(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886869
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】メチルフェニデート塩酸塩の低温合成
(51)【国際特許分類】
C07D 211/34 20060101AFI20160303BHJP
A61K 31/445 20060101ALN20160303BHJP
A61P 25/00 20060101ALN20160303BHJP
【FI】
C07D211/34
!A61K31/445
!A61P25/00
【請求項の数】43
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-543902(P2013-543902)
(86)(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公表番号】特表2014-503530(P2014-503530A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】IB2011003140
(87)【国際公開番号】WO2012080834
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2013年7月24日
(31)【優先権主張番号】61/424,424
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510288884
【氏名又は名称】ローズ テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ハントリー,シー.,フレデリック,エム.
(72)【発明者】
【氏名】カタイスト,エリック,ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】ラ ルミエール,ニコラス,ダッドリー
(72)【発明者】
【氏名】レイシュ,ヘルジ,アルフレッド
【審査官】
瀬下 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0135777(US,A1)
【文献】
特表2001−508791(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0179327(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/067783(WO,A1)
【文献】
Deutsch HM et al,J Med Chem,1996年,Vol.39,p.1201-1209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 211/34
A61K 31/445
A61P 25/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルフェニデートまたはその塩の調製のための方法であって、
(a)リタリン酸またはその塩、および
(b)メタノールを
(c)酸触媒の存在下で、
反応混合物中、45℃未満の反応温度で反応させて、メチルフェニデートまたはその塩を含む生成物混合物を得ることを含み、
(d)前記反応を開始した後に、式R2C(OR3)3
(式中、R2は、水素またはアルキルであり、R3は、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリールおよびアラルキルからなる群から選択される)
のオルトエステルを添加することをさらに含む、前記方法。
【請求項2】
前記リタリン酸の塩が、トレオリタリン酸塩酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メチルフェニデートの塩が、トレオメチルフェニデート塩酸塩である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸触媒が、有機酸または無機酸である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸触媒が、硫酸(H2SO4)、リン酸(H3PO4)、塩化水素(HCl)、および臭化水素(HBr)からなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応温度が、43℃未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応温度が、40℃未満である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応温度が、10℃から45℃までである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応温度が、10℃から40℃までである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記反応温度が、20℃から45℃までである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記反応温度が、20℃から40℃までである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応温度が、30℃から45℃までである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応温度が、30℃から40℃までである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記反応温度が、35℃から45℃までである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記反応温度が、35℃から40℃までである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
リタリン酸:メタノールの比が、1:10から1:100モル当量までである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
リタリン酸:メタノールの比が、1:10から1:38モル当量までである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
リタリン酸:メタノールの比が、1:20から1:100モル当量までである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
リタリン酸:メタノールの比が、1:20から1:38モル当量までである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
リタリン酸塩酸塩:メタノールの比が、1:9から1:86モル当量まで、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
リタリン酸塩酸塩:メタノールの比が、1:17から1:33モル当量までである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
リタリン酸:酸触媒の比が、1:1.1から1:9モル当量までである、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
リタリン酸塩酸塩:酸触媒の比が、1:0.1から1:8モル当量までである、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
R3が、メチルである、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記オルトエステルが、オルトギ酸トリメチルまたはオルト酢酸トリメチルである、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記反応が、共溶媒の存在下で起こる、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記共溶媒が、酢酸エステル、ケトン、エーテル、芳香族溶媒、および直鎖または分岐C4〜20アルカンからなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記共溶媒が、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記オルトエステルが、リタリン酸またはその塩の、メチルフェニデートまたはその塩への95%の転化の後に加えられる、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記オルトエステルが、リタリン酸またはその塩の、メチルフェニデートまたはその塩への99%の転化の後に加えられる、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
リタリン酸:オルトエステルの比が、1:1.1から1:10モル当量までである、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
