(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粘着部材は、スチレンブタジエンゴム粘着剤で作製され、前記粘着力を有する粘着剤層が基材の表面に配置された粘着テープ又は粘着シートである請求項1に記載の粘着性表面の異物除去回復方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法に用いられる保持治具に粘着保持される被粘着物は、被粘着物を製造可能な被粘着物用部材、例えば、小型器具用部材、小型機械要素用部材及び小型電子部品用部材等が挙げられる。また、被粘着物の製造には被粘着物の搬送工程等も含まれるから、被粘着物は被粘着物そのもの、例えば、小型器具、小型機械要素及び小型電子部品等も含まれる。したがって、この発明においては、被粘着物と被粘着物用部材とは明確に区別される必要はない。これら被粘着物の中でも、この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法に用いられる保持治具に好適に粘着保持される被粘着物として小型電子部品及び/又は小型電子部品用部材等が挙げられる。小型電子部品及び小型電子部品用部材としては、例えば、コンデンサチップ(チップコンデンサとも称されることがある。)、インダクタチップ、抵抗体チップ、FPC、ウエハー等の完成品若しくは未完成品等、及び/又は、これらを製造可能な例えば、角柱体若しくは円柱体、一端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体、両端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体等が挙げられる。
【0015】
この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法に用いられる保持治具について説明する。この保持治具は公知のものを特に制限されることなく使用することができ、例えば、特許文献1の「保持治具」及び特許文献2の「本願発明」等が挙げられ、具体的には、板状又は無端状の治具本体と、治具本体の表面に配置され、被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面を有する弾性粘着部材とを備えた保持治具が挙げられる。
【0016】
このような保持治具の一例として
図1に示される保持治具1について説明する。この保持治具1は、治具本体2と、治具本体2の表面に配置され、被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面3aを有する弾性粘着部材3とを備えている。
【0017】
治具本体2は、平滑な表面を有する盤状体であり、その表面で弾性粘着部材3を支持する。治具本体2は弾性粘着部材3を支持することができる限り種々の設計変更に基づく各種の形態にすることができ、弾性粘着部材3を支持可能な材料で形成されている。このような材料としては、例えば、金属及び樹脂を挙げることができる。
【0018】
弾性粘着部材3は、被粘着物の一平面に接して多数の被粘着物を粘着により保持することができるように設計され、治具本体2の表面に治具本体2よりも一回り小さな方形を成す盤状体に成形されている。この弾性粘着部材3は、例えば、後述する粘着力を有する粘着性材料又はこの粘着性材料の硬化物で形成されており、表面全体が被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面になっている。
【0019】
弾性粘着部材3の粘着性表面3aは、被粘着物を粘着保持することのできる粘着力を有しており、例えば、後述する信越ポリマー法による粘着力が1〜60g/mm
2のであるがよく、7〜60g/mm
2であるのがよい。信越ポリマー法は後述する通りであるが、粘着性表面3aの粘着力を測定する場合には押込み荷重を25g/mm
2にする。この粘着性表面3aは、被粘着物を粘着保持する領域が通常平坦になっており、粘着保持する被粘着物の寸法等に応じて適宜の表面粗さを有している。粘着性表面3aは、例えば、十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)が0.5〜3μmであるのが好ましく、0.5〜2μmであるのが特に好ましい。この十点平均粗さRzは、カットオフ0.8mm、測定長さ2.4mm等の条件で測定でき、複数個所の測定値を算術平均した値とすることができる。また、粘着性表面3aすなわち弾性粘着部材3の硬度(JIS K6253[デュロメータE])は5〜60程度であるのが好ましい。
