(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886356
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】エンジンシステム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 19/12 20060101AFI20160303BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20160303BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20160303BHJP
F02D 41/02 20060101ALI20160303BHJP
F02D 41/40 20060101ALI20160303BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
F02D19/12 A
F02D21/08 301C
F02D41/04 385C
F02D41/02 380B
F02D41/40 C
F02D43/00 301J
F02D43/00 301N
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-83670(P2014-83670)
(22)【出願日】2014年4月15日
(65)【公開番号】特開2015-203371(P2015-203371A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2015年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東田 正憲
(72)【発明者】
【氏名】大西 郁美
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 克浩
(72)【発明者】
【氏名】細野 隆道
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大
(72)【発明者】
【氏名】秋山 隼太
(72)【発明者】
【氏名】野上 哲男
【審査官】
藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−156312(JP,A)
【文献】
特開平05−231247(JP,A)
【文献】
特開昭63−173826(JP,A)
【文献】
特開2004−060539(JP,A)
【文献】
特表2012−518748(JP,A)
【文献】
特開2004−068678(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/092887(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/12
F02D 21/08
F02D 41/00 〜 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒及び燃料噴射弁を有するエンジン本体と、
水エマルジョン燃料を生成して前記燃料噴射弁に供給する燃料供給ユニットと、
EGRガスを前記エンジン本体に供給するEGRユニットと、
実用エンジン負荷の全領域において前記水エマルジョン燃料を使用するよう制御するとともに、前記エンジン本体から排出されるNOxの排出量が所定値以下となるように前記EGRガスの流量を制御するよう構成されている制御装置と、を備え、
前記制御装置は、実用エンジン負荷の全領域において、前記水エマルジョン燃料の水添加率を一定に維持するように構成されている、エンジンシステム。
【請求項2】
気筒及び燃料噴射弁を有するエンジン本体と、
水エマルジョン燃料を生成して前記燃料噴射弁に供給する燃料供給ユニットと、
EGRガスを前記エンジン本体に供給するEGRユニットと、
実用エンジン負荷の全領域において前記水エマルジョン燃料を使用するよう制御するとともに、前記エンジン本体から排出されるNOxの排出量が所定値以下となるように前記EGRガスの流量を制御するよう構成されている制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記水エマルジョン燃料の1サイクルあたりの噴射量が増えるに従って1サイクルあたりの噴射時間を長くするとともに、前記水エマルジョン燃料の1サイクルあたりの噴射量にかかわらず前記気筒内の最大圧力が所定の目標値を維持できるよう前記水エマルジョン燃料の噴射時期を早めるように構成されている、エンジンシステム。
【請求項3】
