特許第5887065号(P5887065)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887065
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】親水性イオン液体
(51)【国際特許分類】
   C07C 215/40 20060101AFI20160303BHJP
   C07C 229/20 20060101ALI20160303BHJP
   C07C 229/24 20060101ALI20160303BHJP
   C07C 309/04 20060101ALI20160303BHJP
   C07C 53/10 20060101ALI20160303BHJP
   C07C 59/06 20060101ALI20160303BHJP
   C07C 59/08 20060101ALI20160303BHJP
   C07C 59/255 20060101ALI20160303BHJP
   C07C 62/04 20060101ALI20160303BHJP
   C07C 305/04 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   C07C215/40CSP
   C07C229/20
   C07C229/24
   C07C309/04
   C07C53/10
   C07C59/06
   C07C59/08
   C07C59/255
   C07C62/04
   C07C305/04
【請求項の数】3
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2011-108825(P2011-108825)
(22)【出願日】2011年5月13日
(65)【公開番号】特開2012-31137(P2012-31137A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2014年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-148104(P2010-148104)
(32)【優先日】2010年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】金子 恒太郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 隼人
(72)【発明者】
【氏名】河合 功治
(72)【発明者】
【氏名】杉山 克之
(72)【発明者】
【氏名】神尾 克久
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0112237(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0120457(US,A1)
【文献】 国際公開第2005/009601(WO,A1)
【文献】 特開2004−339468(JP,A)
【文献】 特開2003−113337(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101182367(CN,A)
【文献】 特開2004−296602(JP,A)
【文献】 特表2001−518552(JP,A)
【文献】 特開昭53−103420(JP,A)
【文献】 特開昭51−023441(JP,A)
【文献】 特表2004−509945(JP,A)
【文献】 特開2008−162899(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101260051(CN,A)
【文献】 国際公開第2007/147222(WO,A1)
【文献】 特開2009−215340(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101724869(CN,A)
【文献】 特開2011−137807(JP,A)
【文献】 Journal of the American Chemical Society,2010年 4月 7日,132(16),p.5602-5603
【文献】 Comparative Biochemistry and Physiology,1969年,29(1),p.343-359
【文献】 Physical Chemistry Chemical Physics,2010年,12(8),p.1741-1749
【文献】 Green Chemistry,2007年,9(11),p.1155-1157
【文献】 Chemistry - A European Journal,2008年,14(35),p.11174-11182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 215/00
C07C 53/00
C07C 59/00
C07C 62/00
C07C 229/00
C07C 305/00
C07C 309/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立にメチル基およびエチル基から選ばれるいずれかのアルキル基、または−(CH2)2OHを示し、R1、R2、R3、R4のうち1個が−(CH2)2OHであり、R1、R2、R3、R4のうち残り3個のアルキル基は、その少なくとも1個が他のアルキル基とは異なる構造である。X-は、メタンスルホネートイオンまたは、炭素数1〜4のモノヒドロキシカルボン酸イオンもしくはジヒドロキシカルボン酸イオン、およびヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸イオンから選ばれるいずれかのカルボン酸イオンを示す。)で表される親水性イオン液体。
【請求項2】
下記式(I):
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立にメチル基およびエチル基から選ばれるいずれかのアルキル基、または−(CH2)2COOHを示し、R1、R2、R3、R4のうち1個が−(CH2)2COOHであり、R1、R2、R3、R4のうち残り3個のアルキル基は、その少なくとも1個が他のアルキル基とは異なる構造である。X-は、メタンスルホネートイオン、メチル硫酸イオン、水酸化物イオン、または、水酸基を有していてもよい炭素数1〜4のモノカルボン酸イオンもしくはジカルボン酸イオン、およびヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸イオンから選ばれるいずれかのカルボン酸イオンを示す。)で表される親水性イオン液体。
【請求項3】
下記式(I):
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基、または−R5−COOH(R5は炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を示す。)を示し、R1、R2、R3、R4のうち2個が−R5−COOHである。X-は、メタンスルホネートイオン、メチル硫酸イオン、水酸化物イオン、または、水酸基を有していてもよい炭素数1〜4のモノカルボン酸イオンもしくはジカルボン酸イオン、およびヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸イオンから選ばれるいずれかのカルボン酸イオンを示す。)で表される親水性イオン液体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体に関するものであり、さらに詳しくは、第4級アンモニウムカチオンに水溶性官能基を導入した親水性イオン液体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン液体としては、例えば、カチオンとしてイミダゾリウム系カチオンや第4級アンモニウムカチオンと、各種アニオンとから構成されたイオン液体が知られており、これらのイオン液体は各種の分野において用いられているが、近年では電子顕微鏡の可視化剤、反応溶媒等への応用も検討が進んでいる(特許文献1〜3、非特許文献1参照)。
