(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高周波電力の周波数と前記高周波バイアス電力の周波数とを異ならせることによって、前記高周波電力と前記高周波バイアス電力とを前記周波数干渉を抑制して印加することを特徴とする請求項1に記載のエピタキシャル膜形成方法。
前記高周波電力の周波数と前記高周波バイアス電力の周波数とを同じにするとともに、前記高周波電力と前記高周波バイアス電力との位相差を略180°にすることによって、前記高周波電力と前記高周波バイアス電力とを前記周波数干渉を抑制して印加することを特徴とする請求項1に記載のエピタキシャル膜形成方法。
前記基板ホルダーは、第1の極性の直流電圧が印加される第1電極と、該第1の極性とは異なる第2の極性の直流電圧が印加される第2電極とを有するバイアス電極を備え、
前記第1電極及び前記第2電極に前記直流電圧を印加することによって前記基板ホルダーに前記基板を静電吸着させるとともに、前記第1電極及び前記第2電極に前記高周波バイアス電力を印加している状態で、
前記基板上に前記エピタキシャル膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のエピタキシャル膜形成方法。
前記基板上に少なくとも緩衝層、III族窒化物半導体中間層、n型III族窒化物半導体層、III族窒化物半導体活性層、p型III族窒化物半導体層、透光性電極がこの順で積層された半導体発光素子の製造方法であって、
前記緩衝層、前記III族窒化物半導体中間層、前記n型III族窒化物半導体層、前記III族窒化物半導体活性層、前記p型III族窒化物半導体層の少なくとも1つの層は、請求項1に記載されたエピタキシャル膜形成方法によって作製されたことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
前記周波数干渉抑制手段は、前記高周波電力の周波数と前記高周波バイアス電力の周波数とを異ならせるように構成されていることを特徴とする請求項11に記載のスパッタリング装置。
前記周波数干渉抑制手段は、前記高周波電力の周波数と前記高周波バイアス電力の周波数とを同じにするとともに、前記高周波電力と前記高周波バイアス電力との位相差を略180°にするように構成されていることを特徴とする請求項11に記載のスパッタリング装置。
前記電源は、請求項1に記載されたエピタキシャル膜形成方法により前記ウルツ鉱構造の膜を形成する際に、前記高周波電力が印加された後、且つ、前記基板の被成膜面がウルツ鉱構造の半導体からなる結晶層で少なくとも一部覆われるよりも前に、前記バイアス電極に前記高周波バイアス電力を印加するように構成されていることを特徴とする請求項11に記載のスパッタリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0024】
本発明に関する主な特徴は、α‐Al
2O
3基板上に、例えば高周波スパッタリング法といったスパッタリング法によりIII族窒化物半導体薄膜をエピタキシャル成長させる際に、ヒーター電極とバイアス電極を備える基板ホルダーによりα‐Al
2O
3基板を任意の温度に加熱し、次いで、上記バイアス電極に高周波バイアス電力を印加しながらIII族窒化物半導体の成膜を行うことにある。以下、図面を参照して本発明を説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変できることは勿論である。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係るIII族窒化物半導体薄膜の成膜に用いるスパッタリング装置の一例を示す概略構成図である。スパッタリング装置1を示した
図1において、符号101は真空容器、符号102はターゲット電極、符号103はバイアス電極、符号104はヒーター電極、符号105はターゲットシールド、符号106はスパッタリング用高周波電源、符号107は基板、符号108はターゲット、符号109はガス導入機構、符号110は排気機構、符号111は基板ホルダー、符号112はリフレクタ、符号113は絶縁材、符号114はチャンバーシールド、符号115は磁石ユニット、符号116はターゲットシールド保持機構、符号130はバイアス用高周波電源、をそれぞれ示している。なお、
図1における符号111は後述する基板ホルダー111a、111b、111cのうち任意のものとする。また、基板107として後述するα‐Al
2O
3基板601を用いることができる。
【0026】
真空容器101はステンレスやアルミニウム合金などの金属部材を用いて構成され、電気的に接地されている。また、真空容器101には不図示の冷却機構が設けられており、該冷却機構は真空容器101の壁面の温度上昇を防止ないしは低減している。さらに、真空容器101は、不図示のマスフローコントローラを介してガス導入機構109と接続され、不図示のバリアブルコンダクタンスバルブを介して排気機構110と接続されている。
【0027】
ターゲットシールド105はターゲットシールド保持機構116を介して真空容器101に取り付けられている。ターゲットシールド保持機構116およびターゲットシールド105は、ステンレスやアルミニウム合金などの金属部材とすることができ、真空容器101と電気的に接続されている。
【0028】
ターゲット電極102は、絶縁材113を介して真空容器101に取り付けられている。また、ターゲット108はターゲット電極102に取り付けられ、ターゲット電極102は不図示のマッチングボックスを介してスパッタリング用高周波電源106に接続されている。ターゲット108は、ターゲット電極102に直接取り付けられてもよく、また銅(Cu)などの金属部材からなる不図示のボンディングプレートを介してターゲット電極102に取り付けられてもよい。また、ターゲット108は、Al、Ga、Inの少なくとも一つを含む金属ターゲット、若しくは、上記III族元素の少なくとも一つを含む窒化物ターゲットであってもよい。ターゲット電極102には、ターゲット108の温度上昇を防止するための不図示の冷却機構が備えられている。また、ターゲット電極102には、磁石ユニット115が内蔵されている。スパッタリング用高周波電源106からターゲット電極102へ投入する電力としては13.56MHzが工業的に利用しやすいが、他の周波数の高周波を用いることや、高周波に直流を重畳すること、あるいはそれらをパルスで用いることも可能である。
【0029】
チャンバーシールド114は、真空容器101に取り付けられ、成膜時の真空容器101への膜の付着を防止ないしは低減している。基板ホルダー111は、内部にヒーター電極104とバイアス電極103を有している。ヒーター電極104には不図示の加熱用電源が接続され、バイアス電極103にはバイアス用高周波電源130が不図示のマッチングボックスを介して接続されている。
【0030】
図2〜
図4は、基板ホルダー111の構成例111a、111b、111cを示しており、各図の符号Mは基板載置面を示している。
図2(または
図3)において、符号201はベース、符号202はベースコート、符号103a(または符号103b)はバイアス電極、符号104はヒーター電極、符号205はオーバーコートである。ベース201はグラファイト、ベースコート202とオーバーコート205はパイロリィティックボロンナイトライド(PBN: Pyrolytic Boron Nitride)、バイアス電極103a(または103b)とヒーター電極104はパイロリィティックグラファイト(PG: Pyrolytic graphite)からなり、PBNからなるベースコート202とオーバーコート205は高抵抗の誘電体材料である。
【0031】
図2(または
図3)において、ヒーター電極104には不図示の加熱用電源が接続されている。この加熱用電源から、ヒーター電極104に交流または直流の電流を流すことでジュール熱を発生させ、そのジュール熱により発熱した基板ホルダーからの赤外線により基板ホルダー111a(または111b)上に載置したα‐Al
2O
3基板を加熱することができる。
【0032】
また、
図2(または
図3)において、バイアス電極103a(または103b)にはバイアス用高周波電源130が不図示のマッチングボックスを介して接続されている。成膜時に高周波バイアス電力をバイアス電極103a(または103b)に印加することで、基板ホルダー111a(または111b)上に載置したα‐Al
2O
3基板の表面に負の直流バイアス電圧を発生させることができる。
【0033】
なお、
図2(または
図3)のバイアス電極103a(または103b)には、更に不図示の静電チャック(ESC: Electrostatic Chuck)用電源を不図示のローパスフィルターを介して接続することも可能である。このような場合、例えば、バイアス電極103aを、符号Aおよび符号Bで示した電気的に分離した電極(一方を第1電極とし、他方を第2電極とする)として構成し、各々の電極に正と負の直流電圧を印加することで双極のESCを実現してもよい。このようにすることで、α‐Al
2O
3基板を基板ホルダーに静電吸着させることができるため、基板ホルダー111a上に載置したα‐Al
2O
3基板を効率よく加熱することができる。なお、基板ホルダー111bについても、バイアス電極103bを符号Cおよび符号Dで示した電気的に分離した電極(一方を第1電極とし、他方を第2電極とする)として構成し、各々の電極に正と負の直流電圧を印加することで双極のESCを実現できる。
【0034】