前記制御装置は、実用エンジン負荷の全領域において、前記水エマルジョン燃料の水添加率を一定に維持するように構成されている、請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記水添加率及び前記EGR率のうちの一方又は両方に応じて、前記噴射開始時期を決定するように構成されている、請求項2又は3に記載のエンジンシステム。
【請求項5】
気筒及び燃料噴射弁を有するエンジン本体と、
水エマルジョン燃料を生成して前記燃料噴射弁に供給する燃料供給ユニットと、
EGRガスを前記エンジン本体に供給するEGRユニットと、を備えたエンジンシステムの制御方法であって、
実用エンジン負荷の全領域において前記水エマルジョン燃料を使用するとともに、前記エンジン本体から排出されるNOxの排出量が所定値以下となるように前記EGRガスの流量を制御し、
実用エンジン負荷の全領域において、前記水エマルジョン燃料の水添加率を一定に維持する、制御方法。
【請求項6】
気筒及び燃料噴射弁を有するエンジン本体と、
水エマルジョン燃料を生成して前記燃料噴射弁に供給する燃料供給ユニットと、
EGRガスを前記エンジン本体に供給するEGRユニットと、を備えたエンジンシステムの制御方法であって、
実用エンジン負荷の全領域において前記水エマルジョン燃料を使用するとともに、前記エンジン本体から排出されるNOxの排出量が所定値以下となるように前記EGRガスの流量を制御し、
前記水エマルジョン燃料の1サイクルあたりの噴射量が増えるに従って1サイクルあたりの噴射時間を長くするとともに、前記水エマルジョン燃料の1サイクルあたりの噴射量にかかわらず前記気筒内の最大圧力が所定の目標値を維持できるよう前記水エマルジョン燃料の噴射開始時期を早める、制御方法。
【請求項7】
実用エンジン負荷の全領域において、前記水エマルジョン燃料の水添加率を一定に維持する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記水添加率及び前記EGR率のうちの一方又は両方に基づいて、前記噴射開始時期を決定する、請求項6又は7に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの窒素酸化物(NOx)の排出量を低減させるために、水エマルジョン燃料を使用したり、排気ガスの一部をエンジンに戻す排気再循環(EGR;Exhaust Gas Recirculation)を行うエンジンシステムに関する。また、このエンジンシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンからのNOxの排出量を低減させる方法の1つとして、排気ガスの一部をエンジンに戻すEGRがある。排気ガスの一部をエンジンに戻すことにより、酸素濃度が低い状態で燃焼が行われ、その結果、燃焼温度が低下してNOxの生成が抑制される。ただし、EGRを行う場合、EGR率(掃気ガスにおけるEGRガスの割合)を大きくすることで十分なNOx低減効果を得ることができるものの、条件によっては燃費が悪化したり、排気ガスに含まれるすすの量が増加したりするなどの問題がある。
【0003】
一方、エンジンから排出されるNOxの量を低減させる他の方法として、純燃料(水が添加されていない燃料)に水を添加した水エマルジョン燃料を使用する方法がある。水エマルジョン燃料を使用することにより、水の気化熱によって燃焼温度が低下し、NOxの生成を抑制することができる。また、水エマルジョン燃料内の水が気化・蒸発すると、水粒子を取り囲んでいた純燃料が飛散し、飛散した純燃料は径の小さい粒子となる。これにより、水エマルジョン燃料内の純燃料は体積あたりの表面積、すなわち酸素と接する面積が大きくなり、局部的な不完全燃焼が少なくなる。その結果、燃焼効率が高まって、すすの発生量が抑えられる。このように、水エマルジョン燃料を使用する場合、NOx低減効果は大きくはないものの排気ガスに含まれるすすの量が抑えられる。また、ある程度の水添加率までは燃費がほとんど悪化しないという利点もある。
【0004】
下記の特許文献1に記載のエンジンでは、EGRガスの流量を一定とする制御を行っており、掃気ガスの流量の減少に伴ってEGR率が増加すると、純燃料から水エマルジョン燃料へと燃料を切り替えている(
図1及び
図2参照)。これにより、特許文献1に記載のエンジンは、EGR率が高いとき、具体的にはエンジン負荷が75%よりも低いときにおける、すすの過剰な発生を回避しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−518748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、特許文献1に記載のエンジンは、燃料を切り替えることができるように、複数の燃料系統を設けている(
図1及び
