(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886672
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】弁箱分割部のシール構造
(51)【国際特許分類】
F16K 1/226 20060101AFI20160303BHJP
F16K 27/02 20060101ALI20160303BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
F16K1/226 Z
F16K27/02
F16J15/10 T
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-80391(P2012-80391)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-210046(P2013-210046A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100139181
【弁理士】
【氏名又は名称】花田 考士
(72)【発明者】
【氏名】西川 裕俊
(72)【発明者】
【氏名】若林 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】城山 重英
【審査官】
関 義彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−194344(JP,A)
【文献】
実開昭60−23365(JP,U)
【文献】
実開平5−87369(JP,U)
【文献】
特開昭63−158367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 1/226
F16K 27/02
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁箱が分割可能なバタフライ弁の弁箱分割部のシール構造であって、
弁箱が流路の軸方向に沿う割面で分割可能となっており、
前記割面には止水用のパッキンを嵌める溝が設けられ、
その溝は、前記流路の軸方向に沿う直線状の溝直部と、溝直部から分岐して弁座の表面に向けて伸びる溝枝部からなり、
前記溝の端部には、前記端部の先端方向とは反対側を臨む当接面を有する係止部を備え、
前記割面を合わせて前記弁箱を組み立てた時に、前記溝に嵌め込まれた前記パッキンが前記当接面に当たることを特徴とする弁箱分割部のシール構造。
【請求項2】
前記係止部を、前記溝と直交する向きに彫り込んだ凹部とし、
前記パッキンにその長手方向と直交する方向に膨らんだ突起を設け、
前記パッキンが前記溝に嵌め込まれたときに、前記突起が前記凹部に嵌まり込むことを特徴とする請求項1に記載の弁箱分割部のシール構造。
【請求項3】
前記係止部を、前記溝を横切る壁部とし、前記当接面を、前記壁部の側面のうち、前記端部の先端方向とは反対側を臨む部分とし、
前記パッキンが前記溝に嵌め込まれたときに、前記パッキンの先端が前記当接面に臨むことを特徴とする請求項1に記載の弁箱分割部のシール構造。
【請求項4】
弁箱が分割可能なバタフライ弁の弁箱分割部のシール構造であって、
弁箱が流路の軸方向に沿う割面で分割可能となっており、
前記割面には止水用のパッキンを嵌める溝が設けられ、
その溝は、前記流路の軸方向に沿う直線状の溝直部と、溝直部と直交するように溝直部から分岐して弁座表面に向けて伸びる溝枝部からなり、
前記溝の端部には、前記端部の先端方向とは反対側を臨む当接面を有する係止部を備え、
前記係止部を、前記溝と直交する向きに前記溝直部の端部に彫り込んだ凹部と、前記溝枝部の端部を横切る壁部とし、
前記当接面を、前記凹部の内面と、前記壁部の側面とし、
前記パッキンを前記溝に嵌めたときに前記溝直部に添うパッキン直部に、その長手方向と直交する方向に膨らんだ突起を設け、前記パッキン直部が前記溝直部に嵌め込まれたときに、前記突起が前記凹部に嵌まるとともに、
前記パッキンを前記溝に嵌めたときに前記溝枝部に添うパッキン枝部を、前記溝枝部に嵌め込んだときに、前記パッキン枝部の先端が前記壁部の側面に臨み、
前記割面を合わせて前記弁箱を組み立てた時に、前記溝に嵌め込まれた前記パッキンが前記当接面に当たることを特徴とする弁箱分割部のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割可能な弁箱を備える複葉弁や偏芯バタフライ弁などの弁箱分割部のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水力発電所における水車の入口弁として複葉弁が使用されている。
複葉弁の弁体は、二枚の平板を縦リブで並列に連結して形成されており、流路を全開にした時の弁体の損失係数が小さい。そのため、水車の入口弁として使用すれば、水力損失を低く抑えることができる。
【0003】
そのような複葉弁の中でも、特に、大口径で中落差用に使われるものには、流路の軸方向に沿う面で弁箱が二分割できる構造のものがある(例えば、特許文献1(第16図)参照)。
【0004】
図4に示す複葉弁V’も、弁箱が二分割可能な構造となっており、従来から用いられているものである。この弁箱1は、弁棒4の軸方向と直交し流路3の軸方向に沿う面を分割面(以下、割面という)として、上下方向に二分割される構造である。
