(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886475
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】風力発電装置
(51)【国際特許分類】
F03D 80/00 20160101AFI20160303BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
F03D11/00 A
F03D1/06 A
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-512412(P2015-512412)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2014055480
(87)【国際公開番号】WO2015132884
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2015年3月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】和田 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】久保田 晴仁
(72)【発明者】
【氏名】山村 幸政
(72)【発明者】
【氏名】内山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】尾山 圭二
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 寿樹
【審査官】
佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0070299(US,A1)
【文献】
特表2006−524772(JP,A)
【文献】
特開2013−137006(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/095396(WO,A1)
【文献】
特開2012−163049(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/081374(WO,A1)
【文献】
特開2003−254226(JP,A)
【文献】
特開2011−247419(JP,A)
【文献】
特開2007−092716(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0229320(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0022463(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/00
F03D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚力型の風車翼を有するロータが風を受けて回転することにより発電機を駆動して発電する風力発電装置であって、
前記風車翼の翼背面に、前記風車翼内の閉空間と外部とを連通する開閉可能な開口部が前記風車翼の長手方向における中央部よりも前記ロータの回転軸側の部位のみに設けられており、
前記翼背面における剥離現象、又は、その前兆現象が発生すると、前記開口部が開き、
前記剥離現象が解消した後、前記開口部が開いてから所定時間の経過後、又は、前記剥離現象が解消してから所定時間の経過後に、前記開口部が閉じることを特徴とする風力発電装置。
【請求項2】
揚力型の風車翼を有するロータが風を受けて回転することにより発電機を駆動して発電する風力発電装置であって、
前記風車翼の翼背面に、前記風車翼内の閉空間と外部とを連通する開閉可能な開口部が前記風車翼の長手方向における中央部よりも前記ロータの回転軸側の部位のみに設けられており、
前記風車翼内の閉空間を前記翼背面側の空間と翼腹面側の空間とに分ける隔壁が、前記閉空間内に設けられていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項3】
請求項1に記載の風力発電装置であって、
前記風車翼内の閉空間を前記翼背面側の空間と翼腹面側の空間とに分ける隔壁が、前記閉空間内に設けられていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の風力発電装置であって、
前記ロータの回転軸は水平方向に延び、前記風車翼はその長手方向が前記回転軸の径方向に沿うように放射状に取り付けられ、
