(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、磁気共鳴画像診断装置(MRI)や超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES)といった様々な用途に使用されている。超電導コイルに用いられる超電導導体として、これまでNbTi等の金属系超電線材が広く用いられてきたが、これらの金属系超電導導体は、超電導状態とするために極低温まで冷却する必要があり、冷却コストが高いという問題がある。さらに比熱の小さい極低温下での使用となるため、安定性が悪く常電導転移を起こし易いという問題も有している。
これに対して、近年、REBa
2Cu
3O
7−δ(RE123、RE:希土類元素)で表される希土類系超電導体を用いた酸化物超電導線材やBi
2Sr
2CaCu
2O
8+δ(Bi2212)、Bi
2Sr
2Ca
2Cu
3O
10+δ(Bi2223)などのビスマス系酸化物超電導線材の開発が進められている。これらの酸化物超電線材は、金属系超電導線材に比べて臨界温度が高温であるため、比熱が比較的大きな高温領域での使用が可能であり、超電導特性を安定的に得ることができる。
【0003】
このような酸化物超電導線材を用いた超電導コイルは、テープ状の超電導線材を巻回してなるパンケーキコイルを複数積層した構造をとることが多い(例えば、特許文献1参照)。この積層構造の超電導コイルは、線材幅方向の歪みなどによる超電導特性の劣化が小さく、また、クエンチなどによって一部が損傷した場合、損傷した部分のパンケーキコイルのみを取り替えることができるという利点を有している。
【0004】
ここで、積層構造を構成する各パンケーキコイルは、電極(自由端)を外周側とするために、上下2個のパンケーキコイルを1組として、第1パンケーキコイルの内周端(巻回始端)と、第2パンケーキコイルの内周端(巻回始端)を電気的に接続したダブルパンケーキ構造とされるのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ダブルパンケーキ構造を有する超電導コイルにおいて、第1パンケーキコイルの巻回始端と第2パンケーキコイルの巻回始端との接続は、接続板として銅等の低抵抗金属板を用い、各巻回始端同士を互いに隣接させて配置し、両始端に跨るように接続板を半田付けすることで行われる。例えば、第1パンケーキコイル用の超電導線材を1層目として巻回した後、第2パンケーキコイル用の超電導線材を2層目として巻回する方法が採用される。
しかし、超電導線材の内周側の端部と接続板との接続状態が不完全であると、接続抵抗が高くなり、通電によって接続部分に比較的大きなジュール熱が発生するようになるので、このような接続不良箇所を修理する必要が生じる。
【0007】
しかし、超電導線材の巻回始端と接続板との接続部は、超電導線材を巻線したコイルと巻枠との間にあるため、直接修理することができない。このため、ダブルパンケーキコイルを超電導コイル装置に組み込んで運転を行った際、接続抵抗が大きいなど、接続不良のダブルパンケーキコイルが見つかった場合、そのダブルパンケーキコイルを超電導コイル装置から取り外し、別のダブルパンケーキコイルと交換する必要があり、ダブルパンケーキコイルそのものが無駄になるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みなされたものであり、ダブルパンケーキコイルを構成する第1パンケーキコイルと第2パンケーキコイルをそれらの巻回始端部において簡単に接続することができ、接続不良があった場合の修理も簡単にできる超電導コイル及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明は、切欠部を有する巻枠と、前記巻枠の周囲に、その巻回始端を前記切欠部の位置に合わせて超電導導体を巻回してなる第1コイル体を有する第1パンケーキコイルと、切欠部を有する巻枠と、前記巻枠の周囲に、その巻回始端を前記切欠部の位置に合わせて超電導導体を巻回してなる第2コイル体を有する第2パンケーキコイルとを備え、前記第1パンケーキコイルと前記第2パンケーキコイルが、それらの切欠部同士を互いに隣り合わせてそれらの中心軸位置を同一にして積層され、前記第1コイル体の酸化物超電導導体の巻回始端と前記第2コイル体の酸化物超電導導体の巻回始端が、前記切欠部内に配されてこれらの巻回始端に当接された導電性の接続板によって電気的に接続され
、前記巻枠の切欠部に該切欠部を閉じるブロック本体が着脱自在に取り付けられ、前記ブロック本体を取り外すと前記接続板と各巻回始端との接続部が前記巻枠の内周側に剥き出し状態になることを特徴とする。
