特許第5886216号(P5886216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886216
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】フッ素置換オレフィンを含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20160303BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20160303BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20160303BHJP
   C11D 3/43 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   C09K5/04 F
   C09K3/00 111B
   C11D7/50
   C11D3/43
【請求項の数】21
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-11382(P2013-11382)
(22)【出願日】2013年1月24日
(62)【分割の表示】特願2010-113902(P2010-113902)の分割
【原出願日】2003年10月27日
(65)【公開番号】特開2013-122056(P2013-122056A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2013年2月4日
(31)【優先権主張番号】60/421,263
(32)【優先日】2002年10月25日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】60/421,435
(32)【優先日】2002年10月25日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】シング、ラジブ アール.
(72)【発明者】
【氏名】ファム、ハン ティ.
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン、デイビッド ピー.
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、レイモンド エイチ.
【審査官】 吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−110388(JP,A)
【文献】 特開平05−085970(JP,A)
【文献】 佐藤春樹,ハイドロフルオロカーボン系およびその他の純粋冷媒に関する最新物性情報,日本冷凍空調学会論文集,日本,社団法人日本冷凍空調協会,2001年10月15日,2001 No.3,P.1-P.14
【文献】 上村茂弘,HFC系の冷媒の実用化に向けての評価,日本冷凍協会論文集,日本,社団法人日本冷凍協会,1993年11月30日,Vol.10,No.3,P.105-P.112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
C09K 3/00
C11D 3/43
C11D 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体または物体を加熱または冷却する方法であって、
(a)化学式(II)
【化1】
(式中、各々のRは独立にFまたはHであり、
R’は(CRYであり、
YはCFであり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の少なくとも1つの化合物を含む冷媒と、ポリオールエステルの潤滑剤とを含む熱移動組成物を少なくとも1つの圧縮機、少なくとも1つの凝縮器及び少なくとも1つの蒸発器を有するシステムに提供し、そして
(b)前記冷媒を蒸発または凝縮することによって前記流体または物体へまたは前記流体または物体から熱を移動する
ことを含み、
前記凝縮器が150°F(66℃)を含む温度範囲で運転され、
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、前記冷媒の少なくとも50重量%の量で存在するトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランスHFO−1234ze)である、方法。
【請求項2】
前記熱移動組成物が、HFC−134aと比較しての相対能力を有し、HFC−134aと比較しての相対成績係数(相対COP)を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記蒸発器が−35°F(−37℃)を含む温度範囲で運転される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、マウスおよびラットへの吸入曝露によって測定される実質的な急性毒性を有しない、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記熱移動組成物が、5重量%の潤滑剤濃度で測定して−50℃〜+70℃の温度範囲にわたり1つの液相を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記熱移動組成物が、20重量%の潤滑剤濃度で測定して−50℃〜+70℃の温度範囲にわたり1つの液相を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記熱移動組成物が、50重量%の潤滑剤濃度で測定して−50℃〜+70℃の温度範囲にわたり1つの液相を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑剤が、前記熱移動組成物に対して重量で30%〜50%の量で存在する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記冷媒が0.05以下のオゾン破壊係数(ODP)を有する、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記冷媒がのオゾン破壊係数(ODP)を有する、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記熱移動組成物が不燃性組成物である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記冷媒が少なくとも70重量%のトランスHFO−1234zeを含む、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記冷媒が、トランスHFO−1234zeからなる、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記熱移動組成物が、HFC−134aの代替物として提供される、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記熱移動組成物が、HFC−134aで運転可能なシステムにおいて使用されるために提供される、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
