特許第5886749号(P5886749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5886749薬物−ブロックコポリマー複合体とそれを含有する医薬の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886749
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】薬物−ブロックコポリマー複合体とそれを含有する医薬の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20160303BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 47/42 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20160303BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20160303BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   A61K9/14
   A61K47/34
   A61K47/42
   A61K47/48
   A61K47/32
   A61K31/337
   A61P35/00
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-531907(P2012-531907)
(86)(22)【出願日】2011年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2011069709
(87)【国際公開番号】WO2012029827
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年1月30日
(31)【優先権主張番号】特願2010-196533(P2010-196533)
(32)【優先日】2010年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本山 順
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−516548(JP,A)
【文献】 国際公開第02/072150(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/040818(WO,A1)
【文献】 特開2003−342168(JP,A)
【文献】 特開2003−012505(JP,A)
【文献】 特表2010−524924(JP,A)
【文献】 特開平11−114027(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/033296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72,
A61K31/00−31/80,
A61K47/00−47/48,
A61P1/00−43/00
CAplus (STN),
REGISTRY(STN),
JSTPlus (JDreamIII),
JMEDPlus(JDreamIII),
JST7580 (JDreamIII),
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性薬物と,ポリエチレングリコール又はその誘導体である親水性セグメント及びポリアスパラギン酸誘導体又はポリグルタミン酸誘導体である疎水性セグメントが結合してなるブロックコポリマーとを1種又は2種以上の非水性溶媒中で混合し,25℃以上に加温して得られる混合液を該ブロックコポリマーの融点以下に維持した気流雰囲気中に噴霧乾燥することを特徴とする薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項2】
前記難水溶性薬物と前記ブロックコポリマーとを含む前記混合液を35℃以上に加温することを特徴とする請求項1に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項3】
噴霧乾燥する際の前記気流雰囲気が40℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項4】
噴霧乾燥する際の前記気流雰囲気が20℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項5】
前記難水溶性薬物と前記ブロックコポリマーとを含む前記混合液中の前記非水性溶媒以外の成分の割合が,前記混合液の総質量に対して10質量%以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項6】
前記難水溶性薬物が難水溶性の抗がん剤,抗生物質,抗リュウマチ剤又は抗菌剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項7】
前記難水溶性薬物が難水溶性の抗がん剤であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項8】
前記非水性溶媒が85℃以下の沸点を持つ有機溶媒であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項9】
