特許第5887119号(P5887119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5887119切削焼結用セラミックス仮焼材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887119
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】切削焼結用セラミックス仮焼材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/622 20060101AFI20160303BHJP
   C04B 35/48 20060101ALI20160303BHJP
   C04B 35/638 20060101ALI20160303BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20160303BHJP
   A61C 13/08 20060101ALI20160303BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20160303BHJP
   C04B 35/628 20060101ALI20160303BHJP
   B28B 3/00 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   C04B35/00 E
   C04B35/48 Z
   C04B35/64 301
   C04B35/64 L
   A61C13/08 Z
   A61C13/083
   C04B35/00 B
   B28B3/00 102
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-266697(P2011-266697)
(22)【出願日】2011年12月6日
(65)【公開番号】特開2013-119485(P2013-119485A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(72)【発明者】
【氏名】豊 田 邦 宏
(72)【発明者】
【氏名】山 越 二 郎
(72)【発明者】
【氏名】小 田 葉 子
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−092866(JP,A)
【文献】 特開2005−187235(JP,A)
【文献】 特開平04−325473(JP,A)
【文献】 特表2003−506191(JP,A)
【文献】 特開2010−031011(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/156325(WO,A1)
【文献】 特開2010−220779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/00
A61C 13/08
A61C 13/083
C04B 35/00
C04B 35/48
C04B 35/622
C04B 35/628
C04B 35/638
C04B 35/64
B28B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料により被覆されたセラミックス粒子を成形して成形体を形成させる成形工程、
前記成形体を不活性雰囲気または還元性雰囲気下、加熱保持することによって、前記成形体中に発生する揮発成分を除去する脱脂工程、および
前記成形体を不活性雰囲気または還元性雰囲気下、前記脱脂工程よりも高い温度で加熱する仮焼工程
を含んでなり、
前記仮焼工程が、800〜1000℃で1〜13時間加熱するものであることを特徴とする、仮焼材料の製造方法。
【請求項2】
前記成形体の形成に、冷間等方加圧による加圧を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
セラミックス微粒子を主成分とし、炭素含有率が0.01〜0.5重量%であり、炭素が、前記セラミックス微粒子の間に炭素層として存在することを特徴とする仮焼材料。
【請求項4】
前記セラミックスがジルコニアである、請求項3に記載の仮焼材料。
【請求項5】
請求項3または4に記載の仮焼材料を切削加工する加工工程、および
切削加工された仮焼材料を1200〜1600℃で0.5〜50時間焼成する焼成工程を含んでなることを特徴とする、焼成加工品の製造方法。
【請求項6】
