【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的は、請求項1に係る標的分子の1つ以上の特徴を評価するための装置および請求項8に係る方法によって満たされる。さらなる有利な発展が、従属請求項において定義される。
【0021】
本発明の第1の態様に従い、標的分子の1つ以上の特徴を評価するための装置を提供する。本発明の装置は、バイオチップを受容するための手段を含んでなり、バイオチップは、プローブ分子がその第1の部分を伴い付着する、基質を含んでなる。プローブ分子は電荷を持ち、基質からプローブ分子の第2の部分の距離を示している信号を生成することを可能にするためのマーカーを有する。本明細書において、基質は作用電極であってもよく、マーカーは、上に記載した従来の技術における通り、蛍光マーカーであり得るが、本発明はこれに限定されない。
【0022】
さらに、本発明の装置は、マーカーで生成される信号を検出するための手段と、バイオチップが受容手段において受容される時、プローブ分子が曝露される外部電場を生成するための手段とを含んでなる。また、本発明の装置は、
(A)バイオチップが受容手段において受容される時、プローブ分子の第2の部分を基質に接近させる、外部電場を印加し、
(B)プローブ分子の第2の部分を基質から離れさせる、外部電場を印加するよう、
電場生成手段を制御するように構成される、制御手段を含んでなる。
【0023】
本明細書では、制御手段はさらに、工程(A)および/または工程(B)の間、時間の関数として、基質から第2の部分の距離を示している信号を記録するよう、信号検出手段を制御するように構成される。制御手段はさらに、所定の回数の間、工程(A)および(B)を繰り返すようになど、電場生成手段および検出手段を制御するように構成され、基質に接近する、および/または基質から離れる、プローブ分子の第2の一部のプロセスを示している、平均化された時間分解信号を生成するようになど、記録された信号を組み合わせるように構成される。
【0024】
最後に、装置は、標的分子の前記1つ以上の特徴を判定するようになど、前記組み合わされた信号を分析および/または処理するための分析モジュールと、好ましくは、前記標的分子の少なくとも1つ以上の特徴を出力するための出力デバイスとを含んでなる。代替的に、装置は、表示部などの出力デバイスと装置を直接または間接的に連結することを可能にする、インターフェースを含んでなってもよい。
【0025】
前出の従来技術とは異なり、本発明の装置では、スイッチング振幅△Fの周波数応答によって、標的分子のサイズまたは有効なストークス半径を判定するという上記の概念が省かれる。代わりに、本発明の装置は、スイッチングプロセスそれ自体、すなわち、立位構成と臥位構成との間、およびその逆の遷移の時間分解測定を実行する。
【0026】
周波数応答を介する性質決定の疑う余地のない成功にもかかわらず、発明者は、時間分解測定により、概念的にはスペクトル法である周波数応答測定を置き換えることによって、標的特徴の評価の信頼性を向上することができることを発見した。実際、発明者は、標的分子のサイズの評価に関して言えば、いくつかのシナリオにおける周波数応答測定は非常に鋭敏である一方、他のシナリオでは、異なるサイズの標的分子を見分け損なうであろうが、しかしながら、スイッチングプロセスそれ自体の時間分解測定に基づく、本発明の装置および方法で見分けることができることを発見した。周波数応答法を自ら開発し探究した発明者の見解によると、これは驚くべきかつ予測不可能な結果である。
【0027】
発明者のうちの一人が、より早期の刊行物の中で、金表面に繋留される一本および二本鎖DNAの時間分解蛍光測定値を発表していたことには留意すべきである(U. Rant et al., "Dissimilar Kinetic Behaviour of Electrically Manipulated Single- and Double-Stranded DNA Tethered to a Gold Surface", Biophysical Journal, Vol. 90 (2006), p. 3666 - 3671を参照のこと)。しかしながら、この時間分解測定はDNAのみに関係し、そのため、プローブ分子として機能するDNA、特に、標的分子が結合した、または結合し得たであろうプローブ分子には関係なかった。言い換えると、この従来の研究は、標的分子の性質決定とは無関係であった。
【0028】