【0020】
弾性粘着部材3は、接着剤層若しくはプライマー層によって、弾性粘着部材3の粘着力によって、又は、固定具等によって、治具本体2の表面に固定されていればよく、保持治具1において、弾性粘着部材3は接着剤層若しくはプライマー層を介して治具本体2の表面に固定されている。
【0021】
弾性粘着部材3は、前記粘着力を発揮することのできる粘着性材料又はこの粘着性材料の硬化物で形成されていればよく、粘着材料として、例えば、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴム、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴムを含有するフッ素系組成物、シリコーン樹脂又はシリコーンゴム、シリコーン樹脂又はシリコーンゴムを含有するシリコーン組成物、ウレタン系エラストマー、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマー等が挙げられる。この中でも、シリコーンゴム、及び/又は、シリコーンゴムを含有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物及び過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物が好ましい。前記付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物としては、例えば、特開2008−091659号公報に記載の、シリコーン生ゴム(a)と架橋成分(b)と粘着力向上剤(c)と触媒(d)とシリカ系充填材(e)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。前記過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物としては、例えば、特開2008−091659号公報に記載の、シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)とシリカ系充填材(e)と有機過酸化物(f)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。
【0022】
この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法に用いられる保持治具は、粘着性表面に被粘着物の破片、粉塵、大気中の埃等の異物が粘着した保持治具、具体的には、被粘着物の製造等に使用され、粘着性表面に被粘着物の破片、粉塵等が粘着した保持治具、大気中で使用、保存又は放置等され、粘着性表面に大気中の埃等が粘着した保持治具等が挙げられる。この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法に用いられる保持治具の一例である保持治具1の粘着性表面3aに異物5が粘着した状態が
図1に示されている。
【0023】
この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法に用いられる保持治具は、前記した通りであり、その粘着性表面に異物が付着している。このような異物は、被粘着物を製造することによって、又は大気中で保存又は放置等することによって、保持治具の粘着性表面に付着する。この保持治具は、被粘着物の製造に1回用いた保持治具であってもよいし、被粘着物の製造に複数回用いた、比較的多数の異物5が粘着している保持治具であってもよい。
図1には、軸線方向の両端部に電極を有するコンデンサチップの製造に1回用いた、粘着性表面3aに異物5が付着した保持治具1を理解しやすくするため誇張した状態が示されている。
【0024】
一般に、粘着性を持つ粘着部材は、これまで、粘着部材に含有されている粘着成分が粘着性表面に移行又は付着してしまうと考えられ、粘着性表面に粘着している異物を除去するのに用いようとさえされてこなかった。ところが、この発明の発明者は、このような考え及び慣行に反してあえて粘着部材を採用してみたところ、粘着部材を形成する成分としてこれまで格別注目されていなかったスチレンブタジエンゴムを採用することによってスチレンブタジエンゴム中の粘着成分が粘着性表面に移行しにくいことに加えて、このような粘着部材で異物を効果的に粘着性表面から除去できることを見出した。この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法に用いられる粘着部材は、粘着性表面3aの1倍を超え3.5倍以下の粘着力(下記信越ポリマー法による)を有している。