【実施例】
【0045】
図1は、本発明の一実施例による水浸板波検査装置の概略構成図である。
図1において、本発明の一実施例における水浸板波検査装置は、補正用データを作成するために用意した校正用試験体1と、被検体10を水中に配置するための水槽2と、超音波を送受信する探触子3と、探触子3に電圧を与えるための探傷装置(探触子駆動部)4とを備えている。
【0046】
さらに、水浸板波検査装置は、探触子3を支持し、探触子3の姿勢を制御・保持・走査するための回転ステージ5及びXYZステージ6と、これら回転ステージ5及びXYZステージ6の動作制御を行うステージ制御装置7と、探傷装置4およびステージ制御装置7に命令を与え、また、得られた波形データの結果を表示・補正・収録するPC(パーソナルコンピュータ(演算制御部))8とを備えている。なお、回転ステージ5及びXYZステージ6を纏めて支持ステージとする。
【0047】
被検体10は、水槽(液体収容槽)内の水中で被検体用治具11a、11bに支持される。そして、被検体姿勢制御装置17が被検体用治具11a、11bを動作させることにより、被検体10の姿勢が制御される。
【0048】
板波の位相速度は、被検体10の板厚および密度によって異なるため、校正用試験体1には被検体10とほぼ同一の板厚及び密度を有するものを用意する。また、補正用データを簡便に作成するために、例えば板波の伝搬方向をY方向とすると、反射源からの反射波は丁度−Y方向となるように校正用試験体1を配備する。反射源としては、校正用試験体1の端部を平坦に加工したものや、円形の貫通穴が好適である。
【0049】
探触子3は、単一の振動子を有する探触子を用いても良いし、単一の振動子を有する探触子を複数用いても良いし、複数の振動子を有するアレイ探触子を用いても良い。探傷装置4は、使用する探触子3に合わせて選定する。
【0050】
XYZステージ6は、主に探触子3の中心位置と校正用試験体1および被検体10までのZ方向(垂直方向)距離(水高さ)を定め、その水高さを保ちながら
図1に示すXY方向(水平方向)へ走査するための移動機構である。
【0051】
回転ステージ5は主として、
図1に示すYZ面内で回転し、校正用試験体1や被検体10の表面に対して探触子3を一定の角度で傾けて配置するためのものである。回転ステージ5には、板波の伝搬方向を変えるために、XY面内で回転する機能があっても良い。水温が大きく変わる環境下にある場合は、温度計9を備えても良い。被検体10の姿勢を変える必要がない場合は、被検体姿勢制御装置17は省略することも可能である。
【0052】
次に、
図1に示した水浸板波検査装置を用いて、欠陥位置精度と遠方における検出感度が向上した板波検査を実施するための検査方法を説明する。
【0053】
図2は、本発明の一実施例における上記検査方法の動作フローチャートである。
【0054】
図2のステップS000で、校正用試験体1の表面と被検体10の表面とがXY平面(水平面)と平行になるように配置し、検査を開始する。
【0055】
次に、ステップS001で、校正用試験体1の上部へ探触子3を移動し、ステップS002で、校正用試験体1の表面からの反射波が最大値を示すように回転ステージ5を調整する。
【0056】
そして、ステップS003で、板厚、周波数、密度を入力値として計算した被検体中の板波の位相速度から導いた板波発生入射角θ
WだけXZ面内で回転ステージ5回転させる(入射角をθ
Wとする)。
【0057】
次に、ステップS004で校正試験体1の反射源に対して、少なくとも一軸方向に探触子3から超音波を送受信させて走査し、ステップS005で反射源までの伝播時間と反射強度を求め、ステップS006で伝搬時間を実欠陥位置へ変換するための補正データを作成する。そして、ステップS007で伝搬時間と反射源からの反射波の強度を補正するための補正データを作成する。
【0058】
続いて、ステップS008で、被検体10の上部の検査開始位置へ探触子3を移動し、ステップS009で被検体10の検査領域と並行に探触子3を走査し、被検体10についての超音波の伝搬時間と反射波との関係を示す検査データを取得し、取得したデータに対して、上記校正用試験体1を使用して得られた超音波の伝搬時間と欠陥位置の関係及び超音波の伝搬時間と反射源強度(検出感度)の関係を用いて補正処理を行う。そして、ステップS010で、入力した走査範囲を完了したか否かを判定し、走査が完了していない場合、ステップS009に戻り、再度探触子3を走査する。ステップS010で、入力した走査範囲を完了した場合、探傷結果をPC8の表示部(ディスプレイ)に表示し、ステップS011にて検査を完了する。
【0059】
好ましくは、ステップS000で、Z方向における校正用試験体1の表面と被検体10の表面との位置関係が同じになるように配置する。Z方向における位置関係が異なる場合には、ステップS000で、Z方向(水高さ)の差異を入力情報とし、水高さが同じとなるように探触子3を配置、走査すると良い。
【0060】
