特許第5886693号(P5886693)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886693
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】スライドコアガイドユニット
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/44 20060101AFI20160303BHJP
【FI】
   B29C33/44
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-130259(P2012-130259)
(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公開番号】特開2013-252669(P2013-252669A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】梅原 克樹
(72)【発明者】
【氏名】桐明 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】店橋 純一
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−079898(JP,A)
【文献】 実開昭58−032874(JP,U)
【文献】 特公平07−023660(JP,B2)
【文献】 特開平01−198983(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0064455(US,A1)
【文献】 特開平02−292482(JP,A)
【文献】 特開2001−096590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型から成型品を取り出すための傾斜ピンを案内するスライドコアガイドユニットであって、
前記傾斜ピンを取り付けるためのピンホルダと、
前記ピンホルダを回転可能に支持しながら所定の方向に移動するスライドプレートと、
前記スライドプレートと前記ピンホルダとに付着し、前記スライドプレートと前記ピンホルダとの相対的な回転に対する抵抗力を発生する粘着剤と、を備え、
前記粘着剤が前記スライドプレートと前記ピンホルダとの間に形成される隙間に介在し、
前記ピンホルダおよび前記スライドプレートの対向面の少なくともいずれか一方に、前記粘着剤を充填するための凹部が形成されている
ことを特徴するスライドコアガイドユニット。
【請求項2】
請求項記載のスライドコアガイドユニットであって、
前記ピンホルダはトラニオン部を有し、
前記スライドプレートには、前記トラニオン部が挿入され、当該トラニオン部を回転可能に支持するトラニオン挿入穴が形成されており、
前記粘着剤は、前記トラニオン挿入穴の内周面と、当該トラニオン挿入穴に挿入されたトラニオン部の外周面との間に介在する
ことを特徴とするスライドコアガイドユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスライドコアガイドユニットであって、
前記粘着剤は、グリースである
ことを特徴とするスライドコアガイドユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型品のアンダーカット部を取り出すための傾斜ピンを案内するスライドコアガイドユニットおよびその組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドベースに対するピンホルダのふらつきを防止可能なスライドコアガイドユニットとして、特許文献1に記載のスライドコアガイドユニットが知られている。
【0003】
このスライドコアガイドユニットにおいては、傾斜ピンを保持するためのピンホルダのホルダ本体の両側面側に設けられたトラニオン部(回転軸)の外周に、ポンチ加工によって微小な突起が形成されている。そして、スライドベースのガイド溝により案内される2枚のスライドプレートに回転可能に保持されるように、ピンホルダの各トラニオン部は、それぞれのスライドプレートに形成された貫通穴に挿入されている。
【0004】
