特許第5886657号(P5886657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886657
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】小麦フスマ由来の粉末を含有する製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/46 20060101AFI20160303BHJP
【FI】
   A61K47/46
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-43367(P2012-43367)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-180950(P2013-180950A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100150681
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 荘助
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100105061
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 喜博
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 幸子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智文
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−217545(JP,A)
【文献】 特開平10−225285(JP,A)
【文献】 特開平02−149532(JP,A)
【文献】 特開平05−344850(JP,A)
【文献】 特表2000−515139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦フスマ由来の粉末を有効成分とする滑沢剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤、錠菓、カプセル剤に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤、錠菓は、一般的に原料を粉体のまま若しくは顆粒として打錠機にかけて圧縮成型して製造する。カプセル剤は粉末状態の原料を造粒して、これを顆粒化した後、硬質カプセルに充填する。
錠剤を打錠する際の脱型の工程で錠剤の杵先からの剥離が生じるキャッピング、打錠中に粉末が杵先へ付着し杵離れが悪く、錠剤表面に傷がつくスティッキング、錠剤と臼の摩擦が大きく打錠後の錠剤の離型性が悪くなるバインディングを生じることがあり、品質管理上問題となる。これらがひどくなると打錠を継続して実施できなくなる場合もある。またカプセル剤の場合は充填装置に顆粒が付着することによってスティッキングを起こす。
【0003】
錠剤、錠菓を打錠する際の障害となるキャッピング、スティッキング、バインディングおよびカプセル剤のスティッキングの発生を防止するために、結着剤や滑沢剤が使用されている。通常滑沢剤には、従来から、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、シュガーエステルなどの食品添加物系のものが使用されている。
【0004】
しかし、タルクは、食品への使用量に際しては使用基準があり、また滑沢剤としての効果も小さいためあまり用いられないのが現状である。ステアリン酸マグネシウムは、少量の使用で滑沢剤としての効果を発揮することができるが、長い間食品添加物として認められていなかったが現在では、その用途が保健機能食品に限って使用出来る事となったが、用途が限定されるという問題がある。最近の天然物志向の流れからできるだけ合成物質を使用しないようにしてほしいという消費者からの強い要求がある。
このため、また、天然系滑沢剤として食品添加物との製剤品が市販されている。またいくつかの提案がなされている。たとえば卵殻粉末(特許文献1:特開平10−225285公報)、豆類や種子の胚芽部の粉砕物(特許文献2:特開2007−320856号公報)、植物抽出多糖類(特許文献3:特開2002−326961号公報)を挙げることができる。しかし、現状では口解けや風味の面で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−225285公報
【特許文献2】特開2007−320856号公報