粘着部材の粘着力が粘着性表面3aの1倍未満であると粘着性表面3aに粘着しているほとんどすべての異物5を粘着性表面3aから脱離させて粘着部材に転写させることができないことがあり、一方、粘着部材の粘着力が粘着性表面3aの3.5倍を超えると粘着性表面3aに粘着しているほとんどすべての異物5を粘着性表面3aから脱離させることができるものの、粘着性表面3a、特に表面状態に大きなダメージを与えてしまい、粘着性表面3aが所期の表面状態を維持できないことがある。粘着性表面3aに与えるダメージが小さく、ほとんどすべての異物5を粘着性表面3aから脱離させることができる点で、粘着部材は粘着性表面3aの1.5倍以上3.5倍以下の粘着力を有しているのが好ましく、2倍以上3.5倍以下の粘着力を有しているのが特に好ましい。具体的には、信越ポリマー法による粘着力は粘着性表面3aとの比が前記範囲内であって87〜109g/mm
2の範囲内にあるのが好ましい。
【0025】
この粘着部材の粘着力は下記粘着力測定方法(信越ポリマー法とも称する。)における粘着力である。具体的には、粘着部材を水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)又は真空吸引チャックプレート等と、測定部先端に、直径10mmの円柱を成したステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意し、この荷重測定装置における吸着固定装置又は真空吸引チャックプレート上に粘着部材を固定し、測定環境を21±1℃、湿度50±5%に設定する。次いで、20mm/minの速度で粘着部材の被測定部位に接触するまで前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子を下降速度10mm/minで下降させ、次いで、この接触子を被測定部位に所定の押込み荷重で被測定部に対して垂直に3秒間押圧する。ここで、前記所定の押込み荷重を25g/mm
2に設定する。次いで、80mm/minの上昇速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる算術平均値を粘着部材の粘着力とする。
【0026】
粘着部材は、ある程度の厚さを有していればよく、例えば、粘着部材が後述する粘着テープ及び粘着シートである場合には総厚が40〜80μmであるのが好ましい。
【0027】
このような粘着力を有する粘着部材は、例えば、保持治具の弾性粘着部材と基本的に同様の弾性粘着部材、粘着テープ、粘着シート等が挙げられ、取扱性の観点からは粘着テープ、粘着シートが好ましく、保持治具を転用してコスト低減及び省資源化の観点からは弾性粘着部材が好ましい。
【0028】
粘着部材は、粘着性表面3a、特にその中の、異物が粘着している表面領域に貼着される部分がスチレンブタジエンゴム粘着剤で作製されており、その全体がスチレンブタジエンゴム粘着剤で作製されていてもよい。このスチレンブタジエンゴム粘着剤としては、具体的には、スチレン及びブタジエンを構成モノマーとする共重合体であって、これらの他に反応性エチレン結合を有するモノマー、例えばイソプレン、エチレン等を構成モノマーとして含有していてもよい。
【0029】
スチレンブタジエンゴムの特性又は物性としては、JIS Z 0237測定法による粘着力が3.3〜5.6N/cmであるのが好ましい。スチレンブタジエンゴムの粘着力は弾性部材の粘着力と基本的に同様であり、具体的には、前記信越ポリマー法による粘着力が87〜109g/mm
2であるのが好ましい。このようなスチレンブタジエンゴム粘着剤はその構成モノマーを含む構成成分が粘着性表面3aに移行又は付着しにくく粘着性表面3aを実質的に汚染することがない。
【0030】
この弾性部材は、伸び(JIS Z 0237)が小さいのが好ましく、具体的には、140〜200%であるのが好ましく、160〜200%であるのが好ましい。弾性部材の伸び(JIS Z 0237)が小さく、特に前記範囲内にあると粘着性表面3aに貼着した弾性部材を剥離するときに弾性部材が伸びにくく粘着性表面3aに与えるダメージを小さくして粘着性表面3aの表面状態を維持できる。弾性部材の伸びはJIS Z 0237に基づいて測定することもでき、またカタログ値を採用することもできる。
【0031】
この弾性部材は、透明又は半透明であると異物5が粘着性表面3aから自身の表面に転写したことを容易に確認できる。この発明において、「透明」及び「半透明」を明確に区別する必要はなく、弾性部材は弾性部材の表面に転写された異物5を弾性部材の裏面から確認できる程度の透明性を有していればよい。
