(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ダイボンド層形成フィルムが、半導体チップをダイ搭載部に接着するためのダイボンディング用接着フィルムである請求項1または2に記載のダイボンド層形成フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.ダイボンド層形成フィルム
本実施形態に係るダイボンド層形成フィルムは、ワーク(半導体ウエハなど)を加工して得られる加工物(チップなど)を被着体(回路基板など)に対して固着させる際に用いられるダイボンド層を形成するためのものである。このダイボンド層形成フィルムは接着剤層を備え、接着剤層からなる単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。
【0018】
ダイボンド層形成フィルムが多層構造を有している場合において、その具体的な構造は限定されない。例えば、コア材料の両面に接着剤層が形成された積層構造を有していていもよい。前記コア材料としては、フィルム(例えばポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等)、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維で強化された樹脂基板、シリコン基板またはガラス基板等が挙げられる。以下の説明では、ダイボンド層形成フィルムが接着剤層からなる単層構造を有する場合を具体例とする。
【0019】
ダイボンド層形成フィルムからダイボンド層を形成する方法は限定されない。一例を挙げれば、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層が熱硬化性材料を含有し、この接着剤層を加熱することによりダイボンド層が形成される。他の例として、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層がエネルギー線硬化性材料を含有し、この接着剤層へのエネルギー線を照射することによりダイボンド層が形成されることが挙げられる。
【0020】
ワークが半導体ウエハであって、当該ワークを加工して得られる加工物が半導体チップである場合には、ダイボンド層は、半導体ウエハにおけるバンプ等の電極が形成されていない側に形成され、半導体ウエハから形成されたチップの電極は、ダイボンド層によりチップが固着される被着体の電極とワイヤーボンディングにより接続される。本実施形態に係るダイボンド層形成フィルムの接着剤層は耐熱履歴性に優れるため、かかるダイボンド層形成フィルムから形成されたダイボンド層は接着信頼性が高い。
【0021】
ダイボンド層形成フィルムには、少なくとも次の3機能が要求される。
(機能1)シート形状維持性
(機能2)初期接着性
(機能3)硬化性
【0022】
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層が、これらの3機能のすべてを有していることが好ましい。特に、ダイボンド層形成フィルムが接着剤層の単層構造からなる場合には、接着剤層が上記の3機能のすべてを有していることが求められる。
【0023】
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層の物性および組成について以下説明する。
【0024】
(1)物性
(1−1)弾性極小温度
本実施形態に係るダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層は、その貯蔵弾性率の温度依存性を測定した際に、80℃から150℃の範囲内に貯蔵弾性率の極小値を有する。本明細書において、接着剤層の貯蔵弾性率の極小値を与える温度を「弾性極小温度」ともいう。
【0025】
弾性極小温度が80℃以上であることにより下記の高温せん断強度を適切な値にすることが容易となり、接着剤層の保存安定性が低下しにくくなる。
【0026】
弾性極小温度が150℃以下であることにより、ダイボンド層形成フィルムの接着剤層のワイヤーボンディング適性を高めることが可能となる。通常、ワイヤーボンディングは170〜180℃程度で行われることから、弾性極小温度が150℃以下である場合には、ダイボンド層形成フィルムの接着剤層の貯蔵弾性率が、ワイヤーボンディング中には適切に高まり、ダイボンド層形成フィルムを備える積層構造体(チップなどの加工物と、ダイボンド層形成フィルムと、被着体との積層構造を備える。)に対して適切なワイヤーボンディングを行うことが容易となる。接着剤層のワイヤーボンディング適性が低い場合には、ワイヤーボンディングにより形成されたワイヤー(ボンドワイヤー)のシェア強度が低下する、具体的な一例を挙げれば10g未満となる、などの不具合が生じやすくなる。
【0027】
接着剤層の形状安定性を高めるとともにワイヤーボンディング適性を高める観点から、弾性極小温度は90℃以上140℃以下であることが好ましい。
【0028】
弾性極小温度が上記範囲となることを容易にする観点から、本実施形態に係るダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層は熱硬化性材料を含むことが好ましい。
【0029】
(1−2)高温せん断強度
本実施形態に係るダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層は、次に定義される高温せん断強度が20N/2mm
□以上50N/2mm
□以下である。
本明細書において、高温せん断強度とは、ダイボンド層形成フィルムを介して加工物が載置された剥離強度検査基板上の当該ダイボンド層形成フィルムを、175℃で1時間加熱した後、さらに250℃の環境下で30秒間保持した後に測定される、接着剤層の前記基板に対するせん断強度を意味する。剥離強度検査基板は、具体的には後述する実施例に記載するものである。
【0030】
接着剤層の高温せん断強度が20N/2mm
□以上であることにより、接着剤層のワイヤーボンディング適性を高めることが可能となる。ワイヤーボンディング適性が低い場合には、ボンドワイヤーのシェア強度が低下する、具体的な一例を挙げれば10g未満となる、などの不具合が生じやすくなる。
【0031】
接着剤層の高温せん断強度が50N/2mm
□以下であることにより接着剤層の耐熱履歴性を高めることが可能となる。接着剤層の耐熱履歴性が低い場合には、ダイボンド層形成フィルムが加熱されたことによって接着剤層と被着体との境界に生じた気泡(ボイド)が消失しにくく、その結果、ダイボンド層を備える半導体装置(チップなどの加工物と、ダイボンド層と、被着体との積層構造を備える。)に対してリフロー処理などの加熱処理が行われたときに、被着体からダイボンド層が剥離しやすくなる、すなわち、ダイボンド層の接着信頼性が低下する。
【0032】
接着剤層のワイヤーボンディング適性を高めるとともに耐熱履歴性を高める観点から、高温せん断強度は20N/2mm
□以上40N/2mm
□以下であることが好ましく、20N/2mm
□以上30N/2mm
□以下であることがより好ましい。高温せん断強度がこのように低い範囲にあると、後述するように重合体成分(A)、硬化性成分(B)および硬化促進剤(B3)の合計量の、接着剤層全体の質量に占める質量割合が、95質量%以上である場合であっても、耐熱履歴性を高めることが容易となる。
【0033】
高温せん断強度が上記範囲となることを容易にする観点から、本実施形態に係るダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層は熱硬化性材料を含むことが好ましい。
【0034】
(2)接着剤層の組成
本発明の一実施形態に係るダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層は、バインダー成分を含有することが好ましい。これにより、(機能1)シート形状維持性および(機能3)硬化性をダイボンド層形成フィルムに付与することが容易となる。
【0035】
バインダー成分の具体例として、重合体成分(A)および熱硬化性成分(B)を含むものが挙げられる。また、バインダー成分はさらに硬化促進剤(B3)を含むことが好ましい。
【0036】
なお、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層を硬化させるまでの間、ワークに仮着させておくための機能である(機能2)初期接着性は、感圧接着性であってもよく、熱により軟化して接着する性質であってもよい。(機能2)初期接着性は、通常バインダー成分の諸特性や、後述する充填材(C)の配合量の調整などにより制御される。
【0037】
(A)重合体成分
重合体成分(A)は、接着剤層にシート形状維持性を付与することを主目的として添加される。
【0038】
上記の目的を達成するため、重合体成分(A)の重量平均分子量(Mw)は、通常20,000以上であり、20,000〜3,000,000であることが好ましい。
【0039】
