【実施例1】
【0022】
図1は、本発明に係るフィルタの製造方法の流れを示すフローチャートであり、
図2A〜
図2Eは、
図1に示すフローチャートに従って製造されるフィルタの、その製造過程を示す図である。なお、
図2A〜
図2Eは、中心軸に沿ったフィルタ1の断面を示す図である。そこで、これらの図に基づいて、本願発明に係るフィルタの製造方法、および当該方法によって製造されるフィルタの構造について説明する。なお、本実施例では、上記フィルタとして、いわゆるウォールフロー型のフィルタを例示するが、本願発明に係るフィルタの製造方法の適用は、当該型のフィルタに限られるものではなく、排気浄化触媒が担持されたフィルタとして機能する限りにおいて、その他の型のフィルタ、例えばストレートフロー型のフィルタにも適用し得る。
【0023】
ここで、
図1に示す製造方法が適用される前の段階での、フィルタ1の概略構造が
図2Aに示されている。フィルタ1は、ハニカム形状の隔壁2で構成されるウォールフロー型のフィルタであり、その隔壁2は、内燃機関からの排気が流れ込む流路6を画定する。なお、本実施例では、フィルタ1の中心軸方向における一方の端面を端面1aとし、フィルタ1の中心軸方向における他方の端面を端面1bとする。そして、フィルタ1がウォールフロー型のフィルタとなるように、隣接する流路において交互に、その上流端側と下流端側の開口部が栓部7によって閉塞されている。このように構成されるフィルタ1に対して、どちらかの端面(例えば、端面1a)から別の端面(例えば、端面1b)の方へ排気が流れ、排気中のPMの捕集が行われることになる。
【0024】
ここで、基材2の材質としては、排気中のPMを捕集するのに適した公知の材料を採用することができるが、本発明においては特に限定されるものではない。ただし、強度、耐熱性の観点から、好ましくは、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コーディエライト、窒化珪素、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コーディエライト系複合材、珪素−炭化珪素複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属からなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0025】
なお、本実施例では、フィルタ1の隔壁2に異なる2種類の排気浄化触媒を含むコート剤(スラリー)を塗布することで、隔壁2に複合的な排気浄化能を保持させるフィルタについて言及する。すなわち、後述する
図2Eに示すように、隔壁2において、第一触媒担
持層4と第二触媒担持層5とを形成し、各担持層において担持される排気浄化触媒の成分や分布密度を異ならしめる。各担持層において担持される排気浄化触媒の組成は、本発明においては特に限定されるものではない。例えば、第一触媒担持層4に担持される排気浄化触媒として、貴金属粒子などの触媒金属粒子と、それらを担持したアルミナ粒子等の耐熱性担体を含んでもよい。また、第二触媒担持層5に担持される排気浄化触媒としては、第一触媒担持層4に担持される排気浄化触媒と異なる貴金属粒子等でもよく、また、同じ貴金属粒子であっても、第一触媒担持層4と第二触媒担持層5とにおいて排気浄化触媒の分布密度が異なる形態であればよい。なお、本実施例では、第一触媒担持層4に担持される触媒を第一触媒とし、当該第一触媒を含み、基材2に塗布されることで第一触媒担持層4を形成することになるコート剤(スラリー)を第一コート剤と称する。同様に、第二触媒担持層5に担持される触媒を第二触媒とし、当該第二触媒を含み、基材2に塗布されることで第二触媒担持層5を形成することになるコート剤(スラリー)を第二コート剤と称する。
【0026】
ここで、
図1に戻り、本発明に係るフィルタ1の製造方法について説明する。まず、S101では、
図2Aに示すフィルタ1の隔壁2の基材に対して撥水剤の充填が行われる。本発明で使用される撥水剤は、上記触媒担持層の形成に使用されるコート剤と比べて粘性が低く、例えば樹脂等からなるものである。そして、S101では、この撥水剤が、
図2Bに示すように隔壁2の基材の厚さdの半分程度まで隔壁2へ流路6側から浸透するように、撥水剤の充填が行われる。そこで、この撥水剤の充填ステップについて、
図3に基づいて以下に説明する。
【0027】
