(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鋼板に、Fを含有しZrを主体とする化合物被膜を形成して成る缶用表面処理鋼板の製造方法であって、Zrイオン及びFイオンを含む水溶液中で陰極電解することにより、前記被膜中のZr量を80〜200mg/m2とする被膜形成工程と、缶内面側となる面の被膜にはアルカリ性水溶液を接触させると共に、缶外面となる面の被膜には温水を接触させる表面調整工程、とを有することを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属基材上に金属めっき層を設けずに、Zr,Al,Tiなどの酸素化合物を主成分とした金属酸素化合物被膜を金属基材表面に直接形成することにより、基材の耐食性を向上させる場合には、金属めっき層を設けた場合と比較して、被膜厚(被覆量)を大きくする必要がある。特に加工度の大きいシームレス缶用途においては、加工により下地の鉄が露出したり、樹脂被覆との密着性が低下しやすいため、被覆量を大きくすることによって耐食性の確保と同時に樹脂被覆との密着性を改善することが求められていた。
【0009】
また、上述のような密着性に関する課題以外に、本発明が解決しようとするもう一つの課題として、金属容器を構成する成分の内容物への溶出を防止する耐溶出性に関する課題がある。金属容器にとって、内容品の品質を維持することは、非常に重要であり、金属容器からの内容品への成分溶出には、特に注意を払う必要がある。一般に、容器構成金属材料成分の溶出の代表的例としては、腐食による鉄の溶出や、表面処理被膜中の硫酸イオンやフッ素イオン等のアニオンの溶出があり、内容物のpHや殺菌条件の他、表面処理被膜の被覆量や表面形態、或いはフィルムや塗膜等の樹脂被覆の密着性等、種々の要因に留意する必要がある。
【0010】
特許文献2には、金属めっき層上の金属酸素化合物被膜の表面を熱水で洗浄して密着性を改善する例が示してある。しかしながら、前述したように大きな被覆量が必要な場合に、表面処理特性、耐溶出性を達成するためには、従来から使用されている電解クロム酸処理鋼板に利用されている熱水洗浄では不十分である。また、金属酸素化合物被膜の形成に電解クロム酸処理ラインを転用し、従来より更に長時間の洗浄を行った場合には、表面処理ラインの操業速度が制約されたり、洗浄するための処理タンク数を増加させる他、熱水を大量に使用するなど、生産性負荷やエネルギー使用負荷の増大など、多くの課題も存在することが分かった。
【0011】
本出願人等は、このような問題を解決するために、Fを含有しZrを主体とする化合物被膜を形成した後、イオン含有水溶液を用いて該被膜中のF量を0.5〜10mg/m
2に制御して成る表面処理鋼板及びその製造方法を提案した(特願2013−197714号)。
上記表面処理鋼板及びその製造方法は、樹脂被覆の密着性、耐食性及び耐溶出性に優れた缶等を提供できるものであるが、かかる樹脂被覆表面処理鋼板を用いて成形されたシームレス缶は、レトルト殺菌処理に賦された場合の耐デント性に劣ることが分かった。すなわち、実際の缶詰製品に要求される実用的な耐衝撃性として、耐デント性と呼ばれるものがある。これは、缶詰製品が落下、或いは缶詰製品同士が相互に衝突して、缶詰製品に打痕と呼ばれる凹み(デント)が生じた場合にもなお、被覆の密着性やカバレージが完全に保たれることが要求されるという特性であり、上記シームレス缶においては、内容物が充填されレトルト殺菌処理に賦されると、デント部の缶外面側に樹脂被覆の剥離が発生することがあり、特に二酸化チタンのような無機顔料を含有する二軸延伸フィルムが樹脂被覆として使用された場合に顕著であることが分かった。
従って本発明の目的は、上述したような缶外面側のデント部に発生する樹脂被覆の剥離が有効に防止可能な表面処理鋼板及びその製造方法並びに樹脂被覆表面処理鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、Fを含有しZrを主体とする化合物被膜が形成されて成る缶用表面処理鋼板において、缶外面側となる面における前記被膜中のZr量は80〜200mg/m
2であり且つF量が12mg/m
2以上であることを特徴とする表面処理鋼板が提供される。
本発明の表面処理鋼板においては、缶内面側となる面における前記被膜中のZr量が80〜200mg/m
2であり且つF量が25mg/m
2以下であることが好適である。
本発明によればまた、上記表面処理鋼板の缶外面となる側の被膜上に、無機顔料を含む二軸延伸フィルムがラミネートされて成る樹脂被覆表面処理鋼板が提供される。
【0013】
本発明によれば更に、鋼板に、Fを含有しZrを主体とする化合物被膜を形成して成る缶用表面処理鋼板の製造方法であって、Zrイオン及びFイオンを含む水溶液中で陰極電解することにより、前記被膜中のZr量を80〜200mg/m
2とする被膜形成工程と、缶内面側となる面の被膜にはアルカリ性水溶液を接触させると共に、缶外面となる面の被膜には温水を接触させる表面調整工程、とを有することを特徴とする表面処理鋼板の製造方法が提供される。
本発明の表面処理鋼板の製造方法においては、
1.アルカリ性水溶液が、ナトリウム、アンモニウム、カリウムの少なくとも1種以上を含有し、pHが9以上であること、
