特許第5886184号(P5886184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886184
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】斜板式ピストンポンプモータ
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/22 20060101AFI20160303BHJP
   F03C 1/253 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   F04B1/22
   F03C1/253
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-288144(P2012-288144)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-129769(P2014-129769A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2014年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(72)【発明者】
【氏名】野村 陵
(72)【発明者】
【氏名】玉島 英樹
(72)【発明者】
【氏名】入江 亮次
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−343423(JP,A)
【文献】 実開昭56−105675(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/22
F03C 1/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
上記ハウジングに収容されると共に、出力軸に連結され、かつ、複数のピストン室を有するシリンダブロックと、
上記出力軸に対して傾動可能に上記ハウジングに固定される斜板と、
上記斜板の面上を滑動すると共に、球体装着部を有するシューと、
上記球体装着部に回動自在に装着される球体部と、シリンダブロックのピストン室の内周面に進退可能に嵌合される外周面を有する嵌合部と、上記球体部と上記嵌合部とを連結する連結部とを有するピストンと
を備え、
上記ピストンの質量と、上記シューの質量とを加えた質量をM[g]とし、
上記ピストンの外面で囲まれた容積に上記嵌合部の上記外周面を構成している材料を隙間なく充填してなる仮想中実ピストンの質量と、上記シューの質量とを加えた質量をMref[g]とし、
上記球体部の中心から上記ピストンと上記シューとからなるピストンアッセンブリの重心までの距離をL[mm]とし、
上記仮想中実ピストンの球体部の中心から上記仮想中実ピストンと上記シューとからなる仮想中実ピストンアッセンブリの重心までの距離をLref[mm]としたとき、
1.02<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]<1.20であることを特徴とする斜板式ピストンポンプモータ。
【請求項2】
請求項1に記載の斜板式ピストンポンプモータにおいて、
1.04<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であることを特徴とする斜板式ピストンポンプモータ。
【請求項3】
請求項2に記載の斜板式ピストンポンプモータにおいて、
1.08<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であることを特徴とする斜板式ピストンポンプモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械や一般産業機械で好適に使用可能な斜板式ピストンポンプモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜板式ピストンポンプモータにおいては、次の問題が知られている。すなわち、斜板式ピストンポンプモータにおいては、ピストンがシリンダブロックのピストン室内を往復運動する際、ピストンとピストン室との摺動面で摺動摩擦により熱が発生する。そして、この摺動摩擦による発熱で、ピストンとピストン室との摺動面に焼付きが起こることがある。
【0003】
このような背景において、上記焼付きを抑制可能なピストンとして、特開平5−269628号公報(特許文献1)に提案されているものがある。このピストンは、円筒部材の両端部の開口を密封してなる構造をしている。このピストンは、内部に密封空間を形成することによって、中実度を低くして、質量が小さくなるようにしている。このようにして、遠心力を抑制して、遠心力による接触圧力を小さくして、ピストンとピストン室との摺動面に焼付きが発生することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−269628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、中実度が低い従来のピストンであっても、斜板式ピストンポンプモータをより高速回転仕様(例えば、5000rpm〜7000rpm)として効率を高くしようとすると、ピストンおよびシューに作用する遠心力が大きくなって、ピストンと、シリンダブロックのピストン室との摺動面に焼付きが発生することがある。
