特許第5886780号(P5886780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886780
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】板波検査方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/30 20060101AFI20160303BHJP
【FI】
   G01N29/30
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-54091(P2013-54091)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2014-178289(P2014-178289A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077816
【弁理士】
【氏名又は名称】春日 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100156524
【弁理士】
【氏名又は名称】猪野木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】溝田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】永島 良昭
(72)【発明者】
【氏名】芝原 啓介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−167266(JP,A)
【文献】 特開2009−236620(JP,A)
【文献】 特開2013−002822(JP,A)
【文献】 特開2006−242741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の一部と同形状及び同材質であり、予め定めた位置に反射源が形成された液体中の校正用試験体を、探触子により超音波を送受信させて走査し、
上記校正用試験体についての、上記探触子から上記反射源までの超音波の伝搬時間と上記反射源の位置との関係と、上記超音波の伝搬時間と反射強度との関係を算出し、超音波の伝搬時間を欠陥位置へ変換するための第1の補正データと、超音波の伝搬時間と欠陥位置からの反射強度を補正するための第2の補正データとを算出し、
上記探触子から超音波を送受信させて液体中の被検体を走査し、この被検体についての上記探触子からの超音波の伝搬時間と反射強度との関係を示す被検体データを算出し、
上記被検体データを、上記第1の補正データ及び上記第2の補正データを用いて補正することを特徴とする板波探傷検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の板波探傷検査方法において、
上記校正用試験体には、超音波の伝搬方向に対して位置関係が互いに異なる2以上の反射源が形成されていることを特徴とする板波探傷検査方法。
【請求項3】
請求項2に記載の板波探傷検査方法において、
上記校正用試験体は曲面部を有し、この曲面部を間にして反射源が複数形成されていることを特徴とする板波探傷検査方法。
【請求項4】
請求項2に記載の板波探傷検査方法において、
上記校正用試験体は段差部を有し、この段差部を間にして反射源が複数形成されていることを特徴とする板波探傷検査方法。
【請求項5】
請求項1に記載の板波探傷検査方法において、
上記第1の補正データと第2の補正データとを算出するとともに、上記校正用試験体の上記発生源が形成されていない部分の上記探触子からの位置と上記超音波の反射強度との関係を示すバックグランドデータを取得し、
上記被検体データを上記第1の補正データ及び上記第2の補正データを用いて補正した後に、上記第2の補正データを用いて上記バックグラウンドデータの反射強度補正し、上記補正された被検体データと、上記反射強度補正されたバックグラウンドデータとの差分を算出し、上記被検体の欠陥の有無を判断することを特徴とする板波探傷検査方法。
【請求項6】
被検体と、この被検体の一部と同形状及び同材質であり、予め定めた位置に反射源が形成された校正用試験体を液体中に支持する液体収容槽と、
超音波を送受信する探触子と、
上記探触子に電圧を与えて駆動する探傷子駆動部と、
上記探触子を支持する支持ステージと、
