(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記摩擦係数特性取得手段は、前記接触回数ごとに、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数と少なくとも1つの前記摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離であるときの摩擦係数とを有すると共に、隣り合う前記摺動距離の間では補間法を用いて算出した摩擦係数を有するように設定された摩擦係数特性データを取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載のプレス成形シミュレーションシステム。
前記摩擦係数特性取得手段は、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から前記摺動距離に応じて直線的に増大して前記摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、前記初期摩擦係数、前記所定摺動距離及び前記最大摩擦係数が前記接触回数に応じて変化するように設定された摩擦係数特性データを取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載のプレス成形シミュレーションシステム。
コンピュータとそのコンピュータで稼働するプログラムとで実行され、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションシステムにおいて、有限要素解析で用いるプレス工具の所定ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとのプレス工具との間の摩擦力を算出する摩擦力算出方法であって、
接触判定手段が、前記節点ごとに、前記プレス工具との間の接触圧に基づいて前記節点が前記プレス工具に接触しているか否かを判定する接触判定ステップを有し、
摩擦力算出手段が、前記接触判定ステップにおいて前記節点が前記プレス工具に接触していないと判定したときは前記摩擦力をゼロとすると共に、前記接触判定ステップにおいて前記節点が前記プレス工具に接触していると判定したときは前記節点ごとの位置及び前記プレス工具との間の接触圧に基づいて解析開始時からの接触回数及び前記プレス工具との接触開始位置からの摺動距離を算出し、算出した前記接触回数及び前記摺動距離から、前記節点について、前記プレス工具との間の摩擦係数が、前記プレス工具に接触する接触回数と、前記プレス工具との接触開始位置からの摺動距離とをパラメータとして設定された摩擦係数特性データに基づいて前記プレス工具との間の摩擦係数を算出し、算出した前記摩擦係数と前記接触圧とから前記摩擦力を算出する摩擦力算出ステップを有している、
ことを特徴とする摩擦力算出方法。
前記摩擦力算出ステップでは、前記摩擦係数特性データとして、前記接触回数ごとに、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数と少なくとも1つの前記摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離であるときの摩擦係数とを有すると共に、隣り合う前記摺動距離の間では補間法を用いて算出した摩擦係数を有するように設定された摩擦係数特性データを用いる、
ことを特徴とする請求項7に記載の摩擦力算出方法。
前記摩擦力算出ステップでは、前記摩擦係数特性データとして、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から前記摺動距離に応じて直線的に増大して前記摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、前記初期摩擦係数、前記所定摺動距離及び前記最大摩擦係数が前記接触回数に応じて変化するように設定された摩擦係数特性データを用いる、
ことを特徴とする請求項7に記載の摩擦力算出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、プレス成形品の成形性を向上させることができる逐次成形を有するモーションによるプレス成形を解析することができるように、逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができ、シミュレーション精度を向上させることができるプレス成形シミュレーションが望まれている。
【0009】
本願発明者等は、鋭意検討した結果、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによってプレス成形した場合に割れが抑制される理由として、間欠的に金属板への負荷を除去して金属板とプレス工具とを離間させると、金属板とプレス工具との間にプレス工具に塗布された潤滑油が再流入して摩擦係数が低減されることにより摩擦力が低下するからであると考えた。
【0010】
かかる仮説に基づいて、金属板のプレス成形をシミュレーションする際に、金属板とプレス工具との間の潤滑油による摩擦係数の変化を考慮して摩擦力を算出することで、摩擦力の精度を高めることができ、シミュレーション精度を向上させることができるものと考えられる。
【0011】
そこで、本発明は、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができ、摩擦力の精度を高め、シミュレーションの精度を向上させることができるプレス成形シミュレーションシステム、及びプログラム、並びに摩擦力算出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため、本願の請求項1に係る発明は、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションシステムであって、プレス工具及び金属板の形状情報と、金属板の材料特性情報と、プレス工具のモーション情報とを取得する情報取得手段と、前記情報取得手段によって取得した前記プレス工具及び金属板の形状情報に基づいて、前記プレス工具及び有限要素分割した前記金属板の解析モデルを作成する解析モデル作成手段と、前記解析モデル作成手段によって作成した前記解析モデルと、前記情報取得手段によって取得した前記金属板の材料特性情報及び前記プレス工具のモーション情報と、前記金属板の解析モデルの節点ごとの前記プレス工具との間の摩擦力とを用いて有限要素解析を行い、前記情報取得手段によって取得した前記プレス工具のモーション情報の所定ストローク位置における前記金属板の解析モデルの節点ごとの位置及び前記プレス工具との間の接触圧を算出する有限要素解析手段と、前記節点について、前記プレス工具との間の摩擦係数が、前記プレス工具に接触する接触回数と、前記プレス工具との接触開始位置からの摺動距離とをパラメータとして設定された摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、前記有限要素解析で用いる前記プレス工具の所定ストローク位置における前記節点ごとの前記プレス工具との間の摩擦力を算出する摩擦力算出手段と、を有し、前記有限要素解析手段は、前記節点ごとに、前記摩擦力として、最初の解析時には
前記プレス工具に接触している節点では前記プレス工具との間の接触圧と前記摩擦係数特性データにおける前記接触回数が1であると共に前記摺動距離がゼロであるときの前記摩擦係数とに基づいて設定された摩擦力を用い、前記プレス工具に接触していない節点ではゼロを用い、最初の解析以降の解析時には前記摩擦力算出手段によって算出した前記摩擦力を用いて有限要素解析を行い、前記摩擦力算出手段は、前記節点ごとに、前記有限要素解析手段によって算出した前記プレス工具との間の接触圧に基づいて前記節点が前記プレス工具に接触しているか否かを判定し、前記節点が前記プレス工具に接触していないと判定したときは前記摩擦力をゼロとすると共に、前記節点が前記プレス工具に接触していると判定したときは前記有限要素解析手段によって算出した前記節点ごとの位置及び前記プレス工具との間の接触圧に基づいて解析開始時からの接触回数及び前記プレス工具との接触開始位置からの摺動距離を算出し、算出した前記接触回数及び前記摺動距離から前記摩擦係数特性取得手段によって取得した前記摩擦係数特性データに基づいて前記プレス工具との間の摩擦係数を算出し、算出した前記摩擦係数と前記接触圧とから前記摩擦力を算出する、ことを特徴とする。
