特許第5887210号(P5887210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5887210鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887210
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/243 20060101AFI20160303BHJP
   C22B 1/16 20060101ALI20160303BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20160303BHJP
   C21B 11/00 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   C22B1/243
   C22B1/16 101
   C21C7/00 J
   C21B11/00
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-118595(P2012-118595)
(22)【出願日】2012年5月24日
(65)【公開番号】特開2013-245367(P2013-245367A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】中尾 隆二
(72)【発明者】
【氏名】久保田 寛
(72)【発明者】
【氏名】山田 衛
(72)【発明者】
【氏名】吉村 裕二
(72)【発明者】
【氏名】伊豆 忠浩
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−089337(JP,A)
【文献】 特開2011−208256(JP,A)
【文献】 特開昭62−001825(JP,A)
【文献】 特開昭53−130216(JP,A)
【文献】 特開昭62−040326(JP,A)
【文献】 特開2007−112647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−1/248
C21C 7/00
C04B 7/14−7/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼の製錬工程で発生する鉄鋼スラグからなり、質量%でCaO:45〜55%、Al:20〜40%、SiO:15%以下、MgO:15%以下を含有し、CaOとAlとの質量比(CaO/Al)が1.4〜2.2である組成を有することを特徴とする鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダー。
【請求項2】
2mm以下粉が95%以上の粉状であることを特徴とする請求項1に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダー。
【請求項3】
比表面積が10cm/g以上1500cm/g未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダー。
【請求項4】
鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法であって、
質量%でCaO:45〜55%、Al:20〜40%、SiO:15%以下、MgO:15%以下を含有し、CaOとAlとの質量比(CaO/Al)が1.4〜2.2である組成に合致した鉄鋼スラグを回収する回収工程を備え、回収された鉄鋼スラグを前記成型用バインダーとすることを特徴とする鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法。
【請求項5】
前記回収工程において、回収された鉄鋼スラグの組成分析を行って、前記組成に合致した鉄鋼スラグを分別する分別工程を行うことを特徴とする請求項4に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法。
【請求項6】
前記組成に合致した鉄鋼スラグを、2mm以下粉が95%以上の粉状となるように分級する分級工程とを備えることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法。
【請求項7】
前記分級工程を行うことにより、比表面積を10cm/g以上1500cm/g未満とすることを特徴とする請求項6に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼の還元および溶解工程に供するダスト、スラッジ、スケールなどの金属酸化物を含むブリケットの成型に際して添加する成型用バインダーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の還元および溶解工程に供するブリケットの成型用バインダーとしては、澱粉、リグニン、セルロースなどの有機系バインダー、およびベントナイト、水ガラス、セメントなどの無機系バインダーが使用されている。これらは、いずれも各種原料から製品製造された微粉ないしは液体状の市販品である。