【0006】
詳しくは、本発明者は、斜板式ピストンポンプモータにおいては、ピストンのストロークによりピストンの重心位置が移動するため、ピストンとピストン室の摺動面の接触状態が異なり、特に、ピストンおよびシューに大きな遠心力が作用する場合には、ピストンが下死点の周辺に存在して、ピストンがピストン室から引き抜かれた状態では、ピストンとピストン室の片当たたりが顕著になることを見いだした(本発明者が見いだした課題であり、本願出願時において、この課題は公知でない)。
【0007】
そして、上記従来技術のように、単純にピストンの質量を小さくするだけでは、焼付きに対する限界の向上効果が十分でないことを見いだした。
【0008】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術との比較において、焼付きを抑制できて高速運転が可能な斜板式ピストンポンプモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明の斜板式ピストンポンプモータは、
ハウジングと、
上記ハウジングに収容されると共に、出力軸に連結され、かつ、複数のピストン室を有するシリンダブロックと、
上記出力軸に対して傾動可能に上記ハウジングに固定される斜板と、
上記斜板の面上を滑動すると共に、球体装着部を有するシューと、
上記球体装着部に回動自在に装着される球体部と、シリンダブロックのピストン室の内周面に進退可能に嵌合される外周面を有する嵌合部と、上記球体部と上記嵌合部とを連結する連結部とを有するピストンと
を備え、
上記ピストンの質量と、上記シューの質量とを加えた質量をM[g]とし、
上記ピストンの外面で囲まれた容積に上記嵌合部の上記外周面を構成している材料を隙間なく充填してなる仮想中実ピストンの質量と、上記シューの質量とを加えた質量をMref[g]とし、
上記球体部の中心から上記ピストンと上記シューとからなるピストンアッセンブリの重心までの距離をL[mm]とし、
上記仮想中実ピストンの球体部の中心から上記仮想中実ピストンと上記シューとからなる仮想中実ピストンアッセンブリの重心までの距離をLref[mm]としたとき、
1.02<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]<1.20であることを特徴としている。
【0010】
尚、この明細書([発明を実施するための形態]の欄での記載も含む)では、上記ピストンが、内部の空洞につながる一以上の開口を有している場合には、ピストンの外面で囲まれた容積を、次のように定義する。すなわち、各開口において、各開口を完全に塞ぐことが可能なピストンの軸方向に垂直な平面であって、かつ、ピストンの重心から最も遠くに位置する平面を特定する。そして、上記一以上の開口以外のピストンの外面と、上記各開口で特性された平面(開口の数と同じ数だけ存在する)とからなる、開口を有さずに内部に空洞を有する閉じた表面を定義する。そして、この閉じた表面で囲まれた容積を、ピストンの外面で囲まれた容積として定義する。
【0011】
本発明者は、ピストンと、シリンダブロックのピストン室との摺動面に焼付きが発生するか否かが、ピストンの質量だけでは精密に判断できないことを突き止め、ピストンとシューとからなるピストンアッセンブリの質量や重心の位置に大きく依存することを突き止めた。
【0012】
詳しくは、各パラメータを定義したとき、1.02<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であれば、ピストンとシューを一体として考えた場合の重心距離と質量との関係(バランス)を適正に管理することができて、高速回転時のピストンのシリンダへの片当たりを緩和でき、耐焼付性を向上できることを解析的に突き止めた。
【0013】
本発明によれば、1.02<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]<1.20であるから、ピストンとシューを一体として考えた場合の重心距離と質量との関係(バランス)を適正に管理することができて、高速回転時のピストンのシリンダへの片当たりを緩和でき、耐焼付性を向上できる。
【0014】
尚、(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]の上限1.20は、高密度の部材をピストンの取り付けたとしても、この値を超えることがないことから決定され、製品の実現限界から決定されている。
【0015】
また、一実施形態では、
1.04<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]である。
【0016】
本発明者は、1.04<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であれば、焼付きの抑制効果を更に大きくでき、また、1.06<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であれば、焼付きを略防止できることを解析的に確認した。
