特許第5885966号(P5885966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885966
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】アクチュエータ装置及び発電システム
(51)【国際特許分類】
   F01K 25/10 20060101AFI20160303BHJP
   F01B 29/00 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   F01K25/10 D
   F01K25/10 Q
   F01K25/10 R
   F01B29/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-185592(P2011-185592)
(22)【出願日】2011年8月29日
(65)【公開番号】特開2013-47468(P2013-47468A)
(43)【公開日】2013年3月7日
【審査請求日】2014年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】504238806
【氏名又は名称】国立大学法人北見工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(72)【発明者】
【氏名】小原 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴延
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信夫
【審査官】 佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−282438(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0178125(US,A1)
【文献】 特公昭47−018493(JP,B1)
【文献】 特開2008−232051(JP,A)
【文献】 特開2007−321601(JP,A)
【文献】 特開2006−112345(JP,A)
【文献】 特開昭57−157005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 25/00−14
F01B 29/00
F02C 1/00−10
DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスハイドレートを加熱して解離させ気体と水の2相流体からなる作動流体とするガスハイドレート解離手段と、
前記作動流体の供給及び排出によって往復運動するピストンを介して動力を取り出す動力手段と、
前記動力手段から排出される前記作動流体を冷却してガスハイドレートとするガスハイドレート生成手段とを備え
前記ガスハイドレート解離手段及び前記ガスハイドレート生成手段は、前記ガスハイドレートを収容可能な第一及び第二のガスハイドレート処理手段から構成されると共に、
前記ガスハイドレート解離手段は、前記収容されたガスハイドレートを加熱する第一のガスハイドレート処理手段とし、前記ガスハイドレート生成手段は、前記収容されたガスハイドレートを冷却する第二のガスハイドレート処理手段とし、一定時間後に、前記ガスハイドレート解離手段は、前記収容されたガスハイドレートを加熱する第二のガスハイドレート処理手段とし、前記ガスハイドレート生成手段は、前記収容されたガスハイドレートを冷却する第一のガスハイドレート処理手段とするよう制御可能とする制御手段を設けたことを特徴とするアクチュエータ装置。
【請求項2】
前記気体は二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ装置。
【請求項3】
前記ガスハイドレート生成手段は、前記作動流体を前記水の融点−5℃以上、水の融点+5℃以下に冷却するように構成されていることを特徴とする請求項に記載のアクチュエータ装置。
【請求項4】
前記ガスハイドレート生成手段は、前記作動流体を前記水の融点以上、水の融点+3℃以下に冷却するように構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のアクチュエータ装置。
【請求項5】