本発明の超電導コイルによれば、第1パンケーキコイルの巻回始端と第2パンケーキコイルの巻回始端を接続する接続板が、巻枠の切欠部内に配されるため、接続不良のダブルパンケーキコイルが生じた場合、切欠部の空間を利用して接続板と各巻回始端との接続部を直接修理することができる。このため、ダブルパンケーキコイル全体を交換する必要が無くなる。従って、ダブルパンケーキコイル全体を無駄にすることが無くなり、超電導コイルの製造コスト低減を図ることができる。
【0010】
また、ブロック本体で巻枠の切欠部を閉じることにより、巻枠に切欠部が存在することによる強度低下を抑制でき、パンケーキコイルとしての強度を確保できる。よって、超電導導体に通電して電磁力を作用させるなどしてパンケーキコイルに外力が作用しても、巻枠の強度は高く変形し難いのでコイル体を構成する酸化物超電導導体に無用な負荷が作用しない。
【0011】
本発明の超電導コイルの製造方法は、切欠部を有する巻枠
本体と、該巻枠
本体の切欠部に嵌入されたブロック本体とを有する巻枠に、超電導導体を、その巻回始端を前記切欠部の位置に合わせて巻回し第1コイル体を形成し、第1パンケーキコイルを得る第1工程と、切欠部を有する巻枠
本体と、該巻枠
本体の切欠部に嵌入されたブロック本体とを有する巻枠に、超電導導体を、その巻回始端を前記切欠部の位置に合わせて巻回し第2コイル体を形成し、第2パンケーキコイルを得る第2工程と、前記各工程で得られた前記第1パンケーキコイルと前記第2パンケーキコイルを、それらの切欠部同士が互いに隣接するように厚さ方向に積層するとともに、前記各巻枠から前記ブロック本体を取り外し、前記各パンケーキコイルの前記巻回始端を前記各巻枠
本体の前記切欠部から
前記巻枠の内周側に露出させる第3工程と、前記各巻枠
本体の
前記切欠部に接続板を配し、前記第1コイル体の前記巻回始端と前記第2コイル体の前記巻回始端を前記接続板によって電気的に接続する第4工程と、
前記第4工程の後、前記各巻枠本体の前記切欠部に前記ブロック本体を嵌入して各切欠部を閉じる第5工程と、を有することを特徴とする。
第1パンケーキコイルと第2パンケーキコイルを重ねて各巻枠の切欠部に露出している巻回始端を隣接させ、両方の巻回始端を接続板で電気的に接続するので、第1コイル体の巻回始端と第2コイル体の巻回始端を容易かつ確実に接続できる。本発明の製造方法によれば、第1パンケーキコイル及び第2パンケーキコイルを、別々の巻枠を用いて作製できるため、各パンケーキコイルを、別々の巻線機によって並行して作製することができる。このため、各パンケーキコイルを同一の巻枠を用いて順番に作製するのに比べて、超電導コイルとするための酸化物超電導導体の巻回作業時間を大幅に短縮できる。
【0012】
また、巻枠として切欠部を有する構造のため、巻枠に巻回された超電導導体の巻回始端を切欠部から露出させることができる。このため、第1パンケーキコイルの超電導導体の巻回始端と、第2パンケーキコイルの超電導導体の巻回始端を、巻枠に邪魔されることなく、容易に接続板に接続できる。
さらに、接続板は巻枠の切欠部内に配されるため、切欠部を閉じているブロック本体を取り外すと、切欠部の空間に剥出し状態になる。このため、運転時に接続抵抗が高いダブルパンケーキコイルを発見した場合、その接続板と各巻回始端との接続部を再度接続し直すなど、直接修理することができ、ダブルパンケーキコイルそのものを無駄にする必要がない。したがって、超電導コイルの製造コストを低減できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の超電導コイルでは、第1パンケーキコイルの巻枠と第2パンケーキコイルの巻枠に切欠部を設け、各パンケーキコイルの超電導導体の巻回始端を切欠部の位置に合わせて巻回し、巻回始端同士を接続する接続板を切欠部内に配したので、接続板を巻枠の内周側に剥き出し状態にできる。このため、接続不良のダブルパンケーキコイルを発見した場合、接続板と各巻回始端との接続部を直接修理することができ、ダブルパンケーキコイル全体を交換する必要がない。したがって、無駄になるダブルパンケーキコイルの数を削減することができ、超電導コイルの製造コストを削減できる。
【0014】
また、本発明の超電導コイルの製造方法は、第1パンケーキコイルと第2パンケーキコイルを別々の巻枠を用いて作製できるため、各パンケーキコイルを作製する際、別々の巻線機により並行して巻線加工できる。このため、各パンケーキコイルを同一の巻枠を用いて巻線作業を順番に行いつつ超電導コイルを作製するのに比べて、超電導コイルの製造時間を大幅に短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る超電導コイルの第一実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る超電導コイルの第一実施形態を示す側面図、
図2は、
図1に示す超電導コイルの一部を拡大して示す分解斜視図、
図3〜
図5は、
図1に示す超電導コイルに備えられる巻枠とダブルパンケーキコイルを示す斜視図、
図6は、
図1に示す超電導コイルを構成する超電導導体の一例を示す斜視図である。
