(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887122
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】排水処理剤
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20060101AFI20160303BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20160303BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20160303BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20160303BHJP
C04B 22/16 20060101ALI20160303BHJP
C02F 1/62 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
C02F1/58 M
C04B22/08 Z
C04B22/14 A
C04B22/06 Z
C04B22/16
C04B22/08 A
C02F1/62 Z
C02F1/58 H
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-267921(P2011-267921)
(22)【出願日】2011年12月7日
(65)【公開番号】特開2013-119056(P2013-119056A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−214029(JP,A)
【文献】
特開2006−159176(JP,A)
【文献】
特開2001−327979(JP,A)
【文献】
特開2002−307076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58−1/64
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート、硫酸アルミニウム、石灰及びアルカリ金属リン酸塩を含有する排水処理剤。
【請求項2】
カルシウムアルミネート100質量部、硫酸アルミニウム10〜100質量部、石灰5〜100質量部及びアルカリ金属リン酸塩0.1〜10質量部を含有する請求項1に記載の排水処理剤。
【請求項3】
カルシウムアルミネートの主成分が非晶質の12CaO・7Al2O3である請求項1又は2に記載の排水処理剤。
【請求項4】
アルカリ金属リン酸塩が、リン酸カリウムである請求項1〜3のいずれかに記載の排水処理剤。
【請求項5】
さらに、セメントを含有する請求項1〜4のいずれかに記載の排水処理剤。
【請求項6】
セメントが白色ポルトランドセメントである請求項5に記載の排水処理剤。
【請求項7】
ふっ素、ほう素、砒素及びセレンから選ばれる1種以上の有害物質を環境基準を超える量含有する排水に、請求項1〜6のいずれか1項記載の排水処理剤を添加、混合し、固液分離することを特徴とする排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質を含む排水を浄化する排水処理剤に関し、より具体的には、排水中のふっ素、ほう素および重金属類(砒素、セレン)を短時間で不溶化でき、不溶化後の有害物質の再溶出を抑制できる排水処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業等で発生する排水には重金属類などの有害物質が含まれている場合がある。有害物質を含む排水は、一定の濃度以下に有害物質を除去してから河川等に放流することが定められている。生活環境および自然環境の保全を進めていくためには、排水からの有害物質の除去処理を確実に行う必要がある。一方、トンネル掘削などの建設工事で発生する排水や都市ゴミ焼却灰など各種焼却灰の洗浄排水などにおいては、排水中にふっ素、ほう素、砒素、セレンなどの除去処理が困難な有害物質が高濃度で存在することが多く、その処理が大きな課題となっている。そのため、これらの有害物質の濃度を排水基準以下に低減する効果的な方法が求められているが、複数の有害物質が共存する場合(特にふっ素とほう素の共存)は特に除去処理が困難であったり、高濃度の有害物質を除去するには多量の薬剤等が必要なため不経済であったり、処理時間が長く効率的な処理が困難であるなどの問題があった。表1に水質汚濁防止法に定められている一律排水基準のふっ素、ほう素、砒素、セレンの許容濃度を示す。