図4は、基板ホルダー111の他の構成例111cである。符号401はベース、符号402はベースコート、符号403は共通電極、符号404はバックサイドコート、符号405はオーバーコートである。ベース401はグラファイト、ベースコート402およびオーバーコート405はPBN、共通電極403およびバックサイドコート404はPGからなり、PBNからなるベースコート402とオーバーコート405は高抵抗の誘電体材料である。
【0035】
図4において、共通電極403には、バイアス用高周波電源130がマッチングボックスを介して接続され、さらに不図示の加熱用電源が不図示のローパスフィルターを介して接続されている。
【0036】
図4において共通電極403は、
図2におけるヒーター電極104とバイアス電極103aを集約した機能を有している。共通電極403に加熱用電源から交流または直流の電流を流すことで基板ホルダー111cが発熱し、その赤外線によって基板ホルダー111c上に載置したα‐Al
2O
3基板が加熱される。また、共通電極403に加熱用の電流を流した状態でさらにバイアス用高周波電源から高周波バイアス電力を印加することで、基板ホルダー111c上に載置したα‐Al
2O
3基板を加熱しながら、その表面に負の直流バイアス電圧を発生させることができる。このように、ヒーター電極とバイアス電極を一つに集約した共通電極を用いても本発明の効果を得ることが可能である。
【0037】
図2に示す構造の基板ホルダー111aでは、ヒーター電極104から発生したジュール熱が、ベースコート202、ベース201、オーバーコート205、およびバイアス電極103aを介して基板載置面M側へ伝わる。このとき、特に、ベース201が均熱板としての役割を果たすため、基板面内で高い均熱性が得られやすいという特徴がある。
【0038】
また、
図3に示す構造の基板ホルダー111bでは、バイアス電極103bを中央部の略円盤状電極(符号Cに相当)と外周部の略リング状電極(符号Dに相当)としている。このため、バイアス電極103b(特に符号C部)が更に均熱板の役割を果たし、
図2に示す構造の基板ホルダー111aよりも更に面内での均熱性を高めることができる。特に、ESCによりα‐Al
2O
3基板を吸着した場合、
図2に示す構造の基板ホルダー111aでは、バイアス電極103aのパターン形状に依存した温度分布を生じることがあるが、
図3のような構造では、この様な問題を著しく改善できるという特徴がある。
【0039】
なお、ESCを用いることでα‐Al
2O
3基板を基板ホルダー111a、111bに載置した後の昇温速度を高めることができるため、ESCを用いることは高い生産性を得るうえでは好ましい形態である。
【0040】
図4に示す構造の基板ホルダー111cにおいて、共通電極403から発生したジュール熱は、ベース401やベースコート402を介さずに、基板載置面M側へ伝わることになる。このため、
図2や
図3に示す基板ホルダーに比べると、高い均熱性を得ることが難しくなる。一方、ベース401やベースコート402を介さずα‐Al
2O
3基板を加熱するため、基板載置面Mと共通電極403の温度勾配が少なくなり、ESCを用いなくても高い電力利用効率で基板の加熱が行えるという特徴がある。
【0041】
なお、上記
図2〜
図4に示す基板ホルダーを構成する材料は、従来の赤外線ランプに比べてα‐Al
2O
3基板を加熱する効率が高いため好ましく用いられているが、α‐Al
2O
3基板を所定の温度に加熱することができれば、これに限定されるのもではない。
【0042】
また、基板ホルダーは、上記の基板ホルダー111a、111b、111cの構造に限定されない。上述の基板ホルダー111a、111b、111cのような構造は、均熱性を高めたり、電力の利用効率を高めたりすることが可能となり、その目的に応じて構造を適宜選択することができるため好ましい形態ではある。しかしながら、本発明では、所定の温度においてバイアス電極に高周波バイアス電力を印加することで、α‐Al
2O
3基板の表面に負の直流バイアス電圧を発生させ、その結果、ウルツ鉱構造のIII族窒化物半導体のエピタキシャル膜を+c極性で成膜できることが重要である。従って、本発明の趣旨に沿った構造であれば、どのような構造であっても本実施形態に適用できることは言うまでも無い。ただし、バイアス電極103a、103b、共通電極403は、高抵抗の誘電体材料によって覆われていることが望ましい。高抵抗の誘電体材料でバイアス電極103a、103b、共通電極403を覆わなくても、+c極性のエピタキシャル膜が得られる場合があるが、プラズマ空間中の荷電粒子が上記電極に達して、負の直流バイアス電圧が変動する恐れがある。このような負の直流バイアス電圧の変動は、+c極性のエピタキシャル膜を安定に形成する上で望ましくない。
【0043】
図5は、バイアス電極に高周波バイアス電力を印加することにより、III族窒化物半導体薄膜が+c極性で成膜されるメカニズムを示すモデル図である。
図5において、符号111は基板ホルダー111a、111b、111cのうち任意の基板ホルダー、符号107はα‐Al
2O
3基板、符号503は窒化物分子である。
【0044】
図6は、本発明の一実施形態に係るIII族窒化物半導体薄膜の製造方法を用いて作製した半導体発光素子としての発光ダイオード(LED)の断面構造の一例である。
図6において、符号601はα‐Al
2O
3基板、符号602は緩衝層、符号603はIII族窒化物半導体中間層、符号604はn型III族窒化物半導体層、符号605はIII族窒化物半導体活性層、符号606はp型III族窒化物半導体層、符号607は透光性電極、符号608はn型電極、符号609はp型ボンディングパッド電極、符号610は保護膜である。
【0045】
緩衝層602を構成する材料としてはAlN、AlGaN、GaNが好ましく用いられる。III族窒化物半導体中間層603、n型III族窒化物半導体層604、III族窒化物半導体活性層605、p型III族窒化物半導体層606を構成する材料としては、AlGaN、GaN、InGaNが好ましく用いられる。n型III族窒化物半導体層604には上記材料中に珪素(Si)またはゲルマニウム(Ge)、p型III族窒化物半導体層606には上記材料中にマグネシウム(Mg)または亜鉛(Zn)、それぞれを微量添加して導電性の制御を行うことが好ましい。更に、III族窒化物半導体活性層605は、上記材料の多重量子井戸(MQW)構造を形成することが望ましい。また、上述した発光ダイオード(LED)を用い照明装置を構成することができる。
【0046】
図7A、7Bは、本発明の一実施形態に係る周波数干渉抑制手段を説明する図である。
図7Aは、スパッタリング用高周波電源106およびバイアス用高周波電源130として異なる周波数の高周波電源を用いる、後述する周波数干渉を抑制する手段(周波数干渉抑制手段)の一例である。符号701および702はマッチングボックスを示している。スパッタリング用高周波電源106からの高周波電力は、マッチングボックス701を介すことによって、反射波を低減してターゲット電極102へ供給され、バイアス用高周波電源130からの高周波電力は、マッチングボックス702を介すことによって、反射波を低減してバイアス電極103へと供給される。また、スパッタリング用高周波電源106とバイアス用高周波電源130とは、異なる周波数となるように設定されている。例えば、スパッタリング用高周波電源106の周波数を13.56MHzとした場合、バイアス用高周波電源130としては、13.54MHzや13.58MHzなどの周波数を用いることで、後述する周波数干渉を抑制することが可能となる。
【0047】
図7Bは、スパッタリング用高周波電源106およびバイアス用高周波電源130からの高周波電力の位相を調整することにより、後述する周波数干渉を抑制する手段(周波数干渉抑制手段)の一例を示している。
図7Bにおいて、符号703は位相制御ユニット、符号704は高周波発振器、符号705および符号706は位相調整回路である。スパッタリング用高周波電源106からの高周波電力は、マッチングボックス701を介すことによって、反射波を低減してターゲット電極102へ供給され、バイアス用高周波電源130からの高周波電力は、マッチングボックス702を介すことによって、反射波を低減してバイアス電極103へと供給される。
【0048】
位相制御ユニット703は、高周波発振器704と、位相調整回路705および706とを有し、高周波発振器704からの高周波信号を、位相調整回路705および706によって位相を調整して外部回路に出力することができる。さらに、位相制御ユニット703の出力部は、スパッタリング用高周波電源106およびバイアス用高周波電源130の外部入力端子部に接続されている。位相制御ユニット703が出力した、位相が調整された高周波信号(すなわち、高周波発振器704が発振した高周波信号であって、さらに、位相調整回路705および706によって位相が調整された高周波信号)によって、スパッタリング用高周波電源106およびバイアス用高周波電源130から出力される高周波電力の位相は制御される。例えば、位相制御ユニット703を調整し、スパッタリング用高周波電源106およびバイアス用高周波電源130から出力される高周波電力の位相差を180°などの位相差に設定することで、後述する周波数干渉を抑制することが可能となる。
【0049】
このように、後述する周波数干渉を引き起こさないようにするためには、ターゲット電極102へ供給される高周波電力と、バイアス電極103へ供給される高周波電力とを異なる周波数とするか、もしくは、ターゲット電極102へ供給される高周波電力と、バイアス電極103へ供給される高周波電力とを、所定の位相差に保つことが有効な手段である。高い再現性を有して本発明の効果を得るためには、これらの周波数干渉抑制手段を有することが非常に有効である。
