(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886823
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】合成樟脳による望ましくない感覚効果の抑制
(51)【国際特許分類】
A24B 13/00 20060101AFI20160303BHJP
A24B 15/32 20060101ALI20160303BHJP
A61K 31/125 20060101ALI20160303BHJP
A61K 47/44 20060101ALI20160303BHJP
A61K 31/465 20060101ALI20160303BHJP
A61P 25/34 20060101ALI20160303BHJP
A61K 9/68 20060101ALI20160303BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
A24B13/00
A24B15/32
A61K31/125
A61K47/44
A61K31/465
A61P25/34
A61K9/68
A61K9/12
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-500607(P2013-500607)
(86)(22)【出願日】2011年3月28日
(65)【公表番号】特表2013-523090(P2013-523090A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】IB2011000994
(87)【国際公開番号】WO2011117735
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2014年3月28日
(31)【優先権主張番号】61/318,253
(32)【優先日】2010年3月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596060424
【氏名又は名称】フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(72)【発明者】
【氏名】コバル ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ゴゴヴァ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ポルル プラサッド
(72)【発明者】
【氏名】マッキニー ダイアナ
【審査官】
宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0032040(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0301505(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0202533(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0012328(US,A1)
【文献】
特開2004−229627(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0247492(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/111281(WO,A1)
【文献】
特表2014−526278(JP,A)
【文献】
米国特許第04198309(US,A)
【文献】
米国特許第04211242(US,A)
【文献】
特開昭54−076551(JP,A)
【文献】
特表2004−528035(JP,A)
【文献】
特表2002−501768(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1579258(CN,A)
【文献】
特表2011−529343(JP,A)
【文献】
特公平01−039410(JP,B2)
【文献】
特開2009−148233(JP,A)
【文献】
特開平01−006216(JP,A)
【文献】
特許第4447218(JP,B2)
【文献】
特開平07−082588(JP,A)
【文献】
特許第5283334(JP,B2)
【文献】
特表2004−500901(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/064811(WO,A1)
【文献】
特表2005−508648(JP,A)
【文献】