【0013】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記接触回数ごとに、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数と少なくとも1つの前記摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離であるときの摩擦係数とを有すると共に、隣り合う前記摺動距離の間では補間法を用いて算出した摩擦係数を有するように設定された摩擦係数特性データを取得する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本願の請求項3に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記摩擦係数特性取得手段は、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から前記摺動距離に応じて直線的に増大して前記摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、前記初期摩擦係数、前記所定摺動距離及び前記最大摩擦係数が前記接触回数に応じて変化するように設定された摩擦係数特性データを取得する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本願の請求項4に係る発明は、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションプログラムであって、コンピュータを、プレス工具及び金属板の形状情報と、金属板の材料特性情報と、プレス工具のモーション情報とを取得する情報取得手段、前記情報取得手段によって取得した前記プレス工具及び金属板の形状情報に基づいて、前記プレス工具及び有限要素分割した前記金属板の解析モデルを作成する解析モデル作成手段、前記解析モデル作成手段によって作成した前記解析モデルと、前記情報取得手段によって取得した前記金属板の材料特性情報及び前記プレス工具のモーション情報と、前記金属板の解析モデルの節点ごとの前記プレス工具との間の摩擦力とを用いて有限要素解析を行い、前記情報取得手段によって取得した前記プレス工具のモーション情報の所定ストローク位置における前記金属板の解析モデルの節点ごとの位置及び前記プレス工具との間の接触圧を算出する有限要素解析手段、前記節点について、前記プレス工具との間の摩擦係数が、前記プレス工具に接触する接触回数と、前記プレス工具との接触開始位置からの摺動距離とをパラメータとして設定された摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段、及び、前記有限要素解析で用いる前記プレス工具の所定ストローク位置における前記節点ごとの前記プレス工具との間の摩擦力を算出する摩擦力算出手段として機能させると共に、前記有限要素解析手段として機能させるときは、前記節点ごとに、前記摩擦力として、最初の解析時には
前記プレス工具に接触している節点では前記プレス工具との間の接触圧と前記摩擦係数特性データにおける前記接触回数が1であると共に前記摺動距離がゼロであるときの前記摩擦係数とに基づいて設定された摩擦力を用い、前記プレス工具に接触していない節点ではゼロを用い、最初の解析以降の解析時には前記摩擦力算出手段によって算出した前記摩擦力を用いて有限要素解析を行うように機能させ、前記摩擦力算出手段として機能させるときは、前記節点ごとに、前記有限要素解析手段によって算出した前記プレス工具との間の接触圧に基づいて前記節点が前記プレス工具に接触しているか否かを判定し、前記節点が前記プレス工具に接触していないと判定したときは前記摩擦力をゼロとすると共に、前記節点が前記プレス工具に接触していると判定したときは前記有限要素解析手段によって算出した前記節点ごとの位置及び前記プレス工具との間の接触圧に基づいて解析開始時からの接触回数及び前記プレス工具との接触開始位置からの摺動距離を算出し、算出した前記接触回数及び前記摺動距離から前記摩擦係数特性取得手段によって取得した前記摩擦係数特性データに基づいて前記プレス工具との間の摩擦係数を算出し、算出した前記摩擦係数と前記接触圧とから前記摩擦力を算出するように機能させる、ことを特徴とする。
【0016】
また、本願の請求項5に係る発明は、請求項4に記載の発明において、コンピュータを、前記摩擦係数特性取得手段として機能させるときは、前記接触回数ごとに、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数と少なくとも1つの前記摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離であるときの摩擦係数とを有すると共に、隣り合う前記摺動距離の間では補間法を用いて算出した摩擦係数を有するように設定された摩擦係数特性データを取得するように機能させる、ことを特徴とする。
【0017】
また、本願の請求項6に係る発明は、請求項4に記載の発明において、コンピュータを、前記摩擦係数特性取得手段として機能させるときは、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から前記摺動距離に応じて直線的に増大して前記摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、前記初期摩擦係数、前記所定摺動距離及び前記最大摩擦係数が前記接触回数に応じて変化するように設定された摩擦係数特性データを取得するように機能させる、ことを特徴とする。
【0018】
また、本願の請求項7に係る発明は、コンピュータとそのコンピュータで稼働するプログラムとで実行され、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションシステムにおいて、有限要素解析で用いるプレス工具の所定ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとのプレス工具との間の摩擦力を算出する摩擦力算出方法であって、接触判定手段が、前記節点ごとに、前記プレス工具との間の接触圧に基づいて前記節点が前記プレス工具に接触しているか否かを判定する接触判定ステップを有し、摩擦力算出手段が、前記接触判定ステップにおいて前記節点が前記プレス工具に接触していないと判定したときは前記摩擦力をゼロとすると共に、前記接触判定ステップにおいて前記節点が前記プレス工具に接触していると判定したときは前記節点ごとの位置及び前記プレス工具との間の接触圧に基づいて解析開始時からの接触回数及び前記プレス工具との接触開始位置からの摺動距離を算出し、算出した前記接触回数及び前記摺動距離から、前記節点について、前記プレス工具との間の摩擦係数が、前記プレス工具に接触する接触回数と、前記プレス工具との接触開始位置からの摺動距離とをパラメータとして設定された摩擦係数特性データに基づいて前記プレス工具との間の摩擦係数を算出し、算出した前記摩擦係数と前記接触圧とから前記摩擦力を算出する摩擦力算出ステップを有している、ことを特徴とする。
【0019】
また、本願の請求項8に係る発明は、請求項7に記載の発明において、前記摩擦力算出ステップでは、前記摩擦係数特性データとして、前記接触回数ごとに、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数と少なくとも1つの前記摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離であるときの摩擦係数とを有すると共に、隣り合う前記摺動距離の間では補間法を用いて算出した摩擦係数を有するように設定された摩擦係数特性データを用いる、ことを特徴とする。
【0020】
また、本願の請求項9に係る発明は、請求項7に記載の発明において、前記摩擦力算出ステップでは、前記摩擦係数特性データとして、前記摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から前記摺動距離に応じて直線的に増大して前記摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、前記初期摩擦係数、前記所定摺動距離及び前記最大摩擦係数が前記接触回数に応じて変化するように設定された摩擦係数特性データを用いる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0022】
