を形成するステップには、トランジスタ105が誘電体層140によって覆われるよう、基板105の上に誘電体層140を堆積させるステップ435を含むことができる。いくつかのケースでは、ステップ435で堆積される誘電体層140はひずみ誘電体層である。ひずみ誘電体層140は、引張り力又は圧縮力のいずれかをトランジスタ105に付与するように構成される。非ひずみ又はひずみ誘電体層140を例えば半導体トランジスタフロントエンド製造プロセスフローの一部として堆積させる方法については当業者によく知られている。例えば、トランジスタ105がnMOSトランジスタであるいくつかのケースでは、圧縮力又は引張り力のいずれかがトランジスタ105に印加されるよう、シリコン基板の上にひずみ窒化ケイ素誘電体層140を堆積させることができる。
【0039】
いくつかの実施形態では、この方法400には、さらに、基板110の上に基準トランジスタ155を形成するステップ440を含むことができる。基準トランジスタ155は、リンカーアーム115のチップ120から付与される力が基準トランジスタ155の導電率を実質的に変化させない、トランジスタ105から十分な距離157を隔てた基板110上の位置に形成されることが好ましい。いくつかのケースでは、基準トランジスタ155を形成するステップ440は、ステップ410でトランジスタ105を形成するために使用される半導体トランジスタフロントエンド製造プロセスフローと同じ半導体トランジスタフロントエンド製造プロセスフローの一部である。このようなケースでは、ステップ435で堆積される誘電体層140(例えばひずみ誘電体層)は、同じく基準トランジスタ155を覆うことができる。一方、他のケースでは、基準トランジスタ155を覆うための個別の誘電体層(例えば非ひずみ誘電体層)堆積ステップ445を実行することも可能である。さらに他のケースでは、ステップ440で基板110の上に基準トランジスタ155を形成するステップには、基準トランジスタ155を含んだ予め製造済みの第2のICを、トランジスタ105(例えばIC中の)が取り付けられる印刷回路基板110と同じ印刷回路基板110に取り付けるステップを含むことも可能である。
【0040】
いくつかのケースでは、リンカーアーム115及び圧力変換器130は、それぞれステップ420及び430に従って配置され、且つ、結合される予め製造済みのコンポーネントである。或いは、金属、プラスチック又は同様の材料からリンカーアーム115を成形し、湾曲させ、或いは機械加工して適切な形状にするプロセス、及びダイヤフラムなどの圧力変換器130又は他のタイプの圧力感応構造を製造するための手順については当業者によく知られている。
【0041】
いくつかのケースでは、基板110の上方にリンカーアーム120を配置するステップ420には、さらに、チップ120を接触領域125に結合するステップ450を含むことができる。例えばエポキシ又ははんだなどの接着材を使用してチップ120を結合することができる。チップ120を接触領域125に結合することにより、基板110を介して伝搬する高調波振動の回避を促進することができる。高調波振動は、力を付与する部分として基板110の上方の高い位置からチップ120を基板110に打ち当てなければならない場合に生じることがある。このような高調波振動は、圧力変換器130が受け取る圧力変化をトランジスタ105の導電率の変化に正確に変換する際の妨げになることがある。
【0042】
以上、本開示のいくつかの実施形態について詳細に説明したが、当業者は、本開示の範囲を逸脱することなく、本明細書において様々な変更、置換及び修正を加えることができることを当業者は理解すべきである。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4