重合体成分(A)としては、アクリル重合体、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリシロキサン、ゴム系重合体等を用いることができる。また、これらの2種以上が結合したもの、たとえば、水酸基を有するアクリル重合体であるアクリルポリオールに、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを反応させることにより得られるアクリルウレタン樹脂等であってもよい。さらに、2種以上が結合した重合体を含め、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(A1)アクリル重合体
重合体成分(A)としては、アクリル重合体(A1)が好ましく用いられる。アクリル重合体(A1)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60〜50℃、より好ましくは−50〜40℃、さらに好ましくは−40〜30℃の範囲にある。アクリル重合体(A1)のガラス転移温度が高いと接着剤層の接着性が低下し、ダイボンド層形成フィルムをワークに転写できなくなることや、転写後にダイボンド層形成フィルムがワークから剥離する等の不具合を生じることがある。
【0041】
アクリル重合体(A1)の重量平均分子量(Mw)は、100,000〜1,500,000であることが好ましい。アクリル重合体(A1)の重量平均分子量が高いと接着剤層の接着性が低下し、ダイボンド層形成フィルムをワークに転写できなくなることや、転写後にダイボンド層形成フィルムがワークから剥離する等の不具合を生じることがある。
【0042】
アクリル重合体(A1)は、少なくとも構成する単量体に、(メタ)アクリル酸エステルモノマーあるいはその誘導体を含む。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1〜20であるアルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が用いられる。これらの中でも、特に好ましくはアルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート等が用いられる。アクリル重合体(A1)の構成単位は、官能基含有モノマーに由来するものであってもよく、このようなモノマーは、重合性の二重結合と、ヒドロキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基とを分子内に有するモノマーであることが好ましい。そのほか、酢酸ビニル、スチレン等の非アクリル系のモノマーを共重合してもよい。
【0043】
上記官能基含有モノマーのさらに具体的な例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマーなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0044】
アクリル重合体(A1)を構成する単量体として、カルボキシル基を有する単量体を用いてもよいが、後述する熱硬化性成分(B)として、エポキシ系熱硬化性成分を用いる場合には、カルボキシル基とエポキシ系熱硬化性成分中のエポキシ基が反応してしまうため、カルボキシル基を有する単量体の使用量は少ないことが好ましい。
【0045】
接着剤層が後述する架橋剤(E)を含有する場合には、アクリル重合体(A1)は、上述した官能基含有モノマーに由来する構成単位を含むことなどにより、反応性官能基を有することが好ましい。
【0046】
中でも、反応性官能基として水酸基を有するアクリル重合体(A1)は、その製造が容易であり、架橋剤(E)を用いて架橋構造を導入することが容易になるため好ましい。また、水酸基を有するアクリル重合体(A1)は、後述する熱硬化性成分(B)との相溶性に優れる。
【0047】
アクリル重合体(A1)を構成するモノマーとして、反応性官能基を有する単量体を用いることによりアクリル重合体(A1)に反応性官能基を導入する場合、反応性官能基を有する単量体の、アクリル重合体(A1)を構成するモノマーの全質量中の割合は1〜20質量%程度が好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。アクリル重合体(A1)における、反応性官能基を有する単量体に由来する構成単位を上記範囲とすることで、反応性官能基と架橋剤(E)の架橋性官能基とが反応して三次元網目構造を形成し、アクリル重合体(A1)の架橋密度を高めることができる。その結果、接着剤層を備えるダイボンド層形成フィルムから形成されたダイボンド層のせん断強度を高めることが容易となる。また、接着剤層の高温せん断強度を上述の範囲に調整することが容易となる場合もある。さらに、接着剤層の吸水性が低下するため、パッケージ信頼性に優れる半導体装置を得ることができる。
【0048】
(A2)非アクリル系樹脂
また、重合体成分(A)として、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリシロキサン、ゴム系重合体またはこれらの2種以上が結合したものから選ばれる非アクリル系樹脂(A2)の1種単独または2種以上の組み合わせを用いてもよい。このような樹脂としては、重量平均分子量が20,000〜100,000のものが好ましく、20,000〜80,000のものがさらに好ましい。
【0049】
非アクリル系樹脂(A2)のガラス転移温度は、好ましくは−30〜150℃、さらに好ましくは−20〜120℃の範囲にある。
【0050】
非アクリル系樹脂(A2)を、上述のアクリル重合体(A1)と併用した場合には、ダイボンド層形成フィルムをワークに転写する際に、粘着シートとダイボンド層形成フィルムとの層間剥離を容易に行うことができ、さらに転写面にダイボンド層形成フィルムの接着剤層が追従しボイドなどの発生を抑えることができる。
【0051】
非アクリル系樹脂(A2)を、上述のアクリル重合体(A1)と併用する場合には、非アクリル系樹脂(A2)の含有量は、非アクリル系樹脂(A2)とアクリル重合体(A1)との質量比(A2:A1)において、通常1:99〜60:40、好ましくは1:99〜30:70の範囲にある。非アクリル系樹脂(A2)の含有量がこの範囲にあることにより、上記の効果を得ることができる。
【0052】
重合体成分(A)として、側鎖にエポキシ基を有するアクリル重合体(A1)や、フェノキシ樹脂を用いた場合には、重合体成分(A)の有するエポキシ基が熱硬化に関与することがあるが、本発明ではこのような重合体または樹脂も、熱硬化成分(B)ではなく、重合体成分(A)として扱う。
【0053】
(B)熱硬化性成分
熱硬化性成分(B)は、接着剤層に熱硬化性を付与することを主目的として添加される。
【0054】
熱硬化性成分(B)は、エポキシ基を有する化合物(以下、単に「エポキシ化合物」と記載することがある。)(B1)を含有することが好ましく、エポキシ化合物(B1)と熱硬化剤(B2)とを組み合わせたものを用いることが好ましい。
【0055】
熱硬化性成分(B)に含まれる化合物は、重合体成分(A)と組み合わせて用いるため、接着剤層を形成するための塗工用組成物の粘度を抑制し、取り扱い性を向上させる等の観点から、通常その重量平均分子量(Mw)は、10,000以下であり、100〜10,000であることが好ましい。
【0056】
熱硬化性成分(B)に含まれるエポキシ化合物(B1)としては、従来公知のエポキシ化合物を用いることができる。このようなエポキシ化合物としては、具体的には、多官能系エポキシ樹脂や、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
また、エポキシ化合物(B1)として、反応性二重結合基を有するエポキシ化合物を使用してもよい。反応性二重結合基を有するエポキシ化合物としては、ダイボンド層形成フィルムから形成されるダイボンド層の強度や耐熱性が向上するため、芳香環を有するものが好ましい。このようなエポキシ化合物の有する反応性二重結合基としては、好ましくはビニル基、アリル基および(メタ)アクリロイル基などが挙げられ、より好ましくはメタクリロイル基が挙げられる。
【0058】
このような反応性二重結合基を有するエポキシ化合物としては、たとえば、多官能のエポキシ化合物のエポキシ基の一部が反応性二重結合基を含む基に変換されてなる化合物が挙げられる。このような化合物は、たとえば、エポキシ基へアクリル酸を付加反応させることにより合成できる。あるいは、エポキシ樹脂を構成する芳香環等に、反応性二重結合基を含む基が直接結合した化合物などが挙げられる。具体的な製品名としては、日本化薬社製のCNA−147等が挙げられる。
【0059】
エポキシ化合物(B1)の数平均分子量は、特に制限されないが、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層の硬化性やダイボンド層の強度や耐熱性の観点からは好ましくは300〜30,000、さらに好ましくは400〜10,000、特に好ましくは500〜3,000である。
【0060】
熱硬化性成分(B)に含まれる熱硬化剤(B2)は、エポキシ化合物(B1)に対する硬化剤として機能する。熱硬化剤(B2)としては、1分子中にエポキシ基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。
【0061】
アミノ基を有する熱硬化剤(アミン系熱硬化剤)の具体的な例としては、DICY(ジシアンジアミド)が挙げられる。
【0062】
