特許第5887082号(P5887082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887082
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】炎症状態の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20160303BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   G01N33/53 D
   A61K39/395 D
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-163840(P2011-163840)
(22)【出願日】2011年7月27日
(65)【公開番号】特開2012-53034(P2012-53034A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2014年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-176845(P2010-176845)
(32)【優先日】2010年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 (1)2010年2月8日 九州リウマチ学会事務局「第39回九州リウマチ学会プログラム抄録集」に発表 (2)2010年3月7日 一般社団法人日本リウマチ学会「第39回九州リウマチ学会」に発表 (3)2010年3月19日一般社団法人日本リウマチ学会「第54回日本リウマチ学会総会・学術集会プログラム抄録集」に発表 (4)2010年4月24日 一般社団法人日本リウマチ学会総会・学術集会に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】503196776
【氏名又は名称】株式会社ペルセウスプロテオミクス
(73)【特許権者】
【識別番号】510215455
【氏名又は名称】医療法人財団白十字会
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】植木 幸孝
(72)【発明者】
【氏名】升田 喜士
(72)【発明者】
【氏名】宮本 恭子
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 ちひろ
(72)【発明者】
【氏名】須藤 幸夫
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/080981(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/016134(WO,A1)
【文献】 特開2009−092508(JP,A)
【文献】 特表2010−513917(JP,A)
【文献】 特開2009−288219(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/099608(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL−6阻害薬投与を受けている炎症性疾患患者由来の試料中のPTX3濃度を測定し、得られたPTX3濃度と、健常者のPTX3濃度又は炎症性疾患患者がIL−6阻害薬投与により炎症状態が抑制された状態のPTX3濃度とを対比することを特徴とするIL−6阻害薬投与を受けている当該患者における対象疾患の炎症状態又は感染症による炎症状態の検出方法。
【請求項2】
前記PTX3濃度及び、IL−6阻害薬投与を受けている炎症性疾患患者由来の試料中のCRP濃度を組み合わせて検出する請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
PTX3(ng/mL)/CRP(mg/dL)比が100以上のとき炎症状態とする請求項記載の検出方法。
【請求項4】
試料が、血液、血漿又は血清である請求項1〜3のいずれか1項記載の検出方法。
【請求項5】
PTX3濃度の測定が、抗PTX3抗体を用いて試料中のPTX3濃度を測定する免疫学的測定である請求項1〜4のいずれか1項記載の検出方法。
【請求項6】
免疫学的測定が、ELISAである請求項5記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL−6阻害薬投与を受けている患者における炎症状態の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PTX3は、Pentraxin、Pentaxin、TSG−14、MPTX3とも呼ばれ、インターロイキン1(IL−1)刺激を受けたヒト臍帯内皮細胞に発現しているものとして発見されたペントラキシン(Pentraxin)ファミリーに属する分泌タンパク質である(非特許文献1)。