図1に示す本実施形態の超電導コイル10は、対向配置されたフランジ板31、32を巻胴30で一体化したボビンBにコイル積層体2を装着してなる。超電導コイル10において、複数のダブルパンケーキコイル23がそれらの厚さ方向に3層分積層され、コイル積層体2が構成され、コイル積層体2の上端面2a及び下端面2bにそれぞれ接するようにフランジ板31、32が配置され、積層されたダブルパンケーキコイル23、23の間に冷却板33が介挿されている。
【0017】
図2に示すように、各ダブルパンケーキコイル23は、それぞれ、同一径のドーナツ状の第1パンケーキコイル21と第2パンケーキコイル22とが、それらの厚さ方向に同軸的に積層されてなり、コイル積層体2は、各ダブルパンケーキコイル23が、同軸的に積層された多層構造とされている。なお、各コイル体21、22の形状はドーナツ状に限定されず、楕円形のレーストラック状あるいは矩形楕円形状などであってもよい。
【0018】
図3〜
図5に示すように、ダブルパンケーキコイル23を構成する第1パンケーキコイル21は、巻枠24と、この巻枠24の外周にテープ状の超電導導体1を巻回してなる第1のコイル体21Aとからなり、第2パンケーキコイル22は、巻枠24と、この巻枠24の外周にテープ状の超電導導体1を巻回してなる第2のコイル体22Aとからなる。
前記巻枠24は、
図3、
図5に示すように一部が切り欠かれたC型の円環状の巻枠本体24Aと、巻枠本体24Aの切欠部24aに嵌め込まれた嵌合ブロック24Bとから円環状に形成されている。この嵌合ブロック24Bは、切欠部24aを埋める大きさのブロック本体24bと、このブロック本体24bの内周部側に一体化されて巻枠本体24Aの内周面に沿って配置される円弧板状の取付板24cとから構成されている。また、巻枠本体24Aの切欠部24aに近い両端部に巻枠本体24Aの端部を貫通するようにネジ孔24eが形成され、ネジ孔24eが形成された位置に被着される取付板24cの両端部に透孔24fが形成されている。そして、嵌合ブロック24Bは、ブロック本体24bで切欠部24aを埋め込み、取付板24cを巻枠本体24Aの切欠部24aの両側部分に当接させるとともに、透孔24fを貫通したボルト25をネジ孔24eに螺合することで巻枠本体24Aに着脱自在に固定されている。
巻枠本体24Aの構成材料としては、特に限定されず、巻枠の材料として通常用いられる、比較的硬度の高い樹脂等の絶縁性材料を使用可能である。また、ブロック本体24bは巻枠本体24Aと同等の絶縁材料からなる。
【0019】
第1パンケーキコイル21のコイル体21Aは、超電導導体1を巻枠24の外周に、その巻回始端21aを切欠部24aの位置に合わせて反時計回りに多数回巻回することにより構成されている。また、第2パンケーキコイル22のコイル体22Aは、超電導導体1を巻枠24の外周に、その巻回始端22aを切欠部24aに位置に合わせて、時計回りに多数回巻回することにより構成されている。すなわち、第1パンケーキコイル21と第2パンケーキコイル22において、超電導導体1の巻回方向が互いに逆向きとされている。コイル体21A、22Aを構成するための超電導導体1は、後述する積層構造の超電導積層体1Aと該超電導積層体1Aを被覆する絶縁材料製の被覆層20により構成されており、例えば基材11側が内周側となるように巻枠本体24Aの外周に多層巻きされている。
【0020】
第1パンケーキコイル21と第2パンケーキコイル22は、第1パンケーキコイル21を下側にして、各巻枠24の切欠部24aが互いに上下に隣り合うように、厚さ方向に同軸的に積層されることでダブルパンケーキコイル23が構成されている。そして、第1パンケーキコイル21の巻回始端21aと第2パンケーキコイル22の巻回始端22aは切欠部24aの部分において互いに隣接され、切欠部24a内に配された接続板4によって電気的及び機械的に接続されている。即ち、各コイル体21A、22Aの巻回始端21a、22a及び巻回終端21b、22bでは、被覆層20が除去されて超電導積層体1Aが露出されているので、被覆層20から露出された後述の安定化層19の部分に接続板4が半田付けされて接続されている。この実施形態において接続板4は銅、アルミニウム等の良電導性金属材料からなる。
【0021】
接続板4と、各巻回始端21a、22aとの接合は、電気的および機械的に接続されていれば良く、例えば、半田付け等により接合することができるが、汎用性、接合性、取り扱いの容易性の点で半田付け接合が好ましい。半田としては、特に限定されず、例えば、Pb−Sn系合金半田、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金等の鉛フリー半田、共晶半田、低温半田等が挙げられ、これらの半田を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、融点が300℃以下の半田を用いるのが好ましい。これにより、300℃以下の温度で半田付けすることが可能となるので、半田付けの熱によって酸化物超電導層17の特性が劣化することを抑制できる。