このような構造とすることにより、ピンホルダのトラニオン部の軸心とスライドプレートの貫通穴の軸心との間にずれ(偏心)が生じ、トラニオン挿入穴内におけるトラニオン部のスムーズな回転が妨げられるため、スライドプレートに対するピンホルダのふらつき、つまり、スライドベースに対するピンホルダのふらつきが防止され、ピンホルダへの傾斜ピンの装着中、スライドベースに対するピンホルダの姿勢が保持される。これにより、ピンホルダへの傾斜ピンの装着時における作業効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−79898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のスライドコアガイドユニットにおいては、ピンホルダのトラニオン部の軸心とスライドプレートの貫通穴の軸心との間にずれが生じ、ピンホルダの回転精度が低下するため、傾斜ピンの位置が精度よく定まらない可能性がある。また、スライドプレートに対してピンホルダを回転させるために要する力が断続的に変化するため、ピンホルダへ傾斜ピンを装着する際に行われる傾斜ピンの姿勢調整が行い難い。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ピンホルダへ傾斜ピンを装着する際の作業性がよく、かつ高精度なスライドコアガイドユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明においては、ピンホルダと、このピンホルダを回転可能に保持するスライドプレートとに、粘着剤を付着させ、この粘着剤の粘着力によって、前記スライドプレートと前記ピンホルダとの相対的な回転に対する抵抗力を発生する。
【0009】
例えば、本発明は、金型から成型品を取り出すための傾斜ピンを案内するスライドコアガイドユニットであって、
前記傾斜ピンを取り付けるためのピンホルダと、
前記ピンホルダを回転可能に支持しながら所定の方向に移動するスライドプレートと、
前記スライドプレートと前記ピンホルダとに付着し、前記スライドプレートと前記ピンホルダとの相対的な回転に対する抵抗力を発生する粘着剤と、を備え、
前記粘着剤が前記スライドプレートと前記ピンホルダとの間に形成される隙間に介在し、
前記ピンホルダおよび前記スライドプレートの対向面の少なくともいずれか一方に、前記粘着剤を充填するための凹部が形成されている
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スライドプレートに回転可能に保持されたピンホルダの自重による回転が、スライドプレートとピンホルダとに付着した粘着剤の粘着力により防止されるため、ピンホルダのトラニオン部に微小な突起を形成しておかなくても、スライドベースに対するピンホルダの姿勢を保持することができる。したがって、スライドプレートに対するピンホルダの回転精度が向上し、傾斜ピンの位置が精度よく定めることができるとともに、スライドベースに対するピンホルダの姿勢が保持される一方で、作業者が手作業で一定の力を加えれば、スライドプレートに対してピンホルダをスムーズに回転させることができるため、金型から成型品を押し出すための傾斜ピンをピンホルダへ装着する際の作業性を向上させることができる。
【0011】
また、粘着剤の種類を選択することにより、環境温度、ピンホルダの大きさ及び重量等に応じた作業上最適な粘着力を選択可能であるため、作業性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1の外観図である。
図2図2(A)は、図1に示したスライドコアガイドユニット1の上面図であり、図2(B)は、図2(A)のA−A断面図であり、図2(C)は、図2(A)のB−B断面図であり、図2(D)は、図2(C)のA部拡大図である。
図3図3(A)は、スライドベース5の上面図であり、図3(B)および(C)は、図3(A)のC−C断面図およびD−D断面図であり、図3(D)は、スライドベース5の右側面図である。
図4図4(A)、(B)および(C)は、スライドプレート3の外観図、上面図および側面図であり、図4(D)は、図4(B)のE−E断面図である。
図5図5(A)、(B)、(C)および(D)は、平行キー7が取り付けられたピンホルダ2の外観図、正面図、側面図および上面図であり、図5(E)は、図5(D)のF−F断面図である。
図6図6(A)は、スライドベース5へのピンホルダ2の組み込み手順の例を説明するための図であり、図6(B)は、スライドプレート3によるピンホルダ2の保持状態の一例を説明するための状態であり、図6(C)は、スライドプレート3によるピンホルダ2の保持状態の他の例を説明するための状態である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
まず、本実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1の構成について説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1の外観図であり、図2(A)は、このスライドコアガイドユニット1の上面図である。また、図2(B)は、図2(A)のA−A断面図であり、図2(C)は、図2(A)のB−B断面図であり、図2(C)は、図2(C)のA部拡大図である。
【0016】