前記ガスハイドレート解離手段は、前記作動流体を前記水の融点+10℃以上水の融点+15℃以下に加熱するように構成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載のアクチュエータ装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載のアクチュエータ装置及び前記アクチュエータ装置の前記動力手段に接続された発電装置を備えることを特徴とする発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスハイドレートの物理作用を利用して熱エネルギを機械的エネルギに変換するアクチュエータ装置及びこのアクチュエータ装置を用いた発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスハイドレートは、水分子の水素結合により構成される格子やかご状の構造の中にガス分子が取り込まれて構成される。このガスハイドレートを、アクチュエータ装置に利用する技術が、非特許文献1に開示されている。ガスハイドレートは、ガスと水に解離する際に熱を吸収し、ガスと水からガスハイドレートを生成する際に熱を発生する。そのため、熱を加えることによる解離と冷却による生成を交互に行わせ、解離の際に生ずる圧力と生成の際の減圧を機械的エネルギとすることができる。この解離及び生成は比較的低い温度で起こるので、ガスハイドレートを分解させて低温の熱を吸収し、ガスハイドレートを生成して放出する熱を利用することで、低温の排熱を利用することが期待されている。
【0003】
特許文献1には、加熱器を内蔵する発生器、冷却器を内蔵する吸収器、吸収器内の水を発生器に送る循環ポンプ並びに発生器内の水を減圧して吸収器に送るための減圧装置よりなる吸収溶液循環系と、発生器側に吸入口及び吸収気側に吐出口を連絡した膨張タービンを有するガス系とを備え、このタービンに運動エネルギを付与するガスを、水と反応してハイドレートの結晶を生成し得るガスで臨界分解温度15℃以上のガスとした低温熱源利用原動機構が開示されている。この低温熱源利用原動機構は、発生器でハイドレートを加熱して水及びガスに分解し、このガスをタービンに吹付けて運動させ、このガスを吸収器で水と共に冷却してガスハイドレートとする。このガスハイドレートは15℃で分解しガスの圧力を発生することから、加熱器において低温の熱源を利用しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭47−18493号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】熱・電気エネルギー技術報告書H9−(1)TE01「ガスハイドレート発電システムの調査研究」、財団法人 熱・電気エネルギー技術財団、平成10年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1の装置を用いて、低温排熱を機械的エネルギ、ついで電気エネルギに変換することで、低温排熱をエネルギとして再利用することを検討した。しかしながら、この装置を用いて本発明者らが検証したところによると、ガスハイドレートの解離及び生成の反応から電力を得るに充分な機械的エネルギを得るには問題があることが明らかになった。すなわち、一般にガスハイドレートは、ガスと水からガスハイドレートを生成する際の速度が遅いために、アクチュエータを動作させるための速度が遅くなる。また、ガスハイドレートが解離した際に生ずるガスの圧力のみを利用しているため、燃焼反応などを用いた機関と比較して出力が小さくなる。その結果、用いるガスハイドレートの量あたりの得られるエネルギの量、すなわちシステムのエネルギ密度が低くなる。そのため、装置を駆動し電気エネルギを得るには、装置を大規模化する必要があり、コストの増大を招くと思われた。
【0007】
そこで本発明者らは、ガスハイドレートの解離生成のシステムのエネルギ密度を上昇すべく鋭意研究を進めていった。その結果、ガスハイドレートの生成の過程において、ガスと水とからガスハイドレートを生成する際の速度を改善すること、また、ガスハイドレートの解離の過程において、解離によって生じる圧力を高くすることに着目し、さらに研究した。
【0008】
本発明の目的は、ガスハイドレートを充分な圧力及び速度で反応させて作動流体とすることにより大きな出力を得ることができ、低温排熱のエネルギを有効に利用することができるアクチュエータ装置及び発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアクチュエータ装置は、ガスハイドレートを加熱して解離させ気体と水の2相流体からなる作動流体とするガスハイドレート解離手段と、作動流体の供給及び排出によって往復運動するピストンを介して動力を取り出す動力手段と、動力手段から排出される作動流体を冷却してガスハイドレートとするガスハイドレート生成手段とを備える。
【0010】
ガスハイドレート解離手段によりガスハイドレートを解離させ作動流体とし、その際に生じる圧力によってピストンを往復運動させる。作動流体はガスハイドレート生成手段によってガスハイドレートとなり再び用いられる。作動流体を気体と水の2相流体としているので、作動流体の圧力が気体のみの圧力に比べて高く、ピストンを往復運動させるために充分な圧力が得られる。ガスハイドレートの解離は常温に比べて低温で行うことができるので、低温の熱で充分な圧力で動作させることができ、低温の排熱等を有効に利用し機械的エネルギに変換できるアクチュエータ装置が得られる。