ステップS003において、回転ステージ5を回転させる際、例えば
図1に示す状況において、Y軸方向に板波を伝搬する際には、反時計回りにθ
Wだけ、−Y方向に板波を伝搬する際には時計回りにθ
Wだけ回転すれば良い。また、水温変動がある場合には、温度計9から読み取った値を用いて水中音速を求め、波発生入射角θ
Wを求めてXZ面内で回転ステージ5を回転させると良い。回転ステージ5のθ
Wの角度については、反射源からの反射波強度により角度を微調整しても良い。
【0061】
次に、
図2に示したステップS006、S007における補正データの作成について、詳細に説明する。ここでは、
図3に示すような、位置が予め定められた複数の反射源(FH1、FH2、FH3、FH4・・・)を備えた校正試験体1を用いた簡便な校正方法を例として説明する。
【0062】
この校正試験体1用いて、水高さ一定にX軸方向に探触子3を走査すれば、
図3、
図4に示すように、距離X0だけ走査したところで、1つ目の反射源FH1からの反射信号が得られ、さらに距離X1だけ走査したところで2つ目の反射源FH2からの反射信号が得られる。さらに距離X2だけ走査したところで3つ目の反射源FH3からの反射信号が異なる路程で得られる。
【0063】
これらの反射信号を用いた補正データの作成ステップとしては、YW(超音波発生点から校正試験体1までのY方向距離)=WH(超音波発生点から校正試験体1までのZ方向距離(水高さ))×tanθ
Wであるから、FH1までの距離YTが分かっていれば、補正データを作成することができる。
【0064】
つまり、
図5に示した補正データのフローにおけるステップS100で、補正データ作成開始し、ステップS101で、伝搬時間YON(N=1、2、3、・・・)と実欠陥位置YW+YT+YN(N=1、2、3、・・・)との関係(時間、距離)を求める。
【0065】
具体的には、(YO1、YW+YT)、(YO2、YW+YT+Y1)、(YO3、YW+YT+Y1+Y2)、・・・をグラフ上にプロットして、フィッティングし、伝搬時間と欠陥位置との関係を求めると良い。
【0066】
次に、ステップS102において、伝搬時間YON(N=1、2、3、・・・)と反射信号の高さ(波高値)OIN(N=1、2、3、・・・)との関係(伝搬時間、波高値)を求める。
【0067】
具体的には、(YO1、IO1)、(YO2、IO2)、(YO3、IO3)、・・・をグラフ上にプロットして、フィッティングし、伝搬時間と波高値(検出感度)との関係を求めると良い。
【0068】
次に、ステップS103において、ステップS102で求めた伝搬時間と検出感度との関係を、伝搬時間と信号増幅率との関係に変換する。
【0069】
次に、ステップS104で、上記2つの関係(伝搬時間と欠陥位置との関係、伝搬時間と信号増幅率との関係)を用いて、被検体10の検査後、欠陥検出データ表示時あるいは、データ収録後、データを補正し、終了する。
【0070】
校正用試験体1に単一の反射源を形成しておき、板波伝搬方向と同方向に探触子3を走査し、上記2つの関係を求めることも可能である。しかし、ある反射源に対し、探触子3を板波伝搬方向と同じY軸方向に走査してこれらの関係を求める場合、例えば、検査領域内に曲がり部や段差があると、適用が困難である。また、検出感度の補正においても、XY平面における探触子3の向きが少しでも異なる場合、遠方で大きくずれることとなる。
【0071】
したがって、校正用試験体1には、複数の反射源を形成する必要がある。
【0072】
探触子3に最も近い反射源FH1の距離(YW+YT)は、検査したい領域の開始位置かその手前が好適である。YTの距離としては、校正用試験体1の板厚をZTとして、YT≧ZT×tan70°×2が良い。例えば、ZT=3mmの場合、YT≧16.4となる。これは、70度入射成分の裏面表面で1回ずつ、2回以上反射することを想定したものであり、このような距離をとることで、多重反射と板波を両方効率よく使って検査することが可能になる。
【0073】
また、他の一つの反射源FH3は、好ましくは検査したい領域の最終位置かそれ以遠が好適である。FH1とFH3との中間に位置するFH2や、FH3以遠に位置するFH4は、より補正を高精度化したい場合に有効であり、X軸方向に適切な距離XNをとって配置すると良い。
【0074】
また、
図6、
図7に示すような、平面部13a、13b、13c、13d、15a、15b、15c、15d、溶接部(段差部)12、R部16を有する角柱形状をした薄板金属構造物14について、平面部13a〜13d、15a〜15dのみならず、R部16、溶接部(段差部)12を検査する場合を説明する。
【0075】
溶接部12は、板厚Ammの第1の角柱部14aと、第1の角柱部14bより板厚が小である第2の角柱部(板厚Bmm)とを互いに接続する部分であって、この接続部12の外側表面は、第1の角柱部14aから第2の角柱部14bに向かって傾斜する形状となっており、板厚が傾斜状に減少する形状である。上述したように、S波、A波の各種モードは、板厚によって音速が異なる分散性を有する。板厚が傾斜状に変化する場合は、音速の計算が困難である。