図示するように、本実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1は、金型から成型品を取り出す傾斜ピン9を保持するためのピンホルダ2と、ピンホルダ2を回転可能に保持する1対のスライドプレート3と、金型から成型品を取り出すときのピンホルダ2の移動に伴って移動するスライドプレート3の移動を案内するスライドベース5と、傾斜ピン9をピンホルダ2に固定するための六角穴付きボルト6と、傾斜ピン9の回り止め用の平行キー7および平行キー7用の固定ネジ8と、を備えている。このスライドコアガイドユニット1の保持対象となる傾斜ピン9の一方の端部(金型から成型品を突き出す側の端部の反対側端部:以下、固定端部)91の外周には、平行キー7に接触する平坦な切り欠き部92が形成されており、さらに、この固定端部91側の端面93には、六角穴付きボルト6が締結されるネジ穴94が形成されている。
【0017】
ここで、例えば成型機のエジェクタプレートへの組み込み作業中等に、2枚のスライドプレート3に回転可能に保持されたピンホルダ2がその自重によって回転するのを防止するため、少なくとも一方のスライドプレート3とピンホルダ2との間には、成型機のエジェクタプレートへの組み込み前の段階において、スライドプレート3とピンホルダ2とに付着して両者の相対的な回転を妨げる粘着剤4を介在させてある。具体的には、ピンホルダ2への傾斜ピン9の装着作業を行う環境の条件(例えば、ピンホルダー周囲の温度等)下において、ピンホルダー2の重量および大きさに応じた所定の粘着性を有する粘着剤4を、例えば、後述するトラニオン挿入穴32の内周面321とこのトラニオン挿入穴32に回転可能に挿入されたトラニオン部22の外周面222との間に介在させている。
【0018】
スライドコアガイドユニット1の構成要素2〜8の詳細は以下のとおりである。
【0019】
図3(A)は、スライドベース5の上面図であり、図3(B)および(C)は、図3(A)のC−C断面図およびD−D断面図であり、図3(D)は、スライドベース5の右側面図である。
【0020】
スライドベース5は、不図示の成型機に取り付けられるエジェクタプレートに組み込まれる。図示するように、このスライドベース5は、所定の間隔T1をおいて配置された1対のベースブロック51と、これらのベースブロック51を連結する2本のスペーサ52および4本の固定ネジ53と、を有している。
【0021】
各ベースブロック51には、それぞれ、エジェクタプレートへの取付け面として利用可能な両端面513A,513Bを貫通した複数のネジ穴515が形成されている。2つのベースブロック51のいずれか一方の端面513A,513Bを取付け面としてエジェクタプレートに接触させた状態で、2つのベースブロック51の各ネジ穴515に、エジェクタプレートの対応貫通穴に挿入した取付けネジを締結する、または、2つのベースブロック51の各ネジ穴515に挿入した取付けネジをエジェクタプレートの対応ネジ穴に締結することによって、スライドベース5はエジェクタプレートに固定される。
【0022】
また、2つのベースブロック51の対向面(互いに他のベースブロック51側に向けられた面)512には、それぞれ、ピンホルダ2の移動方向に沿ったガイド溝511が形成されている。このガイド溝511は、他方のベースブロック51との対向面512と隣り合う両側面517において開口している。このガイド溝511には、スライドプレート3が、ベースブロック51の側面517側から挿入されてスライド可能に収容される(図2(C)参照)。なお、図3には、一例として、ベースブロック51の端面513A,513Bに対してガイド溝511が傾斜している場合を示しているが、ベースブロック51の端面513A,513Bとガイド溝511との角度は、成型品のアンダーカット部の形状等に応じて適宜定められる。
【0023】
2つのベースブロック51の両側面517には、それぞれ、他方のベースブロック51側のネジ穴と対応する高さの位置にネジ穴(不図示)が形成されている。
【0024】
2本のスペーサ52には、2つのベースブロック51の間に保持すべき間隔T1に応じた間隔で貫通穴522が形成されている。これらのスペーサ52は、それぞれ、対向配置された2つのベースブロック51の側面517間にかけ渡され、各貫通穴522に挿入された固定ネジ53とベースブロック51の側面517のネジ穴(不図示)との締結によって固定される。これにより、2つのベースブロック51が、所定の間隔T1をおいた位置で固定される。
【0025】
図4(A)、(B)および(C)は、スライドプレート3の外観図、上面図および側面図であり、図4(D)は、図4(B)のE−E断面図である。
【0026】
2枚のスライドプレート3は、2つのベースブロック51の側面517側からガイド溝511に一枚ずつ挿入され、ピンホルダ2を保持した状態で、2つのベースブロック51のガイド溝511内にスライド可能に収容されている(図2(C)参照)。図示するように、各スライドプレート3の表面31A,31Bのうち、少なくとも、ベースブロック51のガイド溝511の溝底5112と摺動する一方の表面(図4においては31A)には、外部に露出する固体潤滑剤33が埋め込まれている。同様に、各スライドプレート3の端面のうち、スライドベース5のガイド溝511の側壁5111と摺動する端面31C,31Dにも、外部に露出する固体潤滑剤33が埋め込まれている。
