特許第5886494号(P5886494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886494
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】フィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20160303BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20160303BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20160303BHJP
   F01N 3/035 20060101ALN20160303BHJP
【FI】
   B01J37/02 301E
   B01J35/04 301E
   B01D53/94 241
   !F01N3/035 AZAB
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-48467(P2012-48467)
(22)【出願日】2012年3月5日
(65)【公開番号】特開2013-184075(P2013-184075A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100143797
【弁理士】
【氏名又は名称】宮下 文徳
(72)【発明者】
【氏名】今井 大地
(72)【発明者】
【氏名】中山 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】西岡 寛真
(72)【発明者】
【氏名】大月 寛
(72)【発明者】
【氏名】田中 精二
(72)【発明者】
【氏名】菅原 康
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−334457(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/026844(WO,A1)
【文献】 特開2000−218114(JP,A)
【文献】 特開2004−113887(JP,A)
【文献】 特開平01−107819(JP,A)
【文献】 特開2009−190020(JP,A)
【文献】 特開昭58−156352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/94
F01N 3/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸方向に延在する複数の流路を画定する隔壁に、排気浄化触媒が担持されたフィルタの製造方法であって、
前記フィルタの中心軸方向に沿って前記隔壁の基材内部に、撥水性を有する所定の撥水剤を、該所定の撥水剤による層の厚みが該フィルタの中心軸方向に沿って略一定となるように充填する充填ステップと、
前記充填ステップにおいて充填された前記所定の撥水剤を、前記隔壁の基材内部から除去する除去ステップと、
前記充填ステップ後に、前記隔壁において前記所定の撥水剤が充填されていない該隔壁の基材に、前記排気浄化触媒を含むコート剤を塗布する塗布ステップと、
を含み、
前記所定の撥水剤の粘性は、前記コート剤の粘性より低く、
前記塗布ステップは、
前記充填ステップ後に、前記隔壁において前記所定の撥水剤が充填されていない該隔壁の基材に第一の排気浄化触媒を含む第一のコート剤を塗布する第一塗布ステップと、
前記第一塗布ステップ後に前記除去ステップが行われることで前記所定の撥水剤が除去された前記隔壁の基材内部に、第二の排気浄化触媒を含む第二のコート剤を塗布する第二塗布ステップと、
を含む、
フィルタの製造方法。
【請求項2】
前記フィルタは、ウォールフロー型のフィルタであって、
前記第一塗布ステップでは、前記フィルタの中心軸方向の一端側から前記第一のコート剤が前記隔壁に対して塗布され、
前記第二塗布ステップでは、前記フィルタの中心軸方向の他端側から前記第二のコート剤が前記隔壁に対して塗布される、
