(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミックス組成物を焼成して得られるセラミックス層と、該セラミックス層の表面及び/又は内部にあって、前記セラミックス組成物と同時焼成して得られる導体層とを有することを特徴とする電子部品。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1のセラミックス組成物は、結晶化ガラスを原料として用いているが、結晶化ガラスは、ガラス原料を融点以上に加熱し、溶解させて調製するので、熱エネルギーを要する。また、結晶化ガラスはブロック状の塊状物として生成されるので粉末化するに際し手間を要する。このため、結晶化ガラスを原料として用いた場合、材料コストが嵩む問題があった。また、結晶化ガラスは、低温焼結を可能にするためには、助剤成分を比較的多量に使用する必要があるが、助剤成分を多量に含有させることでディオプサイド結晶の特性が損なわれ、特に高周波領域における誘電損失が増加する傾向にあった。
【0008】
一方、固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末は、助剤成分の使用量が少量であっても、低温焼結することができ、ディオプサイド結晶の特性が損なわれにくい。また、それぞれの原料を融点以下の温度で合成することができるので、結晶化ガラスに比べて低温での合成が可能であり、更には、粉末状で合成されるので、粉末化工程が簡略で済む。このため、製造コストを抑えることができ、経済的に優れる、という利点がある。
【0009】
しかしながら、特許文献2のセラミックス組成物を焼成して得られるセラミックス焼結体は、耐メッキ性が劣り、このセラミックス組成物を用いて基板等の電子部品を製造した場合、導体層の表面をメッキ処理するに際し、セラミックス層がメッキ液によって浸食されることがあった。メッキ液で浸食された部位にはメッキ残渣が残り、大気中の湿気を吸収すると電解質液となって、マイグレーションが促進され易かった。更には、導体層とセラミックス層との固着力が低下して、導体層がセラミックス層から剥離し易くなるという問題があった。
【0010】
よって、本発明の目的は、低温焼結が可能で、高周波領域での誘電損失が低く、メッキ耐食性に優れたセラミックス焼結体を得ることが可能なセラミックス組成物、該組成物から得られるセラミックス焼結体、及び該焼結体を用いた、高周波領域での誘電損失が低く、メッキ耐食性に優れ、マイグレーションが改善された電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のセラミックス組成物の第1は、固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、SrTiO
3粉末を6〜19質量部、Al成分を酸化物換算で1.4〜6質量部、Li成分を酸化物換算で0.3〜0.9質量部、B成分を酸化物換算で1.6〜3.2質量部、Zn成分を酸化物換算で3.2〜5.1質量部、Cu成分を酸化物換算で0.5〜0.9質量部、Ag成分を酸化物換算で0〜3質量部、Co成分を酸化物換算で0〜4.5質量部含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のセラミックス組成物の第2は、固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、CaTiO
3粉末を13〜43質量部、Al成分を酸化物換算で1.4〜6質量部、Li成分を酸化物換算で0.3〜0.9質量部、B成分を酸化物換算で1.6〜3.2質量部、Zn成分を酸化物換算で3.2〜5.1質量部、Cu成分を酸化物換算で0.5〜0.9質量部、Ag成分を酸化物換算で0〜3質量部、Co成分を酸化物換算で0〜4.5質量部含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のセラミックス組成物の第3は、固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、SrTiO
3粉末及びCaTiO
3粉末を合計して6.5〜42質量部、Al成分を酸化物換算で1.4〜6質量部、Li成分を酸化物換算で0.3〜0.9質量部、B成分を酸化物換算で1.6〜3.2質量部、Zn成分を酸化物換算で3.2〜5.1質量部、Cu成分を酸化物換算で0.5〜0.9質量部、Ag成分を酸化物換算で0〜3質量部、Co成分を酸化物換算で0〜4.5質量部含有することを特徴とする。
【0014】