リタリン酸:オルトエステルの比が、1:1.1から1:2.5モル当量までである、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
リタリン酸:オルトエステルの比が、1:1.8から1:10モル当量までである、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
リタリン酸:オルトエステルの比が、1:1.8から1:2.5モル当量までである、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
リタリン酸塩酸塩:オルトエステルの比が、1:0.1から1:9モル当量までである、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記酸触媒が、HClであり、HCl:オルトエステルの比が、1:0.8から1:10モル当量までである、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記酸触媒が、HClであり、HCl:オルトエステルの比が、1:0.8から1:2モル当量までである、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記メチルフェニデートまたはその塩を前記生成物混合物から単離するステップをさらに含む、請求項1から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記単離ステップが、(i)前記生成物混合物を冷却することにより、(ii)前記メチルフェニデートもしくはメチルフェニデート塩が低い溶解性を有する溶媒を、前記生成物混合物に加えることにより、(iii)前記生成物混合物から前記メタノールの少なくとも一部を除去することにより、(iv)前記生成物混合物に結晶化シードを加えることにより、または(v)(i)から(iv)を任意に組合せることにより行なわれる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記単離ステップが、前記メチルフェニデートまたはその塩が溶液から沈殿するように、前記メチルフェニデートまたはその塩が低い溶解性を有する溶媒を、前記生成物混合物に加えることを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記溶媒が、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、イソブタノール、n−ブタノール、t−アミルアルコール、シクロペンタノール、酢酸エステル、ケトン、エーテル、芳香族溶媒、および直鎖または分岐C4〜20アルカンからなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記溶媒が、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、イソブタノール、n−ブタノール、t−アミルアルコール、シクロペンタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項40または41に記載の方法。
【請求項43】
(i)前記溶媒を加えると同時に、前記生成物混合物から前記メタノールの少なくとも一部を除去することをさらに含む、または、(ii)前記溶媒を加える前に、前記生成物混合物から前記メタノールの少なくとも一部を除去することをさらに含む、請求項40から42のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルフェニデート塩酸塩の調製のためのプロセスについて記載している。このプロセスは、低温における酸触媒の存在下でのリタリン酸とメタノールとのエステル化反応を伴う。このプロセスは、場合によってオルトエステルの添加を伴うことができる。
【背景技術】
【0002】
メチルフェニデート(MPD)およびメチルフェニデート塩酸塩は、注意欠陥多動性障害を有する子供の治療のために広く使用されている治療薬である。メチルフェニデートは、2つのキラル炭素原子を含有し、従って、スキーム1に示されているようにメチルフェニデートの4つの異性体が可能である。初期の製剤は、4つの異性体、d−トレオメチルフェニデート、l−トレオメチルフェニデート、d−エリトロメチルフェニデート、およびl−エリトロメチルフェニデート全てを含有した。Markowitz, J.S.ら、Pharmacotherapy 23:1281〜1299(2003年)。これらのエリトロ異性体は、それらの副作用との関連によって、その後、製剤から除去された。
【0003】
【化1】
【0004】
2002年にd−トレオメチルフェニデート塩酸塩(デクスメチルフェニデート塩酸塩、Focalin(登録商標))が導入されるまで、メチルフェニデートの全ての販売される形態は塩酸塩の形態のd−トレオメチルフェニデートとl−トレオメチルフェニデートとの50:50のラセミ混合物(Ritalin(登録商標)、Concerta(登録商標)、Metadate(登録商標)、およびMethylin(登録商標))であった。2007年に、ラセミ体のdl−トレオメチルフェニデートを含有する経皮吸収型貼付剤(Daytrana(登録商標))がFDAにより承認された。
【0005】
注意欠陥多動性障害の精神療法効果、ならびに望ましくない昇圧作用および食欲不振作用は、主にd−鏡像異性体にある。Eckerman, D.A.ら、Pharmacol. Biochem. Behav. 40:875〜880(1991年)。しかしながら、抗うつ剤としてのl−トレオ−メチルフェニデートを開発する最近の努力に照らすと、ラセミ製剤のl−トレオ−メチルフェニデート異性体は必ずしも不活性成分に相当しない可能性がある。Rouhi, A.M.、Chem. Eng. News 81:56〜61(2003年)。
【0006】
メチルフェニデートは、主としてエステル分解によって不活性の代謝産物のリタリン酸(RA)に代謝させられる。dl−トレオメチルフェニデートの経口投与量の約60〜81%が、エステル分解した代謝産物dl−トレオリタリン酸として尿中に排出される。Patrick, K.S.、J. Med. Chem.24:1237〜1240(1981年)。
【0007】
トレオメチルフェニデートの調製のための原材料としてのトレオおよびエリトロ−α−フェニル−2−ピペリジンアセトアミドのラセミ混合物を調製するための合成方法が、米国特許第2,507,631号、第2,838,519号、第2,957,880号、および第5,936,091号、ならびにPCT国際特許公開番号WO01/27070に記載されている。これらの方法は、2−クロロピリジン中での塩素のフェニルアセトニトリルとの求核置換反応における塩基としてナトリウムアミドを使用し、それに続いて、形成されたニトリルの加水分解すること、ならびに、PtO
2触媒による水素化によってピリジン環をピペリジン環に還元して、トレオリタリン酸のエピマー化、加水分解およびエステル化にその後かけられるエリトロに富むα−フェニル−2−ピペリジンアセトアミドを得ることを含む。別法では、2−ブロモピリジンが、2−クロロピリジンの代わりに使用され得る。Deutsch, H.M.ら、J. Med. Chem. 39:1201〜1209(1996年)。
【0008】
メチルフェニデートのd−トレオ鏡像異性体を調製するためのいくつかの方法が文献に記載されている。酵素的分割は、米国特許第5,733,756号に記載されている。再結晶/結晶化法および酵素的分割は、PCT国際特許公開番号WO98/25902に開示されている。
【0009】
米国特許第2,957,880号は、対応するエリトロ異性体のアミド誘導体の分割、トレオ異性体への転化、その後のアミドの対応する酸への加水分解、および得られた酸のメタノールによるエステル化を含む手順を記載している。米国特許第6,242,464号において、d−トレオ鏡像異性体は、ジアロイル酒石酸、好ましくはジトルオイル酒石酸を用いてラセミ体のトレオメチルフェニレートを分割することにより調製されている。米国特許第6,121,453号において、このd−トレオ鏡像異性体は、(−)−メントキシ(menthoxy)酢酸を用いてラセミ体のトレオメチルフェニレートを分割することにより調製されている。
【0010】
Prashad, M.ら、Tetrahedron: Asymmetry 9:2133〜2136(1998年)は、塩化水素ガスを含むメタノール中45〜50℃で16時間にわたるリタリン酸のエステル化について記載している。塩化水素ガスによる遊離塩基の処理は、後に結晶化が続いて、d−トレオメチルフェニデート塩酸塩が16%の収率で得られた。
【0011】
Prashad, M.ら、J. Org. Chem. 64:1750〜1753(1999年)は、塩化水素ガスが加えられているメタノール中のtert−ブチルオキシオキシカルボニルで保護されたd−トレオリタリン酸の50℃で15時間にわたるエステル化について記載している。この反応から、d−トレオメチルフェニデート塩酸塩が、70%の収率で得られた。
【0012】
