(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電圧信号変換手段は、前記3つの電圧信号を2つの電圧信号に変換した上で、当該2つの電圧信号に基準とする正弦波信号の位相である基準位相に基づいた回転座標変換処理を行うことで前記第1の電圧信号および前記第2の電圧信号に変換し、
前記成分電圧信号抽出手段は、前記第1の電圧信号および前記第2の電圧信号の直流成分のみを通過させることで、前記第1の成分電圧信号および前記第2の成分電圧信号をそれぞれ抽出し、
前記電流信号変換手段は、前記3つの電流信号を2つの電流信号に変換した上で、当該2つの電流信号に前記基準位相に基づいた回転座標変換処理を行うことで前記第1の電流信号および前記第2の電流信号に変換し、
前記成分電流信号抽出手段は、前記第1の電流信号および前記第2の電流信号の直流成分のみを通過させることで、前記第1の成分電流信号および前記第2の成分電流信号をそれぞれ抽出する、
請求項2に記載の電力計測装置。
前記電力算出手段は、前記第1の成分電圧信号をV’α、前記第2の成分電圧信号をV’β、前記第1の成分電流信号をI’α、前記第2の成分電流信号をI’βとすると、有効電力Pを下記式によって算出する、
請求項2ないし8のいずれかに記載の電力計測装置。
P=V’α・I’α+V’β・I’β
前記電力算出手段は、前記第1の成分電圧信号をV’α、前記第2の成分電圧信号をV’β、前記第1の成分電流信号をI’α、前記第2の成分電流信号をI’βとすると、無効電力Qを下記式によって算出する、
請求項2ないし9のいずれかに記載の電力計測装置。
Q=−V’β・I’α+V’α・I’β
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る電力計測装置を系統連系インバータシステムのインバータ制御回路に備えた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0036】
図1は、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0037】
同図に示すように、系統連系インバータシステムAは、直流電源1、インバータ回路2、フィルタ回路3、変圧回路4、電流センサ5、電圧センサ6、およびインバータ制御回路7を備えている。
【0038】
直流電源1は、インバータ回路2に接続している。インバータ回路2、フィルタ回路3、および変圧回路4は、この順で、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインに直列に接続されて、三相交流の電力系統Bに接続している。電流センサ5および電圧センサ6は、変圧回路4の出力側に設置されている。インバータ制御回路7は、インバータ回路2に接続されている。系統連系インバータシステムAは、直流電源1が出力する直流電力を交流電力に変換して電力系統Bに供給する。なお、系統連系インバータシステムAの構成は、これに限られない。例えば、電流センサ5および電圧センサ6を変圧回路4の入力側に設けてもよいし、インバータ回路2の制御に必要な他のセンサを設けていてもよい。また、変圧回路4をフィルタ回路3の入力側に設けるようにしてもよいし、変圧回路4を設けない、いわゆるトランスレス方式にしてもよい。また、直流電源1とインバータ回路2との間にDC/DCコンバータ回路を設けるようにしてもよい。
【0039】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0040】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換して、フィルタ回路3に出力するものである。インバータ回路2は、三相インバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えたPWM制御型インバータ回路である。インバータ回路2は、インバータ制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。なお、インバータ回路2はこれに限定されず、例えば、マルチレベルインバータであってもよい。
【0041】
フィルタ回路3は、インバータ回路2から入力される交流電圧から、スイッチングによる高周波成分を除去するものである。フィルタ回路3は、リアクトルとコンデンサとからなるローパスフィルタを備えている。フィルタ回路3で高周波成分を除去された交流電圧は、変圧回路4に出力される。なお、フィルタ回路3の構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタ回路であればよい。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。
【0042】
電流センサ5は、変圧回路4から出力される各相の交流電流(すなわち、系統連系インバータシステムAの出力電流)を検出するものである。検出された電流信号I(Iu,Iv,Iw)は、インバータ制御回路7に入力される。電圧センサ6は、電力系統Bの各相の系統電圧を検出するものである。検出された電圧信号V(Vu,Vv,Vw)は、インバータ制御回路7に入力される。なお、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧は、系統電圧とほぼ一致している。
【0043】
インバータ制御回路7は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。インバータ制御回路7は、電流センサ5から入力される電流信号I、および、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいて、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号を生成し、当該指令値信号に基づいて生成されるパルス信号をPWM信号として出力する。インバータ回路2は、入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令値信号に対応した波形の交流電圧を出力する。
【0044】
インバータ制御回路7は、指令値信号の波形を変化させて系統連系インバータシステムAの出力電圧の波形を変化させることで、出力電力および出力電流を制御している。すなわち、インバータ制御回路7は、出力有効電力および出力無効電力を検出して、これらを目標値に一致させるためのフィードバック制御を行い、出力電流を検出して、これを目標値に一致させるためのフィードバック制御を行う。出力電力のフィードバック制御のための補償信号が出力電流のフィードバック制御の目標値に用いられ、出力電流のフィードバック制御のための補償信号が電圧信号Vを基にした信号に加算されることで指令値信号が生成される。なお、
図1においては、出力電力制御および出力電流制御を行うための構成のみを記載して、その他の構成を省略している。
【0045】
インバータ制御回路7は、電力計測部71、電力制御部72、電流制御部73、系統対抗分生成部74、およびPWM信号生成部75を備えている。
【0046】
電力計測部71は、電流センサ5より入力される電流信号I(Iu,Iv,Iw)および電圧センサ6より入力される電圧信号V(Vu,Vv,Vw)に基づいて、系統連系インバータシステムAの出力有効電力および出力無効電力を演算するものである。電力計測部71は、演算結果の有効電力Pおよび無効電力Qを電力制御部72に出力する。電力計測部71で行われる演算処理の詳細については後述する。
【0047】
電力制御部72は、電力計測部71より入力される有効電力Pおよび無効電力Qに基づいて、有効電力制御のための補償信号および無効電力制御のための補償信号を生成するものである。電力制御部72は、有効電力Pおよび無効電力Qをそれぞれの目標値に一致させるためのフィードバック制御(例えば、PI制御)を行うためのものであり、当該制御のための補償信号を電流制御部73に出力する。
【0048】