フェノール性水酸基を有する熱硬化剤(フェノール系熱硬化剤)の具体的な例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂が挙げられる。
【0063】
これらは、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0064】
熱硬化性成分(B)に含まれる熱硬化剤(B2)の数平均分子量は好ましくは40〜30,000、さらに好ましくは60〜10,000、特に好ましくは80〜3,000である。
【0065】
ダイボンド層形成フィルムが含有する接着剤層における熱硬化剤(B2)の含有量は、エポキシ化合物(B1)100質量部に対して、0.1〜500質量部であることが好ましく、1〜200質量部であることがより好ましい。熱硬化剤(B2)の含有量が少ないと硬化不足で接着性が得られないことがある。また、熱硬化剤(B2)の含有量は、重合体成分(A)100質量部に対して0.2〜50質量部であることが好ましく、0.5〜40質量部であることがより好ましい。熱硬化剤(B2)の含有量が少ないと硬化不足で十分な接着性が得られないことがある。
【0066】
熱硬化性成分(B)は、エポキシ化合物(B1)および熱硬化剤(B2)を含むことが好ましく、これらのエポキシ化合物(B1)および熱硬化剤(B2)の軟化点は50℃以上であることが、ダイボンド層形成フィルムの貼付け時に、ダイボンド層形成フィルムを加熱することによってダイボンド層形成フィルムの流動性を高め、貼付け適性を向上させる観点から好ましい。本明細書において、「軟化点」は、JIS K 7234:1986に準拠して環球法により測定した値を意味する。エポキシ化合物(B1)および熱硬化剤(B2)の軟化点は、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。エポキシ化合物(B1)および熱硬化剤(B2)の軟化点の上限は、接着剤層の弾性極小温度および高温せん断強度が前述の範囲になるように、適宜設定される。
【0067】
(B3)硬化促進剤
バインダー成分は、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層の硬化速度を調整するために、硬化促進剤(B3)をさらに含んでいてもよい。硬化促進剤(B3)は、特に、熱硬化性成分(B)としてエポキシ系熱硬化性成分を用いるときに好ましく用いられる。
【0068】
好ましい硬化促進剤(B3)としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0069】
硬化促進剤(B3)を用いる場合、硬化促進剤(B3)は、エポキシ化合物(B1)および熱硬化剤(B2)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部の量で含まれる。硬化促進剤(B3)を上記範囲の量で含有することにより、高温度高湿度下に曝されても優れた接着性を有し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高いパッケージ信頼性を達成することができる。硬化促進剤(B3)の含有量が少ないと硬化不足で十分な接着性が得られないことがある。
【0070】
エポキシ化合物(B1)と、熱硬化剤(B2)と、硬化促進剤(B3)との合計量、すなわち、熱硬化性成分(B)と硬化促進剤(B3)との合計量は、接着剤層の全質量中、好ましくは25質量%未満、より好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは3〜10質量%の割合で含まれる。
【0071】
また、接着剤層には、重合体成分(A)100質量部に対して、熱硬化性成分(B)が、好ましくは1〜35質量部、より好ましくは3〜25質量部、さらに好ましくは3〜8質量部の範囲で含まれる。特に、熱硬化性成分(B)の含有量を少なくした場合、たとえば、重合体成分(A)100質量部に対して、3〜25質量部の範囲で含まれる程度とすれば、次のような効果が得られる傾向がある。すなわち、ダイボンド層形成フィルムを加工物(チップなど)に固着させ、ダイボンド層形成フィルムを介して被着体(回路基板など)に加工物(チップなど)を仮接着した後、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層を硬化させる前にダイボンド層形成フィルムが加熱されても、接着剤層中にボイドが発生する可能性を低減できる場合がある。発生するボイドが少ない場合にはそのボイドを消失させることが容易となるため、接着剤層における熱硬化性成分(B)の含有量を調整することにより、結果的に接着剤層の耐熱履歴性を向上させることができる場合がある。特に熱硬化性成分(B)が重合体成分(A)に対して少ない場合には、次に説明するように、重合体成分(A)、熱硬化性成分(B)および硬化促進剤(B3)の合計量が、接着剤層全体の質量に占める質量割合が、95質量%以上である場合であっても、耐熱履歴性を高めることが容易となる。
【0072】
バインダー成分に含まれる、重合体成分(A)、硬化性成分(B)および硬化促進剤(B3)の合計量の、接着剤層全体の質量に対する質量割合は、95質量%以上であることが好ましい。このような場合には、接着剤層中には、後述する充填材(C)のような粒子状の材料がほとんど含まれないことになり、粒子状の材料がダイボンド層から脱落する可能性を低減することができる。その結果、ダイボンド後の加工物が実装されるデバイスの内部において脱落した粒子状の材料が不具合の原因となることを抑制することができる。
【0073】
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層には、バインダー成分のほか、以下の成分を含有させてもよい。
【0074】
(C)充填材
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層は、充填材(C)を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。接着剤層が充填材(C)のような粒子状の材料を含有しないことにより、上述のとおり、粒子状の材料がダイボンド層から脱落することに起因した問題を解消することができる。以下、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層が充填材(C)を含有する場合の態様について説明する。充填材(C)を接着剤層に配合することにより、接着剤層を硬化して得られる硬化物における熱膨張係数を調整することが可能となり、ダイボンド層のワークに対する熱膨張係数を最適化して、半導体装置の信頼性(ダイボンド層の接着信頼性)を向上させることが容易となる。また、ダイボンド層の吸湿性を低減させることも可能となる。
【0075】
充填材(C)としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維、ガラス繊維などが挙げられる。これらのなかでも、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが好ましい。充填材(C)は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0076】
充填材(C)の含有量の範囲としては、接着剤層の全質量中、好ましくは0質量%を超え、30質量%以下、より好ましくは1〜5質量%である。
【0077】
また、本発明における充填材(C)は、反応性二重結合基を有する化合物によりその表面が修飾されていることが好ましい。本明細書において、反応性二重結合基を有する化合物によりその表面が修飾された充填材を、「反応性二重結合基を表面に有する充填材」と記載する。充填材(C)の有する反応性二重結合基は、ビニル基、アリル基、または(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。
【0078】
充填材(C)の平均粒径は好ましくは0.01〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmの範囲内にある。
【0079】
なお、上記「平均粒径」とは、動的光散乱法を用いた粒度分布計(日機装社製「Nanotrac150」)により求められる。
【0080】
(D)カップリング剤
無機物と反応する官能基および有機官能基と反応する官能基を有するカップリング剤(D)を、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層のワークに対する貼付性および接着性、接着剤層の凝集性を向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤(D)を使用することで、ダイボンド層の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上させることができる。このようなカップリング剤としては、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、シランカップリング剤等が挙げられる。これらのうちでも、シランカップリング剤が好ましい。
【0081】