2.温水が30〜70℃の温度であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面処理鋼板においては、Fを含有しZrを主体とする化合物被膜の缶外面側となる面のZr量及びF量が上記範囲に制御されていることにより、レトルト殺菌後においても缶外面側のデント部における樹脂被覆の剥離が有効に防止された、レトルト殺菌後の耐デント性に優れたシームレス缶を提供することができる。
また表面処理鋼板の缶内面側となる面のF量及びZr量を前述した範囲とすることにより、缶内面側における樹脂被覆との密着性、耐食性及び耐溶出性にも優れたシームレス缶を提供することができる。
本発明の樹脂被覆表面処理鋼板においては、特にレトルト殺菌後の缶外面側のデント部の樹脂被覆の剥離が顕著である、無機顔料を含む二軸延伸フィルムを樹脂被覆として用いた場合でも、有効にデント部の樹脂被覆の剥離が防止されている。
更に本発明の表面処理鋼板の製造方法においては、缶の内面となる面及び外面となる面のZr量及びF量が前記範囲に制御された表面処理鋼板を生産性良く製造することができる。
【0015】
本発明の作用効果は後述する実施例の結果からも明らかである。
すなわち、缶外面側のF量が上記範囲よりも小さい場合には、Zr量が上記範囲にある場合でもレトルト処理後の耐デント性に劣っており(比較例2)、一方缶外面側のZr量が上記範囲よりも少ない場合には、F量が上記範囲にある場合でもレトルト殺菌後の耐デント性に劣っている(比較例3)。これに対して、Zr量及びF量が本発明範囲にある場合には、満足するレトルト殺菌後の缶外面側の耐デント性が得られている(実施例1〜14)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(表面処理鋼板)
本発明の表面処理鋼板は、Fを含有しZrを主体とする化合物被膜が形成されて成る缶用表面処理鋼板であり、缶外面側となる面におけるこの化合物被膜中のZr量が80〜200mg/m
2であり且つF量が12mg/m
2以上であることが、前述した耐デント性を改良する上での重要な特徴である。
【0018】
本発明の表面処理鋼板に形成される、フッ素を含有しジルコニウムを主体とする化合物被膜は、ZrOx(OH)y―zFzのような非結晶性の構造をとると考えられる。この被膜は、乾燥や焼成により、脱水すると共にFが抜けて、結晶成分を多く持つ酸化被膜に変化し、更に加熱が進むと最終的にはZrO
2に近い被膜となると考えられる。しかし、通常の缶材が受ける熱履歴を越える過度の加熱は、構造変化に起因する被膜のクラックを誘発すると共に、よりセラミックスライクな被膜となるため、加工性の低下はもちろん、樹脂被覆との密着性低下を招くため好ましくない。したがって、表面処理層としては、FやOHを含有したZrOx(OH)y―zFzのような構造を保持していることが好ましい。
【0019】
本発明者等は、ZrやF等の被膜の成分量と、クロスカット耐食性、被覆樹脂との密着性、特に缶外面となる面におけるレトルト後の耐デント性の関係について研究した結果、Zr量は耐食性や密着性の観点から多いことが好適であるが、F量については缶外面となる面と缶内面となる面とでは好適な範囲が異なることを見出した。
すなわち、ジルコニウムに関しては、Zr量が少ないと表面処理被膜の欠陥部が多く存在するため、基材である鉄の溶出を起こしやすい被膜となる。鉄溶出を起こすと、アノード反応では鉄の溶出が起こるが、その対反応であるカソード反応により、被覆樹脂と金属被膜との界面でアルカリが生成する。アルカリの生成は、表面処理被膜中のフッ素溶出を加速すると共に、被覆樹脂と表面処理層との界面剥離の原因となる。
従って、缶内面となる面及び外面となる面のいずれにおいてもジルコニウム量が上記範囲を下回ると、樹脂被覆との密着性が劣るようになると共に、缶外面側となる面においてはレトルト殺菌後の耐デント性に劣るようになり、缶内面側となる面においてはクロスカット耐食性が上記範囲にある場合に比して劣るようになる。
その一方、ジルコニウム量が上記範囲よりも多くても更なる効果の向上は期待できず、経済性に劣るようになると共に、過剰なジルコニウムが陰極電解処理に用いられる通電ロール上に堆積して凹凸が形成されることにより局所的に高電圧放電が発生し、放電跡(アークスポット)等の外観不良を発生するおそれもある。
【0020】
また、フッ素に関しては、被膜中のF量が非常に大きい表面処理鋼板を金属缶用途に利用した場合、缶の内面側となる面においては、缶のレトルト殺菌時や高温保管時に、表面処理層中に余分に存在するフッ素が内容品中に溶出し、内容品の風味を損なう可能性がある。その一方、缶外面側となる面においては、F量があまり少ないと、レトルト殺菌後のデント部における樹脂被覆の剥離が生じ、耐デント性が低下する。
すなわちレトルト殺菌時における樹脂被覆の密着性の低下は、表面処理被膜成分の溶出とカソード反応によるアルカリ生成に起因し、前述したとおり、アルカリの生成は、表面処理被膜中のフッ素の溶出が加速して、表面処理層の構造変化を誘発し、被膜の凝集力低下を招くことが原因であり、特にこのような被膜の凝集力低下はレトルト殺菌後のデント部において顕著に生じることから、表面処理被膜中には一定量のFが存在することが必要になる。