電流制御部73は、電流センサ5より入力される電流信号I(Iu,Iv,Iw)に基づいて、電流制御のための補償信号を生成するものである。電流制御部73は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)および回転座標変換処理(dq変換処理)を行って、3つの電流信号Iu,Iv,Iwを2つのd軸電流信号およびq軸電流信号に変換する。そして、d軸電流信号およびq軸電流信号を電力制御部72より入力される有効電力制御のための補償信号および無効電力制御のための補償信号にそれぞれ一致させるためのフィードバック制御(例えば、PI制御)を行う。さらに、電流制御部73は、当該制御のために生成された2つの補償信号を、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)および二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)によって、3つの補償信号に変換して出力する。
【0049】
系統対抗分生成部74は、電圧センサ6から電圧信号V(Vu,Vv,Vw)を入力されて、系統指令値信号を生成して出力する。系統指令値信号は系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号の基準となるものである。系統対抗分生成部74が出力する系統指令値信号と、電流制御部73が出力する3つの補償信号とがそれぞれ加算されて、指令値信号が算出され、PWM信号生成部75に入力される。
【0050】
PWM信号生成部75は、入力される指令値信号と、所定の周波数(例えば、4kHz)の三角波信号として生成されたキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号を生成する。三角波比較法では、指令値信号とキャリア信号とがそれぞれ比較され、例えば、指令値信号がキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、小さい場合にローレベルとなるパルス信号がPWM信号として生成される。生成されたPWM信号は、インバータ回路2に出力される。
【0051】
次に、電力計測部71の詳細について、
図2を参照して説明する。
【0052】
図2は、電力計測部71の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0053】
同図に示すように、電力計測部71は、電圧信号三相/二相変換部711、電流信号三相/二相変換部712、正相分電圧信号抽出部713、正相分電流信号抽出部714、および電力算出部715を備えている。
【0054】
電圧信号三相/二相変換部711は、電圧センサ6より入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換するものである。電圧信号三相/二相変換部711は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電圧信号Vu,Vv,Vwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを生成する。
【0055】
電圧信号三相/二相変換部711で行われる変換処理は、下記(7)式に示す行列式で表される。
【数4】
【0056】
電流信号三相/二相変換部712は、電流センサ5より入力される3つの電流信号Iu,Iv,Iwを、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換するものである。電流信号三相/二相変換部712は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電流信号Iu,Iv,Iwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを生成する。
【0057】
電流信号三相/二相変換部712で行われる変換処理は、下記(8)式に示す行列式で表される。
【数5】
【0058】
正相分電圧信号抽出部713は、電圧信号三相/二相変換部711より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の正相分の信号を抽出するものである。抽出された正相分電圧信号V’d,V’qは、電力算出部715に出力される。正相分電圧信号抽出部713は、回転座標変換部713aおよびLPF713bを備えている。
【0059】
回転座標変換部713aは、電圧信号三相/二相変換部711から入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを、回転座標系のd軸電圧信号Vdおよびq軸電圧信号Vqに変換するものである。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、電力系統Bの系統電圧の基本波と同一の角速度で同一の方向に回転する直交座標系である。回転座標系の反対概念として、回転しない座標系を静止座標系とする。回転座標変換部713aは、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを、図示しない位相検出部が検出した系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電圧信号Vdおよびq軸電圧信号Vqに変換する。
【0060】
回転座標変換部713aで行われる変換処理は、下記(9)式に示す行列式で表される。
【数6】
【0061】
LPF713bは、ローパスフィルタであり、d軸電圧信号Vdおよびq軸電圧信号Vqの直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβの基本波の正相分が、それぞれd軸電圧信号Vdおよびq軸電圧信号Vqの直流成分に変換されている。LPF713bは、直流成分だけを通過させ交流成分を遮断することで、基本波の正相分信号を通過させその他の成分の信号(逆相分信号や高調波信号)を遮断する。d軸電圧信号Vdの直流成分の信号である正相分電圧信号V’dおよびq軸電圧信号Vqの直流成分の信号である正相分電圧信号V’qが、電力算出部715に出力される。
【0062】
正相分電流信号抽出部714は、電流信号三相/二相変換部712より入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから、基本波の正相分の信号を抽出するものである。抽出された正相分電流信号I’d,I’qは、電力算出部715に出力される。正相分電流信号抽出部714は、回転座標変換部714aおよびLPF714bを備えている。
【0063】
回転座標変換部714aは、電流信号三相/二相変換部712から入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換するものである。回転座標変換部714aは、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、位相θに基づいて、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換する。
【0064】
回転座標変換部714aで行われる変換処理は、下記(10)式に示す行列式で表される。
【数7】
【0065】
LPF714bは、ローパスフィルタであり、d軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの基本波の正相分が、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分に変換されている。LPF714bは、直流成分だけを通過させ交流成分を遮断することで、基本波の正相分信号を通過させその他の成分の信号(逆相分信号や高調波信号)を遮断する。d軸電流信号Idの直流成分の信号である正相分電流信号I’dおよびq軸電流信号Iqの直流成分の信号である正相分電流信号I’qが、電力算出部715に出力される。
【0066】
電力算出部715は、有効電力Pおよび無効電力Qを算出するものである。電力算出部715は、正相分電圧信号抽出部713より入力される正相分電圧信号V’d,V’qと、正相分電流信号抽出部714より入力される正相分電流信号I’d,I’qとから、下記(11)式によって有効電力Pを算出し、下記(12)式によって無効電力Qを算出する。算出された有効電力Pおよび無効電力Qは、電力制御部72に出力される。
