(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水素化にかけられる前記ニトリルゴムが、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルおよび少なくとも1種の共役ジエンのコポリマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
水素化にかけられる前記ニトリルゴムが、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および1種または複数種の、α,β−不飽和モノカルボン酸、それらのエステル、それらのアミド、α,β−不飽和ジカルボン酸、それらのモノエステルもしくはジエステル、それらの無水物およびそれらのアミドからなる群より選択されるさらなる共重合可能なモノマー、のターポリマーである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
「アクリロニトリル−ブタジエンゴム」または「ニトリルゴム」(略して、「NBR」とも呼ばれる)という用語は、広く解釈されるべきであって、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および所望により1種または複数種のさらなる共重合性モノマーのコポリマーまたはターポリマーであるゴムを指している。
【0003】
水素化NBR(略して、「HNBR」とも呼ばれる)は、NBRを水素化することによって商業的に製造されている。したがって、ジエンベースのポリマー中の炭素−炭素二重結合の選択的水素化は、そのポリマー鎖の中のニトリル基およびその他の官能基(たとえば、そのポリマー鎖中に他の共重合性モノマーが導入された場合のカルボキシル基)に悪影響が出ないように実施しなければならない。
【0004】
HNBRは特殊ゴムであって、極めて良好な耐熱性、優れた耐オゾン性および耐薬品性、さらには優れた耐油性を有する。上述のHNBRの物理的および化学的性質が、極めて良好な機械的性質、特に高い耐摩耗性と組み合わさっている。この理由から、HNBRは、各種の用途において幅広く使用されてきた。HNBRは、たとえば、自動車分野におけるシーリング材、ホース、ベルトおよび緩衝要素、さらには原油探索分野におけるステーター、油井シール材およびバルブシール材、ならびに、飛行機産業、電子産業、機械工学および造船における多くの部品に使用されている。水素化の転化率が95%を超える、すなわち残存二重結合(RDB)含量が5%未満で、水素化反応の間に架橋することなく、そして得られるHNBRの中のゲルレベルが約2.5%未満であるということが、それらの分野においてHNBRが高性能な応用を確保し、最終製品の優れた加工性を保証するための限界値である。
【0005】
HNBRの中の共重合させたジエン単位の水素化度は、50〜100%の範囲で変化させることができるが、望まれる水素化度は、約80〜約100%、好ましくは約90〜約99.9%である。HNBRの市販グレードは、典型的には、18%未満の不飽和度が残り、アクリロニトリルの含量がおよそで、約50%までである。
【0006】
均一系または不均一系いずれかの水素化触媒を使用して、NBRの水素化を実施することができる。使用される触媒は通常は、ロジウム、ルテニウムまたはパラジウムをベースとするものであるが、白金、イリジウム、レニウム、オスミウム、コバルト、または銅を金属としてか、または好ましくは金属化合物の形態として使用することも可能である(たとえば、(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)、(特許文献7)、(特許文献8)、(特許文献9)、および(特許文献10)を参照されたい)。均一相における水素化のために好適な触媒および溶媒は、(特許文献2)および(特許文献11)からも公知である。
【0007】
さらに、商業的な目的では、NBRの水素化によるHNBRの製造は、多くの場合ロジウムまたはパラジウムをベースとする不均一系または均一系のいずれかの遷移金属触媒を使用することにより、有機溶媒の中で実施される。そのような方法では、たとえば、触媒金属、および触媒金属の除去/リサイクルに含まれるコストが高価であるといった欠点がある。この理由から、より安価な貴金属たとえばオスミウムおよびルテニウムをベースとする代替え触媒の研究開発が行われている。
【0008】
代替えのNBR水素化プロセスは、Osベースの触媒を使用して実施することができる。NBRの水素化に特に適した一つの触媒は、(非特許文献1)に記載されている、OsHCl(CO)(O
2)(Pcy
3)
2である。この触媒を使用した水素化の速度は、検討した全反応条件領域にわたって、Wilkinsonの触媒(RhCl(PPh
3)
3)によって製造したものよりは優れている。
【0009】
Ruベースの錯体もポリマーを溶液水素化するための良好な触媒であり、Ru金属の価格はさらに安価である。Ru−PPh
3錯体およびRuHCl(CO)L
2(Lはバルキーなホスフィンである)触媒系は、(非特許文献2)に開示されているように、NBRの定量的水素化を与える。そのような水素化の際には、触媒活性を維持するための、遊離ホスフィン配位子を添加する必要はない。しかしながら、それらはゲル化を起こしやすく、水素化の間にある程度の架橋が起きる可能性がある。
【0010】
しかしながら、これら上述のOsまたはRu触媒は、水素化だけに活性な触媒であって、メタセシス反応のための触媒ではない。したがって、これらのタイプのOsまたはRu触媒は、分子量を低下させたNBRを製造するための、NBRのメタセシス/分解には使用することができない。
【0011】
HNBRの製造におけるまた別の問題は、市場で入手可能なNBRを直接水素化することによって低ムーニー粘度のHNBRを製造するのが困難であるということである。ムーニー粘度が比較的に高いと、HNBRの加工性に制約が加わる。理想的には、多くの用途で、より低い分子量でより低いムーニー粘度を有するHNBRグレードを使用したいのである。これが、加工性において決定的な改良を与えることになるであろう。
【0012】
既存の直接的なNBR水素化プロセスの手段によってムーニー粘度(ML1+4、100℃)が55未満の範囲に相当する低いモル質量、またはMw<約200000g/molの重量平均分子量を有するHNBRを大スケールで製造することは、長い間不可能であったが、それには主として二つの理由が存在する。第一には、NBRの水素化の間にムーニー粘度の急激な上昇が起きるが、このことは、実質的に上昇したムーニー粘度を有するHNBRが得られたということを意味している。ムーニー上昇比(MIR)は、NBRのグレード、水素化のレベル、およびNBR原料の性質に依存して、一般的には約2またはそれ以上である。したがって、市販されているHNBRのムーニー粘度の範囲は、NBR出発物質のムーニー粘度の下限によって制限される。第二には、水素化のために使用されるNBR原料のモル質量を意のままに低下させることができないが、その理由は、ゴムの粘着性が高くなりすぎるために、そうでなければ利用可能なNBR工業プラントにおける作業が、もはや不可能となってしまうからである。既存の工業プラントにおいて、困難なく作業をすることが可能なNBR供給原料の最低のムーニー粘度は、約30ムーニー単位(ML1+4、100℃)の範囲内である。そのようなNBR供給原料を使用して得られる水素化ニトリルゴムのムーニー粘度は、55ムーニー単位(ML1+4、100℃)のオーダーである。ムーニー粘度は、ASTM標準D1646に従って測定する。
【0013】
より最近の従来技術においては、分解による水素化の前のニトリルゴムの分子量を、30ムーニー単位未満のムーニー粘度(ML1+4、100℃)、またはMw<200000g/molの重量平均分子量とすることによって、この問題を解決している。メタセシス触媒の存在下でNBRをメタセシスさせることによって、分子量の低下が達成される。(特許文献12)および(特許文献13)には、たとえば、オレフィンメタセシスによるニトリルゴム出発ポリマーの分解と、それに続く水素化を含む方法が記載されている。第一の工程において、共オレフィン、およびオスミウム、ルテニウム、モリブデンまたはタングステンの錯体をベースとする特殊な触媒の存在下に、ニトリルゴムを反応させ、第二の工程において、水素化させる。
【0014】
そのようにして得られる水素化ニトリルゴムは、30000〜250000の範囲の重量平均分子量(Mw)、3〜50の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)、そして2.5未満の多分散性指数PDIを有することができる。有利には、それに続く水素化と同じ溶媒の中でメタセシス反応を実施するので、分解反応が完了した後に、分解されたニトリルゴムを溶媒から単離する必要がない。ニトリルゴムをメタセシスさせるために周知なのは、たとえば以下のような、多くのRuベースのメタセシス触媒:Grubbs I(ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ジクロロルテニウム)、Grubbs II(ベンジリデン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]トリシクロヘキシルホスフィンジクロロルテニウム)、Grubbs III(ベンジリデン[1,3−ビス(2,4;6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ−ビス(3−ブロモピリジン)ルテニウム)、Hoveyda−Grubbs II([1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(o−イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム)(参照、たとえば、(特許文献14))、ならびに多くのフルオレニリデンベースの錯体触媒(参照、たとえば、(特許文献15))である。
【0015】
(特許文献16)には、次の一般的構造を有するルテニウム錯体触媒が開示されている。
【化1】
[式中、
Mは、ルテニウムであり、
X
1およびX
2はそれぞれ、クロロまたはRCOO(そのようなRCOOの中のRは、C
1〜C
20アルキルまたはそれらの誘導体である)であり、
Lは、電子供与性錯体配位子であって、X
1と結合するかまたは結合せずに、環状構造を形成することが可能であり、
Yは、酸素、硫黄、窒素、またはリンであり;
Rは、H、ハロゲン原子、ニトロ、シアノ、C
1〜C
20アルキル、C
1〜C
20アルコキシ、C
1〜C
20アルキルチオ、C
1〜C
20シラニル、C
1〜C
20シラニルオキシ、C
6〜C
20アリール、C
6〜C
20アリールオキシ、C
2〜C
20ヘテロシクリック、C
2〜C
20ヘテロシクリックアリール、スルフィニル、スルホニル、ホルミル、C
1〜C
20カルボニル、C
1〜C
20エステル、C
1〜C
20アミド、C
1〜C
20ウラミド(uramid)もしくは誘導体、またはC
1〜C
20スルホンアミド基であり;
R
1およびR
2はそれぞれ、H、ブロモ(Br)、ヨード(I)、C
1〜C
20アルキルもしくは誘導体、C
1〜C
20アルコキシ、C
1〜C
20アルキルチオ、C
1〜C
20シラニルオキシ、C
6〜C
20アリールオキシ、C
6〜C
20アリール、C
2〜C
20ヘテロシクリック、C
2〜C
20ヘテロシクリックアリール、C
1〜C
20エステル、C
1〜C
20アミド、C
1〜C
20ウラミドもしくは誘導体、またはC
1〜C
20スルホンアミド基であり;
R
3は、H、C
1〜C
20アルキルもしくは誘導体、C
1〜C
20アルコキシ、C
1〜C
20アルキルチオ、C
1〜C
20シラニル、C
1〜C
20シラニルオキシ、C
6〜C
20アリール、C
6〜C
20アリールオキシ、C
2〜C
20ヘテロシクリック、C
2〜C
20ヘテロシクリックアリール、スルフィニル、スルホニル、C
1〜C
20カルボニル、C
1〜C
20エステル、C
1〜C
20アミド、C
1〜C
20ウラミドもしくは誘導体、またはC
1〜C
20スルホンアミド基であり;そして
EWGは、C
1〜C
20アミノスルホニル(SO
2NR
2)、ホルミル、C
1〜C
20カルボニル、C
1〜C
20エステル、C
1〜C
20アミノカルボニル(CONR
2)、アミド、クロロ、フルオロ、C
1〜C
20ウラミドもしくは誘導体、またはC
1〜C
20スルホンアミド基である。]
【0016】
(特許文献16)にはさらに、これらの触媒が、閉環オレフィンメタセシス反応、分子間オレフィンメタセシス反応、およびオレフィンメタセシス重合反応を含めて、オレフィンメタセシス反応において使用することが可能であると述べられている。ある種の一般的に開示された触媒の存在下の分子内閉環メタセシスによって、低分子量物質が生成することが実施例に示されている。(特許文献16)は、これらの触媒が、ポリマー特にニトリルゴムの分子量を低下させるのに使用できるとか、それらがなんらかの水素化活性を示すとかに関しては何の開示も与えていない。
【0017】