前記翼背面のうち前記長手方向における前記回転軸側の部位に前記開口部が設けられていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項5】
揚力型の風車翼を有するロータが風を受けて回転することにより発電機を駆動して発電する風力発電装置であって、
前記風車翼の翼背面に、前記風車翼内の閉空間と外部とを連通する開閉可能な開口部が前記風車翼の長手方向における中央部よりも前記ロータの回転軸側の部位のみに設けられており、
前記ロータの回転軸は水平方向に延び、前記風車翼はその長手方向が前記回転軸の径方向に沿うように放射状に取り付けられ、
前記翼背面のうち前記長手方向における前記回転軸側の部位に前記開口部が設けられており、
前記風車翼内の閉空間を前記長手方向に分ける隔壁であって、前記閉空間を、前記翼背面に前記開口部が設けられている空間と、前記翼背面に前記開口部が設けられていない空間と、に分ける隔壁が、前記閉空間内に設けられていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の風力発電装置であって、
前記翼背面のうち、当該翼背面から翼腹面までの翼厚が最大となる位置よりも後縁側の部位に、前記開口部が設けられていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項7】
請求項6に記載の風力発電装置であって、
前記翼背面のうち、前記翼厚が最大となる位置よりも前縁側の部位にも、前記開口部が設けられていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項8】
揚力型の風車翼を有するロータが風を受けて回転することにより発電機を駆動して発電する風力発電装置であって、
前記風車翼の翼背面に、前記風車翼内の閉空間と外部とを連通する開閉可能な開口部が前記風車翼の長手方向における中央部よりも前記ロータの回転軸側の部位のみに設けられており、
前記閉空間内には、前記翼背面を形成する背側部材から翼腹面を形成する腹側部材まで延びる補強部材が設けられ、
前記補強部材よりも前記風車翼の前縁側の空間と後縁側の空間とを連通する孔が、前記補強部材に設けられていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の風力発電装置であって、
前記閉空間内には、前記翼背面を形成する背側部材から翼腹面を形成する腹側部材まで延びる補強部材が設けられ、
前記補強部材よりも前記風車翼の前縁側の空間と後縁側の空間とを連通する孔が、前記補強部材に設けられていることを特徴とする風力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
揚力型の風車翼を有する風力発電装置では、翼背面を流れる気流の速度が翼腹面を流れる気流の速度よりも速くなることにより、翼背面側に向く揚力が発生する。この揚力により風車翼が回転して発電機が駆動されることにより、風力エネルギーが電気エネルギーに変換されて得られる。この揚力は、風車翼の周囲に発生する空気流の速度に比例して増大するため、例えば、風車翼の翼背面に渦発生手段を設け、翼背面との摩擦による空気流の速度低下を防止する風力発電装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−127448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、風車翼の翼背面に発生する揚力は、風車翼の前縁と後縁とを結ぶ直線方向(翼弦方向)と、風車翼が受ける風向きと、で成す角度である迎え角を大きくする程に、増大する。但し、迎え角が所定角以上になると、翼背面から空気流が離れる剥離現象が発生し、風車翼の揚力が減少してしまう。また、翼背面にて剥離現象が発生すると、剥離箇所の下流側に負圧領域が発生し、翼内空間と翼背面上とで圧力差が生じ、翼背面を外側に引っ張る力が翼背面に掛かってしまう。その結果、翼背面が変形したり、風車翼の前縁に亀裂が生じたりする等して、風車翼が損傷してしまう。
【0005】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであって、風車翼の翼背面で発生する剥離現象による風車翼の損傷を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一つは、揚力型の風車翼を有するロータが風を受けて回転することにより発電機を駆動して発電する風力発電装置であって、前記風車翼の翼背面に、前記風車翼内の閉空間と外部とを連通する開閉可能な開口部が
