特許第5886081号(P5886081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886081
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】波力発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03B 13/14 20060101AFI20160303BHJP
   F03B 7/00 20060101ALI20160303BHJP
   F03B 11/06 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   F03B13/14
   F03B7/00
   F03B11/06
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-44668(P2012-44668)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-181430(P2013-181430A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】群馬 英人
(72)【発明者】
【氏名】上野 弘行
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 靖
(72)【発明者】
【氏名】菅原 亮
(72)【発明者】
【氏名】小倉 雅則
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−044466(JP,A)
【文献】 実開昭60−124587(JP,U)
【文献】 実開昭60−124586(JP,U)
【文献】 特開昭62−038877(JP,A)
【文献】 特開昭58−72677(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/010675(WO,A1)
【文献】 特表2013−503995(JP,A)
【文献】 特開昭59−70812(JP,A)
【文献】 特開昭56−166740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/14
F03B 7/00
F03B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸部を有し前記回転軸部の軸線周りに回転する水車と、
前記水車の前記回転軸部に接続され前記水車の回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電を行う発電機とを備えた波力発電装置であって、
少なくともその一部が水中に配置される壁体には鉛直方向に沿った長方形状のスリットが設けられるとともに、前記水車は、前記回転軸部の軸線が前記スリットの長辺方向である鉛直方向に沿うように配置され、
水面より高い位置で、鉛直方向の荷重を支持するスラスト軸受けを水平方向の荷重を支持するラジアル軸受けよりも上側に鉛直方向に並べて配置し、前記水車の前記回転軸部の上端部側に形成された支持フランジが前記スラスト軸受けの上面に係止して前記水車が吊り下げ支持されていることを特徴とする波力発電装置。
【請求項2】
前記回転軸部の下端部は前記水車の下方へ突出するとともに、その下端部は振れ止め具へ差し込まれていることを特徴とする請求項1記載の波力発電装置。
【請求項3】
前記回転軸部の上端部側には、前記回転軸部に作用する水平方向の荷重を支持する少なくとも二以上のラジアル軸受けが、上下に離間した位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の波力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波力発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された波力発電装置は揺動可能なパドルを有し、その一端側を海水中に沈めるようにしている。パドルが波によって揺動すると、これに連動して油圧シリンダが伸縮動作し作動油がアキュムレータへ移送される。アキュムレータは作動油を油圧機械へ送って発電機を駆動させ、これによって電力が生成されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−534878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した波力発電装置では、パドルの揺動エネルギーの大小は発電力に大きな影響をもたらす。ここで、パドルの揺動エネルギーは専ら波の速度に依存することになる。しかし、上記のものでは波の速度は単に自然状況に任されているに過ぎず、発電効率を高める観点からはまだ改良の余地があった。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、発電効率を高めることができ、加えて設置作業を容易に行うことができる波力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための手段として、本発明は、回転軸部を有しこの回転軸部の軸線周りに回転する水車と、水車の回転軸部に接続され水車の回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電を行う発電機とを備えた波力発電装置であって、少なくともその一部が水中に配置される壁体には鉛直方向に沿った長方形状のスリットが設けられるとともに、水車は、回転軸部の軸線がスリットの長辺方向である鉛直方向に沿うように配置され、かつ水車は、回転軸部の上端部側が水面より高い位置に配置された軸受けによって吊り下げ支持されている構成である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、波がスリットを通過する際に流速が増速されるため、水車を高速回転させることができ、発電能力を高めることがきる。また、水車はスリットの長辺方向である鉛直方向に沿った姿勢で設置されるため、水車の軸受けを水面よりも高い位置に設定することができる。したがって、軸受けの設置に際して水中での作業を強いられずに済む。したがって、設置作業を円滑に行うことができる。また、軸受けが常時には水中に浸漬されないため、腐食の進行も抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1の波力発電装置を示す正面図