このような観点から、本発明の表面処理鋼板においては、缶内面となる面と缶外面となる面で異なる表面調整処理を行うことにより、缶内面となる面においては、耐食性や密着性に影響を与えることなく、F量を低減させフッ素の溶出を抑制することができると共に、缶外面となる面においては、上記範囲のF量を含有させることにより、レトルト殺菌後のデント部の樹脂被覆の剥離を抑制することが可能になる。
【0021】
すなわち、表面処理鋼板の缶外面となる面においては、F量は12mg/m
2以上であることが必要である。その一方、F量が極端に多くても更なる効果は望めず、フッ素が溶出し、経済性に劣ることから、表面処理被膜が上記構造を維持可能なZr量に応じた量の範囲、好適には12〜40mg/m
2の範囲にあることが好適である。
また表面処理鋼板の缶内面となる面においては、前述したとおり、耐溶出性の点からF量が25mg/m
2以下であることが好適である。その一方、F量が極端に少ないと、表面処理被膜の水和による構造変化が進行し、表面処理被膜の凝集力低下による樹脂被膜との密着性や耐食性が低下することから、F量は0.5mg/m
2以上であることが好適である。
【0022】
(表面処理鋼板の製造方法)
[被膜形成工程]
本発明の表面処理鋼板の製造方法では、まず被膜形成工程において、Zrイオン、Fイオンを含む水溶液の電解処理液中で、鋼板を陰極電解することにより、鋼板の両面に、フッ素を含有しジルコニウムを主体とする化合物被膜を、Zr量が80〜200mg/m
2の範囲、及びF量が12mg/m
2以上、特に12〜40mg/m
2の範囲になるように形成する。
化合物被膜を形成後の鋼板は、電解処理液をロールで絞った後、水洗し、更に水洗水をロールで絞った後、次の表面調整工程に送られる。またロールで電解処理液を絞った後の水洗は省略することもできる。
【0023】
被膜形成工程で用いる電解処理液中のZr濃度は、1,000〜10,000ppmが好ましく、F濃度は600〜13,000ppmが好ましく、電解処理液pHは2〜5が好ましく更には2.5〜4であることがより好ましく、電解処理液温度は30〜60℃であることが好ましい。
被膜形成工程で用いる電解処理液中には、後述のように各種の化合物を添加することができるが、Zrイオン、Fイオンの他、pH調整などに用いる硝酸イオン、アンモニウムイオン、基材からの溶出成分であるFeイオンが、基本的に含まれる。
【0024】
電解処理液を構成するZrイオンを形成するための薬剤としては、特に限定されないが、たとえば、K
2ZrF
6、(NH)
2ZrF
6、(NH
4)
2ZrO(CO
3)
2、H
2ZrF
6、ZrO(NO
3)
2、ZrO(CH
3COO)
2などを用いることができる。本発明においては、上述した薬剤を、単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせ用いてもよい。
【0025】
なお、陰極電解処理によりZr化合物被膜を形成する場合には、通常、電解処理液として、上述したZrイオンに加えて、Fイオンを含有した処理液を用いることが望ましい。電解処理液にFイオンを含有させることにより、Fイオンが、電解処理液中におけるZrイオンの溶解性を高めるための錯化剤として作用し、これにより、基材上に、均一な膜厚のZr化合物を析出させることができ、そのため、被膜と有機樹脂層との密着性をより向上させることができる。
電解処理液中のFイオンが少ないと、Zrが局部的な析出を起こし、被膜中のZrの存在状態が厚い部分と薄い部分が混在し、膜厚均一性に劣る被膜となるため、結果として加工後の密着性や耐食性に劣る被膜となる。したがって、被膜形成工程において、被膜中のZr原子に対するF原子のモル比F/Zrは0.6以上となるように、被膜中のモル比F/Zrを管理する必要がある。
【0026】
電解処理液中に含有させるFイオンを形成するための薬剤としては、特に限定されないが、たとえば、フッ化ジルコニウムアンモニウム、フッ化アルミニウム、フッ化チタン、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸、フッ化カルシウム、ヘキサフルオロ珪酸、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウムなどを用いることができ、中でも水への溶解度が高い薬剤が好ましい。
【0027】
また、電解処理液には、処理液中における導電率の向上や、処理液のpH調整を目的として、Zr化合物被膜の形成を阻害しない範囲で、硝酸イオンやアンモニウムイオンなどの電解質を添加してもよい。
さらに、電解処理液には、クエン酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸などの有機酸や、ポリアクリル酸、ポリイタコン酸、フェノール樹脂などの高分子化合物などのうち、1種以上の添加物が添加されていてもよい。本発明においては、電解処理液に有機酸や、フェノール樹脂などの添加物を添加することにより、形成されるZr化合物被膜に有機酸や、フェノール樹脂などの添加物を含有させることができ、これにより、金属酸素化合物被膜の柔軟性を付与する他、有機樹脂層との密着性をより向上させることができる。さらにまた、電解処理液には、リン酸およびリン酸塩を含んでもよい。
【0028】
基材に陰極電解処理を行う場合における電流密度としては、特に限定されないが、好ましくは1〜30A/dm