【0017】
上記実施形態によれば、1.04<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であるから、ピストンおよびピストン室の焼付きの抑制効果を更に大きくできる。
【0018】
また、一実施形態では、
1.08<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]である。
【0019】
上記実施形態によれば、1.08<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であるから、ピストンおよびピストン室の焼付きを略防止できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来と比較して、ピストンおよびピストン室の焼付きを抑制できて、より高速運転が可能な斜板式ピストンポンプモータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態の斜板式ピストンポンプモータを示す模式断面図である。
図2】上記実施形態のピストンの軸方向の模式断面図である。
図3】変形例のピストンの模式断面図である。
図4】変形例のピストンの模式断面図である。
図5】変形例のピストンの模式断面図である。
図6】変形例のピストンの模式断面図である。
図7】従来のピストンが焼付きを生じやすい理由について説明する従来のピストンの軸方向の模式断面図である。
図8】本発明でのピストンが焼付きを生じにくい理由について説明する本発明でのピストンの軸方向の模式断面図である。
図9】解析結果による、サンプルのピストンの重量と、サンプルのピストンの重心位置との関係を示す図である。
図10】従来のピストンアッセンブリについて焼付きの発生し易さを解析した解析結果を示す図である。
図11】重心変更部材を含む内部品の材質の密度が本体部の材質の密度(7.8g/cm)と同一の実施形態でのピストンアッセンブリについて、焼付きの発生し易さを解析した解析結果を示す図である。
図12】重心変更部材を含む内部品の材質の密度(8.4g/cm)が本体部の材質の密度(7.8g/cm)よりも大きい実施形態でのピストンアッセンブリについて、焼付きの発生し易さを解析した解析結果を示す図である。
図13】M/Mrefを縦軸に、L/Lrefを横軸にプロットした場合の、図10〜12の各サンプルの存在位置を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態の斜板式ピストンポンプモータを示す模式断面図である。
【0024】
図1に示すように、この斜板式ピストンポンプモータは、ハウジング1と、出力軸2と、シリンダブロック3と、カバー4と、複数のピストン5と、環状の斜板6と、シュー7とを備え、シリンダブロック3は、ハウジング1に収容され、カバー4は、ハウジング1の開口を塞いでいる。
【0025】
上記シリンダブロック3は、出力軸2に同軸に連結されている。また、上記出力軸2は、軸受23、24によってハウジング1に対して回動自在に支持されている。上記シリンダブロック3は、出力軸2にスプライン結合され、出力軸2に出力軸2の周方向の相対変位が阻止された状態で結合されている。上記シリンダブロック3は、複数のピストン室10を有し、各ピストン室10は、出力軸2の軸方向に延在し、複数のピストン室10は、出力軸2の周方向に互いに間隔をおいて位置している。
【0026】
上記斜板6は、ハウジング1の前壁13に固定されている。上記斜板6は、出力軸2の中心軸に垂直な平面に対して傾斜している。上記斜板6は、図1において上方になるにつれて右方に傾斜するように配置されている。上記斜板6のシリンダブロック3側の表面は、滑り面15になっている。なお、上記斜板6は傾動可能であってもよい。
【0027】
上記シュー7は、円板状の滑動部18と、円柱状の球体装着部19とを一体に形成してなっている。上記滑動部18は、斜板6の滑り面15に滑動自在に当接している。また、上記球体装着部19は、球状の装着凹所を有している。
【0028】
上記ピストン5は、斜板6側の先端側に球体部17を有している。この球体部17は、球体装着部19の球状の装着凹所に回動自在に装着されている。また、上記ピストン5は、略円柱状の嵌合部20と、連結部21とを有し、嵌合部20は、連結部21を介して球体部17につながっている。
【0029】
上記球体部17は、軸方向の両端部以外の大部分の外面が球面からなっている。上記球体部17は、軸方向の斜板6側とは反対側で球面状の外面が終了している箇所で連結部につながっている。上記嵌合部20の外周面は、ピストン室10の内周面に軸方向に進退可能に嵌合している。
【0030】
尚、上記各シュー7は、図示しない環状の押え板に装着されている。またシリンダブロック3の内周部には、ハウジング1の前壁13側に突出し、板ばね支持部として機能するリテーナ40が形成されている。このリテーナ40と、上記押え板との間には図示しない環状の板ばねが介在している。この板ばねは、シュー7の浮き上がりを抑制する役割を担っている。
【0031】
図2は、上記ピストン5の軸方向の模式断面図である。
【0032】
