(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る滅菌システム1のブロック図である。この滅菌システム1は、滅菌処理を行うべき処理室(滅菌対象空間)として、薬品製造などに使用される複数のクリーンルームR1,R2,・・・,Rn(総称するときは、以下参照符号Rで示す)を備え、週末などの該クリーンルームRが使用されない時間帯に、該クリーンルームR内に、プラズマによって生成された二酸化窒素(NO
2)ガスを作用させて滅菌処理を施すものである。この滅菌システム1は、大略的に、前記クリーンルームRと、ガス供給装置30と、連係系統40と、浄化装置50とを備えて構成される。
【0013】
本実施形態では、空気を原料ガスとして、その空気を前記プラズマ処理することで生成された二酸化窒素ガスを滅菌剤として用いる例を示す。したがって、本実施形態の滅菌システム1によれば、原料ガスの取り扱いが容易であり、コストダウンを図ることができるとともに、人体に有害な二酸化窒素ガスを、必要な場所で、必要な量だけ作成することができる。なお、処理室としては、ゴム手袋が組み付けられたガラス張りの壁面を備え、外部から前記ゴム手袋を介して人手で室内に配置された検査器具などを扱えるようにしたアイソレータ等であってもよい。
【0014】
クリーンルームRは、滅菌時には、適宜目張りなどが施されて、高い気密性を確保することができる内部空間を有する。この内部空間には、人が入って作業することが可能である。各クリーンルームR1〜Rnには、滅菌中に不所望な人の立ち入りを防止する錠装置L1〜Lnや、図示は省略しているが、滅菌中の注意を表す警告装置が適宜備えられている。各クリーンルームRの容積、すなわち部屋の大きさは任意である。
【0015】
ガス供給装置30は、これらのクリーンルームRと、該ガス供給装置30と、連係系統40とによって形成される閉空間内に存在するガスを原料ガスとして、それをプラズマで電離して、NO
2ガスを生成したり、NO
2ガスの濃度を高めたりするものである。前記閉空間内において原料ガスとなるガスは、主にクリーンルームRの開閉によって導入された空気や、クリーンルームRからガス供給装置30へ戻ってくるNO
2濃度が低いガスである。
【0016】
ガス供給装置30は、プラズマ発生ノズル33、マイクロ波供給装置70、ガス流量計35、ポンプP1、及び配管36を含む。配管36には、前記プラズマ発生ノズル33、ガス流量計35、ポンプP1が順に設けられている。連係系統40を介してクリーンルームRから導入された空気やNO2濃度の低いガスが、前記の順に各部を通過することで、NO
2ガスとなって、前記連係系統40を介して、クリーンルームRへ充填される。
【0017】
プラズマ発生ノズル33は、プラズマ(電離気体)を発生させるための電界集中部を提供する。配管36を流通する原料ガス(窒素および酸素を含むガス)は、該プラズマ発生ノズル33の前記電界集中部を通過することで電離され、NO
2ガスに変換される。このようなプラズマを発生させるために、本実施形態ではマイクロ波エネルギーが用いられている。当該マイクロ波エネルギーは、マイクロ波供給装置70から該プラズマ発生ノズル33に与えられる。
【0018】
図2は、マイクロ波供給装置70の構成を概略的に示すブロック図である。マイクロ波供給装置70は、マイクロ波エネルギーを発生すると共に、これをプラズマ発生ノズル33に供給するための装置であって、マイクロ波を発生するマイクロ波発生装置71と、前記マイクロ波を伝搬させる導波管72とを含む。この導波管72に、プラズマ発生ノズル33が取り付けられている。また、マイクロ波発生装置71と導波管72との間には、アイソレータ73およびカプラ74が備えられている。
【0019】
マイクロ波発生装置71は、たとえば2.45GHzのマイクロ波を発生するマグネトロン等のマイクロ波発生源と、このマイクロ波発生源にて発生されたマイクロ波の強度を所定の出力強度に調整するアンプとを含む。本実施形態では、たとえば1W〜3kWのマイクロ波エネルギーを出力できる連続可変型のマイクロ波発生装置71が好適に用いられる。
【0020】
導波管72は、アルミニウム等の非磁性金属からなり、断面矩形の長尺管状を呈し、マイクロ波発生装置71により発生されたマイクロ波を、その長手方向に伝搬させる。アイソレータ73は、入出力のアイソレーションを行い、導波管72からの反射マイクロ波のマイクロ波発生装置71への入射を抑止する機器であり、サーキュレータ731とダミーロード732とを含む。サーキュレータ731は、磁力によって、マイクロ波発生装置71で発生されたマイクロ波を導波管72に向かわせる一方で、反射マイクロ波をダミーロード732に向かわせる。ダミーロード732は、反射マイクロ波を吸収して熱に変換する。カプラ74は、マイクロ波エネルギーの強度を計測する。