先ず、本願の請求項1に係る発明によれば、有限要素解析時に、プレス工具の所定ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとの位置及びプレス工具との間の接触圧が算出され、節点ごとに、接触圧に基づいてプレス工具に接触しているか否かが判定され、接触していないときはプレス工具との間の摩擦力がゼロとされる。一方、接触しているときは解析開始時からの接触回数及び接触開始位置からの摺動距離が算出され、算出した接触回数及び摺動距離から、節点についてプレス工具との間の摩擦係数が接触回数と摺動距離とをパラメータとして設定された摩擦係数特性データに基づいてプレス工具との間の摩擦係数が算出され、算出した摩擦係数と前記接触圧とから前記摩擦力が算出されることとなる。
【0023】
これにより、プレス工具の所定ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦力を算出することができると共に、金属板とプレス工具との間の潤滑油による変化を考慮し、プレス工具との接触回数と摺動距離とをパラメータとして摩擦係数が設定された摩擦係数特性データを用いて摩擦力を算出することができる。従って、プレス成形シミュレーションシステムにおいて、摩擦力の精度を高めることができ、シミュレーション精度を向上させることができる。特に、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際に、前記効果を有効に得ることができる。
【0024】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、接触回数ごとに、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数と少なくとも1つの摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離であるときの摩擦係数とを有すると共に、隣り合う摺動距離の間では補間法を用いて算出した摩擦係数を有する摩擦係数特性データに基づいて摩擦係数が算出されるので、接触回数に応じて変化する金属板とプレス工具との間の潤滑油を考慮して金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦係数を算出することができ、前記効果を具体的に実現することができる。
【0025】
また、本願の請求項3に係る発明によれば、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から摺動距離に応じて直線的に増大して摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、初期摩擦係数、所定摺動距離及び最大摩擦係数が接触回数に応じて変化する摩擦係数特性データに基づいて摩擦係数が算出されるので、接触回数に応じて変化する金属板とプレス工具との間の潤滑油を考慮して金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦係数を算出することができ、前記効果を具体的に実現することができる。
【0026】
また、本願の請求項4〜6に記載のプレス成形シミュレーションプログラムに関する発明によれば、これをコンピュータで実行することにより、プレス成形シミュレーションシステムに関する請求項1〜3に記載の発明と同様の効果を奏することができる。
【0027】
さらに、本願の請求項7〜9に記載の摩擦力算出方法に関する発明によれば、プレス成形シミュレーションシステムにおいて有限要素解析で用いるプレス工具の所定ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとのプレス工具との間の摩擦力を算出することができ、プレス成形シミュレーションシステムに関する請求項1〜3に記載の発明と同様の効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係るプレス成形シミュレーションシステムは、コンピュータ10を中心として構成され、コンピュータ10は、中央処理装置11と、摩擦力の算出やプレス成形シミュレーションの計算に必要なデータなどを入力するキーボードなどの入力装置12と、DVDなどの記録媒体20からプレス工具及び金属板の形状情報であるCADデータを読込むためのCADデータ読込み装置13と、摩擦力の算出やプレス成形シミュレーションの計算に必要なプログラム及びデータを記録するプログラム記録部14a及びデータ記録部14bを有するメモリなどの記録装置14と、入力画面や解析結果などを表示するためのディスプレイなどの表示装置15と、プレス成形シミュレーションの解析結果などを出力するプリンタなどの印刷装置16とを有している。
【0030】
中央処理装置11は、入力装置12、表示装置15及び印刷装置16を制御するとともに、CADデータ読込み装置13及び記録装置14にアクセス可能に構成され、入力装置12やCADデータ読込み装置13を介して入力された情報と、記録装置14に記憶されているプログラム及びデータを用いて、摩擦力の算出やプレス成形シミュレーションをすることができるように構成されている。
【0031】
図2は、
図1に示すプログラム記録部の構成を示す図である。
図2に示すように、プログラム記録部14aには、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするためのメインプログラム、プレス工具及び金属板の形状情報に基づいて、プレス工具及び有限要素分割した金属板の解析モデルを作成するための解析モデル作成プログラム、解析モデルと、金属板の材料特性情報及びプレス工具のモーション情報と、金属板の解析モデルの節点ごとのプレス工具との間の摩擦力とを用いて有限要素解析を行うための有限要素解析プログラム、プレス工具の所定ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとのプレス工具との間の摩擦力を算出する摩擦力算出プログラム、及び入力画面や解析結果などを表示するための表示プログラムなどが記録されている。
【0032】
有限要素解析プログラムは、有限要素解析を行い、プレス工具のモーション情報の所定ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとの位置及びプレス工具との間の接触圧を算出するようになっている。有限要素解析プログラムはまた、金属板の解析モデルの節点ごとに、プレス工具との間の摩擦力として、最初の解析時には所定値を用い、最初の解析以降の解析時には摩擦力算出プログラムを用いて算出した摩擦力を用いて有限要素解析を行うようになっている。
【0033】
摩擦力算出プログラムは、節点ごとに、有限要素解析プログラムを用いて算出したプレス工具との間の接触圧に基づいてプレス工具に接触しているか否かを判定し、接触していないと判定したときは摩擦力をゼロとすると共に、接触していると判定したときは有限要素解析プログラムを用いて算出した節点ごとの位置及び接触圧に基づいて解析開始時からの接触回数及び接触開始位置からの摺動距離を算出し、算出した接触回数及び摺動距離から摩擦係数特性データに基づいてプレス工具との間の摩擦係数を算出し、算出した摩擦係数と接触圧とから摩擦力を算出するようになっている。
【0034】
また、
図3は、
図1に示すデータ記録部の構成を示す図である。
図3に示すように、データ記録部14bには、プレス工具及び金属板の形状情報であるCADデータ、金属板の材料物性情報及びブランクホルダ圧情報などが記録される情報データファイル、プレス工具及び金属板の形状情報に基づいてプレス工具及び有限要素分割した金属板の解析モデルが記録される解析モデルデータファイル、及びプレス工具のモーション情報が記録されるモーションデータファイルが備えられている。
【0035】