【0050】
以下、図面を参考にしながら、本発明に係るスパッタリング装置を用いてIII族窒化物半導体薄膜のエピタキシャル膜形成方法を説明する。本実施形態においては、以下の第一から第四の工程を有する方法によってα‐Al
2O
3基板上にエピタキシャル膜を形成する。なお、以下の記載においては、基板ホルダー111は基板ホルダー111a、111b、111cのうち任意の1つを示し、バイアス電極103は任意の基板ホルダー111(111a、111b、111c)に備えられているバイアス電極103a、103bまたは共通電極403を示すものとする。
【0051】
まず、第一の工程として、排気機構110により所定の圧力に保持された真空容器101に基板107を導入する。この際、基板(α‐Al
2O
3基板)107は不図示の搬送ロボットにより、基板ホルダー111の上部まで搬送され、基板ホルダー111から突き出た不図示のリフトピンの上部に保持される。その後、基板107を保持したリフトピンを降下させ、基板ホルダー111に基板107を載置する。
【0052】
次に、第二の工程として、基板ホルダー111に内蔵されたヒーター電極104に印加する電圧を制御し、基板107を所定温度に保持する。この際、基板ホルダー111に内蔵された熱電対(不図示)を用いて基板ホルダー111の温度をモニターするか、真空容器101に設置された不図示のパイロメータを用いて基板ホルダー111の温度をモニターし、それらの温度が所定の温度となるように制御する。
【0053】
次に、第三の工程として、ガス導入機構109よりN
2ガスまたはN
2ガスと希ガスの混合ガスのいずれかを真空容器101へ導入し、マスフローコントローラ(不図示)およびバリアブルコンダクタンスバルブ(不図示)によって真空容器101の圧力が所定の圧力となるように設定する。
【0054】
最後に、第四の工程として、基板ホルダー111に内蔵されたバイアス電極103に高周波バイアス電力を印加すると共に、スパッタリング用高周波電源106よりターゲット108に高周波電力を印加することでターゲット108前面にプラズマを発生させる。これにより、プラズマ中のイオンがターゲット108を構成する元素をたたき出し、該たたき出された元素により、III族窒化物半導体薄膜を基板107上に成膜する。
【0055】
第一の工程における所定の圧力は、5×10
−4Pa未満であることが望ましく、それ以上では、III族窒化物半導体薄膜の内部に酸素等の不純物が多く取り込まれ、良好なエピタキシャル膜が得られにくい。また、第一の工程における基板ホルダー111の温度について特に限定するものではないが、生産性の観点からは成膜時の基板温度を得るための温度に設定しておくことが望ましい。
【0056】
第二の工程における所定の温度は、第四の工程における成膜温度に設定しておくことが生産性の観点から望ましく、また、第三の工程における所定の圧力は、第四の工程における成膜圧力に設定しておくことが生産性の観点から望ましい。第二の工程および第三の工程とは、実施のタイミングが入れ替わってもよく、同時に実施されても良い。また、第二の工程で設定された温度および第三の工程で設定された圧力は、少なくとも第四の工程を開始するまで保持されていることが生産性の観点から望ましい。
【0057】
第四の工程において、バイアス電極103に印加する高周波バイアス電力は、+c極性の統一度が高いIII族窒化物半導体膜(+c極性のIII族窒化物半導体薄膜)が得られる所定の電力に設定しておくことが必要である。電力が小さすぎると、極性が混在したIII族窒化物半導体薄膜が形成され、電力が大きすぎると、高エネルギー粒子の衝突によりIII族窒化物半導体薄膜がダメージを受け、良質なIII族窒化物半導体薄膜が得られない。
なお、本明細書では、−c極性が無いないしは低減されたIII族窒化物半導体薄膜、すなわち、+c極性と−c極性との混在が低減され、+c極性の統一度が高いIII族窒化物半導体薄膜を、「+c極性のIII族窒化物半導体薄膜」と呼ぶことにする。
【0058】
また、第四の工程を行う際の基板温度は、100〜1200℃の範囲となるように設定することが望ましく、更に400〜1000℃の範囲とすると好適である。100℃未満の場合は、アモルファス構造の混在した膜が形成されやすく、1200℃より高い温度では、膜自体が形成されないか、形成されたとしても熱応力のために欠陥の多いエピタキシャル膜が得られやすい。また、成膜圧力は0.1〜100mTorr(1.33×10
−2〜1.33×10
1Pa)の範囲に設定されることが望ましく、更に、1.0〜10mTorr(1.33×10
−1〜1.33Pa)の範囲に設定されると好適である。
【0059】
0.1mTorr(1.33×10
−2Pa)未満では、高エネルギー粒子が基板表面に入射されやすくなるため、良質なIII族窒化物半導体薄膜が得られにくく、100mTorr(1.33×10
1Pa)より高い圧力では、成膜速度が極端に遅くなるため好ましくない。第四の工程を開始する際には、真空容器101の圧力を一時的に成膜圧力以上に高めて、ターゲット側におけるプラズマの発生を促進することも可能である。この場合、プロセスガスの少なくとも一種類のガス流量を一時的に多く導入することで成膜圧力を高めてもよく、また、バリアブルコンダクタンスバルブ(不図示)の開度を一時的に小さくすることで成膜圧力を高めてもよい。
【0060】
第四の工程において、バイアス電極103へ高周波バイアス電力を印加するタイミングと、ターゲット電極102へ高周波電力を印加するタイミングは、同時であってもよく、また、一方に先に印加し、その後、他方に印加してもよい。ただし、ターゲット電極102へ高周波電力を先に印加する場合には、α‐Al
2O
3基板107の被成膜面がIII族窒化物半導体からなる結晶層で覆われる前にバイアス電極103へ高周波バイアス電力を印加する必要がある。
【0061】
バイアス電極103に高周波バイアス電力が印加されない状態で形成されたIII族窒化物半導体の結晶層は、極性の混在した状態、または−c極性の状態になりやすい。−c極性の混在した状態が生じると、その後のバイアス電極103へ高周波バイアス電力の印加によっても、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜を得ることが困難になる。従って、ターゲット電極102へ高周波電力を先に印加する場合には、ターゲット電極102へ高周波電力を印加し、ターゲット前面にプラズマが発生した後(すなわち、スパッタリングが開始された後)、直ちにバイアス電極103へ高周波バイアス電力を印加し、α‐Al
2O
3基板107上にIII族窒化物半導体からなる結晶層が形成される前に、バイアス電極103へ高周波バイアス電力が印加されるようにすることが望ましい。
【0062】
バイアス電極103へ高周波バイアス電力を先に印加する場合には、ターゲット電極102へ高周波電力を印加するまでの間に、α‐Al
2O
3基板107の表面側にプラズマが発生し、プラズマ中のN原子を含有した活性種によるα‐Al
2O
3基板107の表面窒化を避ける必要がある。α‐Al
2O
3基板107の表面が窒化すると、基板表面に−c極性や極性が混在したAlNが形成されやすくなり、その後にターゲット電極102へ高周波電力を印加し、III族窒化物半導体薄膜を成膜しても、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜を得ることが困難になるためである。従って、バイアス電極103へ高周波バイアス電力を先に印加する場合には、バイアス電極103へ高周波バイアス電力を印加した直後にターゲット電極102へ高周波電力を印加しスパッタリングを開始することが望ましい。
【0063】
さらに、第一の工程の前には、前処理室(不図示)に基板107を搬送し、成膜温度以上の温度での基板107の熱処理やプラズマ処理を行う工程を有してもよいことももちろんである。ただし、プラズマ処理を行う場合には、α‐Al
2O
3基板の表面に極性の混在したAlN層や−c極性のAlN層が形成されないような条件を選択することが重要である。
【0064】
上記第一から第四の工程により、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜が形成されるメカニズムについて、
図5を用いて以下に説明する。第一の工程および第二の工程として、基板ホルダー111にα‐Al
2O
3基板107が所定の温度となるように載置し、第三の工程として、真空容器内へN
2ガスまたはN
2ガスと希ガスの混合ガスのいずれかを導入する。次いで、第四の工程として、バイアス電極へ高周波バイアス電力を印加すると共に、ターゲット側にプラズマを発生させてIII族窒化物半導体薄膜を形成する。
【0065】
第四の工程において、ターゲットとして金属ターゲットを用いた場合には、N原子を含有した活性種によりターゲット表面が窒化され、その表面を正イオンでスパッタリングすることにより、
図5に示す窒化物分子503がターゲット表面より放出され、α‐Al
2O
3基板107の表面に到達すると考えられる。また、窒化物ターゲットを用いた場合においても、その表面を正イオンでスパッタリングすることにより、
図5に示す窒化物分子503がターゲット表面より放出され、α‐Al
2O
3基板107の表面に到達すると考えられる。なお、
図5には簡略化のために2原子分子の窒化物分子503を示しているが、窒化物分子であれば2原子分子に限定されるものではない。
【0066】
図5において、バイアス電極103には高周波バイアス電力が印加されており、α‐Al
2O
3基板107の表面側に対向する空間には、符号Gで示したプラズマ領域と、符号Sで示したシース領域とが形成されている。シース領域Sは、プラズマ領域Gとα‐Al