上記ピストン5は、鋼製かつ一体の本体部101と、環状の重心変更部材102とを有する。上記本体部101は、球体部105と、嵌合部106と、連結部107とを有している。上記球体部105は、シュー7の球体装着部19(図1参照)に回動自在に装着されるようになっている。上記嵌合部106は、円筒部材の球体部105側の一端部のみを密封してなっている。上記嵌合部106の外周面115は、シリンダブロック3のピストン室10(図1参照)の内周面に進退可能に嵌合されるようになっている。また、上記連結部107は、球体部105と、嵌合部106とを連結している。
【0033】
上記重心変更部材102は、本体部101を構成する鋼材と同一密度の鋼材からなっている。上記重心変更部材102は、筒状の形状をしている。上記重心変更部材102は、嵌合部106の内周面109の軸方向の球体部105側とは反対側の端部に締め代を有した状態で内嵌されて固定されている。上記嵌合部106の内周面109の軸方向の球体部105側とは反対側の端部に、重心変更部材102を固定することにより、ピストン5とシュー7とからなるピストンアッセンブリの重心を、本体部101の重心よりも球体部105側とは反対側に位置させるようになっている。
【0034】
図1、2を参照して、この斜板式ピストンポンプモータは、ピストン5の質量と、シュー7の質量とを加えた質量をM[g]とし、ピストン5の外面で囲まれた容積に嵌合部106の外周面を構成している材料を隙間なく充填してなる仮想中実ピストンの質量とシュー7の質量とを加えた質量をMref[g]とし、球体部105の中心からピストン5とシュー7とからなるピストンアッセンブリの重心までの距離をL[mm]とし、上記仮想中実ピストンの球体部の中心から上記仮想中実ピストンとシュー7とからなる仮想中実ピストンアッセンブリの重心までの距離をLref[mm]としたとき、1.02<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]<1.20が満たされている。
【0035】
上記構成において、この斜板式ピストンポンプモータは次のように動作するようになっている。
【0036】
すなわち、カバー4に形成される作動油供給口43から作動油を供給すると、弁板33の供給孔34を介して図1の紙面に対して手前側に配置されるシリンダブロック3の各ピストン室10に作動油が供給されるようになっている。するとピストン5は、伸長してシュー7を斜板6側に押圧する。上記斜板6は、図1に示されるように下方に向かうにつれて左方となるように傾斜して配置されるので、ピストン5によって斜板6に押付けられるシュー7には下方に力が作用する。したがって、図1において手前側に配置されるピストン5が伸長しながら下方に変位するから、シリンダブロック3およびシリンダブロック3に連結される出力軸2が、図1の左方から見たとき時計まわりに回転駆動するようになっている。
【0037】
また、図1の紙面に対して奥側に配置される各ピストン5は、シリンダブロック3の回転とともに上方に移動しながら斜板6からの力を受けて縮退する。すると、上記ピストン室10内の作動油が、弁板33の排出孔およびカバー4の作動油排出口44から外部に排出される。このようにして出力軸2を回転駆動するようになっている。
【0038】
また、この斜板式ピストンポンプモータは、出力軸の回転動力によって、上述の動作の逆の動作を行うことができて、出力軸の回転動力を作動油の流れに変えることができる。このことから、この斜板式ピストンポンプモータは、ピストン室10内に作動油を吸入し、ピストン室10内から吐出する、又は、ピストン室10内に作動油が供給され、ピストン室10内から排出する一連の動作を行うことができて、ポンプやモータとして動作させることができるようになっている。
【0039】
また、供給孔34からシリンダブロック3のピストン室10に供給される作動油は、ピストン5およびシュー7に形成される油孔を介してシュー7と斜板6の滑り面との間に供給されて潤滑剤として機能する。このことから、シュー7が、斜板6の滑り面15上をスムーズに滑動することができる。
【0040】
図3は、変形例のピストン205の模式断面図であり、重心変更部材203が、本体部201を構成する鋼材と同一密度の鋼材からなる変形例のピストン205の模式断面図である。
【0041】
このピストン205は、本体部201と、潤滑剤通路形成部材202と、重心変更部材203と、Oリング204と、止め輪206とを有する。上記本体部201は、球体部210と、嵌合部211と、連結部212とを有する。連結部212は、球体部210と、嵌合部211とを連結している。上記嵌合部211は、円筒部材の球体部210側の一端部のみを密封してなっている。上記潤滑剤通路形成部材202は、筒状部214を有し、その筒状部214は、嵌合部211の内周面に内嵌されて固定されている。
【0042】
上記筒状部214の外周面は、その筒状部214の軸方向の一端と他端とを連通する図示しない一以上の直線状や螺旋状の溝を有している。この一以上の図示しない溝の両端は開口している。潤滑油を、この溝内を通過させて、嵌合部211の外周面を冷却して、嵌合部211の焼付きを抑制している。また、上記一以上の図示しない溝を通過した潤滑剤を、球体部210および連結部212内に形成した潤滑剤通過通路215を通過させて球体部210の先端側に送って、球体部210とシューとの焼付きを抑制している。