上記支持ステージを移動させて上記探触子を、回転移動、水平移動及び垂直移動させるステージ制御部と、
上記探傷子駆動部及び上記ステージ制御部の動作を制御し、上記校正用試験体を、探触子により超音波を送受信させて走査させ、上記校正用試験体についての、上記探触子から上記反射源までの超音波の伝搬時間と上記反射源の位置との関係と、上記超音波の伝搬時間と反射強度との関係とを算出し、超音波の伝搬時間を欠陥位置へ変換するための第1の補正データと、超音波の伝搬時間と欠陥位置からの反射強度を補正するための第2の補正データとを算出し、上記探触子から超音波を送受信させて液体中の被検体を走査し、この被検体についての上記探触子からの超音波の伝搬時間と反射強度との関係を示す被検体データを算出し、上記被検体データを、上記第1の補正データ及び上記第2の補正データを用いて補正する演算制御部と、
を備えることを特徴とする板波探傷検査装置。
【請求項7】
請求項6に記載の板波探傷検査装置において、
上記校正用試験体には、超音波の伝搬方向に対して位置関係が互いに異なる2以上の反射源が形成されていることを特徴とする板波探傷検査装置。
【請求項8】
請求項7に記載の板波探傷検査装置において、
上記校正用試験体は曲面部を有し、この曲面部を間にして反射源が複数形成されていることを特徴とする板波探傷検査装置。
【請求項9】
請求項7に記載の板波探傷検査装置において、
上記校正用試験体は段差部を有し、この段差部を間にして反射源が複数形成されていることを特徴とする板波探傷検査装置。
【請求項10】
請求項6に記載の板波探傷検査装置において、
上記演算制御部は、
上記第1の補正データと第2の補正データとを算出するとともに、上記校正用試験体の上記発生源が形成されていない部分の上記探触子からの位置と上記超音波の反射強度との関係を示すバックグランドデータを取得し、
上記被検体データを上記第1の補正データ及び上記第2の補正データを用いて補正した後に、上記第2の補正データを用いて上記バックグラウンドデータの反射強度補正し、上記補正された被検体データと、上記反射強度補正されたバックグラウンドデータとの差分を算出し、上記被検体の欠陥の有無を判断することを特徴とする板波探傷検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄い金属板あるいはその加工製品の検査方法および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業分野における代表的な非破壊検査方法の一つに超音波検査が用いられている。超音波検査は、超音波センサ(探触子)の内部に備わる電気機械変換効率を持つ圧電素子(振動子)に電圧を与えることで超音波を発振し、この振動を検査対象物中に伝搬させ、超音波が物質の境界面などで反射する性質を利用し、その一部の反射波による振動を再び振動子により電圧に変換し、収録、グラフ化、或いは映像化して検査する方法である。
【0003】
比較的薄い金属板および薄い金属板を加工した製品の製造ラインで超音波探傷を実施して欠陥を検出する場合、超音波の種類として、縦波や横波の他、ガイド波の一種である板波を用いた探傷法が一般に用いられている。金属構造物内部の欠陥検出方法としては、縦波や横波による、垂直あるいは斜角探傷法が一般に用いられてきた。
【0004】
これらの方法は検査可能な範囲が狭いため、検査領域が広い被検体においては探触子の広範囲な走査が必要となり、検査時間や労力が膨大となる。
【0005】
これに対し板波は、比較的薄い金属板や、その構造物において、広い範囲を伝搬可能であり、縦波や横波などと比較して伝搬に伴う拡散損失が少ない。そのため、板波による検査手法は鋼板や配管を広域一括で検査できる非破壊検査手法として期待されている。
【0006】
産業分野においては、例えば燃料輸送配管の長距離区間を一括して検査する装置などが実用化されている。
【0007】
板波探傷器を用いた超音波探傷装置として、特許文献1に記載された技術がある。特許文献1に記載された技術は、複数種類の検査対象に対してSSP(分割スペクトル処理)パラメータ記憶しておき、対象が変わる毎にパラメータを変えて検査を行う技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001―074703号公報