なお、パンケーキコイル21、22においてそれらの巻回始端21a、22a同士を上述の接続板4により接続することで1つのダブルパンケーキコイル23において上下のパンケーキコイル21、22が電気的に接続されている。また、上下に積層されているダブルパンケーキコイル23、23同士の接続は、図面では略されているが、パンケーキコイル21、22の巻回終端に位置する酸化物超電導導体同士が他の接続板により接続され、導通されている。これらの接続によりコイル積層体2を構成する6つのパンケーキコイルが導通され、通電できるように構成されている。
【0022】
ダブルパンケーキコイル23、23の間に介挿されている冷却板33は、平面視パンケーキコイル21、22よりも若干大径のドーナツ状をなし、熱伝導性材料によって構成されている。
冷却板33の構成材料としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、銅、銀のような良熱伝導性の金属からなる。これらの冷却板33は、後述する冷凍機からの伝導冷却を行うための冷却パスとして機能する。
【0023】
次に、パンケーキコイル21、22を構成する超電導導体1について説明する。
本実施形態において用いられている超電導導体1は、
図6に示すようにテープ状の基材11の上にベッド層12と中間層15とキャップ層16と酸化物超電導層17とが積層され、酸化物超電導層17の上に保護層18と安定化層19が積層され、全体が絶縁性の被覆層20で覆われて概略構成されている。超電導導体1において、基材11とベッド層12と中間層15とキャップ層16と酸化物超電導層17と保護層18と安定化層19とから超電導積層体1Aが構成されている。
【0024】
前記基材11は、テープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、ハステロイB、C、G、N、W(米国ヘインズ社商品名)などのニッケル合金等の各種金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの、又はニッケル合金に集合組織を導入した配向N−W基板のような配向金属基材等が挙げられる。基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmである。
ベッド層12は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、必要に応じて配され、例えば、Y
2O
3、Si
3N
4、Al
2O
3等から構成される。ベッド層12の厚さは例えば10〜200nmである。また、基材11とベッド層12との間に拡散防止層が介在された構造としても良い。拡散防止層は、Si
3N
4、Al
2O
3、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
【0025】
中間層15は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層される酸化物超電導層17の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。中間層15の好ましい材質として具体的には、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示することができる。中間層15の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.005〜2μmの範囲とすることができる。
【0026】
キャップ層16は、中間層15よりも高い面内配向度が得られ、好ましい材質として具体的には、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等が例示できる。キャップ層16の膜厚は、500〜1000nmとすることが好ましい。
【0027】
酸化物超電導層17は公知のもので良く、具体的には、REBa
2Cu
3O
y(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。酸化物超電導層17として、Y123(YBa
2Cu
3O
7−X)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
7−X)などを例示することができる。酸化物超電導層17の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0028】
酸化物超電導層17の上に積層されている保護層18はAgあるいは貴金属などの良電導性かつ酸化物超電導層17と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。Agの保護層18の場合、その厚さを1〜30μm程度に形成できる。