【0043】
上記重心変更部材203は、本体部201を構成する鋼材と同一密度の鋼材からなっている。上記重心変更部材203は、潤滑剤通路形成部材202の筒状部214の内周面に圧入により内嵌されて固定されている。上記重心変更部材203は、嵌合部211の略2/5程度の軸方向の長さを有し、嵌合部211の球体部210側とは反対側の端の軸方向の位置は、重心変更部材203の球体部210側とは反対側の端の軸方向の位置と略一致している。
【0044】
上記Oリング204は、重心変更部材203の外周面に形成された環状溝に嵌入されている。上記Oリング204は、重心変更部材203と、筒状部214との間をシールしている。上記嵌合部211の内周面の球体部210側とは反対側の端部には、環状溝が形成されている。上記止め輪206は、その環状溝内に嵌入されている。上記止め輪206は、重心変更部材203の軸方向の球体部210側とは反対側の端面に接触している。上記止め輪206は、重心変更部材203が軸方向の球体部210側とは反対側から抜け出ることを防止している。
【0045】
図4は、変形例のピストン305の模式断面図であり、重心変更部材303が、本体部201を構成する鋼材と異なる密度の材料からなる変形例のピストン305の模式断面図である。尚、この変形例のピストン305では、図3に示す変形例のピストン205と同一の部材には、同一の符号を伏して説明を省略する。
【0046】
この変形例では、重心変更部材303の長さが、短くなった点と、重心変更部材303の材質が、本体部201を構成する鋼材の密度よりも高い材質、例えば、銅合金等(本体部201を構成する鋼材の密度よりも高い密度の材質であれば如何なる材質でも良い)、からなっている点のみが、図3に示す変形例と異なっている。
【0047】
図5は、変形例のピストン405の模式断面図であり、重心変更部材402が、本体部401を構成する鋼材と異なる密度の材料からなる変形例のピストン405の模式断面図である。
【0048】
このピストン405は、鋼製かつ一体の本体部401と、環状の重心変更部材402とを有する。上記本体部401は、球体部410と、嵌合部411と、連結部412とを有する。上記嵌合部411は、一端部が密封された二重筒構造を有し、外側筒部220の中心軸と、内側筒部221の中心軸とは、本体部401の中心軸に一致している。
【0049】
上記重心変更部材402は、本体部401を構成する鋼材よりも密度が重い銅合金等の材料からなっている。上記重心変更部材402は、環状構造を有し、外周円筒面423と、内周円筒面424とを有する。上記外周円筒面423は、外側筒部221の内周面に圧入により固定されており、内周円筒面424は、内側筒部221の外周面に圧入により固定されている。
【0050】
図6は、変形例のピストン505の模式断面図であり、重心変更部材502が、本体部501を構成する鋼材と異なる密度の材料からなる変形例のピストン505の模式断面図である。
【0051】
このピストン505は、鋼製かつ一体の本体部501と、環状の重心変更部材502とを有する。上記本体部501は、球体部510と、嵌合部511と、連結部512とを有する。上記連結部512は、球体部510と、嵌合部511とを連結している。上記嵌合部511は、円筒形状を有している。
【0052】
上記重心変更部材502は、本体部501を構成する鋼材よりも密度が重い銅合金等の材料からなっている。上記重心変更部材502は、円筒部540と、蓋部541とを有する。上記円筒部540の軸方向の長さは、嵌合部511の軸方向の長さよりも長くなっている。上記円筒部540の中心軸は、本体部501の中心軸と一致している。上記円筒部540の軸方向の球体部510側の一端部は、連結部512と嵌合部511とに亘って形成されている円筒状の凹部に嵌合されて固定されている。
【0053】
上記重心変更部材502は、潤滑剤通路530を有する。上記潤滑剤通路530は、重心変更部材502の中心軸に沿って延在して、重心変更部材502を軸方向に貫通している。上記潤滑剤通路530は、球体部510と連結部512とに亘って形成されている潤滑剤通路531とつながっている。上記潤滑剤通路530は、潤滑剤通路531と同一の中心軸を有し、同一の内径を有している。
【0054】
上記蓋部541は、嵌合部511の軸方向の球体部510側とは反対側の開口における潤滑剤通路530の開口以外の部分を塞いでいる。上記蓋部541の環状の外周部と、嵌合部511の環状の内周部とは溶接により固定されている。
【0055】
尚、ピストンの本体部に、重心変更部材や潤滑剤通路形成部材等の内部部品を固定する際、圧入や、溶接の他に、ボルト等の締結部材による固定を用いることができるのは、勿論である。
【0056】
図7および図8は、ピストンおよびシューからなるピストンアッセンブリの重心の位置が、ピストンおよびピストン室の焼付きに関係することを説明するための模式図である。そして、図7は、従来のピストンの軸方向の模式断面図であり、図8は、本発明で適用できるピストンの軸方向の模式断面図である。尚、図7の参照番号701と、図8の参照番号801とは、ピストン室の開口を示している。
【0057】