HILLIS,POLYPHENOLS IN THE LEAVES OF EUCALYPTUS L'HERIT: A CHEMOTAXONOMIC SURVEY-I,PHYTOCHEMISTRY,英国,PERGAMON PRESS,1966年11月 1日,V5 N6,P1075-1090
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24B 13/00
A24B 15/32
A61K 9/12
A61K 9/68
A61K 31/125
A61K 31/465
A61K 47/44
A61P 25/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンと、
無香料油性担体に溶解した樟脳と、
を含み、前記樟脳が、600ppm〜1300ppmの濃度で存在する、
ことを特徴とする不燃性経口製品。
【請求項2】
前記製品が薬用ニコチン製品である、
ことを特徴とする請求項1に記載の不燃性経口製品。
【請求項3】
前記製品が無煙タバコ製品である、
ことを特徴とする請求項1に記載の不燃性経口製品。
【請求項4】
前記製品が、水溶性の非架橋成分及び実質的に不水溶性の架橋成分を含むコーティングによって少なくとも部分的に封入されたタバコ粒子の集合体を含む、
ことを特徴とする請求項3に記載の不燃性経口製品。
【請求項5】
前記製品が、透水性ラッパーに封入された無煙タバコを含むポーチを含む、
ことを特徴とする請求項3に記載の不燃性経口製品。
【請求項6】
前記無香料油性担体に溶解した前記樟脳が、前記コーティングの一部である、
ことを特徴とする請求項4に記載の不燃性経口製品。
【請求項7】
前記無香料油性担体に溶解した前記樟脳が、前記ポーチの前記透水性ラッパー上のコーティングの一部である、
ことを特徴とする請求項5に記載の不燃性経口製品。
【請求項8】
前記ポーチが、前記透水性ラッパーの対向する層間の少なくとも1つの閉じ目と、該少なくとも1つの閉じ目の外側にある柔らかい端部とを有し、前記柔らかい端部が、前記対向する層間の未接着領域を含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の不燃性経口製品。
【請求項9】
前記薬用ニコチン製品が、チューインガム及び経口スプレーから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項2に記載の不燃性経口製品。
【請求項10】
前記薬用ニコチン製品がチューインガムであり、前記無香料油性担体がワックスを含む、
ことを特徴とする請求項9に記載の不燃性経口製品。
【請求項11】
前記樟脳が、前記ニコチンの消費によって生じる感覚刺激を軽減又は排除するのに効果的な量で存在する、
ことを特徴とする請求項1に記載の不燃性経口製品。
【請求項12】
不燃性経口製品の作製方法であって、ニコチンと、無香料油性担体に溶解した樟脳とを組み合わせるステップを含み、前記樟脳が、600ppm〜1300ppmの濃度で存在する、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0001】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0202533号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0038631号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0301505号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0012328号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0261707号明細書
【非特許文献】
【0002】
【非特許文献1】Kichko他著、Acta Physiologica 2007、第189巻、文献653、要約番号P20−L1−03
【非特許文献2】Park他著、Biochem.Pharmacol.2002、61(7)、787〜793頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
ある実施形態では、不燃性経口製品が、ニコチン、及び無香料油性担体に溶解した樟脳を含む。
【0004】
別の実施形態では、不燃性経口製品の作製方法が、ニコチンと、無香料油性担体に溶解した樟脳とを組み合わせるステップを含む。
【0005】
樟脳は、約600ppm〜約1300ppmの濃度で存在することが好ましい。
【0006】
この不燃性経口製品は、無煙タバコ製品又は薬用ニコチン製品とすることができる。
【0007】