【0011】
ガスハイドレート生成手段は、作動流体を水の融点−5℃以上、水の融点+5℃以下に冷却するように構成されていることが好ましい。ガスハイドレートの生成温度を水の融点に近い液相に制御することで、ガスハイドレートの生成速度が大きくなり、動力手段を動作させるのに充分な速度が得られる。
【0012】
ガスハイドレート生成手段は、作動流体を常圧において水の融点以上、水の融点+3℃以下に冷却するように構成されていることが好ましい。常圧において水の融点に近い温度で生成を行うことで、ガスハイドレートの生成速度が最大となり、動力手段を動作させるのに大きな速度が得られる。
【0013】
ガスハイドレート解離手段は、作動流体を水の融点+10℃以上水の融点+15℃以下に加熱するように構成されていることが好ましい。常温よりも低い温度でガスハイドレートを解離するので、低温の熱を利用して動作させることができ、従来利用の場が少なかった低温排熱を動力として利用することができる。
【0014】
気体は二酸化炭素を用いることが好ましい。引火の危険性が少なく供給が容易である。
【0015】
ガスハイドレート解離手段は、ガスハイドレートを収容可能で前記収容したガスハイドレートを加熱可能に構成された容器からなり、ガスハイドレート生成手段は、ガスハイドレートを収容可能で収容したガスハイドレートを冷却可能に構成された容器からなることが好ましい。容器内でガスハイドレートを加熱又は冷却することにより容易に温度を調節し、ガスハイドレートの反応の圧力を得ることができる。
【0016】
ガスハイドレートを収容可能な第一及び第二のガスハイドレート処理手段を備え、ガスハイドレート解離手段は、収容されたガスハイドレートを加熱する第一のガスハイドレート処理手段とし、ガスハイドレート生成手段は、収容されたガスハイドレートを冷却する第二のガスハイドレート処理手段とし、一定時間後に、ガスハイドレート解離手段は、収容されたガスハイドレートを加熱する第二のガスハイドレート処理手段とし、ガスハイドレート生成手段は、収容されたガスハイドレートを冷却する第一のガスハイドレート処理手段とするよう制御可能とする制御手段を設けたことも好ましい。第一及び第二のガスハイドレート処理手段を交互に解離手段及び生成手段として機能させることで、ガスハイドレートが解離時の圧力又は生成時の減圧にしたがって移動するので、ポンプ等で強制的に循環させる必要がなく、高い効率でアクチュエータ装置を動作させることができる。
【0017】
本発明の発電システムは、上述したアクチュエータ装置及びこのアクチュエータ装置の動力手段に接続された発電装置を備える。
【0018】
上述のアクチュエータ装置は低温の熱で充分な動力を得ることができるので、この動力手段に発電装置を接続し電力を取り出すことで、低温の排熱等を有効に利用し電気エネルギに変換できる発電システムが得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガスハイドレート解離手段によりガスハイドレートを解離させ作動流体とし、その際に生じる圧力によってピストンを往復運動させる。作動流体はガスハイドレート生成手段によってガスハイドレートとなり再び用いられる。作動流体を気体と水の2相流体としているので、作動流体の圧力が気体のみの圧力に比べて高く、ピストンを運動させるために充分な圧力が得られる。ガスハイドレートの解離は常温に比べて低温で行うことができるので、低温の熱で充分な圧力で動作させることができ、低温の排熱等を有効に利用し機械的エネルギに変換できるアクチュエータ装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係るアクチュエータ装置を示す概略図である。
図2図1のアクチュエータ装置の圧力−温度のサイクルを示すグラフである。
図3】本発明の第2の実施形態に係る発電システムを示す概略図である。
図4】本発明の試験例1における生成解離反応における容器内圧力を示すグラフである。
図5】本発明の試験例2における生成解離サイクルの温度条件を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係るアクチュエータ装置1は、ガスハイドレート解離機構2(本発明のガスハイドレート解離手段に相当する)、動力機構3(本発明の動力手段に相当する)及びガスハイドレート生成機構4(本発明のガスハイドレート生成手段に相当する)を備えて概略構成される。本実施形態のアクチュエータ装置1は、これらに加えて、さらに、バッファ機構5を備えている。
【0022】
ここで、ガスハイドレートとは、水分子の水素結合により構成される格子やかご状の構造の中にガス分子が取り込まれ、いわゆる包接水和物を構成しているものを指す。ガス分子はメタン、エタン、プロパン、ブタン、水素又は二酸化炭素の場合がある。ガスハイドレートは−20℃前後では固体の状態で安定し、ペレットやパウダーの形態で保存することができる。ガスハイドレートを構成する水は、純水又は純水に添加物を加えることで後述する融点などの相変化条件を調整したものを適宜選択できる。本実施形態ではガスハイドレートには、ガス分子を二酸化炭素とし、水に純水を用いたものを選択している。
