特許第5887128号(P5887128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887128
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】地中熱交換器の設置方法
(51)【国際特許分類】
   F24J 3/08 20060101AFI20160303BHJP
   E02D 5/30 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   F24J3/08
   E02D5/30 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-278194(P2011-278194)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-130312(P2013-130312A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】石原 次男
(72)【発明者】
【氏名】石沢 亨
(72)【発明者】
【氏名】古俣 優
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】川原井 大
(72)【発明者】
【氏名】岡村 和哉
【審査官】 渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−292056(JP,A)
【文献】 特開2010−265666(JP,A)
【文献】 特開2001−303570(JP,A)
【文献】 特開平04−302616(JP,A)
【文献】 特開平08−029079(JP,A)
【文献】 特開2003−130471(JP,A)
【文献】 特開2002−235957(JP,A)
【文献】 特開2009−228419(JP,A)
【文献】 特開2002−242185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24J 3/00− 3/08
E02D 5/30
E02D 9/00
E02D11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中熱交換器を地中に設置する方法であって、
前記地中に埋設された既存杭の少なくとも一部を、当該地中から撤去することにより、前記地中熱交換器を挿入可能な中空部を前記地中に形成する中空部形成工程と、
前記中空部形成工程によって形成された前記中空部に、前記地中熱交換器を挿入する地中熱交換器挿入工程と、
前記地中熱交換器挿入工程によって前記地中熱交換器を挿入した前記中空部に、充填材を充填する充填材充填工程と、
を含む地中熱交換器の設置方法。
【請求項2】
前記中空部形成工程において、前記既存杭の外周部を前記地中に残存させるように当該既存杭の中心部を削孔することにより、当該既存杭の外周部の内部に前記中空部を形成し、
前記地中熱交換器挿入工程において、前記中空部形成工程において前記地中に残存された前記既存杭の外周部の内部に形成された前記中空部に、前記地中熱交換器を挿入する、
請求項1に記載の地中熱交換器の設置方法。
【請求項3】
前記中空部形成工程において、
前記既存杭が埋設された前記地中に、当該既存杭に対して同心状となる状態でかつ当該既存杭の側面を囲繞する状態となるように、中空管を前記地中に打設した後に、
前記既存杭の全体を前記地中から引き抜くことにより、前記中空管の内部に前記中空部を形成し、
前記地中熱交換器挿入工程において、前記中空部形成工程において打設された前記中空管の内部の前記中空部に、前記地中熱交換器を挿入する、
請求項1に記載の地中熱交換器の設置方法。
【請求項4】
前記地中熱交換器挿入工程の前に、前記地中熱交換器の少なくとも側面に重りを装着する重り装着工程を含み、
前記地中熱交換器挿入工程において、前記中空部に、前記重り装着工程で重りが装着された前記地中熱交換器を挿入する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の地中熱交換器の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中熱交換器の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中熱エネルギーを利用する設備の一つとして、地中熱交換器が実用化されている。この地中熱交換器は、地中に埋設された状態で当該地中熱交換器の内部に熱媒体を循環させることが可能なように構成されており、熱媒体にて回収した地中熱を地上において冷暖房等に利用することができる。