2である。
なお、基材に陰極電解処理を行う場合には、通電と通電停止のサイクルを繰り返す断続電解方式を用いることが好ましく、この際においては、基材に対するトータルの通電時間(通電および通電停止のサイクルを複数回繰り返した際の合計の通電時間)は、好ましくは0.3〜30秒である。
また、基材に陰極電解処理を行う際に、基材に対して設置する対極板としては、陰極電解処理を実施している間に電解処理液に溶解しないものであれば何でもよいが、酸素過電圧が小さく電解処理液に溶解し難いという点より、酸化イリジウムで被覆されたチタン板が好ましい。
【0029】
[表面調整工程]
表面調整工程においては、上記被膜形成工程で、フッ素を含有し且つジルコニウムを主体とする化合物被膜が形成された表面処理鋼板を、缶内面側となる面の被膜にはアルカリ性水溶液を用い、缶外面となる面の被膜には温水を用いて表面調整を行う。
前述した通り、缶内面となる面においては、レトルト殺菌処理等による内容品へのフッ素等のアニオン溶出を抑制する観点から、アルカリ性水溶液を用いて化合物被膜中に過剰に存在するFを低減させる。その一方、缶外面となる面においては、内容品への耐溶出性の問題がないこと、また化合物被膜中のF量が低減されることによる、レトルト殺菌後のデント部における樹脂被覆の剥離の発生を抑制する必要があることから、被膜形成工程で形成された化合物被膜を維持することが望ましい。
このような観点から本発明においては、缶内面となる面の化合物被膜に対しては、アルカリ性水溶液を用いて表面調整を行うと共に、缶外面となる面の化合物被膜に対しては、缶内面となる面の表面調整処理に用いたアルカリ性水溶液が缶外面となる面のエッジ及びエッジ近傍等に接触してF量が部分的に低減することにより、不均一な化合物被膜になることを防止すべく、温水を缶外面となる面に接触させることにより表面調整処理を行う。
【0030】
<缶内面となる面の表面調整処理>
本発明の表面処理鋼板の缶内面となる面の表面調整処理は、アルカリ性水溶液を用い、缶内面となる面に接触させ、化合物被膜中のF量を25mg/m
2以下、特に0.5〜10mg/m
2の範囲に制御する。処理の方法は、スプレー処理、浸漬処理、陰極電解処理等を上げることができるが、内外面の表面調整処理を同時に行うことができるという点で、本発明においてはスプレー処理により行うことが好適である。
次いでアルカリ性水溶液をロールで絞った後、水洗し、更に水洗水をロールで絞った後、熱風などで乾燥することにより行う。
アルカリ性水溶液は、ナトリウム、アンモニウム、カリウムの少なくとも1種以上を含有することが望ましく、特にナトリウムが好適である。これらのイオンはアニオンであるフッ素と結合しやすく、効率的にフッ素を除去することができる。
アルカリ性水溶液中に含まれるナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンの総量は、0.001mol/L以上、好適には0.01mol/L以上、更に好適には0.02mol/L以上であることが望ましい。
【0031】
アルカリ性水溶液の調整に用いられるアルカリ性化合物としては、水に溶解する限り限定されないが、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、アンモニア、炭酸ジルコニウムアンモニウムなどを挙げることができ、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを好適に用いることができる。水酸化ナトリウムや水酸化カリウムは低濃度で高いpHを示すことから低温短時間の処理が可能であり、生産性に優れている。また2種以上のアルカリ性化合物を組み合わせで用いてもよい。
更に、表面調整用水溶液には、必要に応じて、各種の界面活性剤やキレート剤を添加することもできる。
【0032】
アルカリ性水溶液のpHは9以上で、特に11〜14の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりもpHが低いと、処理温度を高く或いは処理時間を長くしなければ充分にフッ素を除去できないおそれがあり、生産性に劣るようになる。
アルカリ性水溶液の液温は30〜70℃、特に40〜60℃の範囲にあることが望ましく、上記範囲よりも温度が高いと、化合物被膜中からのフッ素溶出が過剰になり、耐食性が低下するおそれがあり、一方上記範囲よりも温度が低いとフッ素を充分に低減することができず、耐溶出性が低下するおそれがある。
また処理時間は、アルカリ性水溶液のpH、温度或いは処理方法等によって異なり、一概に規定できないが、0.5〜5秒の範囲であることが好適である。
【0033】
<缶外面となる面の表面調整処理>
本発明の表面処理鋼板の缶外面となる面の表面調整処理は、温水を缶外面となる面に接触させることにより行い、化合物被膜中のF量を12mg/m
2以上となるように制御する。次いで温水をロールで絞った後、熱風などで乾燥する。
表面調整処理に用いる温水は、30〜70℃、特に40〜60℃の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも温度が低いと缶内面となる面の表面調整に用いるアルカリ性水溶液の裏回りを充分に洗い流すことができないおそれがあり、一方上記範囲よりも高温であると、化合物被膜中のフッ素が溶出するおそれがある。