【0023】
ガスハイドレート解離機構2は、ガスハイドレートを加熱して解離させ、気体状態のガス分子と水の2相流体からなる作動流体6とする機構である。ガスハイドレート解離機構2の例としては、ガスハイドレートを供給可能な容器で、加熱器や熱交換器などを備えたものがある。熱交換器を用いると、外部から導入した排熱を利用することができる。本実施形態では、ガスハイドレート解離機構2は、熱交換器を備えた容器で、効率的に熱交換を行えるように攪拌器を備えている。なお、ガスハイドレート解離機構2は、ガスハイドレートを供給する供給口(図示せず)を備えている。
【0024】
ガスハイドレート解離機構2は、作動流体6を水の融点+10℃以上水の融点+15℃以下に加熱することができるよう構成されている。図に示したアクチュエータ装置1では、熱交換器及び熱交換器からの熱交換媒体を調節する機構(図示せず)により、作動流体6をおよそ15℃に加熱することができる。ガスハイドレートは水の融点+10℃以上水の融点+15℃以下に加熱することで解離し2相流体となるが、解離のために減圧などの他の手段を併用していてもよい。
【0025】
動力機構3は、作動流体6の供給及び排出によって、往復運動するピストン30を介して動力を取り出す機構である。動力機構3には、ピストンを有する公知の動力機構が使用でき、本実施形態ではピストン30によってクランク軸31を回転させるものを使用している。図に示した例では、ピストン30が2つ設けられているが、3以上の数が設けられていてもよい。
【0026】
動力機構3は、配管7によってガスハイドレート解離機構2と接続されている。本実施形態では、配管7によってガスハイドレート解離機構2から排出される作動流体6がピストン30にそれぞれ供給されるようになっている。ガスハイドレート解離機構2と動力機構3とを接続する配管7には作動流体6の供給を調整可能なバルブ71が設けられている。
【0027】
バッファ機構5は、ピストン30によって生じる作動流体6の圧力変動を抑え、ガスハイドレート生成機構4に供給される作動流体6の圧力や流量に急激な変化が生じないようにするため設けられている。本実施形態では、作動流体6を一時貯留するバッファタンクが設置されている。このバッファタンクは、予想される圧力変動を吸収するように大きさが設定されている。バッファ機構5により、ピストン30から出た作動流体は、安定してガスハイドレート生成機構4に供給される。
【0028】
ガスハイドレート生成機構4は、動力手段3から排出される作動流体6を冷却してガスハイドレートとする。作動流体6を冷却する手段としては外気、自然エネルギ又は冷凍器等を利用できる。本実施形態では、ガスハイドレート生成機構4内は冷凍器(図示せず)により低温に保たれている。本実施形態では、ガスハイドレート生成機構4はスクリューポンプ40を備える。スクリューポンプ40は、ガスハイドレート生成機構4内で冷却される作動流体6に圧力を加えることでガスハイドレートを生成しつつ、このガスハイドレートをガスハイドレート解離機構2側に送り込む機構を兼ねている。図に示した例では、スクリューポンプ40は作動流体6を0.8MPa以上に加圧する。なお、ガスハイドレート生成機構4はガスハイドレート解離機構2よりも容積を大きくすることで一度に多量のガスハイドレートを生成できるようにし、反応時間を確保している。
【0029】
ガスハイドレート生成機構4は、作動流体6を水の融点−5℃以上、水の融点+5℃以下に冷却する。特に、作動流体6を水の融点以上、融点+3℃に冷却することが望ましい。水の融点近くの液相の状態に置くことで生成速度が特に速くなる。生成する温度を水の融点より低くすると、作動流体6を構成する水が凍結して氷となり、ガスハイドレートの生成速度の低下と作動流体6の配管での流通が困難となる問題が生じるので、水の融点以上とし作動流体6を液相にとどめることでこれらを防ぐことができる。
【0030】
ついで、このアクチュエータ装置1の作用について説明する。作動流体6が位置A、すなわちガスハイドレート生成機構4の入口に入るとき、図2に示すように、作動流体6は気体と水の二相の状態で温度が高くなっている。この作動流体6がガスハイドレート生成機構4内の位置A’では水の融点以上、水の融点+3℃以下に冷却され、加圧されてガスハイドレートが生成し、ガスハイドレート生成機構4を出た位置Bでは固体相、高圧、低温のガスハイドレートを多く含む作動流体6となっている。
【0031】
ガスハイドレート解離機構2の入り口にあたる位置Cに至ると、作動流体6は水の融点+10℃以上、水の融点+15℃以下に加熱され、ガスハイドレートから液相の水と気体に分離する。ガスハイドレート解離機構2の出口にあたる位置Dでは液相の水と気体の成分が増加し、体積及び温度が大きくなっている。