データ記録部14bにはまた、金属板の解析モデルの節点について、プレス工具との間の摩擦係数が、プレス工具に接触する接触回数と、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離とをパラメータとして設定された摩擦係数特性データが記録される摩擦係数特性データテーブル、プレス工具の所定ストローク位置において金属板の解析モデルの節点ごとに算出したプレス工具との間の摩擦係数が記録される摩擦係数算出データテーブル、及び、解析モデルについてシミュレーション解析を行った解析結果データが記録される解析結果データファイルなどが備えられている。
【0036】
図4は、本実施形態に係るシミュレーションにおける金属板のプレス成形を説明するための説明図である。本実施形態では、金属板Wへの負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによって、
図4に示すようなプレス工具20を移動させ、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーション解析を行った。
【0037】
具体的には、金属板Wをプレス工具20のダイ21とブランクホルダ22とにより所定ブランクホルダ圧で挟持した状態で、プレス工具20のダイ21とブランクホルダ22に対してプレス工具20のパンチ23を上方及び下方へ移動させてパンチ23をダイ21の成形空間21a内に移動させることにより、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーション解析を行った。
【0038】
このようなプレス成形では、プレス工具のモーション情報の時間として、解析開始時からの経過時間が用いられ、プレス工具のモーション情報のストロークとして、パンチ23が最初に金属板Wに接したときの位置を原点とするパンチ23の上方への、すなわち金属板Wに対する荷重負荷方向へのストロークが用いられる。
【0039】
図5は、プレス成形時のプレス工具のモーションを示すグラフであり、プレス工具のモーションの一例を示している。
図5では、解析開始時からの経過時間を横軸にとり、パンチ23が最初に金属板Wに接したときの位置を原点とするパンチ23の上方へのストロークを縦軸にとって表示している。
【0040】
図5に示すように、本実施形態では、プレス工具20のパンチ23を上方へ及び下方へ移動し、金属板Wへの負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによって金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーション解析を行った。なお、
図5では、パンチ23が最初に金属板Wに接したときからのモーションを示している。
【0041】
なお、金属板Wをダイ21とブランクホルダ22とにより挟持した状態でパンチ23を上方及び下方へ移動させることに代え、金属板Wをダイ21とブランクホルダ22とにより挟持した状態でダイ21とブランクホルダ22とを下方及び上方へ移動させて金属板Wをプレス成形するようにすることも可能である。
【0042】
図6は、本実施形態に係るシミュレーションに用いる摩擦係数特性を説明するための説明図であり、
図6では、金属板の解析モデルの節点について、プレス工具に接触する接触回数がN回目である場合の摩擦係数特性を示している。本実施形態では、摩擦係数特性として、金属板の解析モデルの節点について、プレス工具との間の摩擦係数が、プレス工具に接触する接触回数と、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離とをパラメータとして設定された摩擦係数特性データが用いられる。
【0043】
図6に示すように、金属板の解析モデルの節点について、プレス工具に接触する接触回数がN回目である場合、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離Dがゼロであるときの初期摩擦係数μ
0(N)から摺動距離Dに応じて直線的に増大して摺動距離Dが所定摺動距離D
0(N)以上であるときに最大摩擦係数μ
max(N)となる摩擦係数特性が設定される。
【0044】
摩擦係数特性を設定する際には、接触回数Nに応じてそれぞれ、初期摩擦係数μ
0(N)、所定摺動距離D
0(N)及び最大摩擦係数μ
max(N)が変化するように設定され、本実施形態では、金属板の解析モデルの全ての節点について同一の摩擦係数特性が用いられる。
【0045】
図7は、摩擦係数特性データテーブルを示す図であり、
図7では、摩擦係数特性データの一例を示している。
図7に示すように、摩擦係数特性データテーブルには、金属板の解析モデルの節点について、プレス工具に接触する接触回数Nと、接触回数がN回目である場合についてプレス工具との接触開始位置からの摺動距離Dがゼロであるときの初期摩擦係数μ
0(N)、プレス工具との間の摩擦係数が最大となる最大摩擦係数μ
max(N)及び最大摩擦係数μ
max(N)となる摺動距離D
0(N)とが記録される。
【0046】
また、摩擦係数特性データテーブルには、接触回数がN回目である場合について、初期摩擦係数μ
0(N)、最大摩擦係数μ
max(N)及び最大摩擦係数μ
max(N)となる摺動距離D
0(N)に基づいて算出した
図6に示すような摩擦係数特性が記録されるようになっている。
【0047】
シミュレーション解析時には、金属板の解析モデルの節点は、プレス工具のダイ、ブランクホルダ又はパンチに接触し得ることから、ダイと金属板との間の摩擦係数、ブランクホルダと金属板との間の摩擦係数及びパンチと金属板Wとの間の摩擦係数についてそれぞれ摩擦係数特性を設定したものを用意する必要があるが、プレス工具が同一材料を用いて形成される場合、前述したように、金属板の解析モデルの全ての節点について同様の摩擦係数特性を用いることができる。
【0048】
図8は、接触回数と初期摩擦係数との関係を示すグラフである。
図8では、
図7に示す接触回数Nと初期摩擦係数μ
0(N)との関係を示し、接触回数Nを横軸にとり、初期摩擦係数μ
0(N)を縦軸にとって表示している。
図8に示すように、初期摩擦係数μ
0(N)は、接触回数Nに応じて変化する金属板とプレス工具とが離間されるときに金属板とプレス工具との間に流入する潤滑油を考慮して、接触回数Nが大きくなるにつれて所定の接触回数Nまで初期摩擦係数μ
0(N)が大きくなるように設定される。
【0049】
図9は、接触回数と最大摩擦係数との関係を示すグラフである。
図9では、
図7に示す接触回数Nと最大摩擦係数μ
max(N)との関係を示し、接触回数Nを横軸にとり、最大摩擦係数μ
max(N)を縦軸にとって表示している。
図9に示すように、最大摩擦係数μ
max(N)は、接触回数Nに応じて変化する金属板とプレス工具とが離間されるときに金属板とプレス工具との間に流入する潤滑油を考慮して、接触回数Nが大きくなるにつれて所定の接触回数Nまで最大摩擦係数μ
max(N)が大きくなるように設定される。
【0050】
図10は、接触回数と最大摩擦係数となる摺動距離との関係を示すグラフである。
図10では、
図7に示す接触回数Nと最大摩擦係数μ
max(N)となる摺動距離D
0(N)との関係を示し、接触回数Nを横軸にとり、最大摩擦係数μ
max(N)となる摺動距離D
0(N)を縦軸にとって表示している。
図10に示すように、最大摩擦係数μ
max(N)となる摺動距離D
0(N)は、接触回数Nに応じて変化する金属板とプレス工具とが離間されるときに金属板とプレス工具との間に流入する潤滑油を考慮して、接触回数Nが大きくなるにつれて所定の接触回数Nまで最大摩擦係数μ
max(N)となる摺動距離D
0(N)が小さくように設定される。
【0051】
また、
図11は、摩擦係数特性を示すグラフである。
図11では、
図7に示す接触回数Nごとに、金属板の解析モデルの節点について、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離Dと、プレス工具との間の摩擦係数μとの関係をグラフとして示している。なお、
図11では、金属板の解析モデルの節点について接触回数Nの摩擦係数μを、接触回数Nと摺動距離Dとによって決定される二変数関数f(D,N)として表している。
【0052】
図11に示すように、金属板の解析モデルの節点について、初期摩擦係数は、接触回数Nが大きくなるにつれて大きくなるように設定され、最大摩擦係数は、接触回数Nが大きくなるにつれて大きくなるように設定され、最大摩擦係数となる摺動距離は、接触回数Nが大きくなるにつれて小さくように設定される。なお、