前記風車翼の長手方向における中央部よりも前記ロータの回転軸側の部位のみに設けられていることを特徴とする風力発電装置である。
【0007】
このような風力発電装置によれば、剥離現象により発生した翼背面の負圧領域に向けて、風車翼内の閉空間から空気流を流すことができる。よって、翼背面の負圧領域の圧力が高まり、且つ、翼内空間の圧力が低下して、両者の差圧が低減し、翼背面に掛かる力を低減することができ、風車翼の損傷を抑制することができる。また、開口部における凹部や突出部(例えば凹部の縁や蓋部材)を起因とする乱流の発生により剥離現象を停止したり、剥離現象の影響を低減したりすることができる。また、翼背面で剥離現象が発生していない時には開口部が閉じられるため、翼内空間と翼背面との間での空気流の流れを防止することができる。また、開口部における凹部や突出部を起因とする乱流の発生を防止することができる。よって、翼背面に沿って空気流を流すことができ、風車翼を効率よく回転させることができる。
しかも、翼背面のうち、剥離現象が発生し易い翼根部側の部位にだけ開口部を設けることで、開口部の数を少なくして風車翼の製造コストの増加や風車翼の強度低下を抑えつつ、剥離現象による風車翼の損傷を確実に抑制することができる。
【0008】
かかる風力発電装置であって、前記翼背面における剥離現象、又は、その前兆現象が発生すると、前記開口部が開き、前記剥離現象が解消した後、前記開口部が開いてから所定時間の経過後、又は、前記剥離現象が解消してから所定時間の経過後に、前記開口部が閉じることを特徴とする風力発電装置である。
【0009】
このような風力発電装置によれば、剥離現象により発生した翼背面の負圧領域に向けて、風車翼内の閉空間から空気流を流すことができ、風車翼の損傷を抑制することができる。また、開口部における凹部や突出部(例えば凹部の縁や蓋部材)を起因とする乱流の発生により剥離現象を停止したり、剥離現象の影響を低減したりすることができる。また、翼背面で剥離現象が発生していない時には、翼内空間と翼背面との間での空気流の流れを防止することと、開口部における凹部や突出部を起因とする乱流の発生を防止することにより、翼背面に沿って空気流を流すことができるため、風車翼を効率よく回転させることができる。
【0010】
かかる風力発電装置であって、前記風車翼内の閉空間を前記翼背面側の空間と翼腹面側の空間とに分ける隔壁が、前記閉空間内に設けられていることを特徴とする風力発電装置である。
【0011】
このような風力発電装置によれば、開口部が開いた時に、翼腹面側の翼内空間の圧力が下がって翼腹面に吹き付ける風の圧力と合わせて翼を破壊する力が掛かってしまうことを抑え、風車翼の損傷を抑制することができる。
【0012】
かかる風力発電装置であって、前記ロータの回転軸は水平方向に延び、前記風車翼はその長手方向が前記回転軸の径方向に沿うように放射状に取り付けられ、前記翼背面のうち前記長手方向における前記回転軸側の部位に前記開口部が設けられていることを特徴とする風力発電装置である。
【0013】
このような風力発電装置によれば、剥離現象が発生し易い翼根部側(回転軸側)の部位の損傷を確実に抑制することができる。
【0014】
かかる風力発電装置であって、前記風車翼内の閉空間を前記長手方向に分ける隔壁であって、前記閉空間を、前記翼背面に前記開口部が設けられている空間と、前記翼背面に前記開口部が設けられていない空間と、に分ける隔壁が、前記閉空間内に設けられていることを特徴とする風力発電装置である。
【0015】
このような風力発電装置によれば、開口部が開いた時に、翼背面に開口部が設けられていない空間(翼先端部側の空間)の圧力が下がって風車翼の外周面に力が掛かってしまうことを抑え、風車翼の損傷を抑制することができる。
【0016】
かかる風力発電装置であって、前記翼背面のうち、当該翼背面から翼腹面までの翼厚が最大となる位置よりも後縁側の部位に、前記開口部が設けられていることを特徴とする風力発電装置である。
【0017】
このような風力発電装置によれば、剥離現象により発生する負圧領域の位置に開口部が位置し易くなり、確実に且つ効率的に、翼内空間から負圧領域に向けて空気流を流し、翼内空間と翼背面上とでの圧力差を小さくすることができる。
【0018】
かかる風力発電装置であって、前記翼背面のうち、前記翼厚が最大となる位置よりも前縁側の部位にも、前記開口部が設けられていることを特徴とする風力発電装置である。
【0019】
このような風力発電装置によれば、剥離現象による負圧領域が翼背面の前縁側に発生したときにも、風車翼の損傷を抑制することができる。また、前縁側と後縁側の開口部を同時に開くことで、負圧領域に向けて連続的に多量に空気流を流すことができ、翼内空間と翼背面上とでの圧力差をより確実に小さくすることができる。
