特許第5885972号(P5885972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885972
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】PDE5阻害剤含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/185 20060101AFI20160303BHJP
   A61P 15/10 20060101ALI20160303BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   A61K31/185
   A61P15/10
   A61P43/00 121
   A61K31/4985
   A61K31/519
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-196861(P2011-196861)
(22)【出願日】2011年9月9日
(65)【公開番号】特開2012-77079(P2012-77079A)
(43)【公開日】2012年4月19日
【審査請求日】2014年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-203373(P2010-203373)
(32)【優先日】2010年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100164460
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鳥住 保博
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−546786(JP,A)
【文献】 特表2009−507925(JP,A)
【文献】 特開2004−115507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/185
A61K 31/4985
A61K 31/519
A61K 31/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルデナフィルクエン酸塩とタウリンを含有する、陰茎勃起機能不全治療用又は陰茎勃起機能不全改善用医薬組成物。
【請求項2】
シルデナフィルクエン酸塩投与において得られる陰茎勃起作用を、タウリンを含有させることによって増強させるための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
シルデナフィルクエン酸塩投与において得られる陰茎勃起持続時間を、タウリンを含有させることによって持続延長させるための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
シルデナフィルクエン酸塩とタウリンを、同一の医薬組成物中に含有する請求項1−3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
陰茎勃起機能不全治療用又は陰茎勃起機能不全改善用医薬組成物を製造するための、シルデナフィルクエン酸塩とタウリンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホジエステラーゼ5阻害剤とタウリンを含有する、主として陰茎勃起機能不全治療用又は改善用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホジエステラーゼ(以下、PDEと称す)はサイクリックAMP(以下、cAMPと称す)やサイクリックGMP(以下、cGMPと称す)のリン酸エステルを加水分解する酵素であり、これまでに11種のPDEが存在することが判っている。細胞の機能が損なわれた状態では多くの場合、PDE活性が亢進しており、結果的にcGMPやcAMPが不足した状態になることが推定され、PDEを阻害する薬剤はこれらを増加させるのに有用である。
【0003】
PDEの1種であるPDE5については陰茎海綿体や肺組織に豊富に存在する酵素であり、陰茎勃起に関与することが知られている。勃起の機序は、これまでの公知文献を統合すると、以下のように説明できる。
【0004】
性的刺激により、陰茎海綿体にある末梢神経の神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)によって生成した一酸化窒素(NO)が、陰茎海綿体のグアニル酸シクラーゼを活性化してcGMPが合成される。cGMP濃度上昇とともに陰茎海綿体の平滑筋が弛緩して陰茎動脈から血液が流入してくる。陰茎海綿体への血液流入により陰茎体積・寸法の増大と、内圧上昇による陰茎硬化が惹起される。これに伴い陰茎静脈が圧迫されるようになり陰茎海綿体からの血液流出も抑制され、勃起が完結する。その後、射精の完了又は性的刺激の減弱によってNO供給が途絶えてくると、陰茎海綿体に存在するPDE5によりcGMPが分解され、陰茎動脈からの血液流入が止まり、やがて勃起前の状態に戻る。
【0005】
ストレス等による交感神経の緊張による陰茎動脈収縮による海綿体血液流入の遮断、nNOSの活性低下、グアニル酸シクラーゼ活性の低下、PDE5活性の亢進、等のいずれか又はこれらが複合して起こると、陰茎が勃起しなかったり、勃起しても持続しなかったりして、性交が行えなくなる。このような病態を勃起不全、勃起機能障害あるいは勃起障害と言うが、心理的な配慮から、最近では、英名Erectile Dysfunctionの略名表示である「ED」が広く用いられるようになってきた。
【0006】
近年、PDE5阻害剤が見いだされ、ED治療に革命がもたらされた。これは、陰茎海綿体のcGMP分解酵素であるPDE5の活性を阻害し、陰茎の末梢NO神経によってもたらされる陰茎海綿体内のcGMP量を維持・増大させ、陰茎海綿体内圧上昇(勃起)状態を持続させるものである(例えば、非特許文献1参照)。PDE5阻害剤がEDに悩む患者の大部分を救った。