本発明のセラミックス組成物の第1〜第3は、前記Ag成分を、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、酸化物換算で0.5〜3質量部含有することが好ましい。
【0015】
本発明のセラミックス組成物の第1〜第3は、前記Co成分を、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、酸化物換算で1.5〜4.5質量部含有することが好ましい。
【0016】
また、本発明のセラミックス焼結体は、上記セラミックス組成物を焼成して得られたものである。
【0017】
本発明のセラミックス焼結体は、ディオプサイト結晶粒の粒内、粒界及び三重点から選ばれるいずれかに、SrTiO
3結晶及び/又はCaTiO
3結晶が単独で存在していることが好ましい。この態様において、前記SrTiO
3結晶及び/又はCaTiO
3結晶の平均粒径が0.5〜3μmであることが好ましい。
【0018】
本発明のセラミックス焼結体は、共振周波数の温度係数τfの絶対値が30×10
−6/℃以下であり、Q×f値が5000GHz以上であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の電子部品は、上記セラミックス組成物を焼成して得られるセラミックス層と、該セラミックス層の表面及び/又は内部にあって、前記セラミックス組成物と同時焼成して得られる導体層とを有することを特徴とする。
【0020】
本発明の電子部品は、前記導体層が、Ag、Cu、もしくはそれらの少なくとも一方を含む合金で形成されていることが好ましい。
【0021】
本発明の電子部品は、前記導体層の表面が湿式メッキ処理されていることが好ましい。
【0022】
本発明の電子部品は、基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のセラミックス組成物は、固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末を用いたことで、ディオプサイド結晶粉末以外の助剤成分の使用量が少量であっても、低温焼結が可能である。このため、ディオプサイド結晶の特性が損なわれにくい。また、固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末は、それぞれの原料を融点以下の温度で合成し、粉末状の形態で合成されるので、加熱に要する熱エネルギーを低減でき、更には、粉末化に要する手間を簡略化して製造コストを抑えることができ、経済的に優れる。また、SrTiO
3粉末及び/又はCaTiO
3粉末を、それぞれ所定量含有させたことで、得られるセラミックス焼結体の誘電率ε及びQ×f値を大きくしつつ、共振周波数の温度係数τfを制御して、ほぼゼロに近づけることができる。また、Li成分、B成分、Zn成分、Cu成分、Ag成分及びCo成分を、それぞれ所定量含有させたことで低温焼結が可能となり、特に930℃以下での低温で焼結することができる。そして、Al成分を所定量含有させたことで、焼結後の粒界構造が強固となり、粒界の化学耐久性が向上し、耐メッキ性に優れた焼結体を得ることができる。
【0024】
また、本発明のセラミックス焼結体は、低温焼結が可能であることから、Cu、Ag等の低抵抗金属と同時焼結することができ、これらの低抵抗金属を導体層として備えた電子部品のセラミックス層などに用いることができる。また、耐メッキ性に優れることから、導体層の表面をメッキ処理しても、セラミックス層がメッキ液によって浸食されにくくでき、マイグレーションやデラミネーション等の発生し難い電子部品とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[セラミックス組成物]
本発明のセラミックス組成物は、固相反応法により得られたディオプサイド結晶粉末を主成分として含有する。このディオプサイド結晶粉末は、Si、Mg、Caの酸化物、炭酸塩等のガラスでない材料からなるセラミックス粉末を、ディオプサイドの化学量論比(Ca:Mg:Si=1:1:2)となるように混合し、融点以下で加熱し、固相反応法により焼結し、所定粒度に粉砕して製造される。
【0027】
上記セラミックス粉末は、Si、Mg、Caをそれらの酸化物、すなわちSiO
2、MgO、CaOに換算した配合割合が、好ましくは、SiO
2 53.5〜62質量%、MgO 12〜22質量%、CaO 21〜32質量%となるように調整し、より好ましくは、SiO
2 56〜59.5質量%、MgO 15〜19質量%、CaO 23.5〜29.5質量%となるように調整する。SiO