前記有機溶媒がエタノール,メタノール,酢酸エチル,イソプロパノール,ヘキサン,クロロホルム,ジクロロメタン,アセトン,アセトニトリル,テトラヒドロフランからなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶媒であることを特徴とする請求項8に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項10】
前記難水溶性薬物と前記ブロックコポリマーとを含む前記混合液が,更に,糖類,糖アルコール類,無機塩類,界面活性剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【請求項11】
前記界面活性剤がポリエチレングリコール,ポリソルベート若しくはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油,又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項10に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,難水溶性薬物と,親水性セグメント及び疎水性セグメントが結合してなるブロックコポリマーとを非水性溶媒に溶解及び/又は分散し,該溶液及び/又は該分散液を噴霧乾燥する事により得られる難水溶性薬物とブロックコポリマーの複合体の製造方法に関する。また本発明は、該複合体を含有する医薬製剤の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
親水性セグメントと疎水セグメントからなるブロックコポリマーを薬物担体として用い,非水溶性薬物を封入したポリマーミセルを形成する組成物及びその製造方法が知られている。特に,親水性セグメントとしてポリエチレングリコール誘導体を有し,疎水性セグメントとしてポリアミノ酸若しくはその誘導体を使用したブロックコポリマーは水中で比較的容易に自己会合ミセルを形成することからドラッグデリバリーシステムの担体として用いられている(特許文献1)。
【0003】
又,そのようなブロックコポリマーと難水溶性薬物を有機溶媒中に溶解し,溶媒を留去した後に,水中に分散させる方法が特許文献2,特許文献3等に示されている。
【0004】
水溶性医薬品を噴霧乾燥により粉末化する方法が特許文献4に示されている。更に,溶融性高分子を噴霧冷却により粉末化する方法が特許文献5に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2777530号公報
【特許文献2】特許第3615721号公報
【特許文献3】特開2003−342168号公報
【特許文献4】特開平11−114027号公報
【特許文献5】特公平7−41154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
難水溶性薬物をブロックコポリマーに内包させて得られる高分子ミセル溶液を調製するにあたり,難水溶性薬物を均一に水中分散させることは困難であるため,一般的には揮発性の良溶媒中に溶解した後,水中に混合し,透析法,液中乾燥法等を用いて有機溶媒を除去する方法が取られている。しかしながらこれらの方法では,残留する有機溶媒を完全に除去することが困難で,医薬品組成物としてその残留量を管理する必要性から,大きな問題となっていた。
【0007】
又,難水溶性薬物とブロックコポリマーを揮発性の良溶媒に溶解した後,溶媒を乾燥除去することで,難水溶性薬物とブロックコポリマーの複合体を得,乾燥物として水中分散する方法も開示されている。しかしながら,得られる複合体の性状によっては水中分散するために大きな機械力を要したり,両成分の溶媒に対する溶解度が異なることから乾燥工程中にそれぞれの成分に濃度勾配を生じ,均一な複合体を得ることが困難であった。
【0008】
噴霧乾燥法の1つであるスプレードライ法により乾燥固形物を得る方法は,食品製造等において広く行われている方法であるが,通常は使用する溶媒の沸点近傍の雰囲気下で乾燥を行う。そのため,熱に弱い医薬品成分では,短時間とはいえ高温雰囲気下に曝すことで不純物量の増大を招き適用が困難である。比較的温度の低い雰囲気下で噴霧して乾燥する限定的な方法が知られているが,融点が低い高分子成分を含む場合,高分子成分の熱可塑性により乾燥固形物を得るのは困難であった。
【0009】
ある種の高分子化合物においては,その熱溶融物を噴霧冷却することによるスプレークーリングにより微小固形物を得る方法が公開されている。しかしながら,スプレーに適した粘度を有する溶融物を得るためには高温加熱が必要であり,医薬品成分を含む製剤にこれを適用することは困難である。又,溶融物の粘度が高いものは噴霧することに適さず,高分子化合物の固有の物性により急速に低温雰囲気下に曝しても充分固化されずに綿飴状に糸を引くような状態になり適用できない場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は,前記の問題を解決すべく鋭意検討した結果,難水溶性薬物とブロックコポリマーとを揮発性の非水性溶媒に溶解し,必要により許容範囲内まで加温した後に,低温雰囲気下に噴霧することで,混合物中の非水性溶媒が充分に乾燥除去され,更に,ブロックコポリマーの低温固化が溶媒の気化熱により促進されることで,通常のスプレードライ条件では溶媒の乾燥が難しい低温雰囲気下での噴霧乾燥方法を見出し,加えて,難水溶性薬物とブロックコポリマーが複合化し,均一に分散した水分散性の高い粉末を得ることに成功した。