安定化層19は、良導電性の金属材料からなることが好ましく、酸化物超電導層17が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、安定化基層18とともに、酸化物超電導層17の電流が転流するバイパスとして機能する。
安定化層19を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)等の銅合金、ステンレス等の比較的安価なものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることから銅がより好ましい。安定化層19の厚さは10〜300μmとすることができる。
【0029】
以上のように構成された超電導コイル10では、第1パンケーキコイル21及び第2パンケーキコイル22の各巻回始端21a、22a同士を接続する接続板4が、巻枠24の切欠部24a内に配され、嵌合ブロック24Bを取り外すと接続板4が巻枠24の内周側に剥き出し状態になる。このため、接続不良のダブルパンケーキコイル23を発見した場合、嵌合ブロック24Bを外してから切欠部24aを介し接続板4と各巻回始端21a、22aとの接続部を直接修理することができる。例えば、接続板4を半田付けしている場合は半田付けし直すことにより接続不良箇所を修理できる。
このため、ダブルパンケーキコイル全体を交換する必要が無くなる。従って、無駄になるダブルパンケーキコイル23を削減でき、超電導コイル10の製造コストの低減を図ることが可能である。接続板4を半田付けした場合は半田付けを再度行うことで容易に修理ができる。
なお、ダブルパンケーキコイルを製造する場合、1本の超電導線を用いて1層目の超電導コイルと2層目の超電導コイルを構成し、両超電導コイルの間で超電導線の渡り部分を介する構造を採用することもある。この構造の場合、1層目の超電導コイルと1層目の超電導コイルの渡り部分にエッジワイズ歪みが作用するおそれがある。この点、本実施形態の構造ではこの種エッジワイズ歪みは作用せず、嵌合ブロック24Bが接続板4の部分の補強ともなっているので、接続部分の構造を強固にできる。また、運転時に異常が生じた場合は、上述のようにコイルの取り替え、接続のし直しが容易である。
【0030】
次に、先に説明した超電導コイル10が適用される超電導コイル装置(超電導マグネット装置)の一例について説明する。
図7に示す超電導コイル装置50は、真空容器などの収容容器59の内部に配置された超電導コイル10と、収容容器59の内部の超電導コイル10を臨界温度以下に冷却するための冷凍機58とを備えて構成されている
超電導コイル10のフランジ板31、32と各冷却板33は、それらの外側において良熱伝導性材料よりなる熱伝導バー56に接続されている。冷凍機58と熱伝導バー56とフランジ板31、32と各冷却板33とは接続されており、これにより冷凍機58によりフランジ板31、32、各冷却板33を介してパンケーキコイル21、22を伝導冷却できる。
【0031】
超電導コイル10の最上層及び最下層の巻回終端21b、22bは、電流リード54a、54bを介して収容容器59の外部の電源55に接続されており、この電源55から超電導コイル10に通電できるようになっている。また、収容容器59は、図示しない真空ポンプに接続されており、内部を目的の真空度に減圧できるように構成されている。
【0032】
この例の超電導コイル装置50では、冷凍機58によってフランジ板31、32と各冷却板33を介してパンケーキコイル21、22の超電導導体1を臨界温度以下に伝導冷却し、酸化物超電導層17を超電導状態とする。この超電導状態の各第1パンケーキコイル21及び各第2パンケーキコイル22に通電を行って目的とする磁界を発生させ、超電導マグネットとして利用することができる。
【0033】
次に、本発明に係る超電導コイルの製造方法について、
図1に示す超電導コイルを製造する場合を例にして説明する。
本発明に係る超電導コイルの製造方法は、嵌合ブロック24Bを有する巻枠24に、超電導導体1を巻回し、第1コイル体21A及び第2コイル体22Aを得るコイル体作製工程(第1工程及び第2工程)と、前記工程で得られた第1コイル体21Aと第2コイル体22Aとを積層した後、各巻枠24から嵌合ブロック24Bを取り外し、各コイル体21A、22Aの巻回始端21a、22aを巻枠24の内周側に露出させるコイル体積層工程(第3工程)と、各巻枠24の切欠部24a内に接続板4を配し、各コイル体21A、22Aの巻回始端21a、22aを接続板4に半田付け等の接合手段で接続する接続工程(第4工程)を有している。
【0034】
テープ状の
図6に示す構造の超電導導体1を用意したならば、超電導導体1の始端部の被覆層20を部分的に除去して始端部の安定化層19を露出させてから巻枠24に超電導導体1を時計方向あるいは反時計方向に巻回する。なお、超電導導体1の始端部の被覆層20を部分的に除去する処理は、後の工程において接続板4で接続する際に行っても良いので、その場合は超電導導体1の始端部の被覆層20を除去することなく巻回しても良い。