シランカップリング剤としては、その有機官能基と反応する官能基が、重合体成分(A)、熱硬化性成分(B)などが有する官能基と反応する基であるシランカップリング剤が好ましく使用される。
【0082】
このようなシランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のアルコキシ基を2つまたは3つ有する低分子シランカップリング剤、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。また、上記のアルコキシ基を2つまたは3つ有する低分子シランカップリング剤やアルコキシ基を4つ有する低分子シランカップリング剤などをアルコキシ基の加水分解および脱水縮合により縮合した生成物であるオリゴマータイプのものが挙げられる。特に、上記の低分子シランカップリング剤のうち、アルコキシ基を2つまたは3つ有する低分子シランカップリング剤と、アルコキシ基を4つ有する低分子シランカップリング剤とが脱水縮合により縮合した生成物であるオリゴマーが、アルコキシ基の反応性に富み、かつ有機官能基の十分な数を有しているので好ましく、例えば、3−(2,3−エポキシプロポキシ)プロピルメトキシシロキサンとジメトキシシロキサンの共重合体であるオリゴマーが挙げられる。
【0083】
これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0084】
シランカップリング剤は、バインダー成分100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部の割合で含まれる。シランカップリング剤の含有量が0.1質量部未満だと上記の効果が得られない可能性があり、20質量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0085】
(E)架橋剤
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層の初期接着力および凝集力を調節するために、架橋剤(E)を添加することもできる。なお、架橋剤を配合する場合には、前記アクリル重合体(A1)には、反応性官能基が含まれる。
【0086】
架橋剤(E)として、アクリル重合体(A1)が有する反応性官能基との反応性を有する多官能性化合物を用いることができる。このような多官能性化合物の例としては、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、メラミン化合物、アジリジン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物、オキサゾリン化合物、金属アルコキシド化合物、金属キレート化合物、金属塩、アンモニウム塩、反応性フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0087】
イソシアネート化合物についてやや詳しく説明する。イソシアネート化合物の具体例として、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどの脂環式イソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの鎖状骨格を有するイソシアネート化合物が挙げられる。また、これらの化合物の、ビウレット体、イソシアヌレート体や、これらの化合物と、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の非芳香族性低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などの変性体も用いることができる。イソシアネート化合物は1種類の物質から構成されていてもよいし、複数種類の物質から構成されていてもよい。
【0088】
イソシアネート系の架橋剤を用いる場合、反応性官能基として水酸基を有するアクリル重合体(A1)を用いることが好ましい。架橋剤(E)がイソシアネート基を有し、アクリル重合体(A1)が水酸基を有すると、架橋剤(E)とアクリル重合体(A1)との反応が起こり、接着剤層に架橋構造を簡便に導入することができる。
【0089】
架橋剤(E)を用いる場合、架橋剤(E)はアクリル重合体(A1)100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部の比率で用いられる。
【0090】
(F)光重合開始剤
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層には、光重合開始剤(F)が配合されてもよい。光重合開始剤を含有することで、ダイボンド層形成フィルムを備えるダイボンド層形成用シートからなるダイシング・ダイボンディングシートをウエハに貼付した後、ダイシング工程前に紫外線を照射することで、たとえば反応性二重結合基を有するエポキシ化合物等が有する反応性二重結合基を反応せしめ、予備硬化させることができる。
【0091】
予備硬化を行うことにより、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層は、硬化前には比較的軟化しているのでウエハへの貼付性が良好である。また、ダイシング時には適度な硬度を有しダイシングブレードへのダイボンド層形成フィルム(特にその接着剤層)の付着その他の不具合を防止することができる。さらに、粘着シートとダイボンド層形成フィルムとの界面の剥離性のコントロール等も可能となる。加えて、予備硬化状態では未硬化状態よりも硬度が高くなるため、ワイヤーボンディング時の作業安定性がさらに向上する。
【0092】
光重合開始剤(F)として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、(2,4,6−トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2−ベンゾチアゾール−N,N−ジエチルジチオカルバメート、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン}、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0093】
光重合開始剤(F)を用いる場合、その配合割合は、たとえば、反応性二重結合基を有するエポキシ化合物100質量部に対して、通常は0.1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部である。光重合開始剤(F)の含有量が上記範囲より下回ると光重合の不足で満足な反応が得られないことがあり、上記範囲より上回ると光重合に寄与しない残留物が生成し、接着剤層の硬化性が不十分となることがある。
【0094】
(G)汎用添加剤
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層には、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、レベリング剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤、ゲッタリング剤、連鎖移動剤や剥離剤などが挙げられる。
【0095】
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層は、たとえば上記各成分を適宜の割合で混合して得られる組成物(ダイボンド層形成用組成物)を用いて得られる。ダイボンド層形成用組成物は予め溶媒で希釈しておいてもよく、また混合時に溶媒に加えてもよい。また、ダイボンド層形成用組成物の使用時に、溶媒で希釈してもよい。
【0096】
かかる溶媒としては、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ヘプタンなどが挙げられる。
【0097】
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層は、初期接着性(例えば感圧接着性や熱接着性)と硬化性とを有する。接着剤層が感圧接着性を有する場合には、未硬化状態ではワークに押圧して貼付することができる。また、接着剤層が熱接着性を有する場合には、ワークに押圧する際に、接着剤層を備えるダイボンド層形成フィルムを加熱して貼付することができる。本発明における熱接着性とは、常温では感圧接着性がないが、熱により軟化してワークに接着可能となることをいう。
【0098】
ダイボンド層形成フィルムは、これが備える接着剤層の硬化を経て最終的には耐衝撃性の高いダイボンド層を与えることができ、厳しい高温度高湿度条件下においても優れた接着強度を有することができる。
【0099】
また、反応性二重結合基を表面に有する充填材が配合された接着剤層は、充填材の分散性に優れるため、ワイヤーボンディングを行う高温でも接着剤層の変形が少なく、ワイヤーボンディングをさらに安定して行える。そして、接着剤層の熱硬化を経て最終的には耐衝撃性の高いダイボンド層を与えることができ、せん断強度にも優れ、厳しい高温度高湿度条件下においても十分な接着性を保持し得る。
【0100】
ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層の厚さは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは2〜90μm、特に好ましくは3〜80μmである。ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層の厚さを上記範囲とすることで、ダイボンド層形成フィルムが備える粘着剤層の硬化物を、信頼性の高いダイボンド層の構成要素として機能させることが容易となる。
【0101】
2.ダイボンド層形成用シート2
図1は本発明の一実施形態に係るダイボンド層形成用シートの断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るダイボンド層形成用シートは、ダイボンド層形成フィルム1と、ダイボンド層形成フィルム1の一方の面(
図1では下側の面)に積層された剥離シート21とを備えて構成される。ただし、剥離シート21は、ダイボンド層形成用シート2の使用時に剥離されるものである。
【0102】
剥離シート21は、ダイボンド層形成用シート2が使用されるまでの間、ダイボンド層形成フィルム1を保護するものである。剥離シート21の構成は任意であり、フィルム自体がダイボンド層形成フィルム1に対し剥離性を有するプラスチックフィルム、およびプラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができるが、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。剥離シート21の厚さについては特に制限はないが、通常20〜250μm程度である。
【0103】
上記のような剥離シート21は、ダイボンド層形成フィルム1の他方の面(
図1では上側の面)にも積層されてもよい。この場合は、一方の剥離シート21の剥離力を大きくして重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シート21の剥離力を小さくして軽剥離型剥離シートとすることが好ましい。このように、剥離シート21の剥離力を相違させる場合には、まず、ダイボンド層形成用シート2が備える軽剥離型剥離シートを剥離して、表出させたダイボンド層形成フィルム1の面を半導体ウエハなどのワークに貼付し、その後、重剥離型剥離シートを剥離して、表出させたダイボンド層形成フィルム1の面をダイシングシートや被着体に貼付すればよい。
【0104】
本実施形態に係るダイボンド層形成用シート2を製造するには、剥離シート21の剥離面(剥離性を有する面;通常は剥離処理が施された面であるが、これに限定されない)に、ダイボンド層形成フィルム1を形成する。具体的には、ダイボンド層形成フィルム1を構成する硬化性接着剤と、所望によりさらに溶媒とを含有するダイボンド層形成フィルム用の塗布剤を調製し、ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の塗工機によって剥離シート21の剥離面に塗布して乾燥させて、ダイボンド層形成フィルム1を形成する。
【0105】
3.他のダイボンド層形成用シート3,3A
図2は本発明の他の一実施形態に係るダイボンド層形成用シートの断面図である。
図2に示すように、本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3は、基材41の一方の面に粘着剤層42が積層されてなる粘着シート4と、粘着シート4の粘着剤層42側に積層されたダイボンド層形成フィルム1と、ダイボンド層形成フィルム1における粘着シート4とは反対側の面の周縁部に積層された治具用粘着剤層5とを備えて構成される。治具用粘着剤層5は、ダイボンド層形成用シート3をリングフレーム等の治具に接着するための層である。
【0106】
本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3は、ワークを加工するときに、当該ワークに貼付されて当該ワークを保持するとともに、当該ワークまたは当該ワークを加工して得られる加工物にダイボンド層を形成するために用いられる。このダイボンド層は、ダイボンド層形成フィルム1から形成される。
【0107】
本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3は、一例として、ワークとしての半導体ウエハのダイシング加工時に半導体ウエハを保持するとともに、ダイシングによって得られる半導体チップにダイボンド層を形成するために用いられるが、これに限定されるものではない。この場合におけるダイボンド層形成用シート3の粘着シート4は、通常、ダイシングシートと称される。
【0108】
(1)粘着シート
本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3の粘着シート4は、基材41と、基材41の一方の面に積層された粘着剤層42とを備えて構成される。
【0109】
(1−1)基材
粘着シート4の基材41は、ワークの加工、例えば半導体ウエハのダイシングおよびエキスパンディングに適するものであれば、その構成材料は特に限定されず、通常は樹脂系の材料を主材とするフィルム(以下「樹脂フィルム」という。)から構成される。
【0110】
樹脂フィルムの具体例として、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン−ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルムなどが挙げられる。またこれらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも用いられる。上記の基材41はこれらの1種からなるフィルムでもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語についても同様である。
【0111】
上記の中でも、環境安全性、コスト等の観点から、ポリエチレンフィルム、ポリオレフィン系フィルム、エチレン系共重合体フィルム、これらの架橋フィルムまたは変性フィルムが好ましい。
【0112】
上記樹脂フィルムは、その表面に積層される粘着剤層42との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。
【0113】
基材41は、上記樹脂フィルム中に、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。
【0114】
基材41の厚さは、ダイボンド層形成用シート3が使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。好ましくは20〜450μm、より好ましくは25〜400μm、特に好ましくは50〜350μmの範囲である。
【0115】
(1−2)粘着剤層
本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3の粘着シート4が備える粘着剤層42は、非エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよいし、エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよい。非エネルギー線硬化性粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等を使用することができる。これらの中でも、ダイボンド層形成フィルム1との密着性が高く、ダイシング工程等にてワークまたは加工物の脱落を効果的に抑制することのできるアクリル系粘着剤が好ましい。
【0116】
一方、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線照射により粘着力が低下するため、ワークまたは加工物と粘着シート4とを分離させたいときに、エネルギー線照射することにより、容易に分離させることができる。粘着剤層42がエネルギー線硬化性粘着剤からなる場合、ダイボンド層形成用シート3における粘着剤層42は予め硬化されたものを用いてもよい。
【0117】
粘着剤層42を構成するエネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、エネルギー線硬化性を有しないポリマーとエネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。
【0118】
粘着剤層42の厚さは、ダイボンド層形成用シート3が使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。具体的には、1〜50μmであることが好ましく、特に2〜30μmであることが好ましく、さらには3〜20μmであることが好ましい。
【0119】
治具用粘着剤層5を構成する粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等を使用することができる。これらの中でも、リングフレーム等の治具との密着性が高く、ダイシング工程等にてリングフレーム等からダイボンド層形成用シート3が剥がれることを効果的に抑制することのできるアクリル系粘着剤が好ましい。なお、治具用粘着剤層5の厚さ方向の途中には、芯材としての基材が介在していてもよい。
【0120】
一方、治具用粘着剤層5の厚さは、リングフレーム等の治具に対する接着性の観点から、5〜200μmであることが好ましく、特に10〜100μmであることが好ましい。