また、有機系バインダーは、1000℃以上の高温になると溶解、燃焼して、バインダーとしての性能がなくなり、ブリケットの強度が低下する欠点がある。
【0003】
また、従来の無機系バインダーは、いずれも主成分にSiOを含んでおり、鉄鋼の還元、溶解後は溶鋼上にスラグを形成する。スラグ中のSiOは酸性酸化物であり、還元反応性を低下させる成分であり、特に脱硫反応性を低下させる要因になる。また、無機系バインダーとして使用されるベントナイトやセメントは、製造時に焼成あるいは微粉砕する必要があり、水ガラスは、製造時に化学的な調整を行う必要があるため、コスト面の負荷が大きかった。
【0004】
これらのコストおよび精錬反応性に対する欠点を回避する技術として、特許文献1には高炉スラグ微粉末を使用する技術、特許文献2には高炉水砕スラグ微粉末、セメント、フライアッシュの中から選ばれる1種以上を使用する技術が公開されている。
特許文献1および特許文献2に記載の技術は、いずれも固結、水硬性の優れた高炉スラグを微粉砕した微粉末を主体に使用するものであり、製鉄工程で発生するスラグを有効に活用することで、塊成化物を安価に製造することができるとしている。
【0005】
高炉スラグは、生成した段階では粒状ないしは塊状である。したがって、高炉スラグをバインダーとして使用する場合には、粉砕−篩い−微粉砕−篩いの工程を行って微粉末としており、コスト負荷を生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−187906号公報
【特許文献2】特開2011−208256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、高炉スラグをブリケットの成型用バインダーとして使用するために、粉砕−篩い−微粉砕−篩いの工程を行って高炉スラグを微粉末としている。このため、高炉スラグを含む成型用バインダーは、コスト負荷が大きいことが問題となっていた。
【0008】
成型用バインダーのコスト負荷を軽減させるためには、高炉スラグを微粉末とする工程を行わず、粒状ないしは塊状のまま成型用バインダーとして使用することが考えられる。しかし、粒状ないしは塊状の高炉スラグでは、固結能力が小さく、比表面積も少ないために、成型用バインダーとしての固結性が十分に得られなかった。したがって、十分な強度を有するブリケットを成型できる成型用バインダーを得るためには、高炉スラグを微粉末とすることにより比表面積を大きくして、固結性を確保する必要があった。
【0009】
本発明は、粉・粒状のダスト、スラッジ、スケールなどの金属酸化物を成型して、塊成化する際に使用されるものであり、鉄鋼スラグを有効に活用でき、十分な強度を有するブリケットを成型でき、しかもコスト負荷の小さい成型用バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鉄鋼の製錬工程で発生するCaO−Al系スラグが、水和反応により強固な固結性を有し、十分な強度を有するブリケットを成型でき、しかも容易に製造でき、鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーとして、非常に有用であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)鉄鋼の製錬工程で発生する鉄鋼スラグからなり、質量%でCaO:45〜55%、Al:20〜40%、SiO:15%以下、MgO:15%以下を含有し、CaOとAlとの質量比(CaO/Al)が1.4〜2.2である組成を有することを特徴とする鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダー。
(2)2mm以下粉が95%以上の粉状であることを特徴とする(1)に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダー。
(3)比表面積が10cm/g以上1500cm/g未満であることを特徴とする(1)または(2)に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダー。
【0012】
(4)鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法であって、質量%でCaO:45〜55%、Al:20〜40%、SiO:15%以下、MgO:15%以下を含有し、CaOとAlとの質量比(CaO/Al)が1.4〜2.2である組成に合致した鉄鋼スラグを回収する回収工程を備え、回収された鉄鋼スラグを前記成型用バインダーとすることを特徴とする鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法。
(5)前記回収工程において、回収された鉄鋼スラグの組成分析を行って、前記組成に合致した鉄鋼スラグを分別する分別工程を行うことを特徴とする(4)に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法。