【0021】
なお、本実施形態のマイクロ波供給装置70は、前記のマイクロ波の周波数に対して、マイクロ波発生装置71からプラズマ発生ノズル33までの距離等が適宜チューニングされることによって、前記プラズマ発生ノズル33でのマイクロ波の受信感度が最大となり、マイクロ波発生装置71側に反射するマイクロ波が最小となるように調整されている。しかしながら、部品のばらつき等に対応するための更なるチューニングや、一層高精度なチューニングのために、前記プラズマ発生ノズル33に対して、マイクロ波の伝搬方向の上流側に配置されるチューナと、マイクロ波の伝搬方向の下流側に配置されるスライディングショートとの少なくとも一方が、導波管72に取付けられてもよい。
【0022】
前記チューナは、導波管72に突出可能なスタブを含み、反射マイクロ波が最小となるような調整、つまりプラズマ発生ノズル33でのマイクロ波エネルギーの消費が最大となる調整を行うための機器である。前記カプラ74は、その調整の際に利用することができる。前記スライディングショートは、導波管72の遠端部(マイクロ波の伝搬方向の下流端)を閉塞すると共に、導波管72の管軸方向、すなわちマイクロ波の伝搬方向に移動することで、マイクロ波の反射位置を変化させて定在波パターンを調整するための部材である。
【0023】
図1に戻って、連係系統40は、クリーンルームRとガス供給装置30との間を連通させるとともに、滅菌処理で使用して不要となったNO
2ガスを無害化する浄化装置50を、クリーンルームRに接続するための系統である。連係系統40は、電磁弁RV11〜RVn1;RV12〜RVn2、電磁弁V1、ポンプP2、濃度センサS、配管11,12,41,42を含む。
【0024】
配管41の一端(上流端)はガス供給装置30のポンプP1に接続され、他端(下流端)はクリーンルームR側の共通配管11に接続されている。配管42の一端側(上流端)はクリーンルームR側の共通配管12に接続され、他端側(下流端)はガス供給装置30のプラズマ発生ノズル33(配管36)に接続されている。この配管42の下流側にポンプP2が配置されている。ポンプP2は、ポンプP1と共に、ガス供給装置30からのNO
2ガスをクリーンルームRに循環させて滅菌処理を行う際に動作する。
【0025】
配管42には、クリーンルームR内のNO
2ガスの濃度を計測する濃度センサSが設けられている。電磁弁V1は、配管42に取り付けられ、滅菌処理を行う際に「開」とされ、後述するように、浄化装置50によるNO
2ガスの無害化処理時に「閉」とされる弁装置である。滅菌処理時に、前記2つのポンプP1,P2がONとされる。
【0026】
浄化装置50は、前記のように滅菌処理に用いたNO
2ガスを無害化する装置である。無害化されたガスは、当該浄化装置50から再びクリーンルームRに循環される。浄化装置50は、HNO
3変換部51、フィルタ52、電磁弁V2、ポンプP3、配管53を含む。
【0027】
配管53の一端側(上流端)は、前記連係系統40における濃度センサSの下流側に接続され、他端側(下流端)は、前記連係系統40における戻り側の配管41に接続されている。濃度センサSを通して集められた無害化処理すべきNO
2ガスは、ポンプP3の吸引によって、HNO
3変換部51およびフィルタ52を通過して無害化され、該ポンプP3からクリーンルームRに戻される。
【0028】
HNO
3変換部51は、滅菌処理後のガスに含まれるNO
2をHNO
3に変換する。この変換を行うために、HNO
3変換部51には、オゾン(O
3)を発生するオゾン発生器と、水(H
2O)を供給するための水分導入器とを備えている。HNO
3変換部51を通過するNO
2ガスにO
3およびH
2Oが加えられることで、前記ガスはHNO
3を含むガスに化学的に変換される。
【0029】
フィルタ52は、ガス中のHNO
3を吸着するフィルタである。このフィルタ52としては、たとえばセラミック製のハニカム構造を備えた基材に、硝酸吸着性のコーティング層を施したフィルタを用いることができる。ポンプP3は、HNO
3変換部51およびフィルタ52を適正に機能させることができる負圧で、前記クリーンルームRからNO
2ガスを吸引するとともに、NO
2ガスの生成時に使用されるポンプP1,P2の流量に比べて、無害化処理する際の流量をアップさせるために設けられている。なお、HNO