【0032】
粘着部材としての粘着テープ及び粘着シートは、基材と、基材の表面に配置された粘着剤層とを有しているのが好ましい。基材は粘着剤層を保持できればよく、例えば、樹脂製の長尺体又はフィルム等が挙げられる。このような樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン等が挙げられる。この基材は、例えば、厚さが20〜100μmであるのが好ましく、伸び(JIS Z 0237)は120〜200%であるのが好ましく、160〜200%であるのが特に好ましい。基材が120〜200%の伸びを有していると、粘着性表面3aに貼着した粘着テープ又は粘着シートを剥離するときに粘着テープ又は粘着シートが伸びにくく粘着性表面3aに与えるダメージを小さくして粘着性表面3aの表面状態を維持できる。この基材は透明又は半透明であるのが好ましい。粘着剤層は、前記したスチレンブタジエンゴム粘着剤で作製され、前記の粘着力を有している。すなわち、粘着テープ又は粘着シートは基材を有する粘着部材とも称することができる。この粘着材層は、基材の表面全体に配置されてもよく、その一部に配置されてもよい。この粘着剤層は10〜30μmの厚さと前記140〜200%の伸び(JIS Z 0237)を有し、透明又は半透明であるのが好ましい。
【0033】
このような粘着テープとして、例えば、住友スリーエム株式会社製の「スコッチプロボックスシーリングテープ」(基材:ポリプロピレン製、粘着剤:スチレンブタジエンゴム)等が挙げられる。「スコッチプロボックスシーリングテープ」としては、具体的には、商品名「スコッチプロ#369HQ」(信越ポリマー法による粘着力87g/mm
2、JIS Z 0237の接着力3.3N/cm、JIS Z 0237の伸び140%、基材の厚さ25μm、総厚40μm)、商品名「スコッチプロ#370HQ」(信越ポリマー法による粘着力94g/mm
2、JIS Z 0237の接着力3.8N/cm、JIS Z 0237の伸び140%、基材の厚さ30μm、総厚48μm)、商品名「スコッチプロ#372HQ」(信越ポリマー法による粘着力102g/mm
2、JIS Z 0237の接着力4.7N/cm、JIS Z 0237の伸び170%、基材の厚さ40μm、総厚62μm)、商品名「スコッチプロ#375HQ」(信越ポリマー法による粘着力109g/mm
2、JIS Z 0237の接着力5.6N/cm、JIS Z 0237の伸び190%、基材の厚さ50μm、総厚77μm)等が挙げられる。
【0034】
この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法の一例(以下、一方法と称する。)を、図面を参照して、説明する。この一方法においては、粘着性表面3aに異物5が粘着した保持治具1、粘着部材としての粘着テープ10、粘着テープ10を粘着性表面3aに密着させるローラ11をそれぞれ準備する。
【0035】
準備する保持治具1及び粘着テープ10は前記した通りである。ローラ11は、
図2(a)に示されるように、ゴム等で形成された円筒状をなし、その中心軸に回転可能に連結された握部を有している。このローラ11は弾性粘着部材3を損傷させない程度の硬度及び/又は弾性を有しているのが好ましく、その軸線長さは特に限定されないが作業性を考慮すると弾性粘着部材3の一辺の長さと同一又はそれよりも長いのが好ましい。このローラ11は、具体的には、スチレンブタジエンゴムで弾性粘着部材3の一辺の長さよりも長い円筒状に形成されている。
【0036】
この一方法においては、準備した保持治具1の粘着性表面3aに異物5が過度に付着している場合には、容易に除去できる異物5を予め除去する前処理工程を実施するのが好ましい。例えば、前処理工程として、後述する貼着する工程の前に粘着性表面3aで拭う工程が挙げられる。拭う工程は、粘着性表面3aを不織布等で拭くことができればよく、乾式であっても湿式であってもよい。湿式ではある場合には、例えば、洗浄液を不織布等に含浸させて粘着性表面3aを拭く方法、粘着性表面3aに洗浄液を噴射又は供給しつつ不織布等で拭く方法等が挙げられる。洗浄液は、弾性粘着部材3を損傷させない液体であればよく、例えば、水、アルコール、アルコール水等が挙げられる。
【0037】
この一方法においては、保持治具1の粘着性表面3aに準備した粘着テープ10を載置して粘着性表面3a及び粘着テープ10の粘着剤層を密着させる。このとき、粘着テープ10は、粘着性表面3aのうち少なくとも異物5が粘着した表面領域に密着されればよく、