【0003】
従来、このような地中熱交換器を地中に埋設するためには、建築構造物の基礎杭の内部に地中熱交換器を予め配設しておき、この基礎杭を地中に打設することが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−69507号公報
【特許文献2】特開2008−96063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、基礎杭を地中に打設するために、地中に新規な杭孔を削孔する必要があり、削孔用重機が必要になったり、他の作業との調整を行う必要が生じたりする等、地中熱交換器の設置の手間やコストを上昇させる原因になっていた。
あるいは、上記従来の方法では、基礎杭に地中熱交換器を配設するために、基礎杭の形状を本来の構造体としての形状から変形させる必要があり、基礎杭の設計や製造の手間やコストを上昇させる原因になっていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、地中に新規な杭孔を削孔する必要性を無くすことにより、地中熱交換器の設置の手間やコストを低減することができる、地中熱交換器の設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の地中熱交換器の設置方法は、地中熱交換器を地中に設置する方法であって、前記地中に埋設された既存杭の少なくとも一部を、当該地中から撤去することにより、前記地中熱交換器を挿入可能な中空部を前記地中に形成する中空部形成工程と、前記中空部形成工程によって形成された前記中空部に、前記地中熱交換器を挿入する地中熱交換器挿入工程と、前記地中熱交換器挿入工程によって前記地中熱交換器を挿入した前記中空部に、充填材を充填する充填材充填工程とを含む。
【0008】
請求項2に記載の地中熱交換器の設置方法は、請求項1に記載の地中熱交換器の設置方法において、前記中空部形成工程において、前記既存杭の外周部を前記地中に残存させるように当該既存杭の中心部を削孔することにより、当該既存杭の外周部の内部に前記中空部を形成し、前記地中熱交換器挿入工程において、前記中空部形成工程において前記地中に残存された前記既存杭の外周部の内部に形成された前記中空部に、前記地中熱交換器を挿入する。
【0009】
請求項3に記載の地中熱交換器の設置方法は、請求項1に記載の地中熱交換器の設置方法において、前記中空部形成工程において、前記既存杭が埋設された前記地中に、当該既存杭に対して同心状となる状態でかつ当該既存杭の側面を囲繞する状態となるように、中空管を前記地中に打設した後に、前記既存杭の全体を前記地中から引き抜くことにより、前記中空管の内部に前記中空部を形成し、前記地中熱交換器挿入工程において、前記中空部形成工程において打設された前記中空管の内部の前記中空部に、前記地中熱交換器を挿入する。
【0010】
請求項4に記載の地中熱交換器の設置方法は、請求項1から3のいずれか一項に記載の地中熱交換器の設置方法において、前記地中熱交換器挿入工程の前に、前記地中熱交換器の少なくとも側面に重りを装着する重り装着工程を含み、前記地中熱交換器挿入工程において、前記中空部に、前記重り装着工程で重りが装着された前記地中熱交換器を挿入する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の地中熱交換器の設置方法によれば、既存杭の少なくとも一部を地中から撤去することにより形成された中空部に、地中熱交換器を挿入するので、従来のように地中熱交換器を挿入するための新規な杭孔を削孔する必要がなくなり、削孔用重機が不要になると共に他の作業との調整を行うことが不要になるため、地中熱交換器の設置の手間やコストを低減することができる。また、基礎杭に地中熱交換器を配設する必要がないため、基礎杭の設計や製造の手間やコストを低減することができる。また、既存杭を地中から引き抜く場合であっても、この引き抜きのための杭抜き機としては、新築建物の干渉する既存杭を引き抜くための杭抜き機を利用することができるので、杭抜き機を新規に準備する手間やコストが不要になる。