また温水の処理時間は、0.5〜5秒の範囲であることが好適である。上記範囲よりも処理時間が長いとフッ素が溶出するおそれがあり、一方上記範囲よりも処理時間が短いと充分に洗い流すことができない。
温水は表面処理鋼板の缶外面となる面と接触し、缶内面となる面の表面調整に用いられ、裏回りしてきたアルカリ性水溶液を洗い流せる限り、スプレー処理、シャワー処理、掛け流し処理、浸漬処理等、表面処理鋼板の製造ラインに応じて種々の方法で行うことができるが、内面となる面の表面調整処理と同時に行うことができると共に、温水を表面に均一に接触させることができる点から、スプレー処理により行うことが好ましい。
【0034】
[表面調整工程後の内外面リンス]
本発明の表面処理鋼板の製造方法においては、被膜形成工程、表面調整工程を経た後、内外面の洗浄を目的としてリンスを行う。このリンスにおいては、表面調整工程を経た表面処理鋼板の被膜中のZr量及びF量を変化させない条件で行うことが望ましい。
リンスは、常温の水を用いてもよいが、リンスを2回以上行う場合には、少なくとも最終のリンスは、リンス後の表面処理鋼板の乾燥を容易にするために40〜60℃の温水を用いて実施することでき、浸漬処理またはスプレー処理等により行うことができる。上記範囲よりも高温の温水では、表面調整工程で制御されたフッ素が溶出し、F量が表面調整工程で制御した値から変化するおそれがあり、一方、上記範囲よりも低温では、冷却にエネルギーを要するため不経済である。
リンスは、表面処理鋼板の内外面を同時に洗い流すことができると共にリンス効率も良いことから、特に浸漬処理により行うことが好適である。浸漬時間は用いる温水の温度にもよるが、0.5〜5秒の範囲にあることが好適である。
リンス後、ロールで水を絞り、温風などで乾燥する。
【0035】
[製造装置]
本発明の表面処理鋼板の製造方法において、被膜形成工程、表面調整工程及びリンス工程の各工程は、表面処理鋼板の内面となる面及び外面となる面のそれぞれを別々に処理することも可能であるが、生産性の点から、鋼板の両面を同時に処理することが特に望ましい。
【0036】
(鋼板基材)
本発明の表面処理鋼板に用いる鋼板としては、例えば、アルミキルド鋼連鋳材などをベースとした熱延鋼板、これらの熱延鋼板を冷間圧延した冷延鋼板、これらの熱延鋼板や冷延鋼板にZn、Sn、Ni、Cu、Alなどを含む金属めっき層を備えた鋼板などを用いることができる。
また、Sn−Ni−Fe合金やSn−Fe合金、Ni−Fe合金などの合金層が表面の一部または表面全体に存在する鋼板を用いることもでき、これら合金層の上にSn、Niなどの金属めっき層が存在する鋼板なども用いることができる。これらのなかでも、コスト的に考えた場合には、金属めっき層を有しないか、めっき層を有していても一部に鉄露出部が表面に分散して存在している鋼板が、基材として最も好適に用いられる。
基材の厚みは、特に限定されず、使用用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは0.07〜0.4mmである。
【0037】
(樹脂被覆)
前述した通り、本発明により得られる表面処理鋼板は化合物被膜上に樹脂被覆を形成した場合に、樹脂被覆の密着性に優れており、特にレトルト処理等を施した場合にも、缶外面となる面のデント部における樹脂被覆の剥離が有効に防止されると共に、樹脂被覆に亀裂が入り、湿潤環境下で金属面が露出した場合にも腐食の進行が有効に防止される。また、缶内面となる面においては容器構成金属材料成分の溶出が抑制されている。
このような樹脂被覆を構成する樹脂としては、特に限定されず、本発明の表面処理鋼板の用途(例えば、特定の内容物を充填する缶容器などの用途)に応じて適宜選択すればよいが、各種熱可塑性樹脂から成る樹脂被覆や、熱硬化性塗料又は熱可塑性塗料からなる塗膜を挙げることができる。熱可塑性樹脂から成る樹脂被覆としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリルエステル共重合体、アイオノマー等のオレフィン系樹脂フィルム、またはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、もしくはナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム等の熱可塑性樹脂フィルムの未延伸または二軸延伸したものであってもよい。その中でも、イソフタル酸を共重合化してなる無配向のポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。また、このような有機樹脂層を構成するための樹脂は、単独で用いてもよく、異なる樹脂をブレンドして用いてもよい。
【0038】
樹脂被覆として熱可塑性樹脂を被覆する場合、単層の樹脂層であってもよく、また同時押出等による多層の樹脂層であってもよい。多層のポリエステル樹脂層を用いると、下地層、即ち表面処理鋼板側に接着性に優れた組成のポリエステル樹脂を選択し、表層に耐内容物性、即ち耐抽出性やフレーバー成分の非吸着性に優れた組成のポリエステル樹脂を選択できるので有利である。