図2参照)。そのため、特許文献1に記載のエンジンは、複雑な構造となっている。
【0007】
なお、特許文献1では、エンジンに供給する純燃料と水の割合を変更して、水エマルジョン燃料の水添加率を瞬時に変更する構成も提案されているが(
図3及び
図4参照)、このような構成は、純燃料と水を均一に混合することは難しく、実用上問題がある。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものである。水エマルジョン燃料を使いつつ、EGR制御を行うに当たり、それぞれの特性が相殺しない範囲でエンジンの運転状況の変化に対して、燃費の悪化とすすの発生を抑制しながらNOxの生成量を安定的に低減することができ、しかもこれを簡易な構造で実現できるエンジンシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある形態に係るエンジンシステムは、気筒及び燃料噴射弁を有するエンジン本体と、水エマルジョン燃料を生成して前記燃料噴射弁に供給する燃料供給ユニットと、EGRガスを前記エンジン本体に供給するEGRユニットと、実用エンジン負荷の全領域において前記水エマルジョン燃料を使用するよう制御するとともに、前記エンジン本体から排出されるNOxの排出量が所定値以下となるように前記EGRガスの流量を制御するよう構成されている制御装置と、を備えている。
【0010】
ここで、「実用エンジン負荷」とは、エンジン始動時などの低いエンジン負荷を除いた範囲のエンジン負荷、すなわち通常の運用で使用する範囲のエンジン負荷をいい、最大エンジン負荷の25〜100%がこれに相当する。上記の構成によれば、実用エンジン負荷の全領域において純燃料と水エマルジョン燃料の切り換えが行われることは基本的にない。そのため、上記のエンジンシステムによれば、燃料を瞬時に切り換えるために必要な機構が不要となり、構造を簡略化することができる。しかも、水エマルジョン燃料を使用することで燃費の悪化とすすの発生を抑えることができるとともに、エンジン負荷に応じたEGRガスをエンジンに供給することでNOxの生成量を低減することができる。なお、水エマルジョン燃料の水添加率を変更することによりNOxの生成量を調整することも可能であるが、純燃料と水を均一に混合させつつ水添加率を瞬時に変更することは非常に難しい。一方、EGRガスの流量はEGRブロワの回転数制御によって速やかに変更することができる。よって、上記の構成によれば、状況が急激に変化したとしても、EGRガスの流量を制御することでNOx生成量の抑制を維持することができる。
【0011】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記制御装置は、実用エンジン負荷の全領域において、前記水エマルジョン燃料の水添加率を一定に維持するように構成されていてもよい。かかる構成によれば、実用エンジン負荷の全領域において、水添加率が一定に維持されるため、すすの発生を安定して抑えることができる。この条件とすれば、水添加率の制御も容易である。
【0012】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記制御装置は、前記水エマルジョン燃料の1サイクルあたりの噴射量が増えるに従って1サイクルあたりの噴射時間を長くするように構成されていてもよい。かかる構成によれば、1サイクルあたりの噴射量が大きく変動したとしても、単位時間あたりの噴射量は大きく変動しない。そのため、1サイクルあたりの噴射量の変動がある程度大きくとも、同じ燃料噴射弁で水エマルジョン燃料の噴射が可能である。
【0013】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記制御装置は、前記1サイクルあたりの噴射時間を長くするとき、前記気筒内の最大圧力が所定の上限値を越えない範囲において、前記水エマルジョン燃料の噴射開始時期を早めるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、噴射時間が長くなることに起因する最大筒内圧の低下を抑えることができ、エンジンを効率よく運転することができる。
【0014】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記制御装置は、前記水添加率及び前記EGR率のうちの一方又は両方に応じて、前記噴射開始時期を決定するように構成されていてもよい。かかる構成によれば、水添加率及びEGR率に応じて適切な噴射開始時期を決定できるため、エンジンの効率のよい運転状態に素早く移行することができる。
【0015】