3の除去は、フィルタ吸着以外の手法が用いられてもよい。また、NO
2ガスの無害化には、溶媒への溶解等、他の手法が用いられてもよい。
【0030】
前述のように、複数のクリーンルームRは、それぞれ任意の広さに形成され、部屋内に収納される機器の占有スペース等の影響で、NO
2ガスを充填すべき容積も任意である。各クリーンルームRには、空気より重いNO
2ガスの導入や、無害化したガスのリターン用のために、上部にはガス導入孔が、下部にはガス排出孔が各々設けられている。
【0031】
各クリーンルームR1、R2・・・Rnのガス導入孔は、電磁弁RV11、RV21・・・RVn1(弁装置)を介して、配管11に接続されている。配管11は、前記連携系統40の配管41に接続されている。また、各クリーンルームR1〜Rnのガス排出孔は、電磁弁RV12、RV22・・・RVn2(弁装置)を介して、配管12に接続されている。配管12は、前記連携系統40の配管42に接続されている。
【0032】
したがって、対を成す電磁弁RV11〜RVn1;RV12〜RVn2が、「開」となったクリーンルームR1〜Rnには、前記ガス供給装置30のポンプP1によって送り出されるNO
2ガス、または浄化装置50のポンプP3によって送り出される無害化されたガスが供給されるとともに、クリーンルームR1〜Rn内の空気や使用済みのNO
2ガスが、ポンプP2またはポンプP3によって吸い出される。
【0033】
続いて、滅菌システム1の電気的な制御構成を
図3に基づいて説明する。
図1では図示を省略しているが、滅菌システム1は、当該滅菌システム1の動作を電気的に制御するための制御装置90を備えている。制御装置90は、情報処理等を行うCPU(中央演算処理装置)を備え、該滅菌システム1の動作制御を行うべくプログラミングされたソフトウェアが実行されることで、
図3に示す機能部を具備するように動作する。制御装置90は、機能的に、全体制御部91、供給制御部93、連係制御部94、浄化制御部95およびロック制御部97を備えている。
【0034】
全体制御部91は、滅菌装置1の全体的な動作モードを管理し、各個別の制御部93、94、95、97に対して、動作モードの変更および維持を通知する制御信号を与える。濃度センサSが計測するクリーンルームR内のNO
2の濃度データ、圧力センサSP1〜SPnが計測する各クリーンルームR内の圧力データ、温度センサT1〜Tnが計測する各クリーンルームR内の温度データは、全体制御部91に入力される。全体制御部91は、これらの濃度データ、圧力データ、温度データ、図略のタイマー装置から与えられるタイムデータ等に基づいて、滅菌システム1の動作モードを管理し、各制御部93、94、95、97に、モード設定を行うとともに、必要なデータを転送する。
【0035】
供給制御部93は、前記ガス供給装置30と、クリーンルームRとの間でガスを循環させつつNO
2の濃度を高めさせてゆくように、前記ガス供給装置30を制御する。この制御のため供給制御部93は、マイクロ波供給装置70およびポンプP1に、起動または停止を制御する制御信号を与える。また、供給制御部93は、ポンプP1の回転中は、その回転数を、流量計35の計測結果に応じて制御する。こうして、供給制御部93は、NO
2ガスの生成期間中は、プラズマ発生ノズル33において安定したプラズマを発生させ、前記NO
2ガスを生成させる。また、供給制御部93は、前記クリーンルームRから導入されたガスの湿度センサ32での検出結果に応答してエアドライヤ31を駆動するとともに、エアドライヤ31の異常を監視する。
【0036】
連係制御部94は、連係系統40の電磁弁RV11〜RVn1とRV12〜RVn2とを、それぞれペアで制御する。また、連係制御部94は、ポンプP2および電磁弁V1を制御して、ガス供給装置30からのNO
2ガスを、各クリーンルームRへ、択一的に、順次切り換えて供給させる。さらに、連係制御部94は、クリーンルームRからのリターン配管42に配置された電磁弁V1を「閉」とすることで、浄化装置50による各クリーンルームRからのNO
2ガスの抜き取りを可能にする。
【0037】
このような各クリーンルームRに対するNO
2ガスの流入および流出時に、前記一対の電磁弁RV11〜RVn1;RV12〜RVn2のいずれかを選択的に「開」にして選択されているクリーンルームR内のNO
2ガスの濃度は、共通の濃度センサSによって測定される。この測定値は、前記連係制御部94、浄化制御部95およびロック制御部97に与えられる。こうして、各クリーンルームRに、共通の濃度センサSを使用することで、センサばらつきの影響を無くすことができる。