さらに、メタセシスおよび水素化の同時反応のための方法が、従来技術から公知である。(特許文献17)においては、低分子量で、当業界で公知のものよりも狭い分子量分布を有する水素化ニトリルゴムポリマーの調製を、ニトリルゴムを、メタセシス反応および水素化反応に同時にかけることによって実施している。その反応は、ルテニウムまたはオスミウムをベースとする五配位の錯体触媒、特に1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(フェニルメチレン)ジクロリド(Grubbs第二世代触媒とも呼ばれている)の存在下に実施している。しかしながら、(特許文献17)は、どのようにしてその二つの同時に起きる反応、すなわちメタセシスおよび水素化に影響を与えるか、あるいは、メタセシスおよび水素化に関するそれぞれの触媒の活性をどのように制御するかについては、何の開示または教示を与えていない。
【0018】
さらに、(特許文献18)にも、ニトリルゴムを、水素の存在下で、特別に定義された六配位のルテニウムまたはオスミウムをベースとする触媒の存在下に、メタセシスを水素化と組み合わせた同時反応にかけて、当業界で公知のものよりも、より低い分子量およびより狭い分子量分布を有する水素化ニトリルゴムを調製するための方法が開示されている。そのような方法は、一般式(I)〜(III)
【化2】
[式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
X
1およびX
2は、同一であるかまたは異なる配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
Z
1およびZ
2は、同一であるかまたは異なっている中性の電子供与配位子であり、
R
3およびR
4はそれぞれ独立して、Hであるか、または、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボキシレート、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、およびアルキルスルフィニル基(これらはそれぞれ、場合によっては、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール残基によって置換されていてもよい)からなる群より選択される置換基であり、そして
Lは、配位子である。]の少なくとも1種の触媒を使用して実施する。
【0019】
さらに(特許文献19)にも、ニトリルゴムを、水素の存在下で、特別に定義された五配位のルテニウムまたはオスミウムをベースとする触媒の存在下に、メタセシスを水素化と組み合わせた同時反応にかけて、低分子量および狭い分子量分布を有する水素化ニトリルゴムを調製するための方法が開示されている。そのような方法は、一般式(I)
【化3】
[式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
Yは、酸素(O)、硫黄(S)、N−R
1基、またはP−R
1基であり、
X
1およびX
2は、同一であるかまたは異なる配位子であり、
R
1は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、CR
13C(O)R
14、またはアルキルスルフィニル残基(これらはそれぞれ、場合によっては、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール残基によって置換されていてもよい)であり、
R
13は、水素であるか、またはアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル残基(これらはそれぞれ、場合によっては、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール残基によって置換されていてもよい)であり;
R
14は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル残基(これらはそれぞれ、場合によっては、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール残基によって置換されていてもよい)であり;
R
2、R
3、R
4、およびR
5は、同一であるかまたは異なっていて、それぞれH、有機基、または無機基であり、
R
6は、Hであるか、またはアルキル、アルケニル、アルキニルもしくはアリール基であり、そして
Lは、配位子である。]の少なくとも1種の化合物の存在下に実施される。
【0020】
しかしながら、(特許文献18)と(特許文献19)のいずれも、その二つの同時に起きる反応、すなわちメタセシスおよび水素化にどのようにして影響を与えるか、あるいは、メタセシスおよび水素化のためのそれぞれの触媒の二重の活性をどのように制御するかについては、何の開示または教示を与えていない。
【0021】
(特許文献20)には、その一般的構造を以下に示す、広く各種の触媒が開示されている。
【化4】
【0022】
そのような触媒を使用して、解重合によって変性したニトリルブタジエンゴム(NBR)またはスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を得ることができると記述されている。さらに、1種または複数種のそれらの触媒を添加することによってまずNBRの解重合を実施させ、それに続けて水素化のために、その反応器の中に高圧で水素を添加することによって、解重合させたHNBRまたはスチレン−ブタジエンゴムを製造する方法において、それらの触媒を使用することができるとも記述されている。また別の実施形態においては、まず水素を高圧で添加し、次いでそれに続けて1種または複数種の上記の触媒を添加することによって、HNBRを調製することが開示されている。しかしながら、(特許文献20)は、解重合(メタセシス)および水素化のための触媒の異なった触媒活性にどのようにして影響を与えるかについては、何の開示も教示も与えていない。水素化を同時に起こさせると、メタセシスによる分子量の低下が制御できないと考えられている。
【0023】
多くの文献に、まず開環メタセシス重合(ROMP)から出発し、次いで水素化反応をさせる、2工程反応(いわゆる「タンデム重合/水素化反応」)においてメタセシス触媒を使用することが記載されている。
【0024】
(非特許文献3)によれば、メタセシス触媒のGrubbs Iをシクロオクテンまたはノルボルネン誘導体のROMPにまず使用し、次いで、それに続けてポリマーの水素化を実施することができる。NEt
3のような塩基を添加することによって、水素化反応における触媒活性が向上すると報告されている。
【0025】
(非特許文献4)もまた、官能化させたノルボルネンから出発するタンデムROMP−水素化反応に関し、そのようなタンデム反応における、3種のルテニウムベースの触媒、すなわち、Grubbs I、Grubbs II、およびGrubbs III触媒の使用を比較している。ポリマー骨格の末端の上のルテニウムベースの触媒が遊離されて、H
2、塩基(NEt
3)、およびメタノールと反応することによって、水素化−活性化学種に転換されると記述されている。
【0026】
(特許文献21)には、有機ルテニウムまたはオスミウム化合物の存在下にシクロオレフィンを重合させ、次いで、そうして得られた不飽和ポリマーを重合中に、水素化触媒を添加して水素化させることによって、水素化ポリマーを調製するための方法が開示されている。(特許文献21)には、クロスメタセシス反応についての記載はなく、またメタセシスによるポリマーの分解についても触れられていない。
【0027】
(非特許文献5)でも、タンデムROMP重合/水素化反応が検討されている。その焦点は、ルテニウムベースのメタセシス触媒Grubbs Iの水素化分解のメカニズムに当てられている。そのような触媒は、水素化化学に相当する条件下では、二水素化物、二水素および水素化物の化学種に転換されることが示されている。しかしながら、メタセシスを介したポリマー分解または不飽和ポリマーの水素化については何の開示もない。
【0028】
ビニル化合物を用いてメタセシス反応を停止させることに関しては、さらなる参考文献に記載がある。多数の特許出願たとえば、(特許文献22)、(特許文献14)、(特許文献23)、(特許文献24)、(特許文献25)、(特許文献26)、(特許文献27)、(特許文献15)、(特許文献28)、(特許文献29)、ならびに2件のメタセシス反応によるニトリルゴムの分子量分解に関する未公開の特許出願((特許文献30)および(特許文献31))には、メタセシス反応の後にメタセシス触媒を分解させる目的で、ビニルエチルエーテルを用いて反応混合物を処理する実験が含まれている。触媒を不活化させることによってメタセシス反応を効率的に停止させるために、ビニルエチルエーテルの使用されたメタセシス触媒に対するモル比は、極めて高い。上述の用途においては、そのようなモル比は、(567:1)から(17,000:1)以上までとなっている。不活化剤対メタセシス触媒のより低い比率を選択することによって、選択的水素化に特別に適した、すなわちメタセシス分解に対する触媒作用を継続することがない触媒組成物が得られるということに関しては、それらの特許出願のいずれにおいても、いかなる開示やヒントも与えていない。
【0029】
(非特許文献6)に、オレフィンのメタセシスのためのルテニウムベースの触媒のメカニズムが開示されている。さらに、ルテニウムカルベンとエチルビニルエーテルとの反応が、開環メタセシス重合を停止させる方法として利用できるとの記述がある。次のスキームに示されているように、いわゆるフィッシャー−カルベン錯体が生成すると報告されている。
【化5】
【0030】
(非特許文献7)には、ジ(エチレングリコール)ビニルエーテルおよびそのアミン誘導体もまた、オレフィンメタセシス触媒のための不活化剤として使用できることが開示されている。メタセシス触媒を基準にして、4当量のジ(エチレングリコール)ビニルエーテルを使用すれば、メタセシス触媒を効率的に不活化させるには十分であることが、実験的に示されている。2当量でも十分であるとも書かれている。しかしながら、この文献では、オレフィンのメタセシスの後に続くプロセスである水素化については、まったく触れられていない。
【0031】
(非特許文献8)では、ビニルエーテル基を用いて末端官能化されたポリイソブチレン(「PIB」)が、反応性のルテニウムアルキリデン錯体を相固定されたフィッシャーカルベン錯体に転換させることによって、錯体触媒を封鎖するのに役立つ可能性が示されている。それに加えて、Grubbs II触媒と、2当量のPIBビニルエーテル、および6当量さらには15当量のエチルビニルエーテルとの反応についての、動力学的検討も提示されている。
【0032】
上記のことから、以下のように考えることができる:
(1)今日までのところ、ニトリルゴムの選択的水素化に極めて活性の高い水素化触媒は公知であって、RhおよびPdベースの触媒が工業的な水素化プロセスにおいてすでに使用されている;しかしながら、より安価なRuベースの水素化触媒は、NBRの水素化に使用すると、依然としてゲル化の問題に直面する。最も重要なのは、NBRの水素化のみに触媒作用を有することが可能なこれらの触媒を使用すると、高分子量のHNBRしか製造できないということである。最終的なHNBRの分子量は、原料のNBRの分子量によって決まるのであって、水素化触媒によって決まるのではない;
(2)ルテニウムまたはオスミウムをベースとするメタセシス触媒を使用した、メタセシスによるニトリルゴムの分解と、それに続けてその分解されたニトリルゴムを水素化して水素化ニトリルゴムを得ることが公知である;メタセシスのためおよび水素化のために同一の触媒を使用するのならば、そのような触媒は、NBRのメタセシスには活性が高いものの、NBRの水素化にはそれほど活性が高くない;そして
(3)それら両方、すなわちメタセシスおよび水素化に対する触媒活性を有する触媒は、制御可能な方式で使用することができない。
【0033】
したがって、現行の商業的製造プロセスにおいては、NBRメタセシス工程の後に、NBRを水素化するための反応系に別の水素化触媒を添加している。この方法では、調節された分子量を有するHNBRを得ることが可能ではあるが、高い反応効率を得ようとすると、2種の触媒(一つはメタセシスのため、もう一つは水素化のため)が必要となる。
【0034】
しかしながら、今日までのところ、調節された分子量を有する水素化ニトリルゴムを調製した、したがって、そのメタセシス活性では知られているルテニウムまたはオスミウムをベースとする触媒のみを使用して調節可能なムーニー粘度が得られたと報告している文献は1報もない。さらに、現在までのところ、NBR水素化に極めて低い濃度で使用して、高い転化率を与えるような水素化触媒は存在しない。これまでは、水素化の後で、触媒を除去したり、リサイクルしたりする工程が必要である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本特許出願の目的で使用される「置換される(substituted)」という用語は、指示された基または原子の上の水素原子が、それぞれの場合において指示された基の一つによって置き換えられているということを意味しているが、ただし、指示された原子の原子価が高すぎることがなく、その置換で安定な化合物が生じる必要がある。
【0043】
本特許出願および本発明の目的のためにおいては、上記および下記において、一般的な項目または好ましい範囲とされる、残基、パラメーターまたは説明の定義はすべて、各種の方法で相互に組み合わせる、すなわち、それぞれの範囲および好ましい範囲の組合せを含めることが可能である。
【0044】