【0012】
請求項2に記載の地中熱交換器の設置方法によれば、既存杭の外周部を地中に残存させるように当該既存杭の中心部を削孔することにより、当該既存杭の外周部の内部に中空部を形成するので、新規な中空管等の打設を一切行う必要がなくなり、地中熱交換器の設置の手間やコストを一層低減することができる。
【0013】
請求項3に記載の地中熱交換器の設置方法によれば、中空管を地中に打設し、既存杭の全体を地中から引き抜くことにより、中空管の内部に前記中空部を形成するので、既存杭がその中心部のみを削孔することができないような杭であった場合でも、中空管を打設して既存杭を引き抜くことで中空部を形成できる。
【0014】
請求項4に記載の地中熱交換器の設置方法によれば、重りが装着された地中熱交換器を挿入するので、地中熱交換器の浮力を低減でき、中空部の泥水等が貯まっている場合にも地中熱交換器を確実に挿入することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態1に係る地中熱交換器の正面図である。
図2】実施の形態1に係る既存杭の縦断面図である。
図3】中空部形成工程により形成された中空部を示す縦断面図である。
図4】地中熱交換器挿入工程により地中熱交換器が挿入された中空部を示す縦断面図である。
図5】充填材充填工程により充填材が充填された中空部を示す縦断面図である。
図6】実施の形態2に係る既存杭の縦断面図である。
図7】中空部形成工程により中空管が打設された既存杭を示す縦断面図である。
図8】中空部形成工程により形成された中空部を示す縦断面図である。
図9】地中熱交換器挿入工程により地中熱交換器が挿入された中空部を示す縦断面図である。
図10】充填材充填工程により充填材が充填された中空部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る地中熱交換器の設置方法の各実施の形態を詳細に説明する。ただし、各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
〔実施の形態1〕
最初に、実施の形態1について説明する。この形態は、既存杭の外周部を地中に残存させるように当該既存杭の中心部を削孔することにより、当該既存杭の外周部の内部に中空部を形成する形態である。
【0018】
(構成)
最初に、本実施の形態に係る地中熱交換器の構成について説明する。図1は、地中熱交換器の正面図である。この地中熱交換器1は、地上と地中との相互間に熱媒体(例えば、水や不凍液使用)を循環させることにより、熱媒体にて地中熱を回収するためのものであって、往路用パイプ2、復路用パイプ3、接続パイプ4、及び重り5を備えて構成されている。
【0019】
往路用パイプ2は、熱媒体を地上から地中に搬送するための長尺状の中空管である。復路用パイプ3は、熱媒体を地中から地上に搬送するための長尺状の中空管である。接続パイプ4は、往路用パイプ2の下端部と復路用パイプ3の下端部を相互に接続することにより、往路用パイプ2から復路用パイプ3への熱媒体の流入を可能とする短尺状の中空管である。これら往路用パイプ2、復路用パイプ3、及び接続パイプ4の具体的な材質は任意であるが、例えば、塩化ビニールや架橋ポリエチレンの如き樹脂にて形成される。図1には、往路用パイプ2と復路用パイプ3をそれぞれ1本ずつ示すが、これらを複数本ずつ設けてもよい。なお、これら往路用パイプ2、復路用パイプ3、及び接続パイプ4については、公知のものを使用することができる。
【0020】
重り5は、地中熱交換器1の浮力を低減することにより、地中熱交換器1を水中に挿入可能とするものである。この重り5の具体的な構成は任意であるが、本実施の形態においては、往路用パイプ2及び復路用パイプ3の下方部(これら往路用パイプ2の下端部、復路用パイプ3の下端部、及び接続パイプ4を含む部分)を囲繞するモルタルとして形成されている。例えば、往路用パイプ2及び復路用パイプ3の下方部を型枠で囲繞し、この型枠にモルタルを打設して固化させることで、重り5を形成することができる。この重り5の外形は、後述する中空部に当該重り5を挿入可能なように決定される。また、この重り5の体積や重さは、地中熱交換器1の浮力を低減することにより、地中熱交換器1を水中に挿入可能となるように決定される。このため、後述する中空部に貯まっている水の量や、当該中空部に挿入する往路用パイプ2及び復路用パイプ3の長さや比重に応じて、重り5の体積や重さを調整することができる。例えば、後述する中空部の深さ=約20mであり、往路用パイプ2及び復路用パイプ3の内径=約3cmである場合に、重り5の直径=約20cm、重り5の長さ=約4mである。