【0038】
浄化制御部95は、浄化装置50の電磁弁V2を制御するとともに、ポンプP3を制御して、各クリーンルームRからのNO
2ガスを抜き取らせ、無害化して各クリーンルームRリターンさせる。無害化処理時は、浄化制御部95は、ポンプP3を駆動し、かつ電磁弁V2を「開」として、クリーンルームRからNO
2ガスを抜き取り、N
2ガスに変換して無害化させる。浄化制御部95は、クリーンルームRからのNO
2ガスの排気時に、或る程度浄化が進んだ段階で、ガス供給装置30のポンプP1を駆動するとともに、電磁弁V1を「開」として、このガス供給装置30内に残っているNO
2ガスを一旦クリーンルームR側に放出させ、その後に該NO
2ガスを浄化装置50に取り込ませ、無害化するようにしてもよい。
【0039】
ロック制御部97は、各クリーンルームR1〜Rnの錠装置L1〜Lnの動作を制御する。錠装置L1〜Lnは、各クリーンルームR1〜Rnの図示しない出入口のドアをロックする装置である。前記ドアは、一連の滅菌処理工程中は、安全確保のために、この錠装置L1〜Lnでロックされ、不所望な人員の立ち入りが阻止される。
【0040】
図4は、前記全体制御部91が各制御部93、94、95、97の機能を使用して行う、全体的な制御動作を説明するためのフローチャートである。ステップS1では、各クリーンルームR1〜Rnに繋がる空調ダクトを閉じたり、該クリーンルームRから作業員が退避して、錠装置L1〜Lnを施錠したりするなどの前準備が行われる。全体制御部91は、ロック制御部97が錠装置L1〜Lnを施錠したことを確認して、インターロックを解除し、滅菌処理動作を実行可能とする。
【0041】
ステップS2で、全体制御部91は、浄化制御部95に対して、電磁弁V2を「閉」とさせるとともに、連係制御部94に対して、電磁弁V1を「開」とさせ、さらにポンプP2を駆動させて、ガス供給装置30とクリーンルームRとの間でガスの循環経路を形成させる。併せて、全体制御部91は、供給制御部93に対して、マイクロ波供給装置70を駆動させるとともに、ポンプP1を駆動させる。こうして各クリーンルームRの滅菌処理が行われ、ステップS3で所定時間、たとえば10時間が経過して終了と判定されるまで滅菌処理を継続する。
【0042】
滅菌処理が終了すると(ステップS3でYES)、ステップS4で、全体制御部91は、連係制御部94に対して、電磁弁V1を「閉」とさせて、浄化装置50とクリーンルームRとの間でガスの循環経路を形成させる。併せて、全体制御部91は、浄化制御部95に、電磁弁V2を「開」とさせるとともに、ポンプP1を駆動させて、滅菌処理に使用したNO
2ガスの無害化処理を行わせる。なお、後述するように、ステップS2の滅菌処理においては、初期に前記循環経路のNO
2ガスの濃度が上昇してゆき、所定の濃度に達した後は、その濃度に保たれる。従って、ステップS3での滅菌処理の終了時点で、全体制御部91は、供給制御部93に対して、マイクロ波供給装置70を既に停止させるか、そのパワーを低下させている。ポンプP1は、プラズマ発生ノズル33の電極の冷却用に、滅菌処理中は、常時運転されている。
【0043】
ステップS5では、全体制御部91は、濃度センサSの測定結果から、総てのクリーンルームRにおけるNO
2ガスの濃度が、終了判定の閾値である1ppm以下となったか否かを判断する。NO
2ガスの濃度が1ppm以下になっていないとき(ステップS5でNO)、全体制御部91はステップS4に戻って前記浄化制御部95に無害化処理を継続させる。一方、NO
2ガスの濃度が1ppm以下になっているとき(ステップS5でYES)、全体制御部91はクリーンルームRに入室可能であると判定し、無害化処理を完了と判断する。ステップS6では、全体制御部91は、ロック制御部97に錠装置L1〜Lnを解錠させたり、警告灯を消灯させクリーンルームRへの立ち入りが可能であることを報知させたりするなどして、処理を終了する。
【0044】
図5は、前記ステップS2における滅菌処理動作を詳しく説明するためのフローチャートである。滅菌処理の際、各クリーンルームRを、順に、滅菌処理を行うべき規定の濃度、たとえば前記200ppmとなるまでNO
2ガスを充填してゆくことが一般的に考えられる。しかしながら、本実施形態では、NO
2ガスを、各クリーンルームRに、順に少しずつ充填してゆく充填工程を、1巡、2巡・・・と繰り返すことで、各クリーンルームRを規定のガス濃度に至らせる。しかも、各クリーンルームRの部屋の大きさや内容物の量、すなわち実際にNO