図11では、接触回数Nが1〜5回目の場合について示しているが、接触回数Nが6回目以上の場合についてもそれぞれ設定されている。
【0053】
このように、金属板の解析モデルの節点ごとに金属板とプレス工具とが離間するときに金属板とプレス工具との間に流入する潤滑油を考慮し、金属板の解析モデルの節点について、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から摺動距離に応じて直線的に増大して摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、初期摩擦係数、所定摺動距離及び最大摩擦係数が接触回数に応じて変化するように設定された摩擦係数特性データが用いられる。この摩擦係数特性データは、摩擦係数試験や既存の摩擦係数データ等を用い、接触回数や摺動距離に応じて変化する金属板とプレス工具との間に流入する潤滑油を考慮して設定することができる。
【0054】
本実施形態に係るプレス成形シミュレーションでは、プレス工具の各ストローク位置において、金属板の解析モデルの節点ごとに、接触回数と摺動距離とから、摩擦係数特性データテーブルに記録された摩擦係数特性データに基づいて摩擦係数を算出して、シミュレーション解析が行われる。
【0055】
具体的には、本実施形態に係るプレス成形シミュレーションでは、プレス工具の各ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとの位置及びプレス工具との間の接触圧を算出し、算出した金属板の解析モデルの節点ごとの位置及びプレス工具との間の接触圧に基づいて解析開始時からの接触回数及びプレス工具との接触開始位置からの摺動距離を算出する。
【0056】
そして、算出した金属板の解析モデルの節点ごとの接触回数及び摺動距離から、摩擦係数特性データに基づいて金属板の解析モデルの節点ごとのプレス工具との間の摩擦係数を算出し、算出した金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦係数が、接触回数及び摺動距離と共に摩擦係数算出データテーブルに記録される。
【0057】
図12は、摩擦係数算出データテーブルを示す図であり、
図12では、プレス工具の一ストローク位置における摩擦係数算出データの一例を示している。
図12に示すように、摩擦係数データテーブルでは、プレス工具の各ストローク位置において、金属板の解析モデルの節点ごとに、節点ID、プレス工具との接触回数、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離及びプレス工具との間の摩擦係数が記録される。
【0058】
プレス工具との接触回数は、プレス工具との間の接触圧に基づいて算出され、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離は、金属板の解析モデルの節点の位置及びプレス工具との間の接触圧に基づいて算出され、プレス工具との間の摩擦係数は、プレス工具との接触回数及び接触開始位置からの摺動距離から摩擦係数特性データに基づいて算出される。なお、
図12では、節点を(i)とし、摺動距離をD(i)として表し、摩擦係数を二変数関数f(D(i),N(i))として表している。
【0059】
図12に示す摩擦係数算出データテーブルでは、プレス工具の一ストローク位置において、例えば、節点1は、接触回数がゼロであるのでプレス工具に一度も接触していないと算出され、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離がゼロであることが算出され、プレス工具との間の摩擦係数がゼロであることが算出されることを示している。
【0060】
また、節点5は、接触回数が1であるので1回目の接触状態にあることが算出され、プレス工具との1回目の接触開始位置からの摺動距離がD(5)であることが算出され、プレス工具との間の摩擦係数が二変数関数f(D(5),3)によって算出されることを示している。節点5の摺動距離D(5)は、プレス工具との1回目の接触開始位置から各ストローク位置における節点5の位置に基づいて積算した摺動距離が算出され、プレス工具との間の摩擦係数f(D(5),3)は、摺動距離と接触回数とから算出される。
【0061】
このように、本実施形態では、プレス工具の各ストローク位置において、金属板の解析モデルの節点ごとに、プレス工具との接触回数及び接触開始位置からの摺動距離を算出し、算出した接触回数及び摺動距離から、摩擦係数特性データに基づいて摩擦係数を算出し、算出した摩擦係数を用いてプレス工具との間の摩擦力を算出し、この算出した摩擦力を用いて有限要素解析が行われる。
【0062】
次に、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションする動作について具体的に説明する。
図13は、プレス成形をシミュレーションする動作を示すフローチャートである。プレス成形をシミュレーションする前に、コンピュータ10には、先ず、ユーザーによってCADデータ読込み装置13を介して記録媒体20に記録されたプレス工具及び金属板の形状情報が登録されると共に入力装置12を介して金属板の材料物性情報が登録され、プレス工具及び金属板の形状情報並びに金属板の材料物性情報が情報データファイルに記録される。また、ユーザーによって入力装置12を介してプレス成形時のブランクホルダ圧が登録され、情報データファイルに記録される。
【0063】
コンピュータ10にはまた、ユーザーによって入力装置12を介してプレス工具のモーション情報が入力される。
図15は、モーションデータ入力画面を示す図である。
図15に示すように、プレス工具のモーション情報を入力する際には、表示装置15にモーションデータ入力画面30が表示され、該モーションデータ入力画面30には、データ入力部31が設けられるとともに登録ボタン32が設けられている。
【0064】
データ入力部31には、プレス工具のモーション情報、すなわち解析開始時からの経過時間と、パンチが最初に金属板に接したときの位置を原点とするパンチの上方へのストロークとの関係を入力する入力部が設けられ、該入力部において所定経過時間におけるストロークを適宜指定して入力すると、プレス工具のモーションを設定することができるようになっている。そして、データ入力部31にモーションを入力した後に、ユーザーによって登録ボタン32が押されると、プレス工具のモーション情報がモーションデータファイルに記録される。
【0065】
また、コンピュータ10には、ユーザーによって入力装置12を介して摩擦係数特性データが入力される。
図16は、摩擦係数特性データ入力画面を示す図である。
図16に示すように、摩擦係数特性データを入力する際には、表示装置15に摩擦係数特性データ入力画面40が表示され、該摩擦係数特性データ入力画面40には、データ入力部41が設けられるとともに登録ボタン42及び計算ボタン43が設けられている。
【0066】
データ入力部41には、金属板の解析モデルの節点について、プレス工具、すなわちダイ、ブランクホルダ又はパンチに接触する接触回数と、プレス工具との間の初期摩擦係数と、プレス工具との間の最大摩擦係数と、最大摩擦係数となる摺動距離とを入力することができるようになっている。
【0067】
データ入力部41に摩擦係数特性データを入力した後に、ユーザーによって登録ボタン42が押されると、摩擦係数特性データが摩擦係数特性データテーブルに記録される。前述したように、摩擦係数特性は、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から摺動距離に応じて直線的に増大して摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、初期摩擦係数、所定摺動距離及び最大摩擦係数が接触回数に応じて変化するように設定される。
【0068】
このようにしてプレス工具及び金属板の形状情報、金属板の材料特性情報、プレス成形時のブランクホルダ圧、プレス工具のモーション情報及び摩擦係数特性データがそれぞれデータ記憶部14bに記録された状態で、
図16に示す摩擦係数特性データ入力画面40において計算ボタン43が押されると、コンピュータ10では、金属板のプレス成形シミュレーションが行われる。
【0069】