本発明のある形態に係る制御方法は、気筒及び燃料噴射弁を有するエンジン本体と、水エマルジョン燃料を生成して前記燃料噴射弁に供給する燃料供給ユニットと、EGRガスを前記エンジン本体に供給するEGRユニットと、を備えたエンジンシステムの制御方法であって、実用エンジン負荷の全領域において前記水エマルジョン燃料を使用するとともに、前記エンジン本体から排出されるNOxの排出量が所定値以下となるように前記EGRガスの流量を制御する。
【0016】
また、上記の制御方法において、実用エンジン負荷の全領域において、前記水エマルジョン燃料の水添加率を一定に維持してもよい。
【0017】
また、上記の制御方法において、前記水エマルジョン燃料の1サイクルあたりの噴射量が増えるに従って1サイクルあたりの噴射時間を長くしてもよい。
【0018】
また、上記の制御方法において、前記1サイクルあたりの噴射時間を長くするとき、前記気筒内の最大圧力が所定の上限値を越えない範囲において、前記水エマルジョン燃料の噴射開始時期を早めてもよい。
【0019】
また、上記の制御方法において、前記水添加率及び前記EGR率のうちの一方又は両方に応じて、前記噴射開始時期を決定してもよい。
【発明の効果】
【0020】
以上のとおり、上記のエンジンシステムによれば、水エマルジョン燃料を使用するとともにEGRを行うことにより、燃費の悪化とすすの発生を抑制しながらNOxの生成量を低減することができ、しかもこれを簡易な構造で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態に係るエンジンシステム全体の概略図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るエンジンシステムの制御系のブロック図である
【
図3】
図3は、エンジン負荷と目標水添加率及び目標EGR率との関係を示した図である。
【
図4】
図4は、
図3における目標水添加率を下げた場合のエンジン負荷と目標EGR率との関係を示した図である。
【
図5】
図5は、燃料噴射制御のフローチャートである。
【
図6】
図6は、クランク角度と筒内圧との関係を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0023】
<エンジンシステムの全体構成>
まず、本実施形態に係るエンジンシステム100の全体構成について説明する。
図1は、エンジンシステム100のブロック図である。
図1に示すように、エンジンシステム100は、エンジン本体10と、過給機20と、EGRユニット30と、燃料供給ユニット40と、を備えている。
【0024】
本実施形態におけるエンジン本体10は、船舶の推進用主機であり、大型の2ストロークディーゼルエンジンである。エンジン本体10は、複数の気筒11(
図1では1つのみ図示)を有している。各気筒11には、下方部分に掃気口12が形成され、上方部分には排気口13が形成されている。また、各気筒11には、ピストン14、燃料噴射弁15、及び排気弁16が設けられている。ピストン14は、掃気口12を横切るようにして気筒11内を摺動し、下端部分がクランク軸(図示せず)に連結されている。燃料噴射弁15は、気筒11の上方部分に位置しており、燃料供給ユニット40から燃料が供給される。また、気筒11には気筒11内の圧力(筒内圧)を測定する筒内圧センサ17が設けられており、エンジン本体10には、エンジン本体10の回転数(エンジン回転数)を測定するエンジン回転計18(
図2参照)が設けられている。なお、エンジン本体10は、4ストロークエンジンであってもよく、ガスエンジンやガソリンエンジンであってもよい。
【0025】
過給機20は、空気を昇圧してエンジン本体10に供給する装置である。各気筒11で生成された排気ガスは排気口13、排気管24、及び排気流路25を介して過給機20のタービン部21に供給される。タービン部21は供給された排気ガスのエネルギにより回転する。タービン部21とコンプレッサ部22は連結シャフト23により連結されており、タービン部21の回転に伴ってコンプレッサ部22も回転する。コンプレッサ部22が回転すると、外部から取り込んだ空気(新気)が昇圧され、昇圧された新気は掃気流路26、掃気管27、及び掃気口12を介して各気筒11内に供給される。
【0026】
EGRユニット30は、排気流路25と掃気流路26をつなぐEGR流路28に設けられており、排気流路25の排気ガスの一部を抽出し(以下、排気流路25から抽出した排気ガスを「EGRガス」と称す)、そのEGRガスを掃気流路26へ供給するユニットである。掃気流路26へ供給されたEGRガスは、過給機20で昇圧された新気と混合され、掃気ガスとしてエンジン本体10(各気筒11)へ供給される。これにより、各気筒11に供給される掃気ガスの酸素濃度が低下し、エンジン本体10から排出されるNOxの排出量を低減することができる。EGRユニット30は、EGRガスを洗浄するスクラバ31、EGRガスを冷却する冷却装置32、EGRガスを昇圧し掃気流路26へ供給するEGRブロワ33を備えている。EGRブロワ33の回転数を調整することにより、EGRガスの流量、ひいてはEGR率を変更することができる。ただし、EGRガスの流量(ひいてはEGR率)の変更は、EGR流路28内に設けられた流量調整弁(不図示)で行っても良い。