【0003】
【表1】
【0004】
また、環境保全の観点からは、排水から除去した有害物質を安全に処分することも大きな課題であり、排水から分離除去した有害物質の再溶出を防止する必要がある。具体的には、薬剤で排水中の有害物質を吸着・不溶化処理した後、ろ過等の操作により有害物質の吸着・不溶化物を排水から分離して埋め立てなどの処分を行う場合には、吸着・不溶化物からの有害物質の溶出量を例えば土壌環境基準(環境庁告示第46号)のレベルまで抑制することが必要となる。表2に土壌環境基準(環境庁告示第46号)に規定されているふっ素、ほう素、砒素、セレンの溶出量を示す。
【0005】
【表2】
【0006】
従来、排水中のふっ素の除去技術としては、消石灰などのカルシウム塩を使用して難溶性のふっ化カルシウムを生成させる方法、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩を使用して水酸化アルミニウムが生成される過程でふっ素を吸着・不溶化する方法、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩を使用して水酸化マグネシウムが生成される過程でふっ素を吸着・不溶化する方法などが知られている。ほう素の不溶化技術としては、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩の使用、あるいは、硫酸アルミニウムと消石灰を併用することで、ほう素を吸着・不溶化する方法が知られている。砒素の不溶化技術としては、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩を使用して水酸化アルミニウムが生成される過程で砒素を吸着・不溶化する方法、塩化第二鉄などの鉄塩を使用して水酸化鉄が生成される過程で砒素を吸着・不溶化する方法などが知られている。セレンの不溶化技術としては、鉄塩などを使用した吸着・不溶化方法が知られている。しかし、これらの方法では、不溶化の効果が低いため、排水中のふっ素、ほう素、砒素及びセレンの濃度を一律排水基準以下に抑制するためには薬剤の使用量が多くなり不経済であった。
【0007】
このような状況を鑑み、排水中のふっ素、ほう素、砒素、セレンの除去に関する技術がいくつか提案されている。例えば、砒素をキレート剤であるジチオカルバミン酸誘導体で捕捉・不溶化する技術(特許文献1)、セレンを含有する排水をチタン合金に接触させることで、排水中のセレンイオンを金属セレンまで還元して除去する技術(特許文献2)、カルシウムアルミネートなどの材料を用いて排水中のふっ素やほう素を吸着除去する技術(特許文献3〜5)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開1998−192870号公報
【特許文献2】特開2009−011915号公報
【特許文献3】特開2003−062582号公報
【特許文献4】特開2008−126217号公報
【特許文献5】特開2010−082497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これら従来の技術では、高価な成分を使用すること、特殊な装置を必要とする、処理に長期間を要する、一部の有害物質については低減効果が得られない等の問題があった。
【0010】
従って、本発明の課題は、排水に含まれる有害物質であるふっ素、ほう素、砒素及びセレンの濃度を一律排水基準未満に低減できる経済的かつ効率的な排水処理剤を提供することである。具体的には、排水中にこれらの有害物質が複数共存している場合でも短時間で不溶化することができ、不溶化後の有害物質の再溶出を抑制できる排水処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者は、検討を重ねた結果、有害物質としてふっ素、ほう素、砒素およびセレンを含む排水を処理するに際し、カルシウムアルミネート、硫酸アルミニウム、石灰及びアルカリ金属リン酸塩を組み合わせた排水処理剤を使用することで、排水中の有害物質の濃度を一律排水基準未満に低減でき、しかもその効果が、該排水処理剤を排水に添加・混合してから短時間で発揮されることを見出した。また、該排水処理剤の配合にセメントを加えることで、有害物質の再溶出を抑制する効果が高まることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、次の[1]〜[7]に係るものである。
