特許第5886836号(P5886836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886836
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】イオン交換可能なガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/097 20060101AFI20160303BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20160303BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   C03C3/097
   C03C21/00 101
   G06F3/041
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-512114(P2013-512114)
(86)(22)【出願日】2011年5月23日
(65)【公表番号】特表2013-533838(P2013-533838A)
(43)【公表日】2013年8月29日
(86)【国際出願番号】US2011037506
(87)【国際公開番号】WO2011149811
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年5月23日
(31)【優先権主張番号】12/788,525
(32)【優先日】2010年5月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】チャップマン,クリスティ リン
(72)【発明者】
【氏名】デジュネカ,マシュー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス,シニュエ
(72)【発明者】
【氏名】ランバーソン,リサ エイ
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−030876(JP,A)
【文献】 特開2008−115072(JP,A)
【文献】 特開2009−084075(JP,A)
【文献】 特開2011−057504(JP,A)
【文献】 特開2010−070445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00〜23/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスであって、リチウムを含まず、0.1〜10モル%のP25および少なくとも5モル%のAl23を含み、モル%で表して、ΣR’O(R’=Mg,Ca,Ba,Sr)≦0.5P25であり、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、銅、タリウムおよび銀の内の少なくとも1つによりイオン交換可能であり、さらに少なくとも100キロポアズの液相線粘度を有することを特徴とする、イオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項2】
該ガラスにおいて、カリウムが少なくとも1.1×10-10cm2/秒の410℃での拡散係数を有することを特徴とする請求項1記載のイオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項3】
20μmから150μmまでの範囲のイオン交換深さを有し、少なくとも200MPaの圧縮応力を有する外層を有することを特徴とする、イオン交換された請求項1記載のアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項4】
少なくとも1種類の一価の金属酸化物改質剤R2Oを含み、モル%で表して、P25≦[Σ(R2O)−Al23]であることを特徴とする請求項1または2記載のイオン交換なアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項5】
56〜72モル%のSiO2、5〜18モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0.1〜10モル%のP25、3〜25モル%のNa2O、および0〜5モル%のK2Oを含むアルカリアルミノケイ酸塩ガラスであることを特徴とする請求項1または2記載のイオン交換なアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項6】
ガラス物品を強化する方法において、
a. 0.1〜10モル%のP25、少なくとも5モル%のAl23、および複数の第1の一価の陽イオンを含み、モル%で表して、ΣR’O(R’=Mg,Ca,Ba,Sr)≦0.5P25であり、さらに(cm2/秒)で表されるカリウムイオンの拡散係数D>exp(−3.8965−13240/T)を有し、式中、Tはケルビン(K)で表される温度であるイオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスからなるガラス物品を提供する工程、