P=V’d・I’d+V’q・I’q ・・・ (11)
Q=−V’q・I’d+V’d・I’q ・・・ (12)
【0067】
本実施形態において、3つの電圧信号Vu,Vv,Vwが互いに直交するα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換され、3つの電流信号Iu,Iv,Iwが互いに直交するα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換される。正相分電圧信号抽出部713によって正相分電圧信号V’d,V’qが抽出され、正相分電流信号抽出部714によって正相分電流信号I’d,I’qが抽出される。そして、抽出された正相分電圧信号V’d,V’qと正相分電流信号I’d,I’qとから、有効電力Pおよび無効電力Qが算出される。したがって、検出された電圧信号Vu,Vv,Vwおよび電流信号Iu,Iv,Iwに逆相分や高調波成分が重畳されている場合でも、基本波の正相分の信号のみを抽出して演算を行うので、基本波の正相分の有効電力および無効電力を精度よく計測することができる。
【0068】
なお、上記第1実施形態においては、ローパスフィルタを用いた場合について説明したが、ハイパスフィルタを用いて構成するようにしてもよい。この場合、
図2に示す正相分電圧信号抽出部713および正相分電流信号抽出部714がハイパスフィルタを用いて逆相分を除去するようにすればよい。すなわち、回転座標変換部713aおよび回転座標変換部714aが、位相θの負の値である位相「−θ」に基づいて逆相分の回転座標変換を行い、LPF713bおよびLPF714bに代えてハイパスフィルタで直流成分(逆相分)を遮断するようにする。この場合でも、正相分電圧信号抽出部713および正相分電流信号抽出部714が基本波の正相分信号を抽出することができる。
【0069】
上記第1実施形態においては、基本波の正相分の有効電力および無効電力を計測する場合について説明したが、これに限られない。回転座標変換部713aおよび回転座標変換部714aにおいて、位相「−θ」に基づいて回転座標変換を行うようにすれば、基本波の逆相分の有効電力および無効電力を計測することができる。同様に、位相「−5θ」、「7θ」、「−11θ」に基づいて回転座標変換を行うようにすれば、それぞれ、5次、7次、11次高調波の正相分の有効電力および無効電力を計測することができる。
【0070】
上記第1実施形態においては、電力算出部715が、正相分電圧信号V’d,V’qと正相分電流信号I’d,I’qとから、有効電力Pおよび無効電力Qを算出する場合について説明したが、これに限られない。以下に、第2実施形態として、正相分電圧信号V’d,V’qおよび正相分電流信号I’d,I’qを静止座標変換した信号を用いて有効電力Pおよび無効電力Qを算出する場合について説明する。
【0071】
図3は、第2実施形態に係る電力計測部の内部構成を説明するためのブロック図である。同図において、
図2に示す電力計測部71と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0072】
図3に示す電力計測部71’は、正相分電圧信号抽出部713’および正相分電流信号抽出部714’がそれぞれ静止座標変換部713cおよび714cを備えている点と、電力算出部715’が静止座標変換後の信号を用いて有効電力Pおよび無効電力Qを算出する点とで、第1実施形態に係る電力計測部71と異なる。
【0073】
静止座標変換部713cは、回転座標変換部713aとは逆の変換処理である静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものである。静止座標変換部713cは、LPF713bから入力される回転座標系の正相分電圧信号V’d,V’qを、位相θに基づいて、静止座標系の2つの正相分電圧信号V’α,V’βに変換する。
【0074】
静止座標変換部713cで行われる変換処理は、下記(13)式に示す行列式で表される。
【数8】
【0075】
静止座標変換部714cは、回転座標変換部714aとは逆の変換処理である静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものである。静止座標変換部714cは、LPF714bから入力される回転座標系の正相分電流信号I’d,I’qを、位相θに基づいて、静止座標系の2つの正相分電流信号I’α,I’βに変換する。
【0076】
静止座標変換部714cで行われる変換処理は、下記(14)式に示す行列式で表される。
【数9】
【0077】
電力算出部715’は、有効電力Pおよび無効電力Qを算出するものである。電力算出部715’は、正相分電圧信号抽出部713’より入力される正相分電圧信号V’α,V’βと、正相分電流信号抽出部714’より入力される正相分電流信号I’α,I’βとから、下記(15)式によって有効電力Pを算出し、下記(16)式によって無効電力Qを算出する。算出された有効電力Pおよび無効電力Qは、電力制御部72に出力される。
P=V’α・I’α+V’β・I’β ・・・ (15)
Q=−V’β・I’α+V’α・I’β ・・・ (16)
【0078】
本実施形態においても、抽出された正相分電圧信号V’α,V’βと正相分電流信号I’α,I’βとから有効電力Pおよび無効電力Qが算出される。したがって、第2実施形態に係る電力計測部71’も、第1実施形態に係る電力計測部71と同様の効果を奏することができる。
【0079】
なお、第2実施形態において、正相分電圧信号V’α,V’βと正相分電流信号I’α,I’βとを、二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)によって、それぞれ三相の正相分信号に変換し、これらを用いて有効電力Pおよび無効電力Qを算出するようにしてもよい。また、第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、ハイパスフィルタを用いて構成するようにしてもよいし、基本波の逆相分、所定の高調波の正相分や逆相分の有効電力および無効電力を計測するようにしてもよい。
【0080】
上記第2実施形態においては、回転座標変換部713a,714aおよび静止座標変換部713c,714cが非線形時変処理を行うために、線形制御理論を用いて制御系を設計することができず、また、システム解析もできなかった。線形制御理論を用いることができるように、回転座標変換部713a,714aおよび静止座標変換部713c,714cを備えず、これに代わる構成を採用した場合を、第3実施形態として説明する。
【0081】
まず、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明する。
【0082】
図4(a)は、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を説明するための図である。当該処理では、まず、信号αおよびβが、回転座標変換によって、信号dおよびqに変換される。信号dおよびqに対して、それぞれ所定の伝達関数F(s)で表される処理が行われ、信号d’およびq’が出力される。次に、信号d’およびq’が静止座標変換によって、信号α’およびβ’に変換される。
図4(a)に示す非線形時変の処理を、
図4(b)に示す線形時不変の伝達関数の行列Gを用いた処理に変換する。
【0083】
図4(a)に示す回転座標変換は下記(17)式の行列式で表され、静止座標変換は下記(18)式の行列式で表される。
【数10】
【0084】
したがって、
図4(a)に示す処理を、行列を用いて、
図5(a)のように表すことができる。
図5(a)に示す3つの行列の積を計算し、算出された行列を線形時不変の行列にすることで、
図4(b)に示す行列Gを算出することができる。このとき、静止座標変換および回転座標変換の行列を行列の積に変換したうえで、算出を行う。
【0085】
回転座標変換の行列は、下記(19)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。
【数11】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数12】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0086】