図2に示されるように、粘着性表面3aの全面に粘着テープ10を密着させてもよい。このようにして粘着テープ10と粘着性表面3aとを貼着する工程が終了する。
【0038】
この一方法においては、所望により粘着性表面3aに載置された粘着テープ10を弾性粘着部材3に押圧して粘着性表面3aと粘着剤層とを圧接又は圧着させる工程を実施するのが好ましい。これにより粘着性表面3aに粘着している異物5のほとんどすべてを粘着テープ10の粘着剤層に移行させることができる。この工程は、例えば、
図2(a)に示されるように、粘着性表面3aと粘着テープ10との積層体を粘着テープ10の基材上を
図2(a)の矢印A方向及び/又はその逆方向に沿って準備したローラ11を転動させることで、実施される。このとき、ローラ11は基材をある程度の圧力で弾性粘着部材3に対して押圧するように転動するのが好ましく、押圧力として例えば2.0kg/cm
2にすることができる。
【0039】
この一方法においては、次いで、粘着性表面3aに密着している粘着テープ10を粘着性表面3aから剥離する工程を実施する。この剥離する工程は、例えば、
図2(b)に示されるように、粘着テープ10の一端縁を把持して
図2(b)に示される矢印Bの方向に沿って斜め上方に捲り上げることによって、弾性粘着部材3の一端縁から他端縁に向かって、この例においては
図2(a)の矢印Aを逆方向に粘着テープ10を剥離する。そうすると、粘着テープ10の粘着剤層は前記範囲の粘着力を有しているから、好ましくは粘着テープ10が粘着性表面3aに圧接又は圧着しているから、粘着性表面3aに粘着していた異物5は粘着性表面3aから粘着テープ10の粘着剤層に転写され、粘着性表面3aから剥離される粘着テープ10の粘着剤層と共に粘着性表面3aから除去される。したがって、この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法は粘着性表面の異物除去方法又は異物除脱方法とも称することができる。なお、この剥離する工程において粘着テープ10を博する剥離速度は、特に限定されず、例えば40〜100mm/minとすることができる。
【0040】
また、粘着テープ10の粘着剤層はしたスチレンブタジエンゴム粘着剤で作製されているから、スチレンブタジエンゴム粘着剤中に含まれる粘着成分が粘着性表面3aにほとんど移行せず、粘着性表面3aを、異物5が付着する以前の未汚染状態、例えば製造後の未汚染状態に回復させることができる。
【0041】
この一方法においては、粘着テープ10の粘着剤層は前記したスチレンブタジエンゴム粘着剤で作製されることに加えて前記範囲の粘着力を有しているから、例えば被粘着物を一方の保持治具から移し替えられる他方の保持治具のように、粘着性表面3aが比較的強い粘着力を有していても、粘着性表面3aに大きな損傷又はダメージを与えることがなく、前記貼着する工程及び前記剥離する工程を実施する前の粘着性表面3aの表面状態を保持できる。特に、前記した粘着テープを用いると粘着性表面3aの表面状態を高度に保持できる。このように、一方法の実施前後における粘着性表面3aの表面状態を保持できると、一方法の実施前後において粘着性表面3aの表面粗さ及び粘着力がほとんど変化することがなく、粘着性表面3aを異物除去回復、原状回復させることができる。したがって、この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法は粘着性表面の原状回復方法とも称することができる。
【0042】
また、このように、一方法の実施前後において粘着性表面3aの表面粗さ及び粘着力がほとんど変化することがないから、一方法で異物除去回復された粘着性表面3を有する保持治具1は被粘着物を実質的に同様の保持状態に再度粘着保持させることができる。したがって、異物5が除去された粘着性表面3aは、数百、数千回にわたって被粘着物を粘着保持及び取り外すことができ、この粘着性表面3aを有する保持治具1は高い使用耐久性を発揮する。
【0043】
一方法の実施後における粘着性表面3aの表面状態は、一方法の実施前における粘着性表面3aの前記平坦性すなわち前記十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)を保持しており、その変化量及び変化率は極めて小さい。例えば、この発明において、表面状態の変化量は、被粘着物の寸法等によって一概には言えないが、通常、±3μm程度であればよく、特に縦0.3mm×横0.3mm×高さ0.6mmの被粘着物を起立状態で粘着保持するのに使用する保持治具であれば±2μm程度であるのが好ましい。また、この発明において、表面状態の変化率は、この発明に係る異物除去回復方法を500回実施したときに、この発明に係る異物除去回復方法を500回実施する前の初期十点平均粗さRzとこの発明に係る異物除去回復方法を500回実施した後の実施後十点平均粗さRzとの差(初期十点平均粗さRz−実施後十点平均粗さRz)が初期十点平均粗さRzに対して±150%以内であるのが好ましい。