樟脳は、ニコチンの消費によって生じる感覚刺激を軽減又は排除するのに効果的な量で存在することが好ましい。
【0008】
ある実施形態では、不燃性経口製品が無煙タバコ製品であり、この無煙タバコのポーション内にニコチンが処理される。この無煙タバコ製品は、水溶性の非架橋成分及び実質的に不水溶性の架橋成分を含むコーティングによって少なくとも部分的に封入されたタバコ粒子の集合体を含むことができる。或いは、無煙タバコ製品は、透水性ラッパーに封入された無煙タバコを含むポーチを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした0ppmの樟脳を使用した、直ぐに感じられるニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事前処置の効果についての結果を示す図である。
【
図1B】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした25ppmの樟脳を使用した、直ぐに感じられるニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事前処置の効果についての結果を示す図である。
【
図1C】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした50ppmの樟脳を使用した、直ぐに感じられるニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事前処置の効果についての結果を示す図である。
【
図1D】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした100ppmの樟脳を使用した、直ぐに感じられるニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事前処置の効果についての結果を示す図である。
【
図2A】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした0ppmの樟脳を使用した、30秒後におけるニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事前処置の効果についての結果を示す図である。
【
図2B】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした25ppmの樟脳を使用した、30秒後におけるニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事前処置の効果についての結果を示す図である。
【
図2C】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした50ppmの樟脳を使用した、30秒後におけるニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事前処置の効果についての結果を示す図である。
【
図2D】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした100ppmの樟脳を使用した、30秒後におけるニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事前処置の効果についての結果を示す図である。
【
図3A】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした0ppmの樟脳を使用した、ニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事後処置の効果についての結果を示す図である。
【
図3B】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした25ppmの樟脳を使用した、ニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事後処置の効果についての結果を示す図である。
【
図3C】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした50ppmの樟脳を使用した、ニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事後処置の効果についての結果を示す図である。
【
図3D】エタノール/水溶液から得てストリップに垂らした100ppmの樟脳を使用した、ニコチンによる感覚刺激に対する樟脳による事後処置の効果についての結果を示す図である。
【
図4A】経口タバコの初心者ユーザである成人喫煙者がスヌースを使用することにより、エタノール/水溶液から得た樟脳が、口内で知覚される刺激に影響を与えたかどうかを判定する調査の、全ての時間からの組み合わせ結果を示す図である。