【数13】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数14】
であることが、確認できる。
【0087】
また、静止座標変換の行列は、下記(20)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。当該行列の積の中央の行列は線形時不変の行列である。
【数15】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数16】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0088】
【数17】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数18】
であることが、確認できる。
【0089】
上記(19)式および(20)式を用いて、
図5(a)に示す3つの行列の積を計算して、行列Gを算出すると、下記(21)式のように計算される。
【数19】
【0090】
上記(21)式の中央の3つの行列の1行1列目の要素に注目し、これをブロック線図で表すと、
図6に示すブロック線図になる。
図6に示すブロック線図の入出力特性を計算すると、
【数20】
となる。ただし、F(s)はインパルス応答f(t)をもつ一入力一出力伝達関数である 。
【0091】
ここで、θ(t)=ω
0tとすると、θ(t)−θ(τ)=ω
0t−ω
0τ=ω
0(t−τ)=θ(t−τ)となるので、
図6に示すブロック線図の入出力特性は、インパルス応答f(t)exp(−jω
0t)を持つ線形時不変系のものに等しい。インパルス応答f(t)exp(−jω
0t)をラプラス変換すると、伝達関数F(s+jω
0)が得られる。また、
図6に示すブロック線図のexp(jθ(t))とexp(−jθ(t))とを入れ換えた場合の入出力特性は、伝達関数F(s−jω
0)の入出力特性になる。
【0092】
したがって、上記(21)式からさらに計算を進めると、
【数21】
と計算される。
【0093】
これにより、
図5(a)に示す処理を、
図5(b)に示す処理に変換することができる。
図5(b)に示す処理は、回転座標変換を行ってから所定の伝達関数F(s)で表される処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であって、当該処理のシステムは線形時不変のシステムである。
【0094】
ローパスフィルタの伝達関数は、時定数をTとすると、F(s)=1/(Ts+1)で表される。したがって、
図7に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからローパスフィルタ処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列G
LPFは、上記(22)式を用いて、下記(23)式のように算出される。
【数22】
【0095】
図8は、行列G
LPFの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列G
LPFの1行1列要素(以下では、「(1,1)要素」と記載する。他の要素についても同様に記載する。)および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列G
LPFの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、系統電圧の基本波の周波数(以下では、「中心周波数」とする。また、中心周波数に対応する角周波数を「中心角周波数」とする。)が60Hzの場合(すなわち、角周波数ω
0=120πの場合)のものであり、時定数Tを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0096】
同図(a),(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、振幅特性のピークは−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、通過帯域が小さくなっている。同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列G
LPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度進めて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列G
LPFの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度遅らせて通過させる。以下に、三相/二相変換後の2つの信号に対する伝達関数の行列G
LPFに示す処理を、
図9を参照して検討する。
【0097】
図9は、正相分の信号と逆相分の信号を説明するための図である。同図(a)は正相分の信号を示しており、同図(b)は逆相分の信号を示している。
【0098】
同図(a)において、電圧信号Vu,Vv,Vwの基本波の正相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、時計回りの順番で並んで角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。前記正相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。
【0099】
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が進んでいる。α軸信号に行列G
LPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない(
図8(a)参照)。また、β軸信号に行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図8(b)参照)。したがって、両者の位相がα軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでα軸信号が再現される。一方、α軸信号に行列G
LPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる(
図8(c)参照)。また、β軸信号に行列G
LPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相がβ軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでβ軸信号が再現される。
【0100】
逆相分は相順が正相分とは逆方向になっている成分である。
図9(b)において、電圧信号Vu,Vv,Vwの基本波の逆相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、反時計回りの順番で並んで角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。前記逆相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、反時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。
【0101】
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が遅れている。α軸信号に行列G
LPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。また、β軸信号に行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、α軸信号にG
LPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる。また、β軸信号に行列G
LPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。つまり、伝達関数の行列G