【0027】
また、各スライドプレート3には、一方の表面31Aから他方の表面31Bに貫通したトラニオン挿入穴32が形成されている。このトラニオン挿入穴32には、スライドプレート3の他方の表面31B側からピンホルダ2のトラニオン部22が回転可能に挿入されている(図2(C)参照)。また、少なくとも一方のスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222との間に形成される嵌合い公差に応じたクリアランスCには粘着剤4が充填されており、これにより、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転を防止可能な程度の粘着力が、トラニオン挿入穴32の内周面321とトラニオン部22の外周面222との間に作用している。
【0028】
図5(A)、(B)、(C)および(D)は、平行キー7が取り付けられたピンホルダ2の外観図、正面図、側面図および上面図であり、図5(E)は、図5(D)のF−F断面図である。
【0029】
ピンホルダ2は、スライドベース5の2つのベースブロック51間に回転およびスライド可能な状態で収容されている。図示するように、このピンホルダ2は、傾斜ピン9の固定端部91が固定されるブロック状のホルダ本体21と、ホルダ本体21の4つ側面211A〜211Dのうち、対向する2つの側面211A,211Bに一体的に形成された1対のトラニオン部(回転軸)22と、を備えており、ホルダ本体21の幅t1は、2つのベースブロック51の間隔T1よりも狭く、トラニオン部22の端面221間の距離t2は、2つのベースブロック51のガイド溝511の溝底5112間の距離T2よりも狭い。
【0030】
ホルダ本体21には、成型機のキャビティ側に向けられる一方の端面(側面211A〜211D以外の面:以下、上面と呼ぶ)212Aにピン挿入穴214が形成されるとともに、上面212Aの反対側の面(底面)212Bに、ピン挿入穴214の底面2141を貫通する座繰り付きのボルト挿入穴215が形成されている。また、このホルダ本体21には、上面212A内においてピン挿入穴214の軸方向で周面と一部接触する位置にキー溝216が形成されるとともに、トラニオン部22を備える側面211A,211B以外の側面211Cに、キー溝216の内壁を貫通するネジ挿入穴217が形成されている。
【0031】
傾斜ピン9の固定端部91は、ホルダ本体21の上面212A側からピン挿入穴214に挿入され、六角穴付きボルト6は、ホルダ本体21の底面212B側からボルト挿入穴215に挿入され、ピン挿入穴214に挿入された傾斜ピン9の端面93のネジ穴94に締結される。
【0032】
平行キー7は、ホルダ本体21の上面212A側からキー溝216内に収容されており、固定ネジ8は、ホルダ本体21の側面211C側からネジ挿入穴217に挿入され、キー溝216内の平行キー7のネジ穴71に締結されている。このようにしてホルダ本体21に固定された平行キー7は、ホルダ本体21のピン挿入穴214に挿入される傾斜ピン9の切り欠き部92に面接触し、これにより、ホルダ本体21に対して所定の向きに傾斜ピン9を位置付けるとともに、ホルダ本体21に対する傾斜ピン9の回転を防止する。
【0033】
一対のトラニオン部22は、ホルダ本体21のピン挿入穴214を横切る共通の軸心Oを有している。前述したように、これらのトラニオン部22が、2つのスライドベース5のガイド溝511にスライド可能に収容されたスライドプレート3のトラニオン挿入穴32内に回転可能に挿入されている。このため、ホルダ本体21のピン挿入穴214に挿入された傾斜ピン9は、セッティング時には、トラニオン部22の軸心O回りに回転することにより、アンダーカットの角度に応じて傾斜角度を調整可能であり、アンダーカット処理中には、エジェクタプレートの移動に伴い、2つのスライドベース5のガイド溝511に沿ってピンホルダ2とともに往復移動する。
【0034】
図2(D)に示したように、粘着剤4は、2枚のスライドプレート3のうち、少なくとも一方のスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222との間に形成される嵌合い公差に応じたクリアランスCに充填されている。この粘着剤4は、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とに濡れ広がり、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転を防止可能ではあるが、スライドプレート3に対するピンホルダ2の姿勢(傾斜ピン9の姿勢)を手作業でスムーズに調整可能な程度の粘着性を有している。本実施の形態においては、このような粘着剤4として、例えば、ピンホルダ2への傾斜ピン9の装着作業を行う環境の条件(例えば温度等)下において、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とに濡れ広がる流動性と、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転を防止可能な粘着性とを有する粘着性潤滑剤であるグリース(クリアランスが約40ミクロンの場合、例えばNLGIちょう度番号「2」のグリース)またはダンピンググリースを用いている。