【0007】
世界初のPDE5阻害剤(シルデナフィルクエン酸塩、商品名バイアグラ)が発売された当初、NO供与剤である狭心症治療薬(ニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド等の硝酸薬)との併用による死亡事故が多数報告されたため、現在では両者は併用禁忌となっている。この理由は、NO供与剤がcGMPの産生を刺激し、PDE5阻害剤がcGMPの分解を阻害することにより、cGMPの増大を介するNOの降圧作用が増強するためとされている。現在では、cGMPを増加させる薬剤、降圧剤、α遮断薬等は併用注意喚起がなされている(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
一方、タウリン(アミノエチルスルホン酸)は高ビリルビン血症(閉塞性黄疸を除く)における肝機能の改善や、うっ血性不全に対して投与される(例えば、非特許文献1及び3参照)。OTC薬(一般用医薬品)では、肝機能改善作用を有するため、滋養強壮薬やドリンク剤に配合されている(例えば、非特許文献4参照)。
しかし、タウリンの勃起作用は知られておらず、PDE5阻害剤とタウリンの組合せも知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】医療用医薬品集 2009年版 JAPIC 2008
【非特許文献2】バイアグラ添付文書 第14版 ファイザー 2008
【非特許文献3】第15改正日本薬局方 廣川書店 2006
【非特許文献4】OTC薬ガイドブック 第2版 じほう 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
EDに悩む人は若年よりも圧倒的に中高年であり、狭心症薬や降圧薬の服用率が高い年代であるため、PDE5阻害剤の恩恵に浴せない患者がでてくるという課題があった。そこで、副作用の少ない低用量でのPDE5阻害剤投与で、充分かつ優れた陰茎勃起機能を発現する医薬組成物を提供することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはかかる課題を解決するために、数多くの併用成分につき試行錯誤を繰り返しながら、今日まで鋭意研究を進めてきた。その結果、PDE5阻害剤にタウリンを併用すると、それぞれ単剤からでは予測しえないPDE5阻害剤の勃起作用が著しく増強されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)ホスホジエステラーゼ5阻害剤とタウリンを含有する医薬組成物
であり、好適には、
(2)陰茎勃起機能不全治療用又は陰茎勃起機能不全改善用である上記(1)に記載の医薬組成物、
(3)ホスホジエステラーゼ5阻害剤投与において得られる陰茎勃起作用を、タウリンを含有させることによって増強させるための上記(1)に記載の医薬組成物、
(4)ホスホジエステラーゼ5阻害剤投与において得られる陰茎勃起持続時間を、タウリンを含有させることによって持続延長させるための上記(1)に記載の医薬組成物、
(5)ホスホジエステラーゼ5阻害剤が、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル、ウデナフィル及びそれらの薬理上許容される塩からなる群から選択される1種以上である、上記(1)−(4)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(6)ホスホジエステラーゼ5阻害剤が、シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、タダラフィル又はウデナフィルである、上記(1)−(4)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(7)ホスホジエステラーゼ5阻害剤が、シルデナフィルクエン酸塩である、上記(1)−(4)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(8)ホスホジエステラーゼ5阻害剤とタウリンを、同一の医薬組成物中に含有する上記(1)−(7)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法、
(9)陰茎勃起機能不全治療用又は陰茎勃起機能不全改善用医薬組成物を製造するための、ホスホジエステラーゼ5阻害剤とタウリンの使用、
(10)ホスホジエステラーゼ5阻害剤とタウリンを同時に、順次又は別個に投与する方法、または、
(11)哺乳動物に上記(1)−(7)から選択されるいずれか1項に記載された医薬組成物の有効量を投与することを特徴とする、陰茎勃起機能不全治療方法又は陰茎勃起機能不全改善方法
である。
【0013】
本発明の医薬組成物を投与する際は、それぞれのホスホジエステラーゼ5阻害剤を含有する医薬組成物と、タウリンとを同時に又は順次に投与することが出来る。
【0014】
「同時に」投与するとは、全く同時に投与することの他、薬理学上許される程度に相前後した時間に投与することも含むものである。その投与形態は、ほぼ同じ時間に投与できる投与形態であれば特に限定はないが、単一の医薬組成物であることが好ましい。
【0015】
「順次又は別個に」投与するとは、異なった時間に別々に投与できる投与形態であれば特に限定はないが、例えば、1の組成物を投与し、次いで、決められた時間後に、他の組成物を投与する方法がある。
【0016】