[1]カルシウムアルミネート、硫酸アルミニウム、石灰及びアルカリ金属リン酸塩を含有する排水処理剤。
[2]カルシウムアルミネート100質量部、硫酸アルミニウム10〜100質量部、石灰5〜100質量部、アルカリ金属リン酸塩0.1〜10質量部を含有する[1]の排水処理剤。
[3]カルシウムアルミネートの主成分が非晶質の12CaO・7Al
2O
3である[1]又は[2]の排水処理剤。
[4]アルカリ金属リン酸塩が、リン酸カリウムである[1]〜[3]のいずれかの排水処理剤。
[5]さらに、セメントを含有する[1]〜[4]のいずれかの排水処理剤。
[6]セメントが白色ポルトランドセメントである[5]の排水処理剤。
[7]ふっ素、ほう素、砒素及びセレンから選ばれる1種以上の有害物質を環境基準を超える量含有する排水に、[1]〜[6]のいずれかに記載の排水処理剤を添加、混合し、固液分離することを特徴とする排水処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の排水処理剤は、経済的な処方で排水に含まれる有害物質であるふっ素、ほう素、砒素及びセレンの濃度を一律排水基準未満に低減できるため、特に、トンネル掘削などの建設工事で発生する排水や都市ゴミ焼却灰など各種焼却灰の洗浄排水などの浄化に有用である。しかも、有害物質に対する不溶化効果を短時間に発揮するため排水処理を効率的に行うことができる。さらに、不溶化後の有害物質の再溶出を長期間抑制できるため環境安全性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の排水処理剤に用いる(A)カルシウムアルミネートは、基本的にはCaO原料とAl
2O
3原料を熱処理することにより得られる物質である。カルシウムアルミネートは化学成分としてCaOとAl
2O
3からなる結晶質やガラス化が進んだ構造の水和活性物質であれば何れのものでも良く、CaOとAl
2O
3に加えて他の化学成分が加わった化合物、固溶体、ガラス質物質又はこれらの混合物等でもよい。前者としては例えば12CaO・7Al
2O
3、CaO・Al
2O
3、3CaO・Al
2O
3、CaO・2Al
2O
3、CaO・6Al
2O
3等が挙げられ、後者としては例えば、4CaO・3Al
2O
3・SO
3、11CaO・7Al
2O
3・CaF
2、Na
2O・8CaO・3Al
2O
3等が挙げられる。好ましくは、有害成分の不溶化効果に優れていることから、熱処理後のクリンカを急冷してガラス化率を90%以上にした非晶質の12CaO・7Al
2O
3を主成分とするものが良い。また、カルシウムアルミネートの粉末度はブレーン比表面積として2000cm
2/g以上のものが好ましい。
【0015】
本発明の排水処理剤に用いる硫酸アルミニウムは、化学成分としてAl
2(SO
4)
3・nH
2Oで表される水和物、あるいはAl
2(SO
4)
3で表される無水塩の何れでも良い。好ましくは、有害成分の不溶化効果に優れていることからnが14〜18の水和物が良い。
【0016】
本発明の排水処理剤に用いる石灰は、化学成分としてCaOで表される酸化カルシウムを主成分とするもの、あるいは化学成分としてCa(OH)
2で表される水酸化カルシウムを主成分とするものが挙げられる。これら両方を含むものであっても良い。好ましくは、有害成分の溶出抑制効果に優れていることから酸化カルシウムの含有量が多い石灰が好ましい。石灰の粉末度はブレーン比表面積として2000cm
2/g以上のものが好ましい。
【0017】
本発明の排水処理剤に用いるアルカリ金属リン酸塩は、リン酸ナトリウムやリン酸カリウムなどの易溶性の塩が使用できる。本発明では、アルカリ金属リン酸塩を配合することにより、短時間で良好な不溶化効果が得られる。アルカリ金属リン酸塩としては下記式(1)〜(3)で表されるリン酸カリウムが好ましく、特に不溶化効果が短くて済むことから下記式(2)で表されるリン酸二水素カリウムがより好ましい。
【0018】
K
2HPO
4 (1)
KH
2PO
4 (2)
K
3PO
4 (3)
【0019】