【0121】
(2)ダイボンド層形成用シート3の製造方法
本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3は、好ましくは、ダイボンド層形成フィルム1を含む第1の積層体と、粘着シート4を含む第2の積層体とを別々に作製した後、第1の積層体および第2の積層体を使用して、ダイボンド層形成フィルム1と粘着シート4とを積層することにより製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0122】
第1の積層体を製造するには、第1の剥離シートの剥離面に、ダイボンド層形成フィルム1を形成する。具体的には、前述のダイボンド層形成用組成物と、所望によりさらに溶媒とを含有する接着剤層を形成するための塗工用組成物を調製し、ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の塗工機によって第1の剥離シートの剥離面に塗布して乾燥させて、ダイボンド層形成フィルム1を形成する。次に、ダイボンド層形成フィルム1の露出面に第2の剥離シートの剥離面を重ねて圧着し、2枚の剥離シートにダイボンド層形成フィルム1が挟持されてなる積層体(第1の積層体)を得る。この第1の積層体の構成は、前述のダイボンド層形成用シート2の構成に等しい。
【0123】
この第1の積層体においては、所望によりハーフカットを施し、ダイボンド層形成フィルム1(および第2の剥離シート)を所望の形状、例えば円形等にしてもよい。この場合、ハーフカットにより生じたダイボンド層形成フィルム1および第2の剥離シートの余分な部分は、適宜除去すればよい。
【0124】
一方、第2の積層体を製造するには、第3の剥離シートの剥離面に、粘着剤層42を構成する粘着剤と、所望によりさらに溶媒とを含有する粘着剤層用の塗布剤を塗布し乾燥させて粘着剤層42を形成する。その後、粘着剤層42の露出面に基材41を圧着し、基材41および粘着剤層42からなる粘着シート4と、第3の剥離シートとからなる積層体(第2の積層体)を得る。
【0125】
ここで、粘着剤層42がエネルギー線硬化性粘着剤からなる場合には、この段階で粘着剤層42に対してエネルギー線を照射して、粘着剤層42を硬化させてもよいし、ダイボンド層形成フィルム1と積層した後に粘着剤層42を硬化させてもよい。また、ダイボンド層形成用シート3が、ワークに貼付してダイシング工程等を行うためのものであり、かつ、ダイボンド層形成フィルム1と積層した後に粘着剤層42を硬化させる場合、ダイシング工程等の前に粘着剤層42を硬化させてもよいし、ダイシング工程等の後に粘着剤層42を硬化させてもよい。
【0126】
エネルギー線としては、通常、紫外線、電子線等が用いられる。エネルギー線の照射量は、エネルギー線の種類によって異なるが、例えば紫外線の場合には、光量で50〜1000mJ/cm
2が好ましく、特に100〜500mJ/cm
2が好ましい。また、電子線の場合には、10〜1000krad程度が好ましい。
【0127】
以上のようにして第1の積層体および第2の積層体が得られたら、第1の積層体における第2の剥離シートを剥離するとともに、第2の積層体における第3の剥離シートを剥離し、第1の積層体にて露出したダイボンド層形成フィルム1と、第2の積層体にて露出した粘着シート4の粘着剤層42とを重ね合わせて圧着する。
【0128】
このようにして、基材41の上に粘着剤層42が積層されてなる粘着シート4と、粘着シート4の粘着剤層42側に積層されたダイボンド層形成フィルム1と、ダイボンド層形成フィルム1における粘着シート4とは反対側の面に積層された第1の剥離シートとからなるダイボンド層形成用シート3が得られる。次いで、第1の剥離シートを剥離した後、ダイボンド層形成フィルム1における粘着シート4とは反対側の面の周縁部に、治具用粘着剤層5を形成する。治具用粘着剤層5も、上記粘着剤層42と同様の方法により塗布し形成することができる。粘着シート4、ダイボンド層形成フィルム1および治具用粘着剤層5を切断するようにしてハーフカットを行うことにより、ダイボンド層形成用シート3を
図2に示される構成とすることができる。
【0129】
4.ダイボンド層形成用シートの他の実施形態
図3は本発明のさらに他の一実施形態に係るダイボンド層形成用シートの断面図である。
図3に示すように、本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3Aは、基材41の一方の面に粘着剤層42が積層されてなる粘着シート4と、粘着シート4の粘着剤層42側に積層されたダイボンド層形成フィルム1とを備えて構成される。実施形態におけるダイボンド層形成フィルム1は、面方向にてワークとほぼ同じか、ワークよりも少し大きく形成されており、かつ粘着シート4よりも面方向に小さく形成されている。ダイボンド層形成フィルム1が積層されていない部分の粘着剤層42は、リングフレーム等の治具に貼付することが可能となっている。
【0130】
本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3Aの各部材の材料および厚さ等は、前述したダイボンド層形成用シート3の各部材の材料および厚さと同様である。ただし、粘着剤層42がエネルギー線硬化性粘着剤からなる場合、粘着剤層42におけるダイボンド層形成フィルム1と接触する部分は、エネルギー線硬化性粘着剤を硬化させ、それ以外の部分は、エネルギー線硬化性粘着剤を硬化させないことが好ましい。エネルギー線硬化性粘着剤を硬化した材料は、通常、弾性率が高く、かつ表面の平滑性が高いため、ダイボンド層形成用シート3Aはダイシングシートとして有効に機能しやすい。
【0131】
なお、ダイボンド層形成用シート3Aの粘着シート4の粘着剤層42における基材41とは反対側の周縁部には、前述したダイボンド層形成用シート3の治具用粘着剤層5と同様の治具用粘着剤層が別途設けられていてもよい。
【0132】
5.加工物および半導体装置
次に本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3,3Aを用いて、ワークから加工物を製造する方法およびこの加工物を用いて半導体装置を製造する方法について説明する。
【0133】
本実施形態に係るダイボンド層形成用シート3のダイボンド層形成フィルム1をワークに貼着し、該ワークを分割加工して加工物とし、該加工物のいずれかの面に該ダイボンド層形成フィルム1が付着した状態で粘着シート4から剥離することにより、ダイボンド層形成フィルム1が付着した加工物を得ることができる。
【0134】
ワークは、シリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハや、ガラス基板、セラミック基板、FPC等の有機材料基板、又は精密部品等の金属材料など種々の物品を挙げることができる。以下においては、ワークとして半導体ウエハを用いる場合を主たる例として説明する。
【0135】
ウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。次いで、ウエハの回路面の反対面(裏面)を研削する。研削法は特に限定はされず、グラインダーなどを用いた公知の手段で研削してもよい。裏面研削時には、表面の回路を保護するために回路面に、表面保護シートと呼ばれる粘着シートを貼付する。裏面研削は、ウエハの回路面側(すなわち表面保護シート側)をチャックテーブル等により固定し、回路が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。ウエハの研削後の厚みは特に限定はされないが、通常は50〜500μm程度である。
【0136】
その後、必要に応じ、裏面研削時に生じた破砕層を除去する。破砕層の除去は、ケミカルエッチングや、プラズマエッチングなどにより行われる。
【0137】
回路形成および裏面研削に次いで、ウエハの裏面にダイボンド層形成用シート3のダイボンド層形成フィルム1を貼付する。貼付方法は特に限定されず、例えば、半導体ウエハの裏面側を本発明に係るダイボンド層形成用シート3のダイボンド層形成フィルム1上に載置し、軽く押圧し、半導体ウエハを固定する。なお、ダイボンド層形成用シート3の外周部において、ダイボンド層形成用シート3はリングフレーム等の治具に固定される。
【0138】
ダイボンド層形成フィルム1が感圧接着性を有しない場合は適宜加温してもよい(限定するものではないが、40〜80℃が好ましい)。
【0139】
次いで、ダイボンド層形成フィルム1に粘着シート側からエネルギー線を照射し、たとえば反応性二重結合基を有するエポキシ化合物の反応性二重結合基を反応、硬化し、ダイボンド層形成フィルム1が備える接着剤層の凝集力を上げ、ダイボンド層形成フィルム1と粘着シートとの間の接着力を低下させてもよい。照射されるエネルギー線としては、紫外線(UV)または電子線(EB)が挙げられ、好ましくは紫外線が用いられる。
【0140】