前記焼成加工品が、歯科用補綴材料、筆記具、または文具の外装部品である、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削焼結用セラミックス仮焼材料に関するものである。さらに詳しくは、セラミックス製歯科補綴材料や、文具、筆記具、装飾品などのセラミックス製外装材料を形成させる際に用いられる切削焼結用セラミックス仮焼材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から歯科用の補綴材料として、ジルコニアなどのセラミックスを用いることが知られている。これらのセラミックスの補綴材料は、金属アレルギーを起こさず、生体適合性に優れ、その強度も高く、また審美性にも優れるという理由から、従来用いられてきた金属製材料に代えて利用されることが多くなっている。このようなセラミックス製補綴材料は、従来からセラミックスの微粒子を加圧成形し、焼成することによって焼結材料を作成し、それを切削加工することにより製造されていた。
【0003】
しかしながら、セラミックス製補綴材料はその強度が高いことから切削加工が難しいという解決すべき課題があった。その課題解決のために、焼結工程を2段階に分け、まずセラミックス微粒子を加圧成形した後、比較的低温で加熱することによって加工成形がしやすい強度の仮焼材料を製造し、それを切削加工した後に本焼結することによって、強度の高い補綴材料を製造することが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、セラミックスの加工方法に関する発明であり、セラミックス材料(アルミナなど)と結合材(ポリビニルアルコールなど)を混合し、成形したセラミックス成形体を本焼成温度より20〜30%低い温度で仮焼し、その仮焼材料を切削加工した後に本焼成して、目的のセラミックス加工品を得ることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2は、歯科用セラミックス仮焼材料に関する発明であり、酸化ジルコニウムを主成分とする成形体に、脱脂・仮焼処理をした仮焼材料が記載されている。また、仮焼材料の処理温度として、700℃以下では加工性が悪く、1000℃以上では寸法安定性が悪い、仮焼材料が得られることが記載されている。
【0006】
特許文献3は、ジルコニア製インプラントブリッジの作製方法に関する発明であり、仮焼材料を作製し、その仮焼材料を加工後本焼結させて、目的とするインプラントブリッジを作製することが記載されている。
【0007】
特許文献4は、セラミックス製歯科補綴材料の製造方法に関する発明であり、酸化ジルコニウムを冷間等方加圧処理(Cold Isostatic Pressing、以下、CIP処理ということがある)して、圧粉体を得る工程と、緻密焼結(本焼結)される温度より低い温度で予備焼成(仮焼)する工程と、それを切削加工する工程と、緻密焼結(本焼結し、歯科補綴材料を得る工程により製造する製造方法が記載されている。
【0008】
特許文献5は、義歯を製造するための方法に関する発明であり、酸化ジルコニウムを予備焼結(仮焼)し、加工した後に緻密焼成(本焼成)することが記載されている。
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらの技術により製造された仮焼材料の強度は相対的に低いため、切削加工は比較的容易に行うことができるものの、仮焼材料に欠けや割れなどの欠陥が発生しやすいことが分かった。このような欠陥は小さなものであっても、圧力がかかりやすい歯科用補綴材料においてはその欠陥部位に応力が集中して材料全体の破損の要因となるので好ましくないものであり、さらなる改良技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−203949号公報
【特許文献2】特開2010−220779号公報
【特許文献3】特開2008−246131号公報
【特許文献4】特開2006−271435号公報
【特許文献5】特表2003−506191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような技術的課題に鑑みて、切削加工が容易であり、さらに切削加工後に欠陥が発生しにくいセラミックス仮焼材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による仮焼材料の製造方法は、
有機材料により被覆されたセラミックス粒子を成形して成形体を形成させる成形工程、
前記成形体を不活性雰囲気または還元性雰囲気下、加熱保持することによって、前記成形体中に発生する揮発成分を除去する脱脂工程、および
前記成形体を不活性雰囲気または還元性雰囲気下、前記脱脂工程よりも高い温度で加熱する仮焼工程