請求項1に記載のフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関からの排気を浄化するための排気浄化触媒が担持されたフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排気に含まれる粒子状物質(以下、「PM」ともいう)を捕集するために、その排気通路にフィルタが設けられる。また、その捕集されたPMの酸化除去や、排気中のNOx等の浄化のために、フィルタに所定の排気浄化触媒が担持される場合がある。このように排気浄化触媒がフィルタに担持されると、結果としてフィルタによる圧力損失が大きくなり、内燃機関の性能に影響を及ぼしかねない。
【0003】
そこで、内燃機関の出力と、フィルタおよび担持された触媒による排気浄化能との均衡を図る技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。当該技術では、排気浄化能の向上を図るために、ハニカム型フィルタの流路において、その上流側と下流側とで担持させる触媒の成分を異ならしめている。そして、上流側の触媒層においては、下流側に進むにつれて触媒層の厚さが小さくされ、下流側の触媒層においては、上流側に進むにつれて触媒層の厚さが小さくされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−212508号公報
【特許文献2】特開2007−216165号公報
【特許文献3】特開昭58−49440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来では、排気浄化触媒が担持されたPM捕集用のフィルタを製造するにあたり、フィルタの中心軸方向の一端側から他端側に向けて圧力差を形成し、その圧力差を利用してコート剤をフィルタ基材に塗布することが行われている。しかしながら、このような従来の技術だけでは、フィルタ基材におけるコート剤のコーティング状態において、フィルタの中心軸方向に沿ったコート剤層の厚さにムラが生じてしまうおそれがある。
【0006】
この点に関し詳細に説明する。図4に、従来の製造方法に従った場合のフィルタにおけるコーティング状態を示す。図4に示すフィルタ20は、ハニカム状に形成された隔壁22によって、内燃機関からの排気が流れ込む流路26が画定されており、流路26の上流端と下流端が交互に栓部27によって栓詰めされていることで、いわゆるウォールフロー型のフィルタを構成している。そして、このフィルタ20は、異なる排気浄化能を有する触媒がそれぞれ含まれる2つのコート剤が、隔壁22の基材に担持され、第一の触媒担持層24と第二の触媒担持層25が形成されている。
【0007】
これらの触媒担持層の形成については、上記の通り、フィルタ20の中心軸方向の一端側から所定のコート剤を供給し、他端側から吸引することで、隔壁22への担持が行われる。第一の触媒担持層24を例にとると、対応する排気浄化触媒を含むコート剤を図4の右側から供給し、そして、その左側から当該コート剤の吸引を行う。その結果、コート剤がフィルタ20の中心軸方向に沿って充填され、隔壁22の基材内部に浸透することで、第一の触媒担持層24が形成されることになる。第二の触媒担持層25についても同様であるが、コート剤の供給および吸引の方向については第一の触媒担持層24の場合とは逆
となる。一般に、排気浄化触媒を含むコート剤は比較的粘性が高く、また、隔壁22に対してコート剤が供給される側(第一の触媒担持層24については、図4の右側)では、多量のコート剤が存在することにより、その反対側(すなわち、吸引を行う側であり、第一の触媒担持層25については、図4の左側)と比べてコーティング層が厚くなりやすい。
【0008】
このように従来技術に従って製造されたフィルタ20において、仮に図4の左側から内燃機関からの排気が流れ込むとする。ここで、排気が直接流れ込む流路26の上流側では、第二の触媒担持層25の厚さが比較的厚くなり、下流側に進むにつれてその第二の触媒担持層25の厚さは薄くなっていくため、流路26に流れ込んだ排気は、その下流側に行くに従い隔壁22を通過しやすくなる。図4においては、排気の隔壁22の通過のしやすさを、矢印の太さで表わしており、矢印の太さが太くなるほど隔壁22を通過しやすいことを意味する。