ペントラキシンファミリーはLong PentraxinとShort Pentraxinに大別される。炎症性タンパクとして知られているC reactive protein(CRP)やserum amyloid P component(SAP)はShort Pentraxinに属し、構造の点で非常に類似している(非特許文献2)。CRPは特に炎症マーカーとして広く使用されている。
【0003】
関節リウマチ患者では、CRP値の変動は関節リウマチによる炎症を反映するのみならず、感染症等による炎症状態を反映して上昇する。近年、関節リウマチ等の画期的な治療薬としてIL−6の作用を阻害する働きを持つ抗IL−6受容体抗体であるトシリズマブが上市された。CRPは炎症時に産生されるIL−6により正の調節を受けて肝臓で合成され血中に分泌される。したがって、トシリズマブ投与患者ではCRPの合成経路がトシリズマブにより阻害されるためCRPが産生されず、CRPを炎症マーカーとして使用することができないことが問題となっている。また、トシリズマブはIL−6の作用を抑えるという作用機序から、発熱などの症状や血中CRP濃度の上昇をマスクしてしまうという性質を持つ。その結果、トシリズマブ投与患者は感染症に罹患や憎悪し易く、患者自身や医師が感染症の罹患に気づかないままに重篤な状態に陥ることが重大な問題となっている。トシリズマブ投与患者の炎症状態を知るためには、CRPや白血球数のわずかな変動や微細な症状の観察に頼らざるをえず、トシリズマブ投与患者においても使用可能な炎症マーカーが求められている。
【0004】
他方、CRPと類似する構造を持つPTX3もまたCRPと同様に炎症マーカーとなることが知られている(非特許文献3)。関節リウマチについては、関節リウマチ患者の滑液で正常コントロールと比較してPTX3タンパク質の発現が高いこと、関節リウマチ患者より採取した滑膜組織にはPTX3タンパク質が強く発現していることが報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Arthritis and Rheumatism,44/12(2841-50),2001
【非特許文献2】Breviario et al.: J. Biol. Chem., 267(31), 22190-7 (1992)
【非特許文献3】Bottazzi et al.:J.Leucoc.Biol.,79(5),909-12,(2006)
【非特許文献4】Luchetti et al.: Clin Exp Immunol.,119:196-202(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、IL−6阻害薬による治療を受けている患者における炎症状態を正確に判定又は診断する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、IL−6阻害薬投与を受けている患者の炎症状態を正確に把握すべく、CRP濃度に加えてPTX3濃度を測定し、それらの血中濃度と、炎症状態、例えば炎症性疾患の炎症症状の改善又は増化、感染症による炎症の発生等との相関性を検討したところ、CRP濃度は炎症症状の悪化、感染症の発生にもかかわらず低値となるにもかかわらず、PTX3濃度は炎症症状が改善している場合は低値を示し、炎症症状が悪化した場合や感染症に罹患した場合には明確な上昇を示すことから、PTX3濃度はIL−6阻害薬投与患者における炎症状態を正確に把握するためのマーカーとして有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、IL−6阻害薬投与を受けている患者由来の試料中のPTX3濃度を測定することを特徴とするIL−6阻害薬投与を受けている患者における炎症状態の検出方法を提供するものである。
また、本発明は、前記炎症状態が、IL−6阻害薬の対象疾患の炎症状態又は感染症による炎症状態である上記の検出方法を提供するものである。
また、本発明は、前記PTX3濃度及び、IL−6阻害薬投与を受けている炎症性疾患患者由来の試料中のCRP濃度を組み合わせて検出する上記の検出方法を提供するものである。
また、本発明は、抗PTX3抗体を含有する、IL−6阻害薬投与を受けている患者の炎症状態診断薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来IL−6阻害薬による治療を受けている患者特有の問題、すなわち発熱などの炎症症状の悪化、感染症の発生を発見できないという問題を、的確に発見でき、IL−6阻害薬投与に加えて、適切な治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】トシリズマブ治療を受けている関節リウマチ患者26症例のDAS28−ESR値の平均値の推移を示す図である。
図2】トシリズマブ治療を受けている関節リウマチ患者26症例の血中CRP濃度及び血中RTX3濃度の推移を示す図である。「ベースライン」は、治療開始前のCRP濃度の数値を示す。
図3】トシリズマブ治療中に感染症に罹患した患者のDAS28−ESR値、血中CRP濃度、及び血中PTX3濃度の推移を示す図である。
図4】トシリズマブ治療中に感染症に罹患した患者のDAS28−ESR値、血中CRP濃度、及び血中PTX3濃度の推移を示す図である。