その後、ダイシングソーを用いたブレードダイシング法やレーザー光を用いたレーザーダイシング法などにより、半導体ウエハを切断し半導体チップを得る。ダイシングソーを用いた場合の切断深さは、半導体ウエハの厚みと、ダイボンド層形成フィルム1の厚みとの合計およびダイシングソーの磨耗分を加味した深さにし、ダイボンド層形成フィルム1もチップと同サイズに切断する。上記の分割方法とは異なる方法として、ワークの表面近傍が受けるダメージを最小限にしながらワーク内部に予備的に改質層が形成されるように、開口度(NA)の大きなレーザー光を照射し、その後エキスパンド工程等において、ワークに力を加えて片状体を加工物として得る、改質層破壊式引張り分割を行ってもよい。
【0141】
なお、エネルギー線照射は、半導体ウエハの貼付後、半導体チップの剥離(ピックアップ)前のいずれの段階で行ってもよく、たとえばダイシングの後に行ってもよく、また下記のエキスパンド工程の後に行ってもよい。さらにエネルギー線照射を複数回に分けて行ってもよい。
【0142】
次いで必要に応じ、ダイボンド層形成用シート3のエキスパンドを行うと、半導体チップ間隔が拡張し、半導体チップのピックアップをさらに容易に行えるようになる。この際、ダイボンド層形成フィルム1と粘着シートとの間にずれが発生することになり、ダイボンド層形成フィルム1と粘着シートとの間の接着力が減少し、半導体チップのピックアップ適性が向上する。このようにして半導体チップのピックアップを行うと、切断されたダイボンド層形成フィルム1を半導体チップ裏面に固着残存させて粘着シートから剥離することができる。こうして、ダイボンド層形成フィルム1が付着した加工物が得られる。本工程において、改質層破壊式引張り分割を実施する場合には、ダイボンド層形成フィルム1の温度を低温、たとえば10℃以下等に維持してエキスパンドを行ってもよい。ダイボンド層形成フィルム1の温度を低温に維持することで、エキスパンドの際にワークの分割とともにダイボンド層形成フィルム1を分割することが容易となる。
【0143】
次いで、ダイボンド層形成フィルム1が付着した加工物を、被着体と加工物との間にダイボンド層形成フィルム1が位置するように、被着体に載置する。被着体としては、回路基板、リードフレーム(被着面はダイパッド部)、別の半導体チップなどが例示される。被着体は、半導体チップを載置する前に加熱するか載置直後に加熱してもよく、また、チップの載置直後に加熱してもよい。加熱温度は、通常は80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、加熱時間は、通常は0.1秒〜5分、好ましくは0.5秒〜3分であり、載置するときの圧力は、通常1kPa〜200MPaである。
【0144】
上記のように半導体チップを被着体に積層した後、必要に応じさらに加熱を行ってもよい。この加熱は、たとえば次に述べるワイヤーボンディングの際に行われる。ワイヤーボンディング工程の最中にラインが停止した場合などには、加熱時間は1〜5時間程度にまで長くなることがある。本実施形態に係るダイボンド層形成フィルム1が備える接着剤層は耐熱履歴性に優れるため、このような加熱を行った場合に、接着剤層と被着体との間に気泡(ボイド)が発生しても、ダイボンド層形成フィルム1からダイボンド層を形成するまでに、この気泡(ボイド)を消失させることが容易である。
【0145】
上記の方法により得られた被着体に半導体チップが積層されてなる部材に対して、ワイヤーボンディングを行って、当該部材が備える被着体と半導体チップとを結線する。このワイヤーボンディングの際に被着体と半導体チップとの間に位置するダイボンド層形成フィルム1の温度は170〜180℃程度に至るが、ダイボンド層形成フィルム1が備える接着剤層が前述の弾性極小温度に関する条件を満たすことから、ボンドワイヤーの結合強度が低下するといったワイヤーボンディングの際の不良が発生しにくい。
【0146】
その後、ダイボンド層形成フィルム1が備える接着剤層を本硬化させることにより、加工物と被着体とがダイボンド層を介して積層された構造を有し、加工物と被着体とを結線するワイヤーを備える半導体装置が得られる。本硬化のための加熱条件は、接着剤層の組成に応じて適宜設定される。この本硬化のための加熱は、生産性を向上させる観点から、半導体装置に係るパッケージ製造において通常行われる樹脂封止での加熱により行ってもよい。被着体上に積層された加工物を被着体として、別の加工物を積層し、この作業を必要に応じさらに繰り返して、得られた積層構造体に係るパッケージ製造において通常行われる樹脂封止での加熱により、この積層構造体が備えるダイボンド層形成フィルム1の接着剤層の本硬化を行ってもよい。このような工程を経ることで、ダイボンド層形成フィルム1が備える接着剤層を一括して硬化でき、半導体装置の製造効率が向上する。
【0147】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係るダイボンド層形成フィルム1を用いることで、ワイヤーボンディング時には、接着剤層はある程度の硬度を有するためワイヤーボンディングが安定して行われる。さらにダイボンド層形成フィルム1が備える接着剤層は耐熱履歴性に優れるため、ダイボンド層と被着体との間にボイドが残留しにくく、パッケージ信頼性を高めることが可能となる。
【0148】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0149】
例えば、ダイボンド層形成用シート3,3Aのダイボンド層形成フィルム1における粘着シート4とは反対側には、剥離シートが積層されてもよい。
【実施例】
【0150】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0151】
〔実施例1〕
次の各成分を表1に示す配合比(欄内の数字はいずれも固形分換算質量部)で混合し、メチルエチルケトンで希釈して、接着剤層を形成するための塗工用組成物を調製した。
アクリル樹脂(A1):
(A1−1)メチルアクリレート(MA)およびヒドロキシエチルアクリレート(HEA)(質量比率:MA/HEA=95/5)の共重合体、重量平均分子量50万、トーヨーケム社製、ガラス転移温度9℃
(A1−2)メチルアクリレート(MA)およびヒドロキシエチルアクリレート(HEA)(質量比率:MA/HEA=85/15)の共重合体、重量平均分子量40万、日本合成化学工業社製、ガラス転移温度6℃
エポキシ化合物(B1):アクリロイル基付加クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製「CNA−147」)
熱硬化剤(B2):アラルキルフェノール樹脂(三井化学社製「ミレックスXLC−4L」)
充填材(C):メタクリロキシ基修飾のシリカフィラー(平均粒径0.5μm、アドマテックス社製「SO−C2」、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理品)
カップリング剤(D):シランカップリング剤(三菱化学社製「MKCシリケートMSEP2」)
架橋剤(E):芳香族性多価イソシアネート(日本ポリウレタン工業社製「コロネートL」)
なお、日本化薬社製「CNA−147」は、その一部に、硬化促進剤(B3)としてのリン系硬化促進剤を含む。
【0152】
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる第1の剥離シートの剥離面に、上記の塗工用組成物を塗布した後、オーブンにて120℃で3分間乾燥させて、接着剤層を形成した。最終的に得られたダイボンド層形成フィルムの厚さは20μmとなった。次いで、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる第2の剥離シートの剥離面を、上記のようにして得られた接着剤層を貼付して、第1の剥離シート(
図1における剥離シート21)と、接着剤層からなるダイボンド層形成フィルム(
図1におけるダイボンド層形成フィルム1)(厚さ:20μm)と、第2の剥離シートとからなるダイボンド層形成用シートを得た。
【0153】
上記のダイボンド層形成用シートから一方の剥離シートを剥離し、表出させた接着剤層の面をダイシングシート(リンテック社製「G−562」の粘着剤層の面に貼付し、上記のダイボンド層形成用シートの他方の剥離シートを剥離することによりダイボンド層形成フィルムをダイシングシートの粘着剤層上に転写した。こうして、
図1に示されるダイボンド層形成用シートの積層構造と同様の積層構造を有するダイボンド層形成用シートの原反を得た。
【0154】
本実施例では、上記のダイボンド層形成用シートの原反に、次に説明するように治具用粘着剤層をさらに積層して、
図2に示される構造を有するダイボンド層形成用シートを作製した。まず、40μmの厚さのポリプロピレンフィルムの両側の面に5μmの厚さのアクリル系粘着剤を設けた両面テープを2枚の剥離シートに挟持された状態で準備し、この両面テープを一方の側の剥離シートごと165mmの円形に打ち抜き裁断した。打ち抜きした剥離シートの全面および打ち抜いた円形の内部の両面テープを除去して、円形の欠損部を有する両面テープを剥離シート上に得た。その後、円形の欠損部を有する両面テープの粘着剤を、上記のダイボンド層形成用シートの原反のダイボンド層形成フィルムと貼り合わせた。次いで、両面テープとダイボンド層形成用シートの原反との積層体を、両面テープの打ち抜き加工形状と同心円になるように207mmの円形に打ち抜き裁断した。こうして、リングフレーム貼付用の環状の両面テープからなる治具用粘着剤層を有する、すなわち、