2、MgO、CaOを上記範囲に調整することで、ディオプサイド結晶を析出させやすくなる。
【0028】
SiO
2の含有量が62質量%を超えると、ウォラストナイト結晶が生成しやすくなり、誘電損失が大きくなって、強度も低下することがある。また、SiO
2の含有量が53.5質量%未満であると、オーケルマナイト結晶が生成し易くなり、誘電損失が大きくなることがある。
【0029】
MgOの含有量が22質量%を超えると、フォルステライト結晶が生成し易くなり、強度が低下し易くなる。また、MgOの含有量が12質量%未満であると、ウォラストナイト結晶が生成し易くなり、誘電損失が大きくなり易い。
【0030】
CaOの含有量が32質量%を超えると、ウォラストナイト結晶や、オーケルマナイト結晶が生成し易くなり、誘電損失が大きくなり、強度が低下し易くなる。また、CaOの含有量が21質量%未満であると、フォルステライト結晶が生成し易くなり、強度が低下し易い。
【0031】
本発明において、ディオプサイド結晶粉末の平均粒径は、0.8〜2μmが好ましい。平均粒径が0.8μm未満であると、比表面積(BET値)が大きくなり、セラミックス組成物をグリーンシート化した際に、密度が小さくなり易い。このため、焼成前後でシートの収縮量が大きくなり易く、導体材料と同時焼成してセラミックス層上に導体層を形成しようとした場合、導体層がセラミックス層から剥離し易くなる。また、平均粒径が2μmを超えると、セラミックス組成物をグリーンシート化する際に、グリーンシートの厚みを薄くし難くなる。なお、本発明において、ディオプサイド結晶粉末の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による粒度分布測定の方法で測定した値を意味する。
【0032】
本発明のセラミックス組成物は、SrTiO
3粉末及び/又はCaTiO
3粉末を含有する。
【0033】
ディオプサイド結晶は、単独では共振周波数の温度係数τfが負の特性(およそ−65×10
−6/℃)を示す。一方、SrTiO
3結晶は、共振周波数の温度係数τfが1670×10
−6/℃であり、CaTiO
3結晶は、共振周波数の温度係数τfが840×10
−6/℃であり、それぞれ単独では共振周波数の温度係数τfが正の特性を示す。このため、SrTiO
3粉末やCaTiO
3粉末を含有することで、共振周波数の温度係数τfを調整してゼロに近づけることができる。
【0034】
そして、SrTiO
3粉末は、ディオプサイド結晶との焼結により、焼結後の結晶相として、SrTiO
3単独、もしくはSrTiO
3にカルシウムが固溶した、(xCa、1−xSr)TiO
3型ペロブスカイト化合物が生成される。このペロブスカイト化合物は、共振周波数の温度係数τfが正の値を示すので、SrTiO
3粉末は、少量の添加量で、ディオプサイド結晶を含有するセラミックス焼結体の共振周波数の温度係数τfを上昇させて、ゼロに近づけることができる。
【0035】
また、CaTiO
3粉末は、ディオプサイド結晶との焼結により、ディオプサイド結晶中のSiO
2と反応して、チタナイト(もしくはスフェーン、CaTiSiO
5)を生成し易い。チタナイトは、共振周波数の温度係数τfが、−756×10
−6/℃と負に大きな特性を持つことから、チタナイトが生成されると共振周波数の温度係数τfを補償する際の阻害要因となり、チタナイトの共振周波数の温度係数τfを相殺する分量をさらに添加する必要が生じる。
【0036】
ここで、異種材料が複合したような組成物の共振周波数は、経験的に次の式(1)が成り立つことが知られている。
{複合体の共振周波数の温度係数τf=Σ(各成分の体積分率(vol%)×各成分の共振周波数の温度係数τf)} ・・・(1)
【0037】
また、異種材料が複合した組成物の誘電率についても、経験的に次の式(2)が成り立つことが知られている。
{log(複合体の誘電率ε)=Σ(各成分の体積分率(vol%)×log(各成分の誘電率ε)} ・・・(2)
【0038】
そして、SrTiO
3の共振周波数の温度係数τf及び誘電率εは、τf=1670×10
−6、ε=255であり、CaTiO
3の共振周波数の温度係数τf及び誘電率εは、τf=840×10
−6/℃、ε=177である。
【0039】
つまり、誘電率εを極力上げずに共振周波数の温度係数τfを上げたい場合は、SrTiO
3粉末を用いることが好ましい。また、誘電率εも共振周波数の温度係数τfも両方を上げたい場合は、CaTiO
3粉末を用いることが好ましい。また、誘電率εと共振周波数の温度係数τfとを用途に応じて任意で調整する場合は、SrTiO