【0009】
このように、フィルタ20の隔壁22において排気浄化触媒を含むコート剤による触媒担持層の厚さにムラが生じてしまうと、フィルタ20に対して流れ込む排気に対する抵抗が、フィルタ20の部位によって異なってしまい、そのためフィルタ20における排気の圧損が均一とならず、フィルタ内部における排気の流れが均等なものとなりにくくなる。フィルタ内部において排気の流れが均等にならないと、フィルタに担持された触媒全体の排気浄化能を効率的に利用できず、結果としてフィルタ20の触媒性能が低下してしまい、好ましくない。
【0010】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、排気浄化触媒が担持されたフィルタであって、該フィルタに流れ込む排気の圧損を概ね均一とするフィルタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明において、上記課題を解決するために、フィルタでの流路を画定する隔壁の基材に対して、触媒を含むコート剤を塗布する前に撥水性能を有する撥水剤を概ね均一な厚さで充填することとした。いわば、本発明は、フィルタの隔壁内部に予め均一な厚さの撥水剤の層を設けることで、後にコート剤が塗布される部分を限定することになる。そのため、結果として撥水剤が充填されていない基材部分に安定してコート剤を塗布することになり、以てコート剤の塗布方法にかかわらず厚さのムラが少ないコート剤の塗布が可能となる。
【0012】
具体的には、本発明は、中心軸方向に延在する複数の流路を画定する隔壁に、排気浄化触媒が担持されたフィルタの製造方法であって、前記フィルタの中心軸方向に沿って前記隔壁の基材内部に、撥水性を有する所定の撥水剤を、該所定の撥水剤による層の厚みが該フィルタの中心軸方向に沿って略一定となるように充填する充填ステップと、前記充填ステップ後に、前記隔壁において前記所定の撥水剤が充填されていない該隔壁の基材に、前記排気浄化触媒を含むコート剤を塗布する塗布ステップと、を含む。
【0013】
このように、本発明に係るフィルタの製造方法では、まず、充填ステップにおいて、フィルタの中心軸方向に沿って、隔壁の基材内部に所定の撥水剤が充填されることで撥水剤層が形成される。この所定の撥水剤は例えば樹脂等からなり、充填ステップにおける充填の際には、隔壁の基材内部において速やかに充填し得る程度に粘度が比較的低い状態にあるものであることが好ましい。そして、所定の撥水剤が充填された基材部分は、排気浄化触媒を含むコート剤が塗布されても、そのコート剤が基材内部に浸透していくことを阻害するように機能する。
【0014】
ここで、充填ステップにおいては、所定の撥水剤の層の、フィルタの中心軸方向に沿っ
た厚さ(以降、単に「厚さ」という。)が略一定となるように、隔壁の基材内部に形成される。上記の通り、所定の撥水剤は、比較的低粘度であるから、充填時の隔壁の基材内部での浸透が速やかであり、その撥水剤の層の厚さを略一定とすることができる。このように略一定の厚さを有する撥水剤層を形成することで、結果的に、後の塗布ステップにおいて塗布されるコート剤が浸透し得る隔壁の基材内部、すなわち、隔壁において所定の撥水剤が充填されていない該隔壁の基材部分においても、当該基材部分の厚さを一定とすることができる。
【0015】
そして、充填ステップが行われた後に塗布ステップが行われることで、上記所定の撥水剤が充填されていない隔壁の基材部分に、排気浄化触媒を含むコート剤が塗布されることになる。このとき、撥水剤によるコート剤の浸透を阻害する機能により、コート剤が浸透する領域が制限されていることになるため、コート剤の塗布条件を厳密に設定しなくとも、比較的容易に、略一定の厚さを有するコート剤の層を形成することが可能となる。一般的に、排気浄化触媒を含むコート剤は比較的粘度が高いため、このように容易に略一定の厚さを有するコート剤の層を形成することを可能とする本願発明は、安定的なフィルタの製造の観点からも、極めて有用な製造方法である。そして、コート剤の層の厚さを略一定とすることで、フィルタに流れ込む排気の圧損を均一とすることが可能となる。
【0016】
