【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法のうち、第1の本発明は、
電解エッチングに供される平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法であって、
質量%で、Fe:0.2〜0.6%、Si:0.02〜0.2%、Cu:0.001〜0.02%、Zn:0.01〜0.1%、Mg:0.01%以上0.1%未満、Ti:0.001〜0.05%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金鋳塊に対し、550℃を超える温度に加熱することなく熱間圧延を開始し、300℃未満の温度で前記熱間圧延を終了して板厚2〜6mmのアルミニウム合金板を得、前記熱間圧延後のアルミニウム合金板に対し、中間焼鈍を施すことなく冷間圧延率80%以上の冷間圧延を実施して所定の最終板厚に仕上げ
て、引張り強度が180MPa〜220MPaである平版印刷版用アルミニウム合金板を得ることを特徴とする。
【0007】
第2の本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、前記第1の本発明において、前記最終板厚が0.1〜0.4mmであることを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明によれば、エッチングピットの均一化に寄与するFeおよびSi、電解性の向上に寄与するCu、カソード域での反応性の向上に寄与するZn、エッチング性の向上に寄与するMg、ならびに結晶粒の微細化に寄与するTiをそれぞれ適量含有する。また、前記組成を有するアルミニウム合金の鋳塊に対して、550℃を超える温度に加熱することなく熱間圧延を開始するので、金属間化合物が粗大化して密度が減少することを抑制することができる。したがって、本発明によれば、電解エッチングによる表面の粗面化処理の均一性を向上することができ、微細で均一な砂目形状の表面を有する平版印刷版用アルミニウム合金板を得ることができる。
【0010】
また、本発明によれば、固溶により材料強度および耐熱軟化性の向上に寄与するMgを適量含有する。また、300℃未満の温度で熱間圧延を終了するので、Feの固溶量を適切に確保することができる。したがって、平版印刷版用アルミニウム合金板の材料強度を向上することができる。また、熱間圧延により板厚2〜6mmのアルミニウム合金板を得るとともに、冷間圧延率を80%以上とするので、製品板厚まで冷間圧延した際に適切な材料強度を得ることができる。また、複数回の冷間圧延の間に中間焼鈍を行わないため、材料強度を確保することができる。したがって、本発明によれば、平版印刷に好適な材料強度を有する平版印刷版用アルミニウム合金板を得ることができる。
【0011】
以下に、本発明に規定する成分、製造条件などの限定理由について説明する。なお、成分含有量は、いずれも質量%で示される。
【0012】
Fe:0.2〜0.6%
Feは、適量の含有により微細析出物であるAlFe系晶析出物(金属間化合物)を形成してエッチングピットの均一化に寄与する元素であり、適量の金属間化合物粒子を得るためには0.2%以上の含有が必要である。Feの含有量が0.2%未満であると、晶析出物の形成が不十分となり、エッチングピット開始点が少なく、エッチングピットが不均一となる結果、所望のエッチング性を得ることができない。一方、Feの含有量が0.6%を超えると、巨大晶析出物の形成によりエッチングピットを不均一化する。このため、Feの含有量は、0.2〜0.6%の範囲に定める。なお、同様の理由により、下限を0.2%、上限を0.5%に定めるのが望ましい。
【0013】
Si:0.02〜0.2%
Siは、適量の含有によりアルミニウムマトリクス中に析出して結晶粒を微細化することでエッチングピットの均一化に寄与する元素である。ただし、Siの含有量が0.02%未満であると、結晶粒の微細化が不十分となり、エッチングピット開始点が少なく、エッチングピットが不均一となる結果、所望のエッチング性を得ることができない。また、Siの含有量を0.02%未満にまで低下させると高純度地金の使用によりコストが増し、工業性の点で問題が発生する。一方、Siの含有量が0.2%を超えると、Si系の巨大晶析出物が形成されてエッチングピットを不均一化し、また、インキ汚れの一因にもなる。このため、Siの含有量は、0.02〜0.2%の範囲に定める。なお、同様の理由により、下限を0.05%、上限を0.15%に定めるのが望ましい。
【0014】
Cu:0.001〜0.02%
Cuは、適量の含有により電解エッチングにおける電解性の向上に寄与し、エッチングピットを形成しやすくして均一なエッチングピットの形成を可能にする元素である。ただし、Cuの含有量が0.001%未満であると、電解エッチングによるエッチングピットの形成に大電流が必要となり、通常の条件では、形成されるエッチングピットが浅いか、エッチングピットが形成され難くなる。一方、Cuの含有量が0.02%を超えると、エッチングピットの深さは増すが局部的に電解エッチングされるようになり、大きなエッチングピットが不均一に形成される。このため、Cuの含有量は、0.001〜0.02%の範囲に定める。なお、同様の理由により、下限を0.001%、上限を0.01%に定めるのが望ましい。