【
図4B】経口タバコの初心者ユーザである成人喫煙者がスヌースを使用することにより、エタノール/水溶液から得た樟脳が、口内で知覚される刺激に影響を与えたかどうかを判定する調査の、2分の時点における結果を示す図である。
【
図4C】経口タバコの初心者ユーザである成人喫煙者がスヌースを使用することにより、エタノール/水溶液から得た樟脳が、口内で知覚される刺激に影響を与えたかどうかを判定する調査の、5分の時点における結果を示す図である。
【
図4D】経口タバコの初心者ユーザである成人喫煙者がスヌースを使用することにより、エタノール/水溶液から得た樟脳が、口内で知覚される刺激に影響を与えたかどうかを判定する調査の、10分の時点における結果を示す図である。
【
図5A】本明細書で説明する例示的な無煙タバコ製品の、柔らかい端部を有する経口ポーチ製品を示す図である。
【
図5B】本明細書で説明する例示的な無煙タバコ製品の、従来の経口ポーチ製品を示す図である。
【
図6】油性担体内の樟脳を使用して、様々な濃度の樟脳がニコチンによる灼熱感に与える効果を実証するデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書では、ある材料が感覚効果を示さないと言う場合、製品のポーションを使用した時に、平均的消費者が、材料から生じる味又は(灼熱感、刺痛感、清涼感、又はこれらの組み合わせなどの)その他の感覚を検出できないことを意味する。
【0011】
本明細書で使用する「食用の(edible)」という用語は、材料又は製品の、口を通じて楽しめる、また少なくとも部分的に消費される能力を意味する。これには、その全体が消費されることを意図していないポーチ状タバコなどの製品が含まれる。
【0012】
本明細書で使用する「ポーション(portion)」という用語は、消費者が個々の1人分及び/又は1回分として通常使用する製品の量を意味する。例えば、ポーションは、1個のドロップ及び/又は吸入器からのひと吸いを意味する。
【0013】
「無香料油性担体」などの用語は、実質的に香味のない疎水性担体を意味し、ペパーミント油などのエッセンシャルオイルは含まない。別途記載しない限り、これにはワックスなどの室温で固体の疎水性材料が含まれる。
【0014】
「約」という用語は、規定した数値又は範囲とともに使用する場合、この規定した値又は範囲よりも若干高い又は低い、規定の±10%の範囲内までを意味する。
【0015】
樟脳と感覚刺激
末梢神経系の様々な神経末端上には、ニコチン性アセチルコリン受容体が存在し、刺激感(例えば、灼熱感)を脳に伝える役割を果たす。タバコに含まれるニコチンは、これらの受容体を活性化することができる。
【0016】
樟脳は、隔離したマウスの気管モデルにおいて、ニコチン作動薬のニコチンによって引き起こされる神経繊維の活性化を効果的に抑制できるとのレポートがある。Kichko他による、Acta Physiologica 2007、第189巻、文献653、要約番号P20−L1−03を参照されたい。樟脳は、アセチルコリン受容体を妨げることにより、副腎細胞からのノルエピネフリン遊離を抑制するというレポートもある。Park他による、Biochem.Pharmacol.2002、61(7)、787〜793頁を参照されたい。
【0017】
ニコチンにより神経が活性化すると、消化管におけるこれらの神経繊維の場所によって異なる感覚が生じ得る。例えば、口内で活性化すると、灼熱感を感じることがあり、食道で活性化すると、灼熱感及び異物感、或いは他の例ではしゃっくり及び/又は吐き気を催す傾向にあり、胃で活性化するとげっぷが促されたりする。
【0018】
樟脳によるニコチン性感覚刺激の低下
図1及び
図2に、ニコチンによる感覚刺激を樟脳で事前処置した効果についての調査結果を示す。ニコチン溶液を与える前に、ヒトボランティアの舌に樟脳を与えた。舌の無作為な面を選択し、エタノール/水溶液から得た0ppm、25ppm、50ppm又は100ppmの樟脳20マイクロリットルをストリップに垂らして(従って、それぞれ約0ピコグラム、約500ピコグラム、約1000ピコグラム又は約2000ピコグラム)30秒間与えた。その後、被験者は、0.1%、0.2%又は0.3%のニコチン溶液を一口すすり、口をゆすいで5秒後に吐き出した。その後、参加者に、舌のどちらの側の灼熱感が強いかを尋ねた。直後(5秒以内)(
図1)及び30秒後(
図2)の両方の時点で回答を集めた。対照には樟脳を与えず、基準を樟脳ゼロに設定した。
【0019】