【0020】
かかる風力発電装置であって、前記閉空間内には、前記翼背面を形成する背側部材から翼腹面を形成する腹側部材まで延びる補強部材が設けられ、前記補強部材よりも前記風車翼の前縁側の空間と後縁側の空間とを連通する孔が、前記補強部材に設けられていることを特徴とする風力発電装置である。
【0021】
このような風力発電装置によれば、剥離現象による負圧領域が翼背面の前縁側に発生したときにも、前縁側の翼内空間と翼背面上とでの圧力差を小さくし、風車翼の損傷を抑制することができる。また、より大きな翼内空間から負圧領域に向けて多量に空気流を流すことができ、翼内空間と翼背面上とでの圧力差をより確実に小さくすることができる。
【0022】
本発明の他の特徴については、添付図面及び本明細書の記載により明らかとなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、風車翼の翼背面で発生する剥離現象による風車翼の損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3A】
図2の線AAにおける風車翼の断面周りの空気流を説明する図である。
【
図3B】
図2の線BBにおける風車翼の断面周りの空気流を説明する図である。
【
図4】
図2の線BBにおける風車翼の断面図である。
【
図5A】翼背面に設けられる開口部ユニットを説明する図である。
【
図5B】翼背面に設けられる開口部ユニットを説明する図である。
【
図5C】翼背面に設けられる開口部ユニットを説明する図である。
【
図5D】翼背面に設けられる開口部ユニットを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、風力発電装置1の概略斜視図であり、
図2は、風車翼10の平面図であり、
図3Aは、
図2の線AAにおける風車翼10の断面周りの空気流を説明する図であり、
図3Bは、
図2の線BBにおける風車翼10の断面周りの空気流を説明する図である。
図4は、
図2の線BBにおける風車翼10の断面図である。
<<風力発電装置1>>
風力発電装置1は、地面等の基礎上に設置されるタワー2と、タワー2の頂部に設置され、発電機3やその回転軸4等を収容するナセル5と、揚力型の3本の風車翼10を有し、水平方向に延びる回転軸4周りに回転するロータ6と、ナセル5に取り付けられた風向風速計7と、を有する。風車翼10は、その長手方向が回転軸4の径方向に沿うように、放射状に取り付けられている。つまり、本実施形態の風力発電装置1は、水平軸揚力型風車を利用した発電装置である。但しこれに限らず、例えば、風車翼の回転軸が垂直方向に沿う風車を利用した発電装置でもよい。また、回転軸4の延びる方向は厳密な水平方向に限らず若干ずれた方向も含む。また、風車翼10の数は3本に限定されるものではない。
【0026】
以下の説明のため、風車翼10の前縁LEと後縁TEとを結ぶ直線方向を「翼弦方向」と呼び、前縁LEと後縁TEとを結ぶ直線の長さを「翼弦長」と呼び、風車翼10の長手方向及び翼弦方向で形成される面に直交する方向(つまり
図2の紙面に垂直な方向)を「翼厚方向」と呼び、翼背面10aから翼腹面10bまでの翼厚方向の長さを「翼厚」と呼び、風車翼10の長手方向における回転軸4側の部位を「翼根部」と呼び、その反対側の部位を「翼先端部」と呼ぶ。
【0027】
風車翼10は、長手方向の全長に亘って翼背面10a及び翼腹面10bが流線形状を成すように形成されている。詳しくは、
図4に示すように、前縁LEから後縁TEに向かって徐々に翼厚が厚くなり、位置Pにて最大翼厚となった後、後縁TEに向かって徐々に翼厚が薄くなっている。なお、本実施形態の風車翼10では、翼背面10aを形成する背側部材101の周縁と翼腹面10bを形成する腹側部材102の周縁とが溶接等により接合され、背側部材101と腹側部材102によって風車翼10内に閉空間が形成されている。また、風車翼10では、
図2に示すように、翼根部から翼先端部に向かって徐々に翼弦長が減少し、且つ、翼厚が薄くなっている。
【0028】
そして、風車翼10が風を受け、風車翼10の前縁LEから後縁TEへと空気流が流れると、翼背面10a側と翼腹面10b側との空気流の速度差により、翼背面10aの外側に向く揚力が発生する。その結果、風車翼10(ロータ6)が回転軸4と共に回転し、回転軸4の回転力が発電機3に伝達され、発電機3が駆動して発電する。
<<翼背面10aにおける剥離現象>>
風車翼10は、