2O
3基板107の間に形成される。
【0067】
プラズマ領域Gでは、正電荷(正イオン)と負電荷(電子)の密度は概ね等しく、ほぼ電気的中性状態となっている。また、プラズマ領域Gは、通常、接地電位に対して正となる、ほぼ一定の電位状態(プラズマ電位と呼ばれる)となっている。一方、高周波バイアス電力の印加により生じた高周波電界の変化に対して、正イオンと電子の追従のしやすさが異なることから、α‐Al
2O
3基板107の表面には過剰な電子が供給され、負の直流バイアス電圧が発生する。シース領域Sでは、このようにして生じたα‐Al
2O
3基板107の表面の負の電位と、プラズマ領域Gのプラズマ電位との間の電位差により、α‐Al
2O
3基板107の表面に向かう方向に符号Eで示した電界が生じている。この電界Eの大きさは、高周波バイアス電力の大きさにより調整することが可能である。
【0068】
なお、バイアス電極103に印加する電力の形態としては高周波電力が望ましい。直流電力の場合は、α‐Al
2O
3基板107が絶縁物であるため、α‐Al
2O
3基板107の表面に有効に負の直流バイアス電圧を発生させることが困難となり好ましくない。
【0069】
窒化物分子503は、III族元素503aとN原子503bを有しており、III族元素503aが正、N原子503bが負の電荷の偏りを有している。すなわち、窒化物分子503は、符号Pで示す分極を有している。この窒化物分子503は、プラズマ領域Gではランダムな方向を向くと考えられるが、シース領域Sに到達すると、電界Eが窒化物分子503の分極Pに作用し、III族元素503aがα‐Al
2O
3基板の方向、N原子503bがプラズマ領域Gの方向を向くように、すなわち、分極Pがα‐Al
2O
3基板の方向を向くように配向すると考えられる。
【0070】
+c極性のIII族窒化物半導体では、窒化物分子503の分極Pがα‐Al
2O
3基板の方向を向くように配向している。つまり、高周波バイアス電力を印加することで生じたシース領域Sの電界Eにより、窒化物分子503の分極Pがα‐Al
2O
3基板の方向を向くように配向し、その配向を保ってα‐Al
2O
3基板表面へ吸着されることにより、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜が得られるものと考えられる。
【0071】
なお、バイアス電極103に高周波バイアス電力が印加されていたとしても、高周波バイアス電力が小さい場合には、+c極性のIII族窒化物半導体を得られない場合がある。これは、シース領域Sの電界Eが、窒化物分子503の分極Pに十分に作用せず、配向を制御できなかったことが原因と考えられる。
【0072】
また、高周波バイアス電力が大きすぎると、高品質なIII族窒化物半導体を得られない場合がある。これは、シース領域Sの電界Eにより、プラズマ中の正イオンが加速され、α‐Al
2O
3基板の表面に大きなエネルギーを有して衝突するため、III族窒化物半導体薄膜の内部に多くの欠陥が形成されるためと考えられる。
【0073】
このように、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜を得るためには、バイアス電極103に印加する高周波バイアス電力の大きさを適切な値に調整することが必要である。なお、この高周波バイアス電力の最適範囲は、スパッタリング装置の内部構造により大きく異なるため、装置ごとに最適な条件を求めることが必要となる。
【0074】
また、高周波バイアス電力として用いる周波数は特に限定するものではないが、高周波バイアス電力の周波数とターゲットに印加した高周波電力の周波数が一致すると、高周波電力の干渉により生じる低周波のうなり現象が発生しやすくなり、成膜条件にも影響を与えることがある。(以下、この低周波のうなり現象を周波数干渉と呼ぶ)。本実施形態において周波数干渉が生じると、プラズマが不安定になり、α‐Al
2O
3基板の表面に発生する直流バイアス電圧が安定しなくなるため、異なる周波数の高周波電力を用いることが好ましい。
図7Aを例にとると、ターゲット電極102に印加する高周波電力の周波数(スパッタリング用高周波電源106の周波数)を13.56MHzとした場合、バイアス電極103に印加する高周波バイアス電力の周波数(バイアス用高周波電源130の周波数)として、13.54MHzや13.58MHzなどを用いることで、上記のような周波数干渉を防止ないしは低減することができる。
【0075】
また、バイアス電極へ印加する高周波バイアス電力の周波数とターゲットに印加する高周波電力の周波数とが同じであっても、高周波バイアス電力と高周波電力とを所定の位相差だけずらすことによって、上記の周波数干渉を抑制することが可能である。
図7Bを例にとると、位相制御ユニット703によって、バイアス電極103へ印加される高周波バイアス電力と、ターゲット電極102に印加される高周波電力との位相差を180°となるように調整した場合、すなわち、ターゲット電極102に高周波電力の正のピークトップ電圧が印加されると同時に、バイアス電極103に高周波バイアス電力の負のピークトップ電圧が印加されるように調整した場合は、最も効果的に周波数干渉を防ぐないしは低減することが可能となる。また、各高周波電源(スパッタリング用高周波電源およびバイアス用高周波電源)への反射波がさらに減少するように位相差を微調整してもよい。すなわち、位相差は厳密に180°でなくてよく、180°から微調整される範囲まで含んだ略180°であればよい。
【0076】
さらに、他の位相差であっても周波数干渉が引き起こされない限り、問題なく用いることが可能である。なお、上記のような周波数干渉が生じる場合には、プラズマが不安定になり各高周波電源(スパッタリング用高周波電源およびバイアス用高周波電源)への反射波が増大しやすくなるため、これを最小(望ましくは0)にするような位相差に調整することが望ましい。
【0077】
なお、バイアス電極103に高周波バイアス電力を印加しない場合にも、シース領域Sに電界Eが発生するが、このときに発生する電界Eは、一般に、高周波バイアス電力を印加した場合に比べて小さくなる。したがって、バイアス電極103に高周波バイアス電力を印加しない場合に、+c極性の窒化物半導体薄膜を得ることができないのは、シース領域Sの電界Eが、窒化物分子503の分極Pに十分に作用せず、配向を制御できないことが原因と考えられる。
【0078】
N
2ガスと希ガスの混合ガスを用いたプラズマにより金属ターゲット108をスパッタリングする際には、N
2ガスと希ガスの混合ガスの比率を制御し、金属成分(非窒化物成分)がIII族窒化物半導体薄膜に多く取り込まれないように注意しなければならない。金属成分が多く取り込まれた場合は、窒化物分子503よりも金属原子、または金属クラスター状でターゲットより放出されるIII族元素の比率が多くなりやすいため、バイアス電極103に高周波バイアス電力を印加しても本発明の効果を十分に得られない可能性がある。
【0079】
本実施形態における方法で形成されるIII族窒化物半導体薄膜のエピタキシャル膜としては、
図6に示す緩衝層602、III族窒化物半導体中間層603、n型III族窒化物半導体層604、III族窒化物半導体活性層605、p型III族窒化物半導体層606が挙げられる。上記全ての層を本発明に係るスパッタリング装置(エピタキシャル膜形成方法)を用いて作製してもよく、また、いずれかの層に限定して本発明に係るスパッタリング装置(エピタキシャル膜形成方法)を用いて作製してもよい。
【0080】
例えば、第一の例として、
図6のLED素子の緩衝層602を本発明に係るスパッタリング装置(エピタキシャル膜形成方法)を用いて作製し、その後、MOCVD法を用いてIII族窒化物半導体中間層603、n型III族窒化物半導体層604、III族窒化物半導体活性層605、p型III族窒化物半導体層606を順次積層することで、エピタキシャルウェハーを作製する方法がある。
【0081】
また、第二の例として、緩衝層602およびIII族窒化物半導体中間層603を本発明に係るスパッタリング装置(エピタキシャル膜形成方法)を用いて作製し、その後、MOCVD法を用いて、n型III族窒化物半導体層604、III族窒化物半導体活性層605、p型III族窒化物半導体層606を順次積層することで、エピタキシャルウェハーを作製する方法がある。
【0082】
第三の例としては、緩衝層602、III族窒化物半導体中間層603およびn型III族窒化物半導体層604を本発明に係るスパッタリング装置(エピタキシャル膜形成方法)を用いて作製し、その後、MOCVD法を用いて、III族窒化物半導体活性層605、p型III族窒化物半導体層606を順次積層することで、エピタキシャルウェハーを作製する方法がある。
【0083】
第四の例としては、緩衝層602、III族窒化物半導体中間層603、n型III族窒化物半導体層604およびIII族窒化物半導体活性層605を本発明に係るスパッタリング装置(エピタキシャル膜形成方法)を用いて作製し、その後、MOCVD法を用いて、p型III族窒化物半導体層606を作製することで、エピタキシャルウェハーを作製する方法がある。
【0084】
第五の例としては、緩衝層602、III族窒化物半導体中間層603、n型III族窒化物半導体層604およびIII族窒化物半導体活性層605、p型III族窒化物半導体層606を本発明に係るスパッタリング装置(エピタキシャル膜形成方法)を用いて作製することで、エピタキシャルウェハーを作製する方法がある。
【0085】
このようにして得たエピタキシャルウェハーに対し、リソグラフィー技術およびRIE(反応性イオンエッチング)技術を用い、