【0032】
位置Dの作動流体6を動力機構3に供給することで、作動流体6の圧力が機械仕事として変換され、動力機構3から排出された位置Eでは再び低圧となっている。この作動流体6がバッファタンクの位置Fを経て、ガスハイドレート生成機構4の入口の位置Aに戻る。
【0033】
このアクチュエータ装置1では、この大量に廃棄されている低温排熱を活用し、エネルギ品質の高い電気エネルギに変換することができ、昼夜の暖房差などを利用する寒冷地用の小温度差発電装置に利用できる。
【0034】
(第2の実施形態)
図3に示すように、本発明の第2の実施形態に係る発電システム100は、アクチュエータ装置10の動力機構3に接続する発電装置32を備えて概略構成される。なお、第1の実施形態と同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0035】
発電装置32は、動力機構3から電力を取り出すことができるよう設置された装置で、本実施形態では動力機構3のクランク軸31の回転を電力に変換できるよう接続された交流発電機である。さらに、本実施形態では発電装置32にはインバータ33が接続されている。
【0036】
アクチュエータ装置10は、ガスハイドレート解離機構2及びガスハイドレート生成機構4にかえて、第一のガスハイドレート処理機構21(本発明の第一のガスハイドレート処理機構に相当する)及び第二のガスハイドレート処理機構22(本発明の第二のガスハイドレート処理手段に相当する)が配管7によって動力機構3に接続されている。さらに、アクチュエータ装置10は熱媒体を供給される冷熱槽25及び温熱槽26、熱媒体を第一のガスハイドレート処理機構21及び第二のガスハイドレート処理機構22に供給可能な流路制御装置24を備える。
【0037】
第一のガスハイドレート処理機構21及び第二のガスハイドレート処理機構22は、いずれも熱交換器23を内部に備えている。熱交換器23は流路制御装置24に接続された配管からなり、流路制御装置24から供給される熱媒体を流通できるよう構成されている。
【0038】
流路制御装置24は、冷熱槽25及び温熱槽26に接続され、冷熱槽25より供給される冷熱媒体27又は温熱槽26より供給される温熱媒体28を、第一のガスハイドレート処理機構21及び第二のガスハイドレート処理機構22のいずれに供給するかを制御可能となっている。流路制御装置24は、冷熱媒体27及び温熱媒体28の供給によって第一のガスハイドレート処理機構21及び第二のガスハイドレート処理機構22内の圧力や温度を調整可能となっている。
【0039】
冷熱槽25は、熱容量の大きい液体などの冷熱媒体27を、低温で流路制御装置24に供給可能な槽で、自然エネルギや冷凍器などによって冷熱媒体27を冷却し、または冷却された冷熱媒体27を外部から供給可能となっている。本実施形態では冷熱槽25は、冷熱媒体27としての不凍液を冷却する冷凍器を備えている。温熱槽26は、熱容量の大きい液体などの温熱媒体28を高温で流路制御装置24に供給可能な槽で、排熱などによって温熱媒体28を加熱し、または加熱された温熱媒体28を外部から供給可能となっている。本実施形態では温熱槽26は、温熱媒体28としての油を工業排熱を利用して過熱する熱交換器を備えている。
【0040】
次に、この発電システム100の作用について説明する。この発電システム100は、第一のガスハイドレート処理機構21を本発明でのガスハイドレート解離手段として動作し、第二のガスハイドレート処理機構22を本発明でのガスハイドレート生成手段として動作する第一の工程(本発明の第一の制御状態に相当する)と、第一のガスハイドレート処理機構21を本発明でのガスハイドレート生成手段として動作し、第二のガスハイドレート処理機構22を本発明でのガスハイドレート解離手段として動作する第二の工程(本発明の第二の制御状態に相当する)を連続させて行うことにより動作させる。
【0041】
動作の例として、最初は第一の工程を行う。第一のガスハイドレート処理機構21に、ガスハイドレートを供給する。流路制御装置24は、温熱槽26から供給される温熱媒体28を第一のガスハイドレート処理機構21に供給し、冷熱槽25から供給される冷熱媒体27を第二のガスハイドレート処理機構22に供給する。このとき、第一のガスハイドレート処理機構21内部の温度は前記水の融点+10℃以上水の融点+15℃以下になるよう温熱媒体28の供給を制御し、第二のガスハイドレート処理機構22内部の温度は水の融点以上、融点+3℃になるよう冷熱媒体の供給を制御する。
【0042】
この第一の工程では、図に示したように、第一のガスハイドレート処理機構21に収容されたガスハイドレートが解離して二酸化炭素ガスと水からなる作動流体6となり、動力機構3に供給され、動力機構3を動作させる。そして、動力機構3から作動流体6が第二のガスハイドレート処理機構22に供給され、ガスハイドレートが生成される。