b. 前記第1の一価の陽イオンの少なくとも一部を、該第1の一価の陽イオンとは異なる第2の一価の陽イオンで、前記ガラス物品において20μmから150μmの範囲の深さまで交換する工程であって、該ガラス物品における前記第1の陽イオンの第2の陽イオンによる交換によって、該ガラス物品の表面に隣接する領域に圧縮応力が生じる工程、
を有してなる方法。
【請求項7】
前記第1の一価の陽イオンの少なくとも一部を前記第2の一価の陽イオンで交換する工程が、Na+イオンをK+イオンで前記ガラス物品において20μmから150μmの範囲の深さまで交換する工程を含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記イオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスが、リチウムを含まず、かつ56〜72モル%のSiO2、5〜18モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0.1〜10モル%のP25、3〜25モル%のNa2O、および0〜5モル%のK2Oを含むアルカリアルミノケイ酸塩ガラスであることを特徴とする請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
前記ガラスにおいて、カリウムが少なくとも1.1×10-10cm2/秒の410℃での拡散係数を有することを特徴とする請求項6または7記載の方法。
【請求項10】
前記イオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスを提供する工程が、前記イオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスをダウンドロー法により形成する工程を含むことを特徴とする請求項6または7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、米国法典第35編第119条(e)の下で、2010年5月27日に出願された米国特許出願第12/788525号の優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、イオン交換可能なガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
化学強化ガラスが、タッチスクリーンおよびアプリケーションに使用されている。現在、多くのガラスは、表面で少なくとも500MPaの圧縮応力を有する、50マイクロメートル超の深さの圧縮層を得るために、8から10時間に亘り溶融塩浴中の浸漬によってイオン交換されなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
0.1〜10モル%のP25を含むイオン交換可能なガラスが提供される。P25の存在により、P25を含有しない類似のガラスよりも、より速く、より深く、ガラスをイオン交換できる。
【0005】
したがって、本開示の1つの態様は、イオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスを提供することにある。このイオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスは、リチウムを含まず、0.1〜10モル%のP25および少なくとも5モル%のAl23を含む。このガラスは、少なくとも100キロポアズの液相線粘度を有する。
【0006】
本開示の別の態様は、イオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスを強化する方法を提供することにある。この方法は、0.1〜10モル%のP25、少なくとも5モル%のAl23、および複数の第1の一価陽イオンを含むイオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスを提供する工程、およびガラス物品中の少なくとも20μmの深さまで、前記第1の一価陽イオンの少なくとも一部分を、該第1の一価陽イオンとは異なる第2の一価陽イオンと交換する工程を有してなる。ガラス物品中の第1の陽イオンが第2の陽イオンによる交換で、ガラス物品の表面に隣接した領域に圧縮応力が形成される。
【0007】
これらと他の態様、利点、および顕著な特徴は、以下の詳細な説明、添付図面、および付随の特許請求の範囲から明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】イオン交換により強化されたガラス板の断面図
図2】P25の含有量の関数としてイオン交換済みアルカリアルミノケイ酸塩ガラス中の圧縮層の深さと圧縮応力をプロットしたグラフ
図3】P25の含有量の関数としてイオン交換済みアルカリアルミノケイ酸塩ガラスの質量変化をプロットしたグラフ
図4】アルカリアルミノケイ酸塩ガラスへのP25の添加の関数として圧縮層の深さと圧縮応力をプロットしたグラフ