2ガスを充填すべき容積に対応して、クリーンルームR毎に個別の充填時間を定めることで、全クリーンルームRのガス濃度をほぼ同じレベルで高めてゆく。このため、各クリーンルームRi(i=1〜n)に対して、基本の充填時間Ti(第1の時間)が、前記容積に対応して予め設定されている。
【0045】
たとえば、
図1の例では、比較的狭いクリーンルームR1,Rnには充填時間Tiとして1分、比較的広いクリーンルームR2には2分が定められている。これらの充填時間Tiは、1回の充填で各々のクリーンルームRiを充分なガス濃度に至らせることができる時間ではない。各クリーンルームRiに順次充填時間Tiの充填動作を一通り行う充填工程の1サイクルが、複数回繰り返して行われる。そして、クリーンルームRiの中で、NO
2ガス濃度が予め定める規定値に達したクリーンルーム(充填済み滅菌対象空間)があれば、そのクリーンルームを充填対象から外して、前記充填工程の1サイクルがさらに行われる。以下、このような制御方法に従った、具体的な制御フローの一例を説明する。
【0046】
ステップX1で、全体制御部91は、供給制御部93にポンプP1を駆動させるとともに、連係制御部94に、ポンプP2を駆動させ、さらに電磁弁V1を「開」とさせ、ガス供給装置30に連係系統40を連係させる。ステップX2では、全体制御部91は、クリーンルームRの部屋番号を表す変数である前記iを1に初期セットする。続いてステップX51では、全体制御部91は、i番目のクリーンルームRiのガス濃度が規定の濃度に達しているか否かを表すフラグFRiをチェックする。フラグFRiが0にリセットされている場合、すなわちクリーンルームRiが規定のガス濃度に達していないときには(ステップX51でNO)、ステップX3に移る。なお、フラグFRiは、初期は0にリセットされている。ステップX3では、全体制御部91は、部屋番号iに対応した前記充填時間Tiを設定する。
【0047】
こうして滅菌処理の準備が整うと、ステップX4で、全体制御部91は、タイマーCNT1をリセットしてスタートさせる。ステップX5では、全体制御部91は、供給制御部93にマイクロ波供給装置70を動作させてプラズマ発生ノズル33にNO
2ガスの生成を行わせる。さらに、全体制御部91は、連係制御部94に、前記部屋番号iのクリーンルームRiの電磁弁RVi1,RVi2を「開」とさせ、生成されたNO
2ガスの充填を開始する。
【0048】
ステップX6では、全体制御部91は、濃度センサSによって測定された、前記クリーンルームRiのNO
2ガス濃度のデータを取得する。ステップX7では、全体制御部91は、その測定したガス濃度が前記規定の濃度以上であるか否かを判断する。規定のガス濃度に達していないときには、全体制御部91は、タイマーCNT1の計測時間が前記充填時間Tiに達したか否かを判断し(ステップX8)、達していない場合(ステップX8でNO)には前記ステップX6に戻って、同じクリーンルームRiにNO
2ガスを充填させ続ける。
【0049】
これに対して、前記ステップX7でNO
2ガス濃度が規定の濃度以上である場合(ステップX7でYES)、全体制御部91は、ステップX9で、前記フラグFRiを1にセットする。一方、前記ステップX8で規定の充填時間Tiに達したとき(ステップX8でYES)、すなわち今回の充填時間Tiで規定の濃度に到達できなかった場合は、全体制御部91は、ステップX10で、前記フラグFRiを0にリセットする。前記ステップX9,X10からはステップX11に移り、全体制御部91は、連係制御部94に、部屋番号iのクリーンルームRiの電磁弁RVi1,RVi2を「閉」とさせ、さらに供給制御部93にマイクロ波供給装置70の停止を指示し、NO
2ガスの充填を終了する。
【0050】
なお、マイクロ波供給装置70のOFF→ONから、プラズマ発生ノズル33が安定点灯するまでの時間は、10秒程度で、充填処理に多少の遅れは生じるけれども、毎回、ステップX5で点灯、X11で消灯していても大きな問題はない。しかしながら、供給制御部93は、全体制御部91から、マイクロ波供給装置70の停止が指示されてから、所定の遅延時間が経過してから実際にマイクロ波を停止させることが好ましい。すなわち、次のクリーンルームRi+1の充填処理において、ステップX5でマイクロ波供給装置70を再び動作(ON)させるようになると、前回のクリーンルームRiの充填処理時にマイクロ波供給装置70が動作されていた場合は、連続して動作することになる。また、前述のように、滅菌処理中はポンプP1が動作されて、配管36にはガス流が生じ、プラズマ発生ノズル33の冷却が行われる。このため、マイクロ波を完全に停止させるのではなく、パワーを絞って、再点灯し易くするようにしてもよい。