【0043】
ついで第二の工程を行う。流路制御装置24によって、温熱槽26から供給される温熱媒体28を第二のガスハイドレート処理機構22に供給し、冷熱槽25から供給される冷熱媒体27を第一のガスハイドレート処理機構21に供給する。換言すると、上述のガスハイドレート解離手段とガスハイドレート生成手段の役割を入れ替える。第二の工程でも、上述と同様に動力機構3に作動流体6が供給され、動力機構3が動作する。
【0044】
この第一の工程と第二の工程を一定時間ごとに反復し繰り返し行うことで、連続して動力機構3を動作させることが可能となる。動力機構3の回転運動は、発電装置32によって電力に変換される。この反復する時間については、ガスハイドレートの物理的性質(用いる水の融点など)、容器の容量又はガスハイドレートの量等に応じて適宜選択する。
【0045】
この実施形態では、例えば第一の工程で第一のガスハイドレート処理機構21から、作動流体6が解離の圧力により動力機構3に供給された後に、第二の工程に切り替わると、第一のガスハイドレート処理機構21は冷却され減圧によって作動流体6は第一のガスハイドレート処理機構21に流れ込みガスハイドレートが生成される。第二のガスハイドレート処理機構22において、第二の工程から第一の工程に切り替わる際も同様である。このため、作動流体6は解離の圧力及び生成の減圧により第一及び第二のガスハイドレート処理機構21及び22を移動することになる。別途、作動流体6を循環させるためのポンプ等を設けエネルギを投入する必要がないため、高いエネルギ発生効率が得られる。
【実施例】
【0046】
(試験例1)
(ガスハイドレートの生成、解離サイクルに関する実験)
二重管熱交換の内管に熱媒体である冷却された不凍液を流して,外管内壁と内管外壁の間のおよそ100ccのスペースに,純水50ccと二酸化炭素50ccを充填したガスハイドレート処理機構の容器で、二酸化炭素と水からなるガスハイドレートを生成させた。その後に、二重管熱交換の内管に室温に近い温度を持つ熱媒体を流して、ガスハイドレートから二酸化炭素を解離させた。このようなガスハイドレートのサイクルに関する実験を行った。
【0047】
ガスハイドレート処理機構の容器を水の融点−5℃(−5℃)に60分間置くことでガスハイドレートの生成反応を行い、ついで水の融点+15℃(15℃)に30分間置くことでガスハイドレートの解離反応を行った。この間での容器内の圧力を計測した。結果を図4に示す。
【0048】
生成反応と解離反応の際の容器内圧力は、およそ0.8MPaであった。ただし、二酸化炭素は水に対する溶解度が高いため、実際にガスハイドレートの圧力上昇として利用できるのは半分程度まで低くなる場合があると考えられる。図4の結果から試算すると、1kWのエネルギの出力には460Lの水を要し、ガスハイドレートの生成時間をさらに長くとると差圧が大きくなり、例えば生成時間を15時間とすると差圧は2.2MPaに達することが予想される。これらの結果から、ガスハイドレートの生成及び解離で圧力を取り出すことができるが、生成時間の面から数十分から数時間の長時間によることで大きな圧力となることが示された。
【0049】
(試験例2)
(ガスハイドレートの生成、解離サイクルの温度条件に関する実験)
試験機器として試験例1と同じ装置を用いて、ガスハイドレートの生成機構における生成温度を調整して、解離と生成時の圧力差を検証した。
【0050】
図5に示すように、(a)ガスハイドレートの生成時の温度を0℃〜およそ1.5℃前後(水の融点以上で水の融点近く)に設定した場合では、生成時と解離時の間の得られる圧力差P1が最も大きくなった。これに対して、(b)およそ−6〜−5℃(水の融点以下で水の融点近く)に設定した場合は圧力差P2は小さくなり、(c)実験に氷のみを使用して一定の−5℃に設定して生成を行わせた場合は圧力差P3はほとんど生じなかった。この結果から、生成温度を氷の融点以上で融点近くの温度に設定した場合に最も高い圧力差が得られ、動力として有効に利用できることが示された。
【0051】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明はエネルギの再利用、特に低温の排熱の利用を容易に可能とすることで、工業、家庭などの広い分野において役立ち、環境問題やエネルギ供給問題の対処にも寄与できるものである。
【符号の説明】
【0053】
1、10 アクチュエータ装置
2 ガスハイドレート解離機構
3 動力機構
4 ガスハイドレート生成機構
5 バッファ機構
6 作動流体
7 配管
21 第一のガスハイドレート処理機構
22 第二のガスハイドレート処理機構
23 熱交換器
24 流路制御装置
25 冷熱槽
26 温熱槽
27 冷熱媒体
28 温熱媒体
30 ピストン
31 クランク軸
32 発電装置
33 インバータ
40 スクリューポンプ
71 バルブ
100 発電システム
図1
図2
図3
図4
図5