触媒:
本発明の方法において使用される触媒は、ルテニウムまたはオスミウムのいずれかをベースとする錯体触媒である。さらに、それらの錯体触媒は、カルベン様の方式でルテニウムまたはオスミウムに対して結合された少なくとも1個の配位子を有するという、共通した構造的な特徴を有している。好ましい実施形態においては、錯体触媒が2個のカルベン配位子、すなわちその錯体の中心金属に対して、カルベン様の方式で結合されている2個の配位子を有している。
【0045】
本発明の新規な触媒組成物は、たとえば一般式(A)
【化6】
[式中、
Mは、オスミウムまたはルテニウムであり、
X
1およびX
2は、同一であるかまたは異なっていて、2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
Lは、同一であるかまたは異なった配位子、好ましくは電荷を有さない電子供与体であり、
Rは、同一であるかまたは異なっていて、それぞれ、水素、アルキル、好ましくはC
1〜C
30−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC
3〜C
20−シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC
2〜C
20−アルケニル、アルキニル、好ましくはC
2〜C
20−アルキニル、アリール、好ましくはC
6〜C
24−アリール、カルボキシレート、好ましくはC
1〜C
20−カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC
1〜C
20−アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC
2〜C
20−アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC
2〜C
20−アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC
6〜C
24−アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC
2〜C
20−アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC
1〜C
30−アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC
1〜C
30−アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC
6〜C
24−アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC
1〜C
20−アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル、好ましくはC
1〜C
20−アルキルスルフィニルであるが、ここで、それらの基は、それぞれの場合において、場合によっては、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、またはヘテロアリール残基によって置換されていてもよいし、あるいは、別の方法として、二つの基Rが共に、それらが結合されている共通の炭素原子と共に橋かけされて、環状構造を形成していてもよいが、その環状構造は、性質的には脂肪族であっても、芳香族であってもよく、置換されていてもよいし、また1個または複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい。]の触媒を使用して、得ることができる。
【0046】
式(A)の触媒の各種代表的なものが、たとえば、国際公開第A−96/04289号パンフレットおよび国際公開第A−97/06185号パンフレットからも公知である。
【0047】
一般式(A)の好ましい触媒においては、1個の基Rが水素であり、他の基Rが、C
1〜C
20−アルキル、C
3〜C
10−シクロアルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20−アルキニル、C
6〜C
24−アリール、C
1〜C
20−カルボキシレート、C
1〜C
20−アルコキシ、C
2〜C
20−アルケニルオキシ、C
2〜C
20−アルキニルオキシ、C
6〜C
24−アリールオキシ、C
2〜C
20−アルコキシカルボニル、C
1〜C
30−アルキルアミノ、C
1〜C
30−アルキルチオ、C
6〜C
24−アリールチオ、C
1〜C
20−アルキルスルホニルまたはC
1〜C
20−アルキルスルフィニルであるが、ここで、それらの残基は、それぞれの場合において、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基によって置換されていてもよい。
【0048】
X
1およびX
2の定義
一般式(A)の触媒において、X
1およびX
2は、同一であるかまたは異なっていて、2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子である。
【0049】
X
1およびX
2は、たとえば、水素、ハロゲン、擬ハロゲン、直鎖状もしくは分岐状のC
1〜C
30−アルキル、C
6〜C
24−アリール、C
1〜C
20−アルコキシ、C
6〜C
24−アリールオキシ、C
3〜C
20−アルキルジケトネート、C
6〜C
24−アリールジケトネート、C
1〜C
20−カルボキシレート、C
1〜C
20−アルキルスルホネート、C
6〜C
24−アリールスルホネート、C
1〜C
20−アルキルチオール、C
6〜C
24−アリールチオール、C
1〜C
20−アルキルスルホニル、またはC
1〜C
20−アルキルスルフィニルとすることができる。
【0050】
X
1およびX
2は、1個または複数個のさらなる基、たとえばハロゲン、好ましくはフッ素、C
1〜C
10−アルキル、C
1〜C
10−アルコキシまたはC
6〜C
24−アリールによって置換されていてもよく、それらの基がさらにもう一度、ハロゲン、好ましくはフッ素、C
1〜C
5−アルキル、C
1〜C
5−アルコキシおよびフェニルからなる群より選択される1個または複数個の置換基によって置換されていてもよい。
【0051】
好ましい実施形態においては、X
1およびX
2が同一であるかまたは異なっていて、それぞれが、ハロゲン特に、フッ素、塩素、臭素もしくはヨウ素、ベンゾエート、C
1〜C
5−カルボキシレート、C
1〜C
5−アルキル、フェノキシ、C
1〜C
5−アルコキシ、C
1〜C
5−アルキルチオール、C
6〜C
24−アリールチオール、C
6〜C
24−アリールまたはC
1〜C
5−アルキルスルホネートである。
【0052】
特に好ましい実施形態においては、X
1およびX
2が同一であって、それぞれハロゲン特に、塩素、CF
3COO、CH
3COO、CFH
2COO、(CH
3)
3CO、(CF
3)
2(CH
3)CO、(CF
3)(CH
3)
2CO、PhO(フェノキシ)、MeO(メトキシ)、EtO(エトキシ)、トシレート(p−CH
3−C
6H
4−SO
3)、メシレート(CH
3−SO
3)またはCF
3SO
3(トリフルオロメタンスルホネート)である。
【0053】
Lの定義
一般式(A)において、記号Lは、同一であっても異なっていてもよい配位子を表しており、好ましくは電荷を有さない電子供与性配位子である。
【0054】
2個の配位子Lは、たとえば、互いに独立して、ホスフィン、スルホネート化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィナイト、ホスホナイト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホネート、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン、チオエーテル、イミダゾリン、またはイミダゾリジンとすることができる(最後の二つは、共に「Im」配位子とも呼ばれる)。
【0055】
「ホスフィナイト」という用語には、たとえば、フェニルジフェニルホスフィナイト、シクロヘキシルジシクロヘキシルホスフィナイト、イソプロピルジイソプロピルホスフィナイト、およびメチルジフェニルホスフィナイトが含まれる。
【0056】
「ホスファイト」という用語には、たとえば、トリフェニルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリ−tert−ブチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、およびメチルジフェニルホスファイトが含まれる。
【0057】
「スチビン」という用語には、たとえば、トリフェニルスチビン、トリシクロヘキシルスチビン、およびトリメチルスチビンが含まれる。
【0058】
「スルホネート」という用語には、たとえば、トリフルオロメタンスルホネート、トシレート、およびメシレートが含まれる。
【0059】
「スルホキシド」という用語には、たとえば、(CH
3)
2S(=O)および(C
6H
5)
2S=Oが含まれる。
【0060】
「チオエーテル」という用語には、たとえば、CH
3SCH
3、C
6H
5SCH
3、CH
3OCH
2CH
2SCH
3、およびテトラヒドロチオフェンが含まれる。
【0061】
本出願の目的においては、「ピリジン」という用語は、たとえばGrubbsによって国際公開第A−03/011455号パンフレットに言及されているような、すべての窒素含有配位子の総称として使用されている。例としては以下のものが挙げられる:ピリジン、ピコリン(α−、β−、およびγ−ピコリンを含む)、ルチジン(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、および3,5−ルチジンを含む)、コリジン(2,4,6−トリメチルピリジン)、トリフルオロメチルピリジン、フェニルピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、クロロピリジン、ブロモピリジン、ニトロピリジン、キノリン、ピリミジン、ピロール、イミダゾール、およびフェニルイミダゾール。
【0062】
好ましい実施形態においては、一般式(A)の触媒は、配位子Lの一方または両方が、一般式(IIa)または(IIb)
【化7】
[式中、
R
8、R
9、R
10、およびR
11は、同一であるかまたは異なっていて、水素、直鎖状もしくは分岐状のC
1〜C
30−アルキル、C
3〜C
20−シクロアルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20−アルキニル、C
6〜C
24−アリール、C
7〜C
25−アルクアリール、C
2〜C
20ヘテロアリール、C
2〜C
20ヘテロシクリル、C
1〜C
20−アルコキシ、C
2〜C
20−アルケニルオキシ、C
2〜C
20−アルキニルオキシ、C
6〜C
20−アリールオキシ、C
2〜C
20−アルコキシカルボニル、C
1〜C
20−アルキルチオ、C
6〜C
20−アリールチオ、−Si(R)
3、−O−Si(R)
3、−O−C(=O)R、C(=O)R、−C(=O)N(R)
2、−NR−C(=O)−N(R)
2、−SO
2N(R)
2、−S(=O)R、−S(=O)
2R、−O−S(=O)
2R、ハロゲン、ニトロ、またはシアノを表すが、ここで、上述のすべての場合において、R
8、R
9、R
10およびR
11の意味合いに関連して、基Rは、同一であるかまたは異なっていて、水素、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、またはヘテロアリールを表す。]の構造を有する、イミダゾリンまたはイミダゾリジン配位子(本出願においては、特に断らない限り、共に「Im」配位子とも呼ばれる)を表すように使用されるが、ここで、両方の配位子Lが、(IIa)または(IIb)に従う構造を有している場合には、Lの意味合いは同一であっても、異なっていてもよい。
【0063】
適切であるならば、R
8、R
9、R
10、およびR
11の内の1個または複数個が、互いに独立して、1個または複数個の置換基、好ましくは直鎖状もしくは分岐状のC
1〜C
10−アルキル、C
3〜C
8−シクロアルキル、C
1〜C
10−アルコキシ、またはC
6〜C
24−アリール、C
2〜C
20ヘテロアリール、C
2〜C
20ヘテロシクリック、ならびにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群より選択される官能基によって置換されていることができるが、ここで、これら上述の置換基は、化学的に可能である限りにおいて、さらに、1個または複数個の、好ましくはハロゲン、特に塩素または臭素、C
1〜C
5−アルキル、C
1〜C
5−アルコキシ、およびフェニルからなる群より選択される置換基によって置換されていてもよい。
【0064】
単に簡明にするためだけであるが、本特許出願における一般式(IIa)および(IIb)として表されたイミダゾリンおよびイミダゾリジン配位子の構造は、(IIa’)および(IIb’)の構造とは等価のものであるが、それらはこのイミダゾリンおよびイミダゾリジン配位子それぞれに関する文献においてしばしば見出されるものであって、イミダゾリンおよびイミダゾリジンのカルベン的な性質を強調しているものである、ということを付け加えておく。このことは、後に示す関連する好ましい構造(IIIa)〜(IIIu)に対しても、同様にあてはまる。