図5】トシリズマブ治療中に関節疼痛、腫脹の憎悪が認められた患者のDAS28−ESR、血中CRP濃度及び血中PTX3濃度の推移を示す図である。
図6】実施例3の患者のPTX3/CRP比の推移を示す図である。
図7】実施例4の患者のPTX3/CRP比の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、IL−6阻害薬投与を受けている患者における炎症状態を診断するものである。ここでIL−6阻害薬は、IL−6の生物学的活性を抑制する薬剤をいう。例えば、IL−6、IL−6受容体またはgp130(gp130は分子量約130kDの糖タンパク質であり、IL−6受容体と会合して細胞内にシグナルを伝達するタンパク質である)の作用を阻害する薬剤であるが、IL−6の生物学的活性を抑制する薬剤であればこれらの例に限られない。具体的には、抗IL−6抗体、抗IL−6受容体抗体、抗gp130抗体、またはIL−6、IL−6受容体若しくはgp130を阻害するペプチド、タンパク質若しくは低分子化合物を例示することができる。抗IL−6抗体としてCNTO328、抗IL−6受容体拮抗薬としてトシリズマブが挙げられる。このうち、抗IL−6受容体抗体が好ましく、特にトシリズマブが好ましい。IL−6阻害薬は、望ましくないIL−6の増加を伴う疾患の治療に用いることができる。関節リウマチ、若年性特発性関節炎、キャッスルマン病、クローン病、潰瘍性大腸炎、心臓粘液腫、骨髄腫、成人スチル病、多発性軟骨炎、高安動脈炎、反応性関節炎、RS3PE症候群で治療例が存在する。本発明は、IL−6阻害薬治療の適用疾患に限らず、IL−6阻害薬投与患者を対象とすることができるが、関節リウマチ患者を対象とするのが特に好ましい。また、IL−6阻害薬投与患者のうち、IL−6阻害薬の効果が現れCRP値が、炎症状態を判断するための基準値以下に低下した患者を対象にするのが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記患者由来の試料中のPTX3濃度を測定する。試料は、PTX3タンパク質が含まれる可能性のある試料であれば特に制限されないが、ヒトから採取された試料が好ましい。試料の具体的な例としては、例えば、血液、血漿、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、血清、リンパ液、唾液、尿などを挙げることができるが、好ましいのは血液、血清、血漿である。
【0013】
本発明において測定するPTX3は、特に限定されず、全長PTX3でも、その断片でもよい。
試料に含まれるPTX3タンパク質の検出方法は特に限定されないが、抗PTX3抗体を用いた免疫学的方法により検出することが好ましい。免疫学的方法としては、例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウエスタンブロット、免疫染色、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくはエンザイムイムノアッセイであり、特に好ましいのは酵素結合免疫吸着定量法(enzyme−linked immunosorbent assay:ELISA)(例えば、sandwich ELISA)である。ELISAなどの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0014】
抗PTX3抗体を用いた一般的な検出方法としては、例えば、抗PTX3抗体を支持体に固定し、ここに被検試料を加え、インキュベートを行い抗PTX3抗体とPTX3タンパク質を結合させた後に洗浄して、抗PTX3抗体を介して支持体に結合したPTX3タンパク質を検出することにより、被検試料中のPTX3タンパク質の検出を行う方法を挙げることができる。
【0015】
本発明において用いられる支持体としては、例えば、アガロース、セルロースなどの不溶性の多糖類、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネイト樹脂などの合成樹脂や、ガラスなどの不溶性の支持体を挙げることができる。これらの支持体は、ビーズやプレートなどの形状で用いることが可能である。ビーズの場合、これらが充填されたカラムなどを用いることができる。プレートの場合、マルチウェルプレート(96穴マルチウェルプレート等)、やバイオセンサーチップなどを用いることができる。抗PTX3抗体と支持体との結合は、化学結合や物理的な吸着などの通常用いられる方法により結合することができる。これらの支持体はすべて市販のものを用いることができる。
【0016】
抗PTX3抗体とPTX3タンパク質との結合は、通常、緩衝液中で行われる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液、などが使用される。また、インキュベーションの条件としては、すでによく用いられている条件、例えば、4℃〜室温にて1時間〜24時間のインキュベーションが行われる。インキュベート後の洗浄は、PTX3タンパク質と抗PTX3抗体の結合を妨げないものであれば何でもよく、例えば、Tween20等の界面活性剤を含む緩衝液などが使用される。
