特許第5886069号(P5886069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886069
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20160303BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20160303BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20160303BHJP
【FI】
   C09K11/08 J
   C09K11/64CQE
   H01L33/00 410
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-26610(P2012-26610)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-163737(P2013-163737A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中原 史博
(72)【発明者】
【氏名】市川 恒希
(72)【発明者】
【氏名】水谷 晋
(72)【発明者】
【氏名】伏井 康人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 久之
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−177106(JP,A)
【文献】 特開2009−203466(JP,A)
【文献】 特開2006−261512(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/099800(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/110457(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/011444(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00− 11/89
H01L 33/00− 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
455nmの光で励起したピーク波長599nm標準試料(YAG)のピーク高さを100%とした相対値を%表示した蛍光強度205%αサイアロンである酸窒化物蛍光体(A)と、455nmの光で励起したピーク波長620nm以上640nm以下のSCASNである窒化物蛍光体(B)を有し、蛍光体(A)、(B)の配合比が各々4質量%以上12質量%以下、蛍光体(A)、(B)の合計の配合量が10質量%以上24質量%以下であり、蛍光体(A)と蛍光体(B)のピーク波長の差が10nm以上40nm以下である蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体と、当該蛍光体を発光面に搭載したLEDとを有する発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(Light Emitting Diode)に用いられる蛍光体及びLEDを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光装置に用いられる蛍光体として、βサイアロンと赤色発光蛍光体の組み合わせがあり(特許文献1参照)、特定の色座標を有する赤色発光蛍光体と緑色発光蛍光体を組み合わせた蛍光体がある(特許文献2参照)。赤色蛍光体としては、CASNやSCASNと称される窒化物蛍光体を用いる技術があり(特許文献3参照)、広く普及している。この赤色蛍光体は、用途によって使い分けられており、演色性を重要視する場合には、ピーク波長630〜650nm程度の長波長品を用い、明るさを重要視する場合には、ピーク波長610〜630nm程度の短波長品を用いる。また、両者とも高温下での使用や長期間使用した際の輝度低下が少ない高信頼性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−180483号公報
【特許文献2】特開2008−166825号公報
【特許文献3】特開平10−242513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、信頼性を損なうことなく、演色性と明るさをバランスさせた蛍光体を提供することにあり、そのために特定の橙色蛍光体を特定の割合配合した赤色蛍光体を提供することであり、この蛍光体を用いた白色発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、455nmの光で励起したピーク波長599nm標準試料(YAG)のピーク高さを100%とした相対値を%表示した蛍光強度205%αサイアロンである酸窒化物蛍光体(A)と、455nmの光で励起したピーク波長620nm以上640nm以下のSCASNである窒化物蛍光体(B)を有し、蛍光体(A)、(B)の配合比が各々4質量%以上12質量%以下、蛍光体(A)、(B)の合計の配合量が10質量%以上24質量%以下であり、蛍光体(A)と蛍光体(B)のピーク波長の差が10nm以上40nm以下である蛍光体である。
【0006】
前記蛍光体は、蛍光体(A)がαサイアロンであり、蛍光体(B)がSCASNである。
【0007】