「治療」とは、病気又は症状を治癒させること又は改善させること或いは症状を抑制させることを意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、PDE5阻害剤とタウリンを含有する医薬組成物を、性行為の約1時間前に、ほぼ同時に併用すれば、陰茎勃起作用が著しく増強されかつ安全である。これにより、PDE5阻害剤の含有量を減量することが可能となるので有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「陰茎勃起機能不全」とは、何らかの原因により、性交に必要とされるほどの陰茎勃起が発現しなかったり、いったん勃起しても持続せず正常な性交渉が行えなかったりする状態を指し、「陰茎勃起機能不全改善」とは、このような状態を改善することをいう。
【0019】
本発明の「PDE5阻害剤」とは、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害する作用があれば特に限定されないが、具体的には、シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩、タダラフィル、ウデナフィル等を指す。
【0020】
PDE5阻害剤として、シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩、タダラフィル、ウデナフィルは公知の化合物であり市販されているため入手できる。
本発明のタウリン(アミノエチルスルホン酸)は、第15改正日本薬局方に収載されており容易に入手できる。
【0021】
本発明の医薬組成物の1日投与量における、PDE5阻害剤の含有量は1mg〜150mgであり、好ましくは、5mg〜100mgである。
【0022】
タウリンの含有量は、10mg〜3000mgであり、好ましくは、50mg〜2000mgである。
【0023】
これらを1日1回、性行為の約1時間前に服用する。また、肺動脈性肺高血圧症の場合は当該量を3回に分けて服用する。
【0024】
なお、「順次又は別個に」投与する場合には、PDE5阻害剤とタウリンを性行為の約1時間前に服用することには変わりないが、別個に服用する場合でも時間間隔は30分以内が望ましい。
【実施例】
【0025】
本発明の実施例を以下に記載するが、これらに限定されるものではない。
(実施例)錠剤
(成分)
(表1)
4錠中(mg) a b c
―――――――――――――――――――――――――――――――――
シルデナフィルクエン酸塩 25 − −
バルデナフィル塩酸塩又はタダラフィル − 10 −
ウデナフィル − − 100
タウリン 300 300 300
結晶セルロース 80 80 80
乳糖 60 60 60
ステアリン酸マグネシウム 2 2 2
ヒドロキシプロピルセルロース 適量 適量 適量
――――――――――――――――――――――――――――――――――
(製法)
上記成分および分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造する。
【0026】
(試験例)陰茎勃起効果確認試験
(1)被験物質
シルデナフィルクエン酸塩は市販の医療用バイアグラ錠(ファイザー製)を乳鉢ですり潰して使用した。タウリンはSIGMA−ALDRICH製のものを使用した。
シルデナフィルクエン酸塩は蒸留水で2mg/mL濃度に希釈して5mL/Kg投与した(10mg/Kg)。同様に調製して、タウリンは100mg/Kg投与した。
シルデナフィルクエン酸塩とタウリンを併用する場合は、シルデナフィルクエン酸塩を10mg/Kg投与した後にタウリンを投与した。
併用投与群は以下に示すとおりである。
【0027】
(実施例1)
シルデナフィルクエン酸塩(10mg/Kg)及びタウリン(100mg/Kg)の併用投与。
【0028】
(2)使用動物
JW雄性家兎16週齢を日本SLC(株)から購入し、温度20〜26℃、湿度30〜70%、照明時間6時〜18時に制御されたウサギ飼育室内でウサギ用ブラケットテーパーケージに入れ、ウサギ飼育用飼料および水フィルターを通した水道水を自由に摂取させた。
【0029】
(3)試験方法
被験物質はゾンデまたはネラトンカテーテル12号を用いて経口投与した。いずれの被験物質も投与液量は5mL/Kgである。通常、家兎のペニスは露出しておらず、勃起時に露出してくるので、被験薬投与による勃起作用は、露出した陰茎長さによって評価できる。
被験薬投与後、5、15、30、45、60、90、120及び180分の間隔にて、陰茎露出長さ(mm)をノギスによって測定した。
【0030】
(4)試験結果
被験薬投与後の各時間(経過時間)における家兎ペニス長さの測定結果を表2に示す。各値とも1群3匹の平均値である。
【0031】
(表2)ペニス長さ(mm)

投与後時間 シルデナフィル タウリン シルデナフィル(10 mg/Kg)
(min) (10mg/Kg) (100mg/Kg) +タウリン(100mg/Kg)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
5 0.0 0.0 0.0
15 0.9 0.0 3.2
30 5.0 0.0 6.8
45 4.5 0.0 10.0
60 1.3 0.0 7.0
90 3.2 0.0 8.0
120 2.0 0.0 6.2
180 0.7 0.0 6.1
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
AUC 389 0 1152
【0032】
表2の結果より、シルデナフィルクエン酸塩単剤の勃起作用が認められ、タウリン単剤では勃起作用は認められなかった。一方、シルデナフィルにタウリンが併用された実施例では、シルデナフィルの勃起作用の増強効果及び持続時間延長作用が顕著に発現した。
【0033】
すなわち、AUC(mm×min)で評価するとシルデナフィル単剤と較べて、タウリン併用した実施例1の場合は、驚くべきことに3倍にも達した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、PDE5阻害剤とタウリンを含有する医薬組成物を、性行為の約1時間前に、ほぼ同時に併用すれば、陰茎勃起作用が著しく増強されかつ安全である。これにより、PDE5阻害剤の含有量を減量することが可能となるので有用である。