化学式(II)
【化1】
(式中、各々のRは独立にFまたはHであり、
R’は(CRYであり、
YはCFであり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の少なくとも1つの化合物と、ポリオールエステルの潤滑剤とを含む蒸気圧縮システム用の熱移動組成物であって、
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランスHFO−1234ze)であり、
前記トランスHFO−1234zeが、前記熱移動組成物の少なくとも50重量%の量で存在する、熱移動組成物。
【請求項17】
前記トランスHFO−1234zeが、前記熱移動組成物に対して少なくとも70重量%の量で存在する、請求項16記載の熱移動組成物。
【請求項18】
前記潤滑剤が、前記熱移動組成物に対して30〜50重量%の量で存在する、請求項16または17記載の熱移動組成物。
【請求項19】
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、トランスHFO−1234zeから本質的になる、請求項16〜18のいずれかに記載の熱移動組成物
【請求項20】
前記冷媒が実質的な急性毒性を有しない、請求項16〜19のいずれかに記載の熱移動組成物。
【請求項21】
圧縮機、凝縮器及び請求項16〜20のいずれかに記載の熱移動組成物を含む熱移動を提供する蒸気圧縮システムであって、150°F(66℃)を含む凝縮温度で運転可能である前記システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に冷却システムを含む多くの用途に有用な組成物に関し、そのような組成物を利用する方法およびシステムに関する。好適な態様では、本発明は、本発明による少なくとも1つの多フッ素化オレフィンを含有する冷媒組成物に関する。
【0002】
本出願は、2002年10月25日に各々出願された米国特許仮出願第60/421,263号および第60/421,435号に関連する出願であり、それらに対する優先権を主張し、その各々を引用によって本明細書に援用する。また本出願は、同時に出願されている米国特許出願である、「フッ素化アルケン冷媒組成物(Fluorinated Alkene Refrigerant Composition)」と題されたレイモンド・トーマス(Raymond Thomas)による代理人整理番号H0004412(26269)の出願および「フルオロプロペンの製造工程(Process For Producing fluoropropenes)」と題されたシェ・スン・タン(Hsueh Sung Tung)他による代理人整理番号H0003789(26267)の出願の各々に関連する出願であり、その各々を引用によって援用する。
【背景技術】
【0003】
フルオロカーボン系流体は、多くの商業的および工業的用途において広汎に使用されていることが知られている。例えば、フルオロカーボン系流体は、空調、ヒートポンプ、および冷却用途などのシステムにおける作用流体として、多くの場合で用いられている。蒸気圧縮サイクルは、冷却システムにおける冷却または加熱を達成するために、最も一般的に用いられる種類の方法の1つである。蒸気圧縮サイクルには、通常、比較的低圧での吸熱による冷媒の液体相から蒸気相への相変化と、続く比較的低圧かつ低温での除熱による蒸気相から液体相への相変化、比較的高圧への蒸気の圧縮、この比較的高圧かつ高温での除熱による蒸気の液体相への凝縮が含まれ、続いて減圧されてサイクルが再び開始される。
【0004】
冷却の主な目的は、比較的低温で物体または他の流体から温度を除去することであり、ヒートポンプの主な目的は、環境より高い温度の熱を加えることである。
一定のフルオロカーボンは、長年の間、多くの用途において、冷媒など多くの熱交換流体に好適な成分であった。例えば、クロロフルオロメタン誘導体およびクロロフルオロエタン誘導体などのフルオロアルカンは、その化学的および物理的特性の特有の組合せによって、空調およびヒートポンプ用途を含む用途における冷媒として、広範に用いられている。蒸気圧縮システムにて一般的に利用されている冷媒の多くは、単一成分の流体、または共沸混合物である。
【0005】
近年、地球の大気および気候に対する潜在的な損傷についての関心が高まっており、これに関しては、一定の塩素系化合物が特に問題であることが判明している。塩素含有組成物(クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCF)など)を空調および冷却システムにおける冷媒として用いることは、そのような化合物の多くがオゾン破壊性を伴うため不評を招いている。したがって、冷却およびヒートポンプ用途における代替品を提供する、新規なフルオロカーボンおよびハイドロフルオロカーボンの化合物および組成物に対する必要が増大している。例えば、塩素を含有する冷媒を、ハイドロフルオロカーボン(HFC)など、オゾン層を破壊しないであろう、塩素を含有しない冷媒化合物で置き換えることによって、塩素を含有する冷却システムを改造することが望ましい。
【0006】
しかしながら、代用品となり得る任意の冷媒が、最も広範に用いられている流体の多くに存在する特性、特に、優れた熱移動特性、化学的安定性、低毒性または無毒性、不燃性、および潤滑剤相溶性などの特性を備える必要もあることは、一般に重要であると考えられる。
【0007】