【0035】
なお、ピンホルダ9の回転による傾斜ピン9の姿勢調整は、一般に、成型機のエジェクタプレートへの組み込み段階で行われるのみであるため、粘着剤4は、長期間にわたって粘着性を維持するものである必要はない。例えば、粘着剤4は、経時的に粘着力を失うものであってもよいし、揮発するものであってもよい。
【0036】
本実施の形態においては、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222との間に形成される嵌合い公差に応じたクリアランスCの全域に粘着剤4を充填しているが、必ずしも、このようにする必要はない。例えば、ピンホルダ2の質量等に応じて、粘着剤4を、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222との間に部分的に介在させてもよい。
【0037】
つぎに、このようなスライドコアガイドユニット1の組立て順について説明する。ただし、ここでは、予め組み立てられたスライドベース5を用いることとする。
【0038】
図6(A)は、スライドベース5へのピンホルダ2の組み込み手順を説明するための図であり、図6(B)は、スライドプレート3によるピンホルダ2の保持状態を説明するための状態である。
【0039】
図6(A)に示すように、ピンホルダ2の2つのトラニオン部22またはいずれか一方のトラニオン部22の外周面222全体または一部に、粘着剤4として、例えばNLGIちょう度番号「2」のグリース4を塗布する。その後、ピンホルダ2の2つのトラニオン部22を、それぞれのスライドプレート3のトラニオン挿入穴32に挿入する。このとき、ピンホルダ2のトラニオン部22は、その外周面222に塗布されたグリース4の潤滑性によってスライドプレート3のトラニオン挿入穴32にスムーズに挿入される。これにより、図6(B)に示すように、トラニオン挿入穴32の内周面321と、このトラニオン挿入穴32に挿入されたトラニオン部22の外周面222との間に形成される嵌合い公差に応じたクリアランスCには粘着剤4としてグリースが充填される。なお、本実施の形態では、ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222に粘着剤4を塗布しているが、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321に粘着剤4を塗布してもよい。
【0040】
このようにして、ピンホルダ2に2枚のスライドプレート3を組み付けたら、この組み付け体をスライドベース5のベースブロック51の間に収容する。具体的には、2本のスペーサ52のうち、いずれか一方のスペーサ52を2つのベースブロック51から外してから、2つのベースブロック51のガイド溝511にスライドプレート3が1枚ずつ挿入されるように、2つのベースブロック51の間に組立て体を挿入する。これにより、ピンホルダ2は、2枚のスライドプレート3に回転可能に支持された状態で、ガイド溝511に沿って移動可能に2つのベースブロック51間に収容される。ここで、トラニオン挿入穴32の内周面321と、このトラニオン挿入穴32に挿入されたトラニオン部22の外周面222との間には粘着剤4が介在しているため、この粘着剤4の粘着性により、トラニオン挿入穴32の内周面321とトラニオン部22の外周面222とが結合し、トラニオン部22の軸心O周りのピンホルダ2の回転が拘束される。これにより、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転が防止される。
【0041】
その後、外したスペーサ52を、再度、2本の固定ネジ53で2つのベースブロック51に固定する。これにより、スライドコアガイドユニット1が完成する。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1においては、成型機のエジェクタプレートへの組み込み前の段階において、少なくとも一方のスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222との間に、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転を防止可能な粘着性を有する粘着剤4を介在させている。