その上、発明者がこの従来の研究で得た経験は、プローブ分子に結合する標的分子の特徴を評価するための、スイッチングプロセスの時間依存測定を採用するように全く示唆していなかったであろう。すなわち、この従来の研究でボックスカー測定法を使用すると、1つのスイッチング周期の単一の時間分解測定を記録するのに数日かかったが、それは、結果がすぐに必要とされ、標的が限られた時間中にプローブ分子に結合するのみであろう、標的分析におけるいかなる用途に対しても、もちろん禁止されている。しかしながら、驚くべきことに、発明者は、それにもかかわらず、上に記載した周波数応答法と同程度の速度および頑強さで、スイッチングプロセスの時間分解測定を実行できることを確認することができた。
【0029】
工程(A)および(B)両方の間に信号を記録する時、最良の分析結果を得ることができる一方、それにもかかわらず、工程のうちの1つの信号のみに基づいて分析することが可能である。発明者による実験によって、結合した標的分子に関する価値ある情報が、プローブ分子の上昇プロセスの時間分解分析から区別することができると確認されたことから、これは工程(B)に特に当てはまる。
【0030】
本発明の第1の態様に従い、装置はさらに、標的分子の1つ以上の特徴を判定するようになど、組み合わされた信号を自動的に分析および/または処理するための分析モジュールを含んでなる。このような分析モジュールを装置と統合することによって、実験データそれ自体よりも、装置の使用者にとって興味深い情報が提供することができ、この情報または分析結果は、好ましくは、出力デバイスによってユーザに提示することができる。
【0031】
好ましい実施形態では、分析モジュールは、
1、工程(A)および(B)の間での外部場のスイッチングと、
2、所定の閾値に到達する時間依存信号と、
の間の時間遅延を判定するようになど、組み合わされた信号を分析および/または処理するように構成される。
【0032】
本明細書では、所定の閾値は、例えば、組み合わされる値の最大値の所定の割合に対応してもよい。それゆえ、本実施形態では、分析により、プローブ分子に結合する標的分子のサイズおよび有効なストークス半径と相関し得る、2つの数値のみが生じる。
【0033】
単純な本実施形態においてさえ、本発明の装置は、立位から臥位(下への遷移)および臥位から立位(上への遷移)の両方の遷移ダイナミクスを反映する、単一数値、すなわち、カットオフ周波数を生じるのみの、上に記載した通りの周波数応答法より、多くの情報を生じることに留意されたい。
【0034】
一見したところでは、この追加情報によって、それほど多くの見通しを得ることはできないと想定するであろう。やはり、標的分子の静水圧抵抗が、上下遷移中に類似の効果を有し、それゆえ、同様に両方のプロセスを遅らせるであろうと推定するであろう。これはいくつかの状況に当てはまり、周波数応答法が多くの場合において非常に効果的と証明された理由でもある。しかしながら、発明者は、標的分子が異なる形で、上下遷移に影響を与えるシナリオがあることも観察していた。特に、もちろん静水圧抵抗は、常にスイッチングダイナミクスにおいて役割を果たすであろう一方、いくつかの場合には、唯一の役割を果たさず、決定的役割さえも果たさないだろう。代わりに、発明者は、特に下への遷移に対して、ダイナミクスはまた確率的成分も有し、それによって、Gony‐Chapman‐Sternスクリーニング層が原因で電極の近接に限局されている電場を、おそらく処置しなくてはならないことを観察した。外部電場が、実際に下への遷移を開始し得る前に、プローブ分子は「開始構成」へのブラウン運動が原因で、変動する必要があると考えられる。したがって、流体力学的抵抗と無関係、または少なくとも直接には関係しない、下への遷移に対する時間成分がある。周波数応答法で判定されるカットオフ周波数は、いつも上下遷移の時定数の組み合わせを反映するため、有効なストークス半径のより小さな差が、観察されないままであってもよい程度まで、下への遷移の時定数が結果を支配する場合がある。これは、下で実例を参照して実証する。
【0035】
加えてまたは代替的に、分析モジュールは、その時間導関数を判定するようになど、組み合わされた信号を分析および/または処理するように構成されてもよい。特に、組み合わされた信号の最大時間導関数のみを判定することが可能であり、それも、上下遷移それぞれに対して、単一の数字を与えるのみであろう。しかしながら、この数字は、例えば、周波数応答測定のカットオフ周波数より、有効なストークス半径と密接にかつ直接的に相関すると考えられる。特に、最大信号導関数は、有効なストークス半径によっておそらく統制される、遷移の最大速度を反映するので、ブラウン運動による遷移の確率的遅延に、大体は無関係であると考えられる。