出願人らは、多くの用途において潤滑剤の相溶性が特に重要であることを認めるに到った。より詳細には、冷却流体は、大抵の冷却システムで用いられる、圧縮ユニットにおいて利用される潤滑剤と相溶であることが非常に望ましい。残念なことに、HFCを含む塩素を含有しない冷却流体の多くが、慣例的にCFCおよびHFCと共に用いられる種類の潤滑剤、例えば、鉱物油、アルキルベンゼン、またはポリ(アルファ−オレフィン)を含む潤滑剤に、比較的不溶および非混和のうちの少なくとも1つである。圧縮冷却、空調、およびヒートポンプのシステムのうちの少なくとも1つにおいて、冷却流体−潤滑剤の組合せを所望の効率レベルで作用させるためには、広い操作温度範囲に渡って潤滑剤が冷却流体に充分に可溶である必要がある。そのような可溶性によって潤滑剤の粘度が低下し、より容易にシステム中を流れることが可能である。そのような可溶性を欠く場合、潤滑剤は、冷却、空調、またはヒートポンプのシステムの蒸発器の螺旋管や、それらのシステムの他の部分にも滞留する傾向にあり、それによってシステム効率が低下する。
【0008】
使用効率に関しては、冷媒の熱力学的性能すなわちエネルギー効率における損失による、電気エネルギー需要の増大から生じる化石燃料使用量の増大を通じて、環境への2次的な影響力が生じ得ることに留意することが重要である。
【0009】
さらに、CFC冷媒の代用品は、CFC冷媒と共に現在用いられている従来の蒸気圧縮技術に対して大規模な技術変更を行わなくても、有効であることが望ましいと、一般に考えられている。
【0010】
多くの用途において重要なもう1つの特性は可燃性である。すなわち、特に熱移動用途を含む多くの用途では、不燃性の組成物を用いることが重要または必須であると考えられている。したがって多くの場合には、そのような組成物において不燃性の化合物を用いることは有用である。本明細書で用いられる「不燃性」の語は、2002年版の米国試験材料協会(ASTM)規格E−681に従って判定されるように不燃性であると判定される、化合物または組成物を指す。この規格を引用によって本明細書に援用する。残念なことに、他の点では冷媒組成物に望ましく使用され得る多くのHFCが、不燃性ではない。例えば、フルオロアルカンであるジフルオロエタン(HFC−152a)およびフルオロアルケンである1,1,1−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)は、各々可燃性であるため、多くの用途において使用の実現性はない。
【0011】
高分子量のフルオロアルケン、すなわち少なくとも5個の炭素原子を有するフッ素置換アルケンを、冷媒として用いることが提案されている。特許文献1すなわちスムットニー(Smutny)特許は、少なくとも幾つかの不飽和度を有する炭素数5〜炭素数8のフッ素化化合物の製造に関する。スムットニー特許では、そのような高分子量のオレフィンは、冷媒、農薬、誘電性流体、熱移動流体、溶剤、および種々の化学反応における中間体として有用であることが判明したものとして同定されている(第1段、第11行〜第22行を参照)。
【0012】
スムットニー特許に記載されているフッ素化オレフィンは、熱移動用途において幾らかのレベルの有効性を有し得るが、そのような化合物は一定の欠点も有し得ると考えられる。例えば、それらの化合物のうち幾つかは、基材、特にアクリル樹脂およびABS樹脂などの汎用プラスチックを冒す傾向があり得る。さらに、スムットニー特許に記載されている高分子量のオレフィン化合物は、スムットニー特許で言及されている農薬活性の結果として生じ得るそうした化合物の潜在的な毒性レベルのため、一定の用途には望ましくないこともあり得る。また、そのような化合物は、高すぎる沸点を有するために一定用途の冷媒としては有用でない場合がある。
【0013】
ブロモフルオロメタンおよびブロモクロロフルオロメタンの誘導体、特にブロモトリフルオロメタン(ハロン1301)およびブロモクロロジフルオロメタン(ハロン1211)は、飛行機のキャビンおよびコンピュータ室などの仕切られた領域における消火剤として広範に用いられている。しかしながら、その高いオゾン破壊性のため、種々のハロンの使用は段階的に削減されている。さらに、ハロンは人間が存在する領域で用いられる場合が多いので、適切な代用品も鎮火または消火に必要な濃度で人間に対して安全である必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,788,352号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって出願人らは、上述の欠点のうち1つ以上を回避する、蒸気圧縮加熱および冷却のシステムおよび方法を含む多数の用途において有用であり得る組成物、詳細には、熱移動組成物、消火/鎮火組成物、発泡剤、溶剤組成物、および相溶化剤の必要を認めるに到った。
【課題を解決するための手段】
【0016】
出願人らは、上述の必要および他の必要が、炭素数3〜炭素数4の1つ以上のフルオロアルケン、好適には以下の化学式(I)の化合物を含有する組成物によって満たされることを見出した。
【0017】
【化1】
ここでXは、炭素数2または炭素数3の、不飽和な、置換または非置換のアルキル基であり、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、zは1〜3である。
【0018】
本発明によって、熱移動、フォーム発泡、溶媒和、並びにエアゾール生成用の方法およびシステムを含む、本発明の組成物を利用する方法およびシステムも提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
組成物:
本発明は、3〜4個の炭素原子および少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する少なくとも1つのフルオロアルケンを含有する組成物に関する。本明細書では簡便のため、本発明のフルオロアルケン化合物が少なくとも1個の水素を含む場合には、それらの化合物をハイドロフルオロオレフィン、すなわち「HFO」と称する時がある。ここで言及されているHFOは2つの炭素−炭素二重結合を有し得ることが想定されるが、現在のところ、そのような化合物は好適であると思われない。
【0020】
上述のように、この組成物は、化学式(I)に従う1つの化合物または複数の化合物を含有する。好適な実施態様では、組成物は以下の化学式(II)の化合物を含有する。