【0044】
なお、この発明において、この発明に係る異物除去回復方法を実施する前の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)は異物5が粘着する前すなわち保持治具1に被粘着物を粘着保持させる前の粘着性表面3aにおける十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)であり、異物5が粘着した後の粘着性表面3aにおける十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)ではない。
【0045】
一方法の実施後における粘着性表面3aの粘着力は、一方法の実施前における粘着性表面3aの粘着力を保持しており、その変化量及び変化率は極めて小さい。例えば、この発明において、粘着力の変化量は、被粘着物の寸法等によって一概には言えないが、通常、±3g/mm
2程度であればよい。また、この発明において、粘着力の変化率は、この発明に係る異物除去回復方法を500回実施したときに、この発明に係る異物除去回復方法を500回実施する前の初期粘着力とこの発明に係る異物除去回復方法を500回実施した後の実施後粘着力との差(初期粘着力−実施後粘着力)が初期粘着力に対して±10%以内であるのが好ましい。
【0046】
なお、この発明において、この発明に係る異物除去回復方法を実施する前の粘着力は異物5が粘着する前すなわち保持治具1に被粘着物を粘着保持させる前の粘着性表面3aにおける粘着力であり、異物5が粘着した後の粘着性表面3aにおける粘着力ではない。
【0047】
このように、一方法によれば、粘着性表面3a、具体的には異物5が粘着している表面領域に与えるダメージが小さいにもかかわらず、表面領域に粘着している異物5のほとんどすべてを粘着テープ10の粘着剤層に転写させることができる。
【0048】
この発明に係る粘着性表面の異物除去回復方法は、前記した一方法に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0049】
前記一方法においては、所望により前処理工程として拭う工程を実施するが、この発明において、前処理工程は、拭う工程に代えて又は加えて、粘着性表面を洗浄液で洗浄する工程及び/又は粘着性表面に圧縮空気等を噴射する工程等を実施することもできる。
【0050】
前記一方法においてはローラ11を転動させる圧接又は圧着させる工程を所望により実施するが、この発明において、圧接又は圧着させる工程は、ローラ以外にも平坦な板状部材等で基材を弾性粘着部材に対して押圧してもよい。
【0051】
前記一方法において、剥離する工程は粘着テープ10を矢印Bの方向に沿って捲り上げて実施しているが、この発明において、粘着テープを
図2(a)に示される矢印Aと逆方向に粘着性表面3aに沿って、すなわち所謂「180°剥離試験」と同様にして剥離する工程を実施することもできる。
【0052】
また前記一方法において、剥離する工程は弾性粘着部材3の一端縁から他端縁に向かって粘着テープ10を剥離しているが、この発明において、粘着テープを剥離する方法は特に限定されず、例えば、弾性粘着部材の対角線に沿って粘着テープを剥離してもよい。
【0053】
前記一方法において、前記貼着する工程と前記剥離する工程とはそれぞれ1回ずつ実施されてもよく、異物5が過度に粘着性表面3aに粘着している場合、前記前処理工程を実施しない場合等には、前記貼着する工程と前記剥離する工程とをそれぞれ複数回実施することもできる。
【実施例】
【0054】
(保持治具の準備)
次のようにして保持治具1を製造した。すなわち、ステンレス鋼板(SUS304製、厚さ0.5mm)から一辺の長さが120mmである正方形の盤状体を切り出した。この盤状体における一方の表面をアセトンで脱脂処理した後、シリコーンゴム接着用プライマー(商品名「X−33−156−20」、信越化学工業株式会社製)を適量塗布して、23℃の環境中で乾燥し、プライマー層(厚さ3μm)を形成した。このようにして治具本体2を作製した。次いで、作製した治具本体2を金型に収納して、下記組成を有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物を金型と治具本体2とで形成されたキャビティ(一辺の長さが110mm、厚さ0.8mm)に注入し、120℃、10MPaの条件下、トランスファー成形し、次いで、200℃、4時間の条件下、さらに硬化させて、治具本体2の表面に弾性粘着部材3を形成して保持治具1を製造した。