3粉末とCaTiO
3粉末とを併用することが好ましい。
【0040】
したがって、本発明のセラミックス組成物の第一の態様は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、SrTiO
3粉末を6〜19質量部含有する。SrTiO
3粉末の含有量が上記範囲内であれば、高周波領域での誘電損失を低くしつつ、共振周波数の温度係数τfをゼロに近づけることができる。
【0041】
また、本発明のセラミックス組成物の第二の態様は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、CaTiO
3粉末を13〜43質量部含有する。CaTiO
3粉末の含有量が上記範囲内であれば、高周波領域での誘電損失を低くしつつ、共振周波数の温度係数τfをゼロに近づけることができる。
【0042】
また、本発明のセラミックス組成物の第三の態様は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、SrTiO
3粉末とCaTiO
3粉末とを合計で6.5〜42質量部含有する。SrTiO
3粉末とCaTiO
3粉末との合計含有量が上記範囲内であれば、高周波領域での誘電損失を低くしつつ、共振周波数の温度係数τfをゼロに近づけることができる。
【0043】
本発明のセラミックス組成物において、SrTiO
3粉末及びCaTiO
3粉末は、得られるセラミックス焼結体の焼結性、高強度化、共振周波数の温度係数τfを制御するという観点から、平均粒径が0.5〜2μmの粉状物を用いることが好ましく、特に、ディオプサイド結晶粉末に対して分散性を向上させるという理由から、0.8〜1.5μmの粉状物を用いることがより好ましい。なお、本発明において、SrTiO
3粉末及びCaTiO
3粉末の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による粒度分布測定の方法で測定した値を意味する。
【0044】
本発明のセラミックス組成物は、Al成分を含有する。Al成分としては、Alの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Al成分を含有することで、得られるセラミックス焼結体の粒界構造が強固となり、粒界の化学耐久性が向上する。このため、耐メッキ性に優れたセラミックス焼結体が得られる。Al成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、酸化物(Al
2O
3)換算で1.4〜6質量部含有する。Al成分の含有量が酸化物換算で1.4質量部未満であると、添加効果が乏しく、耐メッキ性が劣る。また、6質量部を超えると、セラミックス組成物の焼結性が低下し、930℃以下で焼結しない。
【0045】
本発明のセラミックス組成物は、Li成分を含有する。Li成分としては、Liの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Li成分を含有することで、焼結時に液相を形成し、セラミックス組成物の焼結温度を低下させることができる。Li成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(Li
2O)換算で0.3〜0.9質量部含有する。Li成分の含有量が酸化物換算で0.3質量部未満であると、セラミックス組成物の焼結性が低下し、930℃以下で焼結しない。また、0.9質量部を超えると、焼結時に融着が起こり、焼結体の形状が安定しにくくなると共に、絶縁性が損なわれ易くなる。
【0046】
本発明のセラミックス組成物は、B成分を含有する。B成分としては、Bの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。B成分を含有することで、焼結時に液相を形成し、セラミックス組成物の焼結温度を低下させることができる。B成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、酸化物(B
2O
3)換算で1.6〜3.2質量部含有する。B成分の含有量が酸化物換算で1.6質量部未満であると、セラミックス組成物の焼結性が低下し、930℃以下で焼結しない。また、3.2質量部を超えると、Q×f値が低下し、誘電損失が大きくなる。
【0047】