を含んでなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明による仮焼材料は、セラミックスを主成分とし、炭素含有率が0.01〜0.5重量%であることを特徴とするものである。
【0014】
また本発明による焼成加工品の製造方法は、前記のいずれかの仮焼材料を切削加工する加工工程、および
切削加工された仮焼材料を1200〜1600℃で0.5〜50時間焼成する焼成工程
を含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明による仮焼材料は従来の仮焼材料に比較して、切削加工が容易であるので高い加工精度を達成でき、加工時間も短縮できる。また、切削加工後に欠陥の発生が少ない。さらには切削加工に用いられる工具が損傷を受けにくいため、切削加工における加工工具の交換頻度も少なくなる。これらの結果、最終的に形成される焼結物製造の生産効率が高くなるという効果も達成される。
そして、このような仮焼材料を切削加工した後に本焼成された焼成加工品は、切削加工直後の欠陥が少ないため、より加工精度の高いものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0017】
仮焼材料の製造方法
本発明による仮焼材料の原料には、有機材料に被覆されたセラミックス微粒子が用いられる。
【0018】
セラミックス微粒子を構成するセラミックスの種類は特に限定されないが、最終的に得ようとする焼成加工品の用途などにより適切に選択される。本発明においてセラミックスとは、基本成分が金属の酸化物であり、微量成分として珪化物、窒化物、弗化物、または硼化物などを含むものを意味する。本発明においてはいずれを用いてもよいが、例えば歯科用補綴材料を最終的な目的物とする場合には酸化ジルコニウムが好適であり、特に、酸化ジルコニウムに、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化セリウム、または酸化ハフニウムの少なくとも1種以上、特に酸化イットリウムが添加された、部分安定化ジルコニアが最も好ましい。このような部分安定化ジルコニアは強度および靭性がさらに改良されているためである。
【0019】
本発明に用いられるセラミックス微粒子の粒子径は特に限定されない。ただし、製造時の取扱い性の観点などから粒子径が一定以上であることが好ましい。このため、用いられるセラミック微粒子の平均粒子径は、0.001μm以上であることが好ましく、0.01μm以上であることがより好ましい。一方で、加熱によって得られる仮焼材料中に後述する炭素が均一に分散させるために粒子径が一定よりも小さいことが好ましい。また、微粒子の粒子径が小さいほど、加熱処理の際の温度を低くすることが可能となる。このため用いられるセラミック微粒子の平均粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。なお、本発明において微粒子の平均粒子径は、
透過型電子顕微鏡観察(以下、TEM観察ということがある)により測定されたものである。
【0020】
また、本発明において用いられるセラミックス微粒子は、その表面が有機材料によって被覆されている。この有機材料は、一つには微粒子粉末を金型などに充填して加圧した時に、成形性を改良する機能を有し、さらに、この有機材料は仮焼工程において炭化し、生成した炭素が仮焼材料中に残存することによって、仮焼材料の切削加工性などを改良する機能を有している。なお、セラミックス微粒子の表面の被覆層の厚さは一般に0.1〜1000nm、好ましくは1〜100nmである。
【0021】
本発明において有機材料は上記したような機能を有するものであれば特に限定されないが、仮焼工程や本焼成工程において、毒性の高いガスを発生させたり、仮焼材料中に意図しない不純物が残留することを防ぐために、炭素、水素、酸素、および窒素だけから構成される有機材料が好ましく、炭素、水素、および酸素だけから構成される有機材料がより好ましい。具体的には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0022】
このような有機材料が被覆されたセラミックス微粒子は、各種のものが市販されており、それらから任意に選択して用いることができる。例えば部分安定化ジルコニアを含むセラミックス微粒子としては、TZ−3Y−E、TZ−3YB−E、TZ−4YS、TZ−6YS、TZ−8YS、TZ−8YSB、TZ−10YS、TZ−3Y20A、TZ−3Y20AB、TZ−0(いずれも商品名、東ソー株式会社製)、KZ−3YF(SD)−AC、KZ−3YF(SD)−A(いずれも商品名、共立マテリアル株式会社製)、JZ−3YA、JZ−3YAS(いずれも商品名、金馬有限会社(中国)製)、ZIRCOXC(商品名、IBU−tec advanced materials AG(ドイツ)製)などが市販されている。本発明による仮焼材料の製造には、これらの微粒子から選択して用いることもできる。