【0005】
二分割した弁箱の下側部分の割面11には、止水用のパッキンを嵌めるための溝6が彫られている。この溝にパッキンを嵌めてから、弁箱の上側部分の割面11’を合わせて弁箱を組み立て、割面を合わせた部分(弁箱分割部)からの漏水を防いでいる。
【0006】
図5は、従来の複葉弁V’の割面における断面図であり、パッキン用の溝6は、流路3の軸方向に沿って真っ直ぐに伸びる溝直部61と、溝直部と直交するように溝直部から分岐する溝枝部62が一体に彫られた形になっている。
【0007】
そして、
図6の(a)は、
図5に記載の割面部分を拡大して示し、(b)は、この複葉弁V’で使用されるパッキン7を示している。
パッキン7は、溝6に嵌まり込むように、溝に添う形に成形されている。すなわち、溝直部61に添う形状のパッキン直部71と、溝枝部62に添う形状のパッキン枝部72が一体に成形されており、パッキン直部71とパッキン枝部72が、一体的に溝直部61と溝枝部62に嵌まり込む。
【0008】
パッキン7を溝6に嵌めた状態で、割面同士を合わせて弁箱を一体化すると、パッキン直部71を介して割面同士が液密となり、割面を合わせた部分から外に漏水することを防ぐ。
また、弁箱を組み立ててから、
図5に示すように、弁体2を全閉位置にすると、弁座8の表面に現れているパッキン枝部72の先端と、弁体シート21が接触して液密となる。これにより、割面を合わせた部分を通って、弁体2の上流から下流へ漏水することを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−158367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような従来の弁箱分割部のシール構造では、割面の溝の先端(溝直部の両端と溝枝部の先端)が開口しているため、割面を組み合わせた後、パッキンの先端(パッキン直部の両端とパッキン枝部の先端)が、溝の先端の開口から徐々に外に、はみ出してくることがある。
一度はみ出てしまったパッキンを、溝の中に押し戻すことは難しく、はみ出た分を切断するか、場合によっては、組み立てた弁箱を分解してパッキンをセットし直す必要がある。
このような、作業のやり直しは、生産性を著しく阻害する。
【0011】
本発明は、弁箱の組立作業において、生産性を阻害しないシール構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の弁箱分割部のシール構造は、弁箱が分割可能なバタフライ弁の弁箱分割部のシール構造であって、弁箱が流路の軸方向に沿う割面で分割可能となっており、前記割面には止水用のパッキンを嵌める溝が設けられ、その溝は、前記流路の軸方向に沿う直線状の溝直部と、溝直部から分岐して弁座の表面に向けて伸びる溝枝部からなり、前記溝の端部には、前記端部の先端方向とは反対側を臨む当接面を有する係止部を備え、前記割面を合わせて前記弁箱を組み立てた時に、前記溝に嵌め込まれた前記パッキンが前記当接面に当たる構成とした。
【0013】
これにより、割面を合わせて弁箱分割部を組み立てた際に、パッキンが厚み方向に圧縮されて長手方向に伸びるのを、係止部で抑えるので、弁箱を組み立てた後、パッキンが溝の端の開口から外にはみ出すのを防ぐことができる。
【0014】
また、本発明の弁箱分割部のシール構造は、前記係止部を、前記溝と直交する向きに彫り込んだ凹部とし、前記パッキンにその長手方向と直交する方向に膨らんだ突起を設け、前記パッキンが前記溝に嵌め込まれたときに、前記突起が前記凹部に嵌まり込む構成とすることができる。
【0015】
さらに、本発明の弁箱分割部のシール構造は、前記係止部を、前記溝を横切る壁部とし、前記当接面を、前記壁部の側面のうち、前記端部の先端方向とは反対側を臨む部分とし、前記パッキンが前記溝に嵌め込まれたときに、前記パッキンの先端が前記当接面に臨む構成とすることもできる。
【0016】
また、本発明の弁箱分割部のシール構造は、弁箱が分割可能なバタフライ弁の弁箱分割部のシール構造であって、弁箱が流路の軸方向に沿う割面で分割可能となっており、前記割面には止水用のパッキンを嵌める溝が設けられ、その溝は、前記流路の軸方向に沿う直線状の溝直部と、溝直部と直交するように溝直部から分岐して弁座表面に向けて伸びる溝枝部からなり、前記溝の端部には、前記端部の先端方向とは反対側を臨む当接面を有する係止部を備え、前記係止部を、前記溝と直交する向きに前記溝直部の端部に彫り込んだ凹部と、前記溝枝部の端部を横切る壁部とし、前記当接面を、前記凹部の内面と、前記壁部の側面とし、前記パッキンを前記溝に嵌めたときに前記溝直部に添うパッキン直部に、その長手方向と直交する方向に膨らんだ突起を設け、前記パッキン直部が前記溝直部に嵌め込まれたときに、前記突起が前記凹部に嵌まるとともに、前記パッキンを前記溝に嵌めたときに前記溝枝部に添うパッキン枝部を、前記溝枝部に嵌め込んだときに、前記パッキン枝部の先端が前記壁部の側面に臨み、前記割面を合わせて前記弁箱を組み立てた時に、前記溝に嵌め込まれた前記パッキンが前記当接面に当たる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の弁箱分割部のシール構造は、パッキンの端部が弁箱分割部から外にはみ出ることを防ぎ、はみ出た部分を切ったり、弁箱を分解してシールパッキンをセットし直す必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態におけるシール構造を備えた複葉弁の横断面図である。