米国特許出願公開第2005/0171155号は、還流下、塩化水素ガスで飽和した約20モル当量のメタノール中でのdl−リタリン酸のエステル化について記載している。この反応からdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩が、37%の収率で得られた。
【0013】
米国特許出願公開第2006/0135777号は、二段階発熱プロセスにおいてトルエン中の塩化チオニルおよび触媒としてのジメチルホルムアミドを用いるd−トレオリタリン酸塩酸塩のメタノールとのエステル化について記載している。その粗生成物を精製して所望のd−トレオメチルフェニデート塩酸塩が、73%の収率で得られた。
【0014】
米国特許出願公開第2010/0179327号は、アミノ酸エステル、例えばメチルフェニデートなどの調製について記載している。この参考文献は、トレオ−α−フェニル−α−(2−ピペリジニル)酢酸、メタノール中のHCl、およびトリメチルオルトアセテートを加熱還流(60℃より上の温度)させてメチルフェニデートを形成する反応について記載している。91.7〜98.5%の転化率および42.2〜95.0%の収率が報告されている。
【0015】
リタリン酸をエステル化してメチルフェニデート塩酸塩にするためのより実用的で経済的なプロセスに対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
一実施形態において、本発明は、メチルフェニデートまたはその塩の調製のための方法において、
(a)リタリン酸またはその塩、および
(b)メタノールを
(c)酸触媒の存在下で、
反応混合物中、45℃未満の反応温度で反応させて、メチルフェニデートまたはその塩を含む生成物混合物を得ることを含む方法を提供する。
【0017】
一実施形態において、リタリン酸の塩は、トレオリタリン酸塩酸塩である。
【0018】
一実施形態において、メチルフェニデートの塩は、トレオメチルフェニデート塩酸塩である。
【0019】
一実施形態において、酸触媒は、塩化水素である。
【0020】
一実施形態において、この反応温度は、45℃未満、好ましくは43℃未満、より好ましくは42℃未満、最も好ましくは40℃未満である。別の実施形態において、この反応温度は、約10℃から約45℃まで、または約10℃から約43℃まで、または約10℃から約42℃まで、または約10℃から約40℃まで、または約20℃から約45℃まで、または約20℃から約43℃まで、または約20℃から約42℃まで、または約20℃から約40℃まで、または約20℃から約30℃まで、または約30℃から約45℃まで、または約30℃から約43℃まで、または約30℃から約42℃まで、または約30℃から約40℃まで、または約35℃から約45℃まで、または約35℃から約43℃まで、または約35℃から約42℃まで、または約35℃から約40℃までの範囲である。
【0021】
一実施形態において、リタリン酸:メタノールの比は、約1:10から約1:100モル当量までである。別の実施形態において、リタリン酸塩酸塩:メタノールの比は、約1:9から約1:86モル当量までである。
【0022】
一実施形態において、リタリン酸:酸触媒の比は、約1:1.1から約1:9モル当量までである。別の実施形態において、リタリン酸塩酸塩:酸触媒の比は、約1:0.1から約1:8モル当量までである。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、
(d)反応を開始した後に、式
R
2C(OR
3)
3
(式中、
R
2は、水素またはアルキルであり、そして
R
3は、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリールおよびアラルキルからなる群から選択される)
のオルトエステルを添加することをさらに含む、上述の反応に従ってメチルフェニデートまたはその塩を調製するための方法を提供する。
【0024】
一実施形態において、R
3は、アルキルであり、好ましくは、メチルである。
【0025】
一実施形態において、オルトエステルは、オルトギ酸トリメチルである。別の実施形態において、オルトエステルは、オルト酢酸トリメチルである。
【0026】
一実施形態において、この方法は、反応混合物中で反応を化学的に妨げることのない共溶媒を含めることをさらに含む。ある実施形態において、共溶媒は、酢酸エステル、ケトン、エーテル、芳香族溶媒、および高級アルカン類、例えばC
4〜20の直鎖または分岐アルカン、好ましくは、C
5〜10の直鎖または分岐アルカンからなる群から選択される。ある実施形態において、この共溶媒は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチルt−ブチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、トルエン、キシレン、ヘプタン、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0027】
一実施形態において、オルトエステルは、リタリン酸またはその塩のメチルフェニデートまたはその塩への約95%の転化の後に、または約98%の転化の後に、または約99%の転化の後に加えられる。
【0028】
一実施形態において、リタリン酸:オルトエステルの比は、約1:1.1から約1:10モル当量まで、好ましくは約1:1.1から約1:6モル当量までである。
【0029】
別の実施形態において、リタリン酸塩酸塩:オルトエステルの比は、約1:0.1から約1:9モル当量まで、好ましくは約1:0.9から約1:5モル当量までである。
【0030】
別の実施形態においては、バッチの仕上げ用濾過がオルトエステルの添加後に行なわれる。
【0031】
別の実施形態において、上述のメチルフェニデートまたはその塩を調製するための方法は、メチルフェニデートまたはその塩を生成物混合物から単離することをさらに含む。メチルフェニデートまたはその塩は、メチルフェニデートまたはその塩が溶液から沈殿することを引き起こす標準的技術を用いて、例えば、(i)生成物混合物を冷却することにより、(ii)メチルフェニデートもしくはメチルフェニデート塩が低い溶解性を有する溶媒を、生成物混合物に加えることにより、(iii)生成物混合物からメタノールもしくはメタノール共溶媒混合物の少なくとも一部を除去することにより、(iv)生成物混合物に結晶化シードを加えることにより、または(v)(i)から(iv)を任意に組合せることにより、単離することができる。
【0032】
一実施形態において、単離ステップは、この生成物混合物に、メチルフェニデートまたはメチルフェニデート塩が低い溶解性を有する溶媒(即ち逆溶剤)を添加することによって行なわれ、その溶媒は、酢酸エステル、ケトン、エーテル、芳香族溶媒、および高級アルカン類、例えばC
4〜20の直鎖または分岐アルカン、好ましくはC
5〜10の直鎖または分岐アルカンからなる群から選択される。かかる溶媒の非限定的な例は、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−アミルアルコール、シクロペンタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0033】
別の実施形態において、単離ステップは、上述した溶媒を加えると同時に、生成物混合物中に存在する反応溶媒(例えば、共溶媒を含むまたは含まないメタノール)の少なくとも一部を除去することによって行なわれる。
【0034】
別の実施形態において、単離ステップは、上述した溶媒を加える前に、反応溶媒(例えば、共溶媒を含むまたは含まないメタノール)の少なくとも一部を除去することによって行なわれる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】25℃、40℃および60℃における72時間後の1.57Mおよび3.13Mの塩化水素のメタノール溶液中の水の重量百分率を示す。
【
図2】60℃におけるリタリン酸のエステル化と比較した40℃におけるリタリン酸のエステル化のグラフ解析である。
【
図3a】オルトギ酸トリメチルが、(a)40℃での反応の初めに加えられた場合の、リタリン酸(RA)のメチルフェニデート(MPD)へのエステル化のグラフ解析である。
【
図3b】オルトギ酸トリメチルが、(b)60℃での反応の初めに加えられた場合の、リタリン酸(RA)のメチルフェニデート(MPD)へのエステル化のグラフ解析である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、リタリン酸とメタノールとを酸触媒の存在下でエステル化するためのプロセスを提供する。このエステル化反応における低温の使用は、安定している反応混合物における予想外に高い転化率および収率を提供することが見出されている。安定した反応混合物は、長時間(即ち50時間以上)にわたって、リタリン酸に戻る顕著な加水分解を示さない。
【0037】