【0027】
燃料供給ユニット40は、水エマルジョン燃料を生成して燃料噴射弁15へ供給するユニットである。燃料供給ユニット40は、燃料生成部41と、燃料供給部42とを有している。燃料生成部41は、混合容器43に投入した純燃料と水をミキサー等で混合し、所定の水添加率の水エマルジョン燃料を生成する部分である。純燃料と水を同時に燃料噴射弁15に供給するような構造では(特許文献1の
図3及び
図4参照)、純燃料と水を均一に混合するのは困難であるが、本実施形態では純燃料と水を均一に混合することができる。なお、実際の水添加率は、投入された純燃料と水の割合に基づいて算出することができる。燃料供給部42は、燃料生成部41で生成した水エマルジョン燃料をエンジン本体10の燃料噴射弁15に供給する部分である。燃料供給部42は、燃料噴射弁15から噴射する水エマルジョン燃料の噴射時間及び噴射開始時期を変更することができる。
【0028】
<制御系の構成>
次に、エンジンシステム100の制御系の構成について説明する。
図2は、エンジンシステム100の制御系のブロック図である。
図2に示すように、エンジンシステム100は、エンジンシステム100全体を制御する制御装置50を備えている。制御装置50は、例えばCPU、ROM、RAM等によって構成されている。
【0029】
制御装置50は、筒内圧センサ17、エンジン回転計18、及び入力設定部51と電気的に接続されている。制御装置50は、これらの機器から送信される信号に基づいて筒内圧、エンジン回転数、及び設定水添加率を取得する。なお、入力設定部51は、エンジンシステム100が搭載されている船体の運転室に設けられている。また、入力設定部51は、運転者によって設定水添加率を入力することができ、入力された設定水添加率を保存することができるように構成されている。
【0030】
制御装置50は、上記の各機器からの入力信号に基づいて種々の演算を行い、エンジンシステム100の各部を制御する。本実施形態では、制御装置50は、EGRブロワ33、燃料生成部41、及び燃料供給部42と電気的に接続されており、各種の演算等の結果に基づいて、これらの機器へ制御信号を送信する。なお、制御装置50は、燃料生成部41に制御信号を送信するだけでなく、燃料生成部41から送信される信号に基づいて実際の水添加率を取得することができる。ただし、実際の水添加率は、燃料生成部41の混合容器43から噴射弁15までの流路に水添加率を測定するセンサを設け、そのセンサから送信される信号に基づいて取得してもよい。
【0031】
制御装置50は、機能的な構成として、水添加率制御部52と、EGR率制御部53と、燃料噴射制御部54とを有している。
【0032】
水添加率制御部52は、水エマルジョン燃料の水添加率を制御する部分である。水添加率制御部52は、まず、運転者に入力された設定水添加率に基づいて目標水添加率を設定する。本実施形態では、
図3の破線で示すように目標水添加率を設定する。具体的には、エンジン負荷が0〜15%のとき目標水添加率を0%とし、エンジン負荷が15〜100%のとき目標水添加率を上記の設定水添加率とする。そして、水添加率制御部52は、燃料生成部41に制御信号を送信し、実際の水添加率が目標添加率となるように制御する。
【0033】
このように、本実施形態では、実用エンジン負荷の全量領域(エンジン負荷が25〜100%)において純燃料は使用せず、水エマルジョン燃料のみを使用している。しかも、実用エンジン負荷領域では、水添加率は一定である。よって、本実施形態によれば、純燃料と水エマルジョン燃料を瞬時に切り替える機構、及び水添加率を瞬時に変えるような機構は不要である。また、前述した特許文献1では、純燃料用と水エマルジョン燃料を切り替えるときは使用する燃料噴射弁も切り替わるが、本実施形態によれば、燃料噴射弁を切り替えるような機構も不要である。このように本実施形態によれば、エンジンシステム100の構成を簡略化することができる。
【0034】
EGR率制御部53は、EGRガスの流量を調整してEGR率を制御する部分である。EGR率制御部53は、まず、目標EGR率を設定する。本実施形態では、
図3の実線で示すように、エンジン負荷が0〜15%のとき目標EGR率を0%に設定し、エンジン負荷が15〜100%のときエンジン負荷が大きくなるに従って目標EGR率を小さくなるように設定する。目標EGR率は、予め行った試験により導き出された値であって、NOx排出量規制をクリアできるEGR率、つまりNOxの排出量が所定値以下となるEGR率である。この目標EGR率は、EGR率制御部53に記憶されている。