図3に、ニコチンによる感覚刺激を樟脳で事後処置した効果についての調査結果を示す。この調査は、一般に樟脳による事前処置について上述したように行ったが、この例ではニコチンを与えてから30秒後に樟脳を与え、或いは対照には樟脳を与えなかった。舌の無作為な面を選択し、0ppm、25ppm、50ppm又は100ppmの樟脳20マイクロリットルをストリップに垂らして(従って、それぞれ約0ピコグラム、約500ピコグラム、約1000ピコグラム又は約2000ピコグラム)30秒間与えた。
【0020】
これらのデータから、樟脳で事前処置を行うと、知覚されるニコチンによる灼熱感が、直後及び最初の暴露から30秒後のいずれにおいても大幅に減少することが分かる。
【0021】
樟脳は、それ自体が(例えば、過度の清涼感、検出可能な匂い及び/又は味などの)感覚効果を示さないような量で存在することが好ましい。或いは、樟脳の固有の官能的特性を利用するように製品を立案してもよい。
【0022】
樟脳による刺激の閾値
樟脳自体が感覚刺激を引き起こす閾値を判定するためのさらなる調査を行った。
【0023】
各検査では、2ミリリットル(2ml)の樟脳溶液を使用した。樟脳をエタノールに溶解させ、さらに水中で希釈させた。参加者には、逐次的に上昇する濃度の樟脳を与えた。9人の参加者に、食品用の樟脳ラセミ体を含む試料を200ppm、300ppm、400ppm、500ppm、1000ppm、2000ppm、4000ppm、6000ppmの濃度(それぞれ試料当たり約400ナノグラム、約600ナノグラム、約800ナノグラム、約1000ナノグラム、約2000ナノグラム、約4000ナノグラム及び約8000ナノグラムに対応する)で与えた。
【0024】
評価中、参加者はノーズクリップを装着した。各参加者は、試料を一口すすり、口内で10秒間すすいだ後に吐き出した。その後、各参加者は、刺激を感じたかどうかを示した。各試料の評価の合間、参加者は、水で口をゆすいで1分間待った。
【0025】
この調査の結果を以下の表1に示す。最も左の列には、各個々の参加者の参加者番号を示している。「Y」の文字は、参加者が指示濃度で刺激を感じたことを示し、「N」の文字は、刺激を感じなかったことを示す。
表1:樟脳の刺激閾値の判定
【0026】
この調査では、溶液中の樟脳ラセミ体(D+L)の刺激閾値が200ppm(わずかな刺痛感)〜1000ppmにわたることが判明した。ほとんどの参加者が、非常に低い濃度(200〜300ppm)で刺痛感を感じたのに対し、より高濃度(1000〜2000ppm)でしか感じなかった参加者はわずかであった。n=9の場合、刺激を生みだす平均閾値は655ppmであった。
【0027】
樟脳を含むスヌースポーチ
噛みタバコを使用して、被験者の口内で知覚される灼熱感に樟脳が影響を与えるかどうかを判定するためのさらなる調査を行った。参加者に、2つのスヌースポーチ試料を与え、口の両側で同時に使用させた。一方の試料は樟脳を加えていない対照ポーチとし、他方には様々な濃度の樟脳を含めた(2.3ナノグラム、6ナノグラム、12ナノグラム、23ナノグラム、46ナノグラム及び69ナノグラム、それぞれタバコの重量ベースで25ppm、50ppm、100ppm、200ppm又は300ppmに対応する)。
【0028】
この手作りのテスト試料は、調査の目的で香味系が干渉するあらゆる可能性を阻止するために無香料タバコ(オーブンでの揮発性12%)を使用して作成したものである。このポーチを調製するにあたり、樟脳を95%エタノールに溶解させ、対照ポーチにはエタノールのみを与えた。各試料ポーチには、これらの溶液の1つを10マイクロリットル(一方の側に5マイクロリットルずつ)加えた。1マイクロリットルピペットを使用して、タバコキャビティの各角部に1マイクロリットルを加え、5番目の1マイクロリットルを中心に加えた。反対側のポーチにも同じ手順を使用した。検査の1日前に試料を調製し、一晩ガラスジャー内に密封した。各検査の朝にジャーの封を解き、揮発成分が逃げ出せるようにした。各検査日の最後には未使用の試料を廃棄し、翌日のために新鮮な試料を調製した。
【0029】
二重盲式無作為被験者内二者強制選択(2AFC)設計として調査を行った。
【0030】
各セッションにおいて、参加者に2つのテスト試料(一方は対照)を与えた。参加者には、2つのポーチのうちの一方を口の左側の歯茎と上唇の間に置き、他方のポーチを口の右側の歯茎と上唇の間に置くように指示した。ポーチの配置は、頬骨直下の前の領域を標的にしたものである。対照ポーチの側は無作為に割り当てた。参加者には、口を閉じ、ポーチを配置した場所に置いたままにするように指示した。参加者には、さらなる香味を放出するために、ポーチを頬で絞って唾液で湿らせることを許可した。
【0031】