用語「低温」とは、45℃未満、好ましくは43℃未満、より好ましくは42℃未満、最も好ましくは40℃未満の温度を意味する。用語の「低温」は、また、約10℃から約45℃まで、好ましくは約10℃から約43℃まで、より好ましくは約10℃から約42℃まで、より一層好ましくは約10℃から約40℃まで、または約20℃から約45℃まで、好ましくは約20℃から約43℃まで、より一層好ましくは約20℃から約42℃まで、より一層好ましくは約20℃から約40℃まで、最も好ましくは約20℃から約30℃まで、または約30℃から約45℃まで、好ましくは約30℃から約43℃まで、より好ましくは約30℃から約42℃まで、より一層好ましくは約30℃から約40℃まで、または約35℃から約45℃まで、好ましくは約35℃から約43℃まで、より好ましくは約35℃から約42℃まで、より一層好ましくは約35℃から約40℃までの範囲の温度を意味する。本発明のプロセスは、この温度範囲で行なわれ、それは、一般的には還流点(60℃より上の温度)または還流点に近い温度(約50℃〜約60℃)で進める既知のエステル化プロセスと比較して「低い」。
【0038】
用語「約」は、与えられた数プラスまたはマイナス1〜10%を意味するように本明細書で使用される。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「塩」は、開示されている化合物の全ての塩を包含することを意味する。塩の例としては、無機塩および有機塩が挙げられる。例えば、塩としては、酢酸、アスパラギン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アキセチル、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重炭酸、重硫酸、重酒石酸、酪酸、エデト酸カルシウム、カンシル酸、炭酸、クロロ安息香酸、クエン酸、エデト酸、エジシル(edisylic)酸、エストール(estolic)酸、エシル(esylic)酸、ギ酸、フマール酸、グルセプト酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、グリコリルアルサニル酸、ヘキサミン酸、ヘキシルレゾルシノール酸、ヒドラバミン酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、メチル硝酸、メチル硫酸、粘液酸、ムコン酸、ナプシル酸、硝酸、シュウ酸、p−ニトロメタンスルホン酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、一水素リン酸、二水素リン酸、フタル酸、ポリガラクトウロン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、スルファミン酸、スルファニル酸、スルホン酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸およびトルエンスルホン酸等の酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、塩は塩酸塩である。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される塩」とは、本発明の化合物の酸付加塩または塩基付加塩であって、そのような塩のそれぞれが、それが投与される対象およびそれが投与される状況にある対象に対して、何らの有害なまたは望ましくない効果を与えない親化合物の活性を保持しており、或いは薬学的剤形の一部としてヒトに投与されるとき、薬学的に安全で且つ有効である塩として認められるものを指す。薬学的に許容される塩としては、酢酸、アスパラギン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アキセチル、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重炭酸、重硫酸、重酒石酸、酪酸、エデト酸カルシウム、カンシル酸、炭酸、クロロ安息香酸、クエン酸、エデト酸、エジシル(edisylic)酸、エストール(estolic)酸、エシル(esylic)酸、ギ酸、フマール酸、グルセプト酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、グリコリルアルサニル酸、ヘキサミン酸、ヘキシルレゾルシノール酸、ヒドラバミン酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、メチル硝酸、メチル硫酸、粘液酸、ムコン酸、ナプシル酸、硝酸、シュウ酸、p−ニトロメタンスルホン酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、一水素リン酸、二水素リン酸、フタル酸、ポリガラクトウロン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、スルファミン酸、スルファニル酸、スルホン酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸およびトルエンスルホン酸等の酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、薬学的に許容される塩は塩酸塩である。
【0041】
本明細書で採用される場合、用語「アルキル」とは、直鎖および分岐C
1〜C
10アルキル基、好ましくはC
1〜C
4アルキル基を指す。典型的なC
1〜C
10アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、ヘプチル、1−メチルヘキシル、2−エチルヘキシル、1,4−ジメチルペンチル、オクチル、ノニルおよびデシルが挙げられる。好ましい実施形態において、アルキルはメチルである。
【0042】
本明細書で採用され場合、用語「ハロアルキル」とは、1つまたは複数の水素原子がハロゲンによって置換されている本明細書で定義されているアルキル置換基を指す。典型的なハロアルキル基としては、クロロメチル、1−ブロモエチル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、トリクロロメチルおよび1,1,1−トリフルオロエチルがとりわけ挙げられる。
【0043】
本明細書で採用され場合、用語「シクロアルキル」とは、3個から10個まで、好ましくは3個から8個まで、最も好ましくは3個から6個までの炭素原子を含んでいる飽和環状アルキルを指す。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書で採用され場合、用語「アリール」とは、環部分に6個から14個までの炭素を含んでいる単環式、二環式または三環式芳香族基を指す。典型的なアリール基としては、フェニル、p−トリル、4−メトキシフェニル、4−(tert−ブトキシ)フェニル、3−メチル−4−メトキシフェニル、4-フルオロフェニル、4−クロロフェニル、3−ニトロフェニル、3−アミノフェニル、3−アセトアミドフェニル、4-アセトアミドフェニル、2−メチル−3−アセトアミドフェニル、2−メチル−3−アミノフェニル、3−メチル−4−アミノフェニル、2−アミノ−3−メチルフェニル、2,4−ジメチル−3−アミノフェニル、4−ヒドロキシフェニル、3-メチル−4−ヒドロキシフェニル、1−ナフチル、3−アミノ−ナフチル、2−メチル−3−アミノ−ナフチル、6-アミノ−2−ナフチル、4,6−ジメトキシ−2−ナフチル、インダニル、ビフェニル、フェナントリル、アントリルおよびアセナフチルが挙げられる。
【0045】
本明細書で採用される場合、用語「アラルキル」とは、水素原子と置換されているベンジル、フェニルエチルまたは2−ナフチルメチル等のアリール置換基を有する直鎖および分岐両方のC
1〜C
8アルキル基を指す。
【0046】
特に指摘されていない限り、「リタリン酸」および「メチルフェニデート」と言う場合、各化合物の全ての4つの光学異性体をそれぞれ含む。特定の異性体が考慮されるとき、その異性体は、例えば、d−トレオメチルフェニデートまたはl−トレオメチルフェニレートのように具体的に示される。組み合わされたトレオ異性体は、単純に「トレオ」として、または「dl−トレオ」リタリン酸もしくは「dl−トレオ」メチルフェニデートとして示すことができる。
【0047】
本発明のプロセスは、さまざまな実施形態において、リタリン酸またはその塩を、共溶媒を含んでいるか含んでいないメタノールと酸触媒の存在下で反応させるステップを含む。好ましい実施形態において、メタノールは、5重量%未満、好ましくは1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満、より一層好ましくは0.1重量%未満の水分含量を好ましくは有する、乾燥メタノールまたは無水メタノールである。
【0050】