LPFは、基本波の正相分信号を通過させ、逆相分信号を遮断する。また、基本波以外の周波数の信号(高調波など)は基本波より減衰されるので、伝達関数の行列G
LPFに示す処理は、中心周波数の正相分信号を抽出するフィルタ処理であることが確認できる。
【0102】
伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた場合、上記とは逆に、正相分信号を遮断し、逆相分信号を通過させる。したがって、中心周波数の逆相分信号を抽出する場合には、伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0103】
図10は、第3実施形態に係る電力計測部の内部構成を説明するためのブロック図である。同図において、
図3に示す電力計測部71'と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0104】
図10に示す電力計測部71”は、正相分電圧信号抽出部713'および正相分電流信号抽出部714'に代えて、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”を備えている点で、第2実施形態に係る電力計測部71'(
図3参照)と異なる。
【0105】
正相分電圧信号抽出部713”は、電圧信号三相/二相変換部711より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の正相分信号を抽出するものである。抽出された正相分電圧信号V’α,V’βは、電力算出部715'に出力される。正相分電圧信号抽出部713”は、上記(23)式に示す、基本波の正相分信号を抽出するための伝達関数の行列G
LPFに表される処理を行う。つまり、下記(24)式に示す処理を行っている。角周波数ω
0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω
0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、時定数Tはあらかじめ設計されている。
【数23】
【0106】
本実施形態において、正相分電圧信号抽出部713”は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系でフィルタリング処理を行っている。伝達関数の行列G
LPFは、回転座標変換を行ってからフィルタリング処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列である。したがって、伝達関数の行列G
LPFで表される処理を行う正相分電圧信号抽出部713”は、
図3に示す回転座標変換部713a、静止座標変換部713c、およびLPF713bと等価の処理、すなわち、正相分電圧信号抽出部713’と等価の処理を行っている。
【0107】
また、正相分電圧信号抽出部713”で行われる処理は、伝達関数の行列G
LPFで示されるので、線形時不変の処理である。非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれていない線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。このように、上記(23)式に示す伝達関数の行列G
LPFを用いることで、回転座標変換を行ってからフィルタリング処理を行った後に静止座標変換を行う非線形の処理を、線形時不変の多入出力系へ帰着させることができ、これによりシステム解析や制御系設計が容易になる。
【0108】
正相分電流信号抽出部714”は、電流信号三相/二相変換部712より入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから、基本波の正相分信号を抽出するものである。抽出された正相分電流信号I’α,I’βは、電力算出部715'に出力される。正相分電流信号抽出部714”は、上記(23)式に示す伝達関数の行列G
LPFに表される処理を行う。つまり、基本波の正相分信号を抽出するための処理を行っており、下記(25)式に示す処理を行っている。角周波数ω
0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω
0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、時定数Tはあらかじめ設計されている。
【数24】
【0109】
正相分電流信号抽出部714”は、
図3に示す回転座標変換部714a、静止座標変換部714c、およびLPF714bと等価の処理、すなわち、正相分電流信号抽出部714’と等価の処理を行っている。また、正相分電流信号抽出部714”で行われる処理も線形時不変の処理であり、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。
【0110】
正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”は、第2実施形態に係る正相分電圧信号抽出部713’および正相分電流信号抽出部714’(
図3参照)とそれぞれ等価の処理を行っている。つまり、正相分電圧信号抽出部713”はα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから正相分電圧信号V’α,V’βを抽出し、正相分電流信号抽出部714”はα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから正相分電流信号I’α,I’βを抽出する。そして、正相分電圧信号V’α,V’βおよび正相分電流信号I’α,I’βから、上記(15)式および(16)式によって、有効電力Pおよび無効電力Qが算出される。したがって、第3実施形態に係る電力計測部71”も、第1実施形態に係る電力計測部71と同様の効果を奏することができる。さらに、第3実施形態に係る電力計測部71”は、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能であるという効果も奏することができる。
【0111】
なお、本実施形態においては、伝達関数の行列の各要素の時定数が同一である場合について説明したが、要素毎に異なる値を用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。
【0112】
本実施形態においては、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”をそれぞれ個別に設計する場合について説明したが、これに限られない。時定数Tを共通にするようにして、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”を一度に設計するようにしてもよい。
【0113】
本実施形態においては、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”で用いられる角周波数ω
0をあらかじめ設定しておく場合について説明したが、これに限られない。信号処理のサンプリング周期が固定サンプリング周期の場合、系統電圧の基本波の角周波数を周波数検出装置などで検出して、検出された角周波数を角周波数ω
0として用いるようにしてもよい。
【0114】
本実施形態においては、基本波の正相分の有効電力および無効電力を計測する場合について説明したが、これに限られない。正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”が、上記(23)式に示す伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列に表される処理を行うようにすれば、逆相分の信号を抽出することができるので、電力算出部715’は基本波の逆相分の有効電力および無効電力を算出することができる。また、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”が、上記(23)式に示す伝達関数の行列G
LPFにおいて、角周波数ω
0に代えて角周波数「−5ω
0」、「7ω
0」、「−11ω