【0017】
本発明のPTX3タンパク質測定方法においては、PTX3タンパク質を検出したい被検試料の他に、コントロール試料を設置してもよい。コントロール試料としては、PTX3タンパク質を含まない陰性コントロール試料やPTX3タンパク質を含む陽性コントロール試料などがある。この場合、PTX3タンパク質を含まない陰性コントロール試料で得られた結果、PTX3タンパク質を含む陽性コントロール試料で得られた結果と比較することにより、被検試料中のPTX3タンパク質を検出することが可能である。また、濃度を段階的に変化させた一連のコントロール試料を調製し、各コントロール試料に対する検出結果を数値として得て、標準曲線を作成し、被検試料の数値から標準曲線に基づいて、被検試料に含まれるPTX3タンパク質を定量的に検出することも可能である。
【0018】
抗PTX3抗体を介して支持体に結合したPTX3タンパク質の測定の好ましい態様として、標識物質で標識された抗PTX3抗体を用いる方法を挙げることができる。
【0019】
例えば、支持体に固定された抗PTX3抗体に被検試料を接触させ、洗浄後に、PTX3タンパク質を特異的に認識する標識抗体を用いて検出する。
【0020】
抗PTX3抗体の標識は通常知られている方法により行うことが可能である。標識物質としては、蛍光色素、酵素、補酵素、化学発光物質、放射性物質などの当業者に公知の標識物質を用いることが可能であり、具体的な例としては、ラジオアイソトープ(32P、14C、125I、3H、131Iなど)、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ビオチンなどを挙げることができる。標識物質としてビオチンを用いる場合には、ビオチン標識抗体を添加後に、アルカリホスファターゼなどの酵素を結合させたアビジンをさらに添加することが好ましい。標識物質と抗PTX3抗体との結合には、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、過ヨウ素酸法、などの公知の方法を用いることができる。
【0021】
具体的には、抗PTX3抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、抗PTX3抗体を支持体に固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSA、ゼラチン、アルブミンなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、標識抗PTX3抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、プレートに残った標識抗PPTX3抗体を検出する。検出は当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、放射性物質による標識の場合には液体シンチレーションやRIA法により検出することができる。酵素による標識の場合には基質を加え、基質の酵素的変化、例えば発色を吸光度計により検出することができる。基質の具体的な例としては、2,2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)、1,2−フェニレンジアミン(オルソ−フェニレンジアミン)、3,3',5,5'−テトラメチルベンジジン(TME)などを挙げることができる。蛍光物質の場合には蛍光光度計により検出することができる。
【0022】
PTX3タンパク質測定方法の特に好ましい態様として、ビオチンで標識された抗PTX3抗体およびアビジンを用いる方法を挙げることができる。
【0023】
具体的には、抗PTX3抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、抗PTX3抗体を固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSAなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、ビオチン標識抗PTX3抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素と結合したアビジンを加える。インキュベーション後、プレートを洗浄し、アビジンに結合している酵素に対応した基質を加え、基質の酵素的変化などを指標にPTX3タンパク質を検出する。
【0024】
PTX3タンパク質測定方法の他の態様として、PTX3タンパク質を特異的に認識する一次抗体を一種類以上、および該一次抗体を特異的に認識する二次抗体を一種類以上用いる方法を挙げることができる。
【0025】
例えば、支持体に固定された一種類以上の抗PTX3抗体に被検試料を接触させ、インキュベーションした後、洗浄し、洗浄後に結合しているPTX3タンパク質を、一次抗PTX3抗体および該一次抗体を特異的に認識する一種類以上の二次抗体により検出する。この場合、二次抗体は好ましくは標識物質により標識されている。