【0021】
【化2】
ここで、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、R’は(CRYであり、YはCRFであり、nは0または1である。非常に好適な実施態様では、YはCFであり、nは0であり、残るRのうち少なくとも1つはFである。
【0022】
出願人らは、上述の化学式(I)および化学式(II)の化合物は一般に有効であり、本発明の冷媒組成物、発泡剤組成物、相溶化剤、および溶剤組成物において有用であると、一般に考える。しかしながら出願人らは、驚くべきことにかつ予想外に、上述の化学式に従う構造を有する化合物のうち一定のものが、他のそうした化合物と比較して非常に望ましい低いレベルの毒性を示すことを見出した。容易に認められ得るように、この発見は冷媒組成物の配合のみならず、上述の化学式を満たす比較的有毒な化合物を含有し得る任意のおよび全ての組成物の配合において、非常に大きな長所および利点となり得る。より詳細には、比較的低い毒性は化学式(II)の化合物、好適には、YはCFであり、不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである化合物に関連すると、出願人らは考える。また出願人らは、そのような化合物の全ての構造異性体、幾何異性体、および立体異性体は有効であり、低い毒性の利点を有すると考える。
【0023】
非常に好適な実施態様、特に、上述の低い毒性の化合物を含有する実施態様では、nは0である。したがって一定の好適な実施態様では、本発明の組成物は、テトラフルオロプロペン(HFO−1234)、ペンタフルオロプロペン(HFO−1225)、およびそれらの組合せからなる群から選択される1つ以上の化合物を含有する。
【0024】
本発明の化合物が、不飽和な末端炭素が1つ以下のフッ素置換基を有するテトラフルオロプロペンおよびペンタフルオロプロペン化合物、特に、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、および1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)、およびそれらの各々の任意のまたは全ての立体異性体であることはさらに好適である。出願人らは、マウスおよびラットへの吸入曝露によって評価されるように、そうした化合物が有する急性毒性レベルが非常に低いことを発見した。他方、出願人らは、この組成物と共に用いるのに適した一定の化合物、すなわち末端の不飽和炭素上に1つより多いFを有する化合物、すなわち末端の不飽和炭素上に1つのHも有さない化合物が、比較的高い毒性と関連し得ることを発見した。例えば、出願人らは、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225zc)が、マウスおよびラットへの吸入曝露によって評価されるように、許容可能でない高い毒性を示すことを発見した。
【0025】
本発明の好適な化合物、すなわちHFO−1225およびHFO−1234は既知の材料であり、ケミカル・アブストラクツ(Chemical Abstracts)のデータベースに記載されている。HFO−1225は、例えばシンテックス・ケミカル社(Syntex Chemical Co.)から商業的に入手可能である。さらに、フルオロアルケンの製造については特許文献に一般に記載されている。例えば、炭素数3の種々の飽和および不飽和なハロゲン含有化合物の触媒的な蒸気相フッ素化によるCFCH=CHなどのフルオロプロペンの製造は、米国特許第2,889,379号明細書、第4,798,818号明細書、および第4,465,786号明細書に記載されている。これらの各々を引用によって本明細書に援用する。米国特許第5,532,419号明細書では、クロロハロフルオロカーボンまた
はブロモハロフルオロカーボンおよびHFを用いてフルオロアルケンを製造するための、蒸気相触媒的プロセスが開示されている。これも引用によって本明細書に援用する。欧州特許第974,571号明細書では、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)を蒸気相で昇温下クロム系触媒と接触させる、または液相でKOH,NaOH,Ca(OH),またはMg(OH)のアルコール溶液と接触させることによる、1,1,1,3−テトラフルオロプロペンの調製が開示されている。これも引用によって本明細書に援用する。さらに、本発明に関する化合物を製造する方法は、同時に出願されている米国特許出願である、「フルオロプロペンの製造工程」と題された、代理人整理番号(H0003789(26267))を有する出願に関連して記載されており、この出願を引用によって本明細書に援用する。
【0026】
本発明の組成物は、幾つかの重要な理由のため有利な特性を有すると思われる。例えば出願人は、少なくとも部分的には数学的モデルに基づき、本発明のフルオロオレフィンが大気圏の化学に対して有意な負の影響を有さず、オゾン破壊に対するその寄与は幾つかの他のハロゲン化された化学種と比較して無視することが可能である、と考える。このように本発明の好適な組成物は、オゾン破壊に対して有意に寄与しないという利点を有する。好適な組成物は、現在用いられているハイドロフルオロアルカンの多くと比較して、地球温暖化に対しても有意に寄与しない。
【0027】
好適には、本発明の組成物の地球温暖化係数(Global Warming Potential)(GWP)は150以下であり、より好適には100以下であり、さらに好適には75以下である。本明細書で用いられる「GWP」は「オゾン破壊の科学評価、2002年、世界気象機関の地球オゾンの研究および観測プロジェクトの報告(The Scientific Assessment of Ozone Depletion, 2002, a report of the World Meteorological Association’s Global Ozone Research and Monitoring Project)」、これを引用によって本明細書に援用する、において定義されているように、二酸化炭素のGWPに対して100年の時間範囲を通じて計量される。
【0028】