【0003】
このような各種の応用に際して、イオン液体はその基本的な特性として融点が低いこと、例えば常温で液状であることが望ましい場合が多く、中でも水溶性を有するイオン液体は、上記のような応用の可能性を高めるものとして期待されている。
【0004】
電子顕微鏡の可視化剤としてイオン液体を用いて生体試料を観察する場合、試料の像を高精度に得るためには、生体試料との親和性を高めるために水溶性のイオン液体が必要となるが、ある程度の水溶性を有していても分子サイズが大きくなるとイオン液体の生体試料への浸透性、例えば細胞膜内部への浸透性等が低下し、生体試料内の水とイオン液体との置換が良好にできなくなる。そのため、生体試料の形状保持が難しくなり、試料の像を高精度に得ることも困難となる場合がある。
【0005】
また、反応溶媒等の各種の用途においても、水溶性でかつ従来のものとは異なる溶媒効果や特性を有する新規なイオン液体が望まれている。
【0006】
広義には、100℃以下の融点を持つ塩がイオン液体と呼ばれているが、特に室温付近でも液状で存在しているものは室温イオン液体と呼ばれている。室温イオン液体は、元来イオン液体に求められている流動性を室温付近でも有することから、様々な用途への優位な展開が期待される。
【0007】
例えば、上記の電子顕微鏡の可視化剤や反応溶媒の用途、その他、セルロース溶解溶媒、タンパク質保存溶媒、電解質材料、帯電防止剤、潤滑油等の各種用途においては、その使用環境においても流動性(液状)であることが望ましく、できる限りの低融点化が求められている。具体的には、15℃以下の低温条件下でも流動性であることが望まれている。
【0008】
さらに、化学物質は一般的に、使用期間中はその性能を維持するが、使用後には環境中に排出される化学物質も少なくなく、そのため、地中、水中などの自然環境下において微生物の酵素反応等によって、二酸化炭素や水、バイオマスなどに分解され、環境に負荷を与えないといった適性を備えていることが望ましく、特に近年では環境保護の観点からその重要性は高まっている。
【0009】
化学物質の生分解性は、その化合物の構造、融点、分子量などの点からある程度の傾向が示唆されているものの、化合物の易分解性・難分解性やその程度を確実に予測できるとは言えない。例えば、一般に親水性の化合物は疎水性の化合物に比べて生分解性が高い傾向にあると考えられているが、イオン液体においては、環境負荷の低減といった観点からの詳細な検討はされていないのが現状であり、親水性であるからといって所要の生分解性が得られると予測することは困難である。こうした現状において、易分解性のイオン液体が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】再表2007−083756号公報
【特許文献2】特開2004−509945号公報
【特許文献3】特開2007−126624号公報
【特許文献4】特表2007−536424号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. B 2007, 111, 4807-4811
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、イミダゾリウム系カチオンを用いたイオン液体は、イミダゾリウム系カチオンの構造が剛直で立体的に嵩高く、一般に高い水溶性と分子サイズが小さく且つ柔軟な分子構造とを両立することは難しい。
【0013】
特許文献1〜3には種々の第4級アンモニウムカチオンを用いたイオン液体が開示されているが、イオン液体の融点についての詳細な開示はなく、特許文献2に記載の凝固点が100℃までであるイオン性化合物は、第4級アンモニウム塩と尿素などの有機化合物とを反応させることによってアニオンと水素結合を形成させて化合物を得ている。
【0014】
さらに、水溶性、特に溶解度に至っては全く開示されておらず、一般にテトラアルキルアンモニウムカチオンを用いたイオン液体は水溶性が低く、第4級アンモニウムカチオンにエーテル基等を導入したイオン液体でもある程度の水溶性を有するが、十分とは言い難かった。加えて、これまでの第4級アンモニウムカチオンを用いたイオン液体の構造設計において、官能基や特性基の選択による融点、水溶性への影響は十分な知見がなかった。
【0015】
なお、特許文献4にはカルボキシル基を有するアンモニウムカチオンとスルホネートアニオンとからなる化合物が界面活性剤の副生物として生成したことが記載されているが、イオン液体としての合成および特性に関する実質的な開示はされていない。
【0016】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、低融点の新規なイオン液体、特に低融点でかつ水溶性がきわめて高く、さらに環境適性においても特に優れた新規な親水性イオン液体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、第4級アンモニウムカチオンに水溶性官能基を導入した新規な親水性イオン液体、中でも低融点の新規な親水性イオン液体を見出し、特に、アニオンとして特定のものを用いた場合に低融点でかつ水溶性が著しく向上したものが得られ、さらにこの水溶性官能基を導入した構造によって生分解性も向上し環境負荷の低いものが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。
【0019】
第1:下記式(I):
【0020】
【化1】
【0021】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基、または−R5−Aで示される水溶性官能基(R5は炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を示し、Aは水酸基またはカルボキシル基を示す。)を示し、R1、R2、R3、R4のうち1〜3個が水溶性官能基である。水溶性官能基が2個以上の場合、それぞれのAは同一である。X-はアニオンを示す。)で表される親水性イオン液体。
【0022】
第2:X-は、メタンスルホネートイオン、メチル硫酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、水酸化物イオン、カルボン酸イオン、またはハロゲンイオンである上記第1の親水性イオン液体。
【0023】
第3:X-は、メタンスルホネートイオンである上記第2の親水性イオン液体。
【0024】
第4:X-は、水酸基を有していてもよい炭素数1〜4のモノカルボン酸イオンまたはジカルボン酸イオン、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸イオン、および芳香族カルボン酸イオンから選ばれるいずれかのカルボン酸イオンである上記第2の親水性イオン液体。
【0025】
第5:R1、R2、R3、R4のうち1個が水溶性官能基であり、残りの3個のアルキル基は、その少なくとも1個が他のアルキル基とは異なる構造である上記第1〜第4のいずれかの親水性イオン液体。
【0026】
第6:15℃で液状である上記第1〜5のいずれかに記載の親水性イオン液体。
【0027】