【0026】
PTX3タンパク質の測定方法の他の態様としては、凝集反応を利用した検出方法を挙げることができる。該方法においては、抗PTX3抗体を感作した担体を用いてPTX3を検出することができる。抗体を感作する担体としては、不溶性で、非特異的な反応を起こさず、かつ安定である限り、いかなる担体を使用してもよい。例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等を使用することができるが、ポリスチレンラテックス粒子を使用するのが好ましい。感作した粒子を試料と混合し、一定時間攪拌する。試料中に抗PTX3抗体が高濃度で含まれるほど粒子の凝集度が大きくなるので、凝集を肉眼でみることによりPTX3を検出することができる。また、凝集による濁度を分光光度計等により測定することによっても検出することが可能である。
【0027】
PTX3タンパク質の測定方法の他の態様としては、例えば、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いた方法を挙げることができる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーはタンパク質−タンパク質間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である。例えば、BIAcore(Pharmacia製)等のバイオセンサーを用いることによりPTX3タンパク質と抗PTX3抗体の結合を検出することが可能である。具体的には、抗PTX3抗体を固定化したセンサーチップに、被検試料を接触させ、抗PTX3抗体に結合するPTX3タンパク質を共鳴シグナルの変化として検出することができる。
【0028】
本発明の測定方法は、種々の自動検査装置を用いて自動化することもでき、一度に大量の試料について検査を行うことも可能である。
【0029】
本発明は、IL−6阻害薬投与を受けている患者の炎症状態診断薬の提供をも目的とするが、該診断薬は少なくとも抗PTX3抗体を含む。ここで診断薬には、キットも含まれる。該診断薬がELISA法に基づく場合は、抗体を固相化する担体を含んでいてもよく、抗体があらかじめ担体に結合していてもよい。該診断薬がラテックス等の担体を用いた凝集法に基づく場合は抗体が吸着した担体を含んでいてもよい。また、該診断薬は、適宜、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液、試料を処理するための試薬等を含んでいてもよい。
【0030】
IL−6阻害薬投与を受けている炎症性疾患患者由来の試料中のPTX3濃度は、当該患者の炎症状態を正確に反映している。すなわち、IL−6阻害薬投与により炎症が抑制されている場合は、PTX3濃度は低値を示すが、症状が悪化(例えば、発熱、疼痛、腫脹の悪化)した場合は上昇し、また感染症により炎症が生じている場合も上昇する。これに対し、炎症マーカーとして広く用いられているCRP濃度は、IL−6阻害薬投与により低下し、症状が悪化しても感染症が生じても低値を示す。
このように前記患者のPTX3濃度は、炎症状態を正確に反映するので、健常者のPTX3濃度又は炎症性疾患患者がIL−6阻害薬投与により炎症が抑制された状態のPTX3濃度の比べてPTX3濃度が高い場合には、当該患者は炎症が生じていると診断することができる。このようなPTX3濃度が高くなっているか否かは、予め準備しておいた健常者のPTX3濃度又はIL−6阻害薬投与により炎症が抑制された状態のPTX3濃度との統計学的な差があるか否かにより判定できる。ここで、炎症が生じている場合には、前記のように炎症症状の悪化、感染症による炎症の発生が含まれる。
また、個々の患者の経時的なPTX3値の推移を観察することによってもIL−6阻害剤の投与を受けている患者の炎症状態を判定することが可能である。例えば、ある時期のPTX3濃度に比べて、次の測定時期のPTX3濃度が高ければ、炎症が増悪したと判断することができる。
【0031】
また、前記患者のCRP濃度は、IL−6阻害薬投与により速やかに低下し、その後の炎症発生にもかかわらず上昇しない。従って、PTX3濃度とCRP濃度を組み合わせることにより、IL−6阻害薬投与患者の炎症状態を診断することができる。例えばPTX3/CRP比を測定すれば、当該患者の炎症状態を効率良く診断することができる。IL−6阻害薬の投与を受けていない患者では、炎症状態の存在によりPTX−3、CRPの両方が上昇するため、PTX3/CRP比は炎症状態の程度に依存して大きな変動を示さない。しかし、IL−6阻害薬の投与を受けている患者では、PTX3/CRP比は炎症状態の存在により顕著に上昇する。IL−6阻害薬の投与を受けている患者のPTX3(ng/mL)/CRP(mg/dL)比が、100以上であれば炎症状態の存在が疑われる。PTX3/CRP比の炎症状態の判定のための基準値は、90から160に設定するのが好ましく、特に好ましくは95から140、さらに好ましくは100から120である。ここで、PTX3/CRP比の算出に使用する数値はPTX3はng/mL、CRPはmg/dL単位を使用したが、他の単位を使用する場合には前記基準値と換算することが可能である。なお、使用した測定系のCRP値が0であった場合には、その測定系の最低検出感度の数値をCRP値として代入することによりPTX3/CRP比を算出することができる。