図13は、プログラム記録部14aに記録されているメインプログラムの動作を示している。コンピュータ10では、先ず、情報データファイルに記録されたプレス工具及び金属板の形状情報が取得され(ステップS1)、情報データファイルに記録された金属板の材料物性情報及びブランクホルダ圧が取得され(ステップS2)、モーションデータファイルに記録されたプレス工具のモーション情報が取得される(ステップS3)。
【0070】
次に、摩擦係数特性データフィイルに記録された摩擦係数特性が取得される(ステップS4)。金属板の解析モデルの節点について、プレス工具との間の摩擦係数が、プレス工具に接触する接触回数と、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離とをパラメータとして設定され、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から摺動距離に応じて直線的に増大して摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、初期摩擦係数、所定摺動距離及び最大摩擦係数が接触回数に応じて変化するように設定された摩擦係数特性データが取得される。
【0071】
そして、ステップS1において取得したプレス工具及び金属板の形状情報に基づいて、プレス工具及び有限要素分割した金属板の解析モデルが作成され(ステップS5)、初期化処理が行われる(ステップS6)。初期化処理では、解析モデルにおいて金属板をプレス工具のダイとブランクホルダとにより挟持した状態でパンチが金属板に接する前の所定状態に配置される。
【0072】
初期化処理ではまた、金属板の解析モデルの節点ごとに、プレス工具のダイ及びブランクホルダに接触している節点では、接触回数が「1」に設定されると共に、ブランクホルダ圧に基づいて算出した接触圧及び該接触圧と摩擦係数特性データの初期摩擦係数とから算出した摩擦力が設定される。一方、プレス工具に接触していない節点では、接触回数が「0」に設定されると共に、プレス工具との間の接触圧及びプレス工具との間の摩擦力が「0」に設定される。また、金属板の解析モデルの全節点についてプレス工具との解析開始時からの摺動距離が「0」に設定される。
【0073】
ステップS6における初期化処理が終了すると、プレス工具の各ストローク位置に対応する各ステップを表すカウンタ値jが「0」に設定される(ステップS7)。次に、プレス工具のストロークが変更され、前記カウンタ値に「1」を加えたものが新たなカウンタ値jとして設定される(ステップS8)。そして、かかるカウンタ値jを用いて、金属板のプレス成形の有限要素解析が行われる(ステップS9)。
【0074】
ステップS9における有限要素解析では、ステップjにおける金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦力を用い、前のステップ(j−1)のプレス工具のストローク位置におけるプレス工具及び金属板の解析モデルに、ステップjのプレス工具のストローク位置を適用して有限要素解析が行われ、ステップjのプレス工具のストローク位置における金属板の形状が算出されると共に金属板の解析モデルの節点ごとの位置及びプレス工具との間の接触圧が算出される。
【0075】
最初の解析時には、金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦力として、ステップS6の初期化処理において設定した摩擦力を用い、初期化処理において配置されたプレス工具及び金属板の解析モデルに、ステップ1のプレス工具のストローク位置を適用して有限要素解析が行われ、ステップ1のプレス工具のストローク位置における金属板の形状が算出されると共に金属板の解析モデルの節点ごとの位置及びプレス工具との間の接触圧が算出される。
【0076】
そして、ステップS9における有限要素解析が終了すると、次のステップ(j+1)における有限要素解析に用いる金属板の解析モデルの節点ごとのプレス工具との間の摩擦力が算出される(ステップS10)。先ずは、次のステップ2における有限要素解析に用いる金属板の解析モデルの節点ごとのプレス工具との間の摩擦力が算出される。
【0077】
図14は、摩擦力を算出する動作を示すフローチャートであり、
図14aに記録されている摩擦力算出プログラムの動作を示している。
図14に示すように、ステップS10における摩擦力の算出について、コンピュータ10では、金属板の解析モデルの各節点を表すカウンタ値iが「0」に設定される(ステップS21)。次に、前記カウンタ値iに「1」を加えたものが新たなカウンタ値iとして設定される(ステップS22)。
【0078】
そして、金属板の解析モデルの節点iがプレス工具に接触しているか否かが判定される(ステップS23)。節点iがプレス工具に接触しているか否かは、ステップS9において算出した節点iのプレス工具との間の接触圧Fn
j(i)に基づいて、該接触圧Fn
j(i)がゼロであるか否かによって判定され、接触圧Fn
j(i)がゼロでない場合には接触していると判定され、接触圧Fn
j(i)がゼロである場合は接触していないと判定される。
【0079】
ステップS23での判定結果がノー(NO)の場合、すなわち節点iのプレス工具との間の接触圧Fn
j(i)がゼロである場合、次のステップ(j+1)における節点iのプレス工具との間の摩擦力F
j+1(i)がゼロとして算出される(ステップS29)。
【0080】
一方、ステップS23での判定結果がイエス(YES)の場合、すなわち節点iのプレス工具との間の接触圧Fn
j(i)がゼロでない場合、節点iがプレス工具との接触状態を維持しているか否かが判定される(ステップS24)。節点iが接触状態を維持しているか否かは、前のステップ(j−1)における節点iのプレス工具との間の接触圧Fn
j−1(i)がゼロであるか否かによって判定される。最初の解析時には、Fn
0(i)として、初期化処理において設定した摩擦力が用いられ、最初の解析以降の解析時には後述するステップS28及びステップS29において算出した摩擦力Fn
j−1(i)が用いられる。
【0081】
ステップS24での判定結果がイエスの場合、すなわち節点iが接触状態を維持している場合、次のステップ(j+1)における節点iのプレス工具との接触回数N
j+1(i)とプレス工具との接触開始位置からの摺動距離D
j+1(i)とが設定される(ステップS25)。
【0082】
次のステップ(j+1)における節点iの接触回数N
j+1(i)は、ステップjにおける節点iの接触回数N
j(i)に設定され、次のステップ(j+1)における節点iの摺動距離D
j+1(i)は、ステップjにおける節点iの摺動距離D
j(i)に、前のステップ(j−1)における節点iの位置とステップjにおける節点iの位置とから算出した節点iのプレス工具との摺動距離ΔDを加えて設定される。
【0083】
一方、ステップS24での判定結果がノーの場合、すなわち節点iが接触状態を維持していない場合、次のステップ(j+1)における節点iの接触回数N
j+1(i)は、ステップjにおける節点iの接触回数N
j(i)に「1」を加えて設定され、次のステップ(j+1)における節点iの摺動距離D
j+1(i)は「0」に設定される(ステップS26)。
【0084】
最初の解析時では、接触回数N
1(i)及び摺動距離D
1(i)として、初期化処理において設定したものが用いられ、金属板の解析モデルの節点ごとに、プレス工具に接触している節点では接触回数N
1(i)として「1」が用いられ、プレス工具に接触していない節点では接触回数N
1(i)として「0」が用いられ、全節点について摺動距離D
1(i)として「0」が用いられる。最初の解析以降の解析時には、ステップS25及びステップS26において設定した接触回数N
j+1(i)及び摺動距離D
j+1(i)が用いられる。
【0085】
ステップS25又はステップS26において次のステップ(j+1)における節点iの接触回数N
j+1(i)と摺動距離D
j+1(i)とが設定されると、ステップS4において取得した摩擦係数特性データを用いて節点iの接触回数N
j+1(i)と摺動距離D
j+1(i)とから次のステップ(j+1)における節点iのプレス工具との間の摩擦係数μ
j+1(i)が算出される(ステップS27)。次のステップ(j+1)における節点iの摩擦係数μ
j+1(i)は、摩擦係数特性の二変数関数f(D
j+1(i),N
j+1(i))から算出される。
【0086】
次に、ステップS26において算出した節点iの摩擦係数μ