多層ポリエステル樹脂層の例を示すと、表層/下層として表示して、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン・シクロへキシレンジメチレン・テレフタレート、イソフタレート含有量の少ないポリエチレンテレフタレート・イソフタレート/イソフタレート含有量の多いポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート/[ポリエチレンテレフタレート・イソフタレートとポリブチレンテレフタレート・アジペートとのブレンド物]等であるが、勿論上記の例に限定されない。表層:下層の厚み比は、5:95〜95:5の範囲にあるのが望ましい。
【0039】
上記樹脂被覆には、それ自体公知の樹脂用配合剤、例えば非晶質シリカ等のアンチブロッキング剤、無機フィラー、各種帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を公知の処方に従って配合することができる。
特に本発明においては、レトルト殺菌後の缶外面のデント部の樹脂被覆の剥離が有効に抑制されているため、このような現象が顕著であった二酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛等の無機顔料が含有された二軸延伸フィルムを好適に使用することが可能になる。
【0040】
本発明により得られる表面処理鋼板に適用する樹脂被覆の厚みとしては、熱可塑性樹脂被覆で一般に3〜50μm、特に5〜40μmの範囲にあることが望ましく、塗膜の場合には、焼付け後の厚みが1〜50μm、特に3〜30μmの範囲にあることが好ましい。厚みが上記範囲を下回ると、耐食性が不十分となり、厚みが上記範囲を上回ると加工性の点で問題を生じやすい。
【0041】
本発明により得られる表面処理鋼板への樹脂被覆の形成は任意の手段で行うことができ、例えば、熱可塑性樹脂被覆の場合は、押出コート法、キャストフィルム熱接着法、二軸延伸フィルム熱接着法等により行うことができる。押出コート法の場合、表面処理金属材料の上にポリエステル樹脂を溶融状態で押出コートして、熱接着させることにより製造することができる。即ち、ポリエステル樹脂を押出機で溶融混練した後、T−ダイから薄膜状に押し出し、押し出された溶融樹脂膜を表面処理金属材料と共に一対のラミネートロール間に通して冷却下に押圧一体化させ、次いで急冷する。多層のポリエステル樹脂層を押出コートする場合には、表層樹脂用の押出機及び下層樹脂用の押出機を使用し、各押出機からの樹脂流を多重多層ダイ内で合流させ、以後は単層樹脂の場合と同様に押出コートを行えばよい。また、一対のラミネートロール間に垂直に表面処理金属材料を通し、その両側に溶融樹脂ウエッブを供給することにより、前記基体両面にポリエステル樹脂の被覆層を形成させることができる。
【0042】
ポリエステル樹脂から成る有機被覆を有する有機被覆表面処理鋼板の押出コート法による製造は具体的には次のように行われる。表面処理鋼板を必要により加熱装置により予備加熱し、一対のラミネートロール間のニップ位置に供給する。一方、ポリエステル樹脂は、押出機のダイヘッドを通して薄膜の形に押し出し、ラミネートロールと表面処理鋼板との間に供給され、ラミネートロールにより表面処理鋼板に圧着される。ラミネートロールは、一定の温度に保持されており、表面処理鋼板にポリエステル等の熱可塑性樹脂から成る薄膜を圧着して両者を熱接着させると共に両側から冷却して有機被覆表面処理鋼板を得る。一般に、形成される有機被覆表面処理鋼板を更に冷却用水槽等に導いて、熱結晶化を防止するため、急冷を行う。
【0043】
この押出コート法では、樹脂組成の選択とロールや冷却槽による急冷とにより、ポリエステル樹脂層は、結晶化度が低いレベル、非晶密度との差が0.05g/cm
3以下に抑制されているため、次いで行う製缶加工や蓋加工等に対する十分な加工性が保証される。勿論、急冷操作は上記例に限定されるものではなく、形成される有機被覆表面処理鋼板に冷却水を噴霧して、ラミネート板を急冷することもできる。
【0044】
表面処理鋼板に対するポリエステル樹脂の熱接着は、溶融樹脂層が有する熱量と、表面処理鋼板が有する熱量とにより行われる。表面処理鋼板の加熱温度(T1)は、一般に90℃〜290℃、特に100℃〜280℃の温度が適当であり、一方ラミネートロールの温度は10℃〜150℃の範囲が適当である。
また、本発明の製造方法により得られる表面処理鋼板の樹脂被覆は、T−ダイ法やインフレーション製膜法で予め製膜されたポリエステル樹脂フィルムを表面処理鋼板に熱接着させることによっても製造することができる。フィルムとしては、押し出したフィルムを急冷した、キャスト成形法による未延伸フィルムを用いることもでき、また、このフィルムを延伸温度で、逐次或いは同時二軸延伸し、延伸後のフィルムを熱固定することにより製造された二軸延伸フィルムを用いることもできる。
【0045】
(金属容器)
本発明の表面処理鋼板を用いて成形される金属容器(缶体)としては、前述した通り、表面処理鋼板の表面に樹脂被覆が形成されて成る有機被覆表面処理鋼板から成形されていることが好ましく、任意の製缶法により成形することができる。具体的には、側面継ぎ目を有するスリーピース缶(溶接缶)や、シームレス缶(ツーピース缶)とすることができるが、前述したように、有機樹脂との密着性の観点からZr量が大きい表面処理鋼板を利用する点を考慮すると、シームレス缶への適用がもっとも好ましい。