<付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物の組成>
・シリコーンゴム(商品名「X−34−632 A/B」、信越化学工業株式会社製)99質量%及びシリカ系充填材(株式会社龍森製、商品名「クリスタライト」)1質量%を含有する粘着性シリコーン組成物 60質量部
・粘着力調整組成物として液状シリコーンゴム組成物(商品名「KE−1950/40 A/B」、信越化学工業株式会社製) 40質量部
【0055】
この保持治具1(未使用)における粘着性表面3aの十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)を前記のようにして、非接触式表面粗さ計(商品名「カラー3Dレーザー顕微鏡」、型番「VK−8710」、株式会社キーエンス製)を用いて、測定したところほぼ0.8μm(測定誤差を含めた実測値は0.7〜1.2μm)であり、粘着力を前記のようにして測定したところほぼ36g/mm
2(測定誤差を含めた実測値は33〜37g/mm
2)であった。
【0056】
次いで、この保持治具1の粘着性表面3aに被粘着物として縦0.3mm×横0.3mm×高さ0.6mmのチップコンデンサ20,000個を高さ方向に起立状態となるように縦横方向に等間隔で粘着保持させ、次いで掻き取りブレードを粘着性表面3a上で摺動させて粘着性表面3aからチップコンデンサを強制的に取り外した。このようなチップコンデンサの粘着保持及び脱離を300回繰り返して実施した。このようにして粘着性表面3aに異物5が粘着保持された保持治具1(300)を準備した。この保持治具1(300)における表面領域の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)を前記のようにして前記非接触式表面粗さ計を用いて測定したところ、測定誤差を含めた実測値は1.3〜5.6μmであった。
【0057】
また、保持治具1(300)と同様にして被粘着物の粘着保持及び脱離を1000回繰り返し実施した保持治具1(1000)を準備した。この保持治具1(1000)における表面領域の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)を前記のようにして前記非接触式表面粗さ計を用いて測定したところ、測定誤差を含めた実測値は1.7〜5.4μmであった。
【0058】
(実施例1)
保持治具1(300)の粘着性表面3aに、
図2(a)に示されるように、粘着テープ10を載置して粘着性表面3a及び粘着剤層を密着させた。粘着テープ10は、商品名「スコッチプロ#375HQ」(信越ポリマー法による粘着力109g/mm
2、保持治具1の粘着性表面3aの粘着力(36g/mm
2)に対して3.03倍、JIS Z 0237の接着力5.6N/cm、JIS Z 0237の伸び190%、基材の厚さ50μm、総厚77μm)を用いた。次いで、
図2(a)に示されるように、スチレンブタジエンゴムで作製され、弾性粘着部材3の一辺の長さよりも長い円筒状のローラ11を粘着テープ10の基材上に配置して2.0kg/cm
2の押圧力で基材を弾性粘着部材3に向けて押圧しつつ、基材上を
図2(a)の矢印A方向に沿って一方向に1回転動させた。次いで、
図2(b)に示されるように、粘着テープ10の一端縁を把持して
図2(b)に示される矢印Bの方向に沿って斜め上方に粘着テープ10を捲り上げて、弾性粘着部材3の一端縁から他端縁に向かって粘着テープ10を剥離した。このときの剥離速度は60mm/minであった。このようにして保持治具1(300)の粘着性表面3aの異物除去回復をした。
【0059】
(実施例2〜4)
粘着テープ10として、商品名「スコッチプロ#375HQ」に代えて、商品名「スコッチプロ#372HQ」(信越ポリマー法による粘着力102g/mm
2、保持治具1の粘着性表面3aの粘着力(37g/mm
2)に対して2.76倍、JIS Z 0237の接着力4.7N/cm、JIS Z 0237の伸び170%、基材の厚さ40μm、総厚62μm)、商品名「スコッチプロ#370HQ」(信越ポリマー法による粘着力94g/mm
2、保持治具1の粘着性表面3aの粘着力(36g/mm