この試料を使用して2分後、5分後及び10分後に、参加者に口のどちら側の方が灼熱感が強いかを示すように求めた。実験者が回答を紙に記録した。評価終了後、参加者に、テスト試料を口から吐き出して提供した容器に入れるように指示した。参加者には、水及び/又はオレンジジュースを与えて口蓋を洗浄させた。各評価後、参加者に、どこに灼熱感を感じるかについての詳細を示すとともに、自身の体験に関するあらゆる自由なコメントを提供するように求め、これを実験者が紙に記録した。参加者は、この感覚評価手順をさらに6回繰り返し、毎日最大2組のペアを評価した。
【0032】
図4B、
図4C及び
図4Dにそれぞれ示すように、参加者に、2分、5分及び10分の時点で口のどちら側の方に灼熱感があるかを尋ねた。
図4Aには、全ての時点にわたる結果を示している。口の灼熱感を減少させるには、12ナノグラム(50ppmに対応する)の量の樟脳が最も効果的であり、この効果は10分の時点において最も強かった。
【0033】
他の有効成分
樟脳以外のいくつかの成分も、樟脳と同様に作用してニコチンを介した活性化を抑制することにより、及び/又は樟脳の前駆体又は樟脳と同様に作用する別の化合物のように振る舞うことにより、樟脳と同じように機能すると見込まれる。このような前駆体は、ヒトによる消費時に(例えば、代謝酵素によって)活性体に変換されると見込まれる。
【0034】
ある実施形態では、本明細書で説明したような樟脳の役割が、ボルネオ−ル、イソボルネオ−ル、酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル、コハク酸モノボルニル、コハク酸モノイソボルニル、ギ酸モノボルニル及びギ酸モノイソボルニルから成る群から選択された少なくとも1つの化合物によって果たされる。
【0035】
樟脳の担体系
本発明者らは、無煙タバコ製品、又は薬用ニコチン製品及び/又は禁煙製品などの別のニコチン含有製品とともに有利に使用できる樟脳の担体系を発見した。このような担体系は、例えば無煙タバコ製品に添加すると、灼熱感、食道の異物感、しゃっくり及び吐き気を含む感覚刺激を軽減又は排除する。
【0036】
この担体系は、樟脳が、例えばTRPA1及びニコチン性アセチルコリン受容体などの感覚受容体部位に輸送され、そこで効果を発揮するのを促進する。この担体系が、いくつかの上皮層を通じて脊髄又は三叉(体性感覚)神経又は迷走神経の求心性繊維の自由神経終末に到達する樟脳の輸送を支援した場合、樟脳は、その化学的性質に起因してより確実に受容体に到達する。
【0037】
上述したように、樟脳は、このような望ましくない感覚を抑制する際の実験的設定においてうまく機能する一方で、例えば無煙タバコに用いられるような水/アルコール溶液に溶解することが判明した。しかしながら、樟脳の好ましい効果を発揮する能力の向上が望ましかった。いくつかの溶媒を調べたところ、樟脳を油性担体に溶解させた時に最も安定した効果が得られることが判明した。液状の又はより堅固な固体状の油性担体を使用すると、禁煙用に使用されるニコチンチューインガムなどの非タバコ製品にも同様にこれらの有益な効果が得られる。この油性担体は、無香料油性担体である。
【0038】
無煙タバコ製品では、鉱油中の1300ppm未満の濃度の樟脳は、匂い、味又は強い清涼感などの固有の感覚効果を示さない。
【0039】
図6及び表2に、ニコチンによって生じる灼熱感に対する様々な濃度の樟脳の効果を実証する収集データを示す。18人の参加者の舌の両側に(盲目的に、無作為に)2つの味覚ストリップを使用して、樟脳による事前処置を行った。試験用ストリップには、300ppm〜1800ppmの濃度Cの樟脳を含む250マイクロリットルのNEOBEEオイル担体を含ませた。対照ストリップには、250マイクロリットルの担体のみ(NEOBEEオイル)を含ませた。事前処置時間は、約30秒とした。次に、参加者は、これらの味覚ストリップを取り出し、ニコチンストリップを処置部位に置いた。ニコチンは、50マイクロリットル中に730マイクログラムの量で約30秒間与えた。次に、各ニコチンストリップを取り出し、直後、30秒後、及び2分後に灼熱感の感覚評価を行った。感覚評価では、2AFC及び感覚刺激強度格付けを作成した。
【0040】
反復測定分散分析(ANOVA)モデルを適用してデータを分析した。このモデルは、調査参加者、調査時間及び樟脳濃度という項目を含む(表2参照)。SAS手順の「PROC MIXED」を使用した。p値は、各濃度と対照を比較するためのものである。強制選択値の有意性を計算するために、カイ2乗検定を使用した。600ppm、900ppm及び1200ppmの樟脳では、ニコチン投与の直後、30秒及び120秒後において、ニコチンによる感覚刺激の全ての時点における大幅な減少が実証されるという結論が得られた。
【0041】