【0051】
また、前記ステップX7でのガス濃度判定にあたって、閾値は、1つではなく2つ設けるようにしてもよい。例えば、フラグFRiが1にセットされている場合、つまり既に規定の濃度に到達している場合は、濃度低下を判定する閾値を低い目に設定する。フラグFRiが0にリセットされている場合、つまり規定の濃度に到達していない場合は、濃度上昇を判定する閾値を高い目に設定する。このような閾値設定を行うことで、ガス濃度判定においてヒステリシス(hysteresis)を持たせることができ、閾値付近でのプラズマの頻繁な点滅を防止し、制御を安定させることができる。
【0052】
続いて、全体制御部91は、前記変数iに1を加算して、次の部屋番号に更新する(ステップX12)。次のステップX13では、全体制御部91は、その変数iが最大の部屋番号nを超えたか否かを判断する。部屋番号nを超えていないとき(ステップX13でNO)、前記ステップX3に戻って次のクリーンルームRi+1へのNO
2ガスの充填が行われることになる。
【0053】
前記ステップX13で総てのクリーンルームR1〜RnへのNO
2ガスの充填が一巡したことが判定されると、全体制御部91は、ステップX14で、フラグFR1〜FRnから、総てのクリーンルームR1〜Rnのガス濃度が前記規定の濃度以上となっているか否かを判断する。規定の濃度に達していない部屋が残されている場合には(ステップX14でNO)、前記ステップX2に戻って、もう一巡、ガスの充填を行う。この、次の一巡のガス充填工程では、フラグFRiが0にリセットされているクリーンルームRiだけが充填対象となり、フラグFRiが1にセットされているクリーンルームRi(充填済み滅菌対象空間)については、充填対象から外される(後述のステップX51〜54の処理も参照)。
【0054】
前記ステップX14で、総てのクリーンルームR1〜Rnのガス濃度が前記規定の濃度以上の状態となっている場合(ステップX14でYES)、全体制御部91は、そのような状態となった最初のタイミングであるか否かを判定する(ステップX15)。最初のタイミングである場合(ステップX15でYES)、ステップX16で、全体制御部91は、滅菌処理の継続時間を表すタイマーCNT2をリセットしてスタートさせ、ステップX17に移る。一方、最初のタイミングでない場合(ステップX15でNO)、全体制御部91は、直接ステップX17に移る。
【0055】
ステップX17では、全体制御部91は、タイマーCNT2の計測時間が規定の滅菌処理時間T0、たとえば前記10時間に達したか否かを判断する。滅菌処理時間T0に達していない場合(ステップX17でNO)、所定時間、たとえば5分待機して(ステップX18)、前記ステップX2に戻る。これに対して、前記ステップX17で規定の滅菌処理時間T0を経過している場合(ステップX17でYES)、ステップX19で、全体制御部91は、連係制御部94に、ポンプP2を停止させるとともに、電磁弁V1を「閉」とさせて、ガス供給装置30から連係系統40を切り離し、供給制御部93にポンプP1を停止させ、処理を終了する。
【0056】
一方、前記ステップX51において、フラグFRiが1にセットされている場合(ステップX51でYES)には、全体制御部91は、ステップX52に移り、そのフラグFRiの前回判定時の状態フラグFRi_oを判定する。この状態フラグFRi_oが0、すなわち今回のステップX51での判定で始めてフラグFRiが1にセットされたとき(NO
2のガス濃度が規定の濃度に達したとき)には(ステップX52でNO)、ステップX53で、タイマーWiをリセットしてスタートさせ、ステップX12の部屋番号iの更新に移る。
【0057】
これに対して、ステップX52で状態フラグFRi_oが1、すなわち前回以前のステップX51での判定で、既にフラグFRiが1にセットされていたとき、すなわちNO
2のガス濃度が既に規定の濃度に達していたときには(ステップX52でYES)、全体制御部91は、ステップX54で、タイマーWiのカウント値が、所定の監視周期W0(第2の時間)、たとえば10分の整数m倍を超えた最初のタイミングとなったか否かを判断する。
【0058】
全体制御部91は、その整数m倍を超えた2回目以降のタイミング、或いは整数m倍の値に届かないタイミングである場合には(ステップX54でNO)、ステップX12に移る。これによって、ステップX51,X52からX53またはX54を経由してステップX12に移ると、そのi番目のクリーンルームRiへのNO
2ガスの充填や、濃度測定などの総ての作業がパスされることとなり、次のi+1番目のクリーンルームRi+1の部屋指定に移る。