また、この組成物のオゾン破壊係数(Ozone Depletion Potential)(ODP)は好適には0.05以下であり、より好適には0.02以下であり、さらに好適には、ほぼ0である。本明細書で用いられる「ODP」は「オゾン破壊の科学評価、2002年、世界気象機関の地球オゾンの研究および観測プロジェクトの報告」、これを引用によって本明細書に援用する、で定義されている。
【0029】
熱移動組成物:
本発明の組成物は広い範囲に渡る量で本発明の化合物を含有し得ることが想定されるが、一般には、本発明の冷媒組成物は、化学式(I)およびさらに好適には化学式(II)に従う化合物を組成物に対して重量で少なくとも約50%、さらに好適には少なくとも約70%、含有することが好適である。
【0030】
本発明の組成物は、一定の機能を高める目的または一定の機能を組成物に与える目的で、または幾つかの場合には組成物の費用を減少させるために、他の成分を含有してもよい。例えば、本発明による冷媒組成物、特に蒸気圧縮システムで用いられる冷媒組成物は、一般に組成物の重量の約30%〜約50%の量で潤滑剤を含有する。さらに、この組成物は、潤滑剤の相溶性および可溶性のうちの少なくとも1つを補助するために、プロパンなどの相溶化剤を含有してもよい。そのような相溶化剤には、プロパン、ブタン、およびペンタンが含まれ、好適には組成物の重量の約0.5%〜約5%の量で存在する。米国特許第6,516,837号明細書に開示されているように、界面活性剤および可溶化剤の組合せも、この組成物に添加されて油の可溶性を補助し得る。この開示を引用によって本明細書に援用する。ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒と共に冷却機に用いられるポリオールエステル(POE)およびポリアルキレングリコール(PAG)など、一般的に用いられる冷却潤滑剤が、本発明の冷媒組成物と共に用いられてもよい。
【0031】
発泡剤、フォーム、および発泡組成物:
発泡剤も1つ以上のこの組成物を構成し得る。上述のように、本発明の組成物は広い範囲に渡る量で本発明の化合物を含有し得る。しかしながら一般には、本発明による発泡剤として用いるために好適な組成物においては、化学式(I)およびさらに好適には化学式(II)に従う化合物が、組成物に対して重量で少なくとも約5%、さらに好適には重量で少なくとも約15%、存在することが好適である。
【0032】
他の実施態様では、本発明によって、発泡組成物、および好適には、本発明の組成物を用いて調製される、ポリウレタン、ポリイソシアヌレート、および押出成型熱可塑性フォーム組成物が与えられる。そうしたフォームの実施態様では、本発明の組成物の1つ以上が、発泡組成物中に発泡剤またはその一部として含まれるが、好適にはこの発泡組成物には、当業者には公知であるように、適切な条件下で反応および発泡のうちの少なくとも1つを行いフォームすなわちセル状の構造を形成することが可能である、1つ以上の追加の成分が含有される。また本発明は、本発明の組成物を含有する発泡剤を含むポリマーフォーム配合から調製されるフォーム、好適には独立(closed)セルフォームに関する。さらに別の実施態様では、本発明によってポリスチレンおよびポリエチレン(PE)、好適には低密度PEなどの熱可塑性フォームを含む発泡組成物が与えられる。
【0033】
一定の好適な実施態様では、分散剤、セル安定化剤、界面活性剤、および他の添加剤も本発明の発泡剤組成物中に組み込まれ得る。界面活性剤は任意だが好適には添加され、セル安定化剤として働く。幾つかの代表的な材料は、DC−193,B−8404,およびL−5340という名称で販売されており、これらは一般的には米国特許第2,834,748号明細書、第2,917,480号明細書、および第2,846,458号明細書に開示されているように、ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン・ブロック共重合体である。これらの各々を引用によって本明細書に援用する。発泡剤混合物用の他の随意の添加材には、トリ(2−クロロエチル)ホスフェート、トリ(2−クロロプロピル)ホスフェート、トリ(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、トリ(1,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、ジアンモニウムホスフェート、種々のハロゲン化芳香族化合物、酸化アンチモン、アルミニウム三水和物、ポリ塩化ビニルなどの燃焼遅延剤が含まれ得る。
【0034】
噴射剤(propellant)組成物:
別の態様では、本発明によって、好適には噴霧可能な組成物である噴射剤組成物など、本発明の組成物を含むまたは本発明の組成物から本質的になる噴射剤組成物が与えられる。本発明の噴射剤組成物は、好適には、噴霧される材料と、本発明による組成物を含む噴射剤、本発明による組成物から本質的になる噴射剤、または本発明による組成物からなる噴射剤とを含む。不活性原料、溶剤、および他の材料も、噴霧可能な混合物に存在し得る。好適には、噴霧可能な組成物はエアゾールである。適切な噴霧される材料には、以下に限定されないが、脱臭剤、香料、ヘアスプレー、清浄剤、および研磨剤などの化粧品材料や、抗喘息薬剤および抗口臭薬剤などの医薬材料も含まれる。
【0035】
方法およびシステム:
本発明の組成物は、冷却、空調、およびヒートポンプシステムにおいて用いられる冷媒など、熱を移動させるための方法およびシステムにおける熱移動流体を含む、多数の方法およびシステムに関して有用である。またこの組成物は、エアゾールを生成するシステムおよび方法における使用にも有利であり、好適にはそのようなシステムおよび方法におけるエアゾール噴射剤を含むか、またはエアゾール噴射剤からなる。フォームを形成する方法と消火および鎮火する方法ともまた、本発明の一定の態様に含まれる。また本発明では、そのような方法およびシステムにおいてこの組成物が溶剤組成物として用いられる一定の態様にて、物品から残留物を除去する方法も提供される。
【0036】
熱移動方法:
好適な熱移動方法は、一般に、本発明の組成物を与える工程と、組成物へまたは組成物から熱を移動させて組成物の相を変化させる工程とから成る。例えば、この方法では、流体または物品から熱を吸収することによって、好適には、冷却される物体または流体の付近で本発明の冷媒組成物を蒸発させてこの組成物を含有する蒸気を生成することによって、冷却する工程が与えられる。好適にはこの方法には、通常は圧縮機または同様の機器を用いて、比較的高圧で本発明の組成物の蒸気を生成する、冷媒蒸気を圧縮する工程がさらに含まれる。一般に、蒸気を圧縮する工程によって蒸気に熱が加えられ、それによって比較的高圧の蒸気の温度は上昇する。好適には、この方法には、この比較的高温高圧の蒸気から蒸発および圧縮工程によって加えられた熱の少なくとも一部分を除去する工程が含まれる。除熱工程には、好適には、蒸気が比較的高圧の状態にあり本発明の組成物を含有する比較的高圧の液体を生成する間に、高温高圧の蒸気を凝縮する工程が含まれる。この比較的高圧の液体は、好適には続いて見かけ上、等エンタルピー的に減圧されて、比較的低温低圧な液体が生成する。そのような実施態様では、冷却される物体または流体から移動される熱によって続いて気化されるのは、この温度が低下した冷媒の液体である。
【0037】
本発明の別のプロセスの実施態様では、本発明の組成物は、加熱される液体または物体の付近で組成物を含有する冷媒を凝縮する工程を含む、熱を生成するための方法に用いられる。そのような方法は前述のように、多くの場合、上述の冷却サイクルの逆のサイクルである。
【0038】
フォーム発泡方法:
本発明の一実施態様は、フォーム、好適にはポリウレタンおよびポリイソシアヌレートのフォームを形成する方法に関する。この方法は一般に、当業者には公知であるように、本発明の発泡剤組成物を与える工程と、発泡剤組成物を発泡組成物に(直接的または間接的に)添加する工程と、フォームすなわちセル状の構造を形成するのに有効な条件の下で発泡組成物を反応させる工程とを含む。「ポリウレタンの化学および技術(Polyurethanes Chemistry and Technology)」(ソーンダーズ(Saunders)およびフリッシュ(Frisch)著、ニューヨーク州ニューヨーク、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)、1962年、第1巻および第2巻)に記載されている方法など、当業者に公知である方法はいずれも本発明のフォームの実施態様での使用に用いられまたは適合され得る。一般に、そのような好適な方法は、イソシアネートと、ポリオールまたはポリオール混合物と、本発明の組成物のうち1つ以上を含有する発泡剤または発泡剤混合物と、触媒、界面活性剤、および随意で、燃焼遅延剤、着色料、または他の添加剤などの他の材料とを組合わせることによって、ポリウレタンまたはポリイソシアヌレートのフォームを調製する工程を含む。
【0039】
多くの用途においては、ポリウレタンまたはポリイソシアヌレートのフォーム用の成分を予めブレンドされた配合で与えることが簡便である。最も典型的には、フォームの配合は2つの成分に予めブレンドされる。イソシアネートと、随意で一定の界面活性剤および発泡剤とが、一般的に「A」成分と称される第1の成分を構成する。ポリオールまたはポリオール混合物、界面活性剤、触媒、発泡剤、燃焼遅延剤、および他のイソシアネート反応性成分は、一般的に「B」成分と称される第2の成分を構成する。したがって、このA並びにBの成分を小規模の調製においては手混合でおよび好適には機械混合の手法で1つに合わせることによって、ブロック、スラブ、ラミネート、現場注入型パネル(pour-in-place panel)および他の部材、吹付けフォーム、フロス(froth)などを形成するためのポリウレタンまたはポリイソシアヌレートのフォームが容易に調製される。随意で、燃焼遅延剤、着色料、発泡助剤、および他のポリオールなど他の原料を、混合ヘッドすなわち反応部に第3の流分として添加することが可能である。しかしながら最も好適には、上述のようにそれらは全て1つのB成分の中に組み込まれる。
【0040】
本発明の組成物を用いて熱可塑性フォームを製造することも可能である。例えば、硬質フォームを製造する従来技術の手法において、従来技術のポリスチレンおよびポリエチレン配合がこの組成物と組合せられ得る。
【0041】
洗浄方法:
また本発明では、本発明の組成物を物品に適用することによって、製品、部品、構成要素、基板、または任意の他の物品、またはそれらの部分から汚染物質を除去する方法が提供される。簡便のため本明細書では、「物品」の語は、そのような製品、部品、構成要素、基板などの全てを指して用いられ、さらに、それらの任意の表面または部分を指すことが意図されている。さらに「汚染物質」の語は、物品の上に存在する任意の所望されていない材料または物質を、たとえそうした物質が物品上に意図的に配置された場合であっても、指すことが意図されている。例えば半導体デバイスの製造においては、基板上にフォトレジスト材料を堆積してエッチング作業用のマスクを形成し、続いてその基板からそのフォトレジスト材料を除去することが一般的である。本明細書で用いられる「汚染物質」の語は、そうしたフォトレジスト材料を含みかつ包含することが意図されている。
【0042】
本発明の好適な方法は、この組成物を物品に適用する工程を含むが、蒸気脱脂および溶剤洗浄方法は、特に、複雑な部品の用途および除去するのが困難な汚損用途など、一定の用途において特に好適である。好適な蒸気脱脂および溶剤洗浄方法は、好適には室温で、沸騰する溶剤の蒸気に物品を曝露する工程から成る。物体の上で凝縮する蒸気には、比較的清浄な蒸留された溶剤を与えて油脂または他の汚染物質を洗浄除去するという利点が存在する。このように、そうしたプロセスには、この溶剤組成物を物体から最終的に蒸発させると、物体を単に液体の溶剤中で洗浄する場合と比べ、比較的少量の残留物しか残留しないという追加の利点が存在する。
【0043】
除去が困難な汚染物質が物品に含まれる用途においては、本発明の溶剤組成物の温度を雰囲気温度より高く、すなわち、そうした用途において溶剤の洗浄作用を有意に改良するのに有効な任意の他の温度まで上昇させる工程を、この方法が伴うことが好適である。そのようなプロセスは、物品、特に金属部品および金属部品集合体の洗浄を、効率的かつ迅速に行う必要がある大規模な製造ラインにおいても、一般に好適である。
【0044】