【0013】
(6)前記組成に合致した鉄鋼スラグを、2mm以下粉が95%以上の粉状となるように分級する分級工程とを備えることを特徴とする(4)または(5)に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法。
(7)前記分級工程を行うことにより、比表面積を10cm/g以上1500cm/g未満とすることを特徴とする(6)に記載の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、鉄鋼の製錬工程で発生する鉄鋼スラグを有効利用する手段の一つであり、鉄鋼スラグを、鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用の無機系バインダーとして用いるものである。
本発明の成型用バインダーとして用いられる鉄鋼スラグは、ベントナイトやセメントのように製造時に焼成あるいは微粉砕する必要がなく、水ガラスのように製造時に化学的な調整を行う必要もなく、非常に安価なものである。
【0015】
また、本発明の成型用バインダーは、所定の組成および形状の鉄鋼スラグを用いるものであるので固結能力に優れ、十分な強度を有するブリケットが得られるとともに、成型後のブリケットの還元・溶解後に生成するスラグに対し、塩基性成分であるCaO分を供給して、鉄鋼の還元性を促進させ、特に脱硫反応性を向上させることのできるブリケットが得られるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に至った経緯と本発明の実施形態について説明する。
本発明の対象とする鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物とは、いわゆるダスト、スラッジ、スケールと呼ばれ、鉄、クロム、ニッケル等の有価金属の酸化物、水酸化物を含むものである。このような金属酸化物は、かつては、再利用されることなく、安定化処理後、埋立て等により最終処分されていたが、近年、コスト削減、省資源の観点から再利用されるようになってきている。
【0017】
鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物の性状は、粉末状あるいは汚泥状であり、そのまま還元および溶解工程に供することができず、ブリケットに成型する必要がある。しかし、このような金属酸化物は、金属酸化物のみではブリケットに成型できない、または成型できた場合でも十分な強度が得られないために、還元および溶解工程に供することができない。そのため、上記の金属酸化物に、前述の有機系、または無機系の成型用バインダーを加え、混練・成型して塊成化して、ブリケットとしている。
【0018】
本発明の成型用バインダーは、鉄鋼の製錬工程で発生する鉄鋼スラグからなるものであり、無機系のバインダーである。
本発明の成型用バインダーは、鉄鋼の製錬工程で発生する鉄鋼スラグから、質量%でCaO:45〜55%、Al:20〜40%、SiO:15%以下、MgO:15%以下を含有し、CaOとAlとの質量比(CaO/Al)が1.4〜2.2である組成に合致した鉄鋼スラグを回収する(回収工程)ことにより得られたものである。
【0019】
回収工程においては、回収された鉄鋼スラグの組成分析を行って、上記の組成に合致した鉄鋼スラグを分別する分別工程を行うことが好ましい。分別工程としては、具体的には、例えば、複数の容器(スラグパンという)に回収された鉄鋼スラグを収容し、スラグパン毎に鉄鋼スラグの組成分析を行って、それぞれ収容されている鉄鋼スラグが上記の組成に合致するか否かを判定し、その判定結果を用いて複数のスラグパンから上記の組成に合致した鉄鋼スラグの入れられたスラグパンを分別する工程とすることができる。このような分別工程を行った場合、分別された上記の組成に合致した鉄鋼スラグの入れられたスラグパンからのみ鉄鋼スラグを回収することで、上記の組成に合致した鉄鋼スラグを回収できる。
【0020】
本発明では、成型用バインダーとして、例えばステンレス鋼の製鋼工程で、酸化したクロムを還元し、溶鋼の脱酸を行うために、金属アルミニウムを添加した場合に生成するCaO−Al系スラグを用いることが好ましい。このスラグ組成は、質量%でCaO:50%程度、Al:30%程度、SiO:5%程度、MgO:10%程度であり、操業条件、操業方法により変化する。
【0021】
また、本発明では、成型用バインダーとして、例えば 上記のCaO−Al系スラグが生成されるステンレス鋼の製鋼工程において、スラグの溶融状態での流動性を確保するために、上記のCaO−Al系スラグに、フッ化カルシウム(CaF)を主成分とする蛍石が添加されたスラグを用いてもよい。
【0022】
本発明者らは、上記のCaO−Al系スラグが、強固な水硬性を有しており、従来、固化材として用いられてきた普通ボルトランドセメントに比較して同等以上の水硬性を持つ鉱物相が存在するものであることを見出した。