図6に示すように透光性電極607、p型ボンディングパッド電極609、n型電極608、保護膜610を形成することによりLED構造を得ることができる。なお、透光性電極607、p型ボンディングパッド電極609、n型電極608、保護膜610の材料は特に限定されず、この技術分野でよく知られた材料を制限されることなく用いることができる。
【0086】
(実施例)
(第一の実施例)
本発明の第一の実施例として、本発明の一実施形態にかかるIII族窒化物半導体薄膜の成膜方法を用いて緩衝層602(
図6参照)としてのAlN膜をα‐Al
2O
3(0001)基板上に成膜する例を説明する。より詳しくは、バイアス電極103に高周波バイアス電力を印加した状態で、α‐Al
2O
3(0001)基板上にスパッタリング法を用いてAlN膜を形成する例について説明する。なお、本実施例において、AlN膜は
図1と同様のスパッタリング装置を用いて成膜する。また、ターゲット電極102に印加する高周波電力と、バイアス電極103に印加する高周波電力の周波数は、それぞれ、13.56MHz、13.54MHzとする。
【0087】
本実施例においては、先ず、第一の工程により1×10
−4Pa以下に保持された真空容器101にα‐Al
2O
3(0001)基板を搬送して基板ホルダー111に載置し、第二の工程により基板を成膜温度である550℃に保持する。このときヒーター電極104へ流す電流は、基板ホルダー111に内蔵した熱電対のモニター値が750℃になるよう制御する。
【0088】
次に、第三の工程によりN
2ガスとArガスの混合ガスをN
2/(N
2+Ar):25%となるように導入し、真空容器101の圧力を3.75mTorr(0.5Pa)に設定する。この状態で第四の工程によりバイアス電極103に10Wの高周波バイアス電力を印加するとともに、スパッタリング用高周波電源106から2000Wの高周波電力を金属Alからなるターゲット108に印加し、スパッタリング法により基板上に膜厚50nmのAlN膜を形成する。この際、得られたAlN膜には、金属Al成分がほとんど含まれていないことをX線光電子分光法(XPS)により確認することができる。
【0089】
なお、本実施例における成膜温度は、熱電対を埋め込んだα‐Al
2O
3(0001)基板によりあらかじめ基板温度測定を行い、その時の、α‐Al
2O
3(0001)基板の温度と、ヒーターに内蔵した熱電対のモニター値、すなわち、ヒーターの温度との関係より設定する。
【0090】
本実施例において、作製したAlN膜は、対称反射位置での2θ/ωスキャンモードのX線回折(XRD)測定と、対称面に対するωスキャンモードでのXRC測定、In‐plane配置でのφスキャンモードのXRC測定、および、同軸型直衝突イオン散乱分光(CAICISS:Coaxial Impact Collision Ion Scattering Spectroscopy)測定により評価する。ここで、対称反射位置での2θ/ωスキャンモードのXRD測定は結晶配向の確認に用い、対称面に対するωスキャンモードでのXRC測定とIn‐plane配置でのφスキャンモードでのXRC測定は、それぞれ、チルトとツイストのモザイク広がりの評価に用いる。また、CAICISS測定は極性の判定手段として用いる。
【0091】
まず、本実施例において作製したAlN膜に対し、対称反射位置での2θ/ωスキャンモードのXRD測定を、測定範囲を2θ=20〜60°の範囲として行うと、AlN(0002)面とα‐Al
2O
3(0006)面の回折ピークのみが観測され、AlNの他の格子面を示す回折ピークは観測されない。このことから、得られたAlN膜がc軸配向していることがわかる。
【0092】
次に、本実施例で作製したAlN膜に対し、対称面(本実施例ではAlN(0002)面)に対するωスキャンモードでのXRC測定を行う。得られるXRCプロファイルのFWHMは、検出器をオープンディテクタ状態とした場合に450arcsec以下、検出器にアナライザー結晶を挿入した場合に100arcsec以下である。よって、作製したAlN膜におけるチルトのモザイク広がりが小さいことを確認できる。また、作製条件によっては、検出器にアナライザー結晶を挿入した場合のXRC測定で、FWHMが20arcsec以下となるものも得られる。
【0093】
なお、検出器をオープンディテクタ状態とした場合が本来のXRC測定であるが、本実施例のように膜厚が薄い試料の場合には、膜厚効果や格子緩和によってXRCプロファイルのFWHMが広がり、モザイク広がりを正しく評価することが困難となる。そのため、近年では上記のように、検出器にアナライザー結晶を挿入した場合も広義のXRC測定として扱われている。以下、特に断らない限り、XRC測定ではオープンディテクタ状態を用いていることとする。
【0094】
次に、本実施例で作製したAlN膜に対し、In‐plane配置でφスキャンモードのXRC測定を行う。なお、測定にはAlN{10−10}面を用いる。得られたXRCプロファイルには60°間隔に6本の回折ピークが現れ、AlN膜が六回対称性を有していること、すなわち、AlN膜がエピタキシャル成長していることを確認できる。また、最大強度の回折ピークから求めたFWHMは2.0°以下であり、作製したAlN膜のツイストのモザイク広がりが比較的小さいことがわかる。なお、α‐Al
2O
3(0001)基板とAlN膜の面内結晶方位を比較すると、α‐Al
2O
3(0001)基板のa軸に対してAlN膜のa軸が30°面内回転していることを確認できる。これは、AlN膜をα‐Al
2O
3(0001)基板上にエピタキシャル成長した際の一般的なエピタキシャル関係でAlN膜が形成されることを示している。
【0095】
次に、本実施例で作製したAlN膜に対し、CAICISS測定を行う。本測定において、Al信号をAlN[11−20]方位から入射角度を変えて検出しており、入射角度が70°付近のピークが単一の形状として得られることがわかる。このことは、得られたAlN膜が+c極性となっていることを示している。
【0096】
以上のことから、本実施例において作製したAlN膜は、+c極性で、且つ、チルトのモザイク広がりが小さなc軸配向エピタキシャル膜となることを確認できる。すなわち、本発明によれば、チルトおよびツイストのモザイク広がりを低減しつつ、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜を得られる。なお、本実施例と同様の実験を複数回繰り返すと、再現性が良好であることを確認できる。
【0097】
(第二の実施例)
次に、本発明の第二の実施例として、本発明に係るIII族窒化物半導体薄膜の成膜方法を用いて作製したAlN膜を緩衝層とし、その上に、MOCVD法を用いて、
図6のIII族窒化物半導体中間層603としてのアンドープGaN膜を形成する例について説明する。
【0098】
スパッタリング法を用いて、α‐Al
2O
3(0001)基板上にAlN膜を第一の実施例と同じ装置、および条件で形成し、その後、MOCVD装置にウェハー(基板)を導入して、5μmの膜厚のアンドープGaN膜を形成する。
【0099】
得られたアンドープGaN膜の表面は鏡面であり、対称反射位置での2θ/ωスキャンモードのXRD測定では、アンドープGaN膜がc軸配向することが示される。次に、対称面としてGaN(0002)面を用いるωスキャンモードのXRC測定と、In‐plane配置でGaN{10−10}面に対するφスキャンモードのXRC測定を行うと、それぞれのFWHMは250arcsec以下、500arcsec以下となることを確認できる。このことから、得られるアンドープGaN膜が、チルトおよびツイストのモザイク広がりが小さい高品質な結晶として得られることがわかる。更に、CAICISS測定より、得られるアンドープGaN膜の極性が+c極性となることを確認できる。これは、第一の実施例において説明したように、緩衝層として用いるAlN膜の極性が+c極性に制御できるため、その上に形成したアンドープGaN膜もその極性を引き継ぐ結果と考えることができる。
【0100】
以上のことから、本発明に係るIII族窒化物半導体薄膜の成膜方法を用いて作製する、+c極性に制御されたAlN膜を緩衝層とすることにより、その上にMOCVD法を用いて成長させるアンドープGaN膜を、モザイク広がりが少なく、+c極性に制御された高品質なエピタキシャル膜として得ることが可能となる。すなわち、α‐Al
2O
3基板上に、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜をエピタキシャル成長させることができる。
【0101】
なお、本実施例ではアンドープGaN膜をMOCVD法により形成するが、スパッタリング法を用いても同様の結果を得ることができる。また、本実施例と同様の実験を複数回繰り返すと、再現性が良好であることを確認できる。
【0102】
(第三の実施例)
本発明の第三の実施例として、本発明に係るIII族窒化物半導体薄膜の成膜方法を用いて作製するAlN膜を緩衝層とし、その上に、MOCVD法を用いて、アンドープGaNからなるIII族窒化物半導体中間層、SiドープGaNからなるn型III族窒化物半導体層、InGaNとGaNのMQW構造を有するIII族窒化物半導体活性層、MgドープGaNからなるp型III族窒化物半導体層を順次エピタキシャル成長し、更に、n型電極層、透光性電極、p型電極層、保護膜まで形成した後、ウェハーをスクライブにより分離しLED素子を作製する例について説明する。
【0103】
スパッタリング法を用いて、α‐Al
2O