【0021】
(既存杭)
次に、このように構成された地中熱交換器1を地中に設置する上での前提となる既存杭(残置杭)の構造について説明する。図2は、既存杭の縦断面図である。既存杭10は、建築物の基礎杭等として地中に打設されたものであり、建築物の敷地内に複数配置されている。本実施の形態においては、建築物の全部又は少なくとも一部が撤去されており、当該撤去された部分に対応する既存杭10に対して地上からアクセスすることが可能となっていることを前提としている。すなわち、近年の新築工事は既存建物解体後に行われることが多いが、既存建物解体後であっても、既存建物の既存杭10は環境配慮の社会的ニーズから処分していないことが多いため、このような既存杭10を利用することを前提としている。例えば、地上からアクセス可能となっている既存杭10が複数存在する場合、所要の熱交換量に応じた数の既存杭10を利用して、地中熱交換器1が設置される。また、このように所要の熱交換量に応じた数の既存杭10を選択する際には、新設の建築物のために新規に打設される新設杭と干渉しないように選択が行われ、かつ、空調機器等の熱負荷機器までの距離が極力短くなるように選択が行われることが好ましい。
【0022】
この既存杭10は、本実施の形態においては、外周部11と中心部12の2層構造にて形成された円筒杭となっている。例えば、外周部11は、RC(鉄筋コンクリート)にて形成された中空円筒体であって、工場にて予め製造されて、建築現場に搬送されて地中に打設されている。中心部12は、モルタルやコンクリートにて形成された中実円筒体であり、外周部11が地中に打設された後に、当該外周部11の内部にモルタルやコンクリートを打設して固化させることによって形成されている。
【0023】
(設置方法)
次に、このように構成された地中熱交換器1を地中に設置するための方法について説明する。この設置方法は、中空部形成工程、重り装着工程、地中熱交換器挿入工程、及び充填材充填工程を含む。以下、各工程について順次説明する。図3図5は、これら各工程を示す縦断面図である。
【0024】
(設置方法−中空部形成工程)
中空部形成工程は、地中に埋設された既存杭10の少なくとも一部を、当該地中から撤去することにより、地中熱交換器1を挿入可能な中空部13を地中に形成する工程である。具体的には、図3に示すように、既存杭10の外周部11を地中に残存させるように、当該既存杭10の中心部12のみを公知の削孔機にて削孔することにより、当該既存杭10の外周部11の内部に中空部13を形成する。
【0025】
(設置方法−重り装着工程)
重り装着工程は、地中熱交換器1の少なくとも下端部に重り5を装着する工程である。例えば、上述したように、往路用パイプ2及び復路用パイプ3の下方部を型枠で囲繞し、この型枠にモルタルを打設して固化させることで、重り5の形成と、地中熱交換器1への重り5の装着とを、同時に行う。このような工程を行うことにより、図1に示す地中熱交換器1が構成される。この重り装着工程は、地中熱交換器挿入工程の前に行われればよく、中空部形成工程との前後関係は任意である。
【0026】
(設置方法−地中熱交換器挿入工程)
地中熱交換器挿入工程は、中空部形成工程によって形成された中空部13に、地中熱交換器1を挿入する工程である。より具体的には、図4に示すように、中空部形成工程において地中に残存された既存杭10の外周部11の内部に形成された中空部13に、地中熱交換器1を挿入する。この際、重り装着工程で装着された重り5を先頭として(往路用パイプ2及び復路用パイプ3の下端部を先頭として)、地中熱交換器1を中空部13に挿入し、重り5が中空部13の底部付近に到達した時点で、地中熱交換器1を仮固定する。このことにより、重り5によって地中熱交換器1の浮力を低減することができ、仮に中空部13に泥水等が貯まっている場合であっても、地中熱交換器1を中空部13に挿入することができる。