具体的には、CaO−Al系スラグには、鉱物相として、12CaO・7Alと3CaO・SiOが存在する。また、CaF2を含有するCaO−Al系スラグでは、12CaO・7Alと3CaO・SiOに加えて、11CaO・CaF2・7Alも存在する。
【0023】
このCaO−Al系スラグでは、溶鋼から分離された後に、溶融状態から凝固、冷却される過程で、3CaO・SiOの一部からCaOと2CaO・SiOが生成される。2CaO・SiOは固相変態で膨張現象を発現する。そのため、冷却後、殆どのスラグが粉状になる。冷却過程で粉状にならなかったスラグが残留していたとしても、その後の大気エージング効果で、粉化する。そのため、冷却後の大気エージング後に得られた上記のCaO−Al系スラグは、鉱物相として12CaO・7Alと3CaO・SiO、2CaO・SiOおよびCaOが存在するものとなり、定常的に2mm以下の粉状となる。
【0024】
すなわち、鉄鋼の製錬工程で発生する鉄鋼スラグから回収された上記の組成に合致した鉄鋼スラグは、微粉砕することなく、2mm以下の粉状のものとなる。また、回収された上記の組成の鉄鋼スラグを大気条件下で例えば、3日〜60日、好ましくは5日〜30日保管する保管工程を行った場合、大気エージング効果である2CaO・SiOの膨張現象によって、鉄鋼スラグがさらに粒度の細かい粉状のものとなり、より高い圧潰強度の得られる成型用バインダーとなる。
【0025】
本発明者らは、上記の鉱物相を有するCaO−Al系スラグが強固な固結性能を有することに着目し、微粉砕せずに成型用バインダーに使用できないか、鋭意調査した。その結果、上記の鉱物相を有するCaO−Al系スラグは、優れた水硬性を有するものであり、2mm以下の粉状であれば、十分な強度を有するブリケットを成型でき、微粉砕することなく成型用バインダーとして使用できることを見出した。
【0026】
これまで、鉄鋼スラグを成型用バインダーとして使用する場合、前述の高炉スラグを用いる場合のように、粉砕−篩い−微粉砕−篩いの工程を行って微粉末状にしてから使用する必要があった。これは、従来の鉄鋼スラグからなるバインダーでは、強力な固結能力がないために、微粉砕によってスラグ粒子の比表面積を3000cm/gを超える程度まで大きくして、鉄鋼スラグと金属酸化物との接触面積を確保しなければ、十分な強度を持つブリケットを製造することが出来なかったためである。
【0027】
これに対し、上記の鉱物相を有するスラグを本発明の成型用バインダーとして用いる場合、微粉砕する必要はない。しかし、異物混入を避けるために、篩い目間隔2mm以下の篩いを用いて分級する分級工程を行うことが好ましい。上記の鉱物相を有するスラグを篩い目間隔2mmの篩いを用いて分級(分級工程)した場合、2mm以下粉の比率は95%以上になる。
【0028】
本発明の成型用バインダーは、2mm以下の粉状のものであり、鉄鋼スラグの微粉砕を不要としているため、比表面積が従来のバインダーよりも小さいものとなる。本発明の特徴は鉄鋼スラグを微粉砕の必要無く成型用バインダーとして使用出来ることを見出した点にあり、その効果は後述する組成を有するスラグによって達成出来る。
【0029】
したがって、本発明においては、成型用バインダーの物性値である比表面積の範囲を必ずしも設定する必要はないが、比表面積の範囲は従来の鉄鋼スラグからなるバインダーとは異なって小さいものとなる。
本発明の成型用バインダーの比表面積は、1500cm/g未満が好ましく、従来の鉄鋼スラグからなるバインダーとの違いをより明確にする意味合いから、1000cm/g以下が更に好ましい。成型用バインダーの比表面積が1500cm/g未満である場合、鉄鋼スラグを微粉砕する必要はなく、コスト負荷が軽減される。
【0030】
また、成型用バインダーの比表面積の下限値についても特に設定する必要はないが、微粉砕しない上記の鉱物相を有するスラグにおいて考えられる最も低い比表面積レベルである10cm/g以上とすることが好ましく、100cm/g以上とすることが更に好ましい。成型用バインダーの比表面積が10cm/g以上である場合、金属酸化物との接触面積を確保でき、成型用バインダーとしての固結性が得られるため、優れた強度を有するブリケットを成型できるものとなる。
【0031】
なお、比表面積の制御方法としては、従来使用されている各種の方法を適宜用いることが出来る。例えば、上述した篩いによる分級を行う方法などが挙げられ、その篩い目間隔等を調整することで、種々の比表面積に制御できる。具体的には、篩い目間隔を小さくすることにより、比表面積を大きくすることができ、例えば、篩い目間隔を2mmとすることにより比表面積は10cm/g以上となり、篩い目間隔を1.5mmとすることにより比表面積は100cm/g以上となる。
【0032】
また、本発明において使用される上記の鉱物相を有するスラグは、微粉砕処理を必要とせずに成型用バインダーとして使用できるものであるが、微粉砕処理を行っても構わない。