【0011】
即ち,本発明は次の(1)〜(15)に関する。
【0012】
(1)難水溶性薬物と,親水性セグメント及び疎水性セグメントが結合してなるブロックコポリマーとを1種又は2種以上の非水性溶媒中で混合し,必要により加温して得られる混合液を噴霧乾燥することを特徴とする薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0013】
(2)前記難水溶性薬物と前記ブロックコポリマーとを含む前記混合液を加温し,該ブロックコポリマーの融点以下に維持した気流雰囲気中に噴霧乾燥することを特徴とする前記(1)に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0014】
(3)前記難水溶性薬物と前記ブロックコポリマーとを含む前記混合液を25℃以上に加温することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0015】
(4)前記難水溶性薬物と前記ブロックコポリマーとを含む前記混合液を35℃以上に加温することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0016】
(5)噴霧乾燥する際の前記気流雰囲気が40℃以下であることを特徴とする前記(2)に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0017】
(6)噴霧乾燥する際の前記気流雰囲気が20℃以下であることを特徴とする前記(2)に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0018】
(7)前記難水溶性薬物と前記ブロックコポリマーとを含む前記混合液中の前記非水性溶媒以外の成分の割合が前記混合液の総質量に対して10質量%以上である前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0019】
(8)前記難水溶性薬物が難水溶性の抗がん剤,抗生物質,抗リュウマチ剤又は抗菌剤であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0020】
(9)前記難水溶性薬物が難水溶性の抗がん剤であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0021】
(10)前記ブロックコポリマーの前記親水性セグメントがポリエチレングリコール又はその誘導体であり,かつ前記疎水性セグメントがポリアスパラギン酸誘導体又はポリグルタミン酸誘導体であることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0022】
(11)前記非水性溶媒が85℃以下の沸点を持つ有機溶媒であることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0023】
(12)前記有機溶媒がエタノール,メタノール,酢酸エチル,イソプロパノール,ヘキサン,クロロホルム,ジクロロメタン,アセトン,アセトニトリル,テトラヒドロフランからなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶媒であることを特徴とする前記(11)に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0024】
(13)前記難水溶性薬物と前記ブロックコポリマーとを含む前記混合液が,更に,糖類,糖アルコール類,無機塩類,界面活性剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有することを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれか一項に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0025】
(14)前記界面活性剤がポリエチレングリコール,ポリソルベート若しくはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油,又はそれらの混合物であることを特徴とする前記(13)に記載の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法。
【0026】
(15)前記(1)〜(14)のいずれか一項に記載の製造方法により得られる薬物−ブロックコポリマー複合体を含有する医薬製剤。
【発明の効果】
【0027】
本発明により,難水溶性薬物と,親水性セグメント及び疎水性セグメントが結合してなるブロックコポリマーとの混合物を,水分散性が高く均一な薬物−ブロックコポリマー複合体として連続的に得ることが可能となり,又,一旦,溶媒を乾燥除去して複合体を得ることから残留溶媒量の管理が容易となる。本発明の製造方法を用いて,該複合体を無菌的に粉末固形分として製造することも可能であり,そのまま充填すれば用時溶解して用いる無菌注射製剤とすることができる。又,該複合体は中間工程の原材料としても用いることができ,再溶解後に注射用液剤とすることも凍結乾燥製剤とすることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法は,難水溶性薬物と,親水性セグメントと疎水性セグメントが結合してなるブロックコポリマーとを1種又は2種以上の非水性溶媒中で混合し,必要により加温して得られる混合液を噴霧乾燥することを特徴とする。