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、従来の技術においては、多重反射して伝搬する過程から板波が生成される過程は明確ではないため、入射点近傍からの反射信号が得られた場合、理論計算などを用いて正確な欠陥位置を見積もることが困難であった。
【0010】
また、検査領域を設定して板波検査を実施する場合、検査領域を適切に設定することが困難であった。
【0011】
気中において板波検査を実施する場合、金属−空気の音響インピーダンスが大きく違うため、一度被検体へ入射された波のエネルギーは漏洩しにくく、板波として長距離伝搬が可能で広域一括検査を実現すえることができる。
【0012】
したがって、板波以外の波のエネルギーが十分損失した入射点から十分遠方の領域を用いて検査すれば良い。
【0013】
ところが、被検体が、段差部やR部がある角柱形状物に対して、段差部を跨ぐ探触子の走査や、R部に探触子を接触する走査が必要な場合、接触子と被検査面との接触性が悪くなり、高精度の探傷検査ができず、検査の自動化も困難である。
【0014】
接触性の問題を解決するには、水やグリセリンなどの液体中で板波検査することが考えられる。
【0015】
しかし、水中においては、音響インピーダンスの差が気中と比べて小さいため、波のエネルギーが漏洩し、気中と比べると長距離伝搬が困難となる。したがって、広域を検査するには、入射点近傍の領域を検査領域とする必要がある。
【0016】
このように、液体中において板波検査を実施する場合、欠陥位置の指示精度が低下する問題に加え、欠陥に対する感度が入射点近傍と遠方で大きく異なるという問題があった。
【0017】
また、特許文献1に記載の技術を、溶接が施される段差部や板厚が徐々に変化する部位について適用しようとした場合、このような部位はパラメータの計算が困難であり、適用することができなかった。
【0018】
本発明の目的は、R部や段差部を有する被検体であっても、長距離検査が可能であり、かつ、検出感度向上が可能な板波検査を実行する板波検査方法および装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成される。
【0020】
板波探傷検査方法において、被検体の一部と同様な形状及び同様な材質であり、予め定めた位置に反射源が形成された液体中の校正用試験体を、探触子から超音波を送受信させて走査し、上記校正用試験体についての、上記探触子から上記反射源までの超音波の伝搬時間と上記反射源の位置との関係と、上記超音波の伝搬時間と反射強度との関係を算出し、超音波の伝搬時間を欠陥位置へ変換するための第1の補正データと、超音波の伝搬時間と欠陥位置からの反射強度を補正するための第2の補正データとを算出する。
【0021】
そして、上記探触子から超音波を送受信させて液体中の被検体を走査し、この被検体についての上記探触子からの超音波の伝搬時間と反射強度との関係を示す被検体データを算出し、上記被検体データを、上記第1の補正データ及び上記第2の補正データを用いて補正する。
【0022】
板波探傷検査装置において、被検体と、この被検体の一部と同様な形状及び同様な材質であり、予め定めた位置に反射源が形成された校正用試験体を液体中に支持する液体収容槽と、探触子と、探傷子駆動部と、上記探触子の支持ステージと、上記探触子を、回転移動、水平移動及び垂直移動させるステージ制御部とを備える。
【0023】
さらに、板波探傷検査装置は、上記探傷子駆動部及び上記ステージ制御部の動作を制御し、上記校正用試験体を、探触子により超音波を送受信させて走査させ、上記校正用試験体についての、上記探触子から上記反射源までの超音波の伝搬時間と上記反射源の位置との関係と、上記超音波の伝搬時間と反射強度との関係とを算出し、超音波の伝搬時間を欠陥位置へ変換するための第1の補正データと、超音波の伝搬時間と欠陥位置からの反射強度を補正するための第2の補正データとを算出し、上記探触子から超音波を送受信させて液体中の被検体を走査し、この被検体についての上記探触子からの超音波の伝搬時間と反射強度との関係を示す被検体データを算出し、上記被検体データを、上記第1の補正データ及び上記第2の補正データを用いて補正する演算制御部を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、R部や段差部を有する被検体であっても、長距離検査が可能であり、かつ、検出感度向上が可能な板波検査を実行する板波検査方法および装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施例による水浸板波検査装置の概略構成図である。