このような構造によれば、ピンホルダ2のトラニオン部22にポンチ加工等の機械加工を施して微小な突起を形成しておかなくても、粘着剤4の粘着性によって、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転が防止されるため、スライドベース5に対するピンホルダ2の姿勢が保持される。このため、スライドプレート3に対するピンホルダ2の回転精度が向上し、傾斜ピン9の位置を精度よく定めることができるとともに、成型機のエジェクタプレートへの組み込み作業中には、スライドベース5に対するピンホルダ2の姿勢が保持される一方で、作業者が手作業で一定の力を加えれば、スライドプレート3に対してピンホルダ2をスムーズに回転させることができるため、ピンホルダ2へ傾斜ピン9を装着する際の作業性の向上を実現することができる。また、ピンホルダ2のトラニオン部22に対するポンチ加工等の機械加工工程が不要となり、その分、スライドコアガイドユニット1の製造コストの低減を図ることができる。
【0043】
また、トラニオン部22の外周面222とトラニオン挿入穴32の内周面321との間のクリアランスCをより小さくしても、粘着剤4の潤滑性により、作業者は、トラニオン挿入穴32内にトラニオン部22をスムーズに挿入できるとともに、適度な力を加えるだけで、スライドベース5に対してピンホルダ2をよりスムーズに回転させることができる。このため、ピンホルダ2へ傾斜ピン9を装着する際の作業性を低下させることなく、ピンホルダ2の回転精度をより向上させ、傾斜ピン9を精度よく作動させることができる。
【0044】
ところで、上記においては、ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321との間に形成される嵌合い公差に応じたクリアランスCに粘着剤4を介在させているが、これに限らず、粘着剤4は、ピンホルダ2とスライドプレート3との間に形成される適当な厚さの隙間に存在していればよい。例えば、ピンホルダ2の少なくとも一方の側面211Aと、この側面に対向するスライドプレート3の他方の表面31Bとの間に粘着剤4を介在させてもよい。以下、一例として、2枚のスライドプレート3の他方の表面31Bとピンホルダ2の両側面211A、211Bとのそれぞれの隙間に粘着剤4を介在させる場合について説明する。
【0045】
図6(C)は、2枚のスライドプレート3の他方の表面31Bとピンホルダ2の両側面211A、211Bとのそれぞれの隙間に粘着剤4を介在させた場合における、スライドプレート3によるピンホルダ2の保持状態を説明するための状態である。
【0046】
図示するように、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32内へピンホルダ2のトラニオン部22を挿入することによってピンホルダ2の両側面211A、211Bと2枚のスライドプレート3の他方の表面31Bとの間にはそれぞれ適当な厚さの隙間T3が形成される。粘着剤4は、これらの隙間T3全域に充填されている。具体的には、ピンホルダ2の両側面211A、211Bまたは2枚のスライドプレート3の他方の表面31Bに適当量の粘着剤4を塗布してから、ピンホルダ2の2つのトラニオン部22をそれぞれのスライドプレート3の他方の表面31側からトラニオン挿入穴32に挿入し、ピンホルダ2の両側面211A、211Bに2枚のスライドプレート3の他方の表面31Bを押し当てることによって、粘着剤4が、ピンホルダ2の両側面211A、211Bと2枚のスライドプレート3の他方の表面31Bとのそれぞれの隙間T3全域にいきわたる。
【0047】
このような構成によれば、粘着剤4によって、ピンホルダ2の側面211A、211Bとスライドプレート3の他方の表面31Bとが、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転を防止可能、かつ、作業者が手作業でスライドプレート3に対してピンホルダ2をスムーズに回転させることができる程度の粘着力ではりつく。このため、ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321との間に粘着剤4を介在させた場合と同様、ピンホルダ2へ傾斜ピン9を装着する際の作業性の向上を実現することができる。
【0048】
また、粘着剤4の介在によって、ピンホルダ2のホルダ本体21の側面211A,211Bとスライドプレート3の他方の表面31Bとの間隔が一定に保持されるため、2枚のスライドプレート3の間におけるピンホルダ2のがたつきを防止することができる。
【0049】
なお、本実施の形態においては、ピンホルダ2の側面211A、211Bとスライドプレート3の他方の表面31Bとの隙間T3全域に粘着剤4を充填しているが、例えばピンホルダ2の質量等に応じて、ピンホルダ2の側面211A、211Bとスライドプレート3の他方の表面31Bとの間に粘着剤4を部分的に介在させてもよい。また、必要に応じて、ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321との間、および、ピンホルダ2の側面211A、211Bとスライドプレート3の他方の表面31Bとの間の双方に粘着剤4を介在させてもよい。