巻回作業に際し、巻枠24の切欠部24aはブロック本体24bで閉じられているが、安定化層19を露出させた部分を切欠部24aのブロック本体24bと位置合わせしてから超電導導体1の巻回を開始し、必要長さの超電導導体1を巻回してコイル体21Aあるいはコイル体22Aを形成し、パンケーキコイル21あるいはパンケーキコイル22を作製する。
【0035】
ここで、本実施形態の製造方法では、第1パンケーキコイル21と第2パンケーキコイル22を別々の巻枠24を用いて作製できるため、各パンケーキコイル21、22の超電導導体1の巻回工程を、別々の巻線機を用いて並行して行うことができる。このため、第1コイル体21Aと第2コイル体22Aを、同一の巻枠に順番に巻線する場合に比べて、半分程度の時間でパンケーキコイル21、22を製造可能となる。
【0036】
次に、第1パンケーキコイル21と第2パンケーキコイル22を巻枠24の切欠部24aが互いに上下に隣り合うように積層した後、各パンケーキコイル21、22の切欠部24aからブロック本体24bを取り外す。ブロック本体24bを取り外すには、巻枠24Aのネジ孔24e、24eに螺合されているボルト25を取り外し、切欠部24aからブロック本体24bを引き抜く作業を行えば良い。この作業により、第1パンケーキコイル21と第2パンケーキコイル22の各巻回始端21a、22aを切欠部24a側に露出させることができる。ここで先に説明したように、超電導導体1の始端部の被覆層20を予め除去している場合は、切欠部24aの内側に安定化層19が露出する。超電導導体1の始端部の被覆層20を予め除去していない場合は、超電導導体1の始端部が被覆層20により覆われた状態であるので、被覆層20を除去して安定化層19を露出させる。
【0037】
次に、巻枠24の内周側に露出した各パンケーキコイル21、22の巻回始端21a、22aの双方に亘るように、接続板4を配し、これらを半田等によって電気的及び機械的に接続する。そして、積層された第1パンケーキコイル21と第2パンケーキコイル22とを必要に応じてガラスエポキシ樹脂等の含浸樹脂によって固定し、切欠部24aをブロック本体24bで
図4に示すように閉じることでダブルパンケーキコイル23が完成する。
そして、得られた複数のダブルパンケーキコイル23を第3冷却板33を介して積層し、巻胴30に挿通してコイル積層体2を構成し、巻胴30にフランジ板31、32を固定し、コイル積層体23の上下をフランジ板31、32で挟み付けることで超電導コイル10を得ることができる。
【0038】
このように、本発明に係る超電導コイルの製造方法では、第1パンケーキコイル21及び第2パンケーキコイル22を、別々の巻枠24を用いて作製するため、各パンケーキコイル21、22を、別々の巻線機によって並行して作製することができる。このため、各パンケーキコイルを同一の巻枠を用いて順番に作製する場合に比べて、超電導コイル10の製造時間を大幅に短縮することができる。
【0039】
また、切欠部24aを有する巻枠24を用いるため、巻枠24に巻回された超電導導体1の巻回始端を切欠部24aから露出させることができる。このため、第1パンケーキコイル21の巻回始端と、第2パンケーキコイル22の巻回始端とを、巻枠24に邪魔されることなく、容易に接続板4によって接続することができる。
【0040】
さらに、接続板4は、巻枠24の切欠部24内に配されるため、ブロック本体24bを巻枠本体24Aから取り外すと、巻枠24の内周側に剥き出し状態にできる。このため、接続不良のダブルパンケーキコイル23を発見した場合、ブロック本体24bを取り外して接続板4と各巻回始端21a、22aとの接続部を直接修理することができ、ダブルパンケーキコイル23の全体を交換する必要がない。したがって、無駄になるダブルパンケーキコイルの数を削減することができ、製造コストの低減を図ることが可能である。
【0041】
以上、各実施形態の超電導コイルについて説明したが、上記実施形態において、超電導コイルを構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、
図6に示すテープ状の基材11上に中間層15などを介して酸化物超電導層17が積層された構成の超電導導体1を使用してパンケーキコイルを構成する例を示したが、本発明の超電導コイルはこの例に限定されない。例えば、Bi
2Sr
2Ca
n−1Cu
nO
4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高いBi系の酸化物超電導層を銀又は銀合金のシース材で被覆したテープ状の超電導導体を使用することもできる。なお、このような超電導導体は、酸化物超電導層の原料粉末が充填された銀又は銀合金製のパイプを伸線して多芯化し、さらに伸線、圧延および焼成を繰り返すPIT法(Powder In Tube法)などにより製造される。