【化8】
【0065】
一般式(A)の触媒の好ましい実施形態においては、
R
8およびR
9はそれぞれ、同一であるかまたは異なっていて、水素、C
6〜C
24−アリール、直鎖状もしくは分岐状のC
1〜C
10−アルキルを表すか、またはそれらが結合されている炭素原子と共に、シクロアルキルまたはアリール構造を形成する。
【0066】
より好ましくは、
R
8およびR
9が同一であって、水素、メチル、プロピル、ブチル、およびフェニルからなる群より選択される。
【0067】
R
8およびR
9の好ましい意味合いおよびより好ましい意味合いは、1個または複数個のさらなる、直鎖状もしくは分岐状のC
1〜C
10−アルキルもしくはC
1〜C
10−アルコキシ、C
3〜C
8−シクロアルキル、C
6〜C
24−アリールからなる群より選択される置換基、ならびに、ヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群より選択される官能基によって置換されていてもよいが、ここで、それらの置換基すべてで、好ましくはハロゲン、特に塩素または臭素、C
1〜C
5−アルキル、C
1〜C
5−アルコキシ、およびフェニルからなる群より選択される1個または複数個の置換基によってさらに置換されていてもよい。
【0068】
R
10およびR
11は、同一であるかまたは異なっていて、直鎖状もしくは分岐状の、C
1〜C
10−アルキル、C
3〜C
10−シクロアルキル、C
6〜C
24−アリール、特に好ましくはフェニル、C
1〜C
10−アルキルスルホネート、C
6〜C
10−アリールスルホネートを表しているのが好ましい。
【0069】
より好ましくは、
R
10およびR
11が同一であって、i−プロピル、ネオペンチル、アダマンチル、フェニル、2,6−ジイソプロピルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、または2,4,6−トリメチルフェニルからなる群より選択される。
【0070】
R
10およびR
11のこれら好ましい意味合いは、1個または複数個のさらなる、直鎖状もしくは分岐状のC
1〜C
10−アルキルもしくはC
1〜C
10−アルコキシ、C
3〜C
8−シクロアルキル、C
6〜C
24−アリールからなる群より選択される置換基、ならびに、ヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群より選択される官能基によって置換されていてもよいが、ここで、それらの置換基すべてで、好ましくはハロゲン、特に塩素または臭素、C
1〜C
5−アルキル、C
1〜C
5−アルコキシ、およびフェニルからなる群より選択される1個または複数個の置換基によってさらに置換されていてもよい。
【0071】
特に好ましいのは、一般式(A)の触媒であって、その中の配位子Lの一方または両方が、構造(IIIa)〜(IIIu)を有するイミダゾリンおよびイミダゾリジン配位子を表す、一般式(A)の触媒であるが、ここで、「Ph」は、それぞれの場合においてフェニルを意味し、「Bu」はブチルを意味し、「Mes」は、それぞれの場合において2,4,6−トリメチルフェニルを表し、「Dipp」は、すべての場合において2,6−ジイソプロピルフェニルを意味し、「Dimp」は2,6−ジメチルフェニルを意味しているが、ここで、Lの意味合いは、一般式(A)における両方の配位子Lが、(IIIa)〜(IIIu)に従う構造を有する場合においては、同一であっても、あるいは異なっていてもよい。
【化9】
【0072】
触媒(A)のさらに好ましい実施形態においては、配位子Lの一方または両方が一般式(IIc)または(IId)
【化10】
[式中、
R
8、R
9、およびR
10は、先に一般式(IIa)および(IIb)に関連させて、一般的な意味合い、好ましい意味合い、より好ましい意味合い、および最も好ましい意味合いのすべてを有していてよく、そして
R
15、R
16およびR
17は、同一であるかまたは異なっていて、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、またはヘテロシクリック基を表していてよい。]の意味合いを有していてよいが、ここで、両方の配位子Lが(IIc)または(IId)に従う構造を有している場合においては、Lの意味合いが、同一であっても、あるいは異なっていてもよい。
【0073】
一般式(IIc)および(IId)において、R
8、R
9、R
10、R
15、R
16、およびR
17はさらに、直鎖状もしくは分岐状のC
1〜C
5−アルキル、特にメチル、C
1〜C
5−アルコキシ、アリールからなる群より選択される、1個または複数個のさらなる、同一であるかまたは異なった置換基、ならびにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群より選択される官能基、によって置換されていてもよい。
【0074】
より好ましい実施形態においては、配位子Lが一般式(IId)を有しているが、ここで
R
15、R
16およびR
17が同一であるかまたは異なっているが、さらにより好ましくは同一であって、C
1〜C
20アルキル、C
3〜C
8−シクロアルキル、C
1〜C
20アルコキシ、C
6〜C
20アリール、C
6〜C
20アリールオキシ、C
2〜C
20ヘテロアリール、またはC
2〜C
20ヘテロシクリック基を表すことができる。
【0075】
さらにより好ましい実施形態においては、配位子Lが一般式(IId)を有しているが、ここで
R
15、R
16およびR
17が、同一であって、それぞれ、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、ネオフェニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、アントラセニル、トリル、2,6−ジメチルフェニル、およびトリフルオロメチルからなる群より選択される。
【0076】
配位子Lの一方または両方が一般式(IId)を有している場合においては、それがPPh
3、P(p−Tol)
3、P(o−Tol)
3、PPh(CH
3)
2、P(CF
3)
3、P(p−FC
6H
4)
3、P(p−CF
3C
6H
4)
3、P(C
6H
4−SO
3Na)
3、P(CH
2C
6H
4−SO
3Na)
3、P(イソプロピル)
3、P(CHCH
3(CH
2CH
3))
3、P(シクロペンチル)
3、P(シクロヘキシル)
3、P(ネオペンチル)
3またはP(ネオフェニル)
3を表しているのが最も好ましい。
【0077】
下記の2種の触媒の一つを含む触媒系が特に好ましいが、これらは一般式(A)に分類され、構造(IV)(Grubbs I触媒)および(V)(Grubbs II触媒)の構造を有するが、ここでCyはシクロヘキシルである。
【化11】
【0078】
さらなる実施形態においては、一般式(A1)
【化12】
[式中、
X
1、X
2およびLは、一般式(A)におけるのと同じ、一般的な意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いを有していてよく、
nは、0、1または2であり、
mは、0、1、2、3または4であり、そして
R’は、同一であるかまたは異なっていて、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニルまたはアルキルスルフィニル基であって、それらは、それぞれの場合において1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリールによって置換されていてもよい。]の触媒を使用することができる。
【0079】
一般式(A1)で表される好適な触媒としては、たとえば下記の式(VI)の触媒を使用することが可能であるが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルであり、Phはフェニルである。
【化13】
【0080】
文献においては「Nolan触媒」とも呼ばれている、この触媒は、たとえば国際公開第A−2004/112951号パンフレットからも公知である。
【0081】
一般式(A)の触媒、さらにはその好ましいおよびより好ましい実施形態も、固定化された形態で使用して、新規な触媒組成物を調製することもまた可能である。固定化は、支持体物質の表面へ、錯体触媒の化学結合を介して起こさせるのが好ましい。好適なのは、たとえば、以下に示しているように、一般式(支持体−1)、(支持体−2)、または(支持体−3)を有する錯体触媒であるが、ここで、M、Y、L、X
1、X
2、およびRは、この出願において、一般式(A)について先に列記した、一般的な意味合い、好ましい意味合い、より好ましい意味合い、特に好ましい意味合い、および最も好ましい意味合いのすべてを有していてよく、ここで「supp」は、支持体物質を表している。その支持体物質が、高分子物質またはシリカゲルを表しているのが好ましい。高分子物質としては、合成ポリマーまたは樹脂を使用することが出来るが、ポリエチレングリコール、ポリスチレンもしくは架橋ポリスチレン(たとえば、ポリ(スチレン−ジビニルベンゼン)コポリマー(PS−DVB))がより好ましい。そのような支持体物質は、その表面上に、錯体触媒の配位子または置換基の一つ、たとえば配位子LもしくはX
1、または以下の式に示されているような置換基R
3もしくはR
4に対して、共有結合を生成することが可能な官能基を含んでいる。
【化14】
【0082】
一般式の式(支持体−1)、(支持体−2)、または(支持体−3)のそのような固定化された触媒においては、「supp」は、より好ましくは、その表面上に、配位子の一つ、たとえば上述の式に示された、L、R、またはX
1に対して共有結合を形成することが可能な、1個または複数個の官能基「X
3」を有する、ポリマー性支持体、樹脂、ポリエチレングリコール、またはシリカゲルを表している。
【0083】
その表面上の好適な官能基「X
3」は、ヒドロキシル、アミノ、チオール、カルボキシル、C
1〜C
20アルコキシ、C
1〜C
20アルキルチオ、−Si(R)
3、−O−Si(R)
3、C
6〜C
14アリールオキシ、C
2〜C
14ヘテロシクリック、スルフィニル、スルホニル、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R)
2、−NR−C(=O)−N(R)
2、−SO
2N(R)
2、または−N(SO
2−R)
2であるが、ここで、X
3中に現れるRはすべて、同一であるかまたは異なっていて、H、C
1〜C
6−アルキル、C
5〜C
6−シクロアルキル、C
2〜C
6−アルケニル、C
2〜C
6−アルキニル、フェニル、イミダゾリル、トリアゾリル、またはピリジニル残基を意味するべきである。
【0084】
ポリスチレンまたは架橋ポリスチレンが好ましい支持体物質であるが、その表面上にヒドロキシル基を有していて、触媒に対して容易にカップリングできるのがさらにより好ましい。
【0085】
さらなる実施形態は、一般式(B)
【化15】
[式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
X
1およびX
2は、同一であるかまたは異なっていて、アニオン性配位子であり、
R”は、同一であるかまたは異なっていて、有機残基であり、
Imは、置換もしくは非置換のイミダゾリンまたはイミダゾリジン配位子であり、
Anは、アニオンである。]の触媒を使用することによって得ることが可能な触媒系を提供する。
【0086】
一般式(B)の触媒は基本的には公知である(たとえば、Angew.Chem.Int.Ed.,2004,43,6161−6165参照)。
【0087】
一般式(B)におけるX
1およびX
2は、式(A)におけるのと同じ、一般的な意味合い、好ましい意味合い、特に好ましい意味合いを有することができる。
【0088】
イミダゾリンまたはイミダゾリジン配位子は通常、先に一般式(A)の触媒について述べた一般式(IIa)または(IIb)の構造を有することができ、そこで好ましいとしたすべての構造、特に式(IIIa)〜(IIIu)の構造を有することができる。
【0089】
一般式(B)において、R”は、同一であるかまたは異なっていて、それぞれ、直鎖状もしくは分岐状のC
1〜C
30−アルキル、C
5〜C
30−シクロアルキル、またはアリールであるが、ここで、そのC
1〜C
30−アルキル残基は、1個もしくは複数の二重結合もしくは三重結合または1個または複数個のヘテロ原子、好ましくは酸素もしくは窒素によって中断されていてもよい。
【0090】
アリールは、6〜24個の骨格炭素原子を有する芳香族基である。6〜10個の骨格炭素原子を有する好適な単環式、2環式または3環式炭素環芳香族残基としては、たとえば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、またはアントラセニルをあげることができる。
【0091】
一般式(B)におけるR”が同一であって、それぞれフェニル、シクロヘキシル、シクロペンチル、イソプロピル、o−トリル、o−キシリル、またはメシチルであるのが好ましい。
【0092】
さらに別の実施形態では、一般式(C)
【化16】
[式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