0」とした行列に表される処理を行うようにすれば、それぞれ、5次、7次、11次高調波の正相分の信号を抽出することができるので、電力算出部715’はそれぞれ5次、7次、11次高調波の正相分の有効電力および無効電力を算出することができる。
【0115】
本実施形態においては、ローパスフィルタに代わる処理を行う場合について説明したが、ハイパスフィルタに代わる処理を行う構成としてもよい。
【0116】
ハイパスフィルタの伝達関数は、時定数をTとすると、F(s)=Ts/(Ts+1)で表される。したがって、
図11に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからハイパスフィルタ処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列G
HPFは、上記(22)式を用いて、下記(26)式のように算出される。
【数25】
【0117】
図12は、行列G
HPFの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、中心周波数が60Hzの場合のものであり、時定数Tを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0118】
同図(a)が示す振幅特性は中心周波数近辺で減衰しており、中心周波数での振幅特性は−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、遮断帯域が小さくなっている。同図(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、振幅特性のピークは−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、通過帯域が小さくなっている。また、同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数の信号の位相を90度遅らせて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数の信号の位相を90度進めて通過させる。以下に、三相/二相変換後の2つの信号に対する伝達関数の行列G
HPFに示す処理を、
図9を参照して検討する。
【0119】
図9(a)において、基本波の正相分信号を三相/二相変換したα軸信号(ベクトルα)に行列G
HPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない(
図12(a)参照)。また、β軸信号(ベクトルβ)に行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる(
図12(b)参照)。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、α軸信号に行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図12(c)参照)。また、β軸信号に行列G
HPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。
【0120】
同図(b)において、基本波の逆相分信号を三相/二相変換したα軸信号(ベクトルα)に行列G
HPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。また、β軸信号(ベクトルβ)に行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる。したがって、両者の位相がα軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでα軸信号が再現される。一方、α軸信号に行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図12(c)参照)。また、β軸信号に行列G
HPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相がβ軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでβ軸信号が再現される。
【0121】
つまり、伝達関数の行列G
HPFは、基本波の逆相分信号を通過させ、正相分信号を遮断する。また、基本波以外の周波数の信号(高調波など)は、行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合はそのまま通過し(
図12(a)参照)、(1,2)要素および(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合は減衰するので(
図12(b)、(c)参照)、ほぼそのまま通過する。したがって、伝達関数の行列G
HPFに示す処理は、中心周波数の正相分信号だけを除去するノッチフィルタ処理であることが確認できる。
【0122】
伝達関数の行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた場合、上記とは逆に、逆相分信号を遮断し、正相分信号を通過させる。したがって、中心周波数の逆相分信号だけを除去する場合には、伝達関数の行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0123】
第3実施形態においてハイパスフィルタに代わる処理を行う場合、
図10に示す正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”がハイパスフィルタに代わる処理を行って逆相分を除去するようにすればよい。すなわち、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”が上記(26)式に示す行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いた下記(27)式および(28)式に示す処理を行うようにする。なお、角周波数ω
0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω
0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、時定数Tはあらかじめ設計されている。この場合でも、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”が基本波の正相分信号を抽出することができる。
【数26】
【0124】
なお、ハイパスフィルタに代わる処理を行う構成の場合においても、ローパスフィルタに代わる処理を行う場合と同様に、伝達関数の行列の各要素の時定数に異なる値を用いるようにしてもよいし、時定数Tを共通にするようにして、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”を一度に設計するようにしてもよい。また、周波数検出装置などで検出した系統電圧の基本波の角周波数を角周波数ω
0として用いるようにしてもよい。
【0125】
ハイパスフィルタに代わる処理を行う構成の場合においては、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”が基本波の逆相分の通過を抑制することで正相分を抽出する。したがって、α軸電圧信号Vα、β軸電圧信号Vβ、α軸電流信号Iα、β軸電流信号Iβに高調波成分が含まれていた場合、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”は、高調波成分も通過させてしまう。電力系統Bに高調波成分が多く含まれている場合、基本波の正相分をより精度よく抽出するためには、当該高調波成分の通過を抑制する構成を追加する必要がある。
【0126】
この場合、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”において、抑制すべき高調波成分を除去するためのハイパスフィルタに代わる処理をさらに備えるようにすればよい。例えば、5次高調波を抑制すべき場合は、上記(26)式に示す行列G
HPFにおいて、ω
0を「−5ω
0」とした行列を用いた処理を行えばよい。正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”は抑制する必要がある高調波成分の次数に応じて設計すればよく、7次高調波、11次高調波を抑制すべき場合は、上記(26)式に示す行列G