ここで、上記のフィルタの製造方法において、充填ステップにおいて充填された前記所定の撥水剤を、前記隔壁の基材内部から除去する除去ステップを、更に含むようにしてもよい。そして、前記塗布ステップは、前記充填ステップ後に、前記隔壁において前記所定の撥水剤が充填されていない該隔壁の基材に第一の排気浄化触媒を含む第一のコート剤を塗布する第一塗布ステップと、前記第一ステップ後に前記除去ステップが行われることで前記所定の撥水剤が除去された前記隔壁の基材内部に、第二の排気浄化触媒を含む第二のコート剤を塗布する第二塗布ステップと、を含んでもよい。
【0017】
このように除去ステップを含めて本願発明に係るフィルタの製造方法を構成することで、所定の撥水剤の除去後における隔壁の基材部分にも排気浄化触媒を含むコート剤を塗布することができる。そして、上記のように、充填ステップ後において所定の撥水剤が充填されていない基材部分と、所定の撥水剤の除去後において当該撥水剤が充填されていた箇所の基材部分とに、それぞれ異なる排気浄化触媒を含むコート剤を塗布することで、複合的な排気浄化機能を有するフィルタを製造することができる。そして、各コート剤の厚さは、それぞれ、フィルタの中心軸方向に沿って略均一に形成されるので、やはりフィルタに流れ込む排気の圧損を均一とすることが可能となる。
【0018】
また、上記の製造方法において、前記フィルタは、ウォールフロー型のフィルタであって、前記第一塗布ステップでは、前記フィルタの中心軸方向の一端側から前記第一のコート剤が前記隔壁に対して塗布され、前記第二塗布ステップでは、前記フィルタの中心軸方向の他端側から前記第二のコート剤が前記隔壁に対して塗布されてもよい。このようにウォールフロー型のフィルタにおいては、第一のコート剤と第二のコート剤をそれぞれ異なる方向からフィルタに対して塗布することで、そこに複合的な排気浄化能を発揮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、排気浄化触媒が担持されたフィルタであって、該フィルタに流れ込む排気の圧損を概ね均一とするフィルタの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るフィルタの製造方法の流れを示すフローチャートである。
図2A図1に示す製造方法に従って製造されるフィルタの、製造過程を示す第一の図である。
図2B図1に示す製造方法に従って製造されるフィルタの、製造過程を示す第二の図である。
図2C図1に示す製造方法に従って製造されるフィルタの、製造過程を示す第三の図である。
図2D図1に示す製造方法に従って製造されるフィルタの、製造過程を示す第四の図である。
図2E図1に示す製造方法に従って製造されるフィルタの、製造過程を示す第五の図である。
図3】フィルタの隔壁基材に対して撥水剤、各コート剤を浸透させるための装置の概略構成を示す図である。
図4】従来技術に係る製造方法に従って製造されたフィルタにおける、コート剤のコーティング状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明に係るフィルタの製造方法の流れを示すフローチャートであり、図2A図2Eは、図1に示すフローチャートに従って製造されるフィルタの、その製造過程を示す図である。なお、図2A図2Eは、中心軸に沿ったフィルタ1の断面を示す図である。そこで、これらの図に基づいて、本願発明に係るフィルタの製造方法、および当該方法によって製造されるフィルタの構造について説明する。なお、本実施例では、上記フィルタとして、いわゆるウォールフロー型のフィルタを例示するが、本願発明に係るフィルタの製造方法の適用は、当該型のフィルタに限られるものではなく、排気浄化触媒が担持されたフィルタとして機能する限りにおいて、その他の型のフィルタ、例えばストレートフロー型のフィルタにも適用し得る。
【0023】
ここで、図1に示す製造方法が適用される前の段階での、フィルタ1の概略構造が図2Aに示されている。フィルタ1は、ハニカム形状の隔壁2で構成されるウォールフロー型のフィルタであり、その隔壁2は、内燃機関からの排気が流れ込む流路6を画定する。なお、本実施例では、フィルタ1の中心軸方向における一方の端面を端面1aとし、フィルタ1の中心軸方向における他方の端面を端面1bとする。そして、フィルタ1がウォールフロー型のフィルタとなるように、隣接する流路において交互に、その上流端側と下流端側の開口部が栓部7によって閉塞されている。このように構成されるフィルタ1に対して、どちらかの端面(例えば、端面1a)から別の端面(例えば、端面1b)の方へ排気が流れ、排気中のPMの捕集が行われることになる。