dl−トレオおよびd−トレオリタリン酸のエステル化は、スキーム2および3にそれぞれ説明されている。第一ステップのプロトン移動は、非常に急速に起こり、酸性の反応条件下で不可逆である。第二ステップのメタノールとのエステル化は、形成されるエステル1当量当たり1当量の水の形成の下で起こる。このエステル化反応は可逆的であり、限定条件下でその反応は平衡に達する。この平衡は、例えば、メタノール濃度を増すことおよび/または反応混合物から水を取り除くことによって生成物の方へシフトする。しかしながら、反応中の水濃度の増加は平衡が出発材料の方へ戻るシフトをもたらし、その結果、部分エステル加水分解を生じる。水は平衡を出発材料の方へシフトするので、その反応は、メタノール中の無水塩化水素により好ましくは実施する。しかしながら、無水塩化水素はメタノールと反応し、塩化メチルおよび水を形成する。この塩化水素分解の速度は、主として反応温度に依存し、塩化水素濃度にはそれほど依存せず、高温においてその分解速度は増して水がより速く形成される。それ故、より高温で行なわれるエステル化反応は、塩化水素の分解によって形成された追加の水のために出発材料の方への平衡シフトをもたらし、従って、結局のところ、時間と共に、より低い温度で行なわれた反応と比較してリタリン酸のメチルフェニデートへのより低い転化をもたらすことになる。
【0051】
過剰量のメタノールが、反応において一般的に使用される。一実施形態において、リタリン酸およびメタノールは、リタリン酸:メタノールの比が、約1:10から約1:100モル当量まで、好ましくは約1:10から約1:55モル当量まで、より好ましくは約1:10から約1:38モル当量までの範囲で一緒に加えることができる。他の好ましい実施形態は、約1:20から約1:100モル当量まで、好ましくは約1:20から約1:55モル当量まで、より好ましくは約1:20から約1:38モル当量までの範囲のリタリン酸:メタノールの比を使用する。別の実施形態において、このリタリン酸:メタノールの比は、約1:15、1:20、1:25、1:30、1:35または1:45モル当量である。
【0052】
別の実施形態において、リタリン酸塩酸塩およびメタノールは、リタリン酸塩酸塩:メタノールの比が、約1:9から約1:86モル当量まで、好ましくは約1:9から約1:47モル当量まで、より好ましくは約1:17から約1:33モル当量までの範囲で一緒に加えることができる。別の実施形態において、リタリン酸塩酸塩:メタノールの比は、約1:13、1:17、1:21、1:30、1:39または1:44モル当量である。
【0053】
酸触媒は、反応に触媒作用を及ぼす十分な量で使用する。酸触媒は、反応の副生成物として生成する水のための脱水剤または乾燥剤としての役目も果たすことができる。酸触媒は、有機酸または無機酸であり得る。そのような酸としては、硫酸(H
2SO
4)、リン酸(H
3PO
4)、塩化水素(HCl)および臭化水素(HBr)が挙げられるが、これらに限定されない。酸触媒の好ましい実施形態は、塩化水素または臭化水素であって、塩化水素が最も好ましい酸触媒である。酸触媒は、HCl等のガスを反応混合物中に泡立たせることによって導入することができる。酸触媒はまた、リタリン酸またはリタリン酸塩酸塩の添加に先立って、塩化チオニルまたは塩化アセチルなどの酸塩化物を、アルコールを含有する混合物に加えることによって所定位置で発生させることもできる。本開示に照らして、当業者であれば、エステル化反応に触媒作用を及ぼすことができ、その反応を化学的に妨げないこれらのおよびその他の類似の酸に精通しているであろう。
【0054】
一実施形態において、リタリン酸および酸触媒は、約1:1.1から約1:9モル当量まで、好ましくは約1:2から約1:6モル当量までの範囲のリタリン酸:酸触媒の比で一緒に添加される。別の実施形態において、リタリン酸:酸触媒の比は、約1:1.1、1:2、1:3、1:4、1:4.5、1:5、1:5.5または1:6モル当量である。
【0055】
別の実施形態において、リタリン酸塩酸塩および酸触媒は、約1:0.1から約1:8モル当量まで、好ましくは約1:1.7から約1:5.2モル当量までの範囲のリタリン酸塩酸塩:酸触媒の比で一緒に添加される。別の実施形態において、リタリン酸塩酸塩:酸触媒の比は、約1:0.1、1:1.7、1:2.6、1:3.4、1:3.9、1:4.3、1:4.7または1:5.2モル当量である。
【0056】
いくつかの実施形態において、反応混合物は、反応を化学的に妨げないさらなる非反応性の共溶媒を含むことができる。ある実施形態において、共溶媒は、酢酸エステル、ケトン、エーテル、芳香族溶媒、および高級アルカン類、例えばC
4〜20の直鎖または分岐アルカン、好ましくはC
5〜10の直線状または分岐したアルカンからなる群から選択される。非反応性共溶媒の非限定的な例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチルt−ブチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、トルエン、キシレン、ヘプタン、およびそれらの混合物が挙げられる。非反応性共溶媒の好ましい例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジブチルエーテル、アニソール、トルエン、ヘプタン、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0057】
一実施形態において、本発明のプロセスは、反応混合物へのオルトエステルの添加のステップをさらに含む。このオルトエステルは、反応混合物から水および塩化水素を除去し、それによってHClとメタノールとの間の反応からさらなる水が形成されない安定な混合物を形成する役目を果たす。いくつかの実施形態において、オルトエステルは、式R
2C(OR
3)
3(式中、R
2は、水素またはアルキル、好ましくは水素またはメチルであってよく、R
3は、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル、好ましくはC
1〜C
4アルキルであってよい)であることを特徴とする。一実施形態において、オルトエステルは、オルトギ酸トリメチルである。別の実施形態においてオルトエステルは、オルト酢酸トリメチルである。
【0058】
一実施形態において、オルトエステルは、約1:1.1から約1:10モル当量まで、好ましくは約1:1.1から約1:6モル当量まで、より好ましくは約1:1.1から約1:4モル当量まで、より一層好ましくは約1:1.1から約1:2.5モル当量までの範囲のリタリン酸:オルトエステルの比で反応混合物に加えることができる。別の実施形態において、リタリン酸:オルトエステルの比は、約1:1.8から約1:10モル当量まで、好ましくは約1:1.8から約1:6モル当量まで、より好ましくは約1:1.8から約1:4モル当量まで、より一層好ましくは約1:1.8から約1:2.5モル当量までの範囲内である。別の実施形態において、リタリン酸:オルトエステルの比は、約1:1.1、1:1.5、1:2、1:3、1:4、1:4.5、1:5、1:5.5または1:6モル当量である。
【0059】
別の実施形態において、オルトエステルは、約1:0.1から約1:9モル当量まで、好ましくは約1:0.9から約1:5モル当量までの範囲内のリタリン酸塩酸塩:オルトエステルの比でこの反応混合物に加えることができる。別の実施形態において、リタリン酸塩酸塩:オルトエステルの比は、約1:0.1、1:1.3、1:1.7、1:2.6、1:3.4、1:3.9、1:4.3、1:4.7または1:5モル当量である。
【0060】
オルトエステルの量は、反応の開始時には、遊離の酸触媒、好ましくはHClの量に対して正比例している。一実施形態において、オルトエステルは、約1:0.8から約1:10モル当量、好ましくは約1:0.8から約2モル当量まで、より好ましくは約1:0.8から約1:2モル当量までの範囲の酸触媒:オルトエステルの比でこの反応混合物に加えることができる。別の実施形態において、酸触媒:オルトエステルの比は、約1:0.8、1.1、1:1.5、1:2、1:3、1:4、1:5または1.6モル当量である。一実施形態において、オルトエステルは、約1:0.8から約1:10モル当量まで、好ましくは、約1:0.8から約1:2モル当量までの範囲のHCl:オルトエステルの比でこの反応混合物に加えることができる。別の実施形態において、HCl:オルトエステルの比は、約1:0.8、1.1、1:1.5、1:2、1:3、1:4、1:5、または1.6モル当量である。
【0061】
メチルフェニデート反応において、塩化水素の塩化メチルおよび水への分解は、転化率に影響を及ぼし得る。この分解プロセスをさらに理解するために、新たに調製した塩化水素メタノール溶液を24時間にわたって観察し、水分含量をカールフィッシャー滴定によって測定した(
図1参照)。
図1に示されているように、60℃で72時間後、3.13Mの塩化水素のメタノール溶液中の水の量は、10.7重量%であり、1.57Mの塩化水素のメタノール溶液中の水の量は、7.7重量%であった。この水分含量の増加は、リタリン酸に戻る平衡の飛躍的なシフトを引き起こすことが予想される。その効果は、より高温においてはより激しい。対照的に、40℃での72時間後には、4.9重量%の水が、3.13Mの塩化水素のメタノール溶液中で形成され、1.92重量%の水が、1.57Mの塩化水素のメタノール溶液中で形成された。さらに、25℃での72時間後には、その水分含量は1.5重量%(3.13M)および0.6%(1.57M)であった。それ故、
図1に明示されているように、形成される水の量は、温度および塩化水素濃度に依存し、より低温においてはより高い塩化水素濃度が許容され、より低い塩化水素濃度ではより高い温度が許容され得る。