図2】同じく側断面図
図3】軸受け部分を拡大して示す側断面図
図4】水車周辺を示す平断面図
図5】実施形態2の波力発電装置を示す側断面図
図6】同じく軸受け部分を拡大して示す側断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態1>
本実施形態1の波力発電装置は、沿岸部に沿って設置されたコンクリート製の壁体1に設けられている。壁体1は、その壁面が波の進行方向に対して向き合うようにして形成され、かつ壁体1には複数のスリット2が幅方向に一定間隔毎に貫通して形成されている。各スリットは波が通過する際に流速を増速させる作用を発揮する。
【0010】
上記の目的を達成するための手段として、本発明は、回転軸部を有しこの回転軸部の軸線周りに回転する水車と、水車の回転軸部に接続され水車の回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電を行う発電機とを備えた波力発電装置であって、少なくともその一部が水中に配置される壁体には鉛直方向に沿った長方形状のスリットが設けられるとともに、水車は、回転軸部の軸線がスリットの長辺方向である鉛直方向に沿うように配置され、水面より高い位置で、鉛直方向の荷重を支持するスラスト軸受けを水平方向の荷重を支持するラジアル軸受けよりも上側に鉛直方向に並べて配置し、水車の回転軸部の上端部側に形成された支持フランジがスラスト軸受けの上面に係止して水車が吊り下げ支持されている構成である。
【0011】
各スリット2内には水車3が縦向きに組み付けられている。水車3は、回転軸部4と回転翼部5とを備えて構成されている。水車3は、図1に示す正面視において、回転軸部4の軸線がスリット2の両短辺の中間点同士を結ぶ中心線(鉛直線でもある)を通過しかつ壁体1の厚み方向(図4に示すX−X方向)に沿った平面内に配置されている。
【0012】
回転軸部4の途中には上下に一対の取付けフランジ6が設けられている。両取付けフランジ6は円板状をなし、その中心を回転軸部4が貫いている。回転翼部5は図4に示すように、4枚の回転翼5Aが回転軸部4周りに90°間隔毎に放射状に配置され、これらが両取付けフランジ6間で挟まれて構成されている。また、水車3がスリット2内に取り付けられた状態では、図4に示すように、回転翼部5の先端が壁体1から外方へ突出しないようにしてある。
なお、水車3は回転翼部5の全体が海中に没するようにしてある。
【0013】
次に、水車3の軸受け構造について説明する(図2、3参照)。回転軸部4は上側の取付けフランジ6から上方へ突出した後、壁体1中を貫通し上方へ突出している。壁体1内においてスリット2の上端面に臨む部位には軸受けボックス7が組込まれている。軸受けボックス7は、図3に示すように、2つの軸受け8,9を収容するボックス本体7Aと、その下面に張り出した取付け板7Bとから構成され、取付け板7Bをスリット2内の天井面にボルト10等を締め込むことによって固定がなされている。
【0014】
ボックス本体7A内には、第1軸受け8と第2軸受け9とが鉛直方向に並んだ状態で収容されている。上部側に配された第1軸受け8は水車3全体の重量を支えるスラスト軸受けであり、下部側に配された第2軸受け9は回転軸部4を回転可能に支持するラジアル軸受けである。
【0015】
回転軸部4には大径の支持フランジ11が張出し形成され、第1軸受け8の上面に係止している。このことによって、水車3全体は回転可能な状態で吊り下げ支持される。回転軸部4の下端側は、図2に示すように、スリット2内の下端面に固定された振れ止め具12内へ周囲に適度なクリアランスを保有した状態で差し込まれている。
【0016】
なお、図2に示すように、軸受けボックス7が配置されている高さは、満潮時においても海中に没しない高さである。
【0017】
壁体1の上面には支持台13が固定され、発電手段としての発電機14を装着している。発電機14は回転軸部4の軸線上において接続され、回転軸部4の回転に基づいて回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電することができる。
【0018】
次に、上記のように構成された実施形態1の作用効果を具体的に説明する。波が壁体1に対して打ち寄せられると、スリット2を通過する波によって水車3が回転する。これにより、回転軸部4が回転することに基づき、発電機14が回転軸部4の回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電がなされる。なお、実施形態1の波力発電装置は、引き波の場合も上記と同様の作用を営む。
【0019】
ところで、本実施形態1によれば、波がスリット2を通過する際に流速が増速するため、水車3の回転速度が高められ発電力を向上させることができる。したがって、波のエネルギーを効果的に利用して発電効率を高めることができる。特に、水車3の回転軸部4をスリット2の長手方向の中心線に沿って設けるようにしたため、つまりスリット2を通過する波の流速分布を考えた場合、最も流速の早い長手方向の中心領域に回転軸部4を配するようにしたため、スリット2による増速作用をより効果的に得ることができる。また、水車3をスリット2の内部に設置することで、水車3を損傷から保護することもできる。