【0059】
一方、前記ステップX54で、監視周期W0の整数m倍を超えた最初のタイミングである場合には(ステップX54でYES)、全体制御部91は、前記ステップX5に移り、そのi番目のクリーンルームRiの電磁弁RVi1,RVi2を「開」とさせ、ステップX6で改めて濃度測定を行う。すなわち、10分、20分、30分、40分・・・を超えた最初のタイミングで、前記濃度測定が行われる。このステップX54からX5に移った際は、プラズマ点灯が行われなくてもよく、また通常通り点灯して、僅かなNO
2ガスが供給されても問題はない。
【0060】
以上説明した通り、本実施形態の滅菌システム1は、比較的広い複数のクリーンルームRを滅菌対象空間とする。全体制御部91は、連係系統40を制御して、前記複数の各クリーンルームRを、各々のクリーンルームRi毎に定められた充填時間Ti(第1の時間)ずつ、択一的にガス供給装置30へ順次連通し、NO
2ガスを少しずつ充填させる充填工程を実行させる。全てのクリーンルームRiに対するガス充填が一巡すると、全体制御部91は、上記と同様な次巡の充填工程を実行させる。前記ガス充填の際、全体制御部91は、濃度センサSによって検出されるNO
2ガスの濃度を監視し、規定の濃度になるとそのクリーンルームRiへのガス充填を終了するとともに、次巡以降の充填工程では当該クリーンルームRiを充填対象から外す(ステップX51−X52−X53,X54−X12)。従って、各クリーンルームRiを、均等に、かつ効率良く滅菌処理することができる。
【0061】
また、本実施形態の滅菌システム1では、前記充填時間Tiが、各クリーンルームRiの容積に対応して予め設定されるので(ステップX3)、それらの容積に差があっても、充填工程における循環の各サイクルで、均等に濃度を高めてゆくことができる。
【0062】
さらに、各クリーンルームRiのNO
2ガス濃度を、共通の配管12を介して同じ濃度センサSで測定することで、前記各クリーンルームRiの大きさ(容量)が不揃いな場合にも、高い精度で均一の濃度に充填することができる。
【0063】
また、滅菌システム1は、濃度センサSが共通の配管12に配置されている。このため、充填対象から外されたクリーンルームは、その外されている間はNO
2ガスの濃度が検出されないことになる。しかし、本実施形態では、全体制御部91は、そのようなクリーンルームに対して、予め定める第2の時間である所定の監視周期W0の整数m倍のタイミング毎に、そのクリーンルームを連係系統40に接続して、濃度センサSに濃度検出を行わせる(ステップX54)。これによって、クリーンルームRの壁面や収容物に吸収されるなどして、当該クリーンルームRのNO
2ガスの濃度が前記規定の濃度より下がっても、それを確実に検知して、ガス濃度を均一に保ち、確実な滅菌処理を行うことができる。本件発明者の実験結果によれば、クリーンルームの広さが100m
3、フレームの材質がアルミニウム、壁の材質が塩化ビニルの場合、ガス濃度は1時間当り2%低下する。実際のクリーンルームでは、これ以上の低下が見込まれる。
【0064】
さらに、本実施形態の滅菌システム1では、前記ガス供給装置30と、連係系統40と、クリーンルームRとは、閉空間を形成する。前記ガス供給装置30は、該閉空間内のガス、すなわち主に空気を原料ガスとして、プラズマによって前記NO
2ガスを生成する。このため、圧の調整や外気の導入といった複雑な構造を必要とすること無く、NO
2ガスの濃度を高めることができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば下記(1),(2)の変形実施形態を取ることができる。
【0066】
(1)上記実施形態では、マイクロ波供給装置70およびプラズマ発生ノズル33を用いて、空気をプラズマ化することで滅菌ガスを生成する例を示した。これに代えて、2つの電極間にアーク放電を生じさせることでプラズマを発生させる方法を採用してもよい。
【0067】
(2)上記実施形態では、クリーンルームR内を常圧で滅菌処理を行う例を示したが、減圧した状態で滅菌処理を行うようにしてもよい。
【0068】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0069】
本発明の一局面に係る滅菌システムは、
滅菌処理を行うべき複数の滅菌対象空間と、
前記滅菌処理に使用する二酸化窒素ガスを生成するガス供給源と、
前記ガス供給源と滅菌対象空間との間に介在される配管および弁装置と、
前記滅菌対象空間の二酸化窒素ガス濃度を検出するセンサと、