第7:常温(25℃)での水への溶解度が150g/100g water以上である上記第1〜6のいずれかの親水性イオン液体。
【0028】
第8:OECDテストガイドライン301C法に準拠した生分解性試験による28日間のBOD分解度が60%以上である上記第1〜7のいずれかの親水性イオン液体。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、第4級アンモニウムカチオンに水溶性官能基を導入した新規な親水性イオン液体が提供される。この親水性イオン液体は、生分解性が高く環境適性にも優れている。好ましい態様では、さらに低融点の新規な親水性イオン液体が提供される。特に好ましい態様では、低融点でかつ水溶性がきわめて高い新規な親水性イオン液体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0031】
本発明の親水性イオン液体は、上記式(I)で表される。式(I)において、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基、または−R5−Aで示される水溶性官能基(R5は炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を示し、Aは水酸基またはカルボキシル基を示す。)を示し、R1、R2、R3、R4のうち1〜3個が水溶性官能基である。水溶性官能基が2個以上の場合、それぞれのAは同一である。
【0032】
R1〜R4の水溶性官能基において、R5の炭素数1〜10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、メチルトリメチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が挙げられる。中でも、炭素数1〜5のものが好ましく、炭素数1〜3のものがより好ましく、メチレン基、エチレン基がさらに好ましい。
【0033】
R1、R2、R3、R4のうち、水溶性官能基は1〜3個であり、水溶性官能基を1〜3個導入することで、イオン液体の水溶性を高めることができる。また、この水溶性官能基により生分解性も向上し、環境適性に優れたイオン液体を得ることができる。
【0034】
R1〜R4の炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基が挙げられる。中でも、炭素数1〜3のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0035】
一方、水溶性官能基を4個導入した構造では融点が高くなる。常温で液状のもの等の低融点のイオン液体を得る点からは、水溶性官能基の数が1個である場合、R1、R2、R3、R4のうち残り3個のアルキル基は、その少なくとも1個が他のアルキル基とは異なる構造であることが好ましい。
【0036】
式(I)において、X-はアニオンを示す。アニオンとしては、特に限定されないが、低融点のイオン液体を得る点からは、メタンスルホネートイオン、メチル硫酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、水酸化物イオン、カルボン酸イオン、ハロゲンイオンなどが挙げられる。
【0037】
カルボン酸イオンとしては、例えば、炭素数1〜4のモノカルボン酸イオンやジカルボン酸イオン(ヒドロキシカルボン酸イオンを含む。)、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸イオン、芳香族カルボン酸イオン等が挙げられる。具体的には、例えば、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、マレイン酸イオン、コハク酸イオン、グリコール酸イオン、乳酸イオン、酒石酸イオン、1,3,4,5-テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸(キナ酸)イオン、安息香酸イオンなどが挙げられる。
【0038】
ハロゲンイオンとしては、例えば、ブロミドイオン、クロリドイオン、ヨードイオンなどが挙げられる。
【0039】
アニオンをこれらのものとすることで、イオン液体の融点を例えば100℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは常温(25℃)以下、特に好ましくは15℃以下とすることができる。
【0040】
また、水溶性の高いイオン液体を得る点からは、アニオンとしてメタンスルホネートイオン、メチル硫酸イオン、水酸化物イオン、およびカルボン酸イオンが好ましい。
【0041】
特に本発明では、水溶性官能基の−R5−Aをカチオン構造に導入し、かつアニオンとしてメタンスルホネートイオン、メチル硫酸イオン、水酸化物イオン、またはカルボン酸イオンを用いた場合に、低融点でかつ水溶性がきわめて高いイオン液体が得られるが、メチル硫酸イオンを製造する際には毒性の高い硫酸ジメチルを使用する必要があり、環境負荷、安全面では高い毒性の原料を使用することがない、メタンスルホネートイオン、水酸化物イオン、およびカルボン酸イオンを用いることが好ましい。
【0042】
アニオンとしてカルボン酸イオンを用いたものでは、融点が常温以下で、水溶性がきわめて高く、かつ生分解性を有する化合物には、アニオンX-が酒石酸イオン、1,3,4,5-テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸イオン、またはグリコール酸イオンであり、かつ、カチオンの水溶性官能基の数が1個である場合、R1、R2、R3、R4のうち残り3個のアルキル基は、その少なくとも1個が他のアルキル基とは異なる構造である化合物が含まれる。
【0043】
また、式(I)のR1〜R5の炭素数が上記の範囲内であることにより、高い水溶性を得ることができるとともに、分子サイズも小さくなり、且つ柔軟な構造とすることができる。そのため、例えば電子顕微鏡の可視化剤として用いた場合には、生体試料に適用した際に浸透性が高く、生体試料のバルク形状および微細構造の収縮等の変形が抑制され、高精度な観察が可能となる。
【0044】
本発明の親水性イオン液体は、例えば、次のようにして合成することができる。
【0045】
最初の工程として、式(I)の構造に対応するアルキレンハロヒドリン、モノハロアルキルカルボン酸、アルキルハライドなどの有機ハロゲン化合物と、アルキルアミン、アルカノールアミン、アミノ酸などのアミン系化合物とを、アセトニトリル等の溶媒中で反応させる。反応温度と反応時間は原料の種類等にもよるが、例えば、室温下、1日程度で行うことができる。
【0046】
反応後、析出した固体をろ別、洗浄した後、次の工程としてアニオン交換を行う。アニオン交換を行う際には、例えば、得られた反応物と式(I)のX-に対応する酸とを水中で反応させる。反応温度と反応時間は原料の種類等にもよるが、例えば、室温下、1日程度で行うことができる。あるいは、イオン交換樹脂等を用いることもできる。使用するイオン交換樹脂は、例えば、水処理用または触媒用として市販されている強塩基性イオン交換樹脂が使用できる。
【0047】
その後、水を減圧留去し、洗浄することにより、目的の化合物を得ることができる。
【0048】
本発明の親水性イオン液体は、第4級アンモニウムカチオンの官能基や特性基およびアニオンの選択により、低融点でかつ水溶性がきわめて高いものを得ることが可能であり、特に、アニオンとしてメタンスルホネートイオン、水酸化物イオン、およびカルボン酸イオンを用いたものは、例えば、融点が100℃以下、さらには常温(25℃)、特に15℃以下で液状とすることができるとともに、常温(25℃)での水への溶解度を900g/100g water以上とすることができ、各種の用途、例えば、電子顕微鏡の可視化剤、反応溶媒、セルロース溶解溶媒、タンパク質保存溶媒、電解質材料、帯電防止剤、潤滑油等に好適に用いることができる。