また、個々の患者の経時的なPTX3/CRP比の推移を観察することによってもIL−6阻害薬の投与を受けている患者の炎症状態を判定することが可能である。例えば、ある時期のPTX3/CRPに比べて、次の測定時期のPTX3/CRP比が大きければ、炎症が増悪したと判断することができる。
【0032】
なおCRP濃度は、公知の方法によって測定できる。ELISA法、免疫比濁法、ラテックス凝集法等を用いた測定キットが市販されている。
【実施例】
【0033】
実施例1
<対象>
関節リウマチ患者26名を対象とした。トシリズマブ8mg/kgを4週間間隔で点滴静脈注射により投与し、4週間毎に最大60週間の観察を行った。患者背景は表1の通りである。
トシリズマブ投与開始前及びトシリズマブの投与の際に、DAS28−ESRスコア、CRP及びPTX3値の測定を行った。1回目の投与時に1回目の測定、4週間後の2回目の投与時に2回目の測定、というように最大60週間まで(15回)測定を行った。血清CRP値は、エルピアエースCRP−LII(三菱化学メディエンス社製)、血漿PTX3値は加EDTA血漿を用いてPTX3−ELISAキット(ペルセウスプロテオミクス社製)により測定した。また、感染症が疑われたときには白血球数(WBC)を測定した。なお、PTX3−ELISAキットは、WO 2005/080981の実施例8と同様にして得られたものである。
【0034】
【表1】
【0035】
DAS28−ESRスコアは次の通りに算出した。
(1)疼痛・圧痛関節(Ritchie関節指数)(T28)
(2)腫脹関節数(S28)
(3)患者の全般健康状態(VAS 100mmによる)
(4)赤沈値(ESR)、単位:mm/時
【0036】
(1)〜(4)を次の計算式にあてはめてDAS28−ESRスコアを算出した。
【0037】
【数1】
【0038】
(1)(2)は28箇所の関節について評価した結果を用いるが、当該28関節及びVASの評価を含むDAS28−ESRの具体的算出方法については当業者に公知の方法により行うことができる(Prevoo MLL, et al:Modified disease activity scores that include twenty-eight-joint counts. Development and validation in a prospective longitudinal study of patients with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum38:44-48,1995)。
【0039】
実施例2
<全症例の結果>
26症例のDAS−ESR値の平均値の推移を図1、CRP値又はPTX3値の平均値の推移を図2に示した。CRP値はトシリズマブ投与開始4週間後より、治療開始前のCRP値に対して有意な低下を示した。PTX3値はトシリズマブ投与開始44週以降に治療開始前のCRP値に対して有意な低下を示した(図2)。
【0040】
実施例3
<感染症とCRP値、PTX3値>
トシリズマブ治療中に感染症に罹患した患者2名のDAS28−ESR、CRP値、PTX3値の推移を図3(症例2)及び図4(症例28)に示す。感染症の診断は、病歴、患者の主訴及び観察される症状、理学所見、画像診断等に基づいて医師により行われた。
感染症罹患時に、一般的に炎症マーカーとして用いられるCRP値は上昇しなかった。また、白血球数(WBC、個/μL)は顕著な上昇を示さなかった。しかし、PTX3値は、感染症の臨床症状の発現に伴い上昇が認められた。
【0041】
実施例4
<関節疼痛・腫脹の憎悪とPTX3>
トシリズマブ治療中に関節疼痛・腫脹の憎悪が認められた患者1名のDAS28−ESR、CRP値、PTX3値の推移を図5に示す(症例27)。関節疼痛・腫脹は医師により理学所見として有無が判断された。CRP値、DAS28−ESRが関節疼痛・腫脹の憎悪に伴いほとんど変動しなかったのに対して、PTX3値は鋭敏に上昇した。
【0042】
実施例5
<PTX3/CRP比と炎症症状>
実施例3に記載の患者2名のPTX3/CRP比を求め、その推移を図6、実施例4に記載の患者1名のPTX3/CRP比の推移を図7に示した。PTX3濃度はng/mL単位、CRP濃度はmg/dL単位での数値をPTX3/CRP比の算出に使用した。また、CRPの測定値が0であった場合には、CRP濃度を使用した測定系の最低検出感度である0.1mg/mLと擬制して計算を行った。
その結果、感染症および関節リウマチの増悪による炎症の発生時(図6、7に矢印で示
す)にPTX3/CRP比が上昇することが明らかになった。PTX3/CRP比が概ね1
00以上になった場合には、何らかの炎症状態の発生が疑うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7