本発明のセラミックス組成物は、Zn成分を含有する。Zn成分としては、Znの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Zn成分を含有することで、焼結時中に液相を形成し、セラミックス組成物の焼結温度を低下させることができる。更には耐水性を向上させることができる。Zn成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(ZnO)換算で3.2〜5.1質量部含有る。Zn成分の含有量が酸化物換算で3.2質量部未満であると、セラミックス組成物の焼結性が低下し、930℃以下で焼結しない。また、5.1質量部を超えると、Q×f値が低下し、誘電損失が大きくなる。
【0048】
本発明のセラミックス組成物は、Cu成分を含有する。Cu成分としては、Cuの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Cu成分を含有することで、焼結時に液相を形成し、セラミックス組成物の焼結温度を低下させることができる。Cu成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(CuO)換算で0.5〜0.9質量部含有する。Cu成分の含有量が酸化物換算で0.5質量部未満であると、セラミックス組成物の焼結性が低下し、930℃以下で焼結しない。また、0.9質量部を超えると、焼結時に融着が起こり、焼結体の形状が安定しにくくなると共に、絶縁性が損なわれ易くなる。
【0049】
本発明のセラミックス組成物は、Ag成分を任意成分として含有できる。Ag成分としては、Agの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Ag成分を含有することで、導体金属としてAgやAg合金を用い、セラミックス組成物と導体金属とを同時焼成した際に、導体金属がセラミックス組成物の液相に溶出することを防止できる。Ag成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、酸化物(Ag
2O)換算で0〜3質量部含有でき、好ましくは0.5〜3質量部含有する。Ag成分の含有量が酸化物換算で0.5質量部未満であると、セラミックス組成物と導体金属と同時焼成した際に、導体金属のセラミックス組成物の液相への溶出を防止できないことがある。また、3質量部を超えると、耐メッキ性が低下する傾向にある。
【0050】
本発明のセラミックス組成物は、Co成分を任意成分として含有できる。Co成分としては、Coの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Co成分を含有することで、焼結性を向上できる。Co成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(CoO)換算で0〜4.5質量部含有でき、好ましくは
2.0〜4.5質量部含有する。Co成分の含有量が酸化物換算で0.5質量部未満であると、添加効果が殆ど得られず、4.5質量部を超えると、焼結時に融着が生じ易くなる。
【0051】
本発明のセラミックス組成物は、更に、Na成分、K成分、Ca成分、Mg成分、Ba成分、P成分等を任意で含有させることができる。
【0052】
Na成分、K成分を含有させることで、焼結性を大きく損なわずに、耐水性や耐酸性を向上できる。Na成分、K成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(Na
2O、K
2O)換算で、合計量で0〜2質量部含有できる。
【0053】
また、Ca成分、Mg成分、Ba成分を含有させることで、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができる。Ca成分、Mg成分、Ba成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(CaO、MgO、BaO)換算で、合計量で0〜5質量部含有できる。
【0054】
また、P成分を含有させることで、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができる。P成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(P
2O
5)換算で、0〜2質量部含有できる。
【0055】
[セラミックス焼結体]
本発明のセラミックス焼結体は、上記のような組成となるように配合されたセラミックス組成物を、ZrO
2ボールなどを用いて、水などの湿式下で混合し、必要に応じて結合剤、可塑剤、溶剤等を添加し、所定形状に成形して、焼成することによって得られる。
【0056】