好適な実施態様では、本発明の洗浄方法は、昇温下で、およびさらに好適には溶剤のほぼ沸点で、洗浄される物品を液体の溶剤に浸漬する工程を含む。そのような作業では、この工程は好適には目標の汚染物質の有意な量を、さらに好適にはその大部分を、物品から除去する。好適にはこの工程に、先の浸漬する工程における液体の溶剤の温度より低い温度、好適にはほぼ雰囲気温度すなわち室温で、物品を溶剤、好適には蒸留されたばかりの溶剤に浸漬する工程が続く。また好適な方法は、好適には、最初に言及された浸漬する工程に伴う高温の/沸騰する溶剤から生じる溶剤蒸気に物品を曝露することによって、この溶剤組成物の比較的高温の蒸気と物品を続いて接触させる工程も含む。これによって、好適には、物品の上で溶剤蒸気が凝縮する結果が得られる。一定の好適な実施態様では、最終のすすぎ洗いの前に、蒸留された溶剤が物品に噴霧され得る。
【0045】
多数の種類および形態の蒸気脱脂機器が、この方法と共に用いることに適合し得ると想定される。そうした機器およびその作業の一例は、シャーリカー(Sherliker)らによる米国特許第3,085,918号明細書に開示されており、この出願を引用によって本明細書に援用する。シャーリカーらに開示されている機器には、溶剤組成物を収容する沸騰溜め(boiling sump)、蒸留された溶剤を収容する洗浄溜め(clean sump)、水分離器、および他の補助機器が含まれる。
【0046】
この洗浄方法には、汚染されている物品を、雰囲気温度すなわち室温条件の下で本発明の流体組成物に浸漬するか、または溶剤を染み込ませた布または同様の物体を用いてそのような条件の下で清拭する、低温洗浄する工程も含まれる。
【0047】
可燃性低減方法:
一定の他の好適な実施態様において、本発明では流体の可燃性を低減する方法が提供され、この方法には、そのような流体に対して本発明の化合物または組成物を添加する工程が含まれる。可燃性である任意の広い範囲の流体の可燃性が、本発明によって低減され得る。例えば、エチレンオキサイド並びに、HFC−152a、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、ジフルオロメタン(HFC−32)、プロパン、ヘキサン、オクタンなどを含む可燃性ハイドロフルオロカーボンおよびハイドロカーボンなどの流体の可燃性は、本発明によって低減可能である。本発明の目的において、可燃性流体は、ASTM E−681など任意の標準的な従来の試験方法により評価される空気中で燃焼範囲を示す、任意の流体であり得る。
【0048】
任意の適切な量のこの化合物または組成物は、本発明によって添加されて流体の可燃性を低減し得る。当業者には認められるであろうように、添加量は、少なくとも部分的には、対象の流体の可燃性の程度およびその可燃性を低減する所望の程度によるであろう。一定の好適な実施態様では、得られる流体を実質的に不燃性にするのに有効な量の化合物または組成物が、可燃性の流体に添加される。
【0049】
鎮火方法:
さらに本発明では鎮火する方法が提供され、この方法には、本発明の化合物または組成物を含有する流体と炎を接触させる工程が含まれる。この組成物と炎を接触させるために、任意の適切な方法が用いられ得る。例えば本発明の組成物は、炎に噴霧、注入などされてよく、または炎の少なくとも一部分が組成物中に浸漬されてもよい。本明細書の教示に照らして、当業者は、種々の従来技術の鎮火器械および方法を本発明における使用に容易に適合させることが可能であろう。
【0050】
滅菌方法:
特に医療分野で用いられる、多くの物品、デバイス、および材料は、患者および病院職員の健康および安全など、健康および安全の理由から使用に先立ち滅菌される必要がある。本発明では、滅菌される物品、デバイス、または材料を本発明の化合物または組成物と接触させる工程を含む、滅菌方法が提供される。そのような方法は、高温または低温の滅菌方法のいずれでもあり得る。一定の実施態様では、高温滅菌には、滅菌される物品、デバイス、または材料を、好適には実質的に密封されたチャンバ内で、約121℃〜約132℃(約250°F〜約270°F)の温度で本発明の化合物または組成物を含有する高温の流体に曝露する工程が含まれる。通常は、このプロセスを約2時間未満で完了することが可能である。しかしながら、プラスチック材料および電気部品など幾つかの物品では、このような高温に耐えることが可能でなく、低温滅菌が必要とされる。
【0051】
本発明の低温滅菌には、約38℃〜約93℃(約100〜約200°F)の温度で本発明の化合物または組成物を用いることが含まれる。本発明の化合物は、例えば、エチレンオキサイド(EO)、ホルムアルデヒド、過酸化水素、二酸化塩素、およびオゾンを含む、他の一般的な化学滅菌剤と組合わされて、本発明の滅菌組成物を形成し得る。
【0052】
好適には、本発明の低温滅菌は実質的に密閉された、好適には気密された、チャンバ内で実施される、少なくとも2段階のプロセスである。第1の工程(滅菌工程)では、洗浄されガス透過性バッグに包装された物品がチャンバ内に配置される。続いて、減圧することおよび場合によっては空気を水蒸気で置換することによって、チャンバから空気が排出される。一定の実施態様では、水蒸気をチャンバ内に注入して、好適には約30%〜約70%の範囲に相対湿度を到達させることが好適である。このような湿度によって、所望の相対湿度が到達された後にチャンバ内に導入される滅菌剤の滅菌有効性が最大化され得る。滅菌剤が包装を透過して物品の間隙に届くのに充分な時間の後、滅菌剤および水蒸気がチャンバから排出される。
【0053】
このプロセスの好適な第2の工程(曝気工程)では、物品が曝気されて滅菌剤の残留物が除去される。そのような残留物を除去することは、滅菌剤が有毒な場合には特に重要であるが、実質的に無毒な本発明の化合物が用いられる場合には随意である。典型的な曝気プロセスには、空気洗浄(air wash)、連続曝気(continuous aeration)、および2つの組合せが含まれる。空気洗浄は、バッチ・プロセスであり、通常は、チャンバを比較的短い時間、例えば12分間、脱気する工程と、続いて大気圧またはそれより高い圧力の空気をチャンバ内に導入する工程とを含む。所望通りに滅菌剤が除去されるまで、このサイクルは任意の回数繰り返される。連続曝気は、典型的には、アウトレットをわずかに減圧することにより、チャンバの1つの側にあるインレットを通じて空気を導入する工程と、続いてチャンバの他の側のアウトレットを通じてその空気を吸引する工程とを含む。多くの場合、2つのアプローチは組合わされる。例えば、一般的なアプローチには、空気洗浄を実施する工程と、続いて曝気サイクルを実施する工程とが含まれる。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は本発明を例示する目的で与えられており、本発明の範囲を限定しない。