図5】アルカリアルミノケイ酸塩ガラス中のP25の濃度の関数としてカリウム拡散係数をプロットしたグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明において、類似の参照文字が、図面に示されたいくつかの図に亘り類似のまたは対応する部品を指す。別記しない限り、「上」、「下」、「外側」、「内側」などの用語は、便宜上の単語であり、制限用語と考えるべきではない。その上、群が、成分およびその組合せの群の内の少なくとも1つを含むと記載されているときはいつでも、その群が、列挙されたそれらの成分のどれも、個別かまたは互いの組合せのいずれかで、含む、から実質的になる、またはからなるものであってよいと理解される。同様に、群が、成分およびその組合せの群の内の少なくとも1つからなると記載されているときはいつでも、その群が、列挙されたそれらの成分のどれも、個別かまたは互いの組合せのいずれかで、からなるものであってよいと理解される。別記しない限り、値の範囲は、列挙された場合、その範囲の上限と下限の両方を含む。別記しない限り、成分および化合物の全ての濃度は、モルパーセント(モル%)で表される。
【0010】
一般に図面を、特に図1を参照すると、図解は、特定の実施の形態を説明する目的のためであり、本開示または付随の特許請求の範囲をそれに制限することは意図されていないことが理解されよう。図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれておらず、その図面の特定の特徴および特定の視野は、明瞭さと簡略さのために、縮尺または図式において誇張されて示されているかもしれない。
【0011】
化学強化ガラスは、携帯電話、携帯式インターネット端末、エンターテインメント装置、ラップトップコンピュータおよびノート型コンピュータなどを含む、携帯式家庭用家電製品におけるタッチスクリーンおよび高耐久化ディスプレイなどのディスプレイ用途に使用されている。アルミノケイ酸塩ガラスおよびアルカリアルミノケイ酸塩ガラスなどのある種のガラスは、イオン交換として知られているプロセスによって化学的に強化することができる。このプロセスにおいて、ガラスの表面層中のイオンが、ガラスの表面層中のイオンと同じ価数または酸化状態を有するより大きなイオンにより置換される、すなわち、交換される。ガラスが、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスを含む、から実質的になる、またはからなる実施の形態において、ガラスの表面層中のイオンおよびより大きなイオンは、Li+(ガラス中に存在する場合)、Na+、K+、Rb+、およびCs+などの一価のアルカリ金属陽イオンである。あるいは、表面層中の一価の陽イオンは、Ag+、Cu+、Tl+などの、アルカリ金属陽イオン以外の一価の陽イオンにより交換されてもよい。その上、そのような陽イオンは、最初に、ガラス自体に存在し得る。
【0012】
イオン交換プロセスは、概して、アルミノケイ酸塩ガラスを、そのガラス中のより小さいイオンと交換されるべきより大きいイオンを含有する溶融塩浴中に浸漬する工程を含む。一例として、アルカリ金属含有ガラスのイオン交換は、以下に限られないが、より大きいアルカリ金属イオンの硝酸塩、硫酸塩、および塩化物などの塩を含有する少なくとも1つの溶融塩浴中の浸漬により行ってよい。溶融塩浴の温度は、概して、約380℃から約450℃までの範囲にあり、浸漬時間は約2時間から約16時間に及ぶ。そのようなイオン交換処理は、概して、圧縮応力(CS)下にある外側表面層(ここでは、「層の深さ」または「DOL」とも称する)を有する強化済みアルカリアルミノケイ酸塩ガラスをもたらす。
【0013】
イオン交換により強化されたガラス板の断面図が図1に示されている。強化ガラス板100は、厚さt、互いに実質的に平行な第1の表面110と第2の表面120、中央部分115、および第1の表面110を第2の表面120に接続する縁130を有する。強化ガラス板100は、イオン交換により化学的に強化されており、各表面の下に、それぞれ、深さd1,d2まで、第1の表面110および第2の表面120から延在する強化表面層112,122を有する。強化表面層112,122は圧縮応力下にあるのに対し、中央部分115は引張応力下、または張力下にある。中央部分115における引張応力は、強化表面層112,122における圧縮応力と釣り合い、それゆえ、強化ガラス板100内に平衡を維持する。強化表面層112,122が延在する深さd1,d2は、一般に、「層の深さ(DOL)」と個別に称される。縁130の一部分132も、強化プロセスの結果として強化されているであろう。強化ガラス板100の厚さtは、一般に、約0.1mmから約3mmまでの範囲にある。1つの実施の形態において、厚さtは、約0.5mmから約1.3mmまでの範囲にある。平面のガラス板100が図1に示されているが、三次元形状などの他の非平面構造も可能である。その上、そのガラス板の1つの表面をイオン交換によって強化しても差し支えない。
【0014】
表面で50μm超の圧縮層の所望の深さおよび/または少なくとも500MPaの所望の圧縮応力を達成するために、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、概して、8から10時間に亘りイオン交換によって化学強化を受ける。
【0015】
イオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスであって、そのようなガラスに以前に観察された速度より4倍まで速い速度でイオン交換を受けられるガラスおよびそのガラスから製造された物品がここに記載されている。アルミノケイ酸塩ガラスは、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、銅、銀、タリウムなどの内の少なくとも1つによりイオン交換可能である。
【0016】
ここに記載されたガラスは、リチウムを実質的に含まず(すなわち、リチウムは、最初のバッチ配合中またはその後のイオン交換中に積極的に加えられないが、不純物として存在するかもしれない)、約0.1モル%から約10モル%のP25および少なくとも5モル%のAl23を含む。このガラスは、ガラスを当該技術分野に公知のダウンドロー(例えば、スロットドローまたはフュージョンドロー)方法により形成できるようにする、少なくとも100キロポアズの、いくつかの実施の形態において、少なくとも135キロポアズの液相線粘度を有する。選択された実施の形態において、そのガラスは、少なくとも2メガポアズ(Mポアズ)の液相線粘度を有する。
【0017】
いくつかの実施の形態において、P25濃度は、金属酸化物改質剤の総濃度Σ(R2O)とAl23濃度との間の差以下である、すなわち、P25≦[Σ(R2O)−Al23]。1つの実施の形態において、ガラスは、少なくとも1種類の一価の金属酸化物改質剤−例えば、Ag2O、Na2O、K2O、Rb2O、および/またはCs2Oを含むアルカリアルミノケイ酸塩ガラスである。そのようなガラスにおいて、P25濃度は、アルカリ金属酸化物改質剤の総濃度とAl23濃度との間の差以下である、すなわち、P25≦[(Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O)−Al23]。P25濃度がアルカリ改質剤の量を超えると、耐火性バッチ石およびリン酸アルミニウム包有物がガラス中に形成し始める。MgO、CaO、SrO、およびBaOなどのアルカリ土類酸化物が相分離および/または失透を生じさせ得る。その結果、アルカリ土類酸化物の総濃度は、P25濃度のほぼ半分以下に制限すべきである、すなわち、ΣR’O(R’Mg,Ca,Ba,Sr)≦0.5P25。同様に、改質剤が、Ag2O、Cu2O、またはTl2Oなどの他の金属酸化物である実施の形態において、P25濃度は、金属酸化物改質剤の総濃度とAl23濃度との間の差以下である、すなわち、P25≦[(R2O+Ag2O+Tl2O+Cu2O−Al23)]、式中、R2O=(Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O)。
【0018】
1つの実施の形態において、イオン交換可能なアルミノケイ酸塩ガラスは、56〜72モル%のSiO2、5〜18モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0.1〜10モル%のP25、3〜25モル%のNa2O、および0〜5モル%のK2Oを含み、から実質的になり、またはからなり、かつリチウムを含まない。アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、いくつかの実施の形態において、0〜4モル%のCaO、0〜1モル%のMgO、および0.5モル%までのSnO2の内の少なくとも1つをさらに含む。ここに記載されたガラスの例示の組成が、表1に列挙されている。これらのガラスの歪み点、徐冷点、軟化点、熱膨張係数(CTE)、密度、モル体積、応力光係数(SOC)、および液相線温度を含む物理的性質が表2に列挙されている。表3は、410℃または370℃いずれかでのKNO3浴中の8時間に亘るイオン交換後の選択されたガラスに関する圧縮応力(CS)、層の深さ(DOL)、およびカリウム拡散係数(D)を列挙している。別の実施の形態において、56〜72モル%のSiO2、5〜18モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0.1〜10モル%のP25、および2〜20モル%のAg2Oを含む、から実質的になる、またはからなるアルミノケイ酸塩ガラスである。このガラスは、同様に、いくつかの実施の形態において、リチウムを含まない。
【0019】
アルミノケイ酸塩またはアルカリアルミノケイ酸塩ガラス中のP25の存在により、ガラス中に存在するより小さい陽イオンのより大きい陽イオンによるイオン交換速度が加速する。特に、P25の存在により、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス中のNa+イオンのK+イオンによるイオン交換速度が加速する。表1〜3に列挙されたデータは、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスのイオン交換および物理的性質へのP25濃度の影響を示している。図2の曲線a〜dは、P25濃度が増加するにつれて、イオン交換済みアルカリアルミノケイ酸塩ガラス中のDOLが増加することを示しているのに対し、曲線e〜hは、異なる浴温度(410℃、370℃)および時間(8、15、および64時間)で、イオン交換済みアルカリアルミノケイ酸塩ガラスに関して、P25濃度が増加するにつれて、圧縮応力CSが減少することを示している。