本願の他の観点からの発明は、前述の蛍光体と、当該蛍光体を発光面に搭載したLEDとを有する発光装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性を損なうことなく演色性と明るさをバランスさせて改善することできる蛍光体を提供することができ、この蛍光体を用いた白色発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、455nmの光で励起したピーク波長599nm標準試料(YAG)のピーク高さを100%とした相対値を%表示した蛍光強度205%αサイアロンである酸窒化物蛍光体(A)と、455nmの光で励起したピーク波長620nm以上640nm以下のSCASNである窒化物蛍光体(B)を有し、蛍光体(A)、(B)の配合比が各々4質量%以上12質量%以下、蛍光体(A)、(B)の合計の配合量が10質量%以上24質量%以下であり、蛍光体(A)と蛍光体(B)のピーク波長の差が10nm以上40nm以下である蛍光体である。
【0010】
本発明は、橙色蛍光体を赤色蛍光体に配合することで、視感度を改善して明るさを向上させるものであるが、橙色蛍光体としてαサイアロンを用いる。αサイアロンは高信頼性で発光効率が高いため、高信頼性の赤色蛍光体のピークを調整に適した材料である。赤色蛍光体の中でもSCASNと称されるピーク波長620nmから640nmの蛍光体は、αサイアロンとピーク波長が比較的近く、青色励起で発光させた際に、相互作用による発光の減衰が少ないため、両者の組み合わせは好適である。
【0011】
αサイアロンである酸窒化物蛍光体(A)の455nmの光で励起したピーク波長を599nmとしたのは、455nmの光で励起したピーク波長620nmから640nmのSCASNである赤色蛍光体(B)と組み合わせた際に、その視感度を改善しながら、相互作用による減衰を小さくして発光効率の低下を抑制するためである。両者のピーク波長があまり近いと蛍光体(B)に対して視感度、即ち明るさの改善効果が小さくなってしまい、余り離れていると蛍光体(A)の発光の内、蛍光体(B)の励起に使われる割合が高くなって、両者を混合した蛍光体では外部量子効率が低下してしまう。そのため、蛍光体(A)と蛍光体(B)のピーク波長の差は10以上40nm以下が適切であり、特に好ましくは15nmから35nm、更に好ましくは20nmから30nmである。
【0012】
本発明においては、蛍光体(A)と蛍光体(B)の配合比率は、1:3〜3:1の範囲が適切であるが、両者を組み合わせて赤色蛍光体として用いるので、それ以外に配合する蛍光体によって最適値は異なる。青色光で励起して目的の白色光を得るためには、緑及び/又は黄色蛍光体と組み合わせるが、蛍光体(A)と蛍光体(B)の合計配合量は10質量%から24質量%の範囲が適切である。蛍光体(A)、(B)個別の配合量としては、4質量%以上12質量%以下が好ましい。
【0013】
本発明の蛍光体において、αサイアロンである酸窒化物蛍光体(A)の標準試料(YAG)のピーク高さを100%とした相対値を%表示した蛍光強度を205%としたのは、現在入手可能なαサイアロンの中で最も発光効率が高いレベルであるためである。また、SCASNである窒化物蛍光体(B)の455nmの光で励起したピーク波長を620nm以上640nm以下としたのは、現在入手可能な窒化物赤色蛍光体では、最も汎用的に使用されているためである。すなわち、橙色のαサイアロンを組み合わせることで、現在使用されているSCASN蛍光体は演色性を損なうことなく明るさを向上させた赤色蛍光体となる。また、酸窒化物蛍光体(A)と窒化物蛍光体(B)は共に高信頼性であるが、信頼性については、相互作用の影響を殆ど受けないため、両者の混合物も高信頼性となる。
【0014】
蛍光体の蛍光強度は、標準試料(YAG、具体的には三菱化学株式会社製P46Y3)のピーク高さを100%とした相対値を%表示して示したものである。蛍光強度の測定機は、株式会社日立ハイテック社製F−7000形分光光度計を用い、測定方法は、次のものである。
<測定法>
1)試料セット:石英製セルに測定試料及び標準試料を充填し、十分にエイジングした測定機に交互にセットして測定する。充填は、相対充填密度35%程度になるようにしてセル高さの3/4程度まで充填した。
2)測定:455nmの光で励起し、300nmから800nmの最大ピークの高さを読み取った。測定を5回行ない、最大、最小値を除いて残りの3点の平均値とした。
【0015】
蛍光体のピーク波長は、蛍光強度の測定時に最大強度の波長として求められる。蛍光体の半価幅は、大塚電子社製のMCPD−7000瞬間マルチ測定システムにより、HALMA Company製のlabsphere(登録商標)スペクトラロン標準反射板(99%、2.0“×2.0”)を標準試料として用いる。測定方法は、アルミナ製の石板の中央部φ16mmに3mm厚さに試料を充填し、石英板で軽く押しつけ、すり切ってセットする。455nmの光で励起し、300nmから800nmのピーク高さを読み取って積分強度を定め、最大値の半分の高さの幅を求める。測定は5回行って、最大、最小値を除いて残り3点の平均値とした。
【0016】
本発明における蛍光体(A)は、ピーク波長599nmの酸窒化物蛍光体である。具体的には、αサイアロンがあり、より具体的には、電気化学工業株式会社アロンブライト(登録商標)のうち、YL−600Aである。これらは現在入手できるαサイアロン蛍光体としては高いピーク強度を有する従来にない蛍光体材料である。
【0017】
本発明における蛍光体(B)は、455nmの光で励起したピーク波長620nm以上640nm以下の窒化物蛍光体である。具体的には、SCASNと略されてエスカズンとよばれる赤色蛍光体であり、より具体的には、三菱化学株式会社BR−102D(ピーク波長620nm)、Intematix社ER6535(ピーク波長640nm)、電気化学工業株式会社のRE−Y1である。
【0018】