図3に示すように、自然の風による空気流Vwと、風車翼10の回転による空気流Vrと、の合成空気流Vcを受ける。この合成空気流Vcの方向と翼弦方向とで成す角度である迎え角αを大きくする程に、風車翼10の揚力が高まり、風車翼10の回転力が増す。但し、迎え角αが所定角以上になると、翼背面10aに沿って空気流が流れず、翼背面10aから空気流が離れる剥離現象が発生し、風車翼10の揚力が減少してしまう。
【0029】
そのため、風力発電装置では、例えば、風車翼10を回転軸4に対して回動可能に連結し、風向風速に応じて最適な迎え角αとなるように、風車翼10の取り付け角度(ピッチ角)を調整するピッチ制御や、ロータ6が正面から風を受けられるように、風向に応じてロータ6(ナセル35)の向きを変えるヨー制御等が実施されている。しかし、例えば日本の山岳地帯のように、風向風速が激しく変動する地域では、ピッチ制御やヨー制御では対応しきれずに、翼背面10aにおける剥離現象が頻繁に発生してしまうという問題が起こっていた。
【0030】
特に、風車翼10の翼根部(
図3B)は翼先端部(
図3A)に比べ、回転速度が遅く、風車翼10の回転による空気流Vrの速度が遅い。そのため、翼根部は翼先端部に比べ、迎え角αが大きく、ピッチ制御では対応しきれず、また、自然の風の減速(Vw’→Vw)による合成空気流の減速割合(Vc’→Vc)が大きく、風速が減少し易く、剥離現象が発生し易い。また、回転速度が遅い翼根部は翼先端部に比べてレイノルズ数が低い値となり、翼根部の周囲には層流境界層が形成されるため、翼根部では剥離現象が発生し易い状態にあることや、翼厚の薄い翼先端部に比べて翼根部は曲率の大きい断面となっていることなどからも、翼根部は翼先端部に比べ、翼背面10aにおける剥離現象が発生し易いと言える。
【0031】
翼背面10aにおいて剥離現象が発生すると、揚力が減少する他、
図3Bに示すように、剥離箇所の下流側の翼背面10a上の圧力が低下し、負圧領域が発生してしまう。このため、翼内空間と翼背面10a上とで圧力差が生じ、翼背面10aを外側に引っ張る力が翼背面10a(背側部材101)に掛かってしまう。そうすると、翼背面10aの外形が変形したり、また、本実施形態のように背側部材101と腹側部材102とが接合された風車翼10では前縁LE部分に亀裂が生じたりして、風車翼10が損傷するおそれがある。そこで、本実施形態の風力発電装置1では、翼背面10aで発生する剥離現象による風車翼10の損傷、特に、翼根部にて発生し易い剥離現象による風車翼10の損傷を抑制することを目的とする。
<<風車翼10の開口部20a>>
剥離現象による風車翼10の損傷を抑制するために、本実施形態の風力発電装置1では、風車翼10の翼背面10aに、風車翼10内の閉空間と外部とを連通する開閉可能な開口部20a(後述する開口部ユニット20)が設けられている。そして、風車翼10の翼背面10aにおける剥離現象又はその前兆現象が発生すると、翼背面10aの開口部20aが開き、剥離現象が解消した後、又は、開口部20aが開いてから所定時間の経過後、又は、剥離現象が解消してから所定時間の経過後に、開口部20aが閉じる。
【0032】
そうすることで、剥離現象により発生した翼背面10aの負圧領域に向け、風車翼10内の閉空間から開口部20aを介して空気流を流すことができ、翼背面10aの負圧領域の圧力を高め、且つ、翼内空間の圧力を下げることができる。つまり、翼内空間と翼背面10a上とでの圧力差を小さくし、翼背面10aを外側に引っ張る力を低減することができるため、風車翼10の損傷を抑制することができる。また、開口部20aにおける凹部や突出部(例えば凹部の縁や蓋部材)を起因とする乱流の発生により剥離現象を停止したり、剥離現象の影響を低減したりすることができる。一方、翼背面10aで剥離現象が発生していない時には、開口部20aが閉じられるため、翼内空間と翼背面10aとの間での空気流の流れを防止することができ、また、開口部20aにおける凹部や突出部を起因とする乱流の発生を防止することができる。従って、翼背面10aに沿って空気流を流すことができ、風車翼10を効率よく回転させることができる。
【0033】
また、前述のように、風車翼10の翼根部の方が翼先端部に比べ、翼背面10aでの剥離現象が発生し易い。そのため、本実施形態の風車翼10では、
図2に示すように、翼背面10aのうち翼根部側の部位(長手方向における回転軸4側の部位)に、開口部20aが設けられている。詳しくは、風車翼10の翼根部側の端から翼先端部側に向かって風車翼10の全長(L)の1/3の長さ(L/3)の範囲に亘り、複数の開口部20aが長手方向に間隔を空けて並んでいる。一方、翼背面10aのうち翼先端部側の部位には開口部20aが設けられていない。しかし、翼先端部は翼根部に比べて剥離現象が発生し難いため、開口部20aを設けなくとも、剥離現象による風車翼10の損傷の虞が少なく、問題ないと言える。つまり、翼背面10aのうち、剥離現象が発生し易い翼根部側の部位にだけ開口部20aを設けることで、開口部20aの数を少なくして風車翼20の製造コストの増加や風車翼の強度低下を抑えつつ、剥離現象による風車翼10の損傷を確実に抑制することができる。なお、