【0035】
図4は、
図3における目標水添加率を下げた場合のエンジン負荷と目標EGR率との関係を示した図である。
図4における2つの点線は、それぞれ
図3における目標水添加率と目標EGR率に相当するものである。
図4に示すように、設定水添加率が下げられて、エンジン負荷が15%以上のときの目標水添加率を下げたとする。そうすると、エンジン負荷が15%以上のときの目標EGR率を高くする。これは、水添加率が小さくなると、水エマルジョン燃料の使用によるNOxの排出低減効果が低下することから、NOx排出量規制をクリアするためにEGR率を増加させる必要があるからである。
【0036】
続いて、EGR率制御部53は、EGRブロワ33に制御信号を送信し、実際のEGR率がそのときのエンジン負荷(本実施形態では、エンジン回転数及び燃料噴射量に基づいてエンジン負荷を算出するが別の方法で算出してもよい。例えば、過給機20の回転数から算出してもよく、筒内圧によって求められる図示仕事から算出してもよい。また、軸馬力計を用いてエンジン負荷を直接計測することも可能である。)に応じた目標EGR率となるように、EGRガス流量を調整する。これにより、NOxの排出規制をクリアすることができる。本実施形態では、EGRガス流量の調整は、EGRブロワ33の回転数を制御することで行っている。ただし、EGRガス流量の調整は、流量制御弁で制御する方式など他の方式で行ってもよい。いずれの方式であっても、EGRガス流量の調整は容易であり、状況変化に対するEGRガス流量の変化の応答性は非常に高い。
【0037】
燃料噴射制御部54は、水エマルジョン燃料の燃料噴射(噴射量、噴射時間、及び噴射開始時期)を制御する部分である。
図5は、水エマルジョン燃料の燃料噴射制御の方法を示したフローチャートである。以下で説明する演算及び制御は、燃料噴射制御部54によって遂行される。
【0038】
まず、処理が開始されると、燃料噴射制御部54は、筒内圧センサ17、エンジン回転計18、及び燃料生成部41などから送信される信号を読み込み、これらの信号に基づいて筒内圧、エンジン回転数、及び水添加率などの各種情報を取得する(ステップS1)。
【0039】
続いて、燃料噴射制御部54は、1サイクルあたりに噴射する水エマルジョン燃料の噴射量を決定する(ステップS2)。本実施形態では、エンジン回転数が一定の回転数(100%回転数)を維持できるように噴射量を決定する。ただし、噴射量が同じであっても、水添加率が異なれば熱量が異なり、EGR率が異なれば燃焼効率が異なる。そのため、例えば、水添加率やEGR率が高くなったときには噴射量を増加する。
【0040】
続いて、燃料噴射制御部54は、1サイクルあたりに噴射する水エマルジョン燃料の噴射時間を決定する(ステップS3)。本実施形態では、1サイクルあたりの燃料噴射量が大きくなるに従って、噴射時間を長くする。これにより、1サイクルあたりの噴射量が増えたとしても、単位時間当たりの噴射量は増加しない。よって、1サイクルあたりの噴射量がある程度大きく変動しても、同じ燃料噴射弁15を用いて正常な噴射が可能である。
【0041】
続いて、燃料噴射制御部54は、噴射時間に変更があったか否かを判定する(ステップS4)。後述するように、各ステップは繰り返して行われるが、ステップS3で決定した噴射時間が、1つ前のサイクル時において設定した噴射時間から変更があったか否かを判定する。燃料噴射制御部54は、噴射時間に変更があったと判定した場合には(ステップS4でYES)、ステップS5へ進む。一方、噴射時間に変更がなかったと判定した場合には(ステップS4でNO)、ステップS6へ進む。
【0042】
続いて、ステップS5へ進んだ場合、燃料噴射制御部54は噴射開始時期(噴射を開始するクランク角度)を決定する。具体的には、水添加率、EGR率、及びエンジン負荷に基づいて、予め記憶しているマップデータから読み取った値を噴射開始時期とする。なお、本実施形態では、水添加率、EGR率、及びエンジン負荷に基づいて噴射開始時期を決定しているが、水添加率、EGR率、及びエンジン負荷に対応するパラメータによって噴射開始時期を決定してもよい。例えば、EGR率に代えて、掃気管27内の酸素濃度の値を用いてもよい。
【0043】
図6は、クランク角度と筒内圧の関係を示した概念図である。図中の実線は純燃料を使用した場合を示しており、破線は水エマルジョン燃料を使用した場合を示しており、点線は水エマルジョンを使用して噴射開始時期を早めた場合を示している。
【0044】
燃料として純燃料を使用した場合、