図3は、撥水剤をフィルタ1の流路6を通して、空気圧により隔壁2の内部に充填させるための装置10の概略構成を示す。なお、装置10は、後述する第一コート剤、第二コート剤についても同じように隔壁2の内部に流し込むためにも使用することができる。この装置10は、流路6の両端が上面及び底面に開口するようにフィルタ1を固定する装置本体を有し、フィルタ1の端面1aにアタッチメントを装着してなる撥水剤貯留部17が設けられている。更に、装置10には、撥水剤貯留部17から各流路6内に流入しようとする撥水剤の重力と流路6内の気圧を調整して撥水剤の流路6内への流入阻止と進展を切り換えるための気圧調整装置14が設けられている。
【0028】
また、装置10には、気圧調整装置14により内圧がコントロールされるエアチャンバ16の天井面が、フィルタ1を回転可能に支持する回転テーブル11で形成されている。気圧調整装置14は、内部にエアポンプを含み、空気を供給/吸引して各流路6内に正圧/負圧を作用させる。そして、回転テーブル11は、ギア12を介してモータ13で駆動される。この構成により、モータ13の駆動によってフィルタ1が、その中心軸(
図3における鉛直軸)周りに回転可能とされ、撥水剤貯留部17に撥水剤を貯留した状態でフィルタ1が回転駆動される。なお、フィルタ1は、端面1aが撥水剤貯留部17側にくるように、また端面1bがエアチャンバ16側にくるように、回転テーブル11に形成された透孔11aに嵌挿された状態で固定される。
【0029】
このように構成される装置10を利用することで、S101における撥水剤のフィルタ1への充填が行われる。具体的には、
図3に示すように、フィルタ1にアッタチメントを装着した状態で、これを回転テーブル11に固定しておく。そして、アタッチメントで画定される撥水剤貯留部17内に撥水剤を、図示しない撥水剤供給装置から供給する。なお、このときは、気圧調整装置14によってエアチャンバ16内にエアを供給して、撥水剤が流路6に流入しない程度に各流路6に正圧が作用した状態が形成されている。
【0030】
その後、モータ13の駆動により回転テーブル11を適当な回転数で回転させると、フィルタ1及び端面1a側に装着されたアタッチメントが回転し、撥水剤貯留部17に貯留
された撥水剤に遠心力が作用して、貯留部内で撥水剤の液面を略均一な状態とすることができる。そして、略均一な液面となった時点で、回転テーブル11の回転を停止する。この間、流路6内は正圧に維持されているので、撥水剤が流路6内に流入することはない。
【0031】
次に、気圧調整装置14によりエアチャンバ16内のエアを吸引して、撥水剤を流路6内に流入させる。このとき、撥水剤の液面は均一(水平)であるので、各流路6に同じように撥水剤が流入していき、撥水剤貯留部17に貯留されていた撥水剤が、各流路6に均等に充填されることになる。ここで、撥水剤は、上述の通り比較的低い粘性を有するため、隔壁2の基材内部に速やかに浸透することができる。そして、撥水剤貯留部17には、
図2Bに示すように撥水剤が隔壁2の基材の厚さdの半分程度に浸透し得る量の撥水剤が貯留されており、上記の通り装置10によれば、各流路6に略均等に撥水剤を送り込むことが可能となることから、撥水剤が流れ込む各流路6においては、略均等に撥水剤が充填された隔壁2の基材層(以降、「撥水剤充填層」という)3を形成することができる。これにより本実施例では、撥水剤充填層3の厚さ(フィルタ1の中心軸方向の厚さ)は、概ね均一に、隔壁2の厚さの半分d/2となる。なお、S101の処理が行われた時点において、隔壁2の基材において撥水剤が充填されていない部分を、「非充填部分2a」と称する。そして、非充填部分2aの厚さは、撥水剤充填層3の厚さを踏まえると、フィルタ1の中心軸方向に沿って略均一にd/2程度となる。
【0032】
図1に示す製造方法においてS101の処理が終了すると、S102へ進む。S102では、上記の通り撥水剤が充填されたフィルタ1に対して、第一コート剤の塗布が行われる。具体的には、撥水剤の充填の場合と同様に、
図3に示す装置10を利用して当該塗布が行われる。この場合は、撥水剤貯留部17に代えて第一コート剤を貯留する第一貯留部が、
図3に示す場合と同じようにフィルタ1上に設けられる。なお、装置10におけるフィルタ1の固定については、S101が行われる場合と、フィルタ1の端面が逆位置となるように、すなわち、端面1b側が第一貯留部側(