【0049】
なお、本発明において、イオン液体が液状であるとは、流動性を有する状態を意味し、例えばゲルのような流動性のないものは含まれない。
【0050】
電子顕微鏡の可視化剤として用いる場合、本発明の親水性イオン液体によれば、その導電性により試料観察面の帯電を簡易な手段で防止することができる。さらに、水溶性で比較的分子サイズが小さく且つ柔軟な分子構造をもつことから、生体試料中の水と良好に置換することにより、生体試料に適用した際に浸透性が高く、生体試料のバルク形状および微細構造の収縮等の変形が抑制され、高精度での観察が可能となる。
【0051】
反応溶媒としては、例えば、酵素の再使用が可能な酵素反応溶媒として用いることができる。また、通常の溶媒には不溶なセルロースを誘導体化させることなく溶解でき、反応させることができる。このように、イオン液体の機能を生かした反応設計や、新機能を有する材料の創出が可能となる。この他、本発明の親水性イオン液体は、その水酸基やカルボキシル基に基づく高い親水性により、バイオ系サンプルを取り扱う用途に適しており、タンパク質リフォールディング用添加剤等にも好適である。
【0052】
また、通常の溶媒やイオン液体よりも極性が高いため、例えば、金属塩化物、金属水酸化物等のように通常の溶媒やイオン液体には溶解しにくいような無機化合物の溶解性を高めることができ、これにより反応性を高めることができる。
【0053】
本発明の親水性イオン液体は、常温(25℃)での水への溶解度が、好ましくは150g/100g water以上、より好ましくは550g/100g water以上、さらに好ましくは900g/100g water以上である。水への溶解度が550g/100g water以上であると生体試料、特に水含有生体試料に対する浸透性を高めることができ、生体試料との親和性を高めることができる。また、SEM等の電子顕微鏡の可視化剤として用いる場合において、このように生体試料との親和性が高いため、試料観察面の帯電を簡易な手段で防止することができるとともに、乾燥後も試料のバルク形状および微細構造を保持して収縮等の変形を抑制することができ、さらに収縮痕へのイオン液体の部分的な残留により試料本来の像が妨げられることを抑制し、試料の像を高精度に得ることができる。水への溶解度が900g/100g water以上であると、生体試料との親和性を特に高めることができ、電子顕微鏡の可視化剤としての形状保持作用等も特に高めることができる。
【0054】
本発明の親水性イオン液体は、生分解性が高く環境負荷の低減を図ることができることから、環境適性に優れている。本発明の親水性イオン液体の易分解性は、脂肪族基に水酸基またはカルボキシル基を置換した水溶性官能基を導入した4級アンモニウム構造によるものと考えられる。
【0055】
例えば、OECD(経済協力開発機構)テストガイドライン301C法に準拠した生分解性試験による28日間のBOD分解度を60%以上とすることができる。OECDテストガイドライン301のうち、OECDテストガイドライン301C法は、28日間の生化学的酸素要求量(BOD)から求めた分解度が60%以上を満たす化学物質は易分解性物質であり、実際の好気的な水環境では速やかに分解されるため、環境中に残留することがなく、環境に対する影響を低減することができる。
【0056】
すなわち、化学物質は、使用中は安定であるが、使用後は環境中に排出される場合も少なくないため、環境負荷が小さいことが望まれる。例えば、環境に対して開放の条件で使用する場合は、生分解性が高く、環境負荷が小さいほうが望ましい。そして近年では、産業廃棄物に代表される環境問題が深刻になり、廃棄物を削減することが企業の重要な責務となっている。この点において、生分解性の高い化学物質は、廃棄後は焼却処分などをしなくても微生物によって分解されるため廃棄物削減につながる。現在、プラスチックや潤滑油分野においても生分解性が着目され新たな材料開発が行われている(特開2008−115301号公報等)。以上のような背景において、生分解性の高い本発明の親水性イオン液体は環境負荷低減に貢献するものである。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
下記式で表される化合物を合成した。
【0058】
【化2】
【0059】
2-ブロモエタノール(167.26g、1.34mol)とジメチルエチルアミン(293.70g、4.02mol)をアセトニトリル(850ml)中で、室温下、24時間反応させた。反応後、析出した固体をろ別し、洗浄を行うことにより第4級アンモニウムブロマイド塩(246.14g、1.24mol)を得た。
【0060】
得られた第4級アンモニウムブロマイド塩(246.14g、1.24mol)とメタンスルホン酸(257.57g、2.68mol)を水(600ml)中で、室温下、24時間反応後、水を減圧留去し、黄色液体を得た。得られた液体を洗浄することにより、無色透明液体の上記化合物158.40gを得た。
FT-IR(KBr):3360cm-1:O-H伸縮振動 2923cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.24 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 2.72 (s, 3H, CH3SO3-), δ 3.03 (s, 6H, CH3N+), δ 3.38 (q, 4H, CH2N+), δ 3.95 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:39.12% H:9.09% N:6.68% S:15.34%
理論値C:39.42% H:8.98% N:6.57% S:15.03%
<実施例2〜14>
下記の表1〜表3に示した実施例2〜14の化合物を、実施例1と同様の合成方法と、表8および表9に記載した配合モル比にて合成した。物性値を下記に示す。
<実施例2>
【0061】
【化3】
【0062】
FT-IR(KBr):3331cm-1:O-H伸縮振動 2954cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.24 (t, 6H, CH3CH2N+), δ 2.72 (s, 3H, CH3SO3-), δ 2.95 (s, 3H, CH3N+), δ 3.34 (q, 6H, CH2N+), δ 3.93 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:42.10% H:9.40% N:6.04% S:13.90%
理論値C:42.27% H:9.31% N:6.16% S:14.11%
<実施例3>
【0063】
【化4】
【0064】
FT-IR(KBr):3260cm-1:O-H伸縮振動 2907cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 2.71 (s, 3H, CH3SO3-), δ 3.11 (s, 9H, CH3N+), δ 3.42 (t, 2H, CH2N+), δ 3.97 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:36.07% H:8.78% N:7.06% S:15.90%
理論値C:36.16% H:8.60% N:7.03% S:16.09%
<実施例4>
【0065】
【化5】
【0066】