点1および2は、イオン交換され、徐冷された、P25を含有しないアルカリアルミノケイ酸塩ガラスの基準サンプル(表1〜3のサンプル1)の、それぞれ、圧縮応力および層の深さを表す。表3に列挙された選択されたイオン交換済みアルカリアルミノケイ酸塩ガラスの質量増加が、図3のP25濃度の関数としてプロットされている。図3に示された質量増加は、異なるイオン交換条件について−異なる浴温度(410℃、370℃)および時間(8、15、および64時間)について、測定し、ガラス中のNa+イオンのより重いK+イオンによる交換の程度を反映している。図3の点3は、徐冷され、イオン交換された、P25を含有しないアルカリアルミノケイ酸塩ガラスの基準サンプル(表1〜3のサンプル1)について観察された質量変化を表す。P25含有量による質量の安定した増加は、ここに記載されたガラス中のP25の存在が、Na+イオンのK+イオンによる交換を促進するおよび/または加速させることを示す。図4は、66モル%のSiO2、25モル%のNa2O、および9モル%のAl23の組成を有するアルカリアルミノケイ酸塩ガラスの層の深さおよび圧縮応力へのP25の添加の影響をプロットしたグラフである。図4に示されるように、2モル%のP25の添加により、層の深さが50%増加する。
【0020】
表3に列挙され、図2にプロットされたイオン交換データは、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスのDOLを2倍にするのに4モル%のP25で十分であることを示している。DOLは、ほぼ拡散係数および時間の平方根として増加するので、このことは、連動したK+←→Na+の拡散係数は4倍増加することを意味する。それゆえ、ガラスにP25を添加すると、所定の層の深さを達成するのに必要な時間を4分の1減少させることができる。リンを含まない徐冷されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス(表1〜3のサンプル1)におけるK+イオンの拡散係数Dは、式:
D=exp(−3.8965−13240/T)
により与えられ、式中、拡散係数Dは(cm2/秒)で表され、温度Tはケルビン(K)で表される。Na+イオンのK+イオンによる交換が主として行われる温度である、410℃(683K)では、ここに記載されたガラス中のK+イオンの拡散係数は7.8×10-11cm2/秒である。先に与えられた式は、徐冷されたガラスのために導かれる。ここに先に記載したように、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、フュージョンドロープロセスなどのダウンドロープロセスによって形成することができる。フュージョン法により形成されたガラス中のK+イオンの拡散係数は、徐冷されたガラス中のこれらのイオンの拡散係数よりも約1.4倍大きいとみなすことができる。それゆえ、フュージョン法により形成されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス中のK+イオンの拡散係数は、400℃(673K)で約1.1×10-10cm2/秒であると推測される。ここに記載されたリン含有ガラス中のアルカリ金属イオンの増加した拡散係数により可能となるより速いK+←→Na+のイオン交換速度は、以前は、K+←→Na+のイオン交換よりも低い圧縮応力を生じるNa+←→Li+などのより小さいイオンでしか達成されていなかった。それゆえ、ここに記載された組成により、K+←→Na+イオン交換で達成できる圧縮応力を、Na+←→Li+イオン交換の速度で行うことが可能になる。1つの実施の形態において、ここに記載されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、6時間未満に亘り410℃でKNO3溶融塩浴中に浸漬された場合、少なくとも50μmの深さまで、ガラス中でNa+をK+で交換することができる。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、イオン交換された場合、少なくとも20μmの層の深さおよび少なくとも400MPaの圧縮応力を有する圧縮層を備える。他の実施の形態において、前記ガラスは150μmまでの層の深さまでイオン交換され、さらに他の実施の形態において、前記ガラスは100μmまでの層の深さまでイオン交換される。
【0021】
図5に、カリウムの拡散係数が2種類のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス中のP25濃度の関数としてプロットされている。4モル%(図5のa)または8モル%(図5のb)いずれかのB23を含有する2種類のガラスに関するデータが図5にプロットされている。4モル%のP25の添加により、4モル%のB23を含有するガラス中のK+拡散係数が約50%増加するのに対して、そのガラスへの同量のP25の添加により、K+拡散係数は約三分の一しか増加しない。後者のガラスに観察される拡散係数の少ない増加は、増加した量のB23のせいであり得、これにより、カラス中のK+拡散係数が減少する傾向がある。
【0022】