シームレス缶は、有機被覆が缶内面側及び/又は缶外面側になるように、絞り加工、絞り・再しぼり加工、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工或いは絞り・しごき加工等の従来公知の手段に付すことによって製造される。
また、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工、絞り・しごき加工等の高度な加工が施されるシームレス缶においては、有機被覆が押出コート法による熱可塑性樹脂被覆から成るもの、キャスト成形法による未延伸フィルムの熱ラミネートから成るもの、あるいは二軸延伸フィルムの熱ラミネートから成るものであることが特に好ましい。このような有機被覆表面処理鋼板は、加工密着性に優れていることから、過酷な加工に賦された場合にも被覆の密着性に優れ、優れた耐食性を有するシームレス缶を提供することができる。
【0046】
(蓋)
本発明の表面処理鋼板を用いて成形される缶蓋は、上述した金属容器同様、有機被覆表面処理鋼板から成形されていることが好ましく、従来公知の任意の製蓋法により成形することができる。具体的には、平蓋や、ステイ・オン・タブタイプのイージーオープン缶蓋やフルオープンタイプのイージーオープン缶蓋に適用することができる。
本発明の缶蓋においては本発明の有機被覆表面処理鋼板の種々の態様のものを制限なく用いて蓋を成形することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用した被処理素材、脱脂剤、有機被覆は市販されている材料の中から任意に選択したものであり、本発明の表面処理用鋼板の製造方法を限定するものではない。
【0048】
<実施例1>
<被膜形成工程>
原板として、厚さ0.225mm、幅200mmの低炭素鋼板を用い、次いで、前処理としてアルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った。その後、鋼板を電解処理液に浸漬させ、陰極電解処理を行うことにより、鋼板の表面にFを含有し、Zrを主体とする化合物被膜を両面に形成した。次いで鋼板から電解処理液をロールで絞り除去した。
電解処理液の組成:Zr化合物としてフッ化ジルコニウムアンモニウムを溶解させて得た、Zr濃度6000ppm、F濃度7000ppmの水溶液
電解処理液のpH:3.0(硝酸及び/又はアンモニアにてpH調整実施)
電解処理液の温度:40℃
陰極電解時の電流密度(表1ではCDと表記する):10A/dm
2
陰極電解時の通電方法:0.15秒通電、0.1秒通電停止のサイクルを缶内面側、缶外面側とも8回(以後、サイクル数と呼ぶ)実施した。
【0049】
<表面調整工程>
被膜形成工程終了後の鋼板を、缶内面側はアルカリ性水溶液で所定時間スプレー処理すると同時に、缶外面側は温水で所定時間スプレー処理した。次いで鋼板からアルカリ性水溶液及び温水をロールで絞り除去した。
(缶内面側)
・アルカリ性水溶液の組成:水酸化ナトリウム(NaOH)の添加量を調整し、下記pHの水溶液になるよう作製した。
・アルカリ性水溶液のpH:11.7
・アルカリ性水溶液の温度:40℃
・アルカリ性水溶液のスプレー時間:1秒
(缶外面側)
・温水の種類:工業用水
・温水の温度:40℃
・温水のスプレー時間:1秒
【0050】
<表面調整工程後のリンス>
表面調整工程終了後の鋼板を、リンス水に2秒間浸漬し、内外面の付着液を除去した。
リンス水は40℃の工業用水を用い、温風で乾燥させ、表面処理鋼板を得た。
【0051】
<表面処理被膜量の測定>
試験に用いた被膜形成工程、表面調整工程、リンス後の板を、水洗後温風で乾燥させて下記方法で被膜量を測定した。被膜量は缶内面側、缶外面側それぞれ別々に測定した。
【0052】
<Zr量の測定>
得られた表面処理板について、蛍光X線分析装置(リガク社製、型番:ZSX100e)を用いて、金属化合物被膜に含まれるZr量を測定した。表1に、被膜形成工程後、表面調整工程後のZr量を示した。なお、リンス後のZr量は、表面調整工程後のZr量と同じであっため、表1にはリンス後のZr量の記載は省略した。
【0053】
<F量の測定>
蛍光X線分析ではF量の微量分析は定量精度の点で限界があり、特にF量1.5mg/m
2以下の表面処理板から直接Fを定量する事は困難である。種々検討の結果、我々は以下の測定方法を選定した。即ち、レトルト加圧可能な特殊セルを用いて、一定面積の表面処理板を一定量の超純水に接触させた状態で、130℃で30分間のレトルト処理を行った。この処理により超純水中に抽出されたフッ素イオンをイオンクロマトグラフ(DIONEX製DX−320)により測定した。得られたF濃度から、超純水中に存在するF重量を求め、これを表面処理板の単位面積当たりに存在するF重量に換算することにより、被膜中のF量と定義した。表1に、被膜形成工程後、表面調整工程後のF量を示した。なお、リンス後のF量は、表面調整工程後のF量と同じであったため、表1にはリンス後のF量の記載は省略した。
【0054】
<樹脂被覆表面処理鋼板の作製>