本発明の成型用バインダーとして使用される上記の鉱物相を有するスラグは、上述したように、スラグが溶融状態から凝固、冷却される過程の固相変態での膨張現象や、スラグ冷却後の大気エージング効果などにより容易に粉化するものであり、例えば、高炉スラグと比較して粉砕性に優れている。よって、上記の鉱物相を有するスラグに対して粉砕処理を行う場合には、高炉スラグに対して粉砕処理を行う場合と比較して、微粉末とする工程を簡略化できる。このため、上記の鉱物相を有するスラグに対して粉砕処理を行う場合であっても、粉砕処理に要する処理コストは、従来高炉スラグに対して行われていた強度な粉砕を行う場合と比較して低くなる。
【0033】
次に、本発明者らは、安定的に12CaO・7Alと3CaO・SiOが存在する鉱物相を生成するスラグ組成条件について、鋭意検討した。その結果、質量%でCaO:45〜55%、Al:20〜40%、SiO:15%以下、MgO:15%以下を含有し、CaOとAlとの質量比(CaO/Al)が1.4〜2.2ある組成を有する鉄鋼スラグであれば、スラグが凝固する際にこれらの鉱物相が生成することを確認した。
【0034】
なお、本発明の成型用バインダーとして使用される鉄鋼スラグが、上記の組成を有し、さらにCaF 2を含有するスラグである場合は、12CaO・7Alの一部が11CaO・CaF2・7Alを形成するために、スラグが凝固する際に12CaO・7Alと3CaO・SiOに加えて、11CaO・CaF2・7Alも存在する鉱物相が生成されたものとなり、CaF 2を含有しない場合と比較して、成型用バインダーとしての固結性能の極端な低下はないことも確認された。
【0035】
なお、本発明の成型用バインダーに含まれるCaOの含有量が45%未満であっても、CaOの含有量が55%を超える場合であっても、上記鉱物相の生成量が少なくなり、十分な強度を有するブリケットが得られないものとなる。
また、本発明の成型用バインダーに含まれるAlの含有量が20%未満である場合、CaOとAlとの質量比(CaO/Al)が2.2超えとなり、上記鉱物相が十分に存在する成型用バインダーが得られない。また、Alの含有量が40%を超える場合、CaOとAlとの質量比(CaO/Al)が1.4未満となり、上記鉱物相が十分に存在する成型用バインダーが得られない。
【0036】
本発明の成型用バインダーに含まれるSiOの含有量が15%を超えると、3CaO・SiOが生成せず、3CaO・2SiO、CaO・SiOの鉱物相が生成するようになり、粉化が不十分なものとなり、粉化した成型用バインダーが得られない。
MgOの含有量が15%を超えると、MgO・Al系の鉱物相が形成され、12CaO・7Alの鉱物相の生成量が極端に少なくなる。
また、CaOとAlとの質量比(CaO/Al)が1.4未満である場合、および2.2を超えた場合、12CaO・7Al相の生成が不安定となり、CaO・Al系のCaO・Alや3CaO・Alなどの別の鉱物相を形成して、成型用バインダーの固結性能が低下する。
【0037】
本発明の鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットの成型用バインダーとして、上記の組成および形状の鉄鋼スラグを用いる場合、金属酸化物に対する成型用バインダー(鉄鋼スラグ)の添加量を、微粉末状の高炉スラグを用いる場合と比較して、若干、増やすことが好ましい。金属酸化物に対する成型用バインダーの添加量は、必要とされるブリケットの強度およびスラグの粒度により調整でき、特に限定されないが、3〜15%の範囲であることが好ましい。上記添加量が3〜15%である場合、十分な強度を有するブリケットを成型できる。
【0038】
なお、金属酸化物に対する成型用バインダーの添加量が15%以上である場合には、ブリケットの強度は増加するが、鉄鋼の溶解後に生成するスラグ量が増加し、非効率になるために、好ましくない。また、金属酸化物に対する成型用バインダーの添加量が3%未満である場合、ブリケットの強度が不十分となる恐れがある。
【実施例】
【0039】
(本発明例1〜4)
鉄鋼の還元および溶解工程に供する金属酸化物を含むブリケットを製造した。
成型用バインダーとして使用する鉄鋼の製錬工程で発生する鉄鋼スラグとして、ステンレス鋼の製鋼工程における脱炭後の還元期で、酸化したクロムを還元し、溶鋼の脱酸を行うために金属アルミニウムを使用した場合のスラグを、複数のスラグパンに収容し、スラグパン毎に鉄鋼スラグの組成分析を行った。
その後、各スラグパンにそれぞれ収容されている鉄鋼スラグが本発明の成型用バインダーの組成に合致するか否かを判定し、その判定結果を用いて複数のスラグパンから本発明の成型用バインダーの組成に合致した鉄鋼スラグの入れられたスラグパンを分別した(分別工程)。そして、分別された上記の組成に合致した鉄鋼スラグの入れられたスラグパンからのみ鉄鋼スラグを回収し、大気条件下で2週間保管(保管工程)した。
組成分析の結果(スラグ組成)を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
回収したスラグは回収時点でほぼ粉化していたが、一部スラグは粉化するまで、2週間ほど要した。これらのスラグから地金等の異物を除去するために、篩い目間隔2mmの篩いで篩い(分級工程)、篩い下を回収して2mm以下粉の比率が95%以上の成型用バインダーとした。