図2】本発明の一実施例における上記検査方法の動作フローチャートである。
図3】本発明の一実施例における校正用試験体、反射源、探触子の位置関係を説明する図である。
図4】本発明の一実施例における校正用試験体の反射源からの信号の波高値と伝搬時間とを示すグラフである。
図5】本発明の一実施例における補正データの作成を示すフローチャートである。
図6】R部・段差部がある被検体の説明図である。
図7】R部における反射源の形成を説明する図である。
図8】段差部における反射源の走査方向の例を示す図である。
図9】R部及び段差部における反射源の走査方向の例を示す図である。
図10】伝搬距離と波高値の関係を表したグラフである。
図11】Y方向距離と感度補正値との関係を示すグラフである。
図12】遠方も検出領域とし、感度補正する場合の感度補正フローチャートである。
図13】板波検査の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明するが、それに先立ち、板波検査について、以下に説明する。
【0027】
図13は、水100中に設置した薄い平板200に板波が発生する様子を説明するための模式図である。
【0028】
図13において、板波は一般に、超音波を平板に対して一定の角度で入射し、屈折して平板中へ伝わり、平板の表・裏面で反射を繰り返す(多重反射)過程で、波の干渉が生じて発生するものと知られている。板波には、対称波(Symmetric Wave)と非対称波(Asymmetric Wave)との2種類が存在し、それぞれ頭文字をとってS波、A波と呼ばれる。
【0029】
さらに、S波とA波には各種モード(0次、1次、2次・・・)が存在し、S0、S1、S2・・・(S波)、A0、A1、A2・・・(A波)として一般に表記される。これら各種モードは、板厚・周波数によって音速が異なる分散性を持つ。
【0030】
板波は分散性が大きいため、伝搬速度には波の位相の進行速度である位相速度と波束(エネルギー)の進行速度である群速度があり、これらを区別して考える必要がある。どのモードの板波で検査するかを理論的・実験的に考察するためには、音速と周波数の関係を示す分散曲線を求める必要がある。
【0031】
板波発生に適した入射角を求めるためには、位相速度を用いる。板波発生に適した入射角を求める式は、入射角水中での縦波音速をV、被検体への入射角をθ、板波の位相速度をVPhaseとすると、次式(1)で表すことができる。
【0032】
sinθ=sin−1(V/VPhase) ・・・ (1)
【0033】
このため、板波検査を実施するためには、ポリスチレン、ポリイミドなどで製作されるくさび(ウェッジ、シュー)と呼ばれる振動子を配置する台座や、水などの接触媒質を使用し、振動子を被検体に対して適切な角度に傾けて配置する必要がある。
【0034】
例えば、3mm厚さ程度のジルカロイ薄板構造物を水没させて板波検査する場合、例えばA1モード板波の位相速度が約2360m/s、水中音速が室温(20°C)で約1480m/sである。この音速を式(1)に代入すると、入射角θは38.8°となり、被検体に対し、約39°振動子を傾けると良いことが分かる。
【0035】
板波検査では、信号位置(欠陥指示位置)と実欠陥位置のずれが問題であり、接触媒質の音速の反映の難しさとされている(参考:円管周方向に伝搬するガイド波による配管等の非破壊評価、永溝久志 三菱化学エンジニアリング(株)村瀬守正 名古屋工業大学大学院工学研究科 非破壊検査第52巻12号(2003))。
【0036】
接触媒質の音速が正確に分かっていたとしても、板波は薄い被検体表面での波の多重反射・波の干渉により生成されるものであるから、入射点近傍における音速の反映が非常に難しい。
【0037】
音速が明確に分かる接触媒質である水を例に、水中でのジルカロイ薄板構造物に対する板波検査について考える。水中音速Cは、温度(T)に依存し、次式(2)を用いて精度良く求めることが可能である(参考: N. Bilaniuk and G.S.K.Wong (1993)、Speed of sound in pure water as a function of temperature, J. Acoust. Aoc. Am. 93(3) pp 1609-1612)。
【0038】