図7を参照して、上記ピストン705およびシューに遠心力が作用する際には、ピストン705のストロークによりその重心位置が移動するため、ピストン705とシリンダブロックの摺動面の接触状態が異なってくる。
【0058】
そして、図7に示すように、従来の中空形状のピストン705では、ピストン705がシリンダブロックから引き抜かれた状態では、ピストン705およびシューからなるピストンアッセンブリの重心位置がより球体部側にあるため、ピストン705とシリンダブロックの片当たり接触が顕著になる。したがって、従来のピストン705のように単純にピストン705の質量を小さくするだけでは、重心位置を大きく変えることができず、焼付き損傷に対する限界の向上効果が十分でない。
【0059】
これに対し、図8に示すように、ピストン805とシューとからなるピストンアッセンブリの重心位置をピストンの球体部側とは反対側に移動させるような付加的な重量物(重心変更部材)811を、ピストン805の球体部側とは反対側に配置すると、図7に示す従来のピストン705と比較して、シリンダブロックの回転に伴いピストン805がピストン室内を進退する際に、ピストン805の重心の位置がピストン室の内部に存在する場合のシリンダブロックの位相角の範囲をより大きくできる。したがって、ピストン805の傾こうとする力を、ピストン室の内面からの反力で抑制できて、片当たり接触を抑制できて、焼付き損傷に対する限界の回転速度を格段に速くすることができるのである。
【0060】
図9は、解析結果による、サンプルのピストンの重量と、サンプルのピストンの重心位置との関係を示す図である。
【0061】
尚、図9において、白抜きの四角の中に記載された数値は、所謂PV値であり、各サンプルのピストンの速さと、各サンプルのピストンにかかる圧力とを乗じた値であり、焼付き易さの度合いの指標となる値である。
【0062】
また、図9において、ピストンの重心位置は、ピストンの軸方向の球体部からの軸方向の距離を示す。また、この解析では、ピストンの全長を、60〜70[mm]としている。
【0063】
また、図9において、実線は、従来のピストンにおける値を示し、点線は、本発明で適用可能なピストンにおける値を示す。
【0064】
上記点線上の測定点を参照すると、PV値は、ピストンの重心位置が球体装着部から離れるにしたがって、質量が大きくなるにも拘わらず、528、417、215と下がっている。したがって、ピストンの重心、正確には以下に説明するように、ピストンとシューとからなるピストンアッセンブリの重心の位置が、ピストンおよびピストン室の焼付きに大きく影響することがわかる。
【0065】
本発明者は、ピストンの質量と、シューの質量とを加えた質量をM[g]とし、ピストンの外面で囲まれた容積に、ピストンの嵌合部の外周面を構成している材料を隙間なく充填してなる仮想中実ピストンの質量と、シューの質量とを加えた質量をMref[g]とし、ピストンの球体部の中心から、ピストンとシューとからなるピストンアッセンブリの重心までの距離をL[mm]とし、上記仮想中実ピストンの球体部の中心から、上記仮想中実ピストンとシューとからなる仮想中実ピストンアッセンブリの重心までの距離をLref[mm]としたときの、(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]の値と、摺動摩擦の大きさとの関係を、多数のサンプルで解析的に検証した。
【0066】
図10図12は、その解析結果の例を示す図であり、図10は、従来のピストンアッセンブリの解析結果を示す図である。
【0067】
また、図11は、本発明の実施形態のピストンアッセンブリの解析結果であり、重心変更部材を含む内部品の材質の密度が本体部の材質の密度(7.8g/cm)と同一の実施形態のピストンアッセンブリ(図2、3に示すピストンを用いたピストンアッセンブリも含む)の解析結果を示す図である。
【0068】
また、図12は、本発明の実施形態のピストンアッセンブリの解析結果であり、重心変更部材を含む内部品の材質の密度(8.4g/cm)が本体部の材質の密度(7.8g/cm)よりも大きい実施形態のピストンアッセンブリ(図4〜6に示すピストンを用いたピストンアッセンブリも含む)の解析結果を示す図である。
【0069】
尚、図10〜12において、重心がシリンダ外(ピストン室外)にでる位相は、上死点(ピストンが最もピストン室に入り込んでいる点)を、基準にして、出力軸の回転方向を正の方向としたときの位相を示している。
【0070】
また、図10〜12において、判断の欄に記載した、○、◎、△、×は、解析において焼付きが発生する度合いを示し、解析的に◎、○、△、×の順に焼付きが発生し易くなり、◎、○は、解析的には、焼付きが発生しない一方、△は、解析的に、焼付きの発生を否定できないことを示す。また、×は、解析的に焼付きが発生する。また、図10〜12における形状図の欄では、各サンプルのピストンの形状を示している。
【0071】
図10に示すように、従来型のピストンでは、(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]の値が、0.944の中空ピストンと、1.008の軽量ピストンで、解析的に焼付きが発生する。これらのサンプルは、ピストンアッセンブリの重心位置が、ピストン室の手前(開口)側に存在しすぎて、片当たりの発生が予測されることが原因である。また、(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]の値が、基準ピストンと同程度の1.012の中実ピストンでも、解析的に焼付きの発生を否定できないようになっている。