2)に対して2.61倍、JIS Z 0237の接着力3.8N/cm、JIS Z 0237の伸び140%、基材の厚さ30μm、総厚48μm)、又は、商品名「スコッチプロ#369HQ」(信越ポリマー法による粘着力87g/mm
2、保持治具1の粘着性表面3aの粘着力(37g/mm
2)に対して2.35倍、JIS Z 0237の接着力3.3N/cm、JIS Z 0237の伸び140%、基材の厚さ25μm、総厚40μm)を用いたこと以外は実施例1と基本的に同様にして保持治具1(300)の粘着性表面3aの異物除去回復をした。
【0060】
(実施例5〜8)
保持治具1(300)に代えて保持治具1(1000)を用いたこと以外は実施例1〜4それぞれと基本的に同様にして保持治具1(1000)の粘着性表面3aの異物除去回復をした。
【0061】
(比較例1)
粘着テープ10として、商品名「スコッチプロ#375HQ」に代えて、信越ポリマー法による粘着力が粘着性表面3aと同等(36g/mm
2)の粘着剤層を有する粘着テープを用いたこと以外は実施例1と基本的に同様にして保持治具1(300)の粘着性表面3aの異物除去回復をした。
【0062】
(比較例2)
粘着テープ10として、商品名「スコッチプロ#375HQ」に代えて、信越ポリマー法による粘着力が粘着性表面3a(33g/mm
2)の3.7倍(122g/mm
2)の粘着剤層を有する粘着テープを用いたこと以外は実施例1と基本的に同様にして保持治具1(300)の粘着性表面3aの異物除去回復をした。
【0063】
(比較例3)
前記保持治具1(300)の粘着性表面3a上に純粋を供給しつつ不織布で拭って保持治具1(300)の粘着性表面3aを洗浄した。比較例3においては、粘着テープによる粘着性表面3aの異物除去回復方法を実施していない。
【0064】
(異物の除去効果)
実施例1〜8及び比較例1〜3で粘着性表面3aを異物除去回復した保持治具1(300)及び保持治具1(1000)の粘着性表面3aをマイクロスコープ(キーエンス製 HV−500)で確認したところ、実施例1〜8及び比較例2はすべて粘着性表面3aに異物5が残存していなかったのに対して、比較例1は粘着性表面3aに異物5が残存しており、比較例3は粘着性表面3aに多数の異物5が残存していた。
【0065】
(平坦性評価)
粘着性表面3aの平坦性を評価するために、製造した保持治具1(未使用)の粘着性表面3aに対して実施例1〜8及び比較例1〜3における異物除去回復方法又は洗浄方法を繰り返し500回行った。その後、粘着性表面3aを前記方法に準拠して前記非接触式表面粗さ計を用いて十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)を測定した。測定された十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)を、保持治具1(未使用)時の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)、保持治具1(300)の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)及び保持治具1(1000)の十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)と共に第1表に示す。また、十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)の変化量及び変化率を算出した結果を第1表に示す。なお、500回の試験後に変化量が±2.0μmで変化率が±150%以内の変化であれば実用上問題がないことが分かっている。
【0066】
(粘着力評価)
粘着性表面3aの粘着力を評価するために、製造した保持治具1(未使用)の粘着性表面3aに対して実施例1〜8及び比較例1〜3における異物除去回復方法又は洗浄方法を繰り返し500回行った。その後、粘着性表面3aの粘着力を前記方法に準拠して測定した。測定された粘着力を、保持治具1(未使用)時の粘着力と共に第1表に示す。また、粘着力の変化量及び変化率を算出した結果を第2表に示す。なお、500回の試験後に変化量が±3g/mm
2で変化率が±10%程度での変化であれば実用上問題がないことが分かっている。
【0067】
(成分移行試験)
実施例1〜8において異物除去回復した粘着性表面3aをATR法でIR分析したところ、実施例1〜8はいずれも粘着性表面3aに粘着テープ10の粘着成分が検出されず、粘着性表面への移行は確認できなかった。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】