C(T)=1.40238744*10+ 5.03836171*T− 5.81172916*10−2*T+3.34638117*10−4* T−1.48259672*10−6*T+3.16585020*10−9*T
(Range of validity: 0−100°at atmospheric pressure) ・・・ (2)
【0039】
板波検査として検査結果を表示する場合、上記式(2)を用いて水中音速を1482m/s(水温を20°Cとした)、板波の音速を群速度の2330m/s(位相速度は2360m/s)と設定すればよい。しかしながら、超音波は広がり(サイドローブを含む)を持って水中を伝搬しており、位相速度と横波音速(2350m/s)がほぼ同じであるため、探触子位置が同じであっても、入射点位置から比較的近い領域においては反射効率の影響で入射角にして約36〜37°、屈折角にして約70〜75°の横波が多重反射として比較的強く伝搬する。また、横波臨界角39.0°に近いため、表面波も発生する。
【0040】
このため、横波の多重反射による検出波形成分は、被検体表面に伝搬速度ベクトルを射影すれば、音速が2350×sin70°m/s=2208から2350×sin75°=2270m/sの板波、表面波による検出波形成分は、2350×0.9=2215m/sの板波であるかのように見える。
【0041】
また、入射角36〜37°の時の水中伝搬距離は、板波を発生させるための入射角39°の場合の水中伝搬距離と異なる。
【0042】
以上、被検体を伝搬する横波、表面波、板波の群速度の相違や、水中伝搬距離の差異により、多重反射による検査では、板波検査として設定した値からずれが生じることが分かる。
【0043】
そこで、本発明においては、上記のようなずれが生じることを考慮して、検出した欠陥位置を補正して、遠方においても欠陥位置検出精度を向上可能な構成としている。
【0044】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、簡単のため、使用する液体は、水として、説明する。
【実施例】
【0045】
図1は、本発明の一実施例による水浸板波検査装置の概略構成図である。図1において、本発明の一実施例における水浸板波検査装置は、補正用データを作成するために用意した校正用試験体1と、被検体10を水中に配置するための水槽2と、超音波を送受信する探触子3と、探触子3に電圧を与えるための探傷装置(探触子駆動部)4とを備えている。
【0046】
さらに、水浸板波検査装置は、探触子3を支持し、探触子3の姿勢を制御・保持・走査するための回転ステージ5及びXYZステージ6と、これら回転ステージ5及びXYZステージ6の動作制御を行うステージ制御装置7と、探傷装置4およびステージ制御装置7に命令を与え、また、得られた波形データの結果を表示・補正・収録するPC(パーソナルコンピュータ(演算制御部))8とを備えている。なお、回転ステージ5及びXYZステージ6を纏めて支持ステージとする。
【0047】
被検体10は、水槽(液体収容槽)内の水中で被検体用治具11a、11bに支持される。そして、被検体姿勢制御装置17が被検体用治具11a、11bを動作させることにより、被検体10の姿勢が制御される。
【0048】
板波の位相速度は、被検体10の板厚および密度によって異なるため、校正用試験体1には被検体10とほぼ同一の板厚及び密度を有するものを用意する。また、補正用データを簡便に作成するために、例えば板波の伝搬方向をY方向とすると、反射源からの反射波は丁度−Y方向となるように校正用試験体1を配備する。反射源としては、校正用試験体1の端部を平坦に加工したものや、円形の貫通穴が好適である。
【0049】
探触子3は、単一の振動子を有する探触子を用いても良いし、単一の振動子を有する探触子を複数用いても良いし、複数の振動子を有するアレイ探触子を用いても良い。探傷装置4は、使用する探触子3に合わせて選定する。
【0050】
XYZステージ6は、主に探触子3の中心位置と校正用試験体1および被検体10までのZ方向(垂直方向)距離(水高さ)を定め、その水高さを保ちながら図1に示すXY方向(水平方向)へ走査するための移動機構である。
【0051】
回転ステージ5は主として、図1に示すYZ面内で回転し、校正用試験体1や被検体10の表面に対して探触子3を一定の角度で傾けて配置するためのものである。回転ステージ5には、板波の伝搬方向を変えるために、XY面内で回転する機能があっても良い。水温が大きく変わる環境下にある場合は、温度計9を備えても良い。被検体10の姿勢を変える必要がない場合は、被検体姿勢制御装置17は省略することも可能である。