理論によって縛られることを望むわけではないが、この刺激の減少は、ニコチン性アセチルコリン受容体、及び/又はTRPV1及び/又はTRPA1受容体などのバニロイド受容体の活性化が樟脳の媒介によって低下することによるものと考えられる。約600ppm〜1200ppmの樟脳の臨界性については予期していなかった。
【0042】
禁煙製品などの薬用ニコチン剤では、厄介な副作用が低減及び排除されることにより、患者の従順性が実質的に高まり、従って禁煙成功率が上昇する可能性があると予想することができる。
【0043】
ある実施形態では、製品のポーションが、250マイクロリットル中に600ppm〜1200ppmの樟脳と同等の又はこれよりも多くの量の樟脳を含む。
【0044】
無香料油性担体は、実質的に香味のない疎水性担体である。この例として、鉱油及び植物油、並びにこれらの派生物、さらにはワックスが挙げられる。
表2
【0045】
無煙タバコ
本明細書で説明したように、無煙タバコのポーションには、ポーチ状タバコ(スヌースポーチと呼ばれることもある)及びポーチレスポーションがあり、このポーチレスポーションは、布及び/又は紙のラッパーが無く、使用前に個別の1回分に成形又は分割され、ユーザが使用量を決定する必要なく、事前分割されたタバコをユーザの口に入れることができるようにされた経口的に楽しめるタバコを含む。事前分割された、タバコなどの植物性素材のポーチレス製品は、同一出願人による米国特許出願公開第2008/0202533号、第2009/0038631号及び第2009/0301505号に記載されており、これらの特許出願の各々は引用により組み入れられる。ポーチ状ポーションは、例えば、米国特許出願公開第2007/0012328号及び第2007/0261707号に記載されており、これらの特許出願の各々も引用により組み入れられる。
【0046】
ポーションの形状は、一般に矩形又は楕円形であることが好ましい。ポーションのその他の好ましい形状としては、多角形、正方形、矩形、円形、長円形、ハート形、半月形、三日月形、葉形、及びこれらの組み合わせから成る群から選択されたあらゆる形状が挙げられる。
【0047】
好ましい実施形態では、ポーションが、口の内部のユーザの頬と歯茎の間に収まるようにサイズ決めされ構成される。ポーションは、一般に矩形であり、約20mm〜約35mmの長さであり、約10mm〜約20mmの幅であり、約3mm〜約6mmの厚みであることが好ましい。ポーションの角部は丸めることができる。
【0048】
無煙タバコ製品は、経口ポーチ製品とすることができる。
図5Aに、柔らかい端部を有するポーチ製品を示し、
図5Bに、従来のポーチ製品を示す。経口ポーチ製品は、ユーザの口に入れられた時に、これを吸い、噛み、及び/又は経口的に操作して、中に含まれる香味料を放出できることが好ましい。
【0049】
図5Aに示す経口ポーチ製品10は、その端部に沿った閉じ目16を有する多孔質ポーチラッパー14に含まれる内部充填材12を含む。
図5Aに示すように、閉じ目16は、ユーザが心地良さを感じるように柔らかい未接着領域又は柔らかい端部18を残すために、多孔質ポーチラッパー14の自由端までは延びていない。
【0050】
図5Bには、一対の対向する横方向の閉じ目を有する多孔質ポーチラッパーに含まれる内部充填材を含む経口ポーチ製品100を示している。ポーションの外側に、油性担体内の樟脳を、単独で又はポーションのコーティングの一部として加えることができる。これとは別に又はこれに加えて、ポーションの内部領域に樟脳が存在してもよい。
【0051】
薬用ニコチン製品
製品は、様々な形で提供することができる。ある実施形態では、この製品が食用製品である。食用製品は、タブレット、ドロップ、スティック、チュアブルガム、スポンジ状素材、泡、クリーム、ペレット、繊維、錠剤、カプセル、ポーチ状製品、又はこれらの組み合わせの形をとることができる。食用製品のその他の例としては、タブレット、ガム、チョコレート、香味付きスポンジ、香味ストリップなどの、チュアブル又は非チュアブルタイプの食用形態が挙げられる。
【0052】
別の実施形態では、薬用ニコチン製品又は製剤が、スプレー形態で、すなわち樟脳及び油性担体を口内に吹き付けることができるスプレー性製品の形で提供される。この製品がスプレー形態で投与される場合、その梱包には、定量吸入器などの吸入器が含まれることが好ましい。
【0053】
以上、特定の実施形態を参照しながら詳細に説明したが、当業者には、特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行えること、及びこれらの同等物を採用できることが明らかであろう。
【符号の説明】
【0054】
10 経口ポーチ製品
12 内部充填材
14 多孔質ポーチラッパー
16 閉じ目
18 柔らかい端部