図3における上側)に位置し、端面1a側がエアチャンバ16側に位置するように固定される。そして、第一貯留部に貯留された第一コート剤が、気圧調整装置14の吸引により各流路6内に引き込まれる。このとき、流路6に面する隔壁2においては、S101の処理により、撥水剤充填層3が形成されており、そこでは撥水剤の作用による第一コート剤の隔壁2の基材への浸透が阻害される。そのため、第一コート剤は、非充填部分2aにのみ浸透し、そこで基材に第一コート剤が塗布されることで、第一触媒担持層4が形成される(
図2Cを参照)。この第一触媒担持層4については、非充填部分2aの厚さが隔壁2の厚さの概ね半分(d/2)程度となっていることから、当該担持層4の厚さもフィルタ1の中心軸方向に沿って、均一に概ねd/2程度となる。
【0033】
図1に示す製造方法においてS102の処理が終了すると、S103へ進む。S103では、S102までの処理が完了したフィルタ1に対して加熱処理を行うことで、撥水剤充填層3に充填されている撥水剤の燃焼除去処理が行われる。撥水剤は、上記の通り樹脂等からなるものであり、所定の高温雰囲気下に置かれることで、その成分の樹脂が燃焼し隔壁2の基材内から除去される。このS103の処理の結果、撥水剤が充填されていた撥水剤充填層3は、撥水剤が充填される前の隔壁2の基材の状態に戻る。この元の状態に戻った基材部分を、「撥水剤除去部分2b」と称する。したがって、S103の処理が行われることで、
図2Dに示すように、フィルタ1の隔壁2が第一触媒担持層4と撥水剤除去部分2bとに大別し得る状態となる。
【0034】
次に、
図1に示す製造方法においてS103の処理が終了すると、S104へ進む。S104では、上記の通り撥水剤除去部分2bが形成されたフィルタ1に対して、第二コート剤の塗布が行われる。具体的には、第一撥水剤の塗布の場合と同様に、
図3に示す装置10を利用して当該塗布が行われる。ただし、この場合は、第一コート剤を貯留する第一
貯留部に代えて、第二コート剤を貯留する第二貯留部がフィルタ1上に設けられる。また、装置10におけるフィルタ1の固定については、S102が行われる場合と、フィルタ1の端面が逆位置となるように、すなわち、端面1a側が第二貯留部側(
図3における上側)に位置し、端面1b側がエアチャンバ16側に位置するように固定される。そして、第二貯留部に貯留された第二コート剤が、気圧調整装置14の吸引により各流路6内に引き込まれる。このとき、流路6に面する隔壁2においては、S103の処理により、撥水剤除去部分2bが形成されている。そのため、第二コート剤は、既に塗布されている第一触媒層4には浸透せずに、この撥水剤除去部分2bに浸透し、そこで基材に第二コート剤が塗布されることで、第二触媒担持層5が形成される(
図2Eを参照)。この第二触媒担持層5については、元来的には撥水剤充填層3であったことから、その厚さもフィルタ1の中心軸方向に沿って、均一に概ねd/2程度となる。
【0035】
このように
図1に示す製造方法に従って製造されたフィルタは、
図2Eに示すように、その隔壁2内に形成される各触媒担持層の厚さを、フィルタ1の中心軸方向に沿って概ね一定とすることが可能となる。従来技術によれば、
図4に示すように隔壁に形成される触媒担持層の厚さが、フィルタの内部での位置によって変動することから、その違いは明確である。この
図2Eに示すような触媒担持層を隔壁2内に有することで、フィルタ1に流れ込む排気に対する抵抗を概ね均一にすることが可能となる。そのため、フィルタ1に流れ込む排気の圧損を概ね均一とし、好適な触媒性能を発揮し得るフィルタを提供することが可能となる。
【0036】
なお、本実施例では、第一触媒担持層4と第二触媒担持層5のそれぞれの厚さを隔壁2の厚さの概ね半分となる厚さd/2としたが、各コート剤に含まれる排気浄化触媒の浄化能や、フィルタ1に持たせたい触媒機能等を考慮して、その厚さは適宜調整してもよい。このとき、
図1に示す製造方法におけるS101での撥水剤の充填ステップで形成される撥水剤充填層3の厚さが、充填する撥水剤量で調整できる点を考慮する。
【0037】
また、本実施例で示した形態は、隔壁2に2つの触媒担持層が形成されるが、1つの触媒担持層が形成され、撥水剤の充填(S101の処理)によって決定される非充填部分2aの厚さをもって、当該1つの触媒担持層の厚さとしてもよい。したがって、この場合、
図1に示すフィルタの製造方法におけるS104の処理を省略することで、隔壁2の内部に均一な厚さを有する1つの触媒担持層を形成することが可能である。なお、この場合、フィルタ1の端面1bが、排気がフィルタ1に流れ込む上流側の端面となる。