図6の実線で示すように、ピストン14が上昇して上死点(クランク角度=0°)に達したときに筒内圧が1つ目のピークを迎える。このとき燃料の噴射を開始すると、筒内圧は一旦下降した後、燃焼により再び上昇して2つ目のピークを迎える。この2つ目のピークにおける筒内圧が最大筒内圧(Pmax)である。この最大筒内圧は、燃料の噴射開始時期を変動させることで調整が可能である。最大筒内圧が高いほどエンジンの効率は高くなるが、筒内圧が高くなりすぎると気筒11が破損するおそれがある。そのため、通常は、最大筒内圧が所定の目標値となるように(上限値を越えない範囲での最大値となるように)噴射開始時期が決定される。なお、燃料噴射制御部54は、最大筒内圧が上限値を越えるおそれがある場合に噴射開始時期を修正する制御を行ってもよい。
【0045】
一方、燃料として水エマルジョン燃料を使用し、純燃料の場合と同じようにクランク角が0°のときに燃料の噴射を開始したとする。そうすると、水エマルジョン燃料は体積あたりの熱量が純燃料より小さく、比較的長い期間噴射することになるため、
図6の破線で示すように、筒内圧の2つ目のピークに向うカーブが緩やかになる。その結果、最大筒内圧は所定の目標値よりも低くなる。
【0046】
これに対し、燃料として水エマルジョン燃料を使用するが、純燃料の場合よりも噴射開始時期を早めたとする。そうすると、
図6の点線で示すように、筒内圧の2つ目のピークに向かうカーブの立ち上がりが早く始まり、その結果、最大筒内圧を所定の目標値又はこれに近い値とすることができる。つまり、1サイクルあたりの噴射時間が長くなるに従って噴射開始時期を早くすることで、最大筒内圧を所定の目標値又はこれに近い値とすることができる。
【0047】
本実施形態では、予め行った試験により、水添加率、EGR率、及びエンジン負荷毎に最大筒内圧が所定の目標値又はこれに近い値になるような噴射開始時期を算出し、その噴射開始時期をマップデータとして記憶している。よって、ステップS5で決定した噴射開始時期で水エマルジョン燃料の噴射を開始すると、最大筒内圧が所定の目標値又はこれに近い値となる。
【0048】
一方、ステップS6へ進んだ場合、燃料噴射制御部54は噴射開始時期を補正する。具体的には、燃料噴射制御部54は、実際の最大筒内圧と所定の目標値との差が小さくなるように、噴射開始時期を補正する。このように、本実施形態では、噴射時間が変更になった直後は初期値となる噴射開始時期を水添加率及びEGR率に基づいて決定し(ステップS5)、その後は実際の最大筒内圧に基づいて噴射開始時期を補正している(ステップS6)。つまり、本実施形態では、フィードフォワード制御と、フィードバック制御を組み合わせた制御を行っている。
【0049】
続いて、ステップS5又はS6を経た後は、燃料噴射制御部54は、燃料供給部42に制御信号を送信し、決定した噴射量、噴射時間、及び噴射開始時期で水エマルジョン燃料を噴射させる(ステップS7)。燃料噴射制御部54は、ステップS7が終わると、ステップS1に戻ってステップS1〜S7を繰り返し行う。本実施形態では、以上のような燃料噴射制御を行うため、適正な噴射開始時期に水エマルジョン燃料が噴射されるため、エンジン本体10を効率よく運転することができる。
【0050】
以上が、本発明に係る実施形態の説明である。以上では、燃料の噴射開始時期を決定する際に、フィードバック制御とフィードフォワード制御を組み合わせる場合について説明したが、フィードフォワード制御に相当する部分の制御のみで燃料の噴射開始時期を決定してもよい。つまり、筒内圧センサ17を気筒11に設けずに、水添加率、EGR率、及びエンジン負荷に基づいて噴射開始時期を決定し、その噴射開始時期を維持するようにしてもよい。
【0051】
また、以上では、実用エンジン負荷の全領域において水エマルジョン燃料の水添加率が一定である場合について説明したが、水添加率は緩やかに変化してもよい。そのようなエンジンシステムであっても、簡易な構造で燃費の悪化とすすの発生を抑制しながらNOxの生成量を低減することができるという作用効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るエンジンシステムによれば、水エマルジョン燃料を使用するとともにEGRを行うことにより、燃費の悪化とすすの発生を抑制しながらNOxの生成量を低減することができ、しかもこれを簡易な構造で実現できる。また、負荷の変動に対して追従制御しやすいEGR率を主な制御変数としているため、NOx低減に対して制御遅れがなく確実に制御が行える。簡単な構造により実現できるので、広く汎用性のあるNOx低減システムとして有益である。
【符号の説明】
【0053】
10 エンジン本体
11 気筒
15 燃料噴射弁
30 EGRユニット
40 燃料供給ユニット
50 制御装置
100 エンジンシステム