青色光で励起して白色光を得るために、蛍光体(A)及び(B)は、緑及び/又は黄色の蛍光体とともに用いられるが、本発明の蛍光体の特性を活かすためには、高輝度、高信頼性の蛍光体が好ましい。具体的には、緑色蛍光体としては、Eu付活βサイアロンやCe付活LuAG(ルテチウムアルミニウムガーネット)、黄色蛍光体としては、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)やランタンシリコンナイトライド(三菱化学株式会社商品名BY−201A)であり、これらを基本構造として改良した蛍光体であっても構わない。また、BOS(バリウムオルソシリケート)を基本構造とするシリケート系の蛍光体は525〜535nm程度のピーク波長を持つものもあり、これらを加えることで、演色性を高めることもできる。但し、シリケート系の蛍光体は信頼性に劣るため、その添加量は本発明の蛍光体より少なくすることが好ましい。蛍光体(A)、(B)更には他の蛍光体との混合手段は、均一に混合又は希望する混合度合いに混合できれば、適宜選択できるものである。この混合手段にあっては、不純物が混入したり、蛍光体の形状や粒度が明らかに変わったりしないことが前提である。
【0019】
本願の他の観点からの発明は、上述の蛍光体と、当該蛍光体を発光面に搭載したLEDとを有する発光装置である。LEDの発光面に搭載される際の蛍光体は、封止部材によって封止されたものである。封止部材としては、樹脂とガラスがあり、樹脂としてはシリコーン樹脂がある。LEDとしては、最終的に発光される色に合わせて赤色発光LED、青色発光LED、他の色を発光するLEDを適宜選択することが好ましく、青色発光LEDの場合、窒化ガリウム系半導体で形成され、ピーク波長は440nm以上460nm以下にあるものが好ましく、さらに好ましくピーク波長は、445nm以上455nm以下である。LEDの発光部の大きさは0.5mm角以上のものが好ましく、LEDチップの大きさは、かかる発光部の面積を有するものであれば適宜選択でき、好ましくは、1.0mm×0.5mm、更に好ましくは1.2mm×0.6mmである。
【実施例】
【0020】
本発明に係る実施例を、表及び比較例を用いて詳細に説明する。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示した蛍光体は、本発明の蛍光体における蛍光体(A)及び(B)とその他の蛍光体である。表1の蛍光体(A)のうち、P2だけが請求項1記載の範囲内のピーク波長及び蛍光強度を有する蛍光体である。表1の蛍光体(B)のうち、P4、P5、P6が請求項1記載の範囲内のピーク波長を有する蛍光体である。また、P8乃至P10は蛍光体(A)、(B)と混合可能なその他の蛍光体である。
【0023】
これら蛍光体を表2の割合で混合して、実施例、比較例に係る蛍光体を得た。
【0024】
【表2】
【0025】
実施例1の蛍光体は、蛍光体(A)としての表1のP2の蛍光体を4.0質量%、蛍光体(B)としての表1のP6の蛍光体を8.0質量%、その他の蛍光体として表1のP9の蛍光体を80.0質量%、P10の蛍光体を8.0質量%配合したものである。表1での蛍光体の構成におけるP1乃至P10の値は質量%である。蛍光体同士の混合にあっては、合計2.5gを計量してビニール袋内で混合した上、シリコーン樹脂(東レダウコーニング株式会社OE6656)47.5gと一緒に自転公転式の混合機(株式会社シンキー社株式会社あわとり練太郎ARE−310(登録商標))で混合した。表1のa+bは、蛍光体(A)の実施例であるP1の配合比をa、蛍光体(B)実施例であるP4、P5及びP6の合計配合比をbとしたときの値である。
【0026】
LEDへの搭載は、凹型のパッケージ本体の底部にLEDを置いて、基板上の電極とワイヤボンディングした後、混合した蛍光体をマイクロシリンジから注入して行なった。搭載後、120℃で硬化させた後、110℃×10時間のポストキュアを施して封止した。LEDは、発光ピーク波長448nmで、チップ1.0mm×0.5mmの大きさのものを用いた。
【0027】
表2で示した評価について説明する。
表2の初期評価として、演色性の評価を採用した。演色性の評価には色再現範囲を採用し、色座標におけるNTSC規格比の面積(%)で表した。数字が大きいほど演色性が高い。評価の合格条件は70%以上であり、72%以上は優れた色再現性、68%未満は色再現性に劣ると言える。これは一般的なLED−TV向けに採用されていると言われている条件である。
【0028】
表2の輝度は25℃での光束で評価した。電流100mAを10分間印加した後の測定値を取った。評価の合格条件は、28.0lm以上である。この値は測定機や条件によって変わるため、実施例との相対的な比較するために、(実施例の下限値)×90%として設定した値である。
【0029】
表2の高温特性は、25℃の光束に対する減衰性で評価した。50℃、100℃、150℃での光束を測定して、25℃を100%とした時の値である。評価の合格条件は、50℃で97%以上、100℃で95%以上、150℃で90%以上である。この値も世界共通の規格値ではないが、現状、高信頼性の発光素子の目安と考えられている。
【0030】
表2の長期信頼性は、85℃、85%RHに500及び2,000hrs放置後取り出して室温で乾燥した際の光束を測定し、初期値を100%としたときの光束の減衰値である。
評価の合格条件は、500hrsで96%以上、2,000hrsで93%以上である。これは高信頼性の蛍光体でなくては達成できない値である。
【0031】
表2が示すように、本発明の実施例は、比較的良好な色再現性、光束値を示し、且つ高温や高温高湿下で長期保存した際の光束の減衰も比較的小さい。
本発明の比較例1、4、6、8は色再現性に劣り、比較例2、3、5、7、9では光束値が小さい。また、シリケート系蛍光体を多量に用いた比較例1、2、3、、7、では、高温特性、長期信頼性に劣り、信頼性の低いLEDパッケージとなって、テレビやモニターなどの製品に適用することは到底望めない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の蛍光体は、白色発光装置に用いられる。本発明の白色発光装置としては、液晶パネルのバックライト、照明装置、信号装置、画像表示装置に用いられる。