【0052】
次に、図1に示した水浸板波検査装置を用いて、欠陥位置精度と遠方における検出感度が向上した板波検査を実施するための検査方法を説明する。
【0053】
図2は、本発明の一実施例における上記検査方法の動作フローチャートである。
【0054】
図2のステップS000で、校正用試験体1の表面と被検体10の表面とがXY平面(水平面)と平行になるように配置し、検査を開始する。
【0055】
次に、ステップS001で、校正用試験体1の上部へ探触子3を移動し、ステップS002で、校正用試験体1の表面からの反射波が最大値を示すように回転ステージ5を調整する。
【0056】
そして、ステップS003で、板厚、周波数、密度を入力値として計算した被検体中の板波の位相速度から導いた板波発生入射角θだけXZ面内で回転ステージ5回転させる(入射角をθとする)。
【0057】
次に、ステップS004で校正試験体1の反射源に対して、少なくとも一軸方向に探触子3から超音波を送受信させて走査し、ステップS005で反射源までの伝播時間と反射強度を求め、ステップS006で伝搬時間を実欠陥位置へ変換するための補正データを作成する。そして、ステップS007で伝搬時間と反射源からの反射波の強度を補正するための補正データを作成する。
【0058】
続いて、ステップS008で、被検体10の上部の検査開始位置へ探触子3を移動し、ステップS009で被検体10の検査領域と並行に探触子3を走査し、被検体10についての超音波の伝搬時間と反射波との関係を示す検査データを取得し、取得したデータに対して、上記校正用試験体1を使用して得られた超音波の伝搬時間と欠陥位置の関係及び超音波の伝搬時間と反射源強度(検出感度)の関係を用いて補正処理を行う。そして、ステップS010で、入力した走査範囲を完了したか否かを判定し、走査が完了していない場合、ステップS009に戻り、再度探触子3を走査する。ステップS010で、入力した走査範囲を完了した場合、探傷結果をPC8の表示部(ディスプレイ)に表示し、ステップS011にて検査を完了する。
【0059】
好ましくは、ステップS000で、Z方向における校正用試験体1の表面と被検体10の表面との位置関係が同じになるように配置する。Z方向における位置関係が異なる場合には、ステップS000で、Z方向(水高さ)の差異を入力情報とし、水高さが同じとなるように探触子3を配置、走査すると良い。
【0060】
ステップS003において、回転ステージ5を回転させる際、例えば図1に示す状況において、Y軸方向に板波を伝搬する際には、反時計回りにθだけ、−Y方向に板波を伝搬する際には時計回りにθだけ回転すれば良い。また、水温変動がある場合には、温度計9から読み取った値を用いて水中音速を求め、波発生入射角θを求めてXZ面内で回転ステージ5を回転させると良い。回転ステージ5のθの角度については、反射源からの反射波強度により角度を微調整しても良い。
【0061】
次に、図2に示したステップS006、S007における補正データの作成について、詳細に説明する。ここでは、図3に示すような、位置が予め定められた複数の反射源(FH1、FH2、FH3、FH4・・・)を備えた校正試験体1を用いた簡便な校正方法を例として説明する。
【0062】
この校正試験体1用いて、水高さ一定にX軸方向に探触子3を走査すれば、図3図4に示すように、距離X0だけ走査したところで、1つ目の反射源FH1からの反射信号が得られ、さらに距離X1だけ走査したところで2つ目の反射源FH2からの反射信号が得られる。さらに距離X2だけ走査したところで3つ目の反射源FH3からの反射信号が異なる路程で得られる。
【0063】
これらの反射信号を用いた補正データの作成ステップとしては、YW(超音波発生点から校正試験体1までのY方向距離)=WH(超音波発生点から校正試験体1までのZ方向距離(水高さ))×tanθであるから、FH1までの距離YTが分かっていれば、補正データを作成することができる。
【0064】
つまり、図5に示した補正データのフローにおけるステップS100で、補正データ作成開始し、ステップS101で、伝搬時間YON(N=1、2、3、・・・)と実欠陥位置YW+YT+YN(N=1、2、3、・・・)との関係(時間、距離)を求める。
【0065】