【0023】
なお、本発明においてセラミックス微粒子は着色剤を含んでいてもよい。本発明による仮焼材料が歯科用補綴材料として用いられる場合には、このような着色剤を用いることで補綴材料の色調を自然歯に近い色調とすることが可能となる。また、文具、筆記具、または装飾品などの外装材料用途では、その用途に応じて各種の着色をすることも可能となる。このような着色剤としては、金属酸化物、金属硫化物、有機酸金属塩などが挙げられ、具体的には、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、その他の遷移金属酸化物、硫化鉄、硫化マグネシウム、硫化ニッケル、酢酸ニッケル、酢酸鉄、酢酸マグネシウムなどが挙げられる。これら着色剤は、例えばセラミックス微粒子中に配合しても、微粒子を有機材料を被覆するときに有機材料と混合して用いることもできる。さらには、仮焼材料を切削加工した後に着色剤溶液または分散液に含浸することで着色することも可能である。
【0024】
本発明においては、まずこのようなセラミックス微粒子を成形して成形体を形成させる。成形体を形成させる方法は特に限定されず、従来知られている任意の方法から選択して用いることができる。具体的には、粉末プレス、射出、射込み等が挙げられる。ここで、本発明による仮焼材料は、切削加工されたのち、本焼成されて最終的な焼成加工品を得るために用いられる。この本焼成の際には、仮焼体は収縮するので、その収縮率を見込んで仮焼体の切削加工を行う。このため、収縮率が等方的でないと、本焼成後に予定した形状の焼結物が得ることができない。そのため、仮焼前の成形体が等方的に加圧されていることが好ましい。このような等方的な加圧をするためには、CIP処理を行うことが好ましい。一般に粉末プレス処理を行って得た一次成形体に対してさらにCIP処理を行って二次成形体を形成させるが、セラミックス微粒子を型に充填したものに最初からCIP処理を適用してもよい。なお、ここで得られる成形体の形状および大きさは特に限定されないが、目的とする仮焼材料の用途や、製造における歩留りなどの観点から、縦、横、高さの合計が300mm以下であることが好ましく、150mm以下であることが好ましい。これよりも大きい成形体を用いて仮焼材料を製造することも可能であるが、後述する脱脂工程における加熱条件の調整をする必要がある場合がある。
【0025】
加圧成形をする場合の条件は特に限定されない。しかし、例えばセラミック微粒子をまず粉末プレスによって一次成形体を形成させ、その一次成形体にさらにCIP処理を施すような場合には、粉末プレスを400〜1000kg/cmで行い、さらにCIP処理を1000〜4000kg/cmで30〜90秒間行うことができる。
【0026】
次に、成形工程により得られた成形体を脱脂工程に付す。脱脂工程は、成形体を加熱して、成形体中に含まれる樹脂成分の一部を分解および気化させることにより成形体から放出させ、炭素だけを成形体中に残留させることを目的とするものである。言い換えれば、成形体を加熱して、成形体中に発生する揮発成分を除去することを目的としている。このような目的を達成するためには、成形体を不活性雰囲気下または還元性雰囲気下で加熱する必要がある。これは、酸化性雰囲気下で加熱すると、樹脂成分のほとんどが酸化され、炭素は二酸化炭素として気化してしまい、成形体中に炭素が残留せず、本願発明による効果が発現しないからである。
【0027】
ここで不活性雰囲気とは、脱脂工程を行う温度で成形体と反応しない不活性ガス、例えば窒素やアルゴンなどの雰囲気である。また、還元性雰囲気とは、酸素と反応し得る還元性ガス、例えば水素、炭化水素などの雰囲気である。これらの不活性ガスおよび還元性ガスからなる群から選択される2種類以上のガスを混合した雰囲気を用いることもできる。本発明においては、後述するように脱脂工程および仮焼工程において炭素を酸化させずに仮焼材料中に残留させることが好ましいので、仮焼材料から発生する酸素と反応する還元性ガスを含む雰囲気で脱脂工程を実施することが好ましい。しかしながら、雰囲気が還元性ガスだけであると爆発などの危険性もあるので、不活性ガスと還元性ガスとを混合した雰囲気が好ましい。具体的には、不活性ガスに10%以下の還元性ガスを混合した雰囲気、例えば97体積%の窒素ガスと3体積%の水素ガスとの混合ガスなどが用いられる。
【0028】