【0042】
(本発明例5)
本発明例1〜4と同様にして本発明の成型用バインダーの組成に合致した鉄鋼スラグを回収し、本発明例1〜4と同様にして保管工程を行った後、ハンマークラッシャーを用いて粉砕処理を行った。粉砕処理後、篩い目間隔0.5mmの篩いで篩い、篩い下を回収して0.5mm以下粉の比率が95%以上の成型用バインダーとした。組成分析の結果(スラグ組成)を表1に示す。
【0043】
(比較例1〜3)
成型用バインダーとして使用するスラグとして、本発明例1〜4において分別工程を行うことにより得られた、本発明の成型用バインダーの組成に合致しない鉄鋼スラグの入れられたスラグパンから回収した鉄鋼スラグを用いた。組成分析の結果(スラグ組成)を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
回収したスラグは塊状であり、ジョークラッシャーによる一次破砕の後、コーンクラッシャーによる粉砕処理を行った。粉砕処理後、篩い目間隔2mmの篩いで篩い、篩い下を回収して2mm以下粉の比率が95%以上の成型用バインダーとした。
【0045】
(比較例2)
回収したスラグは粉が主体であったが、ハンマークラッシャーを用いて粉砕処理を行った。粉砕処理後、篩い目間隔0.5mmの篩いで篩い、篩い下を回収して0.5mm以下粉の比率が95%以上の成型用バインダーとした。
【0046】
(比較例3)
回収したスラグは塊と粉が混合したスラグであった。このスラグの粉が主体の部分を篩目間隔5mmの篩いで篩い、篩い下を回収しバインダーとした。この比較例3の成型用バインダーの粒度を多段の自動篩い機を用いて測定した。その結果、比較例3の成型用バインダーは5mm以下粉の比率が95%以上であるものであった。
【0047】
このようにして得られた本発明例1〜5、比較例1〜3の成型用バインダーの比表面積を以下に示す方法により測定した。すなわち、各バインダーを5g採取し、空気透過式の測定装置にて測定した。比表面積の測定結果を表1に示す。
【0048】
その後、本発明例1〜5、比較例1〜3の成型用バインダーを、製鉄所内で発生したダスト、スラッジおよびスケールからなる金属酸化物に、表1に示す金属酸化物に対する成型用バインダーの含有量(添加量)で添加して混練し、予め求めた適正水分量となるように水を加え、さらに十分に混練した。その後、混練した材料をダブル・ロール型のブリケット成型機に入れて成型し、44×44×26mmの本発明例1〜5、比較例1〜3のマセック型のブリケットを製造した。
なお、適正水分量は成型用バインダーの添加量により変化させたが、本発明例1〜5、比較例1〜3のいずれも13〜15%の範囲であった。また、本発明例1〜5、比較例1〜3のいずれも成型時の線圧は0.6〜1.5t/cmの範囲であった。
【0049】
その後、得られた本発明例1〜5、比較例1〜3のブリケットを室温状態の屋内に保管して3日間養生し、圧潰強度の測定を行った。
圧潰強度は、3日間養生した後のブリケット10個について、圧潰強度試験機を用いて厚み方向の強度測定を行った結果の平均値である。
なお、還元工程に供するブリケットは、圧潰強度で45kg/個以上を目標とし、この値より小さい場合は、搬送時や還元処理時に破壊を生じ、歩留低下を招く。
【0050】
その後、製造した本発明例1〜5、比較例1〜3ブリケットを還元炉で還元し、還元後のブリケットを溶解炉で溶解し、銑鉄を製造した。
そして、本発明例1〜5、比較例1〜3における製造コスト指数を算出した。なお、製造コスト指数とは、銑鉄1tを製造するためにかかる成型用バインダーの製造コストとブリケットの製造コストと銑鉄の製造コストの合計コストであり、本発明例−1の合計コストを100として指数換算した値である。
【0051】
本発明例の1〜5では成型用バインダーとして使用するスラグが、安定した固結性能を有し、5〜13%の添加量で、目標値以上の高い圧潰強度が得られている。その結果、製造コストも安定して低位にある。
【0052】
本発明の成型用バインダーの組成に合致したスラグであれば、本発明例5に示すように、スラグに対して粉砕処理を行った場合、少量の添加量でも高い圧潰強度が得られる。本発明例5では、添加量が同等であってスラグに対して粉砕処理を行わない本発明例2と比較して、高い圧潰強度が得られている。これは、粒度が細かい(篩い目間隔が小さい)ほど、比表面積大きくなり、他の材料との接触面積が大きくなるためである。しかし、本発明例5では、粉砕処理のコストにより、成型用バインダーの製造コストが高価となり、製造コスト指数が本発明例2と比較して、高価となっている。
また、本発明例5では、スラグに対して粉砕処理を行った篩い目間隔が同じである比較例2と比較して、添加量が少量であるにも関わらず高い圧潰強度が得られている。
【0053】
一方、比較例の1〜3では、スラグ組成が本発明の条件範囲外にあり、成型用バインダーの固結性能が著しく低下するため、圧潰強度が目標値以下となり、溶解工程までに破壊するブリケットが多数生じ、歩留低下を起こし、製造コストが高位になっている。