3(0001)基板上に緩衝層602としてのAlN膜を第一の実施例と同じ条件で形成する。その後、MOCVD装置にウェハーを導入して、5μmの膜厚のアンドープGaNからなるIII族窒化物半導体中間層603、および2μmの膜厚のSiドープGaNからなるn型III族窒化物半導体層604を形成する。さらに、GaNに始まりGaNに終わる積層構造であって、3nmの膜厚の5層のInGaNと16nmの膜厚の6層のGaNとを交互に積層したMQW構造を有するIII族窒化物半導体活性層605、および200nmの膜厚のMgドープGaNからなるp型III族窒化物半導体層606を形成する。
【0104】
得られたエピタキシャルウェハーに対し、リソグラフィー技術およびRIE技術を用い、
図6に示すように透光性電極607、p型ボンディングパッド電極609、n型電極608、保護膜610を形成する。なお本実施例では、透光性電極としてITO(Indium‐Tin‐Oxide)、p型ボンディングパッド電極としてチタン(Ti)、Al、金(Au)を積層した構造、n型電極としてニッケル(Ni)、Al、Ti、Auを積層した構造、保護膜としてSiO
2を用いる。
【0105】
このようにして得られるLED構造を形成したウェハーをスクライブにより350μm角のLEDチップに分離し、このLEDチップをリードフレーム上に載置し、金線でリードフレームに結線することによりLED素子とする。
【0106】
得られるLED素子のp型ボンディングパッド電極とn型電極とに順方向電流を流すと、電流20mAにおける順方向電圧が3.0V、発光波長が470nm、発光出力が15mWという良好な発光特性を示す。このような特性は、作製したウェハーほぼ全面から作製されたLED素子について、ばらつきなく得られる。
【0107】
以上のことから、本発明に係るIII族窒化物半導体薄膜の成膜方法を用いて作製する、+c極性に制御されたAlN膜を緩衝層602とすることにより、良好な発光特性を有するLED素子を得ることができる。なお、本実施例ではアンドープGaNからなるIII族窒化物半導体中間層603、SiドープGaNからなるn型III族窒化物半導体層604、InGaNとGaNとのMQW構造を有するIII族窒化物半導体活性層605、MgドープGaNからなるp型III族窒化物半導体層606をMOCVD法により形成するが、スパッタリング法を用いてこれらの層を作製しても同様の結果を得ることができる。また、本実施例と同様の実験を複数回繰り返すと、再現性が良好であることを確認できる。
【0108】
(第一の比較例)
本発明の第一の比較例として、本発明に特徴的なバイアス電極への高周波バイアス電力の印加を行わずにα‐Al
2O
3(0001)基板上にスパッタリング法を用いて緩衝層としてのAlN膜を形成する例について説明する。なお、本比較例において、AlN膜は、バイアス電極103へ高周波バイアス電力を印加しないことを除いて、第一の実施例と同一のスパッタリング装置1、基板ホルダー111、成膜条件により成膜する。また、ターゲット電極102に印加する高周波電力の周波数は、13.56MHzとする。
【0109】
本比較例において作製するAlN膜に対し、対称反射位置での2θ/ωスキャンモードのXRD測定と、AlN(0002)面に対するωスキャンモードでのXRC測定(検出器にアナライザー結晶を挿入する場合と、オープンディテクタ状態の場合)、AlN{10−10}面に対するφスキャンモードでのXRC測定を行うと、第一の実施例で得られたAlN膜と同様にc軸配向のエピタキシャル膜が得られ、チルトおよびツイストのモザイク広がりも同程度であることがわかる。一方、本比較例において作製するAlN膜に対してCAICISS測定を行うと、+c極性と−c極性が混在した膜であることが示される。
【0110】
以上のことから、バイアス電極103へ高周波バイアス電力を印加せずに成膜する場合、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜を得られない。なお、本実施例と同様の実験を複数回繰り返しても、+c極性のAlN膜は得ることは困難である。
【0111】
(第二の比較例)
次に、本発明の第二の比較例として、バイアス電極103への高周波バイアス電力の印加を行わずにα‐Al
2O
3(0001)基板上にスパッタリング法を用いてAlNからなる緩衝層を形成し、その上に、MOCVD法を用いて、III族窒化物半導体中間層としてのアンドープGaN膜を形成する例について説明する。なお、本比較例において、AlNからなる緩衝層は第一の比較例と同一のスパッタリング装置1、基板ホルダー111、成膜条件にて成膜を行い、アンドープGaN膜は、第二の実施例と同様の条件にて成膜を行う。
【0112】
スパッタリング法を用いて、α‐Al
2O
3(0001)基板上にAlNからなる緩衝層を第一の比較例と同一のスパッタリング装置1、基板ホルダー111、成膜条件にて成膜を行い、その後、MOCVD装置にウェハーを導入して、5μmの膜厚のアンドープGaN膜を形成する。
【0113】
得られるアンドープGaN膜の表面は白濁し、対称反射位置での2θ/ωスキャンモードのXRD測定では、アンドープGaN膜がc軸配向することが示される。次に、対称面としてGaN(0002)面を用いるωスキャンモードでのXRC測定と、In‐plane配置でGaN{10−10}面に対するφスキャンモードでのXRC測定を行うと、それぞれのFWHMは600arcsec程度、1000arcsec程度となる。このことから、本比較例により得られるアンドープGaN膜は、第二の実施例で得られるアンドープGaN膜に比べてチルトおよびツイストのモザイク広がりが大きい低品質な結晶として得られることがわかる。
【0114】
更に、CAICISS測定より、得られるアンドープGaN膜の極性が+c極性と−c極性の混在した膜となることを確認できる。これは、第一の比較例において説明したように、AlNからなる緩衝層が+c極性と−c極性との混在した膜になるため、その上に形成したアンドープGaN膜もその混在した極性を引き継ぐ結果と考えることができる。
【0115】
以上のことから、バイアス電極に高周波バイアス電力を印加せずにα‐Al
2O
3(0001)基板上にスパッタリング法によりAlNからなる緩衝層を形成する場合、その上にMOCVD法を用いて成長させたアンドープGaN膜は低品質なエピタキシャル膜として得られる。なお、本比較例ではアンドープGaN膜をMOCVD法により形成するが、スパッタリング法を用いても同様の結果となることを確認できる。また、本実施例と同様の実験を複数回繰り返しても、鏡面で結晶性の良好なGaN膜を得ることは困難である。
【0116】
(第三の比較例)
本発明の第三の比較例として、バイアス電極への高周波バイアス電力の印加を行わずにα‐Al
2O
3(0001)基板上にスパッタリング法を用いてAlNからなる緩衝層を形成し、その上に、MOCVD法を用いて、アンドープGaNからなるIII族窒化物半導体中間層、SiドープGaNからなるn型III族窒化物半導体層、InGaNとGaNとのMQW構造を有するIII族窒化物半導体活性層、MgドープGaNからなるp型III族窒化物半導体層を順次エピタキシャル成長し、更に、n型電極層、透光性電極、p型電極層、保護膜まで形成した後、ウェハーをスクライブにより分離しLED素子を作製する例について説明する。
【0117】
なお、AlNからなる緩衝層の成膜方法は第一の比較例と同様であり、MOCVD法を用いて成膜したアンドープGaNからなるIII族窒化物半導体中間層、SiドープGaNからなるn型III族窒化物半導体層、InGaNとGaNとのMQW構造を有するIII族窒化物半導体活性層、MgドープGaNからなるp型III族窒化物半導体層と、その後形成したn型電極層、透光性電極、p型電極層、保護膜の材料や成膜方法、およびその後の、素子化の工程については全て第三の実施例と同様である。
【0118】
得られたLED素子のp型ボンディングパッド電極とn型電極とに順方向電流を流すと、LED素子からは良好なダイオード特性が得られず、また、可視光領域での十分な発光強度も得られないなど、良好な素子特性が得られにくい。このような特性は、作製したウェハーほぼ全面から作製されたLED素子について同様の結果である。
【0119】
以上のことから、バイアス電極への高周波バイアス電力の印加を行わずにα‐Al
2O
3(0001)基板上にスパッタリング法を用いてAlNからなる緩衝層を形成する場合、良好な発光特性を有するLED素子を得ることは困難となる。なお、本実施例ではアンドープGaNからなるIII族窒化物半導体中間層、SiドープGaNからなるn型III族窒化物半導体層、InGaNとGaNとのMQW構造を有するIII族窒化物半導体活性層、MgドープGaNからなるp型III族窒化物半導体層をMOCVD法により形成するが、スパッタリング法を用いても同様の結果となる。また、本実施例と同様の実験を複数回繰り返しても、良好な発光特性を有するLED素子を得ることは困難である。
【0120】
(第四の実施例)
本発明の第四の実施例として、ターゲット電極102に印加する高周波電力と、バイアス電極103に印加する高周波電力の周波数を共に13.56MHzとすると共に、位相を180°ずらし、その他は、第一の実施例と同様の装置、条件を用いて、本発明にかかるIII族窒化物半導体薄膜の成膜方法を用いてAlN膜をα‐Al
2O
3(0001)基板上に成膜する例について説明する。
【0121】
本実施例の実験を繰り返し行うと、第一の実施例と同様の+c極性のAlN膜が再現性良く得られることを確認できる。
【0122】
(第四の比較例)
本発明の第四の比較例として、ターゲット電極102に印加する高周波電力と、バイアス電極103に印加する高周波電力の周波数を共に13.56MHzとし、その他は、第一の実施例と同様の装置、条件を用いて、本発明にかかるIII族窒化物半導体薄膜の成膜方法を用いてAlN膜をα‐Al