得られた表面処理鋼板を、缶内面側となる金属板の片面上に、イソフタル酸成分を11モル%含有するポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合組成を有する、厚さ19μmの延伸フィルムを、缶外面側となるもう一方の片面上に、イソフタル酸成分を12モル%含有するポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合組成を有し、酸化チタンを30重量%含有してホワイトに着色した、厚さ13μmの延伸フィルムを、ラミネートロールを介して熱圧着後、直ちに水冷することにより、フィルムに適度な配向状態が残るように留意しながら樹脂被覆表面処理鋼板を得た。作製した樹脂被覆表面処理鋼板は、一部をクロスカット耐食性評価用として用いた以外は、金属缶の作製に使用した。
【0055】
<金属缶の作製>
得られた樹脂被覆表面処理鋼板の両面に、パラフィンワックスを静電塗油した後、直径143mmの円形に打抜き、定法に従い、径91mm、高さ36mmの絞りカップを作製した。ついでこの絞りカップを同時絞りしごき加工を2回繰り返して径が小さくハイトの大きいカップに成形した。この様にして得られたカップの諸特性は以下の通りである。
カップ径 52.0mm
カップ高さ 111.7mm
元板厚に対する缶壁部の板厚減少率 30%
このカップはドーミング成形後、樹脂フィルムの歪みをとるために220℃で60秒間熱処理を行い、続いて開口端端部のトリミング加工、そして、
図1に示すように缶胴に藍インキ30mg/缶と仕上げニス100mg/缶を塗布する曲面印刷を施し、215℃で80秒の焼き付け後、直径50.8mmにネックイン加工、フランジ加工を行い、200gシームレス缶を作製した。
【0056】
<缶外面デント性評価>
得られたシームレス缶に蒸留水183gを缶内真空度30KPaで充填し、125℃30分のレトルト処理を行った後、蓋を上にした状態で室温にて1日保管した。次いで、缶を缶底鋼板圧延方向が水平となるように横向きに静置し、缶体の側壁下部ボディーウォールラジアス部付近に、径52.0mmの球面を有する1kgのおもりを40mmの高さから球面が缶に当たるように落とすことにより缶体に衝撃を与え変形させた。その後、幅24mmのセロハン粘着テープを缶変形部にできるだけ均一に貼った後、一気にテープを引きはがし、ホワイトフィルムの剥離程度を目視および光学顕微鏡(50倍)にて次の基準で判定し、缶外面デント性評価とした。剥離観察部位は、
図1に示す外面ホワイトフィルム上に仕上げニスのみが被覆されている部分(藍インキが塗られていない部分)とした。また、評価数は10缶とした。肉眼観察で1缶でも剥離が認められたものを×、肉眼観察で剥離はないが光学顕微鏡で剥離が認められた数が4缶以下を○、同じく光学顕微鏡で剥離が認められた数が2缶以下を◎とした。○及び◎を許容範囲内とした。
【0057】
<缶内面F溶出性評価>
得られたシームレス缶に183gの超純水を充填し、130℃で30分のレトルト処理を行った後、超純水中に抽出されたフッ素イオンをイオンクロマトグラフ(DIONEX製DX−320)により測定した。F検出量が0.25ppmを超えたものを×、F検出量が0.20ppmを超えかつ0.25ppm以下のものを△、F検出量が0.10ppmを超えかつ0.20ppm以下のものを○、検出限界(0.10ppm)以下のものを◎とした。△・○・◎を許容範囲内とした。
【0058】
<缶内面側クロスカット耐食性評価>
作製した樹脂被覆表面処理鋼板の缶内面側に相当する部分に、圧延方向に対して45度方向にカッターで長さ4cmの素地に達する2本のクロスカット傷を入れ、モデル液(塩化ナトリウムとクエン酸の重量濃度がそれぞれ1.5%の水溶液)に、浸漬させて37℃で1週間経時して、腐食状態を評価した。その後、試験片をモデル液から取り出し、クロスカット部分及びその周囲について、有機樹脂層の剥離あるいは、腐食生成物の生成による変色の状態を目視評価にて観察して評価した。クロスカット部周辺において、変色またはフィルム剥離の最大幅が片側あたり2mm以上であったものを×、1mm以上2mm未満のものを△、1mm未満のものを○とした。△・○を許容範囲とした。
これらを纏めて、それぞれの処理方法、被膜量、評価結果を表1に示した。
【0059】
<実施例2〜14>
被膜形成工程、表面調整工程の条件を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして表面処理鋼板を作製し、実施例1と同様に評価した。それぞれの処理方法、被膜量、評価結果を表1に示した。
【0060】
<比較例1>
缶内面側の被膜形成工程でサイクル数を11回としたこと、および、表面調整工程でアルカリ性水溶液スプレーに変えて40℃の温水スプレーを行った以外は実施例1と同様にして表面処理鋼板を作製し、実施例1と同様に評価した。缶内面側のF量が28mg/m
2であり、缶内面F溶出性評価が×であった。
【0061】
<比較例2>
缶外面側の表面調整工程で温水スプレーに変えて、pH11.0の水酸化ナトリウム水溶液スプレーを行った以外は実施例1と同様にして表面処理鋼板を作製し、実施例1と同様に評価した。缶外面側のF量が10mg/m
2であり、缶外面デント性評価が×であった。
【0062】
<比較例3>
缶外面側の被膜形成工程で電解サイクル数を5回にした以外は実施例1と同様にして表面処理鋼板を作製し、実施例1と同様に評価した。缶外面側のZr量が69mg/m
2であり、缶外面デント性評価が×であった。
【0063】
【表1】