【0062】
水分含量はエステル化平衡に影響を及ぼすことが予想されるので、40℃では反応は遅いが60℃での反応と比較してより高い転化率まで進行するはずであると言う仮説が立てられた。この仮説を試験するために、2つの反応が、40℃および60℃で他は同じ条件の下で行なわれた。
【0063】
図2に示されているように、60℃で行なわれた反応は、約5時間後に最大の転化率に達した。60℃で約5時間後、平衡反応の転化率は、メチルフェニデートが、それが形成されるよりも速い速度で加水分解されるために逆戻りした。対照的に40℃で行なわれた反応は、少なくとも50時間安定である99%の転化をもたらした。上で論じたように60℃で行なわれる反応は、メタノール中の塩化水素の劣化(水および塩化メチルを形成する)によってより多くの水の形成をもたらし、望ましい生成物から離れた反応の平衡にシフトする結果となる。
【0064】
商業規模での生産は、最大数日までの延長されたホールドおよびプロセス時間を課す可能性があるため、長時間にわたって反応が行なわれるかまたは生成物が保持される場合に安定なままである高い転化率を達成し維持する反応混合物をもたらすプロセスを使用することが非常に望ましい。その上、高い転化率(例えば98%超)は、生成物を精製する追加ステップの必要性を減少する。精製ステップの追加は、収率を低下するだけでなくプロセスステップおよび時間も追加することになり、それは大規模で行なわれるときにはコストを著しく増大させることになり得る。
【0065】
エステル化反応の速度は、反応温度および塩化水素濃度に依存し、より高温およびより高い塩化水素濃度において反応速度は増大する。反対に、より低い温度で行なわれるエステル化反応は、より遅い反応速度をもたらす。
【0066】
より高い温度(50℃超)では、反応速度は高いが、形成された混合物は長時間(例えば約48から約144時間)にわたって安定ではなく、一方、低温(10℃未満)では、反応混合物は長時間にわたって安定であるが、非常に遅い反応速度で進行する。
【0067】
好ましいプロセス条件下では、その反応速度は、エステルの加水分解をプロセスの遅れの可能性を補償するために十分な低速に保ちながらプロセス時間を最小にする十分な速さである。
【0068】
一般に、反応条件は、45℃未満、または43℃未満、または42℃未満、または40℃未満の温度で反応することを含む。反応条件は、また、約0℃から約45℃未満まで、または約5℃から約45℃未満まで、または約5℃から約40℃まで、または約10℃から約45℃未満まで、または約10℃から約43℃まで、または約10℃から約40℃まで、または約20℃から約45℃未満まで、または約20℃から約43℃まで、または約20℃から約40℃まで、または約10℃から約30℃まで、または約20℃から約30℃まで、または約30℃から約45℃未満まで、または約30℃から約43℃まで、または約30℃から約40℃までの温度を含むことができる。
【0069】
図1で見られるように、反応温度とHClの濃度とは関連づけられる。一実施形態において、反応温度は約5℃から約15℃までであり、HCl濃度は約4Mから約10Mまでであり、または約5℃から約40℃までであり、HCl濃度は約1.3Mから約10Mまでである。
【0070】
別の実施形態において、反応温度は約15℃から約25℃までであり、HCl濃度は約3Mから約8Mまでであり、または約20℃から約40℃までであり、HCl濃度は、約2Mから約6Mまでである。
【0071】
別の実施形態において、反応温度は約25℃から約35℃までであり、HCl濃度は約2Mから約6Mまでであり、または約10℃から約30℃までであり、HCl濃度は約3Mから約10Mまでである。
【0072】
別の実施形態において、反応温度は約35℃から約45℃までであり、HCl濃度は約1.3Mから約5Mまでであり、または約20℃から約30℃までであり、HCl濃度は約3Mから約6Mまでである。
【0073】
別の実施形態において、反応温度は約30℃から約40℃までであり、HCl濃度は約1.3Mから約6Mまでであり、好ましくは約2Mから約6Mまでである。
【0074】
反応は、リタリン酸またはその塩のメチルフェニデートまたはその塩への転化を達成するために必要な任意の長さの時間進行させることができる。一実施形態において、その反応は約0.5から約100時間にわたって継続する。別の実施形態において、その反応は約4から約72時間にわたって継続する。別の実施形態において、その反応は約6から約48時間にわたって継続する。別の実施形態において、その反応は約15から約30時間にわたって継続する。
【0075】
本発明の別の態様において、エステル化反応の初めのオルトエステルの添加はメチルフェニデートへの転化を抑制することが意外にも見出されている。オルトエステルは、形成される水と反応するだけでなく酸触媒とも反応する。それ故、反応の初めのオルトエステルの添加は、反応物から酸触媒を除去する。
図3は、反応が(a)40℃対(b)60℃で行なわれるときの反応の初めのオルトギ酸トリメチルの添加の結果を示している。実証されたように、反応の初めに添加されたオルトギ酸トリメチルとの反応はどちらの温度においても非常に小さい転化を示し、付加的な副生成物が60℃で発生した。
【0077】
リタリン酸のオルトギ酸トリメチル(TMOF)またはオルト酢酸トリメチル(TMOA)とのエステル化において発生する副生成物が、スキーム4に明らかにされている。リタリン酸の量に対して過剰量のオルトエステルの使用は、その過剰のオルトエステルが、形成されたメチルフェニデートと(反応の終わりに加えられた場合)またはリタリン酸と(反応の初めに加えられた場合)のどちらかと反応することを可能にする。形成された副生成物は、収率を低下させ、さらなる精製ステップに対する必要性をもたらし得る。
【0078】
この問題を克服するために、オルトエステルは、好ましくは反応が始まった後に添加する。一実施形態において、オルトエステルは、反応が約0.2〜約50時間継続した後にその反応混合物に加える。別の実施形態において、オルトエステルは、反応が約0.5から約25時間継続した後に反応混合物に加える。別の実施形態において、オルトエステルは、反応が約3〜約20時間継続した後に、好ましくは反応が約20時間継続した後に反応混合物に加える。
【0079】
ある実施形態において、オルトエステルの添加後、その反応は、約0.2から約120時間にわたって、または約0.5から約25時間にわたって、または約1.0から約20時間にわたって、または約3から約10時間にわたって、または約2から約24時間にわたって継続される。
【0080】
別の実施形態において、このオルトエステルは、メチルフェニデートまたはメチルフェニデート塩を形成するために、反応が、約90%転化、または約95%転化、または約98%転化、または約99%転化、または約99.1%転化に到達した後に反応混合物に加える。メチルフェニデートまたはメチルフェニデート塩への転化パーセントを測定するための方法は技術的に知られており、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の使用が挙げられる。
【0081】
オルトエステルの添加後、混合物は、不溶性の粒子を除去するために仕上げの濾過をすることができる。
【0082】
エステル化プロセスに続いて、メチルフェニデートまたはメチルフェニデート塩は、反応混合物から本開示に応じた技術的に既知の通常の方法によって単離することができる。いくつかの実施形態において、メチルフェニデートの単離は、粗生成物の沈殿または結晶化を必要とする可能性がある。これは、例えば、生成物混合物を十分に冷却してメチルフェニデートもしくはメチルフェニデート塩を沈殿させることによるか、またはメチルフェニデートもしくはその塩が低い溶解性を有する溶媒(即ち「逆溶剤」)を加えることによるか、または生成物混合物中のメタノールをメチルフェニデートもしくは塩が低い溶解性を有する溶媒と部分的もしくは完全に置き換えることによる等の技術的に既知の任意の方法、或いはそのような方法の組合せによって達成することができる。精製のさらなるステップとしては、例えば再結晶化などを実施することもできる。
【0083】
一実施形態において、メチルフェニデートまたはその塩は、オルトエステルの添加後に部分的な溶媒交換を用いて生成物混合物から単離する。特定の実施形態において溶媒(逆溶剤)は、酢酸エステル、ケトン、エーテル、芳香族溶媒、および高級アルカン類、例えばC
4〜20の直鎖または分岐アルカン、好ましくはC