j+1(i)とステップS9において算出した節点iの接触圧Fn
j(i)とから、次のステップ(j+1)における節点iのプレス工具との間の摩擦力F
j+1(i)が算出される(ステップS28)。次のステップ(j+1)における節点iの摩擦力F
j+1(i)は、節点iの摩擦係数μ
j+1(i)に節点iの接触圧Fn
j(i)を乗じて算出される。
【0087】
なお、ステップS23での判定結果がノーの場合、すなわち節点iのプレス工具との間の接触圧Fn
j(i)がゼロである場合には、次のステップ(j+1)における節点iの接触回数N
j+1(i)は、ステップjにおける節点iの接触回数N
j(i)に設定され、次のステップ(j+1)における節点iの摩擦係数μ
j+1(i)は、摩擦係数特性の二変数関数f(D
j+1(i),N
j+1(i))から算出される。
【0088】
そして、ステップS28又はステップS29において次のステップ(j+1)における節点iの摩擦力F
j+1(i)が算出されると、全節点iについて次のステップ(j+1)における節点iの摩擦力F
j+1(i)の算出が終了したか否かが判定される(ステップS30)。
【0089】
ステップS30での判定結果がノーの場合、すなわち全節点iについて次のステップ(j+1)における節点iの摩擦力F
j+1(i)の算出を終了していない場合、ステップS22に戻って金属板の解析モデルの各節点を表すカウンタ値iに「1」を加えたものが新たなカウンタ値iとして設定され、ステップS22からステップS30が繰り返される。
【0090】
そして、ステップ30での判定結果がイエスになると、すなわち全節点iについて次のステップ(j+1)における節点iの摩擦力F
j+1(i)の算出が終了すると、
図13に戻って、プレス工具のモーションの全ステップが終了したが否かが判定される(ステップS11)。
【0091】
ステップS11での判定結果がノーの場合、すなわちプレス工具のモーションの全ステップが終了していない場合、ステップS8に戻って、プレス工具のストロークが変更され、前記カウンタ値に「1」を加えたものが新たなカウンタ値jとして設定され、ステップS8からステップS11が繰り返される。そして、ステップS11での判定結果がイエスになると、すなわちプレス工具のモーションの全ステップが終了すると、金属板のプレス成形シミュレーションが終了される。
【0092】
ここで、プレス工具の各ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦係数について説明する。
図17は、プレス工具の各ストローク位置における節点ごとの摩擦係数を示す図であり、
図17(a)は、プレス工具の各ストローク位置における節点ごとの摩擦係数を示すグラフ、
図17(b)は、全ステップが終了した後の金属板の解析モデルに
図17(a)のグラフの節点を示した図である。
【0093】
また、
図17(a)では、プレス工具のモーションを実線で示し、
図17(b)に示す金属板Wの解析モデルにおけるブランクホルダに接触する節点P1、パンチに接触する節点P2及びダイに接触する節点P3の摩擦係数をそれぞれ一点鎖線L1、二点鎖線L2及び破線L3で示している。
【0094】
図17(a)に示すように、節点P1、P2及びP3の摩擦係数はそれぞれ、パンチが最初に金属板に接したときからパンチのストロークが大きくなるにつれて大きくなっているが、プレス工具との接触開始位置からの摺動距離に応じて異なるように変化している。また、節点P1及びP3はそれぞれ、パンチが金属板への負荷及び除荷をするように移動する場合においてもプレス工具から離間することなく接触状態を維持し、接触回数が1回目である摩擦係数特性に基づいて摺動距離に応じて摩擦係数が変化している。
【0095】
一方、節点P2は、パンチが金属板への負荷及び除荷をするように移動する際にパンチとの接触及び離間を繰り返し、節点P2の摩擦係数は、節点P2の接触状態では接触回数に応じて設定された摩擦係数特性に基づいて摺動距離に応じて変化している。このように、シミュレーション解析時には、プレス工具の各ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦係数が変化して計算される。
【0096】
本実施形態では、金属板とプレス工具との間の潤滑油による変化を考慮し、プレス工具との接触回数と摺動距離とをパラメータとして摩擦係数が設定された摩擦係数特性データを用いることにより、該摩擦係数を用いて算出される摩擦力の精度を高め、シミュレーション精度を向上させることができる。
【0097】
このようにして、金属板のプレス成形シミュレーションを終了すると、コンピュータ10では、解析結果であるプレス成形品のシミュレーション解析結果が解析結果データファイルに記録されるとともに、プログラム記録部14aに記録されている表示プログラムにより表示装置15に出力される(ステップS12)。
【0098】
図18は、解析結果画面を示す図である。
図18に示すように、解析結果を表示する際には、表示装置15に解析結果画面50が表示され、該解析結果画面50には、解析結果表示部51が設けられるとともに終了ボタン52が設けられている。
【0099】
解析結果表示部51には、シミュレーションによるプレス成形品の解析結果が表示され、プレス成形品の形状及び板厚が表示されるようになっている。また、解析結果表示部51には、金属板の板厚の大小を色の濃淡で表示するとともに板厚の最大値及び最小値、並びにそれらの箇所を表示することができるようになっている。本実施形態では、金属板の板厚として1mmのものを用いて解析しているので、板厚が1より大きい部分は板厚が増加し、板厚が1より小さい部分は板厚が減少していることを示している。
【0100】
図17では、
図5に示すような金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションと、
図7に示すような摩擦係数が接触回数と摺動距離とをパラメータとして設定された摩擦係数特性データとを用いたプレス成形シミュレーションの解析結果を示しているが、この解析結果から、プレス成形品の板厚の最小値が0.66mmであり、板厚の最小箇所がプレス成形品の先端部の周縁部であることが分かる。
【0101】
また、本実施形態では、実際のプレス成形品と比較するために、本実施形態に係るシミュレーションと同様の条件において実際にプレス成形品を成形した。また、本実施形態に係るシミュレーションの比較例として、金属板の解析モデルの節点における摩擦係数を一定のクーロン則としたものに代えて、それ以外の条件については本実施形態に係るシミュレーションと同様にしてシミュレーションを行った。
【0102】
図19は、実施例(シミュレーション)と比較例(シミュレーション)と実プレス成形品との比較を示すグラフであり、
図19では、
図18に示すプレス成形品の矢印を付した断面の板厚を示している。また、
図19では、摩擦係数を接触回数及び摺動距離に応じて変化させた本実施形態に係るシミュレーションを実施例(シミュレーション)として実線で示し、摩擦係数を一定のクーロン則としたシミュレーションを比較例(シミュレーション)として破線で示し、実プレス成形品については黒四角で示している。
【0103】
図19に示すように、摩擦係数を一定のクーロン則としたシミュレーションでは、プレス成形品の断面について板厚の薄くなる部分を除くと実プレス成形品と略等しい板厚を示しているが、板厚の薄くなる部分では実プレス成形品の板厚と大きく異なっていることが分かる。
【0104】
一方、摩擦係数を接触回数及び摺動距離に応じて変化させた本実施形態に係るシミュレーションでは、プレス成形品の断面について全体に亘って実プレス成形品の板厚と略等しい板厚を示し、最も板厚の薄くなる部分についても略等しい板厚を示し、シミュレーションの精度が非常に高いことが分かる。
【0105】
このように、本実施形態に係るプレス成形シミュレーションでは、有限要素解析時に、プレス工具の所定ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとの位置及びプレス工具との間の接触圧が算出され、節点ごとに、接触圧に基づいてプレス工具に接触しているか否かが判定され、接触していないときはプレス工具との間の摩擦力がゼロとされる。一方、接触しているときは解析開始時からの接触回数及び接触開始位置からの摺動距離が算出され、算出した接触回数及び摺動距離から、節点についてプレス工具との間の摩擦係数が接触回数と摺動距離とをパラメータとして設定された摩擦係数特性データに基づいてプレス工具との間の摩擦係数が算出され、算出した摩擦係数と前記接触圧とから前記摩擦力が算出されることとなる。