【0076】
このため、被検体10の一部(R部と溶接部とを含む)と同様な形状、同様な材質の校正用試験体1(薄板金属構造物14)の溶接部12の所定の位置に反射源FHa、FHb、FHcを形成し、R部16の所定の位置に反射源FH1、FH2、FH3を形成する。
【0077】
溶接部12においては、反射源FHa、FHcを溶接部12の両側(傾斜部の始点付近の平坦部と終点付近の平坦部)に形成し、反射源FHbをFHaとFHcとの中間位置に形成する。また、R部16においては、FH2をR部の中央部に形成し、FH1、FH3は、FH2の両側に形成する。図示した例では、FHa〜FHc、FH1〜FH3は貫通穴である。
【0078】
段差部12については、
図8に示すように、段差部12をまたぐように形成した反射源FHaとFHcは、形成された位置の板厚が互いに異なるので、FHa→FHb→FHcと、FHc→FHb→FHaとの2つの順序で走査し、検査を実施するため、二方向から補正データを作成することが好ましい。
【0079】
図9は、R部(曲面部)16、溶接部(段差部)12における探触子3の走査方向の一例を示す図である。
【0080】
図9の丸1、丸2は、溶接部12に対する校正用試験体1の周方向の走査線を示し、丸3、丸4は、溶接部12に対する校正用試験体1の軸方向の走査線を示す。そして、丸5、丸6は、R部16に対する校正用試験体1の軸方向の走査線を示す。
【0081】
図9に示すようにして探触子3を走査することによって、位置精度、感度が十分良い水浸板波検査を実施することが可能となる。
【0082】
図10は、伝搬距離と波高値の関係を表したグラフであり、縦軸は波高値(%)、横軸はY方向の距離を示す。
図10において、超音波の入射点近傍では、多重反射などの影響が強くあらわれ、振幅が大きく変動するのに対し、複数回反射したと考えられる距離YR以遠においては板波成分が主となり、漏洩減衰と伝搬する方向と直交する方向に波が広がる拡散減衰の二つの要因でなだらかに減衰していく。
【0083】
超音波の入射点近傍では比較的検出感度が高いため、欠陥の有無を判別するに当たっては、検出感度が問題になることはあまりない。入射点近傍の感度補正を精度よく実施したい場合は、校正試験体1に多数の反射源を設ければ良いことは自明である。
【0084】
検出感度が低下する遠方も検査領域として用いる場合、感度補正を実施する必要がある。この時、十分遠方の板波領域における減衰定数を求め、その逆数を感度補正値として用いると良い。
【0085】
図11は、Y方向距離と感度補正値との関係を示すグラフであり、縦軸は感度補正値(%)、横軸はY方向の距離を示す。
図11において、YR以遠では、指数関数的な補正係数となり、遠方において感度補正した場合、ノイズが増幅されるケースがある。
【0086】
このため、遠方も検出領域とし、感度補正する場合は、
図3に示す探傷子3のX軸方向の初期位置において、
図2に示したステップS004の動作にバックグラウンドデータ(被検体に欠陥が無い場合に得られるデータ)を収録するステップS004Aを追加する。そして、
図2のステップS009とステップS010との間に
図12に示すステップS200〜S204を加入する。
【0087】
つまり、ステップS200で、検査において収録したデータに感度補正を開始し、ステップS201で伝搬時間と信号増幅率との関係を用いて収録データを補正する。そして、ステップS202で校正用試験体1のバックグラウンドデータを伝搬時間と信号増幅率との関係を用いて補正し、ステップS203で補正後の収録データと補正後のバックグラウンドデータとの差分をとる。差分をとって、大きな差を生じている部分に欠陥が存在すると判断することができる。ステップS204でPC8のディスプレイに上記差分結果を表示する。そして、
図2のステップS010に進む。
【0088】
このように、校正用試験体1のバックウランドデータを収録しておけば、被検体10の遠方を検出領域とする場合にも、検出感度を向上することができる。
【0089】
以上のように、本発明によれば、被検体10と同様な形状、同様な材質を有する校正用試験体1を用いて、R部(曲面部)や段差部における超音波の上記探触子から欠陥位置までの伝搬時間と欠陥位置の関係及び超音波の上記伝搬時間と検出感度の関係を算出し、算出した上記関係を用いて、被検体10を検査して得られたデータを補正するように構成したので、R部や段差部を有する被検体であっても、長距離検査が可能であり、かつ、検出感度向上が可能な板波検査を実行する水浸板波検査方法および装置を実現することができる。
【0090】
本発明は、板波検査であり、板厚が薄い、例えば5mm以下の被検体に適用することが好ましい。
【0091】
また、校正用試験体1は、被検体10と同形状、同材質が好ましいが、寸法は被検体10より小さく、R部、溶接部を含む一部とすることができる。