図2では、開口部20aの平面形状を円形状としているが、これに限らず、例えば四角形状等でもよい。
【0034】
また、翼背面10aにおける剥離箇所の下流側の領域が負圧領域となる。また、
図4に示す風車翼10のように翼根部の断面の曲率が大きい場合、最大翼厚位置Pを境に翼背面10aの傾斜方向が大きく変わるため、最大翼厚位置Pの近傍にて剥離現象が発生し易い。そのため、本実施形態の風車翼10では、翼背面10aのうち、最大翼厚位置Pよりも後縁側の部位に、開口部20aが設けられている。更に言えば、翼背面10aのうち、翼弦長の中央位置よりも後縁側の部位に、開口部20aが設けられている。そうすることで、剥離現象により発生する負圧領域の位置に開口部20aが位置し易くなる。よって、確実に且つ効率的に、翼内空間から負圧領域に向けて空気流を流すことができ、翼内空間と翼背面10a上とでの圧力差を小さくすることができる。
【0035】
また、風車翼10内には、
図4に示すように、最大翼厚位置Pに第1補強部材11が設けられ、開口部20aよりも後縁側の位置に第2補強部材12が設けられている。第1補強部材11及び第2補強部材12は、それぞれ、背側部材101の内側面から腹側部材102の内側面まで翼厚方向に延びている。また、風車翼10内には、第2補強部材12から前縁LEに対応する内側面まで翼弦方向に延びる第1隔壁13が設けられている。また、第1補強部材11には、第1隔壁13よりも翼背面側の部位に、第1補強部材11よりも前縁側の翼内空間a2と後縁側の翼内空間a1とを連通する孔14が設けられている。
【0036】
そして、第1隔壁13によって、風車翼10内の閉空間が翼背面側の翼内空間a1,a2と翼腹面側の翼内空間a3,a4とに分けられ、また、翼背面側の翼内空間a1,a2と翼腹面側の翼内空間a3,a4との間での空気の流れが規制されている。つまり、第1隔壁13によって、風車翼10内の閉空間は、開口部20aを介して翼背面10a上の外部と連通する翼内空間a1,a2と、翼背面10a上の外部と連通しない翼内空間a3,a4とに分けられる。仮に、風車翼10内に第1隔壁13が設けられていないとすると、開口部20aが開いた時に、翼腹面側の翼内空間a3,a4の圧力が下がってしまう。しかし、翼腹面10bでは翼背面10aのように負圧領域が発生していない。そのため、翼腹面側の翼内空間a3,a4と翼腹面10b側の外部とで圧力差が生じ、翼腹面10bを内側に押す力が翼腹面10b(腹側部材102)に働き、翼腹面10bが凹む等の変形が生じてしまう。ゆえに、風車翼10内に第1隔壁13を設けることで、開口部20aが開いた時にも、翼腹面側の翼内空間a3,a4の圧力が外部の圧力よりも下がって翼腹面10bに力が掛かってしまうことを抑え、風車翼10の損傷を抑制することができる。
【0037】
同様に、
図2に示すように、風車翼10内の閉空間を長手方向に分ける第2隔壁15であって、風車翼10内の閉空間を、翼背面10aに開口部20aが設けられていない空間(翼先端部側の空間)と、翼背面10aに開口部20aが設けられている空間(翼根部側の空間)と、に分ける第2隔壁15が風車翼10内に設けられている。つまり、風車翼10内に第2隔壁15を設けることで、翼先端部側の空間と翼根部側の空間との間での空気の流れが規制され、開口部20aが開いた時にも、翼先端部側の空間の圧力が外部の圧力よりも下がってしまうことを抑制できる。従って、翼先端部の外周面に力が掛かってしまうことを抑え、風車翼10の損傷を抑制することができる。
【0038】
なお、第1隔壁13及び第2隔壁15は可撓性を有する部材で形成することが好ましい。そうすることで、開口部20aが開いて開口部20aと連通する空間の圧力が下がった時に、第1隔壁13及び第2隔壁15が撓むことにより、風車翼10の内側面と各隔壁13,15との接続部に強い力が掛かってしまうことを抑制できる。
【0039】
また、上記したように、第1補強部材11には、第1隔壁13よりも翼背面側に、第1補強部材11よりも風車翼10の前縁側の翼内空間a2と後縁側の翼内空間a1とを連通する孔14が設けられている。そうすることで、開口部20aが開いた時に、後縁側の翼内空間a1と共に前縁側の翼内空間a2の圧力を下げることができる。従って、剥離現象による負圧領域が翼背面10aの前縁側に発生した際にも、前縁側の翼内空間a2と翼背面10a上とでの圧力差を小さくし、風車翼10の損傷を抑制することができる。また、第1補強部材11に孔14を設けることで、より大きな翼内空間a1,a2から負圧領域に向けて多量に空気流を流すことができ、翼内空間a1,a2と翼背面10a上とでの圧力差をより確実に小さくすることができる。