【0106】
これにより、プレス工具の所定ストローク位置における金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦力を算出することができると共に、金属板とプレス工具との間の潤滑油による変化を考慮し、プレス工具との接触回数と摺動距離とをパラメータとして摩擦係数が設定された摩擦係数特性データを用いて摩擦力を算出することができる。従って、プレス成形シミュレーションにおいて、摩擦力の精度を高めることができ、シミュレーション精度を向上させることができる。特に、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際に、前記効果を有効に得ることができる。
【0107】
また、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から摺動距離に応じて直線的に増大して摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、初期摩擦係数、所定摺動距離及び最大摩擦係数が接触回数に応じて変化する摩擦係数特性データに基づいて摩擦係数が算出されるので、接触回数に応じて変化する金属板とプレス工具との間の潤滑油を考慮して金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦係数を算出することができ、前記効果を具体的に実現することができる。
【0108】
前述した実施形態では、
図8から
図11に示すように、摩擦係数特性として、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から摺動距離に応じて直線的に増大して摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、初期摩擦係数、所定摺動距離及び最大摩擦係数が接触回数に応じて変化し、接触回数Nが大きくなるにつれて所定の接触回数Nまで最大摩擦係数μ
max(N)が大きくなると共に最大摩擦係数μ
max(N)となる摺動距離D
0(N)が小さくなるように設定された摩擦係数特性データが用いられているが、接触回数Nが大きくなるにつれて所定の接触回数Nまで最大摩擦係数μ
max(N)が小さくなると共に最大摩擦係数μ
max(N)となる摺動距離D
0(N)が大きくなるように設定された摩擦係数特性データを用いることも可能である。
【0109】
図20は、本実施形態に係るシミュレーションに用いる別の摩擦係数特性を示すグラフであり、
図21、
図22及び
図23はそれぞれ、
図20に示す摩擦係数特性の接触回数と初期摩擦係数との関係、接触回数と最大摩擦係数との関係及び接触回数と最大摩擦係数となる摺動距離との関係を示すグラフである。
図20では、金属板の解析モデルの節点について接触回数Nの摩擦係数μを、接触回数Nと摺動距離Dとによって決定される二変数関数f(D,N)として表している。なお、
図20では接触回数Nが1〜5回目の場合が示され、
図21から
図23では接触回数Nが1〜8回目の場合が示されているが、それ以降の接触回数の場合についてもそれぞれ設定されている。
【0110】
図20から
図23に示すように、摩擦係数特性として、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から摺動距離に応じて直線的に増大して摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、接触回数Nに応じて変化する金属板とプレス工具とが離間されるときに金属板とプレス工具との間に流入する潤滑油を考慮して、接触回数Nが大きくなるにつれて所定の接触回数Nまで初期摩擦係数μ
0(N)が大きくなるように設定され、接触回数Nが大きくなるにつれて所定の接触回数Nまで最大摩擦係数μ
max(N)が小さくなるように設定され、接触回数Nが大きくなるにつれて所定の接触回数Nまで最大摩擦係数μ
max(N)となる摺動距離D
0(N)が大きくなるように設定された摩擦係数特性データを用いることも可能である。
【0111】
かかる場合においても、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から摺動距離に応じて直線的に増大して摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、初期摩擦係数、所定摺動距離及び最大摩擦係数が接触回数に応じて変化する摩擦係数特性データに基づいて摩擦係数が算出されるので、接触回数に応じて変化する金属板とプレス工具との間の潤滑油を考慮して金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦係数を算出することができ、摩擦力の精度を高めることができ、シミュレーション精度を向上させることができる。
【0112】
また、前述した実施形態では、
図6に示すように、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数から摺動距離に応じて直線的に増大して摺動距離が所定摺動距離以上であるときに最大摩擦係数となると共に、初期摩擦係数、所定摺動距離及び最大摩擦係数が接触回数に応じて変化する摩擦係数特性データを用いているが、接触回数ごとに、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数と少なくとも1つの摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離であるときの摩擦係数とを有する摩擦係数特性データを用いることも可能である。
【0113】
図24は、本実施形態に係るシミュレーションに用いるまた別の摩擦係数特性を説明するための説明図である。
図24では、接触回数がN回目である場合について、摺動距離がゼロであるD
0(N)のときの摩擦係数μ
0(N)と、摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離D
1(N)、D
2(N)、D
3(N)、D
4(N)であるときの摩擦係数μ
1(N)、μ
2(N)、μ
3(N)、μ
4(N)とが示され、隣り合う所定摺動距離の摩擦係数が直線で繋いで示されている。
【0114】
本実施形態に係るシミュレーションでは、
図24に示すように、接触回数ごとにそれぞれ、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数と少なくとも1つの摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離であるときの摩擦係数とを有し、隣り合う摺動距離の間では線形補間法を用いて摩擦係数を算出した摩擦係数特性データを用いることも可能である。この場合においても、金属板の解析モデルの節点ごとに金属板とプレス工具とが離間するときに金属板とプレス工具との間に流入する潤滑油を考慮して摩擦係数特性が好適に設定される。
【0115】
このように、接触回数ごとに、摺動距離がゼロであるときの初期摩擦係数と少なくとも1つの摺動距離がゼロより大きい所定摺動距離であるときの摩擦係数とを有すると共に、隣り合う摺動距離の間では補間法を用いて算出した摩擦係数を有する摩擦係数特性データを用いる場合においても、接触回数に応じて変化する金属板とプレス工具との間の潤滑油を考慮して金属板の解析モデルの節点ごとの摩擦係数を算出することができ、摩擦力の精度を高めることができ、シミュレーション精度を向上させることができる。
【0116】
なお、本実施形態に係るプレス成形シミュレーションでは、プレス工具のモーションとして、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションを用いて記載しているが、これに限定されるものではなく、クランププレスを模擬したクランクモーションや、その他のモーションにも適用することができる。
【0117】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。