5〜10の直鎖または分岐アルカンからなる群から選択される。溶媒交換のための適切な溶媒(逆溶剤)の非限定的な例としては、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−アミルアルコール、シクロペンタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、およびそれらの混合物が挙げられる。好ましい溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジブチルエーテル、アニソール、トルエン、ヘプタン、およびそれらの混合物が挙げられる。適切な溶媒の添加後、残留メタノールの全てまたは一部をその反応混合物から除去することができる。メタノールは、大気圧または減圧下で蒸留によって除去することができる。一実施形態において、メタノールは約70℃で大気圧で除去される。別の実施形態においてメタノールは約40℃で減圧下で除去される。逆溶剤は、蒸留プロセス中に並行して、またはメタノールの一部がすでに除去された後に加えることができる。蒸留プロセスは、1回または数回繰り返して行なうことができ、または生成物は、逆溶剤の添加直後に単離することができる。
【0084】
生成物混合物中に存在するメチルフェニデート塩は、当分野で知られている従来の方法を用いてメチルフェニデートの遊離塩基に転化させることができる。メチルフェニデートの遊離塩基は、当分野で知られている従来の方法を用いて薬学的に許容されるメチルフェニデートの塩に順次転化させることができる。
【0085】
本発明により製造されたメチルフェニデートおよびその薬学的に許容される塩は、そのような治療を必要としている対象に、経口、口腔粘膜、頬側、経皮、鼻腔内、舌下、膣内、直腸内、非経口または局所投与法を含めた任意の標準的な投与法によって投与することができる。本発明のプロセスに従って製造されたメチルフェニデートおよびその薬学的に許容される塩は、注意欠陥多動性障害(ADHD)およびナルコレプシーを含めたメチルフェニデートまたはその薬学的に許容される塩の投与によって治療可能であることが当分野で知られている状態を治療するために対象に投与することができる。メチルフェニデートおよびその薬学的に許容される塩は、当分野で知られている投薬量および投与方式に従って投与することができる。投薬量は、1日当たり約0.01mgから約75mgまでの範囲であり得る。一実施形態において、メチルフェニデートまたはその薬学的に許容される塩は、単回または分割投与で1日当り5、10または20mgの投薬量で投与することができる。別の実施形態においては、1日に体重1kg当り約0.001mgから約10mgの範囲である投与量レベルが採用される。しかしながら、投薬量の変化は、治療を受ける対象の年齢、体重および状態、薬剤に対する対象の個人的反応、製剤処方のタイプおよび選択された投与の経路、ならびにそのような投与が行なわれる期間および間隔によって起こり得る。場合によっては、前述の下限値を下回る投与量レベルが十分以上であり得、一方、別の場合では、より一層大きい用量を、そのようなより大きい用量を、1日を通して投与するためにいくつかの小さい用量に最初に分けることを条件として、何らの有害な副作用を引き起こすことなく使用することができる。
【0086】
本発明によって製造されたメチルフェニデートおよびその薬学的に許容される塩は、単独で、または一つもしくは複数の薬学的に許容されるキャリアもしくは希釈剤と組合せて任意の以前に示したいくつかの経路のどれかによって投与することができる。より詳しくは、メチルフェニデートおよびそれの薬学的に許容される塩は、多種多様の異なる剤形のどれかで投与することができ、これらは、数ある形の中でも、錠剤、カプセル剤、経皮吸収型貼付剤、菓子錠剤、トローチ剤、ハードキャンデー、粉末剤、噴霧剤、クリーム剤、膏薬、座剤、ゼリー剤、ゲル剤、ペースト剤、ローション剤、軟膏剤、水性懸濁剤、注射剤、エリキシル剤、シロップ剤の形をしたさまざまな薬学的に許容される不活性なキャリアのどれかであり得る。そのようなキャリアは、固体の希釈剤または充填剤、無菌の水性媒体およびさまざまな毒性のない有機溶媒を含むことができる。経口の医薬品組成物は、適切に甘み付けおよび/または風味付けをすることができる。一般に、メチルフェニデートおよびその薬学的に許容される塩は、そのような剤形中に約5%から約70重量%までの範囲の濃度レベルで存在する。
【0087】
本発明により製造されたメチルフェニデートおよびそれの薬学的に許容される塩は、また、別の活性薬剤との組合せで投与することもできる。
(実施例)
【0088】
本発明を一般的に記述してきたところで、本発明は、説明のみを目的としており特段の断りがない限り限定することは意図されていない本明細書に提示される以下の実施例を参照することにより理解されるであろう。
【実施例1】
【0089】
塩化水素、オルトギ酸トリメチル、および逆溶剤としてのイソプロパノールによる41〜42℃でのdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成:
60.88gのdl−トレオリタリン酸に、メタノール(200mL)およびHCl源としてのHClガス(30.4g、3.0当量)を加えた。41〜42℃で20時間後、HPLCにより測定した転化率は99.1%であった。オルトギ酸トリメチル(2.0当量)を一括で加えた。41〜42℃で3.5時間と室温で19時間後、その反応混合物の上澄み液は、カールフィッシャー滴定により測定して、水が0.34%であった。HPLCにより測定された転化率は、99.8%であった。その生成物混合物を、イソプロパノール(200mL)を同時に加えながら、19.9〜21.3kPa(150〜160トル)で蒸留した。沸点は37〜39℃であり、その間ポット温度は40〜43℃であった。190mLの留出物を3.5時間かけて集めた。その反応混合物を30分間2℃に冷却し、濾過し、そしてイソプロパノールで洗浄した(3×75mL)。濾過した固体を60℃で乾燥して白色固体としてdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩を得た(68.99g、収率92.0%)。HPLC分析は、99.9%超の純度を示した。得られた反応混合物は、50時間を超えて安定(99%を超える転化率)であった。
【実施例2】
【0090】
実施例1のプロセスを、41〜42℃の代わりに20℃で用いるdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成。得られた反応混合物は、6日を超えて安定(99%を超える転化率)であった。
【実施例3】
【0091】
実施例1のプロセスを、3当量の代わりに5当量の塩化水素により、および41〜42℃の代わりに20℃で用いるdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成。得られた反応混合物は、6日を超えて安定(99%を超える転化率)であった。
【実施例4】
【0092】
実施例1のプロセスを、3当量の代わりに6当量の塩化水素により、および41〜42℃の代わりに20℃で用いるdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成。得られた反応混合物は、6日を超えて安定(99%を超える転化率)であった。
【実施例5】
【0093】
実施例1のプロセスを、3当量の代わりに2当量の塩化水素により、および41〜42℃の代わりに30℃で用いるdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成。得られた反応混合物は、6日を超えて安定(99%を超える転化率)であった。
【実施例6】
【0094】
実施例1のプロセスを、3当量の代わりに6当量の塩化水素により、および41〜42℃の代わりに30℃で用いるdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成。得られた反応混合物は、6日を超えて安定(99%を超える転化率)であった。
【実施例7】
【0095】
塩化水素、オルトギ酸トリメチル、および逆溶剤としてのイソプロパノールによる19〜20℃でのdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成:
乾燥メタノール(250mL)に塩化水素ガス(33.85g)を20〜25℃で充満した。その溶液をメタノール(50mL)で希釈し、dl−トレオリタリン酸(50.88g、4当量)を加えた。19〜20℃で5日間撹拌した後、HPLCにより測定した転化率は99.86%であった。オルトギ酸トリメチル(76mL、3当量)を加え、その反応物を40℃で2時間加熱した。真空蒸留を、19.9〜26.7kPa(150〜200トル)で、38〜42℃のポット温度により行なった。留出物を、3つの留分にして各留分間に100mLの乾燥イソプロパノールを加えて集めた。その反応混合物を20℃に冷却し、濾過し、そしてイソプロパノールで洗浄した(2×100mL)。得られた白色固体を真空乾燥オーブン中、室温で一晩乾燥して、白色結晶性固体としてdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩を得た(58.77g、収率93.9%、HPLC純度99.98%)。
【実施例8】
【0096】
塩化水素、オルトギ酸トリメチル、および逆溶剤としてのトルエンによる41〜42℃でのdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成:
50.47gのdl−トレオリタリン酸に、メタノール(200mL)およびHCl源としてのHClガス(25.2g、3当量)を加えた。41〜42℃で20時間後、HPLCによる転化率は99.1%であった。オルトギ酸トリメチル(2当量)を一括で加えた。41〜42℃で1時間後、その上澄み液は、カールフィッシャー滴定により測定して、水が0.09%であった。HPLCにより測定された転化率は、99.5%であった。その反応物は、41〜42℃でさらに1時間そのまま撹拌した。その反応混合物を、トルエン(200mL)を同時に加えながら、29.3〜30.6kPa(220〜230トル)で蒸留した。沸点は37〜39℃であり、その間ポット温度は39〜41℃であった。210mLの留出物を2.5時間かけて集めた。その留出物は、
1H NMR分析によると、メタノール:トルエンが、4.56モル:1モル(重量%で61:39)であった。反応混合物を2℃に1時間冷却し、濾過し、そしてトルエンで洗浄(3×50mL)した。濾液(合計344mL)は、約10mLのオレンジ色の底層を有する二相であった。上層は、
1H NMRによると微量のメタノールを含むトルエンであった。底層は、微量の生成物を含む5モル:1モルのメタノール:トルエンであった。固体を60℃で乾燥して白色固体(51.09g、収率91.5%)を得た。HPLC分析は、99.8%の純度を示した。その濾液(底層)は、トルエンおよびその他の微量の不純物を含む99.5:0.5のメチルフェニデート:リタリン酸を示した。
【実施例9】
【0097】
塩化アセチル/メタノールによる42〜44℃でのdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成:
塩化アセチル(137mmol)を、メタノール(35mL)中に加えた。dl−トレオリタリン酸(10.0g、45.6mmol)を加え、その反応物を42〜44℃で20時間加熱した。HPLCは、99%超の転化率を示した。メタノールで希釈し、蒸留し、そして冷却することにより、99.8%の純度を有する10.86g(88%)のdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩を得た。
【実施例10】
【0098】
40℃および55℃でのエステル化プロセスの比較:
実施例1の反応混合物の2つの10mLのアリコートを2時間の加熱後に取り出した。このアリコートを、密閉したバイアル中、反応ブロック上で加熱した。一番目は40℃でのコントロールであり、二番目は55℃で加熱した。2時間後、40℃に加熱したバイアルの転化率は87.6%であり、55℃に加熱したバイアルの転化率は94.6%であった。20時間後、40℃に加熱したバイアルの転化率は99.5%であり、55℃に加熱したバイアルの転化率は97.8%であった。55℃に加熱したバイアルは、20時間後にそれを開けるとき、著しい圧力の増加(MeClの形成)を示した。表1は、40℃および55℃で行なわれた反応に対するメチルフェニデートへの転化率を比較している。表1に示されているように55℃の反応は、最初は速いが20時間後には40℃で行なった反応より低い最大転化率の結果となる。
【0099】
【表1】
【実施例11】
【0100】
40℃および60℃でのエステル化プロセスの比較:
4.6MのHClメタノール溶液を、気体のHClをメタノール中に加えることによって調製し、17.55重量%のHClおよびカールフィッシャー滴定によって測定して0.06重量%の水を含有する原液を得た。4つの20mLのバイアルに12mLのその原液を加えた。2つのバイアルには4.04g(0.184モル)のリタリン酸を入れ、2つのバイアルはブランクとして使用した。リタリン酸を含む1つのバイアルと1つのブランクは40℃に加熱し、他の2つのバイアルは60℃に加熱した。
図2に示されているように、60℃での反応は、より速いけれども40℃での反応より低い最大転化率の結果となった。HPLCによると、60℃の反応は、約9時間後に約98.5%の最大転化率に到達した。その後、その転化率は、増加するエステルの加水分解により、48時間後には約94%まで低下した。40℃の反応は、約24時間後に約99.6%の最大転化率に到達し、次の24時間の間は極わずかなエステルの加水分解を示すのみで、99.5%の転化率で終わった。
【実施例12】
【0101】
反応の初めにおけるオルトギ酸トリメチルの添加の影響:
4.6MのHClメタノール溶液を、気体のHClをメタノール中に加えることによって調製し、17.55重量%のHClおよびカールフィッシャー滴定によって測定して0.06重量%の水を含有する原液を得た。4つの20mLのバイアルに8mLのその原液を加えた。2つのバイアルには2.69g(0.123モル)のリタリン酸を入れ、2つのバイアルはブランクとして使用した。リタリン酸を含む1つのバイアルと1つのブランクは40℃に加熱し、他の2つのバイアルは60℃に加熱した。
図3に示されているように、反応の初めに加えられたオルトギ酸トリメチルを含む反応は、いずれの温度においても非常に小さい転化率を示した。少量の転化がオルトギ酸トリメチルを加える前の短時間の間に起こった可能性がある。望ましくない副反応である、リタリン酸およびメチルフェニデートがオルトギ酸トリメチルとホルムアミドを形成する反応が、特に60℃の反応において観察された。
【実施例13】
【0102】
反応の初めにおけるオルトギ酸トリメチルの添加の影響:
反応の開始時のオルトギ酸トリメチル(TMOF)の添加を、リタリン酸の量に対して1.25、2.5、および5.0当量のTMOFで評価した。オルトギ酸トリメチルを、2.1当量のHCl(3mL/gの濃度)を含む温度が40℃の反応混合物に加えた。表2において見られるように、24時間後、転化率は、1.25当量のTMOFを使用して64%であり、2.5および5.0当量のTMOFについては両方共8%であった。この結果は、反応の初めにおけるTMOFの添加が、エステル化反応の大幅な抑制を引き起こしたことを示した。これは、HClがTMOFと反応してその反応における試薬としてのHClの減量をもたらしていることを示したことになる。より少ないHClの存在により、エステル化反応は相当に減速された。
【0103】
【表2】
【実施例14】
【0104】
塩化水素、オルト酢酸トリメチル、および仕上げ用濾過のための逆溶剤としてのイソプロパノールによるdl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成:
乾燥メタノール(234.6mL)に塩化水素(26.74g)を加えた。その溶液をメタノール(85.5mL)で希釈し、53.61gのdl−トレオリタリン酸を加えた(6容積量のメタノール中3当量のHCl)。40℃で21.5時間撹拌した後、HPLCによって測定した転化率は99.00%超であった。オルト酢酸トリメチル(61.5mL、2当量)を、10分かけて加え、5分間で完全な溶解を達成した。40℃で2時間撹拌した後、混合物を仕上げ用濾過に付し、30mLのメタノールですすぎ、きれいな反応容器中に戻した。HPLCは、99.35%の転化率を示した。真空蒸留を38〜42℃のポット温度で19.9kPa(150トル)で3.5時間にわたって行なった。留出物を3つの留分にして、各留分間に107mLのイソプロパノールを加えて収集した。周囲温度で一晩撹拌した後、反応混合物を2〜5℃に60分間冷却し、濾過し、イソプロパノールで洗浄した(2×100mL)。材料を真空オーブン中60℃で2.5時間乾燥し、dl−トレオメチルフェニデート塩酸塩の白色結晶固体(61.09g、92.6%、99.90%のHPLC純度)を得た。
【実施例15】
【0105】
塩化水素、オルトギ酸トリメチル、および逆溶剤としてのイソプロパノールによるd−トレオメチルフェニデート塩酸塩の合成:
乾燥メタノール(200mL)に、20〜25℃で15分間かけて塩化水素(13.6g、373mmol、2.2当量)を加えた。この溶液に、d−トレオリタリン酸塩酸塩(43.2g、169mmol、1.0当量)を一括して加え、次いでさらなるメタノール(23mL、遊離塩基に基づき6容積量の総メタノール)を加えた。反応物を35℃で27時間加熱し、その時点でHPLCによる転化率は98.81%であった。28時間後、オルトギ酸トリメチル(40.7mL、372mmol、2.2当量)を加え、反応物を40℃で1時間そのまま撹拌した。反応混合物を真空中で蒸留し(119mLの留出物が収集された)、そしてイソプロパノール(100mL)を加えた。反応混合物をさらに蒸留し(65mLの留出物が収集された)、イソプロパノール(95mL)を加えた。反応混合物をさらに蒸留し(25mLの留出物が収集された)、室温まで冷却した。室温で3日間撹拌した後、スラリーを2℃に冷却し、濾過し、冷たい(10℃未満)イソプロパノールで洗浄し(2×100mL)、乾燥して白色固体としてエナンチオピュアなd−トレオメチルフェニデートHClを得た(43.19g、94.7%の収率、99.73%のHPLC純度)。
【0106】
本発明が完全に記述されたところで、その同じ特許は、幅広くそして同等の範囲の条件、配合およびその他のパラメーターの範囲内で、本発明の範囲またはそれの任意の実施形態に影響を及ぼすことなく実施され得ることが当業者には理解されよう。本明細書に引用された全ての特許、特許出願、および出版物は、それら全体として、本明細書に参照により完全に組み込まれる。