R
13およびR
14はそれぞれ、互いに独立して、水素、C
1〜C
20−アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20−アルキニル、C
6〜C
24−アリール、C
1〜C
20−カルボキシレート、C
1〜C
20−アルコキシ、C
2〜C
20−アルケニルオキシ、C
2〜C
20−アルキニルオキシ、C
6〜C
24−アリールオキシ、C
2〜C
20−アルコキシカルボニル、C
1〜C
20−アルキルチオ、C
1〜C
20−アルキルスルホニル、またはC
1〜C
20−アルキルスルフィニルであり、
X
3は、アニオン性配位子であり、
L
2は、単環式であっても多環式であってもよい、電荷を有さないπ−結合されて配位子であり、
L
3は、ホスフィン、スルホネート化ホスフィン、フッ素化ホスフィン、3個までのアミノアルキル、アンモニオアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキル、ヒドロカルボニルアルキル、ヒドロキシアルキルもしくはケトアルキル基を有する官能化ホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスフィンアミン、アルシン スチビン、エーテル、アミン、アミド、イミン、スルホキシド、チオエーテル、およびピリジンからなる群より選択される配位子であり、
Y
−は、非配位アニオンであり、そして
nは、0、1、2、3、4または5である。]の触媒を使用することによって得ることが可能な触媒系が提供される。
【0093】
さらに別の実施形態では、一般式(D)
【化17】
[式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
X
1およびX
2は、同一であるかまたは異なっていて、一般式(A)および(B)において述べたX
1およびX
2のすべての意味合いを有することが可能な、アニオン性配位子であり、
記号Lは、同一であっても異なっていてもよい、一般式(A)および(B)において述べたLの一般的な意味合いおよび好ましい意味合いのすべてを有することが可能な配位子を表し、
R
19およびR
20は同一であるかまたは異なっていて、それぞれ水素または置換もしくは非置換のアルキルである。]の触媒を使用することによって得ることが可能な触媒系が提供される。
【0094】
さらに別の実施形態では、一般式(E)、(F)または(G)
【化18】
[式中、
Mは、オスミウムまたはルテニウムであり、
X
1およびX
2は、同一であるかまたは異なっていて、2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
Lは、配位子、好ましくは電荷を有さない電子供与体であり、
Z
1およびZ
2は、同一であるかまたは異なっていて、電荷を有さない電子供与体であり、
R
21およびR
22は、それぞれ、互いに独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボキシレート、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニルであるが、それらは、それぞれの場合において、アルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、もしくはヘテロアリールから選択される1個または複数個の置換基によって置換されていてもよい。]の触媒を使用することによって得ることが可能な、本発明による触媒系が提供される。
【0095】
一般式(E)、(F)および(G)の触媒は基本的には、たとえば、国際公開第2003/011455A1号パンフレット、国際公開第2003/087167A2号パンフレット、Organometallics,2001,20,5314、およびAngew.Chem.Int.Ed.,2002,41,4038、からも公知である。それらの触媒は市場で入手することも可能であるし、あるいは、上述の参考文献に記載の調製方法によって合成することもできる。
【0096】
本発明による触媒系においては、一般式(E)、(F)、および(G)の触媒を使用することができるが、そこでは、Z
1およびZ
2は、同一であるかまたは異なっていて、電荷を有さない電子供与体である。それらの配位子は通常、弱く配位結合されている。それらの配位子は典型的には、場合によっては置換されたヘテロシクリック基である。これらは、1〜4個、好ましくは1〜3個、特に好ましくは1もしくは2個のヘテロ原子を有する5員もしくは6員の単環式基、または、2、3、4もしくは5個のこのタイプの5員もしくは6員の単環式基から構成される2環式または多環式構造とすることができるが、ここで、上述の基はすべて、それぞれの場合において、場合によっては、1種または複数種のアルキル、好ましくはC
1〜C
10−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC
3〜C
8−シクロアルキル、アルコキシ、好ましくはC
1〜C
10−アルコキシ、ハロゲン、好ましくは塩素もしくは臭素、アリール、好ましくはC
6〜C
24−アリール、またはヘテロアリール、好ましくはC
5〜C
23−ヘテロアリールによって置換されていてもよいが、それらの基はさらに、それぞれ、1種または複数種の、好ましくはハロゲン、特に塩素または臭素、C
1〜C
5−アルキル、C
1〜C
5−アルコキシ、およびフェニル、からなる群より選択される残基によってさらに置換されていてもよい。
【0097】
Z
1およびZ
2の例には、窒素含有複素環たとえば、ピリジン、ピリダジン、ビピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピラゾリジン、ピロリジン、ピペラジン、インダゾール、キノリン、プリン、アクリジン、ビスイミダゾール、ピコリルイミン、イミダゾリン、イミダゾリジン、およびピロールが包含される。
【0098】
Z
1とZ
2とが相互に橋かけされて、環状構造を形成することも可能である。この場合においては、Z
1とZ
2とで、単一の二座配位の配位子を形成する。
【0099】
一般式(E)、(F)および(G)の触媒において、Lは、一般式(A)および(B)におけるLと同じ、一般的な意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いを有することができる。
【0100】
一般式(E)、(F)および(G)の触媒において、R
21およびR
22は、同一であるかまたは異なっていて、それぞれ、アルキル、好ましくはC
1〜C
30−アルキル、特に好ましくはC
1〜C
20−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC
3〜C
20−シクロアルキル、特に好ましくはC
3〜C
8−シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC
2〜C
20−アルケニル、特に好ましくはC
2〜C
16−アルケニル、アルキニル、好ましくはC
2〜C
20−アルキニル、特に好ましくはC
2〜C
16−アルキニル、アリール、好ましくはC
6〜C
24−アリール、カルボキシレート、好ましくはC
1〜C
20−カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC
1〜C
20−アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC
2〜C
20−アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC
2〜C
20−アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC
6〜C
24−アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC
2〜C
20−アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC
1〜C
30−アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC
1〜C
30−アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC
6〜C
24−アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC
1〜C
20−アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル、好ましくはC
1〜C
20−アルキルスルフィニルであるが、上述の置換基は、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール残基によって置換されていてもよい。
【0101】
一般式(E)、(F)、および(G)の触媒において、X
1およびX
2は、同一であるかまたは異なっていて、先に一般式(A)においてX
1およびX
2について示したのと同じ、一般的な意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いを有することができる。
【0102】
下記の一般式(E)、(F)および(G)の触媒を使用するのが好ましい。
Mは、ルテニウムであり、
X
1およびX
2は共に、ハロゲン、特に塩素であり、
R
1およびR
2は、同一であっても異なっていてもよく、1〜4個、好ましくは1〜3個、特に好ましくは1もしくは2個のヘテロ原子を有する5員もしくは6員の単環式基、または、2、3、4もしくは5個のこのタイプの5員もしくは6員の単環式基から構成される2環式または多環式構造とすることができるが、ここで、上述の基はすべて、それぞれの場合において、アルキル、好ましくはC
1〜C
10−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC
3〜C
8−シクロアルキル、アルコキシ、好ましくはC
1〜C
10−アルコキシ、ハロゲン、好ましくは塩素もしくは臭素、アリール、好ましくはC
6〜C
24−アリール、またはヘテロアリール、好ましくはC
5〜C
23−ヘテロアリールからなる群より選択される1個または複数個の残基によって置換されていてもよく、
Z
1およびZ
2は、同一であるかまたは異なっていて、1〜4個、好ましくは1〜3個、特に好ましくは1もしくは2個のヘテロ原子を有する5員もしくは6員の単環式の基、または、2、3、4もしくは5個のこのタイプの5員もしくは6員の単環式の基から構成される2環または多環構造であるが、ここで、それら上述の基のいずれもが、それぞれの場合において、場合によっては、1個または複数個の、アルキル、好ましくはC
1〜C
10−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC
3〜C
8−シクロアルキル、アルコキシ、好ましくはC
1〜C
10−アルコキシ、ハロゲン、好ましくは塩素もしくは臭素、アリール、好ましくはC
6〜C
24−アリール、またはヘテロアリール、好ましくはC
5〜C
23−ヘテロアリールによって置換されていてもよく、それらの基がそれぞれ、1個または複数個の、好ましくはハロゲン、特に塩素もしくは臭素、C
1〜C
5−アルキル、C
1〜C
5−アルコキシ、およびフェニルからなる群より選択される残基によってさらに置換されていてもよく、
R
21およびR
22は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれC
1〜C
30−アルキル、C
3〜C
20−シクロアルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20−アルキニル、C
6〜C
24−アリール、C
1〜C
20−カルボキシレート、C
1〜C
20−アルコキシ、C
2〜C
20−アルケニルオキシ、C
2〜C
20−アルキニルオキシ、C
6〜C
24−アリールオキシ、C
2〜C
20−アルコキシカルボニル、C
1〜C
30−アルキルアミノ、C
1〜C
30−アルキルチオ、C
6〜C
24−アリールチオ、C
1〜C
20−アルキルスルホニル、C
1〜C
20−アルキルスルフィニルであり、そして
Lは、上述の一般式(IIa)または(IIb)、特に式(IIIa)〜(IIIu)の一つの構造を有している。
【0103】
一般式(E)に分類される特に好ましい触媒は、構造(XIX)
【化19】
[式中、R
23およびR
24は、同一であるかまたは異なっていて、それぞれ、ハロゲン、直鎖状もしくは分岐状のC
1〜C
20−アルキル、C
1〜C
20−ヘテロアルキル、C
1〜C
10−ハロアルキル、C
1〜C
10−アルコキシ、C
6〜C
24−アリール、好ましくは臭素、フェニル、ホルミル、ニトロ、窒素複素環、好ましくはピリジン、ピペリジンもしくはピラジン、カルボキシ、アルキルカルボニル、ハロカルボニル、カルバモイル、チオカルバモイル、カルバミド、チオホルミル、アミノ、ジアルキルアミノ、トリアルキルシリル、またはトリアルコキシシリルである。]を有している。
【0104】
上述のR
23およびR
24についての意味合いで、C
1〜C
20−アルキル、C
1〜C
20−ヘテロアルキル、C
1〜C
10−ハロアルキル、C
1〜C
10−アルコキシ、C