【0027】
(設置方法−充填材充填工程)
充填材充填工程は、地中熱交換器挿入工程によって地中熱交換器1を挿入した中空部13に、充填材を充填する工程である。この充填材6は、図5に示すように、中空部形成工程において地中に残存された既存杭10の外周部11の内面と、地中熱交換器1の内部の往路用パイプ2及び復路用パイプ3の外面との相互間に、極力隙間が生じないように充填される。この充填材6の具体的な種類は任意であるが、地中熱交換器1における地中熱交換を促進する熱伝導率の高い材料であることが好ましい。例えば、充填材6としては、流動化処理土、ベントナイト、モルタル等を使用することができる。流動化処理土は、建設残土等に泥水や固化材等を配合することにより形成されるもので、高い流動性を有するために往路用パイプ2及び復路用パイプ3の周囲の細部に入り込み、熱交換を一層促進することができる点で好ましい。
【0028】
(設置方法−その他)
このように地中熱交換器1を設置した後、地中に埋設されることなく地表に残っている往路用パイプ2及び復路用パイプ3を、空調機器等の熱負荷機器(図示せず)まで引き込んで接続する。
【0029】
(実施の形態1の効果)
これまで説明したように、本実施の形態1によれば、既存杭10の少なくとも一部を地中から撤去することにより形成された中空部13に、地中熱交換器1を挿入するので、従来のように地中熱交換器1を挿入するための新規な杭孔を削孔する必要がなくなり、削孔用重機が不要になると共に他の作業との調整を行うことが不要になるため、地中熱交換器1の設置の手間やコストを低減することができる。また、基礎杭に地中熱交換器1を配設する必要がないため、基礎杭の設計や製造の手間やコストを低減することができる。また、既存杭10を地中から引き抜く場合であっても、この引き抜きのための杭抜き機としては、新築建物の干渉する既存杭10を引き抜くための杭抜き機を利用することができるので、杭抜き機を新規に準備する手間やコストが不要になる。
【0030】
また、既存杭10の外周部11を地中に残存させるように当該既存杭10の中心部12を削孔することにより、当該既存杭10の外周部11の内部に中空部13を形成するので、新規な中空管等の打設を一切行う必要がなくなり、地中熱交換器1の設置の手間やコストを一層低減することができる。
【0031】
また、重り5が装着された地中熱交換器1を挿入するので、地中熱交換器1の浮力を低減でき、中空部13の泥水等が貯まっている場合にも地中熱交換器1を挿入することが可能になる。
【0032】
〔実施の形態2〕
次に、実施の形態2について説明する。この形態は、既存杭の全体を地中から引き抜くことにより、中空管の内部に中空部を形成する形態である。ただし、実施の形態2において特に説明なき構成及び工程については実施の形態1と同様であり、実施の形態1と同じ構成及び工程については、必要に応じて、実施の形態1で使用したものと同じ符号を付することでその説明を省略する。
【0033】
(既存杭)
地中熱交換器1を地中に設置する上での前提となる既存杭の構造について説明する。図6は、既存杭の縦断面図である。この既存杭20は、本実施の形態においては、1層構造にて形成された円筒杭となっている。例えば、RC(鉄筋コンクリート)等にて形成された中実円筒体であって、工場にて予め製造されて、建築現場に搬送されて地中に打設されている。
【0034】
(設置方法)
次に、このように構成された地中熱交換器1を地中に設置するための方法について説明する。この設置方法は、中空部形成工程、重り装着工程、地中熱交換器挿入工程、及び充填材充填工程を含む。以下、各工程について順次説明する。ただし、重り装着工程は、実施の形態1と同様に行うことができるので、その説明を省略する。図7図10は、これら各工程を示す縦断面図である。
【0035】
(設置方法−中空部形成工程)
中空部形成工程においては、具体的には、図7に示すように、既存杭20が埋設された地中に、当該既存杭20に対して同心状となる状態でかつ当該既存杭20の側面を囲繞する状態となるように、中空管(ケーシング)21を地中に打設する。具体的には、既存杭20の外径よりやや広い内径を有する中空管21であって、既存杭20と同程度の長さの中空管21を準備し、この中空管21を公知の打設機によって打設する。この際、既存杭20の中心軸と中空管21の中心軸とが相互にほぼ一致するような位置で、中空管21を打設する。このように中空管21を配置することにより、既存杭20を当該既存杭20の周囲の地下土から切り離すことができ、既存杭20の引き抜きが容易になる。そして、この状態で、公知の杭抜機を用いて既存杭20の全体を地上に引き抜くことにより、図8に示すように、地中には中空管21のみを残し、この中空管21の内部空間として中空部22を形成する。