本発明の排水処理剤に用いるセメントとしては、ポルトランドセメント、混合セメント、特殊セメント、エコセメントが挙げられる。ポルトランドセメントとは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及びそれらの低アルカリ型のポルトランドセメント等を言う。混合セメントとは、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等を言う。特殊セメントとは、セメント系固化材、アルミナセメント、超速硬セメント、アウイン系セメント、超微粒子セメント、油井セメント等を言う。エコセメントとは、都市ごみ焼却残渣などの廃棄物を主原料として製造されたセメントを言う。より好ましくは白色ポルトランドセメントが良く、白色ポルトランドセメントはセレンや6価クロムなど有害な重金属類をほとんど含まないため、本発明の排水処理剤に特に好適に使用できる。
【0020】
本発明の排水処理剤は、カルシウムアルミネート100質量部、硫酸アルミニウム10〜100質量部、石灰5〜100質量部、アルカリ金属リン酸塩0.1〜10質量部の含有割合とすることが、排水に含まれるふっ素、ほう素、砒素、セレンの溶出量を一律排水基準未満に低減する点及び経済性の点で好ましい。硫酸アルミニウム、石灰の含有量が少なすぎると、有害物質の不溶化効果が低下する。また、ふっ素またはほう素の含有量が特に多い排水を処理する場合は石灰の配合量を多目にすると混合後の経過時間が短くても良好な不溶化効果が得られるが、通常は50質量部以下の配合量で十分である。また、アルカリ金属リン酸塩の含有量が少なすぎると、十分な不溶化効果を得るために必要な時間が長くなる傾向がある。
【0021】
本発明の排水処理剤にセメントを配合すると、不溶化したふっ素、ほう素及び砒素及びセレンの再溶出をより効果的に抑制することができる。好ましくは、カルシウムアルミネート100質量部に対してセメントを200〜5000質量部含有するのが良く、より好ましい含有割合は1000〜2500質量部である。
【0022】
排水に対する本発明の排水処理剤の添加量は排水中の有害物質の濃度によるが、排水1Lあたり概ね10g以下、特に1〜6gの添加量で十分な不溶化効果を発揮する。
【0023】
本発明の排水処理剤の使用方法は特に限定されず、一般的に排水の凝集沈殿処理などで使用される凝集沈殿槽、攪拌ミキサー、フィルタープレス等の装置を用いて、排水と排水処理剤との混合および固液分離を行うことができる。本発明の排水処理剤は排水に添加・混合後してから短時間で不溶化効果を発揮するため、混合後の時間を長く設ける必要なく固液分離の工程に移ることができる。添加混合後から固液分離までの時間は3〜20分間で十分である。また、本発明の排水処理剤を用いて形成された有害物質の不溶化物は再溶出の恐れが少ないため、廃棄物として埋め立などの処分を行う場合に環境安全性を保つことができる。
【実施例】
【0024】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0025】
(模擬排水)
関東化学社製のふっ素、ほう素、砒素、セレンの標準液(濃度1000mg/L)を使用して表3に示す模擬排水を作成した。
【0026】
【表3】
【0027】
(A)カルシウムアルミネート
CaO原料としてCaO含有量97質量%の生石灰(粉末試薬)、Al
2O
3原料としてバン土頁岩(Al
2O
3含有量88質量%、Fe
2O
3含有量1質量%)、Fe
2O
3原料としてヘマタイト(Al
2O
3含有量3質量%、Fe
2O
3含有量93質量%)を用い、表4に示す配合で混合し、電気炉を用いて1550±50℃で2時間加熱した。加熱後は、常温近傍まで炉内で自然冷却(徐冷)したクリンカと、1550℃前後から炉外に取り出し、直ちに冷却用圧搾空気を吹き付けて急冷したクリンカを得た。これらのクリンカについては、粉末エックス線回折によって生成結晶相の存在量を定量し、残部をガラス相とみなしてガラス相生成量を計算し、クリンカ総量との比(質量比)よりクリンカのガラス化率を算定した。この値を表4に示す。これらのクリンカをボールミルでブレーン比表面積5000±500cm
2/gとなるように粉砕して用いた。
【0028】
【表4】
【0029】
(B)硫酸アルミニウム14−18水和物(略号:ALS):関東化学社製 粉末試薬
(C)酸化カルシウム(略号:CAO):関東化学社製 粉末試薬
(D)リン酸水素二カリウム(略号:PK):関東化学社製 粉末試薬
(E)普通ポルトランドセメント(略号:OPC):太平洋セメント社製
(E)白色ポルトランドセメント(略号:WPC):太平洋セメント社製「ホワイトセメント」
【0030】
表5に示す割合で上記使用材料を配合し、本発明の排水処理剤および比較品の排水処理剤を得た。
【0031】
【表5】
【0032】
(模擬排水中の有害成分濃度の測定)