【0050】
なお、本実施の形態においては、粘着剤4としてグリースを用いた場合を例に挙げているが、少なくともピンホルダ2への傾斜ピン9の装着作業が行われる間に、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転を阻止可能な粘着性を保持するものであれば、例えば、グリース以外の油脂、粘土、糊等のゲル状の物質等を粘着剤4として用いてもよい。また、グリースとして、例えばNye Lubricants, IncのNYOGEL774シリーズ等のダンピンググリースを使用してもよい。また、作業環境の条件(温度等)、ピンホルダ2の大きさおよび重量等を考慮して、作業者が傾斜ピン9の装着および姿勢調整等の作業を行いやすい最適な粘着力を発揮する粘着剤4を選択するようにしてもよい。これにより、作業性をさらに向上させることができる。
【0051】
また、本実施の形態においては、トラニオン部22の外周面222、トラニオン挿入穴32の内周面321、スライドプレート3の他方の表面31B、ピンホルダ2の側面211A,211Bといった、ピンホルダ2とスライドプレート3との接触面に粘着剤4を塗布しているが、必ずしも、このようにする必要はない。
【0052】
例えば、ピンホルダ2またはスライドプレート3が溝等の凹部を適切に加工可能な適当なサイズを有してる場合等には、ピンホルダ2とスライドプレート3との接触面に凹部を形成し、この凹部に粘着剤4を充填してから、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32にピンホルダ2のトラニオン部22を挿入するようにしてもよい。このようにした場合、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222との間に、粘着剤4の厚さを見込んだクリアランスを設定する必要がない。このため、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222との間のクリアランスをより小さくすることができ、ピンホルダ2の回転精度をより向上させることができるため、傾斜ピン9を精度よく作動させることができる。
【0053】
あるいは、粘着剤4が塗布されたテープを、ピンホルダ2のいずれかの面とスライドプレート3のいずれかの面とに貼り付け、テープの粘着力で、ピンホルダ2およびスライドプレート3のテープ貼り付け面を、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転を防止可能な程度に結合させてもよい。また、連続した複数の穴をテープに形成しておくことによって、傾斜ピン9の姿勢の調整時には、このテープが破断するようにしてもよい。
【0054】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。例えば、ピンホルダ2に対する傾斜ピン9の高さを調整するためのアジャストロッドおよびロックナットを備えるスライドコアガイドユニットに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1:スライドコアガイドユニット、 2:ピンホルダ、 3:スライドプレート、 4:粘着剤、 5:スライドベース、 6:六角穴付きボルト、 7:平行キー、 8:平行キー7の固定ネジ、 9:傾斜ピン、 21:ホルダ本体、 22:トラニオン部、 31A,31B:スライドプレート3の表面、 31C,31D:スライドプレート3の端面、 32:トラニオン挿入穴、 33:固体潤滑剤、 41:開口、 51:ベースブロック、 52:スペーサ、 53:スペーサ52用の固定ネジ、 71:平行キー7のネジ穴、 91:傾斜ピン9の固定端部、 92:傾斜ピン9の切り欠き部、 93:傾斜ピン9の端面、 94:六角穴付きボルト6用のネジ穴、 211A〜211D:ピンホルダ2の側面、 212A:ピンホルダ2の上面、 212B:ピンホルダ2の底面、 214:傾斜ピン9のピン挿入穴、 215:六角穴付きボルト6のボルト挿入穴、 216:キー溝、 217:固定ネジ8用のネジ挿入穴、 221:トラニオン部22の端面、 222:トラニオン部22の外周面、 321:トラニオン挿入穴32の内周面、 511:ガイド溝、 512:ベースブロック51の対向面、 513A,513B:ベースブロック51の端面、 515:ベースブロック51のネジ穴、 517:ベースブロック51の側面、 522:スペーサ52の貫通穴、 2141:ピン挿入穴214の底面、 5111:ガイド溝511の側壁、 5112:ガイド溝511の溝底
図1
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図3
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図6