具体的には、(YO1、YW+YT)、(YO2、YW+YT+Y1)、(YO3、YW+YT+Y1+Y2)、・・・をグラフ上にプロットして、フィッティングし、伝搬時間と欠陥位置との関係を求めると良い。
【0066】
次に、ステップS102において、伝搬時間YON(N=1、2、3、・・・)と反射信号の高さ(波高値)OIN(N=1、2、3、・・・)との関係(伝搬時間、波高値)を求める。
【0067】
具体的には、(YO1、IO1)、(YO2、IO2)、(YO3、IO3)、・・・をグラフ上にプロットして、フィッティングし、伝搬時間と波高値(検出感度)との関係を求めると良い。
【0068】
次に、ステップS103において、ステップS102で求めた伝搬時間と検出感度との関係を、伝搬時間と信号増幅率との関係に変換する。
【0069】
次に、ステップS104で、上記2つの関係(伝搬時間と欠陥位置との関係、伝搬時間と信号増幅率との関係)を用いて、被検体10の検査後、欠陥検出データ表示時あるいは、データ収録後、データを補正し、終了する。
【0070】
校正用試験体1に単一の反射源を形成しておき、板波伝搬方向と同方向に探触子3を走査し、上記2つの関係を求めることも可能である。しかし、ある反射源に対し、探触子3を板波伝搬方向と同じY軸方向に走査してこれらの関係を求める場合、例えば、検査領域内に曲がり部や段差があると、適用が困難である。また、検出感度の補正においても、XY平面における探触子3の向きが少しでも異なる場合、遠方で大きくずれることとなる。
【0071】
したがって、校正用試験体1には、複数の反射源を形成する必要がある。
【0072】
探触子3に最も近い反射源FH1の距離(YW+YT)は、検査したい領域の開始位置かその手前が好適である。YTの距離としては、校正用試験体1の板厚をZTとして、YT≧ZT×tan70°×2が良い。例えば、ZT=3mmの場合、YT≧16.4となる。これは、70度入射成分の裏面表面で1回ずつ、2回以上反射することを想定したものであり、このような距離をとることで、多重反射と板波を両方効率よく使って検査することが可能になる。
【0073】
また、他の一つの反射源FH3は、好ましくは検査したい領域の最終位置かそれ以遠が好適である。FH1とFH3との中間に位置するFH2や、FH3以遠に位置するFH4は、より補正を高精度化したい場合に有効であり、X軸方向に適切な距離XNをとって配置すると良い。
【0074】
また、図6図7に示すような、平面部13a、13b、13c、13d、15a、15b、15c、15d、溶接部(段差部)12、R部16を有する角柱形状をした薄板金属構造物14について、平面部13a〜13d、15a〜15dのみならず、R部16、溶接部(段差部)12を検査する場合を説明する。
【0075】
溶接部12は、板厚Ammの第1の角柱部14aと、第1の角柱部14bより板厚が小である第2の角柱部(板厚Bmm)とを互いに接続する部分であって、この接続部12の外側表面は、第1の角柱部14aから第2の角柱部14bに向かって傾斜する形状となっており、板厚が傾斜状に減少する形状である。上述したように、S波、A波の各種モードは、板厚によって音速が異なる分散性を有する。板厚が傾斜状に変化する場合は、音速の計算が困難である。
【0076】
このため、被検体10の一部(R部と溶接部とを含む)と同様な形状、同様な材質の校正用試験体1(薄板金属構造物14)の溶接部12の所定の位置に反射源FHa、FHb、FHcを形成し、R部16の所定の位置に反射源FH1、FH2、FH3を形成する。
【0077】
溶接部12においては、反射源FHa、FHcを溶接部12の両側(傾斜部の始点付近の平坦部と終点付近の平坦部)に形成し、反射源FHbをFHaとFHcとの中間位置に形成する。また、R部16においては、FH2をR部の中央部に形成し、FH1、FH3は、FH2の両側に形成する。図示した例では、FHa〜FHc、FH1〜FH3は貫通穴である。
【0078】
段差部12については、図8に示すように、段差部12をまたぐように形成した反射源FHaとFHcは、形成された位置の板厚が互いに異なるので、FHa→FHb→FHcと、FHc→FHb→FHaとの2つの順序で走査し、検査を実施するため、二方向から補正データを作成することが好ましい。
【0079】
図9は、R部(曲面部)16、溶接部(段差部)12における探触子3の走査方向の一例を示す図である。
【0080】