<<開口部ユニット20>>
図5Aから
図5Dは、翼背面10aに設けられる開口部ユニット20、即ち、開口部20aの開閉機構の実施例を説明する図である。なお、実際の翼背面10aは曲面となっているが、
図5では説明の簡略のために翼背面10aを平面で示す。また、
図5に示す開口部ユニット20は一例であり、開口部20aを開閉できる機構であれば何れの機構でもよい。
【0040】
例えば、
図5Aに示す開口部ユニット20は、背側部材101の一部である蓋部材21と、蓋部材21の一端と背側部材101とを連結するヒンジ22と、ヒンジ22を介して蓋部材21を回動するモーター23と、モーター23を制御する制御部24と、を有する。この場合、制御部24が、翼背面10aにおける剥離現象又はその前兆現象を検知すると、モーター23を駆動してヒンジ22を回動させる。そうすると、ヒンジ22を支点に蓋部材21が翼内空間a1側に回動して開口部20aが開き、翼内空間a1と翼背面10a上の外部とが連通する。また、制御部24は、剥離現象が解消したことを検知した後、又は、開口部20aを開いてから所定時間の経過後、又は、剥離現象が解消したことを検知してから所定時間の経過後に、再びモーター23を駆動して蓋部材21を回動させて開口部20aを閉じ、翼内空間a1と翼背面10a上の外部との連通を遮断する。
【0041】
その他、
図5Bに示すように、背側部材101の一部である蓋部材21と、蓋部材21に回転軸23aが接続されたモーター23と、モーター23を制御する制御部24と、を有する開口部ユニット20でもよい。この場合、制御部24がモーター23を駆動することにより、モーター23の回転軸23a周りに蓋部材21が回動し、開口部20aを開閉することができる。
【0042】
また、例えば、
図5Cに示すように、背側部材101の一部である蓋部材21と、制御部24と、翼内空間a1に設けられた筐体25と、筐体25内に設けられた電磁ソレノイド26と、バネ27と、を有する開口部ユニット20でもよい。なお、蓋部材21は、開口部20aを覆う蓋部21aと、蓋部21aの裏面から延びる作動軸21bと、作動軸21bから突出した係止部21cとを有し、バネ27は、係止部21cよりも下方の作動軸21bに通されている。この場合、制御部24が、電磁ソレノイド26のコイルを励磁すると、バネ27の復元力に打ち勝って蓋部材21が翼内空間a1側に吸引され、蓋部21aと背側部材101との間で開口部20aが開く。そして、制御部24が、電磁ソレノイド26のコイルを消磁すると、バネ27の復元力により蓋部材21が外部側へ移動し、開口部20aが蓋部21aにより閉じられる。なお、筐体25の天井部と係止部21cとが当接することで蓋部材21の移動が規制され、蓋部21aと背側部材101とが平坦な状態で保たれる。
【0043】
また、
図5Dに示す開口部ユニット20は、背側部材101の一部である蓋部材21と、蓋部材21の一端と背側部材101とを連結するヒンジ22と、蓋部材21の他端(裏面)と当接する位置に設けられた磁石28とを有し、翼内空間a1と翼背面10a上との圧力差を利用して開口部20aを開閉する。この場合、翼背面10aに剥離現象が発生すると、負圧領域により蓋部材21が引っ張られ、開口部20aが開く。そして、翼背面10aでの剥離現象が解消すると、蓋部材21の自重や磁石28の吸引力により蓋部材21が翼内空間a1側に回動し、開口部20aが閉じる。
<<剥離現象の検知方法>>
前述の
図5A〜
図5Cに示す開口部ユニット20のように、制御部24が開口部20aの開閉を制御する場合、制御部24は剥離現象を検知する必要がある。前述のように、迎え角αが大きくなり過ぎると剥離現象が発生するため、例えば、風向風速計7から得られる計測値に基づき迎え角αを算出することによって、剥離現象を検知する方法が挙げられる。具体的には、制御部24が、算出した迎え角αが閾値以上であれば剥離現象が発生していると判断して開口部20aを開き、算出した迎え角αが閾値未満になれば剥離現象が解消されたと判断して開口部20aを閉じる制御を行うようにするとよい。また、より正確に剥離現象を検知するために、ピッチ制御やヨー制御を実施する風力発電装置1の場合には、風向と風速の計測値に加えて、風車翼10の取り付け角度やロータ6の向きも加味して、迎え角αを算出するとよい。