FT-IR(KBr):3389cm-1:O-H伸縮振動 2991cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.30 (t, 9H, CH3CH2N+), δ 2.64 (s, 3H, CH3SO3-), δ 3.22 (m, 8H, CH2N+), δ 3.82 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:44.57% H:9.36% N:5.63% S:13.42%
理論値C:44.79% H:9.61% N:5.80% S:13.29%
<実施例5>
【0067】
【化6】
【0068】
FT-IR(KBr):3324cm-1:O-H伸縮振動 2986cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.20 (t, 6H, CH3CH2N+), δ 2.70 (s, 3H, CH3SO3-), δ 3.20 (m, 4H, CH3CH2N+), δ 3.40 (m, 4H, N+CH2CH2OH), δ 3.81 (m, 4H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:41.80% H:9.26% N:5.20% S:12.62%
理論値C:42.00% H:9.01% N:5.44% S:12.46%
<実施例6>
【0069】
【化7】
【0070】
FT-IR(KBr):3352cm-1:O-H伸縮振動 2996cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.23 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 2.69 (s, 3H, CH3SO3-), δ 3.23 (m, 2H, CH3CH2N+), δ 3.50 (m, 6H, N+CH2CH2OH), δ 3.91 (m, 6H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:39.25% H:8.67% N:5.00% S:11.52%
理論値C:39.55% H:8.48% N:5.12% S:11.73%
<実施例7>
【0071】
【化8】
【0072】
FT-IR(KBr):3360cm-1:O-H伸縮振動 2923cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.25 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 2.94 (s, 3H, CH3SO4-), δ 3.03 (s, 6H, CH3N+), δ 3.38 (q, 4H, CH2N+), δ 3.95 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:36.39% H:8.65% N:6.00% S:13.52%
理論値C:36.67% H:8.35% N:6.11% S:13.98%
<実施例8>
【0073】
【化9】
【0074】
FT-IR(KBr):3271cm-1:O-H伸縮振動 2991cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.31 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 3.07 (s, 6H, CH3N+), δ 3.41 (q, 4H, CH2N+), δ 3.98 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:35.01% H:7.73% N:6.87%
理論値C:35.15% H:7.87% N:6.83%
<実施例9>
【0075】
【化10】
【0076】
FT-IR(KBr):3259cm-1:O-H伸縮振動 2922cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 3.30 (s, 9H, CH3N+), δ 3.42 (t, 2H, CH2N+), δ 3.97 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:32.42% H:7.89% N:7.68%
理論値C:32.62% H:7.67% N:7.61%
<実施例10>
【0077】
【化11】
【0078】
FT-IR(KBr):3260cm-1:O-H伸縮振動 2909cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 3.30 (s, 9H, CH3N+), δ 3.42 (t, 2H, CH2N+), δ 3.97 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:31.25% H:7.55% N:7.10%
理論値C:31.45% H:7.39% N:7.33%
<実施例11>
【0079】
【化12】
【0080】
FT-IR(KBr):3324cm-1:O-H伸縮振動 2986cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.21 (t, 6H, CH3CH2N+), δ 3.21 (m, 4H, CH3CH2N+), δ 3.43 (m, 4H, N+CH2CH2OH), δ 3.92 (m, 4H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:48.35% H:10.40% N:7.10%
理論値C:48.60% H:10.20% N:7.08%
<実施例12>
【0081】
【化13】
【0082】
FT-IR(KBr):3324cm-1:O-H伸縮振動 2986cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.19 (t, 6H, CH3CH2N+), δ 3.19 (m, 4H, CH3CH2N+), δ 3.44 (m, 4H, N+CH2CH2OH), δ 3.82 (m, 4H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:39.50% H:8.55% N:5.70%
理論値C:39.68% H:8.32% N:5.78%
<実施例13>
【0083】
【化14】
【0084】
FT-IR(KBr):3324cm-1:O-H伸縮振動 2986cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.19 (t, 6H, CH3CH2N+), δ 3.19 (m, 4H, CH3CH2N+), δ 3.44 (m, 4H, N+CH2CH2OH), δ 3.82 (m, 4H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:33.09% H:7.10% N:4.76%
理論値C:33.23% H:6.97% N:4.84%
<実施例14>
【0085】
【化15】
【0086】
FT-IR(KBr):3352cm-1:O-H伸縮振動 2996cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.23 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 3.23 (m, 2H, CH3CH2N+), δ 3.50 (m, 6H, N+CH2CH2OH), δ 3.91 (m, 6H, N+CH2CH2OH).