6〜C
24−アリール、好ましくはフェニル、ホルミル、ニトロ、窒素複素環、好ましくはピリジン、ピペリジンもしくはピラジン、カルボキシ、アルキルカルボニル、ハロカルボニル、カルバモイル、チオカルバモイル、カルバミド、チオホルミル、アミノ、トリアルキルシリル、およびトリアルコキシシリルは、それぞれ、1種または複数種のハロゲン、好ましくはフッ素、塩素もしくは臭素、C
1〜C
5−アルキル、C
1〜C
5−アルコキシまたはフェニル残基によってさらに置換されていてもよい。
【0105】
式(XIX)の触媒の特に好ましい実施形態は、構造(XIXa)または(XIXb)を有するが、ここでR
23およびR
24は、式(XIX)において示したものと同じ意味合いを有する。
【化20】
【0106】
式(XIXa)においてR
23およびR
24がそれぞれ臭素である場合には、その触媒は、文献においては、「Grubbs III触媒」と呼ばれている。
【0107】
一般式(E)、(F)、および(G)に分類されるさらなる好適な触媒は、構造式(XX)−(XXXII)を有するが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6−トリメチルフェニルである。
【化21-1】
【化21-2】
【化21-3】
【0108】
さらなる実施形態は、一般的な構造要素(N1)
【化22】
[式中、
R
25〜R
32は、同一であるかまたは異なっていて、それぞれ、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アルデヒド、ケト、チオール、CF
3、ニトロ、ニトロソ、シアノ、チオシアノ、イソシアナト、カルボジイミド、カルバメート、チオカルバメート、ジチオカルバメート類、アミノ、アミド、イミノ、シリル、スルホネート(−SO
3−)、−OSO
3−、−PO
3−もしくはOPO
3−、またはアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボキシレート、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、ジアルキルアミノ、アルキルシリル、またはアルコキシシリルであるが、ここでこれらの残基はいずれも、それぞれ、場合によっては、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールもしくはヘテロアリール置換基によって置換されていてもよいし、あるいはその代わりに、R
25〜R
32を構成する基からの2個の直接隣接する置換基が、それらが結合している環の炭素と共に、橋かけによって環状基、好ましくは芳香族系を形成してもよいし、あるいはその代わりに、R
8が、場合によっては、ルテニウム−もしくはオスミウム−カルベン錯体触媒の他の配位子に橋かけされていてもよく、
mは、0または1であり、そして
Aは、酸素、硫黄、C(R
33R
34)、N−R
35、−C(R
36)=C(R
37)−、−C(R
36)(R
38)−C(R
37)(R
39)−であるが、ここで、R
33〜R
39は、同一であるかまたは異なっていて、それぞれ、R
25〜R
32と同じ意味合いを有することができる。]を有する触媒(N)を使用することにより得ることが可能な本発明による触媒系に関するが、ここで、その「*」を付けた炭素原子は、1個または複数個の二重結合を介して、ルテニウムまたはオスミウム中心金属を有する触媒骨格に結合されている。
【0109】
一般式(N1)の構造要素を有する触媒においては、「*」を付けた炭素原子は、1個または複数個の二重結合を介して触媒骨格に結合されている。「*」を付けた炭素原子が2個以上の二重結合を介して触媒骨格に結合されている場合には、それらの二重結合は集積されていても、あるいは共役されていてもよい。
【0110】
そのような触媒(N)は、米国特許出願公開第A−2009/0076226号明細書に記載があるが、その出願にはそれらの調製法も開示されている。
【0111】
一般式(N1)の構造要素を有する触媒(N)には、たとえば、以下の一般式(N2a)および(N2b)
【化23】
[式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
X
1およびX
2は、同一であるかまたは異なっていて、2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
L
1およびL
2は、同一であるかまたは異なっていて、配位子、好ましくは電荷を有さない電子供与体であるが、ここでL
2は、別の方法として、基R
8に橋かけされていてもよく、
nは、0、1、2または3、好ましくは0、1または2であり、
n’は、1または2、好ましくは1であり、そして
R
25〜R
32、m、およびAは、一般式(N1)におけるのと同じ意味合いを有している。]の触媒が含まれる。
【0112】
一般式(N2a)の触媒においては、一般式(N1)の構造要素は、錯体触媒の中心金属に対して、1個の二重結合(n=0)または、2、3もしくは4個の集積二重結合(n=1、2または3の場合)を介して結合されている。本発明による触媒系で使用するのに好適な一般式(N2b)の触媒においては、一般式(N1)の構造要素が、共役二重結合を介して、錯体触媒の金属に結合されている。両方の場合において、二重結合を介して、錯体触媒の中心金属の方向に向かっている「*」を付けた炭素原子。
【0113】
したがって、一般式(N2a)および(N2b)の触媒には、一般的な構造要素(N3)〜(N9)
【化24】
が、1個または複数個の二重結合を介し、「*」を付けた炭素原子を介して、一般式(N10a)または(N10b)
【化25】
[式中、X
1およびX
2、L
1およびL
2、n、n’、およびR
25〜R
39は、一般式(N2a)および(N2b)で与えられた意味合いを有している。]の触媒骨格に結合されている触媒が包含される。
【0114】
得られたRuベースまたはOsベースのカルベン触媒は、典型的には5配位(five−fold coordination)を有している。
【0115】
一般式(N1)の構造要素において、
R
25〜R
32は、同一であるかまたは異なっていて、それぞれ水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アルデヒド、ケト、チオール、CF
3、ニトロ、ニトロソ、シアノ、チオシアノ、イソシアナト、カルボジイミド、カルバメート、チオカルバメート、ジチオカルバメート、アミノ、アミド、イミノ、シリル、スルホネート(−SO
3−)、−OSO
3−、−PO
3−もしくはOPO
3−、またはアルキル、好ましくはC
1〜C
20−アルキル、特にC
1〜C
6−アルキル、シクロアルキル、好ましくはC
3〜C
20−シクロアルキル、特にC
3〜C
8−シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC
2〜C
20−アルケニル、アルキニル、好ましくはC
2〜C
20−アルキニル、アリール、好ましくはC
6〜C
24−アリール、特にフェニル、カルボキシレート、好ましくはC
1〜C
20−カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC
1〜C
20−アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC
2〜C
20−アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC
2〜C
20−アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC
6〜C
24−アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC
2〜C
20−アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC
1〜C
30−アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC
1〜C
30−アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC
6〜C
24−アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC
1〜C
20−アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、好ましくはC
1〜C
20−アルキルスルフィニル、ジアルキルアミノ、好ましくはジ(C
1〜C
20−アルキル)アミノ、アルキルシリル、好ましくはC
1〜C
20−アルキルシリル、またはアルコキシシリル、好ましくはC
1〜C
20−アルコキシシリルであるが、ここでこれらの残基は、それぞれ、場合によっては、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールもしくはヘテロアリール置換基によって置換されていてもよいし、あるいはその代わりに、それぞれの場合において、R
25〜R
32を構成する基からの2個の直接隣接する置換基が、それらが結合している環の炭素と共に、橋かけによって環状基、好ましくは芳香族系を形成してもよいし、あるいはその代わりに、R
8が、場合によっては、ルテニウム−もしくはオスミウム−カルベン錯体触媒の他の配位子に橋かけされていてもよく、
mは、0または1であり、そして
Aは、酸素、硫黄、C(R
33)(R
34)、N−R
35、−C(R
36)=C(R
37)−、−C(R
36)(R
38)−C(R
37)(R
39)−であるが、ここで、R
33〜R
39は、同一であるかまたは異なっていて、それぞれ、R
1〜R
8と同じ好ましい意味合いを有することができる。
【0116】
一般式(N1)の構造要素中のC
1〜C
6−アルキルは、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピルまたはn−ヘキシルである。
【0117】
一般式(N1)の構造要素中のC
3〜C
8−シクロアルキルは、たとえば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルまたはシクロオクチルである。
【0118】
一般式(N1)の構造要素中のC
6〜C
24−アリールには、6〜24個の骨格炭素原子を有する芳香族基が含まれる。6〜10個の骨格炭素原子を有する好適な単環式、2環式または3環式炭素環芳香族基としては、たとえば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、またはアントラセニルをあげることができる。
【0119】
一般式(N1)の構造要素中のX
1およびX
2は、一般式(A)の触媒において示したのと同じ、一般的な意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いを有することができる。
【0120】
一般式(N2a)および(N2b)ならびに同様に一般式(N10a)および(N10b)において、L
1およびL
2は同一であっても異なっていてもよい配位子、好ましくは電荷を持たない電子供与体であり、一般式Aの触媒について示したのと同じ、一般的な意味合い、好ましい意味合い、および特に好ましい意味合いを有することができる。
【0121】
以下の一般的構造単位(N1)を有する一般式(N2a)または(N2b)の触媒が好ましく、式中、
Mは、ルテニウムであり、
X
1およびX
2は、両方ともハロゲンであり、
一般式(N2a)においてnは、0、1または2であるか、または
一般式(N2b)においてn’は1であり、
L
1およびL
2は、同一であるかまたは異なっていて、一般式(N2a)および(N2b)において示したのと同じ、一般的な意味合いまたは好ましい意味合いを有しており、
R
25〜R
32は、同一であるかまたは異なっていて、一般式(N2a)および(N2b)において示したのと同じ、一般的な意味合いまたは好ましい意味合いを有しており、
mは、0または1のいずれかであり、
そして、m=1の場合には、
Aは、酸素、硫黄、C(C
1〜C
10−アルキル)
2、−C(C
1〜C
10−アルキル)
2−C(C
1〜C
10−アルキル)
2−、−C(C
1〜C
10−アルキル)=C(C
1〜C
10−アルキル)−、または−N(C
1〜C
10−アルキル)である。
【0122】
以下の一般構造単位(N1)を有する一般式(N2a)または(N2b)の触媒が極めて特に好ましく、式中、
Mは、ルテニウムであり、
X
1およびX
2は、いずれも塩素であり、
一般式(N2a)においてnは、0、1または2であるか、または
一般式(N2b)においてn’は1であり、
L
1は、式(IIIa)〜(IIIu)の一つのイミダゾリンまたはイミダゾリジン配位子であり、
L
2は、スルホネート化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィナイト、ホスホナイト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン基、式(XIIa)〜(XIIf)の一つのイミダゾリジン基、またはホスフィン配位子、特にPPh
3、P(p−Tol)
3、P(o−Tol)
3、PPh(CH
3)
2、P(CF
3)
3、P(p−FC
6H
4)
3、P(p−CF