脱脂工程における加熱温度は、その後に行われる仮焼工程よりも相対的に低い温度で行われる。具体的には、750℃以下で行われることが好ましく、600℃以下で行われることが好ましい。また、脱脂工程においては、成形体の温度を急激に上昇させることは好ましくない。これは、急激に温度を変化させると、成形体内部に発生した揮発成分が成形体外部に十分放出されず、所望の仮焼材料を得ることができない場合がある。したがって、脱脂工程における加熱は、成形体の温度が徐々に上昇するように行うことが好ましい。ここで、所望の効果を得るためには、成形体の温度上昇を制御することが必要であるが、成形体の大きさや形状によっては、例えば成形体の表面と中心部とで温度勾配が発生するため、成形体全体を同一の条件で温度制御を行うことは困難である。このため成形体そのものの温度を制御する代わりに、成形体中の温度勾配が小さいくなるように、雰囲気の温度を制御することが便利である。具体的には、例えば58mm×29mm×16mmの直方体形状の成形体を脱脂工程に付す場合には、雰囲気の昇温速度は1時間当たり10〜100℃/時間とすることが好ましく、15〜50℃/時間とすることがより好ましい。例えば、歯科用の補綴材料に用いられる仮焼材料のように、成形体の中心部と表面との距離が数cm以下の材料を製造する場合には、この程度の昇温速度とすることで所望の材料を得ることができる。また、一定温度に達した時点で昇温を停止し、一定温度で脱脂工程を継続することもできる。
【0029】
脱脂工程は、成形体に含まれる樹脂が加熱によって分解し、生成した炭素以外の揮発成分が成形体の外部に放出された時点で完了することができる。揮発成分が成形体から十分に放出されるまでの時間、すなわち脱脂工程の時間は、5〜150時間であることが好ましく、10〜20時間であることがより好ましい。
【0030】
次に、成形工程により得られた成形体を仮焼工程に付す。仮焼工程は、成形体を、不活性雰囲気下または還元性雰囲気下で、前述の脱脂工程よりも相対的に高く、後述の本焼成よりも相対的に低い温度で加熱することにより行う。この仮焼工程によって、脱脂工程を経た成形体を切削加工などが容易になる程度に焼結される。すなわち脱脂工程後の成形体は切削加工などに耐えるだけの十分な機械的強度を有していないことが多いので、加熱することで強度を増加させることが仮焼工程の目的である。
【0031】
本発明による方法において、仮焼工程は、不活性雰囲気下または還元性雰囲気下で行われる。ここで、仮焼工程を実施する雰囲気は前記の脱脂工程と同じであってもよい。しかしながら、脱脂工程においては成形体中に含まれる樹脂を分解、および気化させることにより成形体から放出させる必要があるが、脱脂工程において樹脂から生じる揮発成分の放出は実質的に完了している。このため、仮焼工程においては、成形体中に含まれる炭素が酸化されなければよい。このため、必ずしも脱脂工程と同じ雰囲気である必要はなく、異なった雰囲気であってもよい。具体的には脱脂工程は還元雰囲気で行い、仮焼工程は不活性雰囲気で行うことができる。また、脱脂工程を不活性雰囲気で行い、仮焼工程は還元性雰囲気で行ってもよい。
【0032】
仮焼工程における加熱温度および加熱時間は特に限定されないが、求められる加工性または機械強度のほか、用いられるセラミックス微粒子の粒子径、セラミックス微粒子に含まれる有機材料の種類、成形体の大きさなどに応じて適切に決定される。一般的には加熱温度は800〜1000℃、好ましくは800〜950℃である。一般に仮焼工程における加熱温度は、最終的な焼成加工品を得る場合に行う加熱処理よりも低い温度で行われる。また、加熱時間は、0.001〜100時間、好ましくは1〜10時間とされる。このような仮焼工程後に、目的とする仮焼材料を得ることができる。
【0033】
仮焼材料
本発明の方法により得られる仮焼体は、炭素を含んでいる。この炭素は、セラミックス微粒子の表面を被覆していた有機材料に由来するものである。従来、仮焼材料を製造する場合には同様のセラミックス微粒子を用いた場合であっても、大気中、すなわち酸素の存在下において加熱されていたため、有機材料はすべて酸化し、炭素は二酸化炭素として大気中に放出されていた。この結果、仮焼材料中には炭素は残留せず、仮焼材料に含まれる炭素の含有率は、仮焼材料の全重量を基準として、0.01重量%未満であり、仮焼材料の色は白色であった。
【0034】