上記結合剤としては、例えばポリビニルブチラール樹脂、メタアクリル酸樹脂等が用いられ、可塑剤としては、例えばフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等が用いられ、溶剤としては、例えばトルエン、メチルエチルケトン等を使用することができる。
【0057】
成形は、各種の公知の成形方法、例えばプレス法、ドクターブレード法、射出成形法、テープ成形等により任意の形状に成形する。これらの方法の中で、ドクターブレード法、及びテープ成形が積層体形成のために特に好ましい。
【0058】
焼成は、大気中または酸素雰囲気中または窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気において、850〜1000℃で0.5〜3時間焼成することが好ましい。
【0059】
このようにして得られる本発明のセラミックス焼結体は、ディオプサイト結晶粒の粒内、粒界及び三重点から選ばれるいずれかに、SrTiO
3結晶及び/又はCaTiO
3結晶が単独で存在している。SrTiO
3結晶及びCaTiO
3結晶の平均粒径は、0.5〜3μmが好ましい。0.5μm未満であると、共振周波数の温度係数τfが−30×10
−6/℃以下になり易い。3μmを超えると仮焼後の湿式混合時の分散が悪くなり、結果として、焼結体におけるSrTiO
3結晶やCaTiO
3結晶の偏在が顕著になり易い。SrTiO
3結晶及びCaTiO
3結晶の確認は、顕微鏡観察で確認できる。なお、本発明において、SrTiO
3結晶、CaTiO
3結晶の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による粒度分布測定の方法で測定した値を意味する。
【0060】
また、本発明のセラミックス焼結体は、誘電率ε及びQ×f値が高く、共振周波数の温度係数τfがゼロに近く、耐メッキ性に優れ、メッキプロセスによる基材侵食がきわめて少ないものである。更には耐水性、耐薬品性、機械強度にも優れる。
【0061】
本発明のセラミックス焼結体は、誘電率εが、8〜20であることが好ましい。また、Q×f値が、5000GHz以上であることが好ましい。また、共振周波数の温度係数τfの絶対値が、30×10
−6/℃以下であることが好ましい。
【0062】
本発明のセラミックス焼結体は、共振周波数の温度係数τfの絶対値を30×10
−6/℃以下、Q×f値を5000以上にできるので、例えば、回路基板、フィルタ、アンテナの高周波部品用の電子部品に好適に使用することができる。
【0063】
[電子部品]
次に、本発明の電子部品について説明する。
【0064】
本発明の電子部品は、上記セラミックス組成物を焼成して得られるセラミックス層と、該セラミックス層の表面及び/又は内部にあって、セラミックス組成物と同時焼成して得られる導体層とを有する。
【0065】
導体層を構成する材料としては、低抵抗材料が好ましく、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金がより好ましい。Ag合金としては、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金等が挙げられる。Cu合金としては、Cu−Ca合金、Cu−Mg−Ca合金、Cu−Ni−Fe合金等が挙げられる。
【0066】
本発明の電子部品としては、例えば単層基板、積層基板、コンデンサ、フィルタ等が挙げられる。
【0067】
以下、本発明の電子部品を積層基板として使用する場合の製造例について説明する。
【0068】
本発明のセラミックス組成物に、結合剤、溶剤、可塑剤などを加えてスラリー状に調整し、ドクターブレード法等の方法で薄膜状に成形してグリーンシートを製造する。
【0069】
次いで、得られたグリーンシート上に、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金等の導体金属を含む導体ペーストを、スクリーン印刷法等により印刷し、所定パターンの未焼成内部導体層を形成する。
【0070】
次いで、未焼成内部導体層が形成された各グリーンシートを複数重ね合せ、圧着して未焼成積層体を製造する。
【0071】
次いで、未焼成積層体を脱バインダー処理し、所定形状に切断して、未焼成内部導体層を未焼成積層体の端部に露出させる。そして、未焼成積層体の端面に、導体金属を含む導体ペーストをスクリーン印刷法等の方法により印刷して、未焼成下地金属を形成する。
【0072】
次いで、未焼成下地金属が形成された未焼成積層体を、酸素雰囲気中又は非酸化性雰囲気において、870℃〜930℃で0.5〜3時間焼成し、未焼成積層体と未焼成下地金属とを同時焼成する。