図2の構造を有するダイボンド層形成用シートを、剥離シート上に得た。
【0155】
〔実施例2〜6ならびに比較例1および2〕
接着剤層を形成するために配合された各成分の種類および配合量を表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして、
図2の構造を有するダイボンド層形成用シートを製造した。
【0156】
〔試験例1〕<弾性率プロファイルの測定>
実施例および比較例において作製した接着剤層を別途作製し、得られた接着剤層を厚さ400μmになるまで積層した。その後、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメンツ社製「DMA Q800」)を用いて、測定周波数11Hz、昇温速度3℃/分で0℃から300℃までの温度領域の弾性率(貯蔵弾性率及び損失弾性率)を測定し、弾性率プロファイルを得た。この弾性率プロファイルから、弾性極小温度を求めた。結果を表1に示す。
【0157】
〔試験例2〕<高温せん断強度の測定>
テープマウンター(リンテック社製「Adwill RAD−2700F/12」)を用いて、実施例および比較例において作製した、
図2に示される構造を有するダイボンド層形成用シートを60℃に加熱しながら、厚さ350μmであって#2000研磨された6インチサイズのシリコンウエハに貼合した。また、ダイボンド層形成用シートの治具用粘着剤層をリングフレームに貼付した。その後、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD651」)を使用して、ダイボンド層形成用シートが貼付されたシリコンウエハを、2mm×2mmサイズにダイシングした。ソルダーレジスト(太陽インキ社製「PSR-4000 AUS303」)を有している基板(ちの技研社製剥離強度検査基板「V5」、パッケージ単位の大きさ:50mm×150mm×厚さ1.0mm、材料:FR−4)のソルダーレジストを設けた面に、上記のダイシングにより得られたチップを、基板とチップとの間にダイボンド層形成用シートが位置するように、温度150℃、加圧力100gf、加圧時間1秒間の条件でダイボンディングした。このダイボンディングにより得られた、チップとダイボンド層形成用シートと基板とからなる積層構造体を、オーブンにて175℃で1時間加熱してダイボンド層形成用シートが備える接着剤層を熱硬化させた後、ボンドテスター(Dage社製「ボンドテスターdage4000シリーズ」)を用いて、250℃の温度で30秒間加熱した後に、MIL−STD−883J(METHOD 2019.9)に準拠して、せん断接着強度を測定した。こうして得られた高温せん断強度の測定結果を表1に示す。
【0158】
〔試験例3〕<耐熱履歴性の評価>
(1)半導体チップの製造
テープマウンター(リンテック社製「Adwill RAD2700F/12」)を用いて、6インチサイズのドライポリッシュ仕上げシリコンウエハ(厚さ75μm)の研磨面に、実施例および比較例において作製した、
図2に示される構造のダイボンド層形成用シートを貼付するとともに、ダイボンド層形成用シートを介して当該シリコンウエハをウエハダイシング用リングフレームに固定した。
【0159】
次いで、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD651」)を用いて、ダイボンド層形成用シート上のシリコンウエハを、8mm×8mmのチップサイズにダイシングした。ダイシングの際の切り込みは、基材を20μm切り込むように行った。
【0160】
(2)半導体パッケージの製造
評価用基板として、銅箔張り積層板(三菱ガス化学社製「CCL-HL830」)の銅箔(18μm厚)に回路パターンが形成され、パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ社製「PSR-4000 AUS303」)を有している基板(ちの技研社製「LN001E−001 PCB(Au)AUS303」)を用意した。
【0161】
上記(1)により得られたダイボンド層形成用シート上のチップを、ダイボンド層形成フィルムが備える接着剤層とともに、ダイシングシートからピックアップした。得られたダイボンド層形成フィルムが付着したチップを、上記の基板上にそのダイボンド層形成フィルムを介して積層し、温度120℃、加圧力250gf、加圧時間0.5秒間の条件で圧着した。この圧着により得られた、チップとダイボンド層形成用シートと基板とからなる積層構造体を、175℃に保持したオーブン内に投入し、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間および6時間の異なる6条件の熱履歴を付与した。
【0162】
熱履歴が付与された各積層構造体を、モールド樹脂(京セラケミカル社製「KE-1100AS3」)により、封止厚400μmになるように封止し(封止装置:アピックヤマダ社製「MPC-06M TriAl Press」)、175℃の温度で5時間保持することにより、封止樹脂を硬化させた。こうして得られた、積層構造体が封止されてなる部材に、ダイシングテープ(リンテック社製「Adwill D-510T」)を貼付し、このダイシングテープをさらにリングフレームに貼付して、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD651」)を使用して、15mm×15mmサイズにダイシングして、信頼性評価用の半導体パッケージを得た。
【0163】
(3)半導体パッケージ表面実装性の評価(パッケージ信頼性)
上記(2)により得られた半導体パッケージを、85℃、相対湿度60%の環境下に168時間放置し、吸湿させた後、最高温度260℃、加熱時間1分間のIRリフロー(リフロー炉:相模理工社製「WL-15-20DNX型」)を3回行なった。
【0164】
このリフロー処理を経た半導体パッケージについて、接合部の浮き・剥がれの有無およびパッケージクラック発生の有無を、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック社製「Hye-Focus」)および断面観察により評価した。基板と半導体チップとの接合部に0.5mm以上の剥離を観察した場合に、接合部に剥離が生じていると判断し、半導体パッケージを25個試験に投入し1個以上について接合部に剥離が発生した場合を、信頼性評価不良とした。
【0165】
そして、信頼性評価不良が発生しない熱履歴条件の最長の時間(最短で0時間、最長で6時間)を、耐熱履歴性の評価結果とした。この評価では、信頼性評価不良が発生しない熱履歴条件の最長時間が長いほど、耐熱履歴性が向上していることを示す。
【0166】
〔試験例4〕<ワイヤーボンディング適性の評価>
テープマウンター(リンテック社製「Adwill RAD−2700 F/12」)を用いて、6インチサイズの厚さ350μmのアルミ蒸着ウエハのアルミ蒸着されていない面に、実施例および比較例により作製した、
図2に示される構造を有するダイボンド層形成用シートを60℃で加熱しながら貼合した。また、ダイボンド層形成用シートの治具用粘着剤層をリングフレームに貼付した。続いて、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD651」)を用いて、2mm×2mmサイズにダイシングした。こうして得られたダイボンド層形成フィルムが付着したチップを、試験例3において用いた評価用基板と同種の基板に、そのダイボンド層形成フィルムを介して積層し、温度120℃、加圧力250gf、加圧時間0.5秒間の条件で圧着した。続いて、ワイヤボンダー(K&S社製「Maxum Plus」)を用いて、基板/チップ上を結ぶように、Cuワイヤー(Heraeus社製「Max soft 20um」)のワイヤーボンディングを行った。ボンディング条件は次のとおりであった。
超音波出力:90mA
ボンディング温度:175℃
ボンディング荷重:17g
ボンディング時間:10ms
ワイヤーボンディング後、ボンドテスター(Dage社製「ボンドテスターdage4000シリーズ」)を用いて、JEITA ED−4703に準拠して、シェア強度を測定した。測定結果を表1に示す。シェア強度が10g以上であれば、良好と判断することができる。
【0167】
【表1】
【0168】
表1から分かるように、本発明の規定を満たす実施例のダイボンド層形成フィルムの接着剤層は、耐熱履歴性優れるとともに、ワイヤーボンディング適性にも優れるものであった。
ワークを加工して得られた加工物の被着体への固着に用いられる、接着剤層を備えたダイボンド層形成フィルム1であって、接着剤層の貯蔵弾性率の温度依存性を測定した際に、80℃から150℃の範囲内に貯蔵弾性率の極小値を有し、ダイボンド層形成フィルム1を介して加工物が載置された剥離強度検査基板上のダイボンド層形成フィルム1を、175℃で1時間加熱した後、さらに250℃の環境下で30秒間保持した後に測定される、接着剤層の剥離強度検査基板に対するせん断強度が、20N/2mm
以下であるダイボンド層形成フィルム1。かかるダイボンド層形成フィルム1によれば、熱履歴を受けても接着剤層と被着体との境界において気泡(ボイド)が成長しにくく、しかも、ワイヤーボンディング適性に優れる接着剤層を備える。