一方、本発明の方法により製造される仮焼材料は、不活性雰囲気下、または還元性雰囲気下において加熱される。この結果、有機材料に含まれる一部の炭素は気化することができず、仮焼材料中に残留することとなる。この結果、本発明の方法により製造される仮焼材料は、従来なかった高い炭素含有率を有している。具体的には、本発明の方法により製造される仮焼材料の炭素含有率は、仮焼材料の全重量を基準として、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.02重量%以上、特に好ましく約0.03重量%である。このような高い炭素含有率を有するため、この仮焼材料の色は濃灰色から黒色である。なお、炭素含有率の上限は必ずしも限定されないが、過度に高いと、仮焼材料としての形状を維持できないなどの問題が起こり得る。このような理由から仮焼材料の炭素含有率は、仮焼材料の全重量を基準として、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
【0035】
なお、本発明において仮焼材料中に残留している炭素は、アモルファス状態で存在している。仮焼材料中における炭素の状態は、X線回折装置での観察により確認することができる。
【0036】
さらに、本発明による仮焼材料は、従来の仮焼材料に比較して密度が高いという特徴がある。一般的には密度が高いほど材料の硬さが増大する傾向にあり、同時に加工性も損なわれる傾向にあるが、本願発明による仮焼材料は従来の仮焼材料に比較して密度が高いにも関わらず加工性がよいという特徴がある。具体的には、本発明の方法により得られる仮焼材料の密度は、2.95〜3.29g/cmの範囲であることが好ましい。
【0037】
焼成加工品の製造方法
本発明による仮焼材料を、切削加工し、本焼成することによって、最終的な焼成加工品を得ることができる。
【0038】
加工工程において、仮焼材料は切削加工される。ここで切削加工は、従来の仮焼材料に用いられていた方法と同様の方法により行うことができる。例えば焼成加工品として歯科用補綴材料を製造する場合には、歯科医等から供給された歯型模型に基づき、3次元CADなどを用いて加工形状のデータを作成する。ここで、仮焼体を本焼成すると、一定の比率で収縮するので、その比率を考慮に入れて前記データを作成する。そして作成された前記データをもとに多軸加工機を用いて、仮焼材料を切削加工する。歯科用補綴材料以外の焼成加工品を製造する場合にも、用いる加工機の種類などが異なることはあっても同様に切削加工を施すことができる。なお、本発明による仮焼材料を用いた場合、切削加工における欠けや割れなどの欠陥の発生が非常に少なくなる。この理由は明確に解明されていないが、本発明による仮焼材料は炭素を含んでいるため、仮焼材料中においてセラミックス微粒子の間に炭素層が存在している。このため切削加工において微粒子の一つに応力がかかった時に微粒子と微粒子との間の炭素層で剥離し、微粒子が相互に分離しやすくなっているためと推測されている。
【0039】
そして、切削加工によって欠陥が生じないために、例えば欠けによって破片状の粒子が発生することも少ないと考えられ、例えば多軸加工機による加工を行う場合に切削面にそのような破片状の粒子が存在して加工具に傷などを発生させることもなく、加工具の寿命も長くなると同時に、切削加工の精度も高くなるものと推測される。
【0040】
切削加工された仮焼材料は引き続き焼成工程において本焼成に付される。焼成工程における加熱温度および加熱時間は特に限定されないが、用いられるセラミックス微粒子の粒子径、仮焼材料の大きさ、炭素含有率などに応じて適切に決定される。一般的には加熱温度は1200〜1600℃、好ましくは1350〜1500℃であり、加熱時間は、0.5〜50時間、好ましくは4〜16時間とされる。このような焼成工程後に、焼成加工品を得ることができる。そして、焼成によって仮焼材料中に含まれていた炭素は二酸化炭素として放出され、最終的は焼成加工品の炭素含有率は従来のものと同等となる。
【0041】
このようにして得られた焼成加工品は、従来の仮焼材料を用いて製造したものに比較して、欠けや割れなどの欠陥が少なく、焼成加工品の生産性も高くなる。そして、最終的な焼成加工品は、仮焼材料の段階で含まれていた炭素を含んでいないので、従来品と同様の色調などを達成することが可能である。
【0042】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0043】
実施例1
表面をアクリル系樹脂で被覆された酸化ジルコニウム粒子(TEM観察により測定された平均粒子径が0.04μm)を準備した(東ソー株式会社製、商品名TZ−3YB−E)。この酸化ジルコニウム粒子を直方体(58mm×29mm×16mm)の形状の金型に充填し、まずプレス成形機を用いて最低圧力475kg/cmでメカプレス成形し、さらに最高圧力2000kg/cmで1分間等方圧プレス成形して、成形体を得た。
【0044】
次に、得られた成形体を脱脂処理に付した。成形体を加熱炉内に配置し、炉内の空気を窒素に置換した。そして窒素雰囲気下で25℃/時間の速度で600℃まで昇温させた。600℃で2時間保持することにより、成形体から揮発成分を除去した。