【0036】
加えてまたは代替的に、分析モジュールは、分析モデルまたはシミュレーションから取得される経験的データまたはモデルデータと、組み合わされた信号を比較するように構成されてもよい。発明者の実験は、時間分解信号が、単一の数字で要約することができない、追加情報を持つと示していた。代わりに、異なる標的に対する信号対時間のグラフが、例えば、標的分子形状または配座柔軟性に関して、より正確に標的を特定するように採用することができる、特有の形状および特徴的な特性を有するようである。例えば、いくつかの標的に対する信号対時間のグラフは、いくつかの特徴的なねじれを見せる一方、他の標的に対しては、全体的に円滑であることが観察された。この挙動が、まだ全体的には理解されていなくとも、この観察は既に、経験的に知られている標的と記録された信号を比較し、一致を検出するように使用することができる。この比較は自動化し、分析モジュールに統合することができる。
【0037】
さらに、発明者はまた、標的分子に対して予想される信号を予測する、分析モデルについても詳述していた。Andreas Langer, Wolfgang Kaiser and Ulrich Rantによる記事「Analytical Model Describing the Molecular Dynamics of DNA-Protein Conjugates Tethered to Electrified Surfaces」は、本出願の提出後すぐに、刊行物として提出されるであろう。この研究では、短い二本鎖DNA分子のスイッチング挙動を記載する分析モデルについて詳述し、モデルパラメータを実験データと区別する。このようなモデルが確立された後、いかなる所与の標的サイズに対しても予想される時間分解信号を計算することができ、この計算の結果は、装置で取得される組み合わされる信号と比較することができる。このように、例えば、それと区別される実験データおよび有効なストークス半径が、モデルと一致するかどうかを確認することができる。したがって、分析モジュールは、標的分子の出力された特徴と共に、信頼度数値を出力してもよい。
【0038】
発明者は、プローブ分子のスイッチングの工程は、外部電場が原因のドリフトと、ブラウン運動型の効果によって統制される、確率的工程であると述べている。具体的に言うと、スイッチングダイナミクスは、プローブ分子が、時間依存外部場において、非常に現実的に、時間tに
を獲得する確率を定義する、
に基づき、記載することができると見出した。このモデルでは、標的分子のストークス半径またはサイズは、
に関する確率のドリフトおよび/または拡散で説明される。本明細書では、
は、プローブ分子の構成をパラメータ化することができる、いかなる1次元以上の座標でもあり得る。発明者は、二本鎖DNAなどの好適な強度であるプローブ分子に対して、構成は、基質に対するプローブ分子の角度αによって、十分にパラメータ化することができることを見出した。
【0039】
好ましい実施形態では、装置の分析モジュールは、組み合わされた時間分解信号を、ドリフトおよび/または拡散係数を含有する、フォッカープランク方程式の
に対する解に適合することによって、拡散係数またはドリフト係数を判定するように構成し、判定されたドリフトおよび/または拡散係数から、標的分子のサイズおよび/またはストークス半径を導出するように構成することができる。本開示を通して、「組み合わされた時間分解信号」は、上記の工程(A)および(B)で参照した通り、多数の連続スイッチングから生成される、平均時間分解信号を指すことに留意されたい。
【0040】
このむしろ単純なモデルは、スイッチングステップの背後で、既に必須の物理特性を捕捉することを可能とし、優れた制度で実験データから標的分子のサイズおよび/またはストークス半径を判定するように使用することができることが分かっている。これは下で特定の例を参照して、さらに実証される。
【0041】
好ましい実施形態では、分析モジュールは、標的分子の有効なストークス半径、サイズ、および/または分子量を評価するように構成される。上記に加えてまたは代替的に、分析モジュールはまた、標的分子の形状、特に、折り畳み状態および/または球状構造からの逸脱を評価するように構成されてもよい。球状構造からの逸脱は、例えば、球状標的分子に基づく分析モデルまたはシミュレーションデータの予測からの信号の逸脱によって、検出することができる。
【0042】
さらに、分析モジュールは、標的分子へのさらなる分子の追加を評価または検出するように構成されてもよい。
【0043】