【0024】
ここで、基材2の材質としては、排気中のPMを捕集するのに適した公知の材料を採用することができるが、本発明においては特に限定されるものではない。ただし、強度、耐熱性の観点から、好ましくは、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コーディエライト、窒化珪素、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コーディエライト系複合材、珪素−炭化珪素複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属からなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0025】
なお、本実施例では、フィルタ1の隔壁2に異なる2種類の排気浄化触媒を含むコート剤(スラリー)を塗布することで、隔壁2に複合的な排気浄化能を保持させるフィルタについて言及する。すなわち、後述する図2Eに示すように、隔壁2において、第一触媒担
持層4と第二触媒担持層5とを形成し、各担持層において担持される排気浄化触媒の成分や分布密度を異ならしめる。各担持層において担持される排気浄化触媒の組成は、本発明においては特に限定されるものではない。例えば、第一触媒担持層4に担持される排気浄化触媒として、貴金属粒子などの触媒金属粒子と、それらを担持したアルミナ粒子等の耐熱性担体を含んでもよい。また、第二触媒担持層5に担持される排気浄化触媒としては、第一触媒担持層4に担持される排気浄化触媒と異なる貴金属粒子等でもよく、また、同じ貴金属粒子であっても、第一触媒担持層4と第二触媒担持層5とにおいて排気浄化触媒の分布密度が異なる形態であればよい。なお、本実施例では、第一触媒担持層4に担持される触媒を第一触媒とし、当該第一触媒を含み、基材2に塗布されることで第一触媒担持層4を形成することになるコート剤(スラリー)を第一コート剤と称する。同様に、第二触媒担持層5に担持される触媒を第二触媒とし、当該第二触媒を含み、基材2に塗布されることで第二触媒担持層5を形成することになるコート剤(スラリー)を第二コート剤と称する。
【0026】
ここで、図1に戻り、本発明に係るフィルタ1の製造方法について説明する。まず、S101では、図2Aに示すフィルタ1の隔壁2の基材に対して撥水剤の充填が行われる。本発明で使用される撥水剤は、上記触媒担持層の形成に使用されるコート剤と比べて粘性が低く、例えば樹脂等からなるものである。そして、S101では、この撥水剤が、図2Bに示すように隔壁2の基材の厚さdの半分程度まで隔壁2へ流路6側から浸透するように、撥水剤の充填が行われる。そこで、この撥水剤の充填ステップについて、図3に基づいて以下に説明する。
【0027】
図3は、撥水剤をフィルタ1の流路6を通して、空気圧により隔壁2の内部に充填させるための装置10の概略構成を示す。なお、装置10は、後述する第一コート剤、第二コート剤についても同じように隔壁2の内部に流し込むためにも使用することができる。この装置10は、流路6の両端が上面及び底面に開口するようにフィルタ1を固定する装置本体を有し、フィルタ1の端面1aにアタッチメントを装着してなる撥水剤貯留部17が設けられている。更に、装置10には、撥水剤貯留部17から各流路6内に流入しようとする撥水剤の重力と流路6内の気圧を調整して撥水剤の流路6内への流入阻止と進展を切り換えるための気圧調整装置14が設けられている。
【0028】