【
図2】
図1の要部拡大図であり、(a)は割面、(b)はパッキンを示す。
【
図3】本発明の他の実施形態におけるシール構造を備えた複葉弁の要部拡大図であり、(a)は割面、(b)はパッキンを示す。
【
図5】従来のシール構造を備えた複葉弁の横断面図である。
【
図6】
図5の要部拡大図であり、(a)は割面、(b)はパッキンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から
図3に基づき、本発明の実施形態における弁箱分割部のシール構造を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態における複葉弁Vの断面図であり、割面11,11における横断面を示している。この図では、弁体2は全閉位置にあり、弁体2の外周縁に取り付けられた弁体シート21が弁箱1の内面に設けられた弁座8の表面と接触して、流路3が完全に遮断された状態となっている。
【0020】
弁箱の割面11,11は、流路3の軸線Lを含む同一平面内にあり、弁箱1は流路3の軸方向に沿って二分割できる構造となっている。
弁箱の割面11には止水用パッキンを嵌めるための溝12が彫られている。その形状は、弁箱1の軸方向(流路3の軸方向)に沿う直線状の溝直部121と、溝直部と直交するように分岐し、弁座8の表面まで伸びる溝枝部122が、同じ幅と深さで一体に彫られた形となっている。
【0021】
図2は、
図1の要部を拡大した図であり、(a)は割面11、(b)はパッキン5を示している。
パッキン5は、円形断面の細長いゴム製の棒状シール材であり、溝12に合うように、溝直部121に添うパッキン直部51と、溝枝部122に添うパッキン枝部52が一体に形成されている。
【0022】
溝直部121の両端近く(端部)には、溝直部と直交する凹部13が溝の両側面に横向きに彫って設けられ、溝の端部は十字形状を成している。その十字形状に添うように、パッキン直部51の両端近くにパッキンの両側面から横に膨らんだ突起53が付いている。パッキンを溝に嵌めるときに、この突起53が溝の凹部13に嵌まり込むようになっている。
【0023】
溝枝部122の先端には、溝の底面から傾いて立ち上がる壁部14が形成されており、溝枝部の先端付近(端部)は、先に行くほど浅くなっている。
壁部14が割面と交差する位置、つまり溝枝部122の先端位置16は、割面の流路側周縁(弁座8の内表面と割面が交差する部分)から所定の微小寸法だけ溝直部61に寄った所にある。すなわち、溝12の先端位置16と弁座8の内表面とは微小距離だけ離れており、溝枝部は、壁部14で止まり、弁座8の内表面へは開口していない。(C矢視図参照)
【0024】
割面11、11’を合わせて、弁箱1を一体に組み立てると、パッキン5は、割面の間に挟まれて、その厚み方向には圧縮され、長手方向(溝の軸方向)には伸びる。
溝直部121の両端付近では、圧縮されたパッキンが長手方向に伸びて、溝の端の開口から外にはみ出ようとするが、溝直部と直交する凹部13に嵌められたパッキンの突起53が、凹部の内表面(当接面17a)に当たって、長手方向への伸びが抑えられる。
【0025】
溝枝部122の先端付近でも、圧縮されたパッキン5が長手方向に伸びて溝の先端から外へはみ出ようとするが、パッキンの先端が溝の壁部14に当たって、長手方向への伸びが抑えられる。
【0026】
この実施形態では、凹部13と壁部14が、溝の先端とは反対側を臨む面(当接面17a、17b)を有する係止部となる。
【0027】
図3は、他の実施形態におけるシール構造を備えた複葉弁の要部拡大図であり、(a)は割面、(b)はパッキンを示している。
溝直部121’の両端近くと溝枝部122’の先端近くに、溝と直交する凹部15を縦向きに彫って、溝の端部は側面視でT字形状になっている(E矢視図参照)。
パッキン5’がその凹部15にも嵌まるように、パッキン直部51’の両端近くとパッキン枝部52’の先端近くに、下向きの突起53’が付いている。
【0028】
割面同士を合わせて、弁箱を一体に組み立てると、パッキン5’は、割面の間に挟まれて、その厚み方向には圧縮され、長手方向(溝の軸方向)には伸びる。
溝直部121’の両端付近と溝枝部122’の先端付近では、圧縮されたパッキンが長手方向に伸びて、溝の端の開口から外にはみ出ようとするが、溝直部と直交する凹部15に嵌められたパッキンの突起53’が、凹部15の内表面(当接面17c)に当たって、長手方向への伸びが抑えられる。
この実施形態では、凹部15が、溝の先端とは反対側を臨む面(当接面17c)を有する係止部となる。
【0029】
なお、各実施形態とも、二分割構造の弁箱として、複葉弁の弁箱を取り上げたが、複葉弁(複葉型のバタフライ弁)に限らず、同じように、流路に沿う面で分割可能なバタフライ弁の弁箱であれば、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 弁箱
11 割面
6,12 溝
61,121 溝直部
62,122 溝枝部
13,15 凹部(係止部)
14 壁部(係止部)
16 先端位置
17 当接面
2 弁体
22 縦リブ
3 流路
4 弁棒
5,7 パッキン
51,71 パッキン直部
52,72 パッキン枝部
53 パッキン突起
8 弁座
V,V’ 複葉弁(弁)
L 軸線