時間分解スイッチングダイナミクスが、プローブ分子の流体環境の温度および化学環境に依存するであろうため、組み合わされた信号はまた、環境のこれらの特徴の変化を判定するように採用することもできる。反対に、標的分子の特性への、温度またはpHなどの環境の影響、例えば、タンパク質の温度によって誘発された変性もまた、判定することができる。
【0044】
好ましい実施形態では、装置の電場生成手段は、第1の極性と第2の極性との間をスイッチする方形波信号を生成するように構成される、波形発生器を含んでなる。本明細書では、第1および/または第2の極性の期間は、プローブ分子が、それぞれ第2の部分と基質との間の最大および最小距離のそれぞれの状態を獲得することができるように、十分長く選択される。これは、プローブ分子がもはや外部AC場に追随し得ない周波数での挙動によって、標的分子の特徴が明らかにされる、従来の技術の周波数応答法の正反対であることに留意されたい。また、周波数応答法では、正弦波領域がむしろ方形波より使用される。
図1の設定において、遅い方形波電位が、作用電極16に印加される一方で、この場合、2つの極性化状態の中の振幅のみが測定されるが、もちろん、これらの状態の間の上下遷移の時間分解測定は行われないことには留意されるべきである。
【0045】
好ましくは、方形波信号の第1および/または第2の極性の期間は、少なくとも1μs、好ましくは、少なくとも10μsである。
【0046】
好ましくは、制御手段を、記録された信号が組み合わされる前に、工程(A)および(B)を少なくとも10回、好ましくは、10
3から10
7回繰り返すように適応する。したがって、好ましい実施形態では、約1分のみの間に、100万の上下遷移の時間分解測定値を記録を可能とし、それゆえ、短時間で品質の優れた平均化データを取得することを可能にし、装置および方法を、研究または産業の実験室における日常的用途に対して特に魅力的にすることを可能とする。
【0047】
好ましい実施形態では、装置の検出手段は、蛍光マーカーから放射される単一光子を検出するための検出器、ならびに工程(A)および(B)の間の外部電場のスイッチングと、検出された光子との間の時間遅延または間隔を判定するための手段を含んでなる。本明細書において、制御手段はさらに、ヒストグラムの中に各時間間隔を記録するように構成される。
【0048】
この実施形態は、かなり速いスイッチング時間を考慮して、上または下への遷移ごとに、1つより多いまたは数個の光子を登録する確率はあまり高くないという観察に基づき、それゆえ、単一光子に基づく時間分解測定を可能にする。1つの遷移中に1つより多い光子があるとしても、光子は、単一のトリガーの後、複数の光子事象を測定することを可能にする、好適な回路で個々に検出することができる。この点における唯一の制限は、いわゆる回路の不感時間、すなわち、光子事象が検出された後の、回路の不活性の期間である。何千またはさらに何百万の上下遷移を測定することができるため、その結果生じるヒストグラムはなおも、時間分解遷移ダイナミクスを確実に反映するのに十分な事象を記録するであろう。
【0049】
好ましい実施形態では、検出手段は、ランプ波発生器に電圧の増大を開始させる第1のトリガー信号として、工程(A)および(B)の間の電場のスイッチングを受信するようになど、電場生成手段と作動的に連結する、ランプ波発生器を含んでなってもよい。ランプ波発生器はまた、電圧の増大を停止する第2のトリガーとして、光子の検出を受信するようになど、検出器と動作可能に連結され、増大した電圧は、2つのトリガー間の時間差と少なくともほぼ比例する。
【0050】
このような設定は、概して、蛍光測定において適用される、いわゆる時間相関単一光子計数法(TCSPC)で知られ、第1のトリガーは、励起レーザーパルスであろうし、第2のトリガーは、典型的には、蛍光光子の受信であろうし、励起と蛍光との間の時間遅延は、およそ数nsのみであろうことに留意されたい。しかしながら、発明者は、TCSPC概念はまた、本発明の表面ベースの分子ダイナミクス測定において、非常に有利に適用することができることも確認した。特に、DNAのみに対する、すなわち、捕捉プローブなし、または標的分子の結合なしでの、発明者のより早期の時間分解測定は、このような時間分解測定値が、日常の迅速な測定に対して実現可能であろうと示唆していなかった一方で、実際には、このTCSPC技術を採用することで、非常に強固で信頼性の高い実装、および短い分析時間を可能にする。
【0051】