【特許文献3】特開2002−326961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、既存の滑沢剤を含有しない錠剤、錠菓であって打錠する際の滑沢性・結着性を高め、キャッピング、スティッキングを抑制した組成の錠剤、錠菓を提供することを課題とする。また、既存の滑沢剤を含有しないカプセル剤であって、スティッキングを抑制したカプセル剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の構成である。
(1)小麦フスマ由来の粉末を有効成分とする滑沢剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施により滑沢剤を含有しない錠剤、錠菓、カプセル剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における滑沢剤とは、日本薬学会の定義に従うものとする。日本薬学会のホームページの定義は次のとおりである。
錠剤の製造に用いる医薬品添加物の一種。錠剤の原料となる粉末や顆粒に少量(1%以下)加えると、粉体表面に付着し、粉体間の付着力が弱まるため、粉体の流動性が高くなる。また、粉体の装置への付着を防ぐことにより、錠剤の製造をスムースにする。ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油などが用いられる。
【0010】
本発明は、従来の技術とはまったく異なる技術思想の発明である。すなわち従来滑沢剤として公知の食品添加物や医薬品用添加物ではなく、小麦フスマ由来の粉末を製剤を調整する際に一定量配合することで滑沢剤としての機能を付与するものである。小麦フスマは小麦粉を製造する際の廃棄物とされていたが、最近では食用食物繊維として供給されている。食物繊維やセルロースなどの多糖類は製剤技術においては結着剤として使用されることはあったが、滑沢剤としての効果はないものと考えられてきた。逆に繊維性の物質は、製剤技術上は好ましくないとされていた。本発明は、小麦フスマ由来の粉末以外に滑沢剤を使用しなくともスティッキングやキャッピングなどの発生しない製剤を製造することができる。
【0011】
本発明においては小麦フスマ由来の粉末であれば使用可能である。この小麦フスマ由来の粉末の粒径は特に限定するものではないが、粒径が大きいと均一に分散せず流動性及び製品の歩留まりが低下するので、好ましくは、粒径が200μm以下、さらに好ましくは180μm以下である。
【0012】
本発明に使用する小麦フスマ由来の粉末は、小麦粉を製造する過程で副産物として生産される。小麦粉をローラーで粉砕する工程で小麦顆粒の内皮や胚芽はピューリファイヤーとシフターで分離され、フスマとして除去される。このフスマをさらに粉砕し、得られるものである。フスマを粉砕する場合には、特開平11−103800号公報に記載され脱脂後焙煎して粉砕する方法や、特開平5−304915号公報に開示された熱変性を起こさない温度で粉砕する方法など種々の方法が提案されているが、どの方法であっても採用することができる。小麦フスマ由来の粉末は、好ましくはJIS24メッシュ篩の通過物であり、さらに好ましくはJIS32〜80メッシュの通過物であることが良い。このようなフスマの粉砕物は食物繊維として市販されているものもある。このような小麦フスマ由来の粉末食物繊維として市販されているものとしては、日本製粉株式会社製「ブランエース」(商品名)、あるいは日清製粉株式会社製「小麦ふすま」などがある。
【0013】
小麦フスマ由来の粉末を滑沢剤として使用する場合は打錠する成分との関係又はカプセルに充填する成分の口どけや風味を考慮して使用する小麦フスマ由来の粉末を市販品から適宜選択することができる。
【0014】
本発明において使用する小麦フスマ由来の粉末は、医薬品、健康食品、菓子等に好適に用いられるが、特に、健康食品、菓子等口どけや風味が重要なものにより好適に用いられる。また、食物繊維として有害物質の吸着などの機能も有しており、滑沢剤としてのみでなく、さらに健康に役立つ機能を付加させることができる。
【0015】
本発明の錠剤または錠菓、あるいはカプセル剤の製造の製造過程は、特に限定するものではない。錠剤の場合は、圧縮成型するための粉末または顆粒を製造する造粒プロセスと圧縮成型する打錠プロセスに分けられ、滑沢剤としての機能を発揮させるためには一般に造粒プロセス後に添加されるのが好ましい。添加量は特に限定するものではないが、1.0〜10.0重量%が好ましい。
【0016】