元素分析:実測値C:37.00% H:7.98% N:5.45%
理論値C:37.22% H:7.81% N:5.43%
<実施例15>
下記式で表される化合物を合成した。
【0087】
【化16】
【0088】
実施例1で得られた第4級アンモニウムブロマイド塩をイオン交換水に溶解し、OH型に置換したイオン交換樹脂(三菱化学(株)製ダイアイオン SA10A)を充填したカラムに通液することによって上記化合物を得た。物性値を下記に示す。
FT-IR(KBr):3350cm-1:O-H伸縮振動 2990cm-1:C-H伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.26 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 3.02 (s, 6H, CH3N+), δ 3.38 (q, 4H, CH2N+), δ 3.94 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
<実施例16>
下記式で表される化合物を合成した。
【0089】
【化17】
【0090】
実施例15の化合物と酢酸を、実施例1と同様の配合モル比で酸処理することで上記化合物を得た。物性値を下記に示す。
FT-IR(KBr):3330cm-1:O-H伸縮振動 2980cm-1:C-H伸縮振動
1580cm-1:COO-伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.26 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 1.84 (s, 3H, CH3COO-), δ 3.02 (s, 6H, CH3N+), δ 3.38 (q, 4H, CH2N+), δ 3.94 (t, 2H, N+CH2CH2OH).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 183.09 (CH3COO-).
元素分析:実測値C:54.00% H:10.98% N:7.60%
理論値C:54.21% H:10.80% N:7.90%
<実施例17>
下記式で表される化合物を合成した。
【0091】
【化18】
【0092】
実施例15の化合物とグリコール酸を、実施例1と同様の配合モル比で酸処理することで上記化合物を得た。物性値を下記に示す。
FT-IR(KBr):3320cm-1:O-H伸縮振動 2985cm-1:C-H伸縮振動
1580cm-1:COO-伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.23 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 2.98 (s, 6H, CH3N+), δ 3.34 (q, 4H, CH2N+), δ 3.95 (m, 2H, N+CH2CH2OH), δ 3.96 (s, 2H, CH2COO-).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 177.85 (CH2COO-).
元素分析:実測値C:49.50% H:10.25% N:6.98%
理論値C:49.72% H:9.91% N:7.25%
<実施例18>
下記式で表される化合物を合成した。
【0093】
【化19】
【0094】
実施例15の化合物と乳酸を、実施例1と同様の配合モル比で酸処理することで上記化合物を得た。物性値を下記に示す。
FT-IR(KBr):3464cm-1:O-H伸縮振動 2920cm-1:C-H伸縮振動
1570cm-1:COO-伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.27 (m, 6H, CH3CH2N+,CH3CH), δ 3.00 (s, 6H, CH3N+), δ 3.34 (q, 4H, CH2N+), δ 3.94 (m, 2H, N+CH2CH2OH), δ 4.15 (q, 1H, CH3CH).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 180.09 (CHCOO-).
元素分析:実測値C:51.82% H:10.50% N:6.56%
理論値C:52.15% H:10.21% N:6.76%
<実施例19>
下記式で表される化合物を合成した。
【0095】
【化20】
【0096】
実施例15の化合物と酒石酸を、実施例1と同様の配合モル比で酸処理することで上記化合物を得た。物性値を下記に示す。
FT-IR(KBr):3465cm-1:O-H伸縮振動 2920cm-1:C-H伸縮振動
1728cm-1:C=O伸縮振動 1570cm-1:COO-伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.24 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 2.99 (s, 6H, CH3N+), δ 3.35 (q, 4H, CH2N+), δ 3.92 (m, 2H, N+CH2CH2OH), δ 4.49 (s, 2H, CH).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 175.60 (CHCOO-).
元素分析:実測値C:44.65% H:8.22% N:5.04%
理論値C:44.94% H:7.92% N:5.24%
<実施例20>
下記式で表される化合物を合成した。
【0097】
【化21】
【0098】
実施例15の化合物と1,3,4,5-テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸を、実施例1と同様の配合モル比で酸処理することで上記化合物を得た。物性値を下記に示す。
FT-IR(KBr):3420cm-1:O-H伸縮振動 2920cm-1:C-H伸縮振動
1580cm-1:COO-伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.24 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 1.52-1.79 (m, 4H, CCH2), δ 3.04 (s, 6H, CH3N+), δ 3.35 (q, 4H, CH2N+), δ 3.43 (m, 1H, CH2CHCH), δ 3.64 (m, 1H, CH2CH), δ 3.82 (m, 2H, N+CH2CH2OH), δ 3.91 (m, 1H, CH2CH).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 177.82 (CCOO-).