【0015】
Zn:0.01〜0.1%
Znは、適量の含有により電解エッチングにおけるカソード域での反応性を向上することでエッチング性の向上に寄与する元素である。ただし、Znの含有量が0.01%未満であると、カソード域での反応性が不足し、エッチング性を十分に向上することが困難となる。一方、Znの含有量が0.1%を超えると、使用済みの平版印刷版のリサイクルを阻害する一因となる。このため、Znの含有量は、0.01〜0.1%の範囲に定める。なお、同様の理由により、下限を0.025%、上限を0.08%に定めるのが望ましい。
【0016】
Mg:0.01%以上0.1%未満
Mgは、適量の含有によりアルミニウム結晶中に固溶して材料強度および耐熱軟化性の向上に寄与するとともに、形成される酸化皮膜が酸性の電解液に対して活性に作用することによりエッチング性の向上に寄与する元素である。ただし、Mgの含有量が0.01%未満であると、材料強度およびバーニング後の強度が不足するとともに、エッチング性が低下する。一方、Mgの含有量が0.1%以上であると、材料強度が高くなり過ぎて曲げ加工性が不足する結果、印刷時に版胴への巻き付けが困難となる。このため、Mgの含有量は、0.01%以上0.1%未満の範囲に定める。なお、同様の理由により、下限を0.02%、上限を0.04%に定めるのが望ましい。
【0017】
Ti:0.001〜0.05%
Tiは、適量の含有により結晶粒の微細化に寄与する元素である。ただし、Tiの含有量が0.001%未満であると、結晶粒を微細化することができない。一方、Tiの含有量が0.05%を超えると、巨大晶析出物の形成によりエッチングピットを不均一化する。このため、Tiの含有量は、0.001〜0.05%の範囲に定める。なお、同様の理由により、下限を0.005%、上限を0.02%に定めるのが望ましい。
【0018】
アルミニウム合金の鋳塊は、上記成分を含有するほか、残部がAlおよび不可避的不純物からなる組成を有するものであり、常法により鋳造することができる。なお、不可避的不純物としては、Mn、Y、Sn、Zr、Ga、Ni、Inなどを例示することができ、これらの不純物の含有量は、個々に0.03質量%以下に抑えることが望ましい。
【0019】
また、上記組成を有するアルミニウム合金の鋳塊に対しては、均質化処理を行わずに、または550℃以下の温度で均質化処理を行ってから以下に述べる熱間圧延を開始することができる。均質化処理を省略しまたは均質化処理の温度を550℃以下とするのは、金属間化合物が粗大化して密度が減少するのを抑制するためである。均質化処理を省略した場合であっても、電解エッチングの均一性に寄与する微細な金属間化合物の数が減らないため不都合はない。
【0020】
熱間圧延
熱間圧延は、上記組成を有するアルミニウム合金の鋳塊に対して、550℃を超える温度に加熱することなく行う。550℃を超える温度に加熱することなく熱間圧延を開始するので、金属間化合物の粗大化を抑制することができ、これにより均一なエッチングピットを形成することができる。熱間圧延を開始する前に550℃を超える温度に加熱する熱処理が行われていると、金属間化合物が粗大化してエッチングピットが不均一なものとなる。
【0021】
また、熱間圧延は、300℃未満の温度で終了する。このように熱間圧延の仕上温度を300℃未満とすることにより、Feの固溶量を適切に確保して材料強度を向上することができる。熱間圧延の仕上温度が300℃以上であると、Feの析出量が増大してFeの固溶量が減少する結果、材料強度が低下することになる。なお、熱間圧延の仕上温度の下限は、圧延時の温度が低いと圧延荷重が高くなって圧延性が悪くなるため、220℃とするのが望ましい。
上記条件での熱間圧延により、板厚2〜6mmのアルミニウム合金板を得る。このように熱間圧延による仕上板厚を2〜6mmとすることで、その後の冷間圧延により製品板厚まで圧延した際に適切な材料強度を得ることができる。なお、仕上板厚が2mm未満では、加工硬化が不足して十分な材料強度を得ることができず、また、仕上板厚が6mmを超えると、その後の冷間圧延のパス回数が増加して生産性が低下することになる。
【0022】
冷間圧延
上記熱間圧延後のアルミニウム合金板に対しては、冷間圧延を中間焼鈍を介することなく実施する。中間焼鈍を行うと、バーニングでの軟化を抑制することができるが、材料強度が低下することになる。バーニングでの軟化については、上記のようにMgを含有することにより耐熱軟化性を向上してバーニングでの軟化を抑制することができる。
また、冷間圧延におけるパス数は本発明としては特に限定されるものではないが、冷間圧延率は、80%以上とする。冷間圧延率が80%未満では、加工硬化が不足して十分な材料強度を得ることができない。冷間圧延率を80%以上とすることにより、十分な材料強度を得ることができる。
【0023】
上記冷間圧延後のアルミニウム合金板は、好適には、板厚が0.1〜0.4mmであり、引張り強度が180MPa〜220MPaである。このような板厚および引張り強度を有することで、機械搬送や高速での輪転機の回転によって生じる高い応力に対しても変形を防止できるとともに、種々の版胴に適用可能な加工性を有するため、平版印刷版用アルミニウム合金板として好適に使用することができる。ただし、本発明としては、上記板厚や引張り強度に限定されるものではない。