また、装置10には、気圧調整装置14により内圧がコントロールされるエアチャンバ16の天井面が、フィルタ1を回転可能に支持する回転テーブル11で形成されている。気圧調整装置14は、内部にエアポンプを含み、空気を供給/吸引して各流路6内に正圧/負圧を作用させる。そして、回転テーブル11は、ギア12を介してモータ13で駆動される。この構成により、モータ13の駆動によってフィルタ1が、その中心軸(図3における鉛直軸)周りに回転可能とされ、撥水剤貯留部17に撥水剤を貯留した状態でフィルタ1が回転駆動される。なお、フィルタ1は、端面1aが撥水剤貯留部17側にくるように、また端面1bがエアチャンバ16側にくるように、回転テーブル11に形成された透孔11aに嵌挿された状態で固定される。
【0029】
このように構成される装置10を利用することで、S101における撥水剤のフィルタ1への充填が行われる。具体的には、図3に示すように、フィルタ1にアッタチメントを装着した状態で、これを回転テーブル11に固定しておく。そして、アタッチメントで画定される撥水剤貯留部17内に撥水剤を、図示しない撥水剤供給装置から供給する。なお、このときは、気圧調整装置14によってエアチャンバ16内にエアを供給して、撥水剤が流路6に流入しない程度に各流路6に正圧が作用した状態が形成されている。
【0030】
その後、モータ13の駆動により回転テーブル11を適当な回転数で回転させると、フィルタ1及び端面1a側に装着されたアタッチメントが回転し、撥水剤貯留部17に貯留
された撥水剤に遠心力が作用して、貯留部内で撥水剤の液面を略均一な状態とすることができる。そして、略均一な液面となった時点で、回転テーブル11の回転を停止する。この間、流路6内は正圧に維持されているので、撥水剤が流路6内に流入することはない。
【0031】
次に、気圧調整装置14によりエアチャンバ16内のエアを吸引して、撥水剤を流路6内に流入させる。このとき、撥水剤の液面は均一(水平)であるので、各流路6に同じように撥水剤が流入していき、撥水剤貯留部17に貯留されていた撥水剤が、各流路6に均等に充填されることになる。ここで、撥水剤は、上述の通り比較的低い粘性を有するため、隔壁2の基材内部に速やかに浸透することができる。そして、撥水剤貯留部17には、図2Bに示すように撥水剤が隔壁2の基材の厚さdの半分程度に浸透し得る量の撥水剤が貯留されており、上記の通り装置10によれば、各流路6に略均等に撥水剤を送り込むことが可能となることから、撥水剤が流れ込む各流路6においては、略均等に撥水剤が充填された隔壁2の基材層(以降、「撥水剤充填層」という)3を形成することができる。これにより本実施例では、撥水剤充填層3の厚さ(フィルタ1の中心軸方向の厚さ)は、概ね均一に、隔壁2の厚さの半分d/2となる。なお、S101の処理が行われた時点において、隔壁2の基材において撥水剤が充填されていない部分を、「非充填部分2a」と称する。そして、非充填部分2aの厚さは、撥水剤充填層3の厚さを踏まえると、フィルタ1の中心軸方向に沿って略均一にd/2程度となる。
【0032】
図1に示す製造方法においてS101の処理が終了すると、S102へ進む。S102では、上記の通り撥水剤が充填されたフィルタ1に対して、第一コート剤の塗布が行われる。具体的には、撥水剤の充填の場合と同様に、図3に示す装置10を利用して当該塗布が行われる。この場合は、撥水剤貯留部17に代えて第一コート剤を貯留する第一貯留部が、図3に示す場合と同じようにフィルタ1上に設けられる。なお、装置10におけるフィルタ1の固定については、S101が行われる場合と、フィルタ1の端面が逆位置となるように、すなわち、端面1b側が第一貯留部側(図3における上側)に位置し、端面1a側がエアチャンバ16側に位置するように固定される。そして、第一貯留部に貯留された第一コート剤が、気圧調整装置14の吸引により各流路6内に引き込まれる。このとき、流路6に面する隔壁2においては、S101の処理により、撥水剤充填層3が形成されており、そこでは撥水剤の作用による第一コート剤の隔壁2の基材への浸透が阻害される。そのため、第一コート剤は、非充填部分2aにのみ浸透し、そこで基材に第一コート剤が塗布されることで、第一触媒担持層4が形成される(図2Cを参照)。この第一触媒担持層4については、非充填部分2aの厚さが隔壁2の厚さの概ね半分(d/2)程度となっていることから、当該担持層4の厚さもフィルタ1の中心軸方向に沿って、均一に概ねd/2程度となる。
【0033】