HPFにおいて、ω
0をそれぞれ「7ω
0」、「−11ω
0」とした行列を用いた処理を行うようにすればよい。
【0127】
上記第3実施形態においては、正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”がどちらもローパスフィルタに代わる処理またはハイパスフィルタに代わる処理を用いる場合について説明したが、これに限られない。例えば、正相分電圧信号抽出部713”がローパスフィルタに代わる処理を用いて正相分信号を通過させることで抽出し、正相分電流信号抽出部714”がハイパスフィルタに代わる処理を用いて逆相分信号の通過を抑制することで正相分信号を抽出するようにしてもよい。また、正相分電圧信号抽出部713”がハイパスフィルタに代わる処理を用いて逆相分信号の通過を抑制することで正相分信号を抽出し、正相分電流信号抽出部714”がローパスフィルタに代わる処理を用いて正相分信号を通過させることで抽出するようにしてもよい。
【0128】
上記第3実施形態においては、電力算出部715’が、正相分電圧信号V’α,V’βと正相分電流信号I’α,I’βとから、有効電力Pおよび無効電力Qを算出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、正相分電圧信号V’α,V’βと正相分電流信号I’α,I’βとを、二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)によって、それぞれ三相の正相分信号に変換し、これらを用いて有効電力Pおよび無効電力Qを算出するようにしてもよい。なお、この場合、上記(7)式に示す三相/二相変換処理の行列、上記(24)式に示す行列、および、二相/三相変換処理の行列の積を算出して、当該積の行列を用いて電圧信号Vu,Vv,Vwから三相の正相分信号を直接算出するようにしてもよい。同様に、上記(8)式に示す三相/二相変換処理の行列、上記(25)式に示す行列、および、二相/三相変換処理の行列の積を算出して、当該積の行列を用いて電流信号Iu,Iv,Iwから三相の正相分信号を直接算出するようにしてもよい。また、上記第3実施形態において、上記(7)式に示す演算および上記(24)式に示す演算に代えて、各行列の積を算出して、当該積の行列を用いた演算を行うようにしてもよい。同様に、上記(8)式に示す演算および上記(25)式に示す演算に代えて、各行列の積を算出して、当該積の行列を用いた演算を行うようにしてもよい。
【0129】
正相分信号と逆相分信号とを抽出する方法として、対称座標変換が知られている。以下に、対称座標変換を用いて正相分の信号を抽出する場合を、第4実施形態として説明する。
【0130】
第4実施形態に係る電力計測部の内部構成を説明するためのブロック図は、
図10に示す第3実施形態の電力計測部71”のものと共通する。第4実施形態においては、
図10に示す正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”は、対称座標変換を用いて正相分の信号を抽出する。
【0131】
本実施形態において正相分電圧信号抽出部713”は、電圧信号三相/二相変換部711より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、下記(29)式に示す行列式によって正相分電圧信号V’α,V’βを算出する。但し、jは虚数単位である。
【数27】
【0132】
本実施形態において正相分電流信号抽出部714”は、電流信号三相/二相変換部712より入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから、下記(30)式に示す行列式によって正相分電流信号I’α,I’βを算出する。但し、jは虚数単位である。なお、上記(29)式および下記(30)式は、後述する下記(31)〜(34)式を用いて算出できるが、詳細な算出過程の説明は省略する。
【数28】
【0133】
本実施形態においても、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから正相分電圧信号V’α,V’βが抽出され、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから正相分電流信号I’α,I’βが抽出され、これらを用いて有効電力Pおよび無効電力Qが算出される。したがって、第4実施形態に係る電力計測部71”も、第1実施形態に係る電力計測部71と同様の効果を奏することができる。
【0134】
正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”によって、基本波の逆相分、5次高調波成分、7次高調波成分などは除去されるが、例えば11次高調波成分などは除去されずに通過してしまう。したがって、電力系統Bにこれらの高調波成分が多く含まれている場合は、基本波の正相分をより精度よく抽出するために、当該高調波を除去するためのフィルタ(例えば、基本波を通過させるローパスフィルタなど)を備えるようにすればよい。
【0135】
上記第4実施形態においては、基本波の正相分の有効電力および無効電力を計測する場合について説明したが、これに限られない。正相分電圧信号抽出部713”および正相分電流信号抽出部714”において、上記(29)式および(30)式の行列に代えて下記(31)式の行列を用いるようにすれば、逆相分の信号を抽出することができるので、電力算出部715’は基本波の逆相分の有効電力および無効電力を算出することができる。
【数29】
【0136】
上記第4実施形態においては、電力算出部715’が、正相分電圧信号V’α,V’βと正相分電流信号I’α,I’βとから、有効電力Pおよび無効電力Qを算出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、正相分電圧信号V’α,V’βと正相分電流信号I’α,I’βとを、二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)によって、それぞれ三相の正相分信号に変換し、これらを用いて有効電力Pおよび無効電力Qを算出するようにしてもよい。なお、この場合、上記(7)式に示す三相/二相変換処理の行列、上記(29)式に示す行列、および、二相/三相変換処理の行列の積を算出して、当該積の行列を用いて電圧信号Vu,Vv,Vwから三相の正相分信号を直接算出するようにしてもよい。同様に、上記(8)式に示す三相/二相変換処理の行列、上記(30)式に示す行列、および、二相/三相変換処理の行列の積を算出して、当該積の行列を用いて電流信号Iu,Iv,Iwから三相の正相分信号を直接算出するようにしてもよい。また、上記第4実施形態において、上記(7)式に示す演算および上記(29)式に示す演算に代えて、各行列の積を算出して、当該積の行列を用いた演算を行うようにしてもよい。同様に、上記(8)式に示す演算および上記(30)式に示す演算に代えて、各行列の積を算出して、当該積の行列を用いた演算を行うようにしてもよい。
【0137】
上記第4実施形態においては、三相/二相変換を行ってから正相分信号を抽出しているが、先に正相分信号を抽出してから三相/二相変換を行うようにしてもよい。以下に、対称座標変換を用いて、電圧信号V(Vu,Vv,Vw)および電流信号I(Iu,Iv,Iw)から正相分信号を抽出し、その後に三相/二相変換を行う場合を、第5実施形態として説明する。
【0138】
図13は、第5実施形態に係る電力計測部の内部構成を説明するためのブロック図である。同図において、第4実施形態に係る電力計測部71”(
図10参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0139】
図13に示す電力計測部71'''は、正相分信号を抽出してから三相/二相変換を行う点で、第4実施形態に係る電力計測部71”と異なり、電圧信号三相/二相変換部711および正相分電圧信号抽出部713”に代えて、正相分電圧信号抽出部716および電圧信号三相/二相変換部711’を備え、電流信号三相/二相変換部712および正相分電流信号抽出部714”に代えて、正相分電流信号抽出部717および電流信号三相/二相変換部712’を備えている。