【0044】
また、剥離現象が発生すると、翼背面10aの圧力が低下する。そのため、翼背面10a上の圧力を計測する圧力センサー(不図示)を翼背面10aに設け、圧力センサーの計測値に基づき剥離現象の発生や解消を検知するようにしてもよい。また、剥離現象が発生すると、翼背面10aに対する空気流の剥離や再接触が繰り返され、翼背面10aに振動が生じる。そのため、翼背面10a上の振動を計測する振動センサー(不図示)を翼背面10aに設け、振動センサーの計測値に基づき剥離現象の発生や解消を検知するようにしてもよい。
【0045】
また、風向風速、圧力、振動等の計測値は短時間で変化する場合があり、短期間に開口部20aの開閉が繰り返されてしまう虞がある。そこで、制御部24が、迎え角αの算出結果等に基づき剥離現象の発生を検知して開口部20aを開いてから、所定時間の経過後に、開口部20aを閉じるようにしてもよい。つまり、制御部24が剥離現象の解消を検知することなく開口部20aを閉じるようにしてもよい。この場合、制御部24の制御も容易になる。なお、開口部20aを開いてから閉じるまでの所定時間は、開口部20aを開いてから、翼内空間と翼背面10a上とでの圧力差がなくなるか又は小さくなるまでに要する時間以上とし、計算や経験値等に基づき決定するとよい。また、剥離現象が解消してから所定時間の経過後に、開口部20aを閉じるようにしてもよい。この場合、剥離現象が確実に解消してから開口部20aを閉じることができ、また、剥離現象の解消を検知してから開口部20aを閉じるので、確実に風車翼10の損傷を抑制することができる。
【0046】
また、迎え角αや翼背面10a上の圧力や振動のうちの何れか1つのパラメーターに基づき剥離現象を検知するに限らず、複数のパラメーターに基づき剥離現象を検知するようにしてもよい。また、迎え角αや翼背面10a上の圧力や振動等に基づき剥離現象の前兆現象を検知したタイミングで開口部20aを開くようにしてもよい。
【0047】
また、翼背面10aのうち翼根部側の部位であり開口部20aが設けられた部位に、剥離現象を検知するための圧力センサーや振動センサーを、長手方向に間隔を開けて複数配置してもよい。そして、剥離現象による負圧領域の長手方向の発生位置を特定し、負圧領域が発生している領域の開口部20aのみを開くようにしてもよい。そうすることで、剥離現象が発生していない翼背面10aの部位には翼背面10aに沿わせて空気流を流すことができる。
<<変形例>>
図6は、風車翼10の変形例を説明する図であり、翼根部の断面図である。前述の風車翼10(
図4)では、翼背面10aのうち最大翼厚位置Pよりも後縁側の部位にのみ開口部20aが設けられているが、これに限らず、
図6の風車翼10のように、翼背面10aのうち最大翼厚位置Pよりも前縁側の部位にも開口部20aを設けるようにしてもよい。そうすることで、剥離現象による負圧領域が翼背面10aの前縁側に発生した際にも、前縁側の開口部20aを開くことにより、前縁側の翼内空間a2と翼背面10a上とでの圧力差を小さくすることができる。その結果、風車翼10の損傷を抑制することができる。また、翼背面10aの後縁側に負圧領域が発生した際にも、前縁側と後縁側の開口部20aを同時に開くことで、負圧領域に向けて連続的に多量に空気流を流すことができ、翼内空間a1,a2と翼背面10a上とでの圧力差をより確実に小さくすることができる。
【0048】
また、前述の風車翼10では、翼背面10aのうち翼根部側の部位にだけ開口部20aが設けられているが、これに限らず、例えば、翼背面10aの長手方向の全域に亘って開口部20aが設けられた風車翼であってもよい。また、前述の風車翼10では、翼内空間に第1隔壁13や第2隔壁15が設けられていたり、第1補強部材11に孔14が設けられたりしているが、これらが設けられていない風車翼であってもよい。また、開口部20aが1つである風車翼であってもよい。また、翼背面10aの前縁LEから後縁TEに沿う方向に間隔を空けて複数(例えば3個以上)の開口部20aが並んだ風車翼であってもよい。
【0049】
以上、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 風力発電装置、2 タワー、3 発電機、4 回転軸、5 ナセル、6 ロータ、
7 風向風速計、10 風車翼、10a 翼背面、10b 翼腹面、
101 背側部材、102 腹側部材、11 第1補強部材、12 第2補強部材、
13 第1隔壁、14 孔、15 第2隔壁、20 開口部ユニット、
20a 開口部、21 蓋部材、22 ヒンジ、23 モーター、24 制御部、
25 筐体、26 電磁ソレノイド、27 バネ、28 磁石、