【0020】
また、本実施形態1には次の効果もある。本実施形態では、第1軸受け8にスラスト軸受けを使用することで、水車3全体を鉛直方向に沿って設置することが可能になった。このように水車3を縦向き姿勢で設置することの意義は次の通りである。仮に、スリット2が壁体1において横長に形成されかつ水車3も水平方向に設置されるようにした場合、水車3及び回転軸部4は共に水没しやすい状況になる。そうなると、発電機14もまた水没が懸念されるところとなるが、そのような事態は絶対に回避されねばならない。このためには発電機14を水車3の回転軸部4の軸線から外して上方に設置し、水車3と発電機14との間に適切な動力伝達手段を設定する必要がある。そうなれば、発電装置全体の構成が複雑化するとともに、水車3の設置作業も困難となる。その点、実施形態1では、水車3を鉛直方向に取り付けて回転軸部4の上端に発電機14を直結するようにしたため、発電装置全体の構成が簡素であり、設置作業も簡単である。
【0021】
さらに、水車3を縦向きに設置したことで、水車3の軸支部分を水面(海面)高さよりも上位の配置とする設定が可能となる。そうなれば、軸支部分の設置作業では海中での作業を強いられずに済み、また軸支部分を海水による腐食から保護することもできる。加えて、実施形態1では水車3全体が吊り下げ支持されるようにしたため、軸受けは上部側のみで済む。本実施形態1では回転軸部4の下端を振れ止め具12によって振れ止めするだけであるから、振れ止め具12は海中においても使用可能な構造簡易な形式を採用することができる。
【0022】
<実施形態2>
図5及び図6は本発明の実施形態2を示している。実施形態2においては、壁体1の陸側に側壁体15が設けられている。側壁体15は壁体1の幅方向に沿って配置され、壁体1と側壁体15との間に消波用の空間16を保有している。この実施形態においては、壁体1と側壁体15とは、上面壁17及び底面壁18によって接続され全体として一体化されたボックス構造となっている。
【0023】
本実施形態においても、水車30はスリット2の内部において垂直方向の中心線に沿って配されている。水車30の回転軸部31はスリット2の天井面2Aを貫通して壁体1の上面へ突出し、上端部において発電機14と接続されている。実施形態2では、発電機14を固定している支持台32の内部に上部軸受けボックス33が設置されている。上部軸受けボックス33は、ボックス本体33Aと、その下面において外方へ張り出して形成された取付け板33Bとから構成され、取付板33Bを壁体1の上面にボルト34等を締め込むことによって全体の固定がなされている。
【0024】
ボックス本体33A内にはスラスト軸受けである第1軸受け35とその下側に配された、ラジアル軸受けである第2軸受け36とが収容されている。また、スリット2の内の天井面2Aには下部軸受けボックス37が設けられている。下部軸受けボックス37もボックス本体37Aと取付け板37Bとから構成され、取付け板37Bを天井面2Aへボルト38等を締め込むことによって固定されている。但し、下部軸受けボックス37も海面(満潮時の海面の高さ)より上位に配置されている。
【0025】
下部軸受けボックス37内にはラジアル軸受けである第3軸受け39が収容されている。第3軸受け39と第2軸受け36とは壁体1を挟んで離間する配置となっている。このように、回転軸部31を一定距離をおいて二点支持することによって、水車30全体の振れが効果的に抑制されるため、本実施形態においては、実施形態1とは異なり、回転軸部4の下端を振れ止め具12へ差し込むような構造が省略され、水車30の下端をスリット2内の底面から離間させた自由状態とすることができる。
【0026】
他の構成は、実施形態1と同様であるため、共通する部材については図面中に同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0027】
実施形態2は上記のように構成されたものであり、実施形態1の作用効果に加え、次のような作用効果を奏することができる。実施形態2では、第1〜第3軸受け35,36,39を全て海面の高さより上位に配置したため、軸受け部分の設置作業の全てにおいて海中作業を強いられない。したがって、これら設置作業を円滑に行うことができる。実施形態2では実施形態1のような振れ止め具すら必要としないため、設置作業はより簡素で済む。
【0028】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では水車はスリットの内部に配置した場合を示したが、スリットによる増速作用を受ける設置領域であれば、スリットの外方(海側あるいは陸側)に配置してもよい。
(2)水車をスリットの外方に設置する場合、スリットとほぼ同幅で対向する一対の整流板を設け、この間に水車を設置するようにしてもよい。
(3)実施形態2ではラジアル軸受けである第2、第3軸受けが壁体1を上下から挟むように配置した場合を例示したが、必ずしも挟む配置である必要はなく、水面(海面)より高い位置にあれば、上下に所定間隔だけ離間した二位置に配置するようにしてもよい。
(4)上記実施形態では発電装置を海に設置した場合を示したが、川、湖等に設置することも可能である。
(5)上記実施形態では、水車の回転軸部をスリットの両短辺の中間点を結ぶ中心線に沿って配置したが、壁体の正面視においてスリットを投影したときの領域内であれば、中心線からずれて配置してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…壁体
2…スリット
3,30…水車
4,31…回転軸部
8,35…第1軸受け(スラスト軸受け)
9,36…第2軸受け(ラジアル軸受け)
12…振れ止め具
14…発電機
39…第3軸受け(ラジアル軸受け)
図1
図2
図3
図4
図5
図6