【0073】
そして、未焼成下地金属を焼成して得られた下地金属の表面を、電解メッキ等の湿式メッキ処理を施してメッキ層を形成して外部電極を形成する。こうすることで、セラミックス層の層間及びセラミックス層の外側に導体層が形成された積層基板が得られる。
【0074】
本発明の電子部品は、セラミックス層の誘電率εが8〜20、Q×f値が5000以上、−25〜85℃の範囲における共振周波数の温度係数τfの絶対値が30×10
−6/℃以下であり、高周波領域の誘電特性に優れている。また、セラミックス層は、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金などの低抵抗金属との同時焼成が可能な温度で焼結ができるので、導体金属として、これらの低抵抗金属を用いることができる
【実施例】
【0075】
SiO
2、CaO及びMgO粉末を表1〜4の各試料組成の割合で秤量し、15時間湿式混合後、120℃で乾燥し、乾燥した粉体を大気中1200℃で2時間仮焼し、得られた仮焼物を粉砕して、平均粒径1.1μmのディオプサイド結晶粉末を製造した。このディオプサイド結晶粉末に、表1,2に示す酸化物の割合となるように、SrTiO
3粉末、CaTiO
3粉末、B
2O
3粉末、Li
2O粉末、CoO粉末、ZnO粉末、CuO粉末、Ag
2O粉末及びAl
2O
3粉末をそれぞれ秤量して添加し、15時間湿式混合後、150℃で乾燥した。この乾燥物にPVA系バインダーを適量添加し、造粒、プレス成型後、大気中500℃に加熱して脱バインダー処理し、成型体を得た。この成型体を、大気中930℃で2時間焼成して、試料No.1〜80の焼結体を得た。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
各焼結体の結晶相、焼結性、吸水率、誘電率ε、Q×f値、温度係数τfを評価した。結果を表5〜8に記す。表5〜8の結晶相中、Diはディオプサイド結晶を意味し、Foはフォルステライト結晶を意味し、Akはオーケルマナイト結晶を意味し、Woはウォラストナイト結晶を意味し、STはSrTiO
3結晶を意味し、CTはCaTiO
3結晶を意味し、CSTは(xCa、1−xSr)TiO
3型ペロブスカイト化合物の結晶を意味し、Tiはチタナイト(もしくはスフェーン)結晶を意味する。
【0081】
なお、結晶相は、Cu−Kα線を用いた粉末X線回折(ディフラクトメータ法)の方法で評価した。また、焼結性は、930℃で焼結したものを○、焼結しなかったものを×として評価した。また、吸水性は、水中アルキメデス法に基づき測定した。また、誘電率ε、Q×f値、温度係数τfは、JIS R1627に準拠し、3GHz〜5GHzの共振周波数における値を測定した。また、共振周波数における温度係数τfは、3GHz〜5GHzの共振周波数の−25〜85℃間における温度変化率を測定した。
【0082】
また、上記焼結体からなるセラミックス層の表面に、
図1に示すようにAgペーストを印刷し、大気中930℃で2時間焼成して、セラミックス層上にAg導電層が形成された試験体を得た。得られた試験体を、通常電子部品向けのNi、Cu、Snで電解メッキしてAg導電層をメッキ層で被覆した。この焼結体のセラミックス層のメッキ浸食距離を評価した。結果を表5〜8にまとめて記す。
【0083】
なお、メッキ浸食距離は、焼結体またはチップを破断し、破断面を電子顕微鏡を用いて観察し、破断面で見られる表面から焼結体内部方向に、粒界破断モードを呈する部分の深さを、メッキ浸食距離として測定した。
【0084】
また、試料No.1,3の焼結体を用いて、耐湿試験を行った。結果を
図2に示す。なお、耐湿試験は、
図1に示す試験体を用いて、温度85℃、湿度85%の環境下にて、DC5Vの電圧を印加し、抵抗値の経時変化を測定した。
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【0087】
【表7】
【0088】
【表8】
【0089】
試料No.1〜8の結果より、Al成分の含有量が、ディオプサイド結晶(主成分)100質量部に対し、酸化物換算で1.4〜6質量部である、試料No.3〜7は、930℃で焼結し、電気特性及び耐メッキ性に優れるものであった。これに対し、Al成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し1.4質量部未満である試料No.1,2は耐メッキ性に劣るものであった。そして、
図2に示す、試料No.1,3の耐湿試験結果からも明らかなように、耐メッキ性に劣る試料No.