2O
3(0001)基板上に成膜する例について説明する。なお、本比較例においては、ターゲット電極102に印加する高周波電力と、バイアス電極103に印加する高周波電力の位相の制御は行わない。
【0123】
本比較例の実験を繰り返し行うと、周波数干渉が生じない場合は、+c極性のAlN膜が得られるが、周波数干渉が生じる場合は、+c極性のAlN膜が得られにくくなる。
【0124】
本発明について上述したように、本発明の大きな特徴は、III族窒化物半導体のエピタキシャル膜をスパッタリング法により形成するうえで、バイアス電極へ高周波バイアス電力を印加することに着目した点にある。バイアス電極への高周波バイアス電力の印加により基板の成膜面側に生じたシース領域Sの電界を、ターゲットから放出された窒化物分子の分極に作用させて配向を制御し、その配向を利用して+c極性のIII族窒化物半導体薄膜を得ることは従来には無い技術思想である。
【0125】
また、ターゲット電極に印加する高周波電力とバイアス電極に印加する高周波電力との干渉による低周波のうなり、すなわち周波数干渉を防止ないしは低減することで、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜を再現性良く得ることは、従来には無い技術思想である。
【0126】
本発明では、上記本発明に特有の技術思想の下、基板ホルダーにヒーター電極とバイアス電極を設けている。このように基板ホルダーを構成することにより、上述の第一〜第四の実施例および第一〜第四の比較例にて示したように、スパッタリング法により、チルトおよびツイストのモザイク広がりを低減し、かつ+c極性を有するIII族窒化物半導体薄膜を形成することができる。
【0127】
さらに本発明者らは、Si(111)基板などの基板材料を用いる場合や、酸化亜鉛(ZnO)系半導体薄膜などの薄膜材料を形成する場合においても、上記の技術思想を適用することが高品質なエピタキシャル膜を得るうえで有効であることを見出した。以下に、本発明に係る成膜方法を用いてIII族窒化物半導体薄膜をSi(111)基板上に形成する例(第五の実施例)、本発明に係る成膜方法を用いずIII族窒化物半導体薄膜をSi(111)基板上に形成する例(第五の比較例)、本発明に係る成膜方法を用いてZnO系半導体薄膜をα−Al
2O
3(0001)基板上に形成する例(第六の実施例)、本発明に係る成膜方法を用いずZnO系半導体薄膜をα−Al
2O
3(0001)基板上に形成する例(第六の比較例)について述べる。
【0128】
(第五の実施例)
本実施例では、フッ酸処理により表面の自然酸化膜を除去したSi(111)基板を用い、その他は、第一の実施例と同様の方法・条件によってAlN膜を形成する。ただし、本実施例における成膜温度(550℃)は、熱電対を埋め込んだSi(111)基板により、あらかじめ基板温度測定を行った結果に基づいて設定する。
【0129】
本実施例においてSi(111)基板上に形成されるAlN膜は、CAICISS測定およびXRD測定によって、+c極性のエピタキシャル膜として形成されていることを確認することができる。また、得られたAlN膜上にMOCVD法を用いて2μmの膜厚のアンドープGaN膜を形成すると、得られたアンドープGaN膜の表面は鏡面となり、c軸配向した単結晶膜として得られる。
【0130】
さらに、得られるアンドープGaN膜を利用して、LED素子およびHEMT素子を作製すると、Si(111)基板上のLED素子およびHEMT素子としては比較的良好な素子特性を得ることができる。
【0131】
(第五の比較例)
本比較例では、本発明に特徴的なバイアス電極への高周波バイアス電力の印加を行わず、その他は、第五の実施例と同様の方法・条件を用いて、Si(111)基板上にAlN膜を形成する。その結果、得られるAlN膜は、+c極性と−c極性の混在したエピタキシャル膜となる。また、得られるAlN膜上にMOCVD法を用いて2μmの膜厚のアンドープGaN膜を形成すると、得られるアンドープGaN膜の表面は白濁する。
【0132】
さらに、得られるアンドープGaN膜を利用して、LED素子およびHEMT素子を作製すると、どちらの素子においても良好な素子特性を得ることは困難となる。
【0133】
このように、本発明に係る成膜方法は、+c極性で結晶性に優れたIII族窒化物半導体薄膜を、Si(111)基板上に形成する上でも極めて有効な手段である。
【0134】
(第六の実施例)
本実施例では、ターゲット材料とプロセスガス、成膜温度および膜厚を除いて、第一の実施例と同様の方法・条件によって、ZnO膜をα−Al
2O
3(0001)基板上に形成する。ターゲット材料は金属Zn、プロセスガスはO
2とArの混合ガス(O
2/(O
2+Ar):25%)、成膜温度は800℃、膜厚は100nmとする。
【0135】
本実施例に係るZnO膜は、III族窒化物半導体と同様の結晶構造(ウルツ鉱構造)で、かつ、III族窒化物半導体と同様のc軸配向のエピタキシャル膜として形成され、その極性は+c極性(Zn極性)である。また、得られるZnO膜上に、MBE法を用いてn型のZnO膜とp型のZnO膜の積層膜からなるエピタキシャルウェハー(LED構造)を形成し、その後、リソグラフィー技術およびRIE技術等を用いることで、LED素子を作製すると、ZnO膜を用いたLED素子としては良好な素子特性を得ることができる。
【0136】
また、本実施例に係るZnO膜上に、MOCVD法を用いて2μmの膜厚のアンドープGaN膜を形成すると、得られるアンドープGaN膜の表面は鏡面となり、c軸配向した単結晶膜として得られる。このため、本実施例に係るZnO膜は、III族窒化物半導体薄膜を用いたLED素子の製造における緩衝層などとしても利用できる。
【0137】
また、金属Znターゲットの代わりに、Mg−Zn合金からなるターゲットを用い、本発明にかかる成膜方法によってMg添加ZnO膜(以下、MgZnO膜)を成膜すると、ZnO膜と同様に、+c極性で結晶性に優れたMgZnO膜が得られる。MgZnO膜は、Mgの添加量に応じてバンドギャップエネルギーを制御することができるため、それを発光層として用いることで、ZnO膜のみ用いる場合とは異なる発光波長のLED素子を実現することが可能となる。
【0138】
(第六の比較例)
本比較例では、本発明に特徴的なバイアス電極への高周波バイアス電力の印加を行わず、その他は、第六の実施例と同様の方法・条件を用いて、ZnO膜をα−Al
2O
3(0001)基板上に形成する。本比較例に係るZnO膜は、第六の実施例と同様にc軸配向したエピタキシャル膜として得られるが、その極性は+c極性(Zn極性)と−c極性(O極性)とが混在する。また、第六の実施例と同様に、得られるZnO膜を利用してLED素子を作製しても、良好な素子特性を得ることは困難である。
【0139】
また、本比較例に係るZnO膜上に、MOCVD法を用いて2μmの膜厚のアンドープGaN膜を形成すると、得られたアンドープGaN膜の表面は白濁し、結晶性に優れたGaN膜を得ることは困難となる。また、金属Znターゲットの代わりに、Mg−Zn合金からなるターゲットを用いてMgZnO膜を成膜すると、得られるMgZnO膜は、+c極性と−c極性とが混在しており結晶性の良好なものを得ることは難しい。
【0140】
このように、本発明に係る成膜方法は、形成する薄膜材料がZnO膜またはMgZnO膜などのZnO系半導体薄膜であっても優れた効果を発揮し、+c極性で結晶性に優れたZnO系半導体薄膜を得る上で、極めて有効な手段である。
【0141】
なお、第六の実施例と同様の実験を、Si(111)基板を用いて実施すると、Si(111)基板上でも+c極性のZnO系半導体薄膜が得られる。また、第六の比較例と同様の実験を、Si(111)基板を用いて実施すると、得られたZnO系半導体薄膜の極性は、+c極性と−c極性とが混在する。
【0142】
なお、本発明に係る成膜方法において用いることが可能な基板は、α−Al
2O
3(0001)基板とSi(111)基板に限定されない。
【0143】
例えば、α−Al
2O
3(0001)基板やSi(111)基板は、III族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜とのエピタキシャル関係を有しているが、該III族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜等の極性を制御しうるような結晶情報を、その基板表面に有していない。このような基板を本明細書では、非極性表面を有する基板、と記載する。
【0144】
このため、本発明に係る成膜方法のような、III族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜の極性を制御しうる成膜方法を用いなければ、非極性表面を有する基板上に、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を得ることは困難である。しかしながら、本発明に係る成膜方法を用いることによって、非極性表面を有する基板上であっても、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜の形成が可能となる。
【0145】
このような非極性表面を有する基板としては、ゲルマニウム(Ge)(111)基板、(111)配向のSiGeエピタキシャル膜が表面に形成されたSi(111)基板、(111)配向の炭素(C)ドープSi(111)エピタキシャル膜が形成されたSi(111)基板などがある。
【0146】