代替の実施形態では、検出手段は、基質からプローブ分子の第2の部分の距離を示している、アナログ信号を増幅するための増幅器を含んでなってもよい。信号が蛍光マーカーの蛍光信号である場合、増幅器は、フォトセンサの信号を増幅する増幅器であり得る。さらに、装置は、増幅された時間依存信号を記録および記憶するための手段、特に、デジタル記憶オシロスコープ(DSO)型デバイスを含んでなってもよい。記録および記憶手段は、工程(A)および(B)の間の外部場のスイッチングによって、時間依存信号を記録するようトリガーされるように、電場生成手段と作動的に連結し、記録および記憶手段は平均時間分解信号を生成するよう、時間依存信号を組み合わせるように構成される。
【0052】
発明者は、TCSPC法の代替として、デジタル記憶オシロスコープ(DSO)型デバイスを使用して、時間分解信号を一連のアナログ測定値において測定することができることを確認した。用語「DSO型デバイス」は、もちろん、DSOの表示機能を必要としないにせよ、原則として普通のDSOを使用し得ることを意味する。代わりに、トリガーされて時間依存信号を記録するDSOの能力、およびその記録が、必要とされる全てである。
【0053】
その後、記録される個々の信号は、組み合わされた平均信号を与えるように合計される。その上、何千または何百万の信号を重ねることによって、意味ある分析のための十分な品質の組み合わされた信号を取得することができる。アナログ検出法はまた、頑強な設定および短い検出時間も可能にする。
【0054】
前に述べた通り、第2の態様に従い、プローブ分子に結合する標的分子の1つ以上の特徴を評価するための方法が提供される。上記の代替としてまたは上記に加えて、本発明の装置は、同封した方法クレームのいずれかに係る方法を実行するための手段を含んでもよい。
【0055】
上に記載した装置および方法は、具体的には、分子スイッチングダイナミクスのような時間分解測定のために考案される一方、以下のパラメータ、すなわち、標的分子とプローブ分子との間の結合速度および/または解離速度、親和性定数および解離定数のうちの1つ以上を、異なる時間に、および/または異なる濃度の標的分子で、取得される複数の組み合わされた信号から判定することも可能である。これらの測定値において、スイッチングダイナミクスを示しているパラメータは、短時間間隔(例えば、1秒)で継続的にサンプリングされ、経時的にモニタリングされてもよい。このような「スイッチングダイナミクス」パラメータに対する例は、時間分解曲線下の統合エリア(
図8および9参照)、または時間分解曲線からの「起立」プロセスの時間導関数の実時間計算である。経時的なこれらのスイッチングダイナミクスパラメータの変化は、実時間におけるプローブ層の標的分子の結合/非結合を示している。データは、二分子系の結合反応速度を記載する、標準モデルで分析することができる。会合/解離速度定数および親和性定数は、このような分析から推測することができる。
【0056】
本発明のさらなる態様に従い、標的分子の電荷は、静的外部場上の基質からプローブ分子の第2の部分の距離を示している、信号の依存度の測定および分析に基づき判定することができる。静的外部場上の信号の依存度は、本明細書では「電圧応答」と称す。下で実証する通り、電圧応答は、プローブ分子に結合する標的分子の電荷を判定する、非常に鋭敏なツールである。「電圧応答」法の提案は、上に記載するプロセスの確率的性質のより良い理解に影響を受けている。特に、標的分子の電荷に応じて、電圧応答曲線は、遊離プローブ分子のみの電圧応答曲線から、特徴的な形で逸脱するであろう。したがって、標的分子が遊離プローブ分子のみの電圧応答曲線から結合される時の、電圧応答曲線の逸脱を観察することによって、標的の電荷の極性およびサイズまでも判定することができる。
【0057】
言うまでもなく、「電圧応答法」という手段を用いた標的の電荷の独立評価は、上に記載する時間分解データを経験に基づいた分析をする助けとなるであろう、非常に重要な追加情報を生じる。本発明のこの態様は、時間分解測定値に依存せず、したがって、上に記載する通り、スイッチングダイナミクスの時間分解測定から独立して、採用することができることに留意されたい。したがって、この態様はまた、上記の
図2を参照して説明してきた通り、スイッチングダイナミクスの周波数応答の分析に基づく方式を含む、先行技術のswitchSENSE方式と組み合わせることもできる。
【0058】