前記弁装置を制御して、前記複数の滅菌対象空間の各々を、予め定める第1の時間ずつ択一的に前記ガス供給源へ連通し、各滅菌対象空間へ前記二酸化窒素ガスを順次充填させる一巡の充填工程を繰り返し行わせるものであって、前記センサによって、充填中の滅菌対象空間の二酸化窒素ガス濃度が予め定める濃度に達したことが検出されると、次巡以降はその滅菌対象空間を前記充填の対象から外して前記充填工程を行わせる制御装置と、を備える。
【0070】
上記の構成によれば、滅菌処理を行うべき滅菌対象空間に、ガス供給源で生成された二酸化窒素(NO
2)ガスを充填して滅菌処理を行う滅菌システムにおいて、滅菌対象空間が複数設けられている場合に、制御装置が、以下のように各滅菌対象空間への二酸化窒素ガスの充填を制御する。すなわち、前記ガス供給源と滅菌対象空間との間には配管および弁装置が介在されており、制御装置がその弁装置を制御するにあたって、前記複数の滅菌対象空間を予め定める第1の時間だけ、択一的かつ循環的に前記ガス供給源へ連通し、二酸化窒素ガスを少しずつ充填させる。その充填の際、制御装置は、センサで検出される二酸化窒素ガスの濃度を監視しており、充填中の滅菌対象空間の濃度が予め定める濃度、たとえば200ppmになると、その滅菌対象空間への充填を終了するとともに、次巡以降の充填工程の際に、充填対象から外す。したがって、比較的広い前記複数の滅菌対象空間を、均等に、かつ効率良く滅菌処理することができる。
【0071】
上記構成において、前記複数の滅菌対象空間は、容積が異なるものであり、前記第1の時間は、各滅菌対象空間の容積に対応して、滅菌対象空間毎に設定されることが望ましい。この構成によれば、複数の滅菌対象空間の容積に差があっても、充填工程における循環の各サイクルで、均等に濃度を高めてゆくことができる。
【0072】
また、前記複数の滅菌対象空間は、共通の配管を介して前記ガス供給源に接続され、前記センサは、前記共通の配管に設けられることが望ましい。この構成によれば、各滅菌対象空間の二酸化窒素ガス濃度を、同じセンサで測定することになる。したがって、各滅菌対象空間へ、二酸化窒素ガスを、高い精度で均一に充填することができる。
【0073】
また、前記制御装置は、前記予め定める濃度に達して前記充填の対象から外している滅菌対象空間に対して、予め定める第2の時間毎に前記センサに二酸化窒素ガス濃度を検出させることが望ましい。
【0074】
充填中の滅菌対象空間の二酸化窒素ガス濃度が一旦予め定める濃度に達すると、以降はその滅菌対象空間は充填対象から外される。このため、センサが共通の配管に設けられていると、充填対象から外されている間は濃度が検出されなくなる。したがって、該滅菌対象空間の壁面や収容物に吸収されるなどして、二酸化窒素ガスの濃度が前記予め定める濃度より下がっても、それを検知できない。そこで、前記制御装置が、予め定める第2の時間毎に、前記センサに二酸化窒素ガス濃度を検出させることで、各滅菌対象空間の二酸化窒素ガス濃度を均一に保ち、確実に滅菌処理を行うことができる。
【0075】
上記構成において、前記ガス供給源と、配管および弁装置と、滅菌対象空間とは、閉空間を形成し、前記ガス供給源は、該閉空間内のガスを原料ガスとして、プラズマによって前記二酸化窒素ガスを生成することが望ましい。
【0076】
上記の構成によれば、滅菌用の二酸化窒素ガスを生成するガス供給源として、前記閉空間内のガス、すなわち主に空気を原料ガスとして、プラズマによって二酸化窒素ガスを生成する。したがって、圧の調整や外気の導入といった複雑な構造を必要とすること無く、二酸化窒素ガス濃度を高めることができる。
【0077】
本発明の他の局面に係る滅菌システムにおけるガスの充填方法は、
滅菌処理を行うべき複数の滅菌対象空間へ、前記滅菌処理に使用する二酸化窒素ガスを充填する方法であって、
前記複数の滅菌対象空間の各々に、予め定める第1の時間ずつ択一的に前記二酸化窒素ガスを順次充填させる一巡の充填工程を行い、
前記複数の滅菌対象空間の二酸化窒素ガス濃度を求め、前記二酸化窒素ガス濃度が予め定める濃度に達している充填済み滅菌対象空間を特定し、
前記充填済み滅菌対象空間を除いた前記複数の滅菌対象空間の各々に、予め定める第1の時間ずつ択一的に前記二酸化窒素ガスを順次充填させる一巡の充填工程をさらに行う。
【0078】
この方法によれば、比較的広い前記複数の滅菌対象空間を、均等に、かつ効率良く二酸化窒素ガスを充填させることができる。
【0079】
この場合、前記充填済み滅菌対象空間に対して、予め定める第2の時間毎に二酸化窒素ガス濃度を検出する工程を含むことが望ましい。