【0036】
(設置方法−地中熱交換器挿入工程)
地中熱交換器挿入工程においては、中空部形成工程において打設された中空管21の内部の中空部22に、地中熱交換器1を挿入する。より具体的には、図9に示すように、中空部形成工程において地中に打設された中空管21の内部の中空部22に、地中熱交換器1を挿入する。この際、重り装着工程で装着された重り5を先頭として(往路用パイプ2及び復路用パイプ3の下端部を先頭として)、地中熱交換器1を中空部22に挿入し、重り5が中空部22の底部付近に到達した時点で、地中熱交換器1を仮固定する。
【0037】
(設置方法−充填材充填工程)
充填材充填工程において、充填材6は、図10に示すように、中空部形成工程において打設された中空管21の内面と、地中熱交換器1の内部の往路用パイプ2及び復路用パイプ3の外面との相互間に、極力隙間が生じないように充填される。
【0038】
(設置方法−その他)
このように地中熱交換器1を設置した後、地中に埋設されることなく地表に残っている往路用パイプ2及び復路用パイプ3を、空調機器等の熱負荷機器まで引き込んで接続する。
【0039】
(実施の形態2の効果)
本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果に加えて、中空管21を地中に打設し、既存杭20の全体を地中から引き抜くことにより、中空管21の内部に前記中空部22を形成するので、既存杭20がその中心部12のみを削孔することができないような杭であった場合でも、中空管21を打設して既存杭20を引き抜くことで中空部22を形成できる。
【0040】
〔実施の形態に対する変形例〕
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0041】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。例えば、地中に何らかの杭孔を削孔する必要性がある場合であっても、従来よりも地中熱交換器1の設置の手間やコストをわずかでも低減できている場合や、従来と同程度の設置の手間やコストが生じる場合であっても、従来とは異なる方法で地中熱交換器1を設定できている場合には、本発明の課題が解決されている。
【0042】
(既存杭について)
既存杭10、20の構成は任意であり、当該構成に応じて実施の形態1又は実施の形態2のいずれかの方法を採用することができる。例えば、実施の形態1のように既存杭10の一部のみを地中に残して利用する形態としては、既存杭10が、中空鋼管として構成された外周部11と、この外周部11に充填等された土等から構成された中心部12を備える場合に、中心部12のみを掘削して外周部11を残してもよい。また、実施の形態1のように、既存杭10が外周部11と中心部12の2層構造にて形成された円筒杭となっている場合であっても、当該既存杭10を複数上下に連接して配置されている場合には、実施の形態1のような方法では、下方の既存杭10の中心部12を削孔することが困難である場合が考えられ、この場合には、実施の形態2のような方法でこれら複数の既存杭10を全体的に引き抜いたり、上方の既存杭10のみを引き抜いた後に、下方の既存杭10については中心部12のみを削孔するようなことも考えられる。
【0043】
(新規杭について)
同一の建設現場において、本発明に係る設置方法にて設置された地中熱交換器1と、公知の方法で設置された地中熱交換器1とを、併存させてもよく、両者の割合や配置位置は、新設の建築物のために新規に打設される新設杭との干渉や、空調機器等の熱負荷機器までの距離、空調機器等の熱負荷を処理するために必要になる地中熱交換器1の台数等を考慮して、決定することができる。
【0044】
(地中熱交換器について)
地中熱交換器1の具体的な構造については、公知の任意の構造を採用することができる。
【0045】
(重りについて)