その結果として、本発明のさらなる態様に従い、標的分子の電荷を判定することを可能にする装置が提供され、装置は、バイオチップを受容する手段であって、バイオチップは、プローブ分子が、その第1の部分を伴い付着する基質を含んでなり、プローブ分子は電荷を持ち、基質からプローブ分子の第2の部分の距離を示している、信号を生成することを可能にするためのマーカーを有し、プローブ分子は、標的分子を結合するように適応する手段と、マーカーで生成される信号を検出するための手段と、バイオチップが受容手段において受容される時、プローブ分子が曝露される、外部電場を生成するための手段と、異なる場強度で一連の静的外部場を印加するよう、電場生成手段を制御するように構成される制御手段であって、外部場の強度、または言い換えると電圧応答曲線の関数として、基質からの距離を示している信号を記録するよう、信号検出手段を制御するようにさらに構成される、制御手段と、記録された信号を分析し、それに基づき標的分子の電荷を判定する分析モジュールとを含んでなる。本明細書では、前に述べた通り、分析は、測定された電圧応答曲線を、遊離プローブ分子、すなわち、そこに結合する標的分子なしの電圧応答曲線と比較する工程を含んでなってもよい。このさらなる態様はまた、電圧応答曲線に基づき標的分子の電荷を判定する、対応する方法に関する。
【0059】
しかしながら、時間分解測定を実行するために適応する、上記装置は、概して、電圧応答曲線を記録するのに欠かせない全ての必要条件を有する。したがって、好ましい実施形態では、電圧応答曲線は、スイッチングダイナミクスの時間分解測定に加えて記録され、電圧応答曲線の結果、すなわち、標的分子の電荷に関する情報は、組み合わされた時間分解スイッチング信号の分析において説明することができる。
【0060】
上記の機能性に基づき、本発明の装置および方法は、非常に強力な分析手段を提供する。特に、装置および方法は、以下のうちの1つ以上を判定することを可能にする。
― 試料の中のある標的分子の存在、
― 試料の中の標的分子の濃度、
― 所与の標的分子によって占有される、プローブ分子の画分、または
― 同じプローブ分子の捕獲部に結合することができる、異なる標的分子の化学量論比、もしくは異なる構成における同じ標的分子の化学量論比
【0061】
本明細書では、用語「標的分子」(単数)は、標的分子の種を指す。常に同種の複数の標的分子が検出されるであろうことは理解されるものとする。
【0062】
例えば、1つの目的の標的分子のみが、試料の中に存在する場合、組み合わされた信号は、少なくとも標的の電荷およびストークス半径を示している、特徴的な形状を有するであろう。組み合わされた信号を、目的の標的に対する所定の信号と比較することによって、試料の中のある標的分子の存在を特定することができる。
【0063】
いくつかの例では、特に、低濃度の標的分子に対して、プローブ分子の画分のみが、所与の標的分子によって占有されるであろう。この場合、遊離プローブ分子および占有されたプローブ分子の両方が、組み合わされた信号を増すであろう。信号への寄与は直線的に増えるため、全体の信号は、遊離プローブ分子の信号、および占有されたプローブ分子の信号の重ね合わせであろうし、重ね合わせ係数(the coefficients of the superposition)は、標的分子によって占有された、プローブ分子の画分に依存するであろう。例えば、占有されたプローブ分子の画分が70%であった場合、重ね合わせ部において、占有されたプローブ分子に対する信号の係数は0.7であろうし、遊離プローブ分子に対する信号の係数は0.3であろう。実際は、ある組み合わされた信号が測定される時、対応する重ね合わせ係数は、重合測定された組み合わされた信号と最も一致するような、適合工程によって判定することができる。このように、占有されたプローブ分子の画分を判定することができる。占有されたプローブ分子の画分は、標的分子の濃度に関係するため、それぞれの標的分子の濃度の尺度として使用することができる。
【0064】
また、同じ原理および思考の道筋は、同じプローブ分子の捕捉部に結合することができる、異なる標的分子の化学量論比、または異なる構成における同じ標的分子の化学量論比を判定するために適用することもできる。本明細書では、例えば、異なる構成は、下でより詳細に説明する通り、異なるストークス半径、したがって、異なるスイッチングダイナミクスにつながるであろう、タンパク質の異なる折り畳み状態であり得る。
【0065】
異なる標的分子が、プローブ分子の同じ受容体または捕捉部に結合するため、別の方法で、化学量論比を区別し得る、親和選択性がないことには留意されたい。しかしながら、異なる標的分子に対する、または同じ標的分子の異なる構成に対する時間分解信号が既知である場合はさらに、測定された組み合わされた信号に適合する、対応する信号の重ね合わせ係数を判定することができる。本明細書では、「重ね合わせ係数」は、直接的に化学量論比を反映する。