図1に示す製造方法においてS102の処理が終了すると、S103へ進む。S103では、S102までの処理が完了したフィルタ1に対して加熱処理を行うことで、撥水剤充填層3に充填されている撥水剤の燃焼除去処理が行われる。撥水剤は、上記の通り樹脂等からなるものであり、所定の高温雰囲気下に置かれることで、その成分の樹脂が燃焼し隔壁2の基材内から除去される。このS103の処理の結果、撥水剤が充填されていた撥水剤充填層3は、撥水剤が充填される前の隔壁2の基材の状態に戻る。この元の状態に戻った基材部分を、「撥水剤除去部分2b」と称する。したがって、S103の処理が行われることで、図2Dに示すように、フィルタ1の隔壁2が第一触媒担持層4と撥水剤除去部分2bとに大別し得る状態となる。
【0034】
次に、図1に示す製造方法においてS103の処理が終了すると、S104へ進む。S104では、上記の通り撥水剤除去部分2bが形成されたフィルタ1に対して、第二コート剤の塗布が行われる。具体的には、第一撥水剤の塗布の場合と同様に、図3に示す装置10を利用して当該塗布が行われる。ただし、この場合は、第一コート剤を貯留する第一
貯留部に代えて、第二コート剤を貯留する第二貯留部がフィルタ1上に設けられる。また、装置10におけるフィルタ1の固定については、S102が行われる場合と、フィルタ1の端面が逆位置となるように、すなわち、端面1a側が第二貯留部側(図3における上側)に位置し、端面1b側がエアチャンバ16側に位置するように固定される。そして、第二貯留部に貯留された第二コート剤が、気圧調整装置14の吸引により各流路6内に引き込まれる。このとき、流路6に面する隔壁2においては、S103の処理により、撥水剤除去部分2bが形成されている。そのため、第二コート剤は、既に塗布されている第一触媒層4には浸透せずに、この撥水剤除去部分2bに浸透し、そこで基材に第二コート剤が塗布されることで、第二触媒担持層5が形成される(図2Eを参照)。この第二触媒担持層5については、元来的には撥水剤充填層3であったことから、その厚さもフィルタ1の中心軸方向に沿って、均一に概ねd/2程度となる。
【0035】
このように図1に示す製造方法に従って製造されたフィルタは、図2Eに示すように、その隔壁2内に形成される各触媒担持層の厚さを、フィルタ1の中心軸方向に沿って概ね一定とすることが可能となる。従来技術によれば、図4に示すように隔壁に形成される触媒担持層の厚さが、フィルタの内部での位置によって変動することから、その違いは明確である。この図2Eに示すような触媒担持層を隔壁2内に有することで、フィルタ1に流れ込む排気に対する抵抗を概ね均一にすることが可能となる。そのため、フィルタ1に流れ込む排気の圧損を概ね均一とし、好適な触媒性能を発揮し得るフィルタを提供することが可能となる。
【0036】
なお、本実施例では、第一触媒担持層4と第二触媒担持層5のそれぞれの厚さを隔壁2の厚さの概ね半分となる厚さd/2としたが、各コート剤に含まれる排気浄化触媒の浄化能や、フィルタ1に持たせたい触媒機能等を考慮して、その厚さは適宜調整してもよい。このとき、図1に示す製造方法におけるS101での撥水剤の充填ステップで形成される撥水剤充填層3の厚さが、充填する撥水剤量で調整できる点を考慮する。
【0037】
また、本実施例で示した形態は、隔壁2に2つの触媒担持層が形成されるが、1つの触媒担持層が形成され、撥水剤の充填(S101の処理)によって決定される非充填部分2aの厚さをもって、当該1つの触媒担持層の厚さとしてもよい。したがって、この場合、図1に示すフィルタの製造方法におけるS104の処理を省略することで、隔壁2の内部に均一な厚さを有する1つの触媒担持層を形成することが可能である。なお、この場合、フィルタ1の端面1bが、排気がフィルタ1に流れ込む上流側の端面となる。
【符号の説明】
【0038】
1・・・・フィルタ
1a、1b・・・・端面
2・・・・隔壁
2a・・・・非充填部分
2b・・・・撥水剤除去部分
3・・・・撥水剤充填層
4・・・・第一触媒担持層
5・・・・第二触媒担持層
6・・・・流路
7・・・・栓部
10・・・・装置
11・・・・回転テーブル
14・・・・気圧調整装置
16・・・・エアチャンバ
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4