中空部13、22に水が全く溜まっていない場合には、重り5を省略することができる。また、往路用パイプ2や復路用パイプ3を比較的に比重が重い材料で形成することで、これら往路用パイプ2や復路用パイプ3の浮力を低減できる場合にも、重り5を省略することができる。また、重り5は、他の構造や方法で形成したり装着したりしてもよく、例えば、金属製の重り5を、往路用パイプ2や復路用パイプ3の下方部にワイヤー等にて接続してもよい。
(付記)
付記1の地中熱交換器の設置方法は、地中熱交換器を地中に設置する方法であって、前記地中に埋設された既存杭の少なくとも一部を、当該地中から撤去することにより、前記地中熱交換器を挿入可能な中空部を前記地中に形成する中空部形成工程と、前記中空部形成工程によって形成された前記中空部に、前記地中熱交換器を挿入する地中熱交換器挿入工程と、前記地中熱交換器挿入工程によって前記地中熱交換器を挿入した前記中空部に、充填材を充填する充填材充填工程とを含む。
付記2の地中熱交換器の設置方法は、付記1に記載の地中熱交換器の設置方法において、前記中空部形成工程において、前記既存杭の外周部を前記地中に残存させるように当該既存杭の中心部を削孔することにより、当該既存杭の外周部の内部に前記中空部を形成し、前記地中熱交換器挿入工程において、前記中空部形成工程において前記地中に残存された前記既存杭の外周部の内部に形成された前記中空部に、前記地中熱交換器を挿入する。
付記3の地中熱交換器の設置方法は、付記1に記載の地中熱交換器の設置方法において、前記中空部形成工程において、前記既存杭が埋設された前記地中に、当該既存杭に対して同心状となる状態でかつ当該既存杭の側面を囲繞する状態となるように、中空管を前記地中に打設し、前記既存杭の全体を前記地中から引き抜くことにより、前記中空管の内部に前記中空部を形成し、前記地中熱交換器挿入工程において、前記中空部形成工程において打設された前記中空管の内部の前記中空部に、前記地中熱交換器を挿入する。
付記4の地中熱交換器の設置方法は、付記1から3のいずれか一項に記載の地中熱交換器の設置方法において、前記地中熱交換器挿入工程の前に、前記地中熱交換器の少なくとも下端部に重りを装着する重り装着工程を含み、前記地中熱交換器挿入工程において、前記中空部に、前記重り装着工程で重りが装着された前記地中熱交換器を挿入する。
(付記の効果)
付記1に記載の地中熱交換器の設置方法によれば、既存杭の少なくとも一部を地中から撤去することにより形成された中空部に、地中熱交換器を挿入するので、従来のように地中熱交換器を挿入するための新規な杭孔を削孔する必要がなくなり、削孔用重機が不要になると共に他の作業との調整を行うことが不要になるため、地中熱交換器の設置の手間やコストを低減することができる。また、基礎杭に地中熱交換器を配設する必要がないため、基礎杭の設計や製造の手間やコストを低減することができる。また、既存杭を地中から引き抜く場合であっても、この引き抜きのための杭抜き機としては、新築建物の干渉する既存杭を引き抜くための杭抜き機を利用することができるので、杭抜き機を新規に準備する手間やコストが不要になる。
付記2に記載の地中熱交換器の設置方法によれば、既存杭の外周部を地中に残存させるように当該既存杭の中心部を削孔することにより、当該既存杭の外周部の内部に中空部を形成するので、新規な中空管等の打設を一切行う必要がなくなり、地中熱交換器の設置の手間やコストを一層低減することができる。
付記3に記載の地中熱交換器の設置方法によれば、中空管を地中に打設し、既存杭の全体を地中から引き抜くことにより、中空管の内部に前記中空部を形成するので、既存杭がその中心部のみを削孔することができないような杭であった場合でも、中空管を打設して既存杭を引き抜くことで中空部を形成できる。
付記4に記載の地中熱交換器の設置方法によれば、重りが装着された地中熱交換器を挿入するので、地中熱交換器の浮力を低減でき、中空部の泥水等が貯まっている場合にも地中熱交換器を確実に挿入することが可能になる。
【符号の説明】
【0046】
1 地中熱交換器
2 往路用パイプ
3 復路用パイプ
4 接続パイプ
5 重り
6 充填材
10、20 既存杭
11 外周部
12 中心部
13、22 中空部
21 中空管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10