元素分析:実測値C:50.16% H:9.15% N:4.18%
理論値C:50.47% H:8.80% N:4.53%
<実施例21>
下記式で表される化合物を合成した。
【0099】
【化22】
【0100】
実施例6で得られた第4級アンモニウムブロマイド塩をイオン交換水に溶解し、OH型に置換したイオン交換樹脂(三菱化学(株)製ダイアイオン SA10A)を充填したカラムに通液することによって第4級アンモニウムヒドロキシド塩を得た。この第4級アンモニウムヒドロキシド塩とグリコール酸を、実施例1と同様の配合モル比で酸処理することで上記化合物を得た。物性値を下記に示す。
FT-IR(KBr):3312cm-1:O-H伸縮振動 2980cm-1:C-H伸縮振動
1589cm-1:COO-伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.23 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 3.39 (m, 2H, CH3CH2N+), δ 3.52 (t, 6H, N+CH2CH2OH) , δ 3.86 (t, 6H, N+CH2CH2OH), δ 3.96 (s, 2H, CH2COO-).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 178.16 (CH2COO-).
元素分析:実測値C:47.10% H:9.40% N:5.28%
理論値C:47.42% H:9.15% N:5.53%
<実施例22>
下記式で表される化合物を合成した。
【0101】
【化23】
【0102】
3-ブロモプロピオン酸(150.00g、0.98mol)とジメチルエチルアミン(358.39g、4.90mol)をアセトニトリル(750ml)中で、室温下、24時間反応させた。反応後、析出した固体をろ別し、洗浄を行うことにより第4級アンモニウムブロマイド塩(204.76g、0.68mol)を得た。
【0103】
得られた第4級アンモニウムブロマイド塩(204.76g、0.68mol)とメタンスルホン酸(235.47g、2.45mol)を水(500ml)中で、室温下、24時間反応後、水を減圧留去し、黄色液体を得た。得られた液体を洗浄することにより、無色透明液体の上記化合物85.60gを得た。
FT-IR(KBr):2961cm-1:C-H伸縮振動 1728cm-1:C=O伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.35 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 2.70 (s, 3H, CH3SO3-), δ 2.97 (t, 2H, N+CH2CH2COOH), δ 3.10 (s, 6H, CH3N+), δ 3.46 (q, 2H, CH3CH2N+), δ 3.66 (q, 2H, N+CH2CH2COOH).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 171.66 (CH2COOH).
元素分析:実測値C:39.51% H:8.12% N:5.76% S:12.98%
理論値C:39.82% H:7.94% N:5.80% S:13.29%
<実施例23〜26>
下記の表6に示した実施例23〜26の化合物を、実施例22と同様の合成方法と、表9に記載した配合モル比にて合成した。物性値を下記に示す。
<実施例23>
【0104】
【化24】
【0105】
FT-IR(KBr):2960cm-1:C-H伸縮振動 1730cm-1:C=O伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.13 (t, 6H, CH3CH2N+), δ 2.64 (s, 3H, CH3SO3-), δ 2.91 (t, 4H, N+CH2CH2COOH), δ 3.11 (s, 4H, CH3CH2N+), δ 3.46 (q, 4H, N+CH2CH2COOH).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 173.77 (CH2COOH).
元素分析:実測値C:42.00% H:7.56% N:4.60% S:10.50%
理論値C:42.16% H:7.40% N:4.47% S:10.23%
<実施例24>
【0106】
【化25】
【0107】
FT-IR(KBr):2935cm-1:C-H伸縮振動 1722cm-1:C=O伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.25 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 2.72 (s, 3H, CH3SO3-), δ 2.97 (t, 6H, N+CH2CH2COOH), δ 3.28 (s, 2H, CH3CH2N+), δ 3.51 (q, 6H, N+CH2CH2COOH).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 173.80 (CH2COOH).
元素分析:実測値C:40.05% H:6.56% N:3.70% S:9.20%
理論値C:40.33% H:6.49% N:3.92% S:8.97%
<実施例25>
【0108】
【化26】
【0109】
FT-IR(KBr):2961cm-1:C-H伸縮振動 1728cm-1:C=O伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.36 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 2.74 (s, 3H, CH3SO4-), δ 3.00 (t, 2H, N+CH2CH2COOH), δ 3.11 (s, 6H, CH3N+), δ 3.48 (q, 2H, CH3CH2N+), δ 3.70 (q, 2H, N+CH2CH2COOH).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 171.70 (CH2COOH).
元素分析:実測値C:37.16% H:7.55% N:5.10% S:12.67%
理論値C:37.34% H:7.44% N:5.44% S:12.46%
<実施例26>
【0110】
【化27】
【0111】
FT-IR(KBr):2970cm-1:C-H伸縮振動 1728cm-1:C=O伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.18 (t, 6H, CH3CH2N+), δ 2.96 (t, 4H, N+CH2CH2COOH), δ 3.15 (s, 4H, CH3CH2N+), δ 3.35 (q, 4H, N+CH2CH2COOH).
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 177.21 (CH2COOH).