3C
6H
4)
3、P(C
6H
4−SO
3Na)
3、P(CH
2C
6H
4−SO
3Na)
3、P(イソプロピル)
3、P(CHCH
3(CH
2CH
3))
3、P(シクロペンチル)
3、P(シクロヘキシル)
3、P(ネオペンチル)
3、およびP(ネオフェニル)
3であり、
R
25〜R
32は、一般式(N2a)および(N2b)において示したのと同じ、一般的な意味合いまたは好ましい意味合いを有しており、
mは、0または1のいずれかであり、
そして、m=1の場合には、
Aが、酸素、硫黄、C(C
1〜C
10−アルキル)
2、−C(C
1〜C
10−アルキル)
2−C(C
1〜C
10−アルキル)
2−、−C(C
1〜C
10−アルキル)=C(C
1〜C
10−アルキル)−、または−N(C
1〜C
10−アルキル)である。
【0123】
R
25が、式Nの触媒の他の配位子に橋かけされている場合には、それによって、たとえば一般式(N2a)および(N2b)の触媒では、以下の一般式(N13a)および(N13b)
【化26】
[式中、
Y
1は、酸素、硫黄、N−R
41またはP−R
41であるが、ここでR
41は、以下に示す意味合いを有しており、
R
40およびR
41は、同一であるかまたは異なっていて、それぞれ、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニルであるが、それらはそれぞれ、場合によっては、1個または複数個のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、またはヘテロアリール置換基によって置換されていてもよく、
pは、0または1であり、そして
Y
2は、p=1の場合には、−(CH
2)
r−(ここで、r=1、2または3)、−C(=O)−CH
2−、−C(=O)−、−N=CH−、−N(H)−C(=O)−であるか、それに代わって、全構造単位「−Y
1(R
40)−(Y
2)
p−」が、(−N(R
40)=CH−CH
2−)、(−N(R
40,R
41)=CH−CH
2−)であり、そして
ここで、M、X
1、X
2、L
1、R
25〜R
32、A、m、およびnは、一般式(N2a)および(N2b)におけるのと同じ意味合いを有している。]の構造となる。
【0124】
式(N)の触媒の例としては、以下の構造を挙げることができる。
【化27-1】
【化27-2】
【化27-3】
【0125】
本発明による方法の工程a):
本発明の方法の工程a)における触媒組成物の調製は、75℃〜200℃の範囲、好ましくは80℃〜200℃の範囲、より好ましくは80℃〜160℃の範囲の温度と、0.5MPa〜35MPaの範囲、好ましくは3MPa〜11MPaの範囲の適切な水素圧力とで実施される。触媒組成物を調製するための適切な時間は、1分〜24時間、好ましくは4時間〜20時間である。
【0126】
触媒組成物の調製は、典型的には、使用される触媒を不活性化させず、さらにはいかなる点においても反応に悪影響を与えない、適切な溶媒の中で実施される。好ましくは有機溶媒、より好ましくはジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、シクロヘキサン、またはクロロベンゼンが使用される。特に好ましい溶媒は、クロロベンゼンおよびメチルエチルケトンである。
【0127】
触媒組成物の形成は、ニトリルゴムの非存在下に実施するべきであって、ニトリルゴムは、第二工程においてのみ触媒組成物を接触させ、次いで水素化させる。
【0128】
触媒組成物の形成は、それぞれの水素圧力をかけるのに適した、各種適切な装置の中で実施することができる。具体的には、オートクレーブを使用する。触媒組成物が生成した後に、溶媒中に触媒組成物を含む反応混合物を、典型的には周囲温度まで、好ましくは20℃〜25℃の範囲の温度に冷却し、水素を放出させる。
【0129】
本発明による方法の工程b):
その後で、ニトリルゴムを、水素および工程a)で形成された触媒組成物と接触させることによって、ニトリルゴムの水素化を実施する。典型的には、ニトリルゴムを溶媒の中に溶解させ、脱気し、触媒組成物を含むオートクレーブに添加する。次いで、その反応系に水素を添加する。そのような工程b)において典型的には、先に工程a)の実施で定義したのと同一の溶媒を使用する。
【0130】
水素化は、典型的には、60℃〜200℃、好ましくは80℃〜180℃、最も好ましくは100℃〜160℃の範囲の温度と、0.5MPa〜35MPa、より好ましくは3.0MPa〜10MPaの範囲の水素圧力とで実施する。
【0131】
ニトリルゴムの水素化時間は、10分間〜24時間、好ましくは15分間〜20時間、より好ましくは30分間〜14時間、さらにより好ましくは1時間〜12時間であるのが好ましい。
【0132】
水素化工程b)において存在させる触媒組成物の量は、ニトリルゴムを基準にして、広い範囲で選択することが可能であるが、好ましくは、使用するニトリルゴムを基準にして、1〜1000ppm、好ましくは2〜500ppm、特には5〜250ppmの、ルテニウムまたはオスミウムが存在するようにする。
【0133】
本発明による方法の一つの大きな利点は、触媒組成物の活性が高いことであって、そのために、最終的なHNBR生成物における触媒残渣が十分に低くて、触媒金属の除去またはリサイクル工程が軽減されたり、さらには不要となったりする。しかしながら、所望により、たとえば欧州特許出願公開第A−2072532A1号明細書および欧州特許出願公開第A−2072533A1号明細書に記載されているように、イオン交換樹脂を使用することによって、水素化のために使用した触媒を除去してもよい。水素化反応で得られた反応混合物を取り出し、そのようなイオン交換樹脂を用いて、たとえば100℃で48時間窒素下で処理し、次いで、冷メタノールの中で沈殿させることができる。
【0134】
ニトリルゴム:
本発明の方法において使用されるニトリルゴムは、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および所望により、1種または複数種のさらなる共重合性モノマーのコポリマーまたはターポリマーである。
【0135】
共役ジエンは各種のタイプのものであってよい。(C
4〜C
6)共役ジエンを使用するのが好ましい。1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレン、またはそれらの混合物が特に好ましい。1,3−ブタジエンおよびイソプレンまたはそれらの混合物が極めて特に好ましい。特に好ましいのは1,3−ブタジエンである。
【0136】
α,β−不飽和ニトリルとしては、各種公知のα,β−不飽和ニトリル、好ましくは、(C
3〜C
5)α,β−不飽和ニトリル、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルまたはそれらの混合物を使用することができる。特に好ましいのは、アクリロニトリルである。
【0137】
したがって、本発明の方法において使用される特に好ましいニトリルゴムは、アクリロニトリルおよび1,3−ブタジエンから誘導される繰り返し単位を有するコポリマーである。
【0138】
共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルとは別に、水素化ニトリルゴムには、当業界で公知の1種または複数種のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位を含んでいてもよいが、そのようなものとしてはたとえば、α,β−不飽和(好ましくはモノ不飽和)モノカルボン酸、それらのエステルおよびアミド、α,β−不飽和(好ましくはモノ不飽和)ジカルボン酸、それらのモノエステルまたはジエステル、さらには前記α,β−不飽和ジカルボン酸に対応する無水物またはアミドなどが挙げられる。
【0139】
α,β−不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸およびメタクリル酸を使用するのが好ましい。
【0140】
α,β−不飽和モノカルボン酸のエステル、特にアルキルエステル、アルコキシアルキルエステル、アリールエステル、シクロアルキルエステル、シアノアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、およびフルオロアルキルエステルを使用することもできる。
【0141】
アルキルエステルとしては、好ましくはα,β−不飽和モノカルボン酸のC
1〜C
18アルキルエステル、より好ましくはアクリル酸またはメタクリル酸のC
1〜C
18アルキルエステル、たとえば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、tert.−ブチルアクリレート、2−エチル−ヘキシルアクリレート、n−ドデシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert.−ブチルメタクリレート、および2−エチルヘキシル−メタクリレートが使用される。
【0142】
アルコキシアルキルエステルとしては、好ましくはα,β−不飽和モノカルボン酸のC
2〜C
18アルコキシアルキルエステル、より好ましくはアクリル酸またはメタクリル酸のアルコキシアルキルエステル、たとえばメトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、およびメトキシエチル(メタ)アクリレートが使用される。
【0143】
アリールエステル、好ましくはC
6〜C
14−アリールエステル、より好ましくはC
6〜C
10−アリールエステル、最も好ましくは上述のアクリレートおよびメタクリレートのアリールエステルを使用することもまた可能である。
【0144】
また別の実施形態においては、シクロアルキルエステル、好ましくはC
5〜C
12−、より好ましくはC
6〜C
12−シクロアルキル、最も好ましくは上述のシクロアルキルアクリレートおよびメタクリレートが使用される。
【0145】
シアノアルキルエステル、シアノアルキル基の中に2〜12個のC原子を有する特にアクリル酸シアノアルキルまたはメタクリル酸シアノアルキル、好ましくはアクリル酸α−シアノエチル、アクリル酸β−シアノエチル、またはメタクリル酸シアノブチルを使用することもまた可能である。
【0146】
別の実施形態においては、ヒドロキシアルキルエステル、特に、ヒドロキシルアルキル基の中に1〜12個のC原子を有する、アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびメタクリル酸ヒドロキシアルキル、好ましくはアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、またはアクリル酸3−ヒドロキシプロピルも使用される。
【0147】
フルオロベンジルエステル、特にアクリル酸フルオロベンジルまたはメタクリル酸フルオロベンジル、好ましくはアクリル酸トリフルオロエチルおよびメタクリル酸テトラフルオロプロピルを使用することも可能である。たとえばアクリル酸ジメチルアミノメチル、およびアクリル酸ジエチルアミノエチルのような、置換されたアミノ基を含むアクリレートおよびメタクリレートを使用してもよい。
【0148】
α,β−不飽和カルボン酸のその他各種のエステルを使用することもできるが、そのようなものとしては、たとえば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシメチル)アクリルアミド、またはウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0149】
上述のα,β−不飽和カルボン酸のエステルすべての混合物も使用することができる。
【0150】
さらに、α,β−不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、およびメサコン酸を使用してもよい。
【0151】
また別の実施形態においては、α,β−不飽和ジカルボン酸の無水物、好ましくは無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、および無水メサコン酸が使用される。
【0152】
さらなる実施形態においては、α,β−不飽和ジカルボン酸のモノエステルまたはジエステルを使用することもできる。好適なアルキルエステルは、たとえば、C
1〜C
10−アルキル、好ましくはエチル−、n−プロピル−、iso−プロピル、n−ブチル−、tert.−ブチル、n−ペンチル−、またはn−ヘキシルのモノエステルまたはジエステルである。好適なアルコキシアルキルエステルは、たとえば、C
2〜C
12アルコキシアルキル、好ましくはC
3〜C
8−アルコキシアルキルのモノエステルまたはジエステルである。好適なヒドロキシアルキルエステルは、たとえば、C
1〜C
12ヒドロキシアルキル、好ましくはC
2〜C
8−ヒドロキシアルキルのモノエステルまたはジエステルである。好適なシクロアルキルエステルは、たとえば、C
5〜C
12−シクロアルキル、好ましくはC
6〜C
12−シクロアルキルのモノエステルまたはジエステルである。好適なアルキルシクロアルキルエステルは、たとえば、C
6〜C
12−アルキルシクロアルキル、好ましくはC
7〜C
10−アルキルシクロアルキルのモノエステルまたはジエステルである。好適なアリールエステルは、たとえば、C
6〜C