本発明における打錠製造に用いる打錠機としては、上述したような原料粉体若しくは顆粒を打錠して錠剤を製造できる打錠機であれば特に制限されない。例えば、ロータリー打錠機や単発打錠機が好ましく用いられるがこれらに限られない。カプセル剤の場合も同様である。本発明の実施例、比較例を示し説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
1.葉酸含有製剤の調製と評価(粉体混合後直接打錠による評価)
各種食物繊維ならびに既存の滑沢剤と本発明に用いられる小麦フスマ由来の粉末について滑沢剤としての効果を比較評価した。
葉酸0.267重量部、製剤用でんぷん(パーフィラー102:フロイント産業製)99.773重量部をミクロ型透視式混合機(筒井理化学機械社)を用いて混合し、これに表1に示す各粉末を添加して混合し、単発打錠機N−30E(岡田精工社)で打錠した。打錠圧は1000Kg、錠剤重量を150ミリグラムに設定した。
かくして得られた錠剤の外観、錠剤硬度を評価した。また打錠杵への付着状態、打錠下杵/上杵の圧力比、錠剤硬度を測定し評価した。
錠剤硬度はニュースピードチェカーTS−75N型(岡田精工社製)を用いて測定した。
【0018】
【表1】
【0019】
上記表1に示すとおり実施例1の小麦フスマ由来の粉末を2%含有する錠剤は、ショ糖脂肪酸エステルや比較例8の大豆粉末のような公知の滑沢剤を配合した場合と同等かそれ以上の製剤適性を示し、杵への付着やスティッキングも発生しなかった。また錠剤の口解けや味覚もなんら問題がなかった。一方、比較例1〜7の他の食物繊維を配合した製剤は打錠適性も不良であり、さらにスティッキング、キャッピングが発生した。
【0020】
2.葉酸含有製剤の調製と評価(連続打錠による生産性評価)
上記表1で打錠適性が優れていると評価した実施例2、ポジティブコントロールのショ糖脂肪酸エステル、比較例8の大豆粉末の組成、コントロールとして滑沢剤無添加の各組成を実生産装置を用いて連続生産し、生産適性を評価した。なお混合機としてミクロ型透視式混合機S−3(筒井理化学機械)を用いて10分間混合し、超小型回転式錠剤機VEL20310SW4MZ(菊水製作所)を用い、打錠圧は1000Kg、錠剤重量を150ミリグラムに設定して連続生産を行った。
得られた錠剤は上記の1.と同様に下杵の付着、錠剤硬度を測定し評価した。結果を下記表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
上記表2に示すとおり、本発明の組成は連続生産に適する製剤であった。一方公知の滑沢剤を使用したショ糖脂肪酸エステル、比較例8は連続生産した場合錠剤硬度が低く、連続生産に適していないことが判明した。
【0023】
3.カルシウム含有製剤の調製と評価(連続打錠による評価)
小麦フスマ由来の粉末ならびに既存の滑沢剤をそれぞれ含有するカルシウム製剤を製造して発明の効果を評価した
カルシウム原料としてミルクカルシウム−28(ユニオンフーズ)80重量%、結着剤としてアルファ化モチゴメデンプン(モチールアルファ)20重量%を流動槽造粒乾燥機(FD−MP−01)を用いて造粒し、これに小麦フスマ由来粉末(ブランエース)10重量%をミクロ型透視式混合機(筒井理化学機械社)を用いて混合し、超小型回転式錠剤機VEL20310SW4MZ(菊水製作所)を用い、打錠圧は1000Kg、錠剤重量を250ミリグラムに設定して連続生産を行った。
同様に表3に示すショ糖脂肪酸エステル、部分アルファ化澱粉(PSC 旭化成ケミカルズ製、比較例9)、大豆粉末(比較例10)の公知の滑沢剤を用いて同様に連続生産を行った。得られた錠剤は上記の1.と同様に下杵の付着、錠剤硬度を測定し評価した。結果を下記表3に示す。なお下杵/上杵比は単発打錠機を用いて測定した。
【0024】
【表3】
【0025】
上記表3に示すとおり、本発明のカルシウム製剤の組成は連続生産に適するものであった。
【0026】
4.鉄ハードカプセル製造の際のスティッキングの発生評価
ヘム鉄95重量%、澱粉4.696重量%、ビタミンB12 1%粉末0.152重量%、葉酸0.152重量%を流動層造粒乾燥機FD−MP−01型((株)パウレック)を用いて造粒し、これに小麦フスマ由来粉末(ブランエース)5重量%添加しミクロ形透視式混合機S−3(筒井理化学器械(株))を用いて混合した。これをカプセル充填機:GKF400(BOSCH社(ドイツ))を用いてハードカプセルに160ミリグラム充填し、カプセル製剤を調製した(実施例3)。
同様にデキストリン(パインフロー)5重量%(比較例11)又は澱粉(モチールアルファ(α化澱粉、上越スターチ(株)))5重量%(比較例12)を混合し、次いでカプセルに充填してカプセル製剤を調製した。
得られたカプセル製剤の表面を観察してスティッキングの状態を評価した。評価結果を表4に示す。
【0027】
【表4】
【0028】
上記表4に示すとおり本発明はカプセル製剤のスティッキングを抑制した。