また、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を得るために、Si面と呼ばれる基板表面を有する4H−SiC(0001)基板や6H−SiC(0001)基板、Ga面と呼ばれる基板表面を有するGaN(0001)基板などが一般的によく利用されている。前記のSi面とGa面を有する基板は、基板上に形成するIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜とのエピタキシャル関係を有し、かつ、III族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を、+c極性に制御しうるような結晶情報を基板表面に有している。そのため、該III族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜の極性を制御しうるような特別な成膜技術を用いずとも、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を得やすいという特徴がある。なお、このようにIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜とのエピタキシャル関係を有し、かつ、該III族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を+c極性に制御しうるような結晶情報を有する基板を、本明細書では、有極性表面を有する基板、と記載する。
【0147】
これらの有極性表面を有する基板上では、本発明に係る成膜方法を用いずとも、+c極性の存在割合が高く、比較的高品質なIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を得ることができる。しかし、このような基板を用いた場合においても、本発明に係る成膜方法を用いることで、さらに+c極性の統一度を向上した高品質なIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を得ることができる。
【0148】
上記の有極性表面を有する基板を用いた場合、III族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜等は、ほぼ単一な+c極性のエピタキシャル膜として得られやすい。しかし、特に成長初期など、部分的に−c極性の領域(以下、反転ドメイン領域と記載)がわずかに形成される場合があり、それが、反位境界などの欠陥を形成して、上記薄膜表面へ伝播されることがある。すなわち、本発明に係る成膜方法を用いることで、そのような反転ドメインの形成確率をさらに低減し、反位境界などの欠陥の形成をさらに抑制しているため、有極性表面を有する基板を用いた場合でも、本発明の効果を得ることができるものと考えられる。
【0149】
このようなIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜とのエピタキシャル関係を有し、かつ、非極性表面または有極性表面を有する基板の総称として、エピタキシャル成長用基板という用語を用いることとする。
【0150】
本発明の大きな特徴は、エピタキシャル成長用基板上に、ウルツ鉱構造のターゲットおよび成膜させた際にウルツ鉱構造の膜を形成させるためのターゲットの少なくとも一方を用いたスパッタリング法によって、ウルツ鉱型の結晶構造を有するIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を形成する際に、バイアス電極へ高周波バイアス電力を印加することに着目した点にある。バイアス電極への高周波バイアス電力の印加により基板の成膜面側に生じたシース領域Sの電界を、ターゲットから放出された窒化物分子の分極に作用させて配向を制御し、その配向を利用して、+c極性でウルツ鉱型の結晶構造を有するIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を得ることは従来には無い技術思想である。なお、ウルツ鉱構造のターゲットとは、AlN、GaN、ZnO等のウルツ鉱構造を有するターゲットをいい、成膜させた際にウルツ鉱構造の膜を形成させるためのターゲットとは、Al、Ga、Zn等の金属ターゲットであり、O
2ガスやN
2ガス等の反応性ガスの存在下でスパッタリングを行うことにより基板上にウルツ鉱構造の膜を形成するものをいう。
【0151】
また、ターゲット電極に印加する高周波電力とバイアス電極に印加する高周波電力との干渉による低周波のうなり、すなわち周波数干渉を防止ないしは低減することで、+c極性でウルツ鉱型の結晶構造を有するIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を再現性良く得ることは、従来には無い技術思想である。
【0152】
さらに本発明者は、
図8に示すような基板離間載置ホルダー111dにおいても、+c極性で高品質なエピタキシャル膜を得るうえで上記の技術思想を適用することが有効であることを見出した。
図8は、基板離間載置ホルダー111dの断面部分概略図を示している。基板離間載置ホルダー111dは、基板804を基板ホルダー(例えば111c)の基板載置面Mから所定距離だけ離間して載置できる。図中、符号802は絶縁物からなる基板支持部、符号803は基板支持部802と一体に形成された載置部、符号Pは基板ホルダー111dの基板対向面、符号d1は基板支持部802と基板対向面Pとの間の隙間、符号d2は基板804と基板対向面Pとの間の隙間、である。なお、基板離間載置ホルダー111dにおける基板対向面Pは、
図4の基板ホルダー111cにおける基板載置面Mと同じ面であるが、基板離間載置ホルダー111dにおいては、基板804を基板ホルダー111cに直接接して載置しないことから、基板対向面Pと呼ぶ。
【0153】
図8において示されるように、基板804は基板支持部802によって外周部を保持されており、基板804と基板対向面P、および、基板支持部802と基板対向面P、とは空間を介して保持されている。隙間d1の間隔としては、0.4mm以上が望ましく、隙間d2としては、0.5mm以上が望ましい。また、隙間d1および隙間d2、特に隙間d2は、広げ過ぎると基板804と基板対向面Pとの間の空間にプラズマが発生してしまうため、5mm以下にすることが望ましく、より好ましくは2mm以下にすることが望ましい。このような適切な距離の隙間d1および隙間d2を設け、且つ、本発明に係る高周波干渉を抑制した成膜方法を用いることによって、+c極性で高品質なエピタキシャル膜を得ることが可能となる。
【0154】
(実施例7)
以下に、第七の実施例として、
図8に示す基板離間載置ホルダー111dを用いて、AlN膜をα‐Al
2O
3(0001)基板上へ成膜し、その後、MOCVD法により、アンドープGaN膜を形成する例を説明する。より詳しくは、基板離間載置ホルダー111dの不図示の共通電極に、高周波バイアス電力を印加した状態で、α‐Al
2O
3(0001)基板上にスパッタリング法を用いてAlN膜を形成し、その後、MOCVD装置に基板を導入して、5μmの膜厚のアンドープGaN膜を形成する例を説明する。なお、本実施例において、
図8に示す基板離間載置ホルダー111dを用いている以外は、AlN膜は実施例1と同様の装置・条件を用いて成膜する。また、アンドープGaN膜の成長については、実施例2と同じ成膜方法、成膜条件を用いる。
【0155】
本実施例において得られるAlN膜は、CAICISS測定において、+c極性として成膜されることを確認でき、対称面およびIn−planeのXRC測定においても、チルトおよびツイストのモザイク広がりの小さなc軸配向のエピタキシャル膜として成膜されることを確認できる。また、上記AlN膜上にアンドープGaN膜を成長すると、極めて結晶性の良好なエピタキシャル膜が得られる。本実施例により得られるアンドープGaN膜は、不図示の共通電極に高周波バイアス電力を印加しない状態でα‐Al
2O
3(0001)基板上にスパッタリング法を用いてAlN膜を形成し、その後、MOCVD法によって成長したアンドープGaN膜よりも結晶品質が良好である。
【0156】
なお、
図8に示すように、基板の外周部を保持する場合には、基板支持部や載置部の部材を絶縁物とすると望ましい。導電性部材を用いると、基板外周部と基板中心部とで、極性の分布が異なりやすくなる。例えば、基板中心部では、+c極性が得られているのに対し、基板外周部では極性が混在するなどの問題が生じる恐れがある。また、ターゲットを装置下方、基板ホルダーを装置上方に配置した場合には、多くの場合、基板外周部を直接基板支持部で保持するか、基板を開口部を有するトレイに載せつつ、その開口部外周部で基板を保持し、トレイの開口部から基板表面に成膜するなどの方法が用いられる。この場合も、基板を保持する基板支持部が絶縁物であると望ましい。
【0157】
また、非極性表面を有する基板上に、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜をスパッタリング法によって形成するためには、上記基板上に形成する少なくとも第一の層の成膜において、本発明にかかる成膜方法を適用しなければならない。なぜならば、第一の層の成膜において、本発明にかかる成膜方法を適用しない場合は、第一の層が極性の混在した状態、または−c極性の状態になりやすいためである。第一の層において、−c極性の混在した状態が生じると、その後の成膜において、+c極性のIII族窒化物半導体薄膜やZnO系半導体薄膜を得ることが困難になる。なお、第一の層とは基板上に直接成膜される成膜層であり、
図6では緩衝層602に相当する。