14−アリール、好ましくはC
6〜C
10−アリールのモノエステルまたはジエステルである。
【0153】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルモノマーの明白な例としては、以下のものが挙げられる:
・ マレイン酸モノアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、およびマレイン酸モノn−ブチル;
・ マレイン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、およびマレイン酸モノシクロヘプチル;
・ マレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチル、およびマレイン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ マレイン酸モノアリールエステル、好ましくはマレイン酸モノフェニル;
・ マレイン酸モノベンジルエステル、好ましくはマレイン酸モノベンジル;
・ フマル酸モノアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、およびフマル酸モノ−n−ブチル;
・ フマル酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、およびフマル酸モノシクロヘプチル;
・ フマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノメチルシクロペンチル、およびフマル酸モノエチルシクロヘキシル;
・ フマル酸モノアリールエステル、好ましくはフマル酸モノフェニル;
・ フマル酸モノベンジルエステル、好ましくはフマル酸モノベンジル;
・ シトラコン酸モノアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、およびシトラコン酸モノ−n−ブチル;
・ シトラコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、およびシトラコン酸モノシクロヘプチル;
・ シトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノメチルシクロペンチル、およびシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ シトラコン酸モノアリールエステル、好ましくはシトラコン酸モノフェニル;
・ シトラコン酸モノベンジルエステル、好ましくはシトラコン酸モノベンジル;
・ イタコン酸モノアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、およびイタコン酸モノ−n−ブチル;
・ イタコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、およびイタコン酸モノシクロヘプチル;
・ イタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノメチルシクロペンチル、およびイタコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ イタコン酸モノアリールエステル、好ましくはイタコン酸モノフェニル;
・ イタコン酸モノベンジルエステル、好ましくはイタコン酸モノベンジル。
【0154】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステルモノマーとしては、上に明記したモノエステルモノマーをベースとした類似のジエステルを使用してもよいが、しかしながら、酸素原子を介してC=O基に結合される二つの有機基は同一であっても、異なっていてもよい。
【0155】
さらなるターモノマーとしては、ビニル芳香族モノマーたとえば、スチロール、α−メチルスチロール、およびビニルピリジン、さらには非共役ジエンたとえば、4−シアノシクロヘキセンおよび4−ビニルシクロヘキセン、さらにはアルキンたとえば、1−もしくは2−ブチンを使用してもよい。
【0156】
特に好ましいのは、以下に示す式
【化28】
[式中、
R
1は、水素またはメチル基であり、そして
R
2、R
3、R
4、R
5は、同一であるかまたは異なっていて、H、C
1〜C
12アルキル、シクロアルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、エポキシアルキル、アリール、ヘテロアリールを表していてよい。]から選択されるターモノマーである。
【0157】
使用されるNBRポリマーの中での共役ジエンとα,β−不飽和ニトリルとの比率は、広い範囲で変化させることができる。単一の共役ジエン、または共役ジエンを合計したものの比率は、全ポリマーを基準にして、通常は40〜90重量%の範囲、好ましくは60〜85重量%の範囲である。単一のα,β−不飽和ニトリル、またはα,β−不飽和ニトリルを合計したものの比率は、全ポリマーを基準にして、通常は10〜60重量%、好ましくは15〜40重量%である。いずれの場合においても、モノマーの比率を合計したものが100重量%となる。追加のモノマーは、全ポリマーを基準にして、0〜40重量%、好ましくは0.1〜40重量%、特に好ましくは1〜30重量%の量で存在させることができる。この場合、単一もしくは複数の共役ジエンおよび/または単一もしくは複数のα,β−不飽和ニトリルの相当する比率を、追加のモノマーの比率で置き換えるが、それぞれの場合において、全部のモノマーの比率を合計して100重量%とする。
【0158】
上述のモノマーを重合させてニトリトゴム(nitrite rubber)を調製することは、当業者には周知のことであって、文献に包括的に記載されている。本発明の目的のために使用することが可能なニトリルゴムは、たとえばLanxess Deutschland GmbHによって、Perbunan(登録商標)およびKrynac(登録商標)グレードとして販売されている製品として、市場で入手することも可能である。
【0159】
水素化されるニトリルゴムは、ASTM標準D1646に従って測定して、1〜75、好ましくは5〜50の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)を有している。その重量平均分子量Mwは、2,000〜400,000g/mol、好ましくは20,000〜300,000の範囲である。それらのニトリルゴムは、1〜5の範囲の多分散性PDI=Mw/Mn(ここで、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である)を有している。ムーニー粘度の測定は、ASTM標準D1646に従って実施する。
【0160】
本発明による触媒組成物を調製するために使用されるルテニウムまたはオスミウムをベースとする触媒のメタセシス活性は、本発明の触媒組成物の中には存在していないので、水素化の後で得られる水素化ニトリルゴムの分子量は、元のNBR原料と同等であり、水素化の間にさらに低下するということはない。
【0161】
したがって、2,000〜400,000g/molの範囲、好ましくは20,000〜300,000の範囲の重量平均分子量Mwを有する水素化ニトリルゴムが得られる。その水素化ニトリルゴムの、ASTM標準D1646に従って測定したムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、1〜150、好ましくは10〜100の範囲である。多分散性PDI=Mw/Mn(ここで、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である)は、1〜5の範囲、好ましくは1.5〜4の範囲である。
【0162】
本発明の目的においては、水素化とは、出発ニトリルゴムの中に存在している二重結合を、少なくとも50%、好ましくは70〜100%、より好ましくは80〜100%、さらにより好ましくは90〜100%反応させることである。
【0163】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明するが、本発明がそれらによって限定されることは意図されておらず、実施例におけるすべての部およびパーセントは、特に断らない限り、重量基準である。
【実施例】
【0164】
実施例に使用した触媒:
触媒(1)および(2)は、Sigma AldrichまたはStrem Chemicals Inc.から購入した。触媒(3)は、Xian Kaili Co.(中国)から購入した。それらの触媒の構造を次に示すが、ここで「Mes」は、メシチル(2,4,6−トリメチルフェニル)を意味し、「Cy」はシクロヘキシルを意味している。
【化29】
【0165】
これらの触媒は下記の分子量を有している。
【0166】
【表1】
【0167】
ニトリルブタジエンゴム:
実施例に用いたニトリルブタジエンゴムは、表1にまとめた性質を有していた。
【0168】
【表2】
【0169】
分析試験:
GPC試験:
見かけの分子量MnおよびMwは、Waters 1515高性能液体クロマトグラフィーポンプ、Waters 717plus オートサンプラー、PLゲル10μm混合Bカラム、およびWaters 2414RI検出器を備えた、Waters GPCシステムによって求めた。GPC試験は、40℃で、溶出液としての流速1mL/分のTHFを用いて実施し、GPCカラムは、狭い分子量分布の標準PSを用いて較正した。
【0170】
FT−IR試験:
水素化反応の前、途中および後のニトリルゴムのスペクトルを、Perkin Elmer spectrum 100 FT−IR分光計に記録した。ニトリルブタジエンゴムのMCB中溶液をKBrディスクの上にキャストして、乾燥させ、試験のための膜を形成させた。水素化の転化率は、ASTM D5670−95法に従ってFT−IR分析により求める。
【0171】
略号:
phr:ゴム100重量部あたり
rpm:回転/分
Mn:数平均分子量
Mw:重量平均分子量
PDI:多分散性指数(Mw/Mnで定義される)
PPh
3:トリフェニルホスフィン
MCB:モノクロロベンゼン
RT:室温(22±2℃)
【0172】
比較例1:(比較例、触媒(3)を使用)
282gのMCB中18gのPerbunan(登録商標)3431VPの溶液を、600mLのParrオートクレーブの中で、窒素を用いて30分間バブリングしてから、加熱して120℃とした。Wilkinson触媒(15mg)およびPPh
3(18mg)を、別の22gの脱気したMCBの中に溶解させてから、その反応器の中に添加した。4.137MPaの水素圧力および800rpmの撹拌速度で水素化を実施した。一定間隔で反応器からFT−IR分析のためのサンプルを抜き出して、水素化度を求めた。5時間の水素化の後では、その水素化度が90.3%に達したので、反応器を冷却して室温とし、圧力を開放した。最終的な分子量およびPDIは次のとおりであった:Mn=76,286、Mw=260,572、PDI=3.42。
【0173】
実施例2:(本発明実施例;Perbunan(登録商標)3431VP;触媒(2))
オートクレーブ中で触媒(2)(36mg)を176gの脱気したMCBの中に溶解させ、4.137MPaの圧力で水素を加え、その溶液を120℃で12時間撹拌した。次いでその触媒組成物を含むオートクレーブを冷却して室温とし、水素の圧力を開放した。ガラスフラスコの中で、564gのMCB中36gのPerbunan(登録商標)3431VPの溶液を、窒素を用いて30分間バブリングしてから、触媒組成物を含むオートクレーブの中に圧入した。次いでオートクレーブを加熱して120℃とした。次いで、4.137MPaの水素圧力および800rpmの撹拌速度で水素化を実施した。一定間隔で反応器からFT−IR分析のためのサンプルを抜き出して、水素化度を求めた。12時間の水素化の後では、その水素化度が75.5%に達した。最終的な分子量およびPDIは次のとおりであった:Mn=83,557、Mw=284,837、PDI=3.41。
【0174】
実施例3:(本発明実施例;Perbunan(登録商標)3431VP;触媒(2))
すべての条件および操作は実施例2におけるのと同じであるが、ただし、触媒(2)を水素と接触させることによって触媒組成物を調製している際の温度、さらにはそれに続く水素化の際の温度を、120℃に代えて100℃とした。12時間の水素化の後では、その水素化度が85%に達した。最終的な分子量およびPDIは次のとおりであった:Mn=81,045、Mw=257,028、PDI=3.17。
【0175】
実施例4:(本発明実施例;Perbunan(登録商標)3431VP;触媒(1))
すべての条件および操作は実施例2におけるのと同じであるが、ただし、触媒(1)を使用し、そして触媒(1)を水素と接触させることによって触媒組成物を調製している際の温度、さらにはそれに続く水素化の際の温度を、120℃に代えて100℃とした。12時間の水素化の後では、その水素化度が81.6%に達した。最終的な分子量およびPDIは次のとおりであった:Mn=77,588、Mw=247,515、PDI=3.19。
【0176】
例1〜4の結果を表2にまとめた。比較のためという理由だけで、出発ニトリルゴムであって、それに続けて例1〜4で水素化にかけたものについての、数平均分子量および重量平均分子量さらにはPDIを、表2の最後に加えておいた。
【0177】
【表3】