表3に示す模擬排水1Lに表5に示す排水処理剤を所定量加え、攪拌機(回転数200r.p.m)で5分間または20分間混合し、3分間静置した後に模擬排水を孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過して検液とし、表6に示す方法で有害成分の濃度を測定した。排水処理剤の添加量および有害成分濃度の測定結果を表7に示す。
【0033】
【表6】
【0034】
【表7】
【0035】
(有害成分の不溶化物の再溶出量の測定)
表3に示す模擬排水1Lに排水処理剤を所定量加え、攪拌機(回転数200r.p.m)で20分間混合し、3分間静置後に模擬排水を孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過して、固体状の試料(有害成分の不溶化物)を得た。該試料を温度20℃、湿度60%の環境で保管し、1ヶ月経過後に環境庁告示第46号に準じた方法で、ふっ素、ほう素、砒素、セレンの溶出量(不溶化物の再溶出量)を測定した。排水処理剤の添加量および不溶化物の再溶出量を表9に示す。
〔環境庁告示第46号に準じた溶出量測定方法〕
(1)試料を粗砕し、ふるい2mm通過分を採取混合する。
(2)容積1000mLのポリ容器に試料50gを計りとり、溶媒(純水1Lに0.5mol塩酸を加えてpH6.1に調整したもの)500gを加え、振とう機(振とう回数200回/分)で6時間振とうする。
(3)ポリ容器を30分静置した後、試料液の上澄みを孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過して検液とする。
(4)表8に示す方法で、採取した検液中の有害成分濃度(溶出量)を測定した。
【0036】
【表8】
【0037】
【表9】
【0038】
表7の結果より、本発明の排水処理剤を使用した場合、混合時間5分間で排水中のふっ素、ほう素、砒素、セレンの濃度が水質汚濁防止法に定められている一律排水基準未満に低減されており、有害物質に対する不溶化効果が極めて短時間で発揮されていることが分かる。一方、比較例として示した排水処理剤(比較品1〜9)を使用した場合は、本発明の排水処理剤に比べてふっ素、ほう素、砒素、セレンの濃度の低下が少なく、これら有害物質に対する不溶化効果が低いことが分かる。比較品10の排水処理剤では混合期間を20分間としたときのふっ素濃度が一律排水基準未満に抑制されているものの、ほう素、砒素、セレンの溶出量は一律排水基準を超過しており、これらの有害成分を含む排水を処理するには性能が不十分である。
【0039】
表7の結果より、結晶質のカルシウムアルミネート(CA-1)を用いた発明の排水処理剤(本発明1)を使用した場合は、非晶質カルシウムアルミネート(CA-2)を用いて配合割合が同一の本発明の排水処理剤(本発明2)を使用したときに比べてふっ素、ほう素、砒素、セレンの不溶化効果が低くなっており、カルシウムアルミネートとしては非晶質のものが好ましいことが分かる。
【0040】
表7の結果より、普通ポルトランドセメント(OPC)を用いた本発明の排水処理剤(本発明3)を使用した場合は、白色ポルトランドセメント(WPC)を使用して配合割合が同一の本発明の排水処理剤(本発明6)を使用したときに比べて排水中のセレン濃度が高くなっており、セメントとしては白色ポルトランドセメントが好ましいことが分かる。
【0041】
表7の結果より、本発明の排水処理剤は、石灰(酸化カルシウム)の配合量を増やすと有害物質に対する不溶化効果が向上することが分かる。また、本発明の排水処理剤は、リン酸塩の配合量を増やすと不溶化効果が向上し、混合時間が短くても排水中の有害成分濃度を大幅に低減できることが分かる。
【0042】
表9の結果より、本発明の排水処理剤(本発明品2、5、6、8、9、14、16、17)を使用して得られた有害物質の不溶化物は、温度20℃、湿度60%の環境で1ヶ月間保管した後も、ふっ素、ほう素、砒素、セレンの溶出量が土壌環境基準(環境庁告示第46号)の規定値未満に抑制されており、有害物質が再溶出する危険性が少ないことが分かる。一方、比較例として示した排水処理剤(比較品6、9、10)を使用して得られた有害物質の不溶化物は、1ヶ月保管後のふっ素、ほう素、砒素、セレンの溶出量が土壌環境基準(環境庁告示第46号)を大幅に超過していた。また、比較品9および10を使用して得た不溶化物はふっ素、ほう素、砒素、セレンの溶出量が保管前より僅かに低下しているが、依然として土壌環境基準を超過していた。