【0140】
正相分電圧信号抽出部716は、電圧センサ6より入力される電圧信号V(Vu,Vv,Vw)から、各相の正相分電圧信号V’u,V’v,V’wを抽出するものである。抽出された正相分電圧信号V’u,V’v,V’wは電圧信号三相/二相変換部711’に出力される。正相分電圧信号抽出部716は、下記(32)式に示す処理を行う。但し、a=exp(j・2π/3)であり、exp()は自然対数の底eの指数関数、jは虚数単位である。
【数30】
【0141】
正相分電流信号抽出部717は、電流センサ5より入力される電流信号I(Iu,Iv,Iw)から、各相の正相分電流信号I’u,I’v,I’wを抽出するものである。抽出された正相分電流信号I’u,I’v,I’wは電流信号三相/二相変換部712’に出力される。正相分電流信号抽出部717は、下記(33)式に示す処理を行う。但し、a=exp(j・2π/3)であり、exp()は自然対数の底eの指数関数、jは虚数単位である。
【数31】
【0142】
電圧信号三相/二相変換部711’は、正相分電圧信号抽出部716より入力される3つの正相分電圧信号V’u,V’v,V’wを、2つの正相分電圧信号V’α,V’βに変換するものである。変換後の正相分電圧信号V’α,V’βは、電力算出部715’に出力される。電圧信号三相/二相変換部711’はいわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電圧信号三相/二相変換部711’で行われる変換処理は、下記(34)式に示す行列式で表される。
【数32】
【0143】
電流信号三相/二相変換部712’は、正相分電流信号抽出部717より入力される3つの正相分電流信号I’u,I’v,I’wを、2つの正相分電流信号I’α,I’βに変換するものである。変換後の正相分電流信号I’α,I’βは、電力算出部715’に出力される。電流信号三相/二相変換部712’はいわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電流信号三相/二相変換部712’で行われる変換処理は、下記(35)式に示す行列式で表される。
【数33】
【0144】
正相分電圧信号抽出部716および電圧信号三相/二相変換部711’は、電圧信号V(Vu,Vv,Vw)から各相の正相分電圧信号V’u,V’v,V’wを抽出し、正相分電圧信号V’α,V’βに変換する。また、正相分電流信号抽出部717および電流信号三相/二相変換部712’は、電流信号I(Iu,Iv,Iw)から各相の正相分電流信号I’u,I’v,I’wを抽出し、正相分電流信号I’α,I’βに変換する。そして、正相分電圧信号V’α,V’βおよび正相分電流信号I’α,I’βから有効電力Pおよび無効電力Qが算出される。したがって、第5実施形態に係る電力計測部71'''も、第1実施形態に係る電力計測部71と同様の効果を奏することができる。
【0145】
第5実施形態においても、上記第4実施形態の場合と同様に、正相分電圧信号抽出部716および正相分電流信号抽出部717によって除去されない高調波成分を除去する必要がある場合は、当該高調波を除去するためのフィルタ(例えば、基本波を通過させるローパスフィルタなど)を備えるようにすればよい。
【0146】
上記第5実施形態においては、基本波の正相分の有効電力および無効電力を計測する場合について説明したが、これに限られない。正相分電圧信号抽出部716および正相分電流信号抽出部717において、上記(32)式および(33)式の行列に代えて下記(36)式の行列を用いるようにすれば、逆相分の信号を抽出することができるので、電力算出部715’は基本波の逆相分の有効電力および無効電力を算出することができる。
【数34】
【0147】
上記第5実施形態においては、電力算出部715’が、正相分電圧信号V’α,V’βと正相分電流信号I’α,I’βとから、有効電力Pおよび無効電力Qを算出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、電圧信号三相/二相変換部711’および電流信号三相/二相変換部712’を設けることなく、正相分電圧信号抽出部716より出力される3つの正相分電圧信号V’u,V’v,V’wと、正相分電流信号抽出部717より出力される3つの正相分電流信号I’u,I’v,I’wとから、有効電力Pおよび無効電力Qを算出するようにしてもよい。また、上記第5実施形態において、上記(32)式に示す演算および上記(34)式に示す演算に代えて、各行列の積を算出して、当該積の行列を用いた演算を行うようにしてもよい。同様に、上記(33)式に示す演算および上記(35)式に示す演算に代えて、各行列の積を算出して、当該積の行列を用いた演算を行うようにしてもよい。
【0148】
上記第1ないし第5実施形態においては、有効電力Pおよび無効電力Qを両方とも算出する場合について説明したが、これに限られない。いずれか一方のみを算出するようにしてもよい。例えば、インバータ制御回路7が入力直流電圧制御により出力有効電力を制御する場合であれば、有効電力制御が必要ないので、有効電力Pを算出する必要はない。この場合を第6実施形態として、以下に説明する。
【0149】
図14は、第6実施形態に係るインバータ制御回路の内部構成を説明するためのブロック図である。同図において、
図1に示すインバータ制御回路7と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0150】
インバータ制御回路7’は、入力直流電圧制御によって出力有効電力を制御する点で、インバータ制御回路7と異なる。具体的には、電力計測部71は、有効電力Pを算出せず無効電力Qのみを算出し、電力制御部72’は、電力計測部71より入力される無効電力Qに基づいて、無効電力制御のための補償信号を生成して電流制御部73に出力する。直流電圧制御部76は、直流電圧センサ8によって検出された、直流電源1からインバータ回路2に入力される直流電圧を目標値に一致させるためのフィードバック制御(例えば、PI制御)を行って、当該制御のための補償信号を電流制御部73に出力する。直流電圧制御部76による入力直流電圧制御によって、系統連系インバータシステムAの出力有効電力は制御される。
【0151】
本実施形態において、電力計測部71は、正相分電圧信号V’d,V’qと正相分電流信号I’d,I’qとをそれぞれ抽出し、これらを用いて無効電力Qを算出する。したがって、第6実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0152】
なお、電力計測部71が、正相分電圧信号V’d,V’qと正相分電流信号I’d,I’qとをそれぞれ抽出し、これらを用いて有効電力Pのみを算出するようにしてもよい。
【0153】
上記第1ないし第6実施形態においては、本発明に係る電力計測装置をインバータ制御回路7(7’)に組み込んだ場合について説明したが、これに限られない。本発明に係る電力計測装置をインバータ制御回路7(7’)とは別に設けて、算出した有効電力P(無効電力Q)を系統連系インバータシステムの出力有効電力(出力無効電力)として表示装置に常時表示するようにしつつ、当該電力計測装置が算出した有効電力Pおよび無効電力Qをインバータ制御回路7(7’)に出力するようにしてもよい。
【0154】
上記第1ないし第6実施形態においては、本発明に係る電力計測装置を系統連系インバータシステムに用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明に係る電力計測装置は、他のシステムに用いることもできるし、単体で三相交流の有効電力または無効電力を計測するための計測装置として用いることもできる。
【0155】
本発明に係る電力計測装置、インバータ制御回路、系統連系インバータシステム、および、電力計測方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る電力計測装置、インバータ制御回路、系統連系インバータシステム、および、電力計測方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。