元素分析:実測値C:40.30% H:6.70% N:4.67%
理論値C:40.28% H:6.76% N:4.70%
<実施例27>
下記式で表される化合物を合成した。
【0112】
【化28】
【0113】
実施例22で得られた第4級アンモニウムブロマイド塩をイオン交換水に溶解し、OH型に置換したイオン交換樹脂(三菱化学(株)製ダイアイオン SA10A)を充填したカラムに通液することによって第4級アンモニウムヒドロキシド塩を得た。この第4級アンモニウムヒドロキシド塩とグリコール酸を、実施例1と同様の配合モル比で酸処理することで上記化合物を得た。物性値を下記に示す。
FT-IR(KBr):3380cm-1:O-H伸縮振動 2980cm-1:C-H伸縮振動
1728cm-1:C=O伸縮振動 1580cm-1:COO-伸縮振動
1H-NMR (D2O 400MHz): δ 1.25 (t, 3H, CH3CH2N+), δ 2.79 (m, 2H, N+CH2CH2COOH), δ 2.99 (s, 6H, CH3N+), δ 3.33 (m, 2H, CH3CH2N+), δ 3.52 (m, 2H, N+CH2CH2COOH) , δ 4.08 (s, 2H, CH2COO-),.
13C-NMR (D2O 100MHz): δ 174.13 (CH2COO-).
元素分析:実測値C:48.59% H:8.99% N:6.05%
理論値C:48.86% H:8.66% N:6.33%
<比較例1〜8>
表5および表7に示す比較例1〜8の化合物を用意した。比較例5、6の化合物については実施例1に準じた方法により、比較例7、8の化合物については実施例22に準じた方法により合成した。
【0114】
上記の実施例および比較例の化合物について、融点は、試料を減圧乾燥させ無水物とした後に、DSCで測定したピークトップ温度を融点とした。水への溶解度は次の方法で測定した。TG/DTAで測定した含水率を踏まえて、スクリュー管に所定の濃度となるようにイオン液体および水を仕込み、その後、25℃で30分間攪拌した後、10分間静置し、溶解性を目視で確認し、25℃での水100gに溶解するイオン液体量(g)を溶解度(g/100g water)とした。
【0115】
実施例および比較例のイオン液体の融点と水への溶解度の結果を表1〜表7に示す。なお、表中“liquid”は15℃で液体であることを示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
【表5】
【0121】
【表6】
【0122】
【表7】
【0123】
【表8】
【0124】
【表9】
【0125】
このように、実施例のイオン液体は融点が低く、その多くは常温、特に15℃以下で液体であり、全て融点100℃以下であった。さらに、アニオンとしてメタンスルホネートイオン、水酸化物イオン、およびカルボン酸イオンを用いたものでは、低融点であるとともに、水への溶解度がいずれも900g/100g water以上と際立って高く、カチオン構造として同種のものを用いてアニオンを変更したものと比べても特に高いものであった。なお、親水性のイオン液体として知られているテトラフルオロホウ酸1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムについて同様に水への溶解度を測定したところ550g/100g water未満であり、またイオン液体の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドでは10g/100g water未満であった。
<実施例28〜36、比較例9〜12>
表10および表11に示す化合物について、生分解性試験を行った。生分解性試験は、OECDテストガイドライン301C法に準拠して行った。この試験には一般活性汚泥を微生物源として使用し、調製した標準試験培養液300mlに、微生物源30mg/l、被験物質100mg/lの濃度になるようにそれぞれ投入し、25±1℃、試験期間28日、標準物質にアニリンを使用して行った。分解率はアクタック製BODセンサーを使用して生化学的酸素要求量(BOD;biochemical oxygen demand)を測定し、算出した理論的酸素要求量の値から分解度を算出した。具体的には、28日間のBOD分解度が60%以上の場合を易分解性として評価した。
【0126】
その結果を表10および表11に示す。
【0127】
【表10】
【0128】
【表11】
【0129】
なお、実施例28、30〜35では、脂肪族基に水酸基を置換した水溶性官能基を導入した化合物(実施例1、16〜21に相当)、実施例29、36では脂肪族基にカルボキシル基を置換した水溶性官能基を導入した化合物(実施例22、27に相当)を用いた。比較例9、10では、親水性のイオン液体として知られているイミダゾリウム系化合物(比較例9:テトラフルオロホウ酸1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、比較例10:1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホネート)を用い、比較例11、12では、水溶性官能基を導入せずに全てアルキル基とした以外は実施例28、29と類似構造である親水性の第4級アルキルアンモニウム系化合物を用いた。
【0130】
一般に、親水性の化合物は疎水性の化合物に比べて生分解性が高い傾向にあると考えられている。実施例28〜36、比較例9〜12では全て親水性イオン液体を試料として用いた。ところが、親水性の点からは生分解性が高いと予測される親水性イオン液体の中でも、従来より知られているイミダゾリウム系化合物の比較例9、10は難分解性であった。そして、水溶性官能基を設けなかった以外は実施例28、29と類似構造の比較例11、12の親水性化合物も難分解性であった。
【0131】
これに対して、実施例28〜36の化合物は易分解性を示した。このように、親水性のイオン液体や類似構造化合物の間でも大きな差異が現われた。すなわち、実施例28〜36のように水酸基またはカルボキシル基を含む水溶性官能基を導入した4級アンモニウム構造による生分解性向上への作用は、比較例9〜12の結果との対比においても明確に現われている。