アルカリアルミノケイ酸塩ガラスへのP25の添加を使用して、低い液相線温度を得ることもできる。表1に列挙された全てのガラスは、約700℃未満の液相線温度を有する。ガラス2は、248メガポアズ(MP)超の液相線粘度を有し、したがって、当該技術分野に公知のスロットドロー法およびフュージョンドロー法などのダウンドロー法により形成可能である。あるいは、ここに記載されたガラスは、当該技術分野に公知のフロート法、成形法、および注型法などの他の方法によっても形成可能である。P25の存在によっても、高温でのガラスの粘度が減少する。2モル%のP25の添加により、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスの200P温度を50℃低下させることができ、これにより、カラスの溶融および清澄が促進される。
【0023】
ガラス物品を強化する方法も提供される。ここに記載されたガラスなどの、0.1〜10モル%のP25および少なくとも5モル%のAl23を含むアルミノケイ酸塩ガラスからなるガラス物品を最初に提供する。このガラスは、例えば、アルカリ金属陽イオンなどの複数の第1の一価の陽イオン、およびAg+、Cu+、Tl+などの一価の陽イオンも含む。いくつかの実施の形態において、アルミノケイ酸塩ガラスは、リチウムを含まず、かつ56〜72モル%のSiO2、5〜18モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0.1〜10モル%のP25、3〜25モル%のNa2O、および0〜5モル%のK2Oを含む、から実質的になる、またはからなるアルカリアルミノケイ酸塩ガラスである。このアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、いくつかの実施の形態において、0〜4モル%のCaO、0〜1モル%のMgO、および0.5モル%までのSnO2の内の少なくとも1つをさらに含み得る。前記ガラスは、少なくとも100kPの、いくつかの実施の形態において、少なくとも135kPの液相線粘度を有し、ダウンドロー法(例えば、スロットドロー法、フュージョンドロー法などの)により製造できる。その上、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、ここに先に記載され、表1の後半に報告された性質(歪み点、徐冷点、および軟化点、熱膨張係数(CTE)、密度、モル体積、応力光係数(SOC)、および液相線温度)を有する。他の実施の形態において、ガラスは、56〜72モル%のSiO2、5〜18モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0.1〜10モル%のP25、および2〜20モル%のAg2Oを含む、から実質的になる、またはからなるアルミノケイ酸塩ガラスである。
【0024】
次の工程において、ガラスの表面に隣接した領域において第1の一価の陽イオンの少なくとも一部を第2の一価の陽イオンで交換する、すなわち、置換する。第2の一価の陽イオンは、第1の陽イオンとは異なり、いくつかの実施の形態において、第1の一価の陽イオンより大きい。第2の陽イオンが第1の陽イオンより大きい場合、ガラスの表面に隣接する領域における第1の陽イオンの第2の陽イオンによる置換で、その領域において圧縮応力が生じる。ガラスがアルカリアルミノケイ酸塩ガラスである場合、先にここに記載された方法を使用して、イオン交換により、例えば、K+イオンで、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス中のNa+イオンを交換する。カリウムイオンでNa+イオンを、ガラス物品において100μmまで、いくつかの実施の形態において、150μmまでの深さまでイオン交換する。いくつかの実施の形態において、K+イオンでNa+イオンを、ガラス物品において少なくとも20μm、他の実施の形態において、少なくとも50μm、さらに他の実施の形態において、150μmの深さまでイオン交換する。
【0025】
ここに記載されたガラスは、以下に限られないが、電話、他の通信装置、エンターテインメント装置、携帯型コンピュータ、ラップトップコンピュータおよびノート型コンピュータを含む、タッチスクリーンおよび携帯型電子装置などの用途の、ディスプレイウィンドウ、カバープレート、スクリーン、構造上の特徴などとして使用するための平面板に形成することができる。他の実施の形態において、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、湾曲板などの、三次元の非平面形状に形成できる。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0026】
説明目的で典型的な実施の形態を述べてきたが、先に記載は、本開示の範囲または添付の特許請求の範囲への制限であると見なすべきではない。したがって、本開示または添付の特許請求の範囲から逸脱せずに、様々な改変、適用、および変更が当業者に想起されるであろう。
【符号の説明】
【0027】
100 強化ガラス板
110 第1の表面
115 中央部分
120 第2の表面
130 縁
112,122 強化表面層
図1
図2
図3
図4
図5