実施例1:
成績係数(COP)は、一般に認められている冷媒性能の尺度であり、特に、冷媒の蒸発または凝縮を含む特定の加熱または冷却サイクルにおける冷媒の相対的な熱力学的効率を表すのに有用である。冷却工学では、この用語は、蒸気を圧縮する際に圧縮機によって加えられるエネルギーに対する実効の冷却の比を示す。冷媒の能力(capacity)は、冷媒が与える冷却または加熱の量を表し、与えられた体積流速の冷媒に対して圧縮機が熱量を供給する性能の尺度を与える。換言すれば、特定の圧縮機が与えられた場合、より能力の高い冷媒がより多くの冷却または加熱出力を伝える。特定の作業条件での冷媒のCOPを推定する一手段は、標準的な冷却サイクル分析手法を用いる冷媒の熱力学的特性に基づく(例えば、アール.シー.ダウニング(R.C.Downing)著、「フルオロカーボン冷却剤ハンドブック(FLUOROCARBON REFRIGERANTS HANDBOOK)」、プレンティス−ホール(Prentice-Hall)、1988年、第3章を参照)。
【0055】
冷却/空調サイクルシステムは、圧縮機のインレットの温度が約10℃(約50°F)である公称の等エントロピー的圧縮の下で、凝縮器温度が約66℃(約150°F)および蒸発器温度が約−37℃(約−35°F)であるように与えられる。本発明の幾つかの組成物のCOPを、COPが1.00、能力値が1.00、および吐出温度(discharge temperature)が約79℃(175°F)であるHFC−134aを基準として、一定の範囲の凝縮器温度および蒸発器温度に渡って測定し、以下の表1に報告する。
【0056】
【表1】
この実施例では、この組成物に用いられる一定の好適な化合物は、HFC−134aより優れたエネルギー効率を各々有する(1.00に対して1.02,1.04,および1.13)ことが示されており、この冷媒組成物を用いた圧縮機は、その結果として維持管理の問題の減少を導き得るため有用であるような吐出温度(約79℃(175°F)に対して、約70℃(158°F)、約74℃(165°F)、約68℃(155°F))を生じるであろう。
【0057】
実施例2:
種々の冷却潤滑剤とHFO−1225yeおよびHFO−1234zeとの混和性が試験されている。試験された潤滑剤は、鉱物油(炭素数3)、アルキルベンゼン(ゼロール(Zerol)150)、エステル油(モービル(Mobil)EAL22ccおよびソレスト(Solest)120)、ポリアルキレングリコール(PAG)油(グッドレンチ(Goodwrench)冷却油、134aシステム用)、およびポリ(アルファ−オレフィン)油(CP−6005−100)である。各々の冷媒/油の組合せにおいて、3つの組成物、すなわち、潤滑剤が5,20,および50重量パーセントであり、各々の残りが試験される本発明の化合物である組成物が試験されている。
【0058】
潤滑剤組成物は、肉厚(heavy-walled)のガラスチューブ中に配置される。ガラスチューブは脱気され、本発明の冷媒組成物が添加され、その後でガラスチューブが密封される。続いてガラスチューブは空気浴環境の(air bath environmental)チャンバ内に置かれ、その温度が約−50℃〜70℃に変化される。ほぼ10℃毎に、1つ以上の液体相が存在するか否か、ガラスチューブの内容物の目視での観察が行われる。1つより多い液体相が観察された場合、混合物は非混和性であると報告される。観察された液体相が1つのみの場合、混合物は混和性であると報告される。2つの液体相が観察されたが、液体相のうち1つは非常に小さな体積を占めている場合、混合物は部分的に混和性であると報告される。
【0059】
ポリアルキレングリコール油およびエステル油の潤滑剤は、全温度範囲に渡り全ての試験比率で混和性と判定されたが、ポリアルキレングリコール油とHFO−1225yeとの混合物は例外であり、この冷媒混合物は、−50℃〜−30℃の温度範囲に渡って非混和性であり、−20℃〜50℃の温度範囲に渡って部分的に混和性であることが見出された。60℃においては、冷媒に対して50重量%濃度のPAGでは、冷媒/PAG混合物は混和性であった。70℃では、冷媒に対して5重量%〜50重量%の潤滑剤は混和性であった。
【0060】
実施例3:
冷却および空調システムに用いられる金属との接触時の、本発明の冷媒化合物および組成物とPAG潤滑油との相溶性が、多くの冷却および空調用途で見出されるより充分に過酷な条件である350°Fで試験されている。
【0061】
アルミニウム片、銅片、および鋼片が、肉厚のガラスチューブに加えられる。2グラムの油がガラスチューブに添加される。続いてガラスチューブは脱気されて、1グラムの冷媒が添加される。ガラスチューブは350°Fのオーブン中に1週間置かれ、目視で観察される。曝露期間が終わると、ガラスチューブが取り出される。
【0062】
この処置は、以下の油および本発明の化合物の組合せに対してなされた。
a)HFC−1234zeおよびGMグッドレンチPAG油
b)HFC−1243zfおよびGMグッドレンチ油PAG油
c)HFC−1234zeおよびMOPAR−56PAG油
d)HFC−1243zfおよびMOPAR−56PAG油
e)HFC−1225yeおよびMOPAR−56PAG油
全ての場合で、ガラスチューブの内容物の外観の変化は最小である。このことは、本発明の冷媒化合物および組成物が、冷却および空調システムに見出されるアルミニウム、鋼、および銅との接触時、および、それらの種類のシステムにてそのような組成物に含まれるまたはそのような組成物と共に用いられる可能性のある種類の潤滑油との接触時に、安定であることを示している。
【0063】
比較例:
アルミニウム片、銅片、および鋼片が、鉱物油およびCFC−12と共に肉厚のガラスチューブに加えられ、実施例3でのように、350°Fで1週間加熱される。曝露期間が終わるとガラスチューブが取り出され、目視で観察される。液体の内容物が黒く変色しているのが観察され、このことはガラスチューブの内容物が激しく分解している事を示している。
【0064】
CFC−12および鉱物油の組合せは、これまで多くの冷媒システムおよび方法で選択されている。したがって、本発明の冷媒化合物および組成物は、広範に用いられている従来技術の冷媒−潤滑油の組合せよりも有意に優れた、一般的に用いられる多くの潤滑油に対する安定性を有する。