【0045】
脱脂された成形体を、引き続き窒素雰囲気下で仮焼処理に付した。加熱炉内の温度を950℃まで昇温させ、そのまま3時間保持した。そして、その後放冷して室温まで温度を低下させて仮焼材料を得た。なお、仮焼処理において加熱開始から室温冷却が完了するまで、窒素雰囲気を維持した。
得られた仮焼材料の特性は表1に示す通りであった。
【0046】
実施例2
実施例1に対して、仮焼処理における加熱保持時間を3時間から13時間に変更したほかは、同様にして仮焼材料を得た。得られた仮焼材料の特性は表1に示す通りであった。
【0047】
実施例3
実施例1に対して、脱脂処理および仮焼処理の雰囲気を、窒素雰囲気から窒素97体積%および水素3体積%からなる混合気体雰囲気に代え、さらに仮焼処理における加熱保持時間を3時間から1時間に代えて仮焼材料を得た。得られた仮焼材料の特性は表1に示す通りであった。
【0048】
実施例4
実施例1に対して、脱脂処理および仮焼処理の雰囲気を、窒素雰囲気から窒素97体積%および水素3体積%からなる混合気体雰囲気に代えたほかは同様にして仮焼材料を得た。得られた仮焼材料の特性は表1に示す通りであった。
【0049】
比較例1
実施例1に対して、脱脂処理および仮焼雰囲気を大気中に代え、さらに仮焼処理における加熱保持時間を3時間から1時間に代えて、仮焼材料を得た。得られた仮焼材料の特性は表1に示す通りであった。
【0050】
比較例2
比較例1に対して、表面をアクリル系樹脂で被覆された酸化ジルコニウム粒子(TEM観察により測定された平均粒子径が0.04μm 東ソー株式会社製、商品名TZ−3YB−E)の代わりに、表面をアクリル系樹脂で被覆された酸化ジルコニウム粒子(TEM観察により測定された平均粒子径が0.09μm 東ソー株式会社製、商品名TZ−3YSB−E)とした以外は、比較例1と同じ方法で仮焼材料を得た。得られた仮焼材料の特性は表1に示す通りであった。
【0051】
仮焼材料の評価
(1)仮焼材料の物性評価
得られた仮焼材料について、色、密度、残炭率を評価した。色は仮焼材料を目視することにより評価した。密度は仮焼材料の重量と体積より算出した。また、残炭率は仮焼材料の重量と仮焼材料を加工することなく大気中で焼成した時の重量を測定し、その差を測定することによって仮焼材料に含まれる炭素の重量を測定し、仮焼材料全体に占める炭素の重量の割合を残炭率とした。
【0052】
(2)加工済み仮焼材料の形状の評価
実施例および比較例において得られた仮焼材料を、歯科補綴用ジルコニアブロックの加工条件に従って加工し、加工品後の状態を評価した。具体的には歯型模型の形状を3次元スキャナで読み取り、読み取った形状をコンピューター処理してデータ化し、そのデータに基づいて多軸加工機により仮焼材料を切削加工した。この切削加工された仮焼材料を顕微鏡により観察し、下記の基準により加工済み仮焼材料の形状を評価した。
A: 加工済み仮焼材料に欠けが全く認められない
B: 加工済み仮焼材料に、わずかに欠けが認められる
C: 加工済み仮焼材料に欠けが認められ、使用するには手直しが必要
D: 加工済み仮焼材料に欠けまたは割れが認められ、使用不能
【0053】
(3)繰り返し加工性の評価
多軸加工機に新品のボールエンドミルを装着したのち、ボールエンドミルを交換せずに、複数の仮焼材料に対して連続して上記(2)と同様の切削加工を行った。得られた加工済み仮焼材料のすべてについて顕微鏡で観察し、下記の基準により繰り返し加工性を評価した。
A: 60個の仮焼材料加工を行っても、加工済み仮焼材料のすべてに欠けが全く認められない
B: 60個の仮焼材料加工を行った場合、数個についてわずかに欠けが認められるが、すべての加工済み仮焼材料が使用可能
C: 30個程度まで使用可能なレベルで仮焼材料の加工が可能であるが、ほとんどの加工済み仮焼材料が使用するには手直しが必要
D: 加工済み仮焼材料のほとんどに欠けまたは割れが認められ、使用不能
【0054】
(4)焼成加工品の評価
加工済み仮焼材料を、大気中100℃/時間の速度で1400℃まで昇温させた。さらにその温度で2時間保持することにより、焼成品を得た。得られた焼成加工品(歯科用補綴品)の実用性について下記の基準で評価した。
A: 焼成加工品は歯科用補綴材料として問題なく使用可能
B: 焼成加工品にわずかに欠けた跡が残っているが、歯科用補綴材料としてそのまま使用可能
C: 焼成加工品に欠けた跡が認められ、歯科用補綴材料として使用するには手直しが必要
D: 焼成加工品に欠けた跡または割れが認められ、歯科用補綴材料として使用不能
【0055】
評価結果は表1に示す通りであった。
【表1】