1は、経時的に抵抗値が低下して、耐湿性に劣るものであった。また、Al成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し6質量部を超える試料No.8は、焼結性が劣り、930℃で焼結しなかった。
【0090】
また、試料No.9〜15の結果より、B成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し、酸化物換算で1.6〜3.2質量部である、試料No.10〜14は、930℃で焼結し、電気特性及び耐メッキ性に優れるものであった。これに対し、B成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し1.6質量部未満である試料No.9は、焼結性が劣り、930℃で焼結しなかった。また、B成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し3.2質量部を超える試料No.15は、Q×f値が小さく、誘電損失が大きかった。
【0091】
また、試料No.16〜21の結果より、Li成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し、酸化物換算で0.3〜0.9質量部である、試料No.17〜20は、930℃で焼結し、電気特性及び耐メッキ性に優れるものであった。これに対し、Li成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し0.3質量部未満である試料No.16は、焼結性が劣り、930℃で焼結しなかった。また、Li成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し0.9質量部を超える試料No.21は、焼結時に融着が生じた。
【0092】
また、試料No.22〜28の結果より、Co成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し、酸化物換算で0〜4.5質量部である、試料No.22〜27は、930℃で焼結し、電気特性及び耐メッキ性に優れるものであった。特に、Co成分の含有量がディオプサイド結晶100質量部に対し1.5〜4.5質量部である試料No.23〜27は、特に低温での焼結性に優れるものであった。これに対し、Co成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し4.5質量部を超える試料No.28は、焼結時に融着が生じた。
【0093】
また、試料No.29〜34の結果より、Zn成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し、酸化物換算で3.2〜5.1質量部である、試料No.30〜33は、930℃で焼結し、電気特性及び耐メッキ性に優れるものであった。これに対し、Zn成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し3.2質量部未満である試料No.29は、焼結性が劣り、930℃で焼結しなかった。また、Zn成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し5.1質量部を超える試料No.34は、Q×f値が小さく、誘電損失が大きかった。
【0094】
また、試料No.35〜39の結果より、Cu成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し、酸化物換算で0.5〜0.9質量部である、試料No.36〜38は、930℃で焼結し、電気特性及び耐メッキ性に優れるものであった。これに対し、Cu成分の含有量が、上記割合で0.5質量部未満である試料No.35は、焼結性が劣り、930℃で焼結しなかった。また、Cu成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し0.9質量部を超える試料No.39は、焼結時に融着が生じた。
【0095】
試料No.40〜45の結果より、Ag成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し、酸化物換算で0〜3質量部である、試料No.40〜44は、930℃で焼結し、電気特性及び耐メッキ性に優れるものであった。これに対し、Ag成分の含有量が、ディオプサイド結晶100質量部に対し3質量部を超える試料No.45は、耐メッキ性の劣るものであった。
【0096】
試料No.46〜68の結果より、ディオプサイド結晶100質量部に対し、SrTiO
3粉末の含有量が6〜19質量部である試料No.47〜50、CaTiO
3粉末の含有量が13〜43質量部である試料No.53〜57、SrTiO
3粉末及びCaTiO
3粉末の合計含有量が6.5〜42質量部である試料No.60〜67は、いずれも930℃で焼結し、電気特性及び耐メッキ性に優れるものであった。これに対し、SrTiO
3粉末、CaTiO
3粉末の含有量が本発明の範囲から外れる、試料No.46、51、52、58、59、68は、いずれも温度係数τfの絶対値が大きいものであった。
【0097】
また、試料No.69〜80の結果より、試料No.69,72,73,76,77,80は、主成分であるディオプサイド結晶の組成比がディオプサイドの化学量論比(Ca:Mg:Si=1:1:2)から大きくずれたために、ディオプサイドより誘電損失の大きな2次相が析出しており、Q×f値が小さく、誘電損失が大きかった。