【0072】
一方、図11に示すように、重心変更部材を含む内部品の材質の密度が本体部の材質の密度(7.8g/cm)と同一の実施形態のピストンアッセンブリのサンプルの場合では、いずれのサンプルでも、(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]の値が、1.045から1.127の範囲に収まり、解析的に焼付きが起こりにくくなっている。これらのサンプルが焼付きを起こしにくい理由は、比較的に軽くて、ピストンアッセンブリの重心位置もよりシュー側とは反対側にあるからである。
【0073】
また、図12に示すように、重心変更部材を含む内部品の材質の密度(8.4g/cm)が本体部の材質の密度(7.8g/cm)よりも大きい実施形態のピストンアッセンブリの場合でも、いずれのサンプルでも、(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]の値が、1.050から1.133の範囲に収まり、解析的に焼付きが起こりにくくなっている。これらのサンプルが焼付きを起こしにくい理由も、比較的に軽くて、ピストンアッセンブリの重心位置もよりシュー側とは反対側にあるからである。
【0074】
図11、12で示す各サンプルが焼付きを起こしにくい理由は、各パラメータを定義したとき、1.02<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であれば、ピストンとシューを一体として考えた場合の重心距離と質量との関係(バランス)を適正に管理することができて、高速回転時のピストンのシリンダへの片当たりを緩和でき、耐焼付性を向上できるためであると推察される。
【0075】
図13は、M/Mrefを縦軸に、L/Lrefを横軸にプロットした場合の、図10〜12の各サンプルの存在位置を表す図である。
【0076】
尚、図13において、◆は、図10の基準ピストンの値であり、×は、図10の従来ピストンの値であり、○は、図11に示す同一密度部品の追加の実施形態の値であり、△は、図12に示す高密度部品の追加の実施形態の値である。
【0077】
また、図13の実線は、1.02=(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]で規定される線を示す。
【0078】
図13に示すように、焼付きが発生する基準ピストンアッセンブリおよび従来ピストンアッセンブリは、(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]の値が1.02よりも小さくなっている。一方、解析的に焼付きの発生が大きく抑制されると判断できる本実施形態でのピストンアッセンブリは、全て、(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]の値が1.02よりも大きくなっている。このことから、解析的に(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]の値が1.02よりも大きければ、ピストンおよびピストン室の焼付きを大きく抑制できる。
【0079】
したがって、上記実施形態の斜板式ピストンポンプモータによれば、1.02<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]<1.20であるから、ピストンとシューを一体として考えた場合の重心距離と質量との関係(バランス)を適正に管理することができて、高速回転時のピストンのシリンダへの片当たりを緩和でき、耐焼付性を向上できる。
【0080】
また、そのうちの幾つかは、1.04<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であるから、ピストンおよびピストン室の焼付きの抑制効果を更に大きくでき、また、そのうちで、1.08<(L/Lref)/[(M/Mref)0.7]であるものは、ピストンおよびピストン室の焼付きを略防止できる。
【0081】
なお、上記の各実施形態では、ピストン5が球体部17を有し、シュー7が球体装着部19を有する例について説明したが、ピストン5が球体装着部19を有し、シュー7が球体部17を有する場合であっても本発明を適用できる。この場合においても、ピストンとシューとからなるピストンアッセンブリの重心までの距離L[mm]は、球体部の中心からが基準となる。
【符号の説明】
【0082】
1 ハウジング
2 出力軸
3 シリンダブロック
5,205,305,405,505,805 ピストン
6 斜板
7 シュー
10 ピストン室
17,105,210,410,510 ピストンの球体部
20,106,211,411,511 ピストンの嵌合部
21,107,212,412,512 ピストンの連結部
115 嵌合部の外周面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図13
図10
図11
図12