図9の丸1、丸2は、溶接部12に対する校正用試験体1の周方向の走査線を示し、丸3、丸4は、溶接部12に対する校正用試験体1の軸方向の走査線を示す。そして、丸5、丸6は、R部16に対する校正用試験体1の軸方向の走査線を示す。
【0081】
図9に示すようにして探触子3を走査することによって、位置精度、感度が十分良い水浸板波検査を実施することが可能となる。
【0082】
図10は、伝搬距離と波高値の関係を表したグラフであり、縦軸は波高値(%)、横軸はY方向の距離を示す。図10において、超音波の入射点近傍では、多重反射などの影響が強くあらわれ、振幅が大きく変動するのに対し、複数回反射したと考えられる距離YR以遠においては板波成分が主となり、漏洩減衰と伝搬する方向と直交する方向に波が広がる拡散減衰の二つの要因でなだらかに減衰していく。
【0083】
超音波の入射点近傍では比較的検出感度が高いため、欠陥の有無を判別するに当たっては、検出感度が問題になることはあまりない。入射点近傍の感度補正を精度よく実施したい場合は、校正試験体1に多数の反射源を設ければ良いことは自明である。
【0084】
検出感度が低下する遠方も検査領域として用いる場合、感度補正を実施する必要がある。この時、十分遠方の板波領域における減衰定数を求め、その逆数を感度補正値として用いると良い。
【0085】
図11は、Y方向距離と感度補正値との関係を示すグラフであり、縦軸は感度補正値(%)、横軸はY方向の距離を示す。図11において、YR以遠では、指数関数的な補正係数となり、遠方において感度補正した場合、ノイズが増幅されるケースがある。
【0086】
このため、遠方も検出領域とし、感度補正する場合は、図3に示す探傷子3のX軸方向の初期位置において、図2に示したステップS004の動作にバックグラウンドデータ(被検体に欠陥が無い場合に得られるデータ)を収録するステップS004Aを追加する。そして、図2のステップS009とステップS010との間に図12に示すステップS200〜S204を加入する。
【0087】
つまり、ステップS200で、検査において収録したデータに感度補正を開始し、ステップS201で伝搬時間と信号増幅率との関係を用いて収録データを補正する。そして、ステップS202で校正用試験体1のバックグラウンドデータを伝搬時間と信号増幅率との関係を用いて補正し、ステップS203で補正後の収録データと補正後のバックグラウンドデータとの差分をとる。差分をとって、大きな差を生じている部分に欠陥が存在すると判断することができる。ステップS204でPC8のディスプレイに上記差分結果を表示する。そして、図2のステップS010に進む。
【0088】
このように、校正用試験体1のバックウランドデータを収録しておけば、被検体10の遠方を検出領域とする場合にも、検出感度を向上することができる。
【0089】
以上のように、本発明によれば、被検体10と同様な形状、同様な材質を有する校正用試験体1を用いて、R部(曲面部)や段差部における超音波の上記探触子から欠陥位置までの伝搬時間と欠陥位置の関係及び超音波の上記伝搬時間と検出感度の関係を算出し、算出した上記関係を用いて、被検体10を検査して得られたデータを補正するように構成したので、R部や段差部を有する被検体であっても、長距離検査が可能であり、かつ、検出感度向上が可能な板波検査を実行する水浸板波検査方法および装置を実現することができる。
【0090】
本発明は、板波検査であり、板厚が薄い、例えば5mm以下の被検体に適用することが好ましい。
【0091】
また、校正用試験体1は、被検体10と同形状、同材質が好ましいが、寸法は被検体10より小さく、R部、溶接部を含む一部とすることができる。
【符号の説明】
【0092】
1・・・校正用試験体、2・・・水槽、3・・・探傷子、4・・・探傷装置、5・・・回転ステージ、6・・・XYZステージ、7・・・ステージ制御装置、8・・・パーソナルコンピュータ(演算制御部)、9・・・温度計、10・・・被検体、11a、11b・・・被検体用治具、12・・・溶接部(段差部)、13a〜13d、15a〜15d・・・平板部、14・・・薄板金属構造物、14a・・・第1の角柱部、14b・・・第2の角柱部、16・・・R部(曲面部)
図1
図2
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図10
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