【0029】
本発明において乾燥とは,非水性溶媒を蒸散除去することも含めた意味を示す。
【0030】
本発明の製造方法に用いる気流中への噴霧乾燥は,非水性溶媒に前記ブロックコポリマーと難水溶性薬物とを溶解及び/又は分散した混合液にて行う。該混合液は加温して溶液とすることが好ましく,該ブロックコポリマーの融点以下の気流中に噴霧することが好ましい。
【0031】
該混合物を加温する温度は,含有するブロックコポリマーの融点等の物性や用いる非水性溶媒の沸点にもよるが,25℃以上で95℃以下が好ましく,35℃以上で80℃以下が更に好ましいが,その範囲外の温度条件であっても良い。
【0032】
該混合液を噴霧する気流の温度は,含有するブロックコポリマーの融点にもよるが,0℃以上で40℃以下が好ましく,0℃以上で20℃以下が更に好ましいが,その範囲外の温度条件で噴霧してもよい。
【0033】
該混合液中に含まれる非水性溶媒以外の成分の含有量は特に規定されるものではないが,1質量%以上で80質量%以下が好ましく,10質量%以上70質量%以下が更に好ましい。
【0034】
噴霧乾燥は該混合物を微小な液滴として気流中に暴露する方法であれば特に規定されるものではないが,例えば,二流体スプレーノズル方式,ロータリーアトマイザ方式,滴下方式等が挙げられる。
【0035】
本発明の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法に用いる難水溶性薬物とは,常温(15〜25℃)において,水1mLに対する溶解度が1mg以下である医薬であり,抗がん剤,抗生物質,抗リュウマチ剤,抗菌剤等の医薬品群が挙げられ,代表的には例えば,パクリタキセル,ドセタキセル,シスプラチン,ドキソルビシン,ダウノルビシン,カンプトテシン,トポテカン,ロキシスロマイシン,メトトレキサート,エトポシド,硫酸ビンクリスチン,アンホテリシンB,ポリエン系抗生物質,ナイスタチン,プロスタグランジン類等があるが,特に限定されるものではない。
【0036】
本発明の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法に用いる非水性溶媒とは,常温で液体である非水溶媒が好ましく,95℃以下の沸点を持つものが特に好ましく,85℃以下が更に好ましく,例えば,エタノール,メタノール,酢酸エチル,イソプロパノール,ヘキサン,クロロホルム,ジクロロメタン,アセトン,アセトニトリル,テトラヒドロフラン等の有機溶媒が挙げられ,このうちの1種を用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本発明の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法に用いられるブロックコポリマーとしては,親水性セグメントと疎水性セグメントを結合してなり,AB型のブロックコポリマーが好ましい。そうしたブロックコポリマーは,水性溶媒中においては難水溶性薬物を注射剤として適用可能な状態に保持しうる高分子ミセルを形成する高分子物質でありえる。親水性セグメントとしては,例えば,ポリエチレングリコール又はその誘導体が,疎水性セグメントとしては,例えば,ポリアスパラギン酸若しくはその誘導体,ポリグルタミン酸若しくはその誘導体が挙げられるが,これらに限定はされない。
【0038】
該ブロックコポリマーの一例示としては
【化1】
[式中,R1はメチル基又はエチル基を示し,R2はエチレン基又はトリメチレン基を示し,R3はメチレン基を示し,R4はホルミル基,アセチル基又はプロピオニル基を示し,R5はベンジルオキシ基,フェニルエトキシ基,フェニルプロポキシ基,フェニルブトキシ基,フェニルペンチルオキシ基及び−N(R6)−CO−NHR7からなる置換基群から選ばれる1又は2の置換基を示し,ここでR6,R7は同一でも異なっていてもよく,エチル基,イソプロピル基,シクロヘキシル基又はジメチルアミノプロピル基を示し,nは20〜500,mは10〜100,xは0〜100,yは0〜100を示す,ただし,xとyの和は1以上で且つmより大きくないものとし,R5のうちベンジルオキシ基,フェニルエトキシ基,フェニルプロポキシ基,フェニルブトキシ基又はフェニルペンチルオキシ基である数が平均で0.15m以上0.70m以下である]
で表される化合物が挙げられる。こうしたブロックコポリマーは例えば,前記の特許文献1,特開平6−206815号公報や国際公開2006/033296号パンフレット等に記載の製造方法,又はそれを応用した方法で製造されるが,それらの製造方法に限定されない。
【0039】
こうして得られるブロックコポリマーの融点は凡そ30℃〜70℃である。
【0040】
本発明の薬物−ブロックコポリマー複合体の製造方法に用いられる該混合液には,前記のブロックコポリマーと難水溶性薬物の他に,例えば,糖類,糖アルコール類,無機塩類,界面活性剤等から選ばれる1成分以上を含有してもよい。糖類としては,例えば,ブドウ糖,ショ糖,乳糖,白糖,トレハロース,麦芽糖,果糖等が挙げられ,糖アルコール類としては,例えば,マンニトール,キシリトール,ソルビトール等が挙げられ,無機塩類には塩酸塩,炭酸塩,リン酸塩等があり,界面活性剤としては,例えば,ポリエチレングリコール,ポリソルベート,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0041】
本発明の製造方法で得られる薬物−ブロックコポリマー複合体は,難水溶性薬物がブロックコポリマーに溶解していることが好ましく,水中で自己会合ミセルを形成してもよい。ミセルを形成する場合,その粒径が動的光散乱法を用いた測定で凡そ30nm〜150nmであることが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法で得られる薬物−ブロックコポリマー複合体を含有する医薬製剤も本発明に含まれる。又,該薬物−ブロックコポリマー複合体は医薬調製工程の中間生産物として使用することもでき,再度,溶解,滅菌,凍結乾燥等の工程を経ても良く,更に,無菌雰囲気下に無菌の溶液及び/又は分散液として噴霧乾燥することで,得られる無菌の乾燥粉末をそのまま注射用製剤とすることもできる。
【実施例】
【0043】
以下,実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
SEM(走査型電子顕微鏡)観察は日本電子(株)製走査型電子顕微鏡JSM−6060を用いて行った。
【0045】
実施例1
難水溶性薬物であるパクリタキセル30重量部と,国際公開2006/033296号パンフレットに記載の方法で得られたポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸誘導体が結合してなるブロックコポリマー(融点;50〜57℃)100重量部とを含量が20質量%になるようにエタノール(沸点;78.3℃)に溶解し,液温を45℃に調整した。この液をスプレードライ実験機(日本ビュッヒ:B−290)により,入口温度15℃の気流雰囲気下に噴霧乾燥した。得られた乾燥物はSEM観察で粒径10μm程度であった。
【0046】
実施例2
難水溶性薬物であるパクリタキセル30重量部と実施例1記載のポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸誘導体を用いたブロックコポリマー100重量部とを固形分含量が30質量%になるようにエタノールに溶解し,液温を45℃に調整した。この液をスプレードライ実験機(日本ビュッヒ:B−290)により,入口温度15℃の気流雰囲気下に噴霧乾燥した。得られた乾燥物はSEM観察で粒径10μm程度であった。
【0047】
実施例3
難水溶性薬物であるパクリタキセル30重量部と実施例1記載のポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸誘導体を用いたブロックコポリマー100重量部とを含量が20質量%になるようにエタノールに溶解し,液温を40℃に調整した。この液をスプレードライ実験機(日本ビュッヒ:B−290)により,入口温度10℃の気流雰囲気下に噴霧乾燥した。得られた乾燥物はSEM観察で粒径10μm程度であった。
【0048】
実施例4
難水溶性薬物であるパクリタキセル30重量部と実施例1記載のポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸誘導体を用いたブロックコポリマー100重量部とに,更にPEG(ポリエチレングリコール4000)を200重量部加え,含量が30質量%になるようにエタノールに溶解し,液温を45℃に調整した。この液をスプレードライ実験機(日本ビュッヒ:B−290)により,入口温度20℃の気流雰囲気下に噴霧乾燥した。得られた乾燥物はSEM観察で粒径10μm程度であった。
【0049】
実施例5
難水溶性薬物であるドセタキセル30重量部と実施例1記載のポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸誘導体を用いたブロックコポリマー100重量部とを含量が20質量%になるようにエタノールに溶解し,液温を40℃に調整した。この液をスプレードライ実験機(日本ビュッヒ:B−290)により,入口温度15℃の気流雰囲気下に噴霧乾燥した。得られた乾燥物はSEM観察で粒径10μm程度であった。
【0050】
比較例1
難水溶性薬物であるパクリタキセル30重量部と実施例1記載のポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸誘導体を用いたブロックコポリマー100重量部とを乳鉢上で粉砕混合した。
【0051】
比較例2
難水溶性薬物であるパクリタキセル30重量部をエタノールに溶解し,液温15℃にて実施例1記載のポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸誘導体を用いたブロックコポリマー100重量部と混合した。この液を15℃に維持したまま真空乾燥を行い,白色〜微黄色の粉末を得た。
【0052】
試験例 高分子ミセル粒径測定
実施例1〜5で得られた複合体,比較例1〜2で得られた組成物を注射用水中に分散しウルトラターラックスミキサで攪拌した時の分散性能を観察し,得られた高分子ミセル溶液の平均粒子径を,動的光散乱法を用いた粒径測定装置(大塚電子工業:ELS−Z2)で測定した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1〜5の薬物−ブロックコポリマー複合体は分散性能が良好で,この結果からも明らかなようにミセルとしての平均粒径も好適な範囲になっている。一方,比較例1の組成物は薬剤が分散せず医薬製剤として使用するのは困難である。比較例2の組成物は,薬剤